説明

アルツハイマー病に特異的なERK1/ERK2リン酸化比の変化−アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)

本発明は、アルツハイマー病の診断方法ならびに対象におけるアルツハイマー病の存在または非存在を確認する方法に関する。本発明は、非アルツハイマー細胞をアミロイドβペプチドと接触させ、前記細胞をプロテインキナーゼC活性化因子で刺激し、前記細胞を試験化合物と接触させ、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定することにより、アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定する方法にも向けられている。本発明は、プロテインキナーゼCで刺激した後、細胞における特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の比における変化を検出することによる、対象におけるアルツハイマー病の診断方法にも向けられている。ここで開示されているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、アルツハイマー病の診断、対象におけるアルツハイマー病の進行のモニタリングおよびアルツハイマー病を治療または予防するための化合物の同定に対するスクリーニング方法に有用である。本発明は、ここで開示されているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを用いてアルツハイマー病の存在または非存在を検出および診断するための試薬を含むキットにも向けられている。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2006年6月7日に提出された係属中の出願PCT/US2006/022156の一部継続出願であり、該親出願は、2005年10月11日に提出された係属中の出願PCT/US2005/036014の一部継続出願であり、これらは共に、その全体が本明細書の一部として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、アルツハイマー病の診断方法または対象におけるアルツハイマー病の存在もしくは非存在を確認する方法に関する。本発明は、アルツハイマー病の治療または予防において有用な治療薬の開発のために使用することができるリード化合物のスクリーニング方法にも関する。本発明は、プロテインキナーゼC活性化因子で刺激した後に、細胞における特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比の変化を検出することにより、患者においてアルツハイマー病を診断する方法にも関する。ここで開示されるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)は、疾患の進行のモニタリングおよびリード化合物の同定のためのスクリーニング方法において、アルツハイマー病の診断に有用である。
【背景技術】
【0003】
細胞内カルシウムホメオスタシスの乱れ、酸化ストレスのレベルの増大、ならびに結果として興奮性の毒性および神経細胞死を生じる炎症性のメカニズムは、アルツハイマー病(AD)の原因に寄与することが提唱されてきた(Ito et al. 1994, Putney, 2000; Yoo et al., 2000; Sheehan et al., 1997; De Luigi et al., 2001; Anderson et al., 2001; Remarque et al., 2001)。細胞内Ca2+レベルおよび他の細胞プロセスにおける多数のADに付随する異常は、刺激としてブラジキニンを用いた研究により得られる。潜在的な炎症メディエータであるブラジキニン(BK)は、外傷、発作、痛み、虚血、および喘息のような病態生理学的な状況下において、脳および末梢細胞により産生される(Regoli et al., 1993; Bockmann & Paegelow, 2000; Ellis et al., 1989; Kamiya et al., 1993)。B2ブラジキニンン受容体(BK2bR)、Gタンパク共役受容体において活性化することにより、BKは、ホスホリパーゼC(PLC)の活性化を介してホスファチジルイノシトール(PI)の代謝回転をトリガーし、続いてイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)を産生し、IP3感受性の貯蔵からの細胞内Ca2+の放出を増大させる(Noda et al., 1996; Venema et al., 1998; Wassdal et al., 1999; Cruzblanca et al., 1998; Ricupero et al., 1997; Pascale et al., 1999)。同様の経路により、BKは、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼの活性化を介して、他の炎症誘発性サイトカインの産生もトリガーする(Hayashi et al., 2000; Schwaninger et al., 1999; Phagoo et al., 2001)。細胞内Ca2+レベルの増大された上昇は、ブラジキニンの刺激およびKチャネルの不活化に反応して、AD脳ならびにAD末梢細胞において見られた(Etcheberrigaray et al., 1993, 1998; Hirashima et al., 1996; Gibson et al., 1996(a))。
【0004】
BK2bR活性化に続くPLCの刺激は、ジアシルグリセロールの産生も引き起こし、増大した細胞内Ca2+と共にプロテインキナーゼC(PKC)アイソフォームを活性化する。BK活性化PLC/リン脂質-Ca2+/PKCカスケードは、Ras/Rafシグナル伝達経路と相互作用し、MAPキナーゼファミリーのサブタイプである細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(Erk1およびErk2、一緒に「Erk1/2」と呼ばれる)を活性化する(Berridge, 1984; BAssa et al., 1999; Hayashi et al., 2000; Blaukat et al., 2000, Zhao et al. Neurobiology of Disease 11, 166-183, 2002)。Erk1/2は、複数のシグナル伝達経路からシグナルを受けとり、AP-1、NF-κB、およびサイクリックAMP応答配列結合タンパク質(CREB)を含む多数の転写因子を介した遺伝子発現の制御により、細胞増殖および分化を引き起こす。主要なキナーゼの1つとして活性化することにより、Erk2は、Ser-262およびSer-356を含む複数のセリン/スレオニン部位においてタウをリン酸化する(Reynolds et al., 1993; Lu et al., 1993)。加えて、PKC活性化MAPキナーゼおよびBK受容体関連経路は、異なる研究室により、可溶性の形態のアミロイド前駆タンパク質(sAPP)の形成および分泌を制御することが示されている(Desdouits-Magnen et al., 1998; Gasparini et al., 2001; Nitsch et al., 1994, 1995, 1996, 1998)。これらの知見は、BK関連sAPPプロセシングがPKC-MAPキナーゼ経路に関連し得るという可能性を示している。一方、ウイルス感染、酸化ストレスの増大、APPの異常な発現、およびAPβへの曝露のような病理学的な状態は、MAPキナーゼの活性化(Rodems & Spector, 1998; McDonald et al., 1998; Ekinci et al., 1999; Grant et al., 1999)ならびにタウリン酸化の促進を引き起こす(Greenberg et al., 1994; Ekinci & Shea, 1999; Knowles et al., 1999)。これらの効果は、ADの原因におけるMAPキナーゼシグナル経路の乱れを意味する。
【0005】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(Erk1およびErk2等)は、微小管関連タンパク質タウのリン酸化およびアミロイドタンパク質βのプロセシングを調節し、両方の事象が、アルツハイマー病の病態生理学に対して重要な意味を持つ。ブラジキニンに対する反応において促進され且つ延長されたErk1/2リン酸化は、家族性および散発性のアルツハイマー病の線維芽細胞において検出されたが、年齢が一致する対照では検出されなかった(Zhao et al. Neurobiology of Disease 11, 166-183, 2002)。ブラジキニンにより誘導される持続性のErk1/2リン酸化は、以前にアルツハイマー病の線維芽細胞において見られており、その全体が本明細書の一部として援用されるWO 02/067764の対象である。
【0006】
アルツハイマー病を診断するため、ならびにアルツハイマー病の治療および予防において有用な化合物をスクリーニングするための、感受性が高く且つ特異性が高い試験に対する需要がある。本発明者は初めて、これまでに知られていた診断試験と比較して感受性が高く且つ特異性が高い様式でアルツハイマー病の診断に有用な、独特のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを同定した。それ故、ここで開示されている独特のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、アルツハイマー病の検出および診断に対する高度の感受性および特異性を有する診断方法の基礎として役立つ。本発明の前記独特のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、アルツハイマー病の治療および予防における治療薬として使用することができる化合物を同定するためのスクリーニングにおいても有用である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、対象におけるアルツハイマー病の存在もしくは非存在を判定または確認するための方法に向けられている。ある実施形態において、前記方法は、対象に由来する細胞をアミロイドβペプチドと接触させることおよび前記接触ステップが前記細胞においてアルツハイマー病表現型を誘導するかどうかを判定することを含んでなり;前記接触ステップによりアルツハイマー病表現型が前記細胞において誘導される場合、前記対象におけるアルツハイマー病の非存在が証明され、または示される。ある実施形態において、前記対象におけるアルツハイマー病の存在は、前記アミロイドβペプチドとのインキュベーションの結果として前記細胞におけるアルツハイマー病表現型において有意な変化が生じない場合に証明され、または示される。アルツハイマー病表現型において有意な変化がないことは、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が、前記細胞を前記アミロイドβペプチドと接触させる前の値と比較して変化しないことを意味するか、または前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が、前記細胞を前記アミロイドβペプチドと接触させる前の値と比較して、約15%未満、もしくは約14%未満、もしくは約13%未満、もしくは約12%未満、もしくは約11%未満、もしくは約10%未満、もしくは約9%未満、もしくは約8%未満、もしくは約7%未満、もしくは約6%未満、もしくは約5%未満、もしくは約4%未満、もしくは約3%未満、もしくは約2%未満、もしくは約1%未満、もしくは約0.5%未満、もしくは約0.25%未満変化したことを意味する。
【0008】
ある実施形態において、いずれのアミロイドβペプチドが使用されてもよいが、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である。さらなる実施形態において、前記方法は、前記細胞をプロテインキナーゼC活性化因子と接触させることを含んでなる。さらなる実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される。さらなる実施形態において、前記細胞は末梢細胞である。さらなる実施形態において、前記細胞は、繊維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される。ここで述べられる全ての方法は、インビボまたはインビトロで行うことができる。好ましい実施形態において、本発明の方法はインビトロで行われる。
【0009】
本発明のある実施形態において、前記アルツハイマー病表現型は、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーがゼロよりも大きい正の値である場合に前記細胞において誘導される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、対象におけるアルツハイマー病の非存在を判定または確認するための方法であって、対象に由来する細胞をAβ(1-42)と接触させることと;前記細胞をブラジキニンと接触させることと;アルツハイマーに特異的な分子生物マーカーの値を測定することを含んでなる方法に向けられ、前記対象におけるアルツハイマー病の非存在は、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーがゼロよりも大きな正の値である場合に証明され、または示される。ある実施形態において、前記対象におけるアルツハイマー病の存在は、前記アミロイドβペプチドと共にインキュベートした結果として、前記細胞におけるアルツハイマー病表現型において有意な変化が生じない場合に証明され、または示される。アルツハイマー病表現型において有意な変化がないことは、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が、前記細胞を前記アミロイドβペプチドと接触させる前の値と比較して変化しないことを意味するか、または前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が、前記細胞を前記アミロイドβペプチドと接触させる前の値と比較して、約15%未満、もしくは約14%未満、もしくは約13%未満、もしくは約12%未満、もしくは約11%未満、もしくは約10%未満、もしくは約9%未満、もしくは約8%未満、もしくは約7%未満、もしくは約6%未満、もしくは約5%未満、もしくは約4%未満、もしくは約3%未満、もしくは約2%未満、もしくは約1%未満、もしくは約0.5%未満、もしくは約0.25%未満変化したことを意味する。さらに好ましい実施形態において、前記細胞は末梢細胞である。さらに好ましい実施形態において、前記細胞は、線維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される。
【0011】
本発明は、アルツハイマー病の治療に対して有用なリード化合物を同定するための方法であって、非アルツハイマー細胞をアミロイドβペプチドと接触させるステップと、同じ細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させるステップと、さらに前記細胞を試験化合物と接触させるステップと、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定するステップとを含んでなる方法にも向けられている。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、いずれのアミロイドβペプチドが使用されてもよいが、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である。本発明のもう1つの実施形態において、前記非アルツハイマー細胞は、線維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される。本発明のさらにもう1つの実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される。
【0013】
本発明のある実施形態において、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が、試験化合物と接触させていない対照細胞から測定された同様の分子生物マーカーの値より低い場合、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値は、アルツハイマー病の治療に対して有用な化合物の指標となる。好ましい実施形態において、前記対照細胞は、アミロイドβペプチドと接触させる。他の実施形態において、前記アミロイドβペプチドはいずれのアミロイドβペプチドを使用することもできるが、Aβ(1-42)である。他の好ましい実施形態において、前記対照細胞は、プロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させる。
【0014】
ある実施形態において、アルツハイマー病の治療に対して有用なリード化合物を同定するための方法は、修飾されていない化合物の安全性および有効性と比較してその安全性および有効性を最適化または改善するために、アルツハイマー病の治療に対して有用であると同定された化合物を修飾するステップをさらに含んでなる。好ましい実施形態において、前記同定された修飾された化合物は、アルツハイマー病の治療に対して有用である。
【0015】
本発明は、アルツハイマー病の治療方法であって、治療的に有効な量の修飾された化合物をそれを必要とする対象に投与することを含んでなる方法も開示する。
【0016】
本発明は、アルツハイマー病の治療に対して有用な化合物を同定する方法であって、非アルツハイマーの対照細胞をAβ(1-42)(いずれのアミロイドβペプチドを使用してもよい)と接触させることと、同じ対照細胞をブラジキニンと接触させることと、前記対照細胞を試験化合物と接触させることと、アルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定するために、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定することを含んでなる方法にも向けられている。
【0017】
ある実施形態において、本発明は、対象におけるアルツハイマー病の診断方法であって、対象から得られた細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させるステップと、患者におけるアルツハイマー病を診断するために、細胞における特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比を測定するステップとを含んでなる方法にも向けられている。好ましい実施形態において、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比は、2つのリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の間の比である。好ましい実施形態において、本発明の診断方法は、インビトロ試験を含んでなる。さらに好ましい前記診断方法の実施形態において、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質は、相互に配列変異体であり、タンパク質の同じファミリーに属する。
【0018】
本発明のある実施形態において、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比は、リン酸化Erk1とリン酸化Erk2との比であり、リン酸化Erk1の標準化された量をリン酸化Erk2の標準化された量で割ることにより計算される。本発明の好ましい実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される。
【0019】
本発明のある実施形態において、診断試験において使用される細胞は、末梢細胞である。好ましい実施形態において、前記細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血液細胞または頬粘膜細胞であってよい。ある実施形態において、前記細胞は、脳脊髄液から単離されたものではない。他の好ましい実施形態において、前記細胞は、脳脊髄液を含まない。さらに他の好ましい実施形態において、前記細胞は、脊椎穿刺または腰椎穿刺から得られるものではない。
【0020】
前記診断方法のある実施形態において、プロテインキナーゼC活性化因子を、血清を含む培地において細胞と接触させる。本発明の他の好ましい実施形態において、プロテインキナーゼC活性化因子を、血清を含まない培地において前記細胞と接触させる。
【0021】
本発明の診断方法のある実施形態において、リン酸化MAPキナーゼタンパク質は、免疫測定法により検出される。本発明の好ましい実施形態において、前記免疫測定法は、放射線免疫測定法、ウェスタンブロット試験、免疫蛍光測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、化学発光法、免疫組織化学的な方法、免疫電気泳動法、ドットブロット法、またはスロットブロット法であってよい。本発明の診断方法のさらに好ましい実施形態において、タンパク質アレイまたはペプチドアレイまたはタンパク質ミクロアレイは、前記診断方法において使用されてよい。
【0022】
ある実施形態において、ここで開示する診断方法のいずれかを使用してアルツハイマー病の陰性診断が達成され、または示された場合(すなわち、アルツハイマー病の存在を示す結果がないか、または欠如していた場)、さらに、アルツハイマー病の非存在を測定することに向けられたここで開示されている診断方法を使用して、確認するための診断方法が行われてよい。そのような確認的な診断方法は、ここで開示される診断方法のいずれかと平行して、または続けて行われてよい。同様に、ここで開示される診断方法を使用して、アルツハイマー病の陽性診断(すなわち、アルツハイマー病の存在を示す結果)が示された場合、さらに、アルツハイマー病の存在を測定することに向けられたここで開示される診断方法を使用して、確認的な診断方法が行われてよい。そのような確認的な診断方法は、ここで開示される診断方法のいずれかと平行して、または続けて行われてよい。
【0023】
本発明の診断方法のある実施形態において、アルツハイマー病は、対象に由来する細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させ、その後リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定することにより対象において診断することができ、前記リン酸化された第1およびリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質は、細胞をプロテインキナーゼC活性化因子と接触させた後に細胞から得られる。本発明の診断方法のさらなる実施形態において、プロテインキナーゼC活性化因子と接触させていない対象に由来する細胞におけるリン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比が測定され、この比は、プロテインキナーゼC活性化因子と接触させた後に細胞から得られるリン酸化された第1と第2のMAPキナーゼたんぱく質の比から減算され、比における差に基づいて対象におけるアルツハイマー病の存在を診断する。本発明の診断方法の好ましい実施形態において、比における差が正の値である場合、前記差は対象におけるアルツハイマー病の診断となる。
【0024】
本発明の診断方法の他の好ましい実施形態において、前記差が負の値またはゼロである場合、前記差は、対象におけるアルツハイマー病の非存在の診断となる。
【0025】
本発明のある実施形態は、対象においてアルツハイマー病を診断するためのキットに向けられている。本発明のある実施形態において、前記キットは、プロテインキナーゼC活性化因子である薬剤を含んでよく;本発明のさらなる実施形態において、前記キットは、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体を含んでよい。本発明のさらなる実施形態において、前記キットは、リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体を含んでよい。好ましい実施形態において、前記キットは、前記の任意の組み合わせを含んでよい。
【0026】
本発明のある実施形態において、対象においてアルツハイマー病を診断するためのキットは、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される1以上のプロテインキナーゼC活性化因子を含んでよい。好ましい実施形態において、前記キットは、前記の任意の組み合わせを含んでよい。
【0027】
本発明のある実施形態において、対象においてアルツハイマー病を診断するためのキットは、リン酸化されたErk1もしくはリン酸化されたErk2またはその両方に対して特異的な抗体を含んでよい。本発明の好ましい実施形態において、前記キットは抗ホスホErk1抗体を含んでよい。本発明のさらに好ましい実施形態において、前記キットは抗ホスホErk2抗体を含んでよい。好ましい実施形態において、前記キットは、前記の任意の組み合わせを含んでよい。
【0028】
本発明のある実施形態において、アルツハイマー病を診断するためのキットは、アミロイドβペプチドをさらに含んでよい。好ましい実施形態において、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)であってよい。
【0029】
本発明のある実施形態において、対象においてアルツハイマー病の存在または非存在を診断するためのキットは、アミロイドβペプチド;リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体;およびリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体を含んでなる。好ましい実施形態において、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である。好ましい実施形態において、前記キットは、前記の任意の組み合わせを含んでよい。
【0030】
本発明のある実施形態は、アルツハイマー病の治療または予防に対して有用な試験化合物(またはリード化合物)をスクリーニングするための方法であって、アルツハイマー病と診断された対象から単離された細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させることと(該接触は、試験化合物(またはリード化合物)の存在下で行われる);リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定することと(前記リン酸化された第1およびリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質は、前記接触の後で細胞から得られる);試験化合物(またはリード化合物)と接触させない対象に由来する細胞におけるリン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定することと;試験化合物(またはリード化合物)の存在下で行われた前記接触ステップから得られた比から、試験化合物(またはリード化合物)の非存在下で行われた前記接触ステップから得られた比を減算することと;前記比の差に基づいて、アルツハイマー病の治療に対して有用である試験化合物(またはリード化合物)を同定することを含んでなる方法に向けられている。アルツハイマー病の治療または予防に対して有用な試験化合物(またはリード化合物)のスクリーニング方法の好ましい実施形態において、計算された比における差は、その差が負の値またはゼロである場合、アルツハイマー病の治療に対して有用な試験化合物(またはリード化合物)であることを示す。
【0031】
好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に対して有用な試験化合物(またはリード化合物)のスクリーニング方法に向けられており、前記方法はインビトロ試験を含んでなる。
【0032】
アルツハイマー病の治療または予防に対して有用な試験化合物(またはリード化合物)のスクリーニング方法の好ましい実施形態において、前記第1のMAPキナーゼタンパク質はErk1であり、前記第2のMAPキナーゼタンパク質はErk2である。本発明のさらに好ましい実施形態において、前記比は、リン酸化されたErk1の標準化された量をリン酸化されたErk2の標準化された量で割ることにより計算される。本発明のさらなる実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される。本発明のさらなる実施形態において、前記細胞は末梢細胞である。本発明のさらなる実施形態において、前記末梢細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血液細胞および頬粘膜細胞からなる群より選択される。本発明のさらなる実施形態において、前記細胞は、脳脊髄液から単離されたものではない。本発明のさらなる実施形態において、前記細胞は脳脊髄液を含まない。本発明のさらなる実施形態において、前記細胞は、脊椎穿刺または腰椎穿刺により得られたものではない。本発明のさらなる実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、血清を含む培地において前記細胞と接触させる。本発明のさらなる実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、血清を含まない培地において前記細胞と接触させる。本発明のさらなる実施形態において、リン酸化MAPキナーゼタンパク質は、免疫測定法により検出される。本発明のさらなる実施形態において、前記免疫測定法は、放射線免疫測定法、ウェスタンブロット試験、免疫蛍光測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、化学発光法、免疫組織化学的な方法、免疫電気泳動法、ドットブロット法、またはスロットブロット法である。本発明のさらなる実施形態において、前記測定は、タンパク質アレイ、ペプチドアレイ、またはタンパク質ミクロアレイを用いて行われる。
【0033】
ある実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを測定することを含んでなる、対象におけるアルツハイマー病の進行をモニターする方法に向けられている。ある好ましい実施形態において、前記方法は、1より多い時間点においてアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを測定することを含んでなる。好ましい実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、少なくとも6ヶ月隔てられた、より好ましくは少なくとも12ヶ月隔てられた時間点において測定される。本発明の好ましい実施形態において、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの数値における減少(すなわち、より正でない数値)は、前記対象におけるアルツハイマー病の進行の指標となる。
【0034】
ある実施形態において、本発明は、ここで開示されている化合物のスクリーニング方法のいずれかにより同定される化合物を含んでなる、アルツハイマー病の治療に対して有用な組成物に向けられている。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、それを必要とする対象においてアルツハイマー病を治療するための、ここで開示されている化合物のスクリーニング方法の何れかにより同定される化合物の治療的に有効な量を含む医薬組成物を含んでなる。
【0035】
ある実施形態において、本発明は、アルツハイマー病の治療方法であって、ここで開示されている医薬組成物のいずれかの治療的に有効な量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる方法に関する。
【0036】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、Coriell細胞バンクから得られた保存された皮膚線維芽細胞および組織培養液に直ちに入れられ、検死により確認された対象から得られた穿孔皮膚生検サンプルにおける、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)の測定結果を示す。ADは、アルツハイマー病の細胞を意味し;混合AD/PD/LBDは、アルツハイマー病、パーキンソン病および/またはLoewi Body 病の混合性の病態を有する患者から得られた細胞を意味し;ACは、認知症(dementia)でない年齢が一致した対照細胞を意味し;非ADDは、アルツハイマー病でない認知症であると診断された対照から得られた細胞を意味する(例えば、ハンチントン舞踏病またはパーキンソン病または臨床的な統合失調症)。試験されたAD細胞におけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、約0.02より大きく約0.4未満の正の値であった。混合性AD/PD/LBDにおけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、非常に低い正の値、すなわち約0.02または約0.03未満にかたまった。認知症でない年齢が一致した対照細胞におけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、負または非常に低い正の値、すなわち約0.01未満であった。非ADD細胞におけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、負の値であった。アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比−ブラジキニンを欠いた培地で刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定された。これは、以下のように表される:アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー={(pErk1/pErk2)ブラジキニン}−{(pErk1/pErk2)溶媒}。ADSMB(図中では「識別因子」(D.F.)と示した)は、Coriell細胞バンクおよび検死により確認された細胞株について、4つの異なるカテゴリーの患者に対してプロットした:アルツハイマー病(AD)、混合性AD/PD/DLV(検死の確認によるとアルツハイマー病、パーキンソン病およびLew body病の混合性の診断)、年齢が一致した対照(AC)および非AD認知症(パーキンソン病およびハンチントン舞踏病)。
【0037】
図2は、認知症の年の関数としての、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの直線回帰分析を示す。直線回帰は、約−0.01の負の傾きを示し、認知症の年とアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの正の範囲との間で逆の相関を示す。認知症の年が増加するにつれ(すなわち、アルツハイマー病の進行)、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーはより正でない数値になる。より高い正の値は疾患の早期段階の指標となるため、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの測定は、アルツハイマー病の早期診断を可能にする。アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比−ブラジキニンを欠いた培地で刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定された。これは、以下のように表される:アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー={(pErk1/pErk2)ブラジキニン}−{(pErk1/pErk2)溶媒}。検死により確認された場合の疾患期間の関数としての、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)の直線回帰分析。アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、疾患の早期の年においてより目立つ。これは、本発明の方法がアルツハイマー病の早期の診断においてより効果的であることを示す。
【0038】
図3は、ADおよび対照細胞株について、ブラジキニン(BK+)処理および溶媒(DMSO、ブラジキニンなし、BK−)処理の後のp-Erk1/2(リン酸化されたErk1およびErk2)のウェスタンブロットデータを示す。ブラジキニン処理(BK+)の場合、血清を含まない(24hrs)細胞を10分間、37℃で、10nMのブラジキニンで処理した。対応する溶媒処理(BK−)は、血清を含まない(24hrs)細胞を同じ量のDMSO(BKなし)で10分間、37℃で処理した。10分後、P-Erk1/2バンドは、AD細胞株についてはBK−処理よりもBK+処理の方が暗かったが、対照細胞株については逆であった。これは、BK誘導性のErkの活性化が、AD細胞株の場合により高いということを示す。
【0039】
図4Aおよび4Bは、ここで述べられているように計算されたアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)(図中では「識別因子」(D.F.)と示す)を示す。ADSMBは、Coriell貯蔵バンクに由来する細胞株(A)(Coriell Institute of Medical Research, Camden, New Jersey)およびNeurologic Inc.により提供された細胞株(B)(検死により確認された)について、AD(アルツハイマー病)、AC(年齢が一致する対照)および非ADD(非AD認知症、例えば、パーキンソン病、Lewy body病)に対してプロットされた。結果は、ADの場合のADSMBはACおよび非ADDの場合よりも一貫して高いことを示した。
【0040】
図5Aおよび5Bは、可溶性のAβが誘発し、ブリオスタチン処理が逆にするヒト線維芽細胞のアルツハイマーの表現型を示す。(A)アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(図中では「識別因子」(D.F.)と示す)は、ここで示されるように対照(非AD)細胞株(AG07723、AG11363、AG09977、AG09555およびAG09878)について測定され、小さく、負であることが見出された。述べられているように再び1.0μM Aβ-42処理(ADSMB)後に測定された場合、より高く、正であることが見出された。これは、ブラジキニン誘発性の、活性化されたErk1/Erk2の比が、1.0μM Aβ(1-42)処理の後に高くなることを示す。AC細胞株は、Aβ(1-42)処理の後、AD表現型の様に振るまう。(B)ADSMB(「識別因子」(D.F.))は、AC細胞株に対して24時間の1.0μM Aβ(1-42)処理をした後に測定された。前記ADSMB値は、以前に見られたものよりも高く、正の値であった。同じ細胞株は、始めに1.0μM Aβ(1-42)で24時間処理し、続いて0.1nMブリオスタチンで20分間処理された。ADSMB(D.F)値が再び測定され、小さく、負であることが見出された。これは、可溶性のAβ-誘発性の変化がブリオスタチン治療により逆転し得ることを示す。
【0041】
図6Aおよび6Bは、ADSMBの決定マトリックス解析を示す。生物マーカーの感受性および特異性は、Coriell細胞バンク(A)および検死により確認された(B)細胞に対する疾患を検出する有効性を示すためにプロットされる。
【発明の詳細な説明】
【0042】
本発明は、ある側面において、試験および診断のために同定された対照から採取したヒト細胞におけるアルツハイマー病の診断方法に関する。前記診断は、独特のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの発見に基づく。ある側面において、本発明は、アルツハイマー病の進行をモニタリングする方法およびアルツハイマー病を治療または予防するためにリード化合物を同定するスクリーニング方法に向けられている。ある側面において、本発明は、対象または対象から採取しサンプルにおいて、アルツハイマー病の存在または非存在を判定または確認するための方法に向けられている。
【0043】
ヒトの脳における神経に直接アクセスすることは不可能であるため、アルツハイマー病の早期の診断は非常に難しい。ここで開示されるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを測定することにより、本発明は、アルツハイマー病の早期の診断に対する高度に実用的、高度に特異的、且つ高度に選択的な試験を提供する。加えて、ここで述べられているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、疾患の進行を観察するため、ならびにアルツハイマー病の治療および予防を標的とした薬物開発のための治療薬を同定するための基礎を提供する。
【0044】
本発明者は、アルツハイマー病の診断に対して高度な感受性および高度な特異性を有する、診断解析において有用な末梢性(非CNS)組織を用いたアルツハイマー病に対する独特の分子生物マーカーを見出した。本発明の大いなる利点は、ここで開示されている分析および方法に使用される組織が、最小限の侵襲性の方法を用いて、すなわち脊椎穿刺を用いることなく対象から得られることである。それ故、本発明の1つの側面は、対象におけるアルツハイマー病の早期の検出のための解析または試験に向けられており、プロテインキナーゼC活性化因子(例えばブラジキニン)により引き起こされるErk1リン酸化とErk2リン酸化の内部で制御された比が、培地に対するベースライン標準化を用いて、特異的な抗体により、皮膚線維芽細胞または血液細胞等の他の末梢細胞のようなヒトの細胞において測定される。
【0045】
本発明の方法において、個体または患者から採取される細胞はいずれの生細胞であってもよい。好ましくは、それは皮膚線維芽細胞であるが、細胞を得ることまたは加工することが便利な場合、他の末梢組織細胞(すなわち、中枢神経系の外側の組織細胞)が本発明の試験において使用されてよい。他の適切な細胞には、限定するものではないが、赤血球およびリンパ球のような血液細胞、頬粘膜細胞、嗅覚神経のような神経細胞、脳脊髄液、尿および他のいずれかの末梢細胞が含まれる。加えて、比較を目的として使用される細胞は、必ずしも健康なドナーのものでなくてよい。
【0046】
前記細胞は、新しいものであるか、または培養されてよい(その全体が本明細書の一部として援用される、米国特許第6,107,050号を参照されたい)。特別な実施形態において、穿孔皮膚生検は、対象から皮膚線維芽細胞を得るために使用されてよい。これらの線維芽細胞は、ここで示す技術を用いて直接分析されるか、または細胞培養条件に導入される。結果として得られる培養された線維芽細胞は、その後、実施例および明細書全体に示されているように分析される。他のステップは、頬粘膜細胞、嗅覚細胞のような神経細胞、赤血球およびリンパ球のような血液細胞等のように、分析のために使用され得る他の型の細胞を調製するために要求されてよい。例えば、血液細胞は、末梢静脈から血液を引くことにより容易に得られる。細胞はその後、標準方法により分離され(例えば、細胞ソーター、遠心分離等を用いて)、分析されてよい。
【0047】
それ故、本発明は、ある側面において、対象におけるアルツハイマー病の診断および治療のための方法に関する。ある実施形態において、本発明の診断方法は、プロテインキナーゼC活性化因子である薬剤を用いて刺激された対象から採取した細胞における2つの特異的且つ特徴的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比を測定することに基づく。本発明は、ある実施形態において、アルツハイマー病の検出または診断に有用な薬剤を含有するキットにも向けられている。ある側面において、本発明は、アルツハイマー病を治療するのに有用なリード化合物を同定するためのスクリーニング方法、ならびに必要とする対象においてアルツハイマー病を治療または予防するために、医薬製剤においてこれらの化合物またはリード化合物の化学的な誘導体を使用する方法に向けられている。
【0048】
I.定義
ここで使用される場合、医学的なスクリーニングおよび診断の文脈における「感受性」という用語は、疾患に対して陽性の試験結果を与える影響を受けた個体の比率を意味し、前記試験は、真の陽性結果および偽陰性の結果の全体で割られた真の陽性結果を明らかにすることが意図されており、通常パーセントで表される。
【0049】
ここで使用される場合、医学的なスクリーニングおよび診断の文脈における「特異性」という用語は、疾患に対して陰性の試験結果を有する個体の比率を意味し、前記試験は、真の陰性結果および偽陽性の結果の全体の比率として真の陰性結果を明らかにすることが意図されており、通常パーセントで表される。
【0050】
ここで使用される場合、「高度な感受性」という用語は、約50%以上の感受性、または約55%の感受性、または約60%の感受性、または約65%の感受性、または約70%の感受性、または約75%の感受性、または約80%の感受性、または約85%の感受性、または約90%の感受性、または約95%の感受性、または約96%の感受性、または約97%の感受性、または約98%の感受性、または約99%の感受性、または約100%の感受性である診断方法を意味する。
【0051】
ここで使用される場合、「高度に特異的」という用語は、約50%以上特異的、または約55%特異的、または約60%特異的、または約65%特異的、または約70%特異的、または約75%特異的、または約80%特異的、または約85%特異的、または約90%特異的、または約95%特異的、または約96%特異的、または約97%特異的、または約98%特異的、または約99%特異的、または約100%特異的である診断方法を意味する。
【0052】
ここで使用される場合、「リード化合物」は、ここで開示される化合物をスクリーニングする方法を用いて同定された化合物である。リード化合物は、ここで開示されているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを、ここで述べられている分析において正常な健康な細胞を用いて測定されたアルツハイマー病に特異的な分生成物マーカーについて計算された値に対応する値へとシフトさせることにおいて活性を有する。リード化合物は、アルツハイマー病の治療または予防のための医薬組成物において使用するために、化学的に修飾することによりその活性を最適化または増強されてよい。
【0053】
ここで使用される場合、「配列変異体」は、構造的および機能的に相互に関連するタンパク質である。ある実施形態において、配列変異体は、アミノ酸配列のレベルで構造的な類似性を有し、酵素活性のレベルで機能的な性質を有するタンパク質である。ある実施形態において、配列変異体は、他のタンパク質のリン酸化を触媒するMAPキナーゼタンパク質である。
【0054】
ここで使用される場合、「アルツハイマー病の非存在」は、対象または対象から採取した細胞が測定可能または検出可能なアルツハイマー病表現型を示さないことを意味する。
【0055】
ここで使用される場合、対象または細胞サンプルにおける「アルツハイマー病表現型」は、限定するものではないが、0より大きい正の値を有するアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを含む。
【0056】
ここで使用される場合、「アミロイドβペプチド」は、アミロイドβペプチドの断片のいずれかまたは全長アミロイドβペプチドである。
【0057】
II.アルツハイマー病の診断方法
本発明は、ある実施形態において、アルツハイマー病の診断方法に向けられている。ある好ましい実施形態において、前記診断方法は、対象から細胞サンプルを得るステップと、タンパク質キナーゼC活性化因子である薬剤と前記細胞サンプルを接触させるステップと、前記細胞サンプル中の特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比を測定し、前記対象においてアルツハイマー病を診断するステップとを含んでなる。ある特異的な実施形態において、ここで開示されている診断分析は、インビトロまたはインビボで行われてよい。特別な実施形態において、前記プロテインキナーゼC活性化因子はブラジキニンである。さらに特異的な実施形態において、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比は、リン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比であり、リン酸化されたErk1の相対的または標準化された量をリン酸化されたErk2の相対的または標準化された量で割ることにより計算される。
【0058】
アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー
ここで開示されている診断方法およびアルツハイマー病を治療するのに有用な化合物のスクリーニング方法は、アルツハイマー病に対する独特な分子生物マーカーの発明者による発見に基づく。アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの数値は、例えば、分析に使用される細胞、分析に使用されるプロテインキナーゼC活性化因子およびリン酸化比の測定のための標的とされる特異的なMAPキナーゼタンパク質のような、ある一定の変数に依存するであろう。
【0059】
特異的な実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、プロテインキナーゼC活性化因子により刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2の比を決定すること、および前記比からプロテインキナーゼC活性化因子を欠いた対照溶液(溶媒)を用いて刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2の比を減算することにより測定されてよい。ある実施形態において、差が0より大きい、すなわち正の値である場合、これはアルツハイマー病の診断となる。さらに好ましい実施形態において、前記差が0以下である場合、これはアルツハイマー病の非存在の指標となる。
【0060】
他の実施形態において、本発明のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、プロテインキナーゼC活性化因子を用いて細胞を刺激した後、2つのリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比を決定することにより測定される。前記分子生物マーカーは、プロテインキナーゼC活性化因子により刺激された細胞における第1のリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質と第2のリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質との比を決定すること、およびこの比からプロテインキナーゼC活性化因子を欠いた対照溶液(溶媒)で刺激した細胞におけるリン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を減算することにより測定されてよい。ある好ましい実施形態において、差が0より大きい、すなわち正の値である場合、それはアルツハイマー病の診断となる。さらに好ましい実施形態において、差が0以下である場合、それはアルツハイマー病の非存在の指標となる。
【0061】
ある実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、アルツハイマー病と診断された患者から採取した細胞サンプル(AD細胞)において正の数値である。ある好ましい実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分生成物マーカーがブラジキニンにより刺激されたAD細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定される場合、AD細胞におけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーに対する正の数値は、約0〜約0.5の範囲であってよい。
【0062】
ある実施形態において、例えば、パーキンソン病またはハンチントン舞踏病または臨床的な統合失調症のような、非アルツハイマー病認知症と診断された対象から採取した細胞(非ADD細胞)において測定された場合、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは負の数値である。ある好ましい実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーが、ブラジキニンで刺激された非ADD細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定される場合、負の数値は、約−0.2〜約−0.3の範囲であってよい。
【0063】
ある実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、アルツハイマー病でない患者から採取した年齢が一致した対照細胞に由来する細胞サンプル(AC細胞)において、負の数値、ゼロまたは非常に低い正の数値であってよい。前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーが、ブラジキニンで刺激されたAC細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定される場合、AC細胞におけるアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、約0.05未満〜約−0.2の範囲であってよい。
【0064】
本発明のある実施形態において、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比−ブラジキニンを欠いた溶液で刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を計算することにより測定されてよい。これは、以下のように表される:アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー={(pErk1/pErk2)ブラジキニン}−{(pErk1/pErk2)溶媒}。
【0065】
プロテインキナーゼC活性化因子
本発明の診断方法、キットおよび化合物を同定するためのスクリーニング方法において使用される特に検討されたプロテインキナーゼC活性化因子には、限定するものではないが、以下のものが含まれる:ブラジキニン; α-APP修飾因子; ブリオスタチン1; ブリオスタチン2; DHI; 1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール; FTT; グニディマクリン(Gnidimacrin)、ステレラ・カマエヤスメ(Stellera chamaejasme) L.; (-)-インドラクタムV; リポキシンA; リングビアトキシンA、ミクロモノスポラ属; オレイン酸; 1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール; 4α-ホルボール; ホルボール-12,13-ジブチレート; ホルボール-12,13-ジデカノエート; 4α-ホルボール-12,13-ジデカノエート; ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート; L-α-ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸, ジパルミトイル-, ペンタアンモニウム塩; L-α-ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸, ジパルミトイル-, ペンタアンモニウム塩; L-α-ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸, ジパルミトイル-, ヘプタアンモニウム塩; 1-ステアロイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロール; チメレアトキシン(Thymeleatoxin)、チメレア・ヒルスタ(Thymelea hirsuta) L.; インスリン、ホルボールエステル、リゾホスファチジルコリン、リポ多糖、アントラサイクリンダンノルビシンおよび硫酸バナジル。「ブリオログ(bryologues)」として既知の化合物も含まれる。ブリオログは、例えば、Wender et al. Organic letters ( United States ) May 12, 2005 ,7 (10) p1995-8; Wender et al. Organic letters ( United States ) Mar 17 2005 , 7 (6) p1177-80; Wender et al. Journal of Medicinal Chemistry ( United States ) Dec 16 2004, 47 (26) p6638-44に記載されている。プロテインキナーゼC活性化因子は、ここで開示されている診断方法、キットおよび化合物のスクリーニング方法において、単独で、または他のいずれかのプロテインキナーゼC活性化因子と組み合わせて使用されてよい。
【0066】
ブラジキニンは、種々の炎症性の条件の過程において生じる潜在的な血管作動性ノナペプチドである。ブラジキニンが特異的な細胞膜ブラジキニン受容体に結合し、活性化することにより、「マイトジェン活性化プロテインキナーゼ」(MAPK)として既知のタンパク質のリン酸化を引き起こす細胞内イベントのカスケードの引き金となる。タンパク質のリン酸化、リン酸基のSer、Thr、またはTyr残基への付加は、一括してプロテインキナーゼとして既知の多くの酵素により媒介される。リン酸化は、通常、タンパク質の機能を修飾し、活性化する。ホメオスタシスは、リン酸化が一過性の過程であることを要求し、基質を脱リン酸化するホスファターゼ酵素により転換される。リン酸化または脱リン酸化における異常は、生化学的な経路および細胞の機能を乱し得る。そのような混乱は、ある一定の脳疾患に対する基礎となり得る。
【0067】
リン酸化されたタンパク質のレベルの測定または検出
ここで開示されているアルツハイマー病の診断方法およびアルツハイマー病の治療または予防に有用な薬剤を同定するための化合物のスクリーニング方法は、本発明のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを測定することに依存する。
【0068】
好ましい実施形態において、細胞に存在するリン酸化されたタンパク質のレベルは、ウェスタンブロッティングにより検出される。リン酸化されたErk1またはリン酸化されたErk2のタンパク質レベルは、抗-Erk1、抗-Erk2、抗-ホスホ-Erk1および抗-ホスホ-Erk2抗体(セルシグナリングテクノロジー)を用いて、線維芽細胞において測定することができる。異なるタンパク質のレベルは、標準化のための参照タンパク質として、同じサンプル中で測定されてもよい。可能な参照タンパク質の例には、限定するものではないが、アネキシン-IIまたはアクチンが含まれる。
【0069】
1つの実施形態において、ELISAは以下の方法に従って行われる:1)予め抗-Erk抗体でコートされた96ウェルマイクロプレートに二重または三重に処理した後、線維芽細胞ライセートを加える;2)マイクロプレートウェル中のサンプルを室温で約2時間インキュベートする;3)サンプルを吸引し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ベースの洗浄緩衝液でウェルを洗浄する;4)抗-ホスホ-Erk1/2または抗-定型Erk1/2抗体の実験希釈を各ウェルに加え、室温で約1時間インキュベートする;5)吸引し、洗浄緩衝液でウェルを洗浄する;6)セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と接合させた二次抗体の実験希釈を各ウェルに加え、ウェルを室温で約30分間インキュベートする;7)吸引し、洗浄緩衝液でウェルを洗浄する;8)ジアミノベンジジン(DAB)のような安定化色素原を加え、室温で約30分間インキュベートする;9)停止溶液を加え、450nmにおける吸収を測定する。Erk1/2のリン酸化は、標準化された後で評価される:NR=A/A。ここで、NR=標準化された比であり;Aは、ホスホErk1/2についての吸収値であり;Aは、全(定型)Erk1/2についての吸収である。
【0070】
好ましい実施形態において、Erk1/2のリン酸化は、抗-ホスホ-Erk1/2抗体を用いたウェスタンブロットにおいて分析される。リン酸化されたErk1/2に対する免疫反応性のシグナルのレベルは、濃度測定スキャンにより定量化される。ホスホErk1/2シグナルの平均密度は、分離ウェスタンブロットにおいて抗-定型Erk1/2抗体を用いて同じ細胞ライセートサンプルから検出される、全Erk1/2シグナルの平均密度を用いて標準化される。標準化に対する式は、NR=D/Dである。ここで、NR(標準化された比)は、Erk1/2リン酸化の程度を表し;Dは、ホスホ-Erk1/2についての平均密度であり;Dは、同じサンプルに由来するウェスタンブロットにおいて検出されたErk1/2の全量についての平均密度である。
【0071】
タンパク質の検出に対する本発明の免疫測定法は、免疫蛍光分析、放射性免疫測定法、ウェスタンブロット分析、酵素免疫測定法、免疫沈降、化学発光分析、免疫組織化学的な分析、ドットもしくはスロットブロット(slot blot)分析等であってよい。(In “Principles and Practice of Immunoassay” (1991) Christopher P. Price and David J. Neoman (eds), Stockton Press, New York, New York, Ausubel et al. (eds ) (1987) in “Current Protocols in Molecular Biology” John Wiley and Sons, New York, New York)。検出は、比色もしくは放射性の方法、または当業者に既知の他の通常の方法により行われてよい。ELISAについての当該分野で既知の標準技術は、Methods in Immunodiagnosis, 2nd Edition, Rose and Bigazzi, eds., John Wiley and Sons, New York 1980およびCampbell et al., Methods of Immunology, W.A. Benjamin, Inc., 1964に述べられており、共に本明細書の一部として援用される。そのような分析は、当該分野で述べられているように、直接的、間接的、競合的、または非競合的な免疫測定法であってよい(In “Principles and Practice of Immunoassay” (1991) Christopher P. Price and David J. Neoman (eds), Stockton Pres, NY, NY; Oellirich, M. 1984. J. Clin. Chem. Clin. Biochem. 22: 895-904 Ausubel, et al. (eds) 1987 in Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, New York.)。
【0072】
細胞型、タンパク質単離および抗体
上述したように、診断される患者から採取される細胞はいずれの細胞であってもよい。使用される細胞の例には、限定するものではないが、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、頬粘膜細胞、赤血球、リンパ球およびリンパ芽球腫細胞のような血液細胞、神経細胞、ならびにErk1/2タンパク質を発現する他のいずれかの細胞が含まれる。検死サンプルおよび病理学サンプルも使用することができる。これらの細胞を含んでなる組織を使用することもでき、脳組織または脳細胞が含まれる。前記細胞は、新しいもの、培養されたものまたは凍結されたものであってよい。細胞または組織から単離されるタンパク質サンプルは、診断分析または化合物のスクリーニング方法において直ちに使用されるか、または後の使用のために凍結されてよい。好ましい実施形態において、線維芽細胞が使用される。線維芽細胞は、皮膚穿孔生検により得られる。
【0073】
タンパク質は、当業者に既知の通常の方法により細胞から単離されてよい。好ましい方法において、患者から単離された細胞は、洗浄され、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でペレットとされる。その後、50 nM NaF、1mM EDTA、1 mM EGTA、20μg/ml ロイペプチン、50μg/ml ペプスタチン、10 mM TRIS−HCl、pH=7.4を含んでなる「均質化緩衝液」でペレットを洗浄し、遠心分離によりペレット化する。上清を捨て、「均質化緩衝液」をペレットに加え、ペレットの超音波処理を行う。タンパク質抽出物は、新鮮なものを使用するか、または後の分析のために−80℃で保存してもよい。
【0074】
本発明の方法において、開示された免疫測定法において使用される抗体は、原始的にモノクローナルまたはポリクローナルであってよい。抗体を産生するために使用されるリン酸化されたおよびリン酸化されていないErk1/2タンパク質またはその部分は、天然もしくは組み換えの源に由来するか、または化学的合成により作られてよい。天然Erk1/2タンパク質は、通常の方法により、生物学的なサンプルから単離されてよい。Erk1/2タンパク質を単離するために使用することができる生物学的なサンプルの例には、限定するものではないが、線維芽細胞、アルツハイマー病線維芽細胞株のような線維芽細胞株および対照線維芽細胞株等の皮膚細胞が含まれ、Coriell細胞バンク(Camden, N.J.)から商業的に入手可能であり、National Institute of Aging 1991 Catalog of Cell Lines, National Institute of General Medical Sciences 1992/1993 Catalog of Cell Lines [(NIH Publication 92-2011 (1992)]に挙げられている。
【0075】
III.アルツハイマー病の診断のためのキット
本発明は、上述した診断試験のいずれかを行うことにおいて利用可能なキットに関するものであることがさらに意図されている。前記キットは、ここで述べられている単一の診断試験または前記試験の任意の組み合わせを含んでよい。前記キットは、定型Erk1/2(リン酸化されていないErk1もしくはリン酸化されていないErk2)またはリン酸化されたErk1/2(リン酸化されたErk1もしくはリン酸化されたErk2)を認識する抗体を含んでよい。前記キットは、定型MAPキナーゼタンパク質ならびにリン酸化MAPキナーゼタンパク質を認識する抗体を含んでよい。前記キットは、ここで開示されている1以上のプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブラジキニンまたはブリオスタチン)も含んでよい。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってよい。前記キットは、穿孔皮膚生検のような1以上の生検を行うために必要な用具、緩衝液および保存容器を含んでよい。前記キットは、本発明のアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを同定するために使用される比の決定ならびに診断試験における抗体または他の成分の使用に関する説明書も含んでよい。前記説明書は、穿孔皮膚生検のような生検を行うための方法についても記載されてよい。前記キットは、標準化のために使用される参照タンパク質の検出のための抗体のような、診断試験を行うための他の試薬も含んでよい。可能な参照タンパク質を認識する抗体の例には、限定するものではないが、アネキシン-IIまたはアクチンを認識する抗体が含まれる。前記キットは、緩衝液、二次抗体、対照細胞等が含まれてもよい。
【0076】
IV.アルツハイマー病の治療または予防において有用な化合物のスクリーニング方法
本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な物質をスクリーニングおよび同定するための方法にも向けられている。この実施形態によると、ここで述べられているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを逆転させるか、または改善する(すなわち、正常細胞において見られるレベルに戻す)物質は、アルツハイマー病の治療または予防に潜在的に有用な物質として同定され、選択される。
【0077】
実施例によると、治療的な物質を同定するスクリーニング方法の1つは、アルツハイマー病患者に由来するサンプル細胞を、ここで開示されているプロテインキナーゼC活性化因子のいずれかの存在下において、スクリーニングされた物質と接触させるステップと、ここで開示されているアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの何れかを測定するステップとを含んでなる。アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを逆転させ、または改善し、正常細胞(すなわち、アルツハイマー病のない対象から採取した細胞)において見られるレベルに戻す薬剤は、アルツハイマー病の治療または予防に対して潜在的に有用な物質として同定および選択される。
【0078】
ある実施形態において、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを逆転させるか、または改善する薬剤は、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーに対する正の値の減少および/またはより負の値への移動を引き起こす薬剤である。
【0079】
V.アルツハイマー病の進行をモニタリングする方法
本発明は、対象におけるアルツハイマー病の進行をモニタリングする方法にも向けられている。図2は、認知症の年数の関数として、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの直線回帰分析を提供する。前記直線回帰は、約−0.01の負の勾配を示し、認知症の年数とアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの正の範囲との間で負の相関を示す。認知症の年数が増大する(すなわちアルツハイマー病の進行)につれ、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーはより低い正の数値となる。ある実施形態において、より高い正の値が疾患の早期段階を示すため、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの測定は、アルツハイマー病の早期診断を可能にする。ある実施形態において、対象においてアルツハイマー病が進行するにつれて、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーはより低い正の値となる。
【0080】
アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーは、ある実施形態において、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比−ブラジキニンを欠いた培地で刺激された細胞におけるリン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定することにより測定される。これは、以下のように表される:アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー={(pErk1/pErk2)ブラジキニン}−{(pErk1/pErk2)溶媒}。
【0081】
VI.アミロイドβペプチド
「アミロイドβペプチド」、「βアミロイドタンパク質」、「βアミロイドペプチド」、「βアミロイド」、「A.β」および「A.βペプチド」という用語は、ここでは互換性に使用される。いくつかの形態において、アミロイドβペプチド(例えば、A.β39、A.β40、A.β41、A.β42およびA.β43)は、アミロイド前駆タンパク質(APP)と呼ばれるより大きな膜貫通型糖タンパク質の39〜43アミノ酸の約4kDaの内部断片である。APPの複数のアイソフォームが存在し、例えば、APP695、APP751、およびAPP770である。ヒトに存在することが現在知られているAPPの特定のアイソタイプの例は、「正常な」APPとして設計されるKang et. al. (1987) Nature 325:733-736に述べられている695アミノ酸のポリペプチド;Ponte et al. (1988) Nature 331:525-527 (1988) and Tanzi et al. (1988) Nature 331:528-530に述べられている751アミノ酸のポリペプチド;およびKitaguchi et. al. (1988) Nature 331:530-532に述べられている770アミノ酸ポリペプチドである。インビトロまたはインサイチューにおける異なるセクレターゼ酵素によるAPPタンパク分解処理の結果として、A.βは、40アミノ酸長の「短い形態」および42〜43アミノ酸長の「長い形態」の両方で見られた。APPの疎水性ドメインの部分は、A.βのカルボキシ末端に見られ、特に長い形態の場合に、A.βの凝集する能力について説明することができる。A.βペプチドは、正常な個体およびアミロイド形成的な障害に罹患している個体の両方を含む、ヒトおよび他の哺乳動物の体液、例えば脳脊髄液において見られ、またはそれらから精製されてよい。
【0082】
「アミロイドβペプチド」、「βアミロイドタンパク質」、「βアミロイドペプチド」、「βアミロイド」、「A.β」および「A.βペプチド」という用語には、APPのセクレターゼ切断の結果として得られるペプチドおよび切断産物と同じまたは本質的に同じ配列を有する合成ペプチドが含まれる。本発明のA.βペプチドは、種々の源、例えば、組織、細胞株、または体液(すなわち、血清もしくは脳脊髄液)に由来する。例えば、A.βは、例えばWalsh et al., (2002), Nature, 416, pp 535-539に記載されているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のようなAPP発現細胞に由来してよい。A.β調製は、前に記載した方法を用いた組織の源に由来してよい(例えば、Johnson-Wood et al., (1997), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1550を参照されたい)。あるいは、A.βペプチドは、当該分野において周知の方法を用いて合成されてよい。例えば、Fields et al., Synthetic Peptides: A User's Guide, ed. Grant, W.H. Freeman & Co., New York, N.Y., 1992, p 77)を参照されたい。それ故、ペプチドは、側鎖が保護されたアミノ酸を用いて、t-BocまたはF-moc化学により保護されたa-アミノ基と共に、例えばアプライドバイオシステムズペプチドシンセサイザーモデル 430Aもしくは431において、固相合成の自動化されたメリフィールド技術を用いて合成されてよい。より長いペプチド抗原は、周知の組み換えDNA技術を用いて合成されてよい。例えば、ペプチドまたは融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、合成され、または分子的にクローン化されてよく、また、適切な宿主細胞による異種性の発現およびトランスフェクションのために、適切な発現ベクター中に導入されてよい。A.βペプチドは、正常な遺伝子のA.β領域における突然変異の結果として生じる関連A.β配列についても言及する。
【0083】
A.β誘導性のErk1/2指数(アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー)の異常は、アルツハイマー病の存在または非存在に対する確認試験として使用することができる。すなわち、負のアミロイドβ指数反応は疾患の存在を示し、一方、正の反応は疾患の非存在を示す。アルツハイマー病表現型が、アミロイドβペプチドとインキュベーションまたは接触させることにより細胞において誘発された場合、これは、試験される細胞または対象における疾患の非存在の指標となる。対照的に、アミロイドβペプチドとインキュベーションまたは接触させることによりアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーにおいて変化がないかわずかである場合、これは、試験される細胞または対象におけるアルツハイマー病の存在の指標となる。
【0084】
アミロイドβ(1-42)(すなわちAβ(1-42))が最も好ましい刺激を誘発する一方で、(1-39)、(1-40)、(1-41)、(1-43)、(25-35)、(16-22)、(16-35)、(10-35)、(8-25)、(28-38)、(15-39)、(15-40)、(15-41)、(15-42)、(15-43)または他のいずれかのアミロイドβ断片も、ここで述べられている方法またはキットのいずれかにおいて使用することができる。
【0085】
VII.アルツハイマー病の治療に有用な組成物
本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な組成物にも向けられている。ここで述べられているスクリーニング方法を使用して同定された化合物は、それを必要とする患者に投与するための医薬組成物として構築することができる。
【0086】
本発明の医薬組成物またはここで開示されているスクリーニング方法を用いて同定された化合物(またはリード化合物の化学的な誘導体)は、例えば既知の方法に従って薬学的に許容可能なキャリアと混合して、錠剤(糖衣錠およびフィルムコーティング剤を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤(軟カプセルを含む)、液体、注射、坐剤、徐放性の薬剤等の医薬組成物を与え、経口、皮下、経皮(transdermal)、経皮(transcutaneous)または非経口(例えば、局所、直腸または静脈内)投与により安全に投与することができる。
【0087】
本発明の医薬組成物において使用される薬学的に許容可能なキャリアの例には、限定するものではないが、固体製剤のための賦形剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤、ならびに液体製剤のための溶媒、可溶化剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、緩和剤等が含まれる、種々の通常の有機または無機キャリアが含まれる。必要な場合、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、吸収剤、湿潤剤のような通常の添加剤が、適切な量で適宜使用される。
【0088】
本発明の医薬組成物において使用される賦形剤の例には、限定するものではないが、ラクトース、スクロース、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽無水ケイ酸、多糖類、二糖類、炭水化物、およびトレハロースのような薬剤が含まれる。
【0089】
本発明の医薬組成物において使用される滑沢剤の例には、限定するものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、およびコロイド性シリカのような薬剤が含まれる。
【0090】
本発明の医薬組成物において使用される結合剤の例には、限定するものではないが、結晶セルロース、スクロース、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、スクロース、ゼラチン、メチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム等が含まれる。
【0091】
本発明の医薬組成物において使用される崩壊剤の例には、限定するものではないが、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、およびL-ヒドロキシプロピルセルロース等が含まれる。
【0092】
本発明の医薬組成物において使用される溶媒の例には、限定するものではないが、注射のための水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、コーン油、およびオリーブオイル等が含まれる。
【0093】
本発明の医薬組成物において使用される可溶化剤の例には、限定するものではないが、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、ベンジルベンゾエート、エタノール、tris-アミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、およびクエン酸ナトリウムが含まれる。
【0094】
本発明の医薬組成物において使用される懸濁剤の例には、限定するものではないが、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオネート、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、およびグリセリルモノステアレート等の界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロース等の親水性ポリマーが含まれる。
【0095】
本発明の医薬組成物において使用される等張化剤の例には、限定するものではないが、グルコース、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、およびD-マンニトール等が含まれる。
【0096】
本発明の医薬組成物において使用される緩衝剤の例には、限定するものではないが、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、およびクエン酸塩等が含まれる。
【0097】
本発明の医薬組成物において使用される緩和剤の例には、限定するものではないが、ベンジルアルコール等が含まれる。
【0098】
本発明の医薬組成物において使用される防腐剤の例には、限定するものではないが、p-オキシベンゾエート、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、およびソルビン酸等が含まれる。
【0099】
本発明の医薬組成物において使用される酸化防止剤の例には、限定するものではないが、亜硫酸塩、アスコルビン酸、およびα-トコフェロール等が含まれる。
【0100】
ある実施形態において、本発明の医薬組成物が注射として使用される場合、使用されるべき注射のためのキャリアには、以下に示すいずれかまたは全てが含まれてよい:溶媒、可溶化剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、および緩和剤等。前記溶媒の例には、限定するものではないが、注射のための水、生理食塩水、およびリンゲル液等が含まれる。前記可溶化剤の例には、限定するものではないが、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、ベンジルベンゾエート、tris-アミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、およびクエン酸ナトリウム等が含まれる。前記等張化剤の例には、限定するものではないが、グルコース、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、およびD-マンニトール等が含まれる。前記緩衝剤の例には、限定するものではないが、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、およびクエン酸塩等の緩衝剤が含まれる。前記緩和剤の例には、限定するものではないが、ベンジルアルコール等が含まれる。pH調節剤の例には、限定するものではないが、塩酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸ナトリウム等が含まれる。
【0101】
ある実施形態において、本発明の注射のための組成物は、無菌処理された凍結乾燥機で凍結乾燥されて粉末の形態にされてよく、または、注射のための容器(例えばアンプル)に封入され、保存されてよい。
加えて、本発明の医薬組成物は、使用されるときに上述した注射のためのキャリアで希釈されてよい。
【0102】
本発明の医薬組成物における活性化合物の量は、製剤の形態に依存して変化するが、一般的に、製剤全体の約0.01〜約99重量%、好ましくは約0.1〜約50重量%、より好ましくは約0.5〜約20重量%である。
【0103】
本発明の医薬組成物における非イオン性界面活性剤の量は、製剤の形態に依存して変化するが、一般的に、製剤全体の約1〜約99.99重量%、好ましくは約10〜約90重量%、より好ましくは約10〜約70重量%である。
【0104】
本発明の医薬組成物におけるエタノール、ベンジルアルコールまたはジメチルアセトアミドの量は、製剤の形態に依存して変化するが、一般的に、製剤全体の約1〜約99.99重量%、好ましくは約10〜約90重量%、より好ましくは約30〜約90重量%である。
【0105】
本発明の医薬組成物における非イオン性界面活性剤およびエタノールの混合比(重量比)は、特に限定されないが、例えば、非イオン性界面活性剤:エタノール=約0.01〜99.99:99.99〜0.01、好ましくは約1〜99:99〜1、より好ましくは10〜90:90〜10等である。より好ましくは、非イオン性界面活性剤:エタノール=約10〜80:90〜20、約50〜80:50〜20等であり、特に、約20:80、約65:35等が好ましい。
【0106】
本発明の医薬組成物における水に容易に解けるシクロデキストリン誘導体の量は、製剤の形態に依存して変化するが、一般的に、製剤全体の約1〜約99.99重量%、好ましくは約10〜約99.99重量%、より好ましくは約20〜約97重量%、特に好ましくは約50〜約97重量%である。
【0107】
本発明の医薬組成物における他の添加剤の量は、製剤の形態に依存して変化するが、一般的に、製剤全体の約1〜約99.99重量%、好ましくは約10〜約90重量%、より好ましくは約10〜約70重量%である。
【0108】
本発明の医薬組成物は、活性化合物、非イオン性界面活性剤および水に容易に溶けるシクロデキストリン誘導体を含んでなる医薬組成物であってよい。この場合、各成分、すなわち活性化合物、非イオン性界面活性剤および水に容易に溶けるシクロデキストリン誘導体の量は、上述した範囲と同じである。
【0109】
VIII.アルツハイマー病の治療方法
本発明は、ここで開示されている医薬組成物を使用してアルツハイマー病を治療または予防する方法にも向けられている。
【0110】
本発明の化合物は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、槽内注射もしくは注入、皮下注射、またはインプラント)、吸入スプレー、鼻腔、膣、直腸、舌下、または局著的な投与経路で投与されてよく、各投与経路に適した通常の無毒の薬学的に許容可能なキャリア、アジュバントおよび媒体を含有する適切な製剤単位として、単独または一緒に構築されてよい。前記医薬組成物および本発明の方法は、さらに、アルツハイマー病の治療において通常適用される他の治療的に活性のある化合物を含んでよい。
【0111】
アルツハイマー病の治療または予防において、適切な用量レベルは、一般的に、一日に患者の体重当り約0.001〜100mg/kgであり、単一用量または複数用量で投与されてよい。好ましくは、前記用量レベルは、約0.01〜約25 mg/kg/日; より好ましくは約0.05〜約10 mg/kg/日である。適切な用量レベルは、約0.01〜25 mg/kg/日、約0.05〜10 mg/kg/日、または約0.1〜5 mg/kg/日である。この範囲内において、前記用量は、約0.005〜約0.05、0.05〜0.5または0.5〜5 mg/kg/日であってよい。経口投与の場合、前記組成物は、用量の対症的な調節に対して、好ましくは、約1〜1000mgの活性成分、特に、約 1、5、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、750、800、900、および1000mgの活性成分を含有する錠剤の形態で、治療される患者に提供される。前記化合物は、1日に1〜4回、好ましくは1日に1または2回投与されてよい。
【0112】
しかしながら、特定の患者に対する特定の投与レベルおよび投与頻度は、変化し、また、使用される特定の化合物の活性、化合物の代謝安定性および活性の長さ、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与の方法および時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、特定の状態の重篤度、および患者の既往歴を含む種々の因子に依存してよい。
【0113】
ここで言及されている全ての参考文献、特許および印刷された刊行物は、その全体が本明細書の一部として援用される。
【0114】
以下の実施例は、本発明のある好ましい実施形態をさらに述べるために説明により提供するものであり、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0115】
例1:アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)
ブラジキニン(10 nM、10分、37℃)は、非AD認知症および非認知症の対照線維芽細胞と比較して、アルツハイマー病(AD)線維芽細胞におけるErk1/2のリン酸化をより引き起こすことが見出された。AD線維芽細胞に対する増大したWrk1/2リン酸化が付加的なCoriell 細胞株において観察され得る一方で、これらの処理において見られる固有の可変性は、定量化、信頼性、および再現性を改善する必要があることを示す。それ故、線維芽細胞株の増殖速度における内因性の違いならびにゲルに適用されるタンパク質抽出物の抽出量における違いを調節するために、我々は、新規のリン酸化の測定、すなわち、BK+刺激の前および後に、Erk1/2比を用いて各患者のサンプルにおけるErk1とErk2のリン酸化を比較する方法を導入する。このErk1/Erk2 リン酸化比、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)の測定は、全ての非認知症の線維芽細胞と全てのAD線維芽細胞とを完全に区別した(図1および4A)。対照(BK−)に対して明らかに高いレベルのp-Erk1であることは(図3)、全ての患者で一致しなかった。いくつかの非AD認知症は区別されなかったが、これらは、臨床診断の検死により確認されたものの欠如によるものであり得る。この解釈は、検死により確認された診断を伴う患者に由来する線維芽細胞を用いて得られたADSMBの結果により支持され(図1および4B)、ADSMBは、全てのADケースを全ての非AD認知症ならびにADおよびパーキンソン病のような他の非AD病因の両方を原因とする「混合性の」認知症のケースから明確に区別した。ADを非AD認知症および非認知症の対照患者から高い精度で区別することは、Coriell細胞バンクおよび検死により確認されたサンプルの両方において、ADSMBの顕著な感受性および特異性において反映される(図6)。検死により確認された診断のみを考慮する場合、感受性および特異性は100%のレベルである。
【0116】
罹患期間に伴うアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)の変化
罹患期間(すなわち、症状の開始からADSMB測定の時間)が入手可能な患者のサンプルについて、我々は、罹患期間に対するADSMB振幅の関係を測定した。図2に示すように、罹患期間に伴って、ADSMBの大きさの有意な逆の相関(直線回帰分析を用いて)があった。これらの結果は、測定される疾患のコースにおけるより早い時期においてMAPキナーゼリン酸化ADSMBがより顕著であることを示す。
【0117】
Aβ(1-42)によるアルツハイマー病表現型の誘導
Aβ(1-42)レベルは早期のADにおいて最も大きく関わると思われ、且つ観察されるADSMBは早期のAD診断力を有することがデータにより示されたため、我々は、増大したAβ(1-42)がMAPキナーゼD.F.の異常を引き起こし得る可能性をここで試験した。正常な対照患者に由来する線維芽細胞株を、1.0μM Aβ(1-42)に24時間曝露した。図5Aに示すように、Aβ(1-42)と共にプレインキュベーションし、予想した通り、正常な(陰性の)ADSMB表現型を異常な陽性値のADSMB表現型に変換することが全てのAD表現型について観察された。これらの結果は、AD患者におけるADSMB表現型が、実際に、Aβ(1-42)の増大したレベルにより生じることを示す。
【0118】
PKC活性化因子であるブリオスタチンによるアルツハイマー病表現型の逆転
上述したように、MAPキナーゼ表現型(ADSMBにより測定された)は、PKC活性化により制御され、Aβの増大したレベルに対する影響を示す。さらに、潜在的なPKC活性化因子であるマクロラクトン(macrolactone)、ブリオスタチンは、ヒト線維芽細胞においてPKC活性化を増強し、ならびにヒトAD遺伝子を有するトランスジェニックマウスの脳においてAβ(1-42)レベルを低下させることが見出された。それ故、これらの知見に基づいて、我々は、Aβ(1-42)処理されたヒト線維芽細胞におけるブリオスタチン(0.1 nM)の効果を試験した。図5Bおよび表1に示すように、ブリオスタチンは、Aβ(1-42)により正常な線維芽細胞において誘導されるMAPキナーゼリン酸化の変化を完全に逆転させた。ブリオスタチンは、異常な、Aβ処理された線維芽細胞の陽性の値を、正常な、非AD線維芽細胞について前に観察された陰性の値に変化させた。ブリオスタチンの「治療的な」効果は、慢性的なブリオスタチン処理にさらされたADトランスジェニックマウスの大いに増大した生存と一致する。
【表1】

【0119】
P<0.001、P<0.01
ADSMBは、この研究で使用される方法により計算された。
T-検定は、対照とAβ処理細胞との間で行われた。
【0120】
T-検定は、Aβ処理細胞とAβ+ブリオスタチン処理細胞との間で行われた。
【0121】
ADを診断するためのMAPキナーゼリン酸化のADSMB測定の高い感受性および特異性は、認知症の臨床診断において助けとなるADに対する臨床試験として重要な可能性を示す。今日において、臨床的に診断された認知症の検死による確認は、通常、長期にわたって疾患を有する患者に対してのみ有用である。ADは8〜15年間継続し得ることを考えると、短期間のADに対する臨床診断は、疾患の進行の後の臨床診断と比較し、その後検死確認を行う場合に高い不正確さを示すことが見出されている。それ故、末梢性の生物マーカー、ここではヒト線維芽細胞に対するMAPキナーゼリン酸化比は、認知症に対する治療戦略への到達において真の価値を有する。
【0122】
理論により結び付けられることは望まれないが、Erk1とErk2リン酸化の比がなぜAβ代謝のADに特異的な違いによる異常に対して感受性を有するのかということを考えることに対しては関心がある。このことおよびADに対する末梢性の生物マーカーの過去の研究の1つの暗示は、ADの病態生理学が脳だけでなく種々の他の臓器系にも関与するということである。このADの全身性の病態生理学的な見解は、アミロイドおよびタウ代謝経路がヒトの体において遍在性であり、血液、唾液、皮膚および外部脳組織において顕著であるという観察と一致する。
【0123】
ここで示されるErk1/Erk2比とADとの閉じた相関は、ADシグナル伝達の「表示」としてこれらの物質に注意が集中する。例えば、PKCアイソザイムは、MAPキナーゼに集中するいくつかの分子標的を制御する。PKCは以下を活性化する:(1)s-APPのα-セクレターゼ増大、およびそれによる間接的なβ-アミロイドの減少;(2)β-アミロイドは、MAPキナーゼリン酸化を増大させるグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)を活性化する;(3)PKCはGSK-3βを阻害する;(4)PKC自体はGSK-3βをリン酸化する;(5)PKCは、BKおよび他のAD惹起イベントに反応するサイトカイン炎症シグナルを活性化する;(6)有毒なコレステロール代謝産物(例えば17-OHコレステロール)はPKCαを阻害し、結局、Aβを減少させ、リン酸化タウを減少させる。
【0124】
PKCアイソザイム自体の機能障害がAD過程の最も早い惹起に貢献し得ることの証拠は、それ故、全ての上述したシグナル伝達イベントを介して、Erk1/2リン酸化比の異常に反映される。
【0125】
最終的に、ADリン酸化の異常の特異性がヒト線維芽細胞株の連続的な経路を通してどのように維持されるかということに関しても謎である。この減少は、PKC/MAPキナーゼレベルと線維芽細胞ゲノムとの相互作用を介して説明され得る。PKCおよびMAPキナーゼが遺伝子発現を制御することは既知である。それ故、それら自体の合成のPKC/MAPキナーゼ刺激の継続的なサイクルは、ヒト線維芽細胞の1つの産生から次までMAPキナーゼリン酸化およびPKCレベルの異常を持続させることが可能である。
【0126】
例2:Aβ処理
Aβ溶液の調製:最初に1 mgのAβ(1-42)をヘキサフルオロイソプロパノール(シグマ, St. Louis, MO)に3 mMの濃度で溶解し、一定分量ずつ無菌のミクロ遠心管に分離した。減圧下でヘキサフルオロイソプロパノールを除去し、凍結乾燥した。Aβ(1-42)フィルムは、使用するまで乾燥条件下、−20℃で保存した。5 mMのAβ(1-42)貯蔵溶液は、実験の直前に、保存されたDMSO中のAβ(1-42)から調製した。1.0μMの貯蔵溶液は、DMSO貯蔵溶液からAβ(1-42)を溶解することにより、DMEM培地(10%血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充)中に調製された。1.0μMのAβ(1-42)を含有するDMEM培地を非AD対照(AC)細胞に25mLの培養フラスコ中、90〜100%の集密段階で加え、細胞培養インキュベーター中(37℃、5%CO)、24時間保持した。細胞は、血清を含まない培地(DMEM)中で16時間「飢え」させた。10nMブラジキニン(DMSO中)溶液を10%の血清を含むDMEM培地中で調製した。7 mLの10 nM BK溶液を25 mL培養フラスコに加え、37℃で10分間インキュベートした。対照について、同量のDMSOを10%血清を含むDMEM培地に加えた。DMSO(<0.01%)を含む7 mLのこの培地を25mLの培養フラスコに加え、37℃で10分間インキュベートした。低温(4℃)の1×PBSで4回洗浄した後、フラスコをドライアイス/エタノール混合物中に15分間保持した。フラスコをドライアイス/エタノール混合物から除去し、100μLの溶解緩衝液(10 mM トリス、pH 7.4、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM EGTA、0.5% NP−40、1% トリトンX-100、1% プロテアーゼ阻害剤カクテル、1% ser/thr/チロシンホスファターゼ阻害剤カクテル)を各フラスコに加えた。フラスコを低温室(4℃)で30分間、エンドツーエンド(end-to end)振とう器に保持し、細胞かきを用いて各フラスコから細胞を回収した。細胞を超音波処理し、14000rpmで15分間遠心分離し、全タンパク質試験の後、上清をウェスタンブロッティングに使用した。全Erk1、Erk2ならびにErk1およびErk2のリン酸化形態(p-Erk1、p-Erk2)は、特異的な抗体を用いて測定された:抗定型Erk1/2および抗ホスホErk1/2。測定における誤差を最小にするために、少なくとも3のブラジキニン処理されたフラスコ(BK+)および同様に3の対照フラスコ(BK−)を各細胞株についてインキュベートした。
【0127】
ブリオスタチン処理
0.1 nMブリオスタチン溶液を、DMSO貯蔵溶液から定型DMEM培地(10%血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充)中に調製した。Aβ処理の後、細胞を定型培地(10%血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充)で4回洗浄した。0.1 nMブリオスタチンを細胞に加え、培養フラスコを細胞培養インキュベーター中(37℃、5%CO)に20分間保持した。血清を含まない培地で5回洗浄した後、フラスコを血清を含まない条件下、インキュベーター中に(37℃、5%CO)、16時間保持した。ブラジキニン誘導性のMAPK試験は、上述のように行われた。
【0128】
データ解析
ウェスタンブロットタンパク質バンドのシグナルは、フジLAS−1000プラススキャナーを用いてスキャンした。Erk1、Erk2、p-Erk1およびp-Erk2の強度は、我々の研究所(Blanchette Rockefeller Neurosciences Institute, Rockville, MD)においてドクター・ネルソンにより開発された特別に設計されたソフトウェアを用いて、走査されたタンパク質バンドから測定された。前記強度は、ストリップデンシトメトリー(strip densitometry)により測定された。タンパク質バンドはストリップにより選択され、各画素密度は、ソフトウェアによるバックグラウンドの減算の後に計算された。p-Erk1/p-Erk2の比は、サンプル(BK+)および対照(BK−)のそれぞれから計算された。以下の式は、ADと非ADケースとを区別するために使用された:
ADSMB=[p-Erk1/p-Erk2]BK+−[p-Erk1/p-Erk2]BK-
ADSMB=アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー
例3:リン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比を決定するための皮膚線維芽細胞のインビトロ分析
Coriell難治疾患研究所からの保存された皮膚線維芽細胞(アルツハイマー病(AD)、非AD認知症(非ADD))(例えば、ハンチントン舞踏病およびパーキンソン病および臨床的な統合失調症)および年齢が一致した対照細胞(AC)を、90〜100%の集密段階まで培養した。細胞を、血清を含まない培地(DMEM)中において16時間「飢え」させた。定型培地におけるDMSO中の10 nMブラジキニン(BK)を37℃で0および10分間加えた。対照については、同量のDMSOを加えた。
【0129】
冷却した(4℃)の1×PBSで4回洗浄した後、フラスコをドライアイス/エタノール混合物中に15分間保持した。フラスコをドライアイス/エタノール混合物から除去した後、80μL溶解緩衝液(10 mM トリス、pH 7.4、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM EGTA、0.5% NP−40、1% トリトンX-100、1% プロテアーゼ阻害剤カクテル、1% ser/thr/チロシンホスファターゼ阻害剤カクテル)を各フラスコに加えた。
【0130】
フラスコを低温室(4℃)においてエンドツーエンド振とう器に30分間保持し、細胞かきを用いて各フラスコから細胞を回収した。細胞を超音波処理し、14000rpmで15分間遠心分離し、全タンパク質試験の後、上清をウェスタンブロッティングに対して使用した。
【0131】
全Erk1、Erk2ならびにリン酸化された形態のErk1およびErk2(p-Erk1、p-Erk2)は、特異的な抗体を使用して測定された:抗定型Erk1/2および抗ホスホErk1/2。
【0132】
例4:皮膚線維芽細胞
AD患者に由来する保存皮膚線維芽細胞および年齢が一致した対照を、Coriell難治疾患研究所から購入する。検死により確認された皮膚線維芽細胞は、別々に得られる。患者は、重篤な認知症、進行性の記憶喪失、および他の障害性の認知機能により臨床的に影響され得る。これらの患者に由来する脳は、CATまたはCTスキャンにより、異なる程度の大脳萎縮および異常なEEGを示す。近い年齢の一致を示す正常な個体に由来する細胞は、対照として使用される。
【0133】
新鮮な採取された皮膚線維芽細胞。新鮮に得られた皮膚組織からの線維芽細胞の採取および培養は、以下のように行われる:非FAD(nFAD)患者および年齢が一致した対照に由来する穿孔生検皮膚組織は、認定された職員により得られる。全ての患者(または代理人)は、インフォームドコンセントフォームにサインする。
【0134】
ハンチントン舞踏病に由来する保存線維芽細胞。これらの線維芽細胞は、典型的なハンチントン舞踏病の症状に付随する認知症を有するハンチントン舞踏病(HD)患者に由来する。正常な年齢および性別が一致した個体に由来する線維芽細胞は、対照として使用される。
【0135】
例5:物質
DMEMは、Gibco BRLから購入する。胎児ウシ血清は、Bio Fluidsから購入する。ブラジキニン、ジフェニルホウ酸2-アミノエチルエステル(2ABP)、プロテアーゼ、およびホスファターゼ阻害剤カクテルは、シグマ社から購入し、ビスインドリルマレイミド-1およびLY294002は、アレキシス(Alexis)から購入し; PD98059はセルシグナリングテクノロジーから購入する。抗ホスホErk1/2抗体は、セルシグナリングテクノロジーから購入する。抗定型Erk1/2は、アップステートバイオテクノロジーから購入する。SDSミニゲル(4〜20%)は、Invertrogene-Novexから購入する。ニトロセルロース膜は、Schleicher & Schuell (Keene, NH)から購入する。全てのSDS電気泳動試薬は、Bio-Radから購入する。スーパーシグナル化学ルミネセンス基質キットは、Pierceから購入する。
【0136】
あるいは、ブラジキニン(M.Wt. 1060.2)はカルビオケム (San Diego, CA)から購入した。ウサギに由来する抗ホスホ-p44/p42 MAPKは、セルシグナリングテクノロジー(Danvers, MA)から得られた。抗定型Erk1/2は、アップステートバイオテクノロジーから購入し(Charlottesville, VA)、抗ウサギ二次抗体はJackson Lab (Bar Harbor, ME)から購入した。βアミロイド(1-42)(M.Wt. 4514.1)は、アメリカンペプチド(Sunnyvale, CA)から購入した。ブリオスタチンは、バイオモル(Plymouth Meeting, PA)から購入した。
【0137】
例6:ACおよびAD線維芽細胞の培養
FADおよびnFAD型の両方を含むアルツハイマー病患者ならびに年齢が一致した対照(AC)に由来する保存線維芽細胞を維持し、10%胎児ウシ血清(FBS)を含有するDMEMを含むT25/T75フラスコ中で培養する。細胞は、継代6〜17以内で使用される。
【0138】
例7:新鮮な生検組織または保存サンプルに由来する線維芽細胞の加工および培養
サンプルは1×PBS中に入れ、移動培地中において、増殖のための研究室に移動させる。移動培地を除去した後、皮膚組織をPBSで洗浄し、1mmサイズの外植片に手際よく切る。前記外植片を、45%FBSならびに100U/mlペニシリンおよび100U/mlストレプトマイシン(Pen/Strep)を含有する3mlの生検培地を含むベント式T25フラスコの増殖表面上に1つずつ移動させる。10%FBSを含有する2mlの生検培地を添加する前に、組織を37℃で24時間培養する。48時間後、前記培地を10%FBSおよび100U/ml Pen/Strepを含有する5mlの定型培地で置換する。その後、上述した定型の手法に従って細胞を継代させ、維持される。
【0139】
ヒトの皮膚の線維芽細胞培養系は、これらの研究のためにも使用される。Coriell難治疾患研究所(Camden, New Jersey)からの保存された皮膚線維芽細胞アルツハイマー病(AD)、非AD認知症(例えば、ハンチントン舞踏病およびパーキンソン病および臨床的な統合失調症および年齢が一致した対照、AC)を、25mL細胞培養フラスコ中で90〜100%集密段階まで培養した(10%血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充、37℃、5%CO)。細胞は、DMEM培地において16時間「飢え」させた。10nMブラジキニン(DMSO中)溶液を、10%血清を含むDMEM培地において調製した。7mLの10nM BK溶液を25mL培養フラスコに加え、37℃で10分間インキュベートした。対照については、同量のDMSOを10%の血清を含むDMEM培地に加えた。DMSO(<0.01%)を含む7mLのこの培地を25mL培養フラスコに加え、37℃で10分間インキュベートした。冷却した(4℃)1×PBSで4回洗浄した後、フラスコをドライアイス/エタノール混合物中に15分間保持した。フラスコをドライアイス/エタノール混合物から除去した後、100μLの溶解緩衝液(10mM トリス、pH 7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、0.5% NP−40、1% トリトン X-100、1% プロテアーゼ阻害剤カクテル、1% ser/thr/チロシンホスファターゼ阻害剤カクテル)を各フラスコに加えた。フラスコを低温室(4℃)においてエンドツーエンド振とう器に30分間保持し、細胞かきを用いて各フラスコから細胞を回収した。細胞を超音波処理し、その後、14000rpmで15分間遠心分離し、全タンパク質分析の後、上清をウェスタンブロッティングのために使用した。
【0140】
例8:異なるプロテインキナーゼC活性化因子を用いた線維芽細胞の処理
ブラジキニンまたは異なる特異的なプロテインキナーゼC活性化因子は、線維芽細胞を処理するために使用される。保存されたACおよびAD皮膚線維芽細胞は、80〜100%の集密まで培養され、血清を含まないDMEMにおいて一晩「飢え」させる。細胞は、37℃で異なる時間、10nMプロテインキナーゼC活性化因子を用いて処理され、プロテインキナーゼC活性化因子誘導性の効果に対するタイムコースが確立される。プロテインキナーゼC活性化因子の適用後直ちに反応が終結する時間点は、プロテインキナーゼC活性化因子処理後「0分」と定義される。各処理時間点における各細胞株に対する細胞の対照フラスコには、同一の用量のPBSが加えられる。反応は培地の除去により終結し、直ちに細胞を予め冷却したPBS、pH7.4で洗浄し、フラスコをドライアイス/エタノールに移動させる。新鮮な生検組織から得られ、培養された細胞について、0.1nMの濃度のプロテインキナーゼC活性化因子が使用されてよい。処理時間は、37℃で約10分間である。
【0141】
処理された細胞に由来する細胞ライセートを調製するために、フラスコをドライアイス/エタノールから氷(water ice)上に移す。各フラスコに、10 mM トリス、pH 7.4、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM EGTA、pH 8、0.5% NP−40、1% トリトン X-100、1% プロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ)、1% Ser/Thr、およびチロシンホスファターゼ阻害剤カクテル(シグマ)を含有する1mlの溶解緩衝液を加える。低温室でエンドツーエンド振とう器に30分間固定した後、細胞かきを用いて各フラスコから細胞を回収する。細胞は5000rpmで5分間遠心分離し、上清をウェスタンブロッティングのために使用した。
【0142】
例9:ウェスタンブロッティング
プロトコル1:細胞ライセートを等しい容積の2×SDSサンプル緩衝液で処理し、10分間煮沸した。各サンプルに由来するタンパク質を4〜20%ミニ勾配ゲル上で分析し、ニトロセルロース膜に移す。リン酸化されたErk1/2は、スーパーシグナルECL検出キットを用いて、抗ホスホErk1/2抗体により検出される。Erk1/2の全量に対するリン酸化されたErk1/2の量を標準化するために、抗ホスホErk1/2抗体を用いてブロットした後で、同じ膜は、62.5 mM トリス-HCI、pH 6.7、2% SDS、および100 mM 2-メルカプトエタノールを含有するストリッピング緩衝液を用いて60℃で45分間ストリップされ、抗定型Erk1/2抗体を用いてブロットされる。あるいは、SDS-PAGEで分析され、ニトロセルロース膜に移された重複したサンプルは、抗ホスホおよび抗定型Erk抗体を用いてそれぞれブロットされる。0.01%ツイーン20を含有する10mM PBS, pH 7.4で洗浄した後(10分間、3回)、抗定型Erk1/2抗体を用いて膜がブロットされ、それからSDSゲル上に負荷されたErk1/2の全量が測定される。
【0143】
プロトコル2:等しい容積の2×SDSサンプル緩衝液が各細胞ライセートに加えられ、煮沸水浴中で10分間煮沸された。8〜16%のミニ勾配ゲル上で電気泳動が行われ、ニトロセルロース膜上に移された。全Erk1、Erk2ならびにリン酸化された形態のErk1およびErk2(p-Erk1、p-Erk2)は、特異的な抗体を用いて測定された。
【0144】
例10:データ解析
リン酸化された形態および定型のErk1/2に対するシグナルは、フジフィルムLAS−1000プラススキャナーを用いて走査される。各タンパク質バンドの平均光学密度は、NIHイメージソフトウェアを用いて測定される。ホスホ-Erk1/2シグナルに由来する値は、全Erk1/2シグナルに対してそれぞれ標準化される。標準化の後、各処理細胞株からのデータは、基礎対照のパーセンテージに変換され、統計学的分析の対象とされる。
【0145】
例11:免疫細胞化学
線維芽細胞は、0.02mgのポリリジンでコートされた直径2.5cmのカバーガラス上で培養される。ブラジキニンまたは上述したような他のプロテインキナーゼC活性化因子を用いた処理において、細胞は直ちに冷却PBS, pH 7.4で洗浄され、室温で15分間、PBS, pH 7.4中の4%ホルムアルデヒドで固定される。PBS, pH 7.4で3回、各5分間洗浄した後、細胞にPBS, pH 7.4中の0.1% トリトン x-100を室温で30分間浸透させる。PBS, pH 7.4中の10%正常ウマ血清と共に室温で30分間インキュベートした後、細胞を抗ホスホErk1/2抗体(1:200)と共に4℃で一晩インキュベートする。カバーガラス上の細胞をPBS, pH 7.4で3回洗浄し、その後、フルオレセインで標識された抗マウスIgG(ベクターラボラトリーズ)を加え(1:200)、室温で60分間、細胞と共にインキュベートする。PBSを用いて3回洗浄し、ベクタシールド(Vectashield(ベクターラボラトリーズ))を用いて密封した後、ニコン蛍光顕微鏡を用いて細胞における免疫染色シグナルを観察する。細胞イメージにおける免疫細胞化学シグナルの強度は、Bio-Rad Quantity One ソフトウェア(BioRad)およびTnimageを用いて測定される。皮膚線維芽細胞におけるBKまたはプロテインキナーゼC活性化因子受容体の局在は、モノクローナル抗BK B2抗体、または抗プロテインキナーゼC活性化因子抗体が正常な線維芽細胞に適用され、Cy5接合抗マウスIgGと共にインキュベートされる。結果として得られる免疫反応シグナルは、蛍光顕微鏡を用いてイメージされる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、Coriell細胞バンクから得られた保存された皮膚線維芽細胞および組織培養液に直ちに入れられ、検死により確認された対象から得られた穿孔皮膚生検サンプルにおける、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)の測定結果を示す。
【図2】図2は、認知症の年の関数としての、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの直線回帰分析を示す。
【図3】図3は、ADおよび対照細胞株について、ブラジキニン(BK+)処理および溶媒(DMSO、ブラジキニンなし、BK−)処理の後のp-Erk1/2(リン酸化されたErk1およびErk2)のウェスタンブロットデータを示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、ここで述べられているように計算されたアルツハイマー病に特異的な分子生物マーカー(ADSMB)(図中では「識別因子」(D.F.)と示す)を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、可溶性のAβが誘発し、ブリオスタチン処理が逆にするヒト線維芽細胞のアルツハイマーの表現型を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは、ADSMBの決定マトリックス解析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてアルツハイマー病の非存在を決定するための方法であって、
a)対象に由来する細胞をアミロイドβペプチドと接触させることと;
b)前記接触ステップが前記細胞においてアルツハイマー病表現型を誘導するかどうかを決定することとを含んでなり;
前記接触ステップによりアルツハイマー病表現型が誘導される場合、前記対象におけるアルツハイマー病の非存在が示されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記アミロイドβペプチドと共にインキュベートすることにより前記細胞におけるアルツハイマー病表現型に有意な変化が生じない場合、前記対象におけるアルツハイマー病の存在が示される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記細胞をプロテインキナーゼC活性化因子と接触させることをさらに含んでなる方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記細胞は末梢細胞である方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記細胞は線維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、インビトロ試験を含んでなる方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値が0より大きい正の値である場合に、前記細胞において前記アルツハイマー病表現型が誘導される方法。
【請求項10】
対象においてアルツハイマー病の非存在を決定するための方法であって、
a)対象に由来する細胞をAβ(1-42)と接触させることと;
b)前記細胞をブラジキニンと接触させることと;
c)アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定することと
を含んでなり、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーが0より大きい正の値である場合に、前記対象におけるアルツハイマー病の非存在が示される方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記Aβ(1-42)と共にインキュベートすることにより前記細胞におけるアルツハイマー病表現型に有意な変化を生じない場合に、前記対象におけるアルツハイマー病の存在が示される方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記細胞は末梢細胞である方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、前記細胞は、線維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される方法。
【請求項14】
アルツハイマー病の治療に対して有用なリード化合物を同定する方法であって:
a)非アルツハイマー病細胞をアミロイドβペプチドと接触させることと;
b)ステップ(a)に由来する細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させることと;
c)ステップ(b)に由来する細胞と試験化合物を接触させることと;
d)アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定するために、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定することを含んでなる方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法であって、前記非アルツハイマー病細胞は、線維芽細胞、唾液、血液、尿、皮膚細胞、頬粘膜細胞および脳脊髄液からなる群より選択される方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法であって、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値は、前記値が前記試験化合物と接触させない対照細胞から測定される前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値よりも小さい場合、アルツハイマー病の治療に対して有用な化合物の指標となる方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記対照細胞はアミロイドβペプチドと接触させる方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)である方法。
【請求項21】
請求項18または19に記載の方法であって、前記対照細胞は、プロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させる方法。
【請求項22】
請求項14に記載の方法であって、前記接触ステップ(c)は接触ステップ(b)の後で行われる方法。
【請求項23】
請求項14に記載の方法であって、アルツハイマー病の治療に有用であると同定された前記化合物を修飾することにより、非修飾の化合物の安全性および有効性と比較してその安全性および有効性を最適化または改善するステップをさらに含んでなる方法。
【請求項24】
アルツハイマー病の治療に対して有用な、請求項23に記載の方法により同定される修飾された化合物。
【請求項25】
対象におけるアルツハイマー病を治療するための方法であって、治療的に有効な量の請求項24に記載の化合物を、それを必要とする前記対象に投与することを含んでなる方法。
【請求項26】
アルツハイマー病の治療に対して有用な化合物を同定する方法であって、
a)非アルツハイマー病の対照細胞をAβ(1-42)と接触させることと;
b)ステップ(a)に由来する前記細胞をブラジキニンと接触させることと;
c)ステップ(b)に由来する前記細胞を試験化合物と接触させることと;
d)アルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定するために、アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの値を測定することとを含んでなる方法。
【請求項27】
対象におけるアルツハイマー病の診断方法であって、前記対象から得られた細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させるステップと、前記対象におけるアルツハイマー病を診断するために、前記細胞における特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比を測定するステップとを含んでなる方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、前記ステップはインビトロ試験を含んでなる方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法であって、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質は相互に配列変異体であり、同じタンパク質のファミリーに属する方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法であって、前記特異的なリン酸化MAPキナーゼタンパク質の比は、リン酸化されたErk1とリン酸化されたErk2との比であり、リン酸化されたErk1の標準化された量をリン酸化されたErk2の標準化された量で割ることにより計算される方法。
【請求項31】
請求項27に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法であって、前記細胞は末梢細胞である方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法であって、前記末梢細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血液細胞および頬粘膜細胞からなる群より選択される方法。
【請求項34】
請求項27に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液から単離されたものでない方法。
【請求項35】
請求項27に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液を含まない方法。
【請求項36】
請求項27に記載の方法であって、前記細胞は脊椎穿刺または腰椎穿刺により得られたものでない方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、血清を含んでなる培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項38】
請求項27に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、血清を含まない培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項39】
請求項27に記載の方法であって、前記リン酸化MAPキナーゼタンパク質は免疫測定法により検出される方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、前記免疫測定法は、放射線免疫測定法、ウェスタンブロット試験、免疫蛍光測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、化学発光法、免疫組織化学的な方法、免疫電気泳動法、ドットブロット法、またはスロットブロット法である方法。
【請求項41】
請求項27に記載の方法であって、前記測定は、タンパク質アレイ、ペプチドアレイ、またはタンパク質ミクロアレイを用いて行われる方法。
【請求項42】
請求項27に記載の方法であって、請求項1または請求項10の方法を用いてアルツハイマー病の陰性診断を確認することをさらに含んでなる方法。
【請求項43】
請求項27に記載の方法であって、請求項2または請求項11に記載の方法を用いてアルツハイマー病の陽性診断を確認することをさらに含んでなる方法。
【請求項44】
対象においてアルツハイマー病を診断する方法であって、
a)前記対象に由来する細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させるステップと;
b)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定するステップであって、前記リン酸化された第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は前記接触ステップの後に前記細胞から得られるステップと;
c)ステップ(a)の薬剤と接触させていない前記対象に由来する細胞において、リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定するステップと;
d)ステップ(c)において得られた比をステップ(b)において得られた比から減算することと;
e)ステップ(d)において計算された差に基づいて前記対象におけるアルツハイマー病の存在を診断することとを含んでなる方法。
【請求項45】
請求項44に記載の方法であって、ステップ(d)において得られた差は、前記差が正の値である場合に前記対象におけるアルツハイマー病の診断となる方法。
【請求項46】
請求項44に記載の方法であって、ステップ(d)において得られた差は、前記差が負の値または0である場合に前記対象におけるアルツハイマー病の非存在を示す方法。
【請求項47】
請求項44に記載の方法であって、前記ステップはインビトロ試験を含んでなる方法。
【請求項48】
請求項44に記載の方法であって、前記第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は相互に配列変異体である方法。
【請求項49】
請求項44に記載の方法であって、前記第1のMAPキナーゼタンパク質はErk1であり、前記第2のMAPキナーゼタンパク質はErk2である方法。
【請求項50】
請求項44に記載の方法であって、前記比は、リン酸化されたErk1の標準化された量をリン酸化されたErk2の標準化された量で割ることにより計算される方法。
【請求項51】
請求項44に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される方法。
【請求項52】
請求項44に記載の方法であって、前記細胞は末梢細胞である方法。
【請求項53】
請求項52に記載の方法であって、前記末梢細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血液細胞および頬粘膜細胞からなる群より選択される方法。
【請求項54】
請求項44に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液から単離されたものでない方法。
【請求項55】
請求項44に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液を含まない方法。
【請求項56】
請求項44に記載の方法であって、前記細胞は脊椎穿刺または腰椎穿刺により得られたものでない方法。
【請求項57】
請求項44に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は血清を含んでなる培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項58】
請求項44に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は血清を含まない培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項59】
請求項44に記載の方法であって、前記リン酸化MAPキナーゼタンパク質は免疫測定法により検出される方法。
【請求項60】
請求項59に記載の方法であって、前記免疫測定法は、放射線免疫測定法、ウェスタンブロット試験、免疫蛍光測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、化学発光法、免疫組織化学的な方法、免疫電気泳動法、ドットブロット法、またはスロットブロット法である方法。
【請求項61】
請求項44に記載の方法であって、前記測定は、タンパク質アレイ、ペプチドアレイ、またはタンパク質ミクロアレイを用いて行われる方法。
【請求項62】
請求項44に記載の方法であって、請求項1または請求項10に記載の方法を用いてアルツハイマー病の陰性診断を確認することをさらに含んでなる方法。
【請求項63】
請求項44に記載の方法であって、請求項2または請求項11に記載の方法を用いてアルツハイマー病の陽性診断を確認することをさらに含んでなる方法。
【請求項64】
対象においてアルツハイマー病の存在または非存在を診断するためのキットであって、
a)プロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と;
b)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体と;
c)リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体とを含んでなるキット。
【請求項65】
請求項64に記載のキットであって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択されるキット。
【請求項66】
請求項64に記載のキットであって、前記第1のMAPキナーゼタンパク質および前記第2のMAPキナーゼタンパク質は相互に配列変異体であるキット。
【請求項67】
請求項64に記載のキットであって、前記第1のMAPキナーゼタンパク質はErk1であり、前記第2のMAPキナーゼタンパク質はErk2であるキット。
【請求項68】
請求項64に記載のキットであって、前記リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体は抗ホスホErk1抗体であるキット。
【請求項69】
請求項64に記載のキットであって、前記リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体は抗ホスホErk2抗体であるキット。
【請求項70】
請求項64に記載のキットであって、アミロイドβペプチドをさらに含んでなるキット。
【請求項71】
請求項70に記載のキットであって、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)であるキット。
【請求項72】
対象においてアルツハイマー病の存在または非存在を診断するためのキットであって、
a)アミロイドβペプチド;
b)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体;および
c)リン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質に対して特異的な抗体を含んでなるキット。
【請求項73】
請求項72に記載のキットであって、前記アミロイドβペプチドはAβ(1-42)であるキット。
【請求項74】
アルツハイマー病の治療に有用な試験化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)アルツハイマー病であると診断された対象から単離した細胞をプロテインキナーゼC活性化因子である薬剤と接触させるステップであって、前記接触は試験化合物の存在下で行われるステップと;
b)リン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定するステップであって、前記リン酸化された第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は、前記ステップ(a)における接触の後に前記細胞から得られるステップと;
c)ステップ(a)の試験化合物と接触させていない対象に由来する細胞においてリン酸化された第1のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第2のMAPキナーゼタンパク質との比を測定することと;
d)ステップ(b)において得られる比からステップ(c)において得られる比を減算することと;
e)ステップ(d)において計算された差に基づいて、アルツハイマー病の治療に対して有用な試験化合物を同定することを含んでなる方法。
【請求項75】
請求項74に記載の方法であって、ステップ(d)において計算される差は、前記差が負の値または0である場合にアルツハイマー病の治療に対して有用な試験化合物の指標となる方法。
【請求項76】
請求項74に記載の方法であって、前記ステップはインビトロ試験を含んでなる方法。
【請求項77】
請求項74に記載の方法であって、前記第1および第2のMAPキナーゼタンパク質は相互に配列変異体である方法。
【請求項78】
請求項74に記載の方法であって、前記第1のMAPキナーゼタンパク質はErk1であり、前記第2のMAPキナーゼタンパク質はErk2である方法。
【請求項79】
請求項74に記載の方法であって、前記比は、リン酸化されたErk1の標準化された量をリン酸化されたErk2の標準化された量で割ることにより計算される方法。
【請求項80】
請求項74に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は、ブラジキニン、ブリオスタチン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンからなる群より選択される方法。
【請求項81】
請求項74に記載の方法であって、前記細胞は末梢細胞である方法。
【請求項82】
請求項74に記載の方法であって、前記末梢細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血液細胞および頬粘膜細胞からなる群より選択される方法。
【請求項83】
請求項74に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液から単離されたものでない方法。
【請求項84】
請求項74に記載の方法であって、前記細胞は脳脊髄液を含まない方法。
【請求項85】
請求項74に記載の方法であって、前記細胞は脊椎穿刺または腰椎穿刺により得られたものでない方法。
【請求項86】
請求項74に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は血清を含んでなる培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項87】
請求項74に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC活性化因子は血清を含まない培地において前記細胞と接触させる方法。
【請求項88】
請求項74に記載の方法であって、前記リン酸化MAPキナーゼタンパク質は免疫測定法により検出される方法。
【請求項89】
請求項88に記載の方法であって、前記免疫測定法は、放射線免疫測定法、ウェスタンブロット試験、免疫蛍光測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、化学発光法、免疫組織化学的な方法、免疫電気泳動法、ドットブロット法、またはスロットブロット法である方法。
【請求項90】
請求項74に記載の方法であって、前記測定は、タンパク質アレイ、ペプチドアレイ、またはタンパク質ミクロアレイを用いて行われる方法。
【請求項91】
アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを測定することを含んでなる、対象においてアルツハイマー病の進行をモニタリングする方法。
【請求項92】
請求項91に記載の方法であって、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーを1より多い時間点で測定することをさらに含んでなる方法。
【請求項93】
請求項91に記載の方法であって、前記アルツハイマー病に特異的な分子生物マーカーの数値における減少が前記対象におけるアルツハイマー病の進行の指標となる方法。
【請求項94】
請求項74に記載の方法により同定された化合物を含んでなるアルツハイマー病の治療に有用な組成物。
【請求項95】
請求項74に記載の方法により同定された化合物の治療的に有効な量を含んでなる、それを必要とする対象においてアルツハイマー病を治療するための医薬組成物。
【請求項96】
請求項95に記載の医薬組成物の治療的に有効な量をそれを必要とする対象に投与することを含んでなる、アルツハイマー病の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−511905(P2009−511905A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535546(P2008−535546)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/037186
【国際公開番号】WO2007/047029
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】