説明

アルテミアシストを処理する方法

シスト、特にアルテミアシストを、該シストの一部が孵化し自由遊泳生餌有機体を放出するように孵化媒体内で孵化する。その後、自由遊泳生餌有機体を未孵化のシストから分離する。シストを孵化する前に、磁性粒子をシストに付与して、該シストを特に液体孵化媒体内で磁気的に引き漬け得るようにする。これは、磁性粒子で被覆した未孵化のシストおよび空のシスト殻を、外表面に付与した磁性粒子を有しない自由遊泳生餌有機体から有効に分離することを可能にする。本発明はまた、被覆シストにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シスト、特に液体孵化媒体中で孵化して生餌有機体、特にアルテミアノープリウスを生産することを目的としたアルテミアシストを処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚および甲殻類幼生用の生餌としてのアルテミアノープリウスの生産は、海洋孵化場における基本的な操業であると考えられる。アルテミアノープリウスの生産工程は、普通孵化、分離、濃縮、洗浄および収集を含む一方、篩または濃縮器/洗浄器が通常アルテミアノープリウスを収集および洗浄するのに必要である。濃縮器は、実際にはフィルタであり、これを用いて廃水をノープリウスから分離し、孵化後のノープリウスからの余分な水を分配または貯蔵に適した最終堆積まで除去し、また濃縮後にノープリウス上の油性コーティングを洗浄する。
【0003】
孵化後、アルテミアノープリウスを未孵化のシストおよび空のシスト殻から分離する必要がある。その理由は、これらシストおよび殻が幼生のタンクに大きな問題を生じ得るからである。実際、これらを捕食者が摂取する時、これらを消化することができず、消化管を傷害し得るため、幼魚または他の捕食者が死ぬ可能性がある。多くの孵化場において、散気管を孵化タンクから除去することにより分離を達成し、孵化タンク中の異なる対象物(アルテミアノープリウス、充実シストおよび空のシスト殻)を分離することを可能にする。アルテミアノープリウスは、孵化タンク内を自由に泳ぎ、孵化円錐体の先端において光(アルテミアノープリウスは光源に引き寄せられる)を用いて底に集めることができる。一方、空のシスト殻は浮遊する傾向があり、また充実した未孵化のアルテミアシストは沈下する傾向がある。これら後者の対象物は、孵化したノープリウスを収集した後アルテミアノープリウスの品質に干渉し得る。多数のシスト(充実または空)が孵化したアルテミアノープリウスから見つかった場合、これらシストをアルテミアノープリウスから除去するために追加の分離工程を必要とする。一般に、篩を用いて篩上にシストを集めることで、アルテミアノープリウスからシストを除去する。篩は、ノープリウスが篩を通過することができ、またシストのような対象物が篩上に集まるよう選択される。全体的には、篩のメッシュサイズが約212μmである。その後、ノープリウスそれ自身をさらに微細な篩上に集める。一般に、二重の篩別法を用い、第1篩が未孵化のシストを保持し、第2篩がノープリウスを保持する。この二重の篩別法に基づく分離処理は、繊細で時間のかかる処理である。
【0004】
孵化タンクの先端における濃縮したアルテミア中のシスト/アルテミアノープリウスの比率に応じて、このフィルタリング工程を効率的または非効率的に実施することができる。シストがより多く存在すると、フィルタリングスクリーンがより速く目詰まりする。かかる目詰まりは、流速を低下するだけでなく、ノープリウスの損傷リスクを増大するため、孵化/分離処理の主な問題とされてきた。目詰まりを防ぐため、濾過中にフィルタリングスクリーン上の粒子を効果的に除去しなくてはならない。実際、ウォータージェットを用いて、ノープリウスに吹き付けてフィルタを通す。孵化タンクの通気を通常停止して空のシスト殻が孵化タンクにおいて上昇し且つノープリウスが底部に濃縮し得るようにするため、実際には、フィルタリング工程をかなり急速に実施すべきである。酸素欠乏による死滅を防ぐため、ノープリウスを円錐形の容器の先端に長時間沈殿させることはできない。
【0005】
未孵化のシストをノープリウスから分離しなければならない問題を解決するために孵化場に用いる解決策の1つは、アルテミアシストを皮膜剥離することである。シストの皮膜剥離(シスト殻外層のアルテミア胚種からの除去)は、70年代に発達した周知の化学処理である。古典的な皮膜剥離方法は、限られた期間、NaOH(高いpHを維持するため)を添加してシスト殻(卵膜)をNaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)で所定期間溶解することからなる。シスト外層が酸化反応により溶解する。発熱反応が終了すると同時に、脱殻シストをNaで直ちに中和して胚種を酸化反応から保護する必要がある。皮膜剥離処理を適切に実行した場合、胚種の生存力が影響を受けることは無く、ノープリウスに孵化または貯蔵のため脱水することができる。シストの皮膜剥離は、空のシスト殻および未孵化のシストの分離の必要性を排除する。しかし、未孵化の皮膜剥離したシストは、魚またはシュリンプの幼生タンク内において速やかに沈殿し、培養液を分解および劣化させ、細菌感染および疾病を生じ得る。
【0006】
多くの孵化場がこの処理を適用するが、かかる皮膜剥離処理の主な欠点は、廃水が非常に高水準の毒性産物を含み、浄化が非常に困難なことである。例えば、廃水は高水準のCOD、ClおよびAOXを含み得る。今日では、このような化学物質の処理で生ずる環境問題によりこの処理を大規模に行うことはできない。他の欠点は、皮膜剥離処理が非常に大きな労力を要求し、さらに正確に実施する必要があることで、その理由はシストの生存力が影響を受ける場合があるからである。発熱反応のため、皮膜剥離媒体を冷却しなければならず、皮膜剥離処理を良い時に正確に停止して胚種自体の酸化反応を防止すべきである(非特許文献1(SRAC Publication No. 702 of Oct. 2000 “Artemia Production for Marine Larval Fish Culture” by Granvil D. Treece)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3676337号明細書
【特許文献2】国際公開第04/057952号明細書
【特許文献3】米国特許第4329241号明細書
【特許文献4】米国特許第4906382号明細書
【特許文献5】米国特許第5240626号明細書
【特許文献6】米国特許第6120856号明細書
【特許文献7】米国特許第6277298号明細書
【特許文献8】米国特許第6068785号明細書
【特許文献9】国際公開第91/02083号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】SRAC Publication No. 702 of Oct. 2000 “Artemia Production for Marine Larval Fish Culture” by Granvil D. Treece
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、未孵化のシストと、任意には空のシスト殻とを自由遊泳生餌有機体、特にアルテミアノープリウスから、該自由遊泳生餌有機体の損傷または死滅のリスクを抑えた状態で有効に分離し得る新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明による方法は、特に前記液体孵化媒体中で磁性粒子をシストに付与して該シストを磁気的に引き付ける工程を備えることを特徴とする。
【0011】
磁性粒子がシスト上に存在するが、シストから孵化し自由遊泳生餌有機体上に存在しないことにより、前記シストを磁気的に引き付けることができ、その結果生餌有機体を損傷することなく該有機体から有効に分離することができる。例えば、孵化媒体に磁石を適用することで未孵化のシストおよび空のシスト殻を引き付け、これらを孵化媒体から除去することができ、この場合孵化タンクからシストおよびシスト殻が付着した磁石を除去するか、または磁石をタンク内で保持しながら孵化タンクから自由遊泳生餌有機体を有する孵化媒体を除去することによるいずれかである。後者の場合、磁石をタンクの壁の中または壁に付与することができるので、未孵化のシストおよび空のシスト殻がタンクの壁に付着する。代わりにまたはさらに、未孵化のシストおよびあらゆる空のシスト殻を引き留める磁石を含む分離装置、特に流入装置を介して孵化媒体を孵化工程後に誘導することもできる。
【0012】
磁性粒子という用語は、磁石により引き付け得る粒子のことを意味する。従って、該粒子を強磁性、フェリ磁性または(強力な)常磁性材料から作成することができる。強磁性またはフェリ磁性からなる粒子を磁化する、つまり小さな磁石に変換することができる。この場合、磁石を用いてシストまたはシスト殻を引き寄せるのが好ましいが、磁石を非磁化の磁性材料により置換することができる。
【0013】
本発明による方法の好適な実施形態において、磁性粒子を懸濁液の形態、特に水性懸濁液の形態でシスト上に、好適にはシストの表面が乾燥している際に付与するので、これらは自由に流動する。他の実施形態において、磁性粒子を粉末の形態でシスト上に付与する。本明細書における用語「自由流動」は、シストが一緒に小さな凝集塊にならず、紙片から容易に注入することができる個々の物として存在することを意味する。
【0014】
磁性粒子に対するいかなる接着剤または接着剤コーティングなしで、磁性粒子がシストに十分被着し、被着したまま孵化媒体中に留まるので、シストおよび空のシスト殻を孵化後自由遊泳生餌有機体から磁力により分離することができることを見出した。接着剤を用いないことの利点は、シストが互いに凝集するのを防止することが一層容易になることである。しかし、このことは、本発明による方法において接着剤を用いる可能性を除外するものではない。例えば、シストを孵化媒体に導入した際に溶解するCMC(カルボキシメチルセルロース)のような接着剤を用いることができる。
【0015】
本発明による方法のさらに好適な実施形態において、シスト上に付与する前の磁性粒子の少なくとも90重量%が10μm未満、好ましくは5μm未満、さらに好ましくは1μm未満、最も好適には0.5μm未満のサイズを有する。
【0016】
この実施形態の利点は、かかる小さな粒子が大きな粒子よりもシストにより被着することである。一度シストを被覆すると、磁性粒子がシスト上により大きな沈積物(結晶)を形成することができ、これは特に部分的に磁性粒子間の磁気吸引力によるものである。
【0017】
本発明はまた、本発明による方法で得ることができるシスト、特にアルテミアシストに関する。これらシストは、その外表面に付与した磁性粒子を有することを特徴とする。
【0018】
最後に、本発明はまた、本発明に係るシストから出発して自由遊泳生餌有機体を製造する方法に関し、ここでシストの一部が孵化し自由遊泳性の生餌有機体を放出するように前記シストを孵化媒体中で孵化し、また自由遊泳生餌有機体を未孵化のシストおよび空のシスト殻から分離する。本発明によれば、外表面に付与した磁性粒子を有する未孵化のシストを、孵化工程後外表面に付与した磁性粒子を有さない自由遊泳生餌有機体から磁力により分離する。
本発明の他の詳細および利点は、以下の、本発明による方法およびシストにおける特定の実施形態の説明から明白となるであろう。この説明に用いる参照番号は、添付の図面に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】磁石を有するシスト除去装置を配してシストの孵化後未孵化のシストを生成したノープリウスから分離する孵化タンクの概略図である。
【図2】孵化工程後に孵化媒体を導入することにより未孵化のシストをノープリウスから磁気的に分離し得る流入装置の実施形態における大縮尺図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、未孵化のシストと、また任意には空のシスト殻とをシストから孵化した自由遊泳生餌有機体から分離する新しく有利な方法を提供することを意図とする。シストは、特にアルテミアシストであるが、本発明を他種のシストにも適用することができる。シストという用語は、比較的速やか(1日または数日内)に孵化し得る外殻に封入された胚種を包含するだけではなく、胚種が孵化し得る前になお成長すべき卵も包含する。したがって、本発明は、例えばワムシ、淡水アルテミア等のような他の水生生物のシスト(卵)にも適用することができる。しかし、本発明の主な適用はアルテミアシストであるため、さらなる説明は、このようなアルテミアシストおよびアルテミアシストから孵化した自由遊泳ノープリウスに関してのみ行う。
【0021】
アルテミアシストは、五大陸に広く点在する過塩性の湖の汀線、沿岸礁湖および太陽熱を利用する製塩所において大量に入手可能である。収集の後、シストを洗浄し、ブライン液に数ヶ月間保存する。その後、処理(淡水で洗浄/すすぎ)した後、15重量%以下の含水量まで乾燥する。海水中で孵化すると、これらシストは、栄養価の高い生餌資源として直接供給し得る自由遊泳性ノープリウスを多くの海洋生物の幼生並びに水産養殖用に入手可能な、最も便利で最小の労働集約性の生餌である淡水生物に放出する。
【0022】
アルテミアシストを孵化するのに使用し得る容器1の例を図1に示す。実際、最良の孵化効果が、円錐体底部3を形成する壁2を有し、且つ底部から通気する容器1において達成される。円筒形または四角い底部のタンクは、アルテミアシストおよびノープリウスが集積し且つ酸素欠乏に苦しむデッドスポットを有する。透明または半透明の容器は、特に収集の時、孵化懸濁液の検査を容易にする。さらに、容器1は、円錐体の底部に位置して収集に先立ちノープリウスを底部に引き寄せる少なくとも1つの光源4を備えることができる。
【0023】
容器1におけるシストの孵化後、通気を停止するので、未孵化のシストのほとんどが底部3上に沈殿し、空のシスト殻のほとんどが孵化媒体の表面上に浮遊する。容器1の底部に出口5を備えるので、自由遊泳ノープリウスを含む孵化媒体を篩上に取り出すことができる。未孵化のシストが孵化媒体から篩い分けられるのを回避するため、または孵化媒体から篩別されるべき未孵化のシストの量を減少するため、現在は磁性分離方法を用いる。
【0024】
本発明によれば、孵化媒体に導入したシストは、その外表面に磁性粒子を備える。このように、未孵化のシストおよび空のシスト殻を、磁力によりシストから孵化し、磁性粒子を含まない自由遊泳ノープリウスから分離することができる。この分離を異なる方法で実行することができる。
【0025】
孵化工程後、1つ以上の磁石7を備えるシスト除去装置6を孵化媒体内に入れることができるので、未孵化のシストおよび空のシスト殻をこの装置6により引き寄せ、磁石7に貼着する。容器の底部に位置する未孵化のシストも除去し得るようにするため、孵化媒体を容器の底部から頂部に循環することができる。これにより、未孵化のシストがシスト篩上に到達するのが少ないので、磁気分離が十分に効率的である場合、もはや孵化媒体からあらゆる未孵化のシストを篩い分ける必要はない。
【0026】
シスト除去装置6を孵化媒体内に入れる代わりに、又はそれに加えて、孵化容器1の壁、特にその円錐体の底部3に1つ以上の磁石8を設けることも可能である。このようにして、出口5を介して容器1を空にする際、未孵化のシストおよび空のシスト殻か磁石8の位置で容器1の壁に貼着する。
【0027】
孵化媒体内でのシストの孵化の間、好適にはシストを孵化媒体中でそこに吹き込む空気でより均一に分布するように磁石8を除去する必要がある。磁石8が永久磁石ではなく電磁石8である場合、磁石の除去の代わりに電流を中断することができる。孵化媒体内に入れるシスト除去装置6の磁石7も電磁石とし得るが、電気的障害を低減するためには永久磁石であるのが好ましい。
【0028】
未孵化のシストを孵化容器それ自体において磁気的に分離する代わりに、またはこれに加えて、未孵化のシストおよび空のシスト殻を流入装置においてノープリウスから分離することができ、ここで孵化媒体を少なくとも1つの磁石に沿って誘導するので、未孵化のシストおよび空のシスト殻が磁石に貼着する一方、ノープリウスが磁石に引き寄せられずに通過する。かかる流入装置の一例を図2に概略的に示す。これは、入口10および出口11を有する細長いチャンバ9を備える。細長いチャンバ9に磁性グレードステンレス鋼の鋼綿12(または他の耐腐食性強磁性綿)を満たし、且つ電気コイル13を周設するので、磁界を細長いチャンバ9内に発生することができる。従って、鋼綿12が磁性粒子を有する未孵化のシストまたは空のシスト殻を引き寄せる磁石を形成するようにこれを磁化することができる。綿綿12の広い表面積により、未孵化のシストまたは空のシスト殻を保持する広い表面を得ることができるため、流入装置を全くコンパクトにすることができる。このような磁性分離装置についてのさらなる詳細を特許文献1(米国特許第3676337号)において見出すことができ、ここに参照して援用する。
【0029】
上述したように、本発明の重要な特徴は、シストの外表面に磁性粒子を付与することにある。本発明は、シスト上に磁性粒子を付与することにより、未孵化のシストおよび空のシスト殻を生成したノープリウスから効率的に分離することができるだけでなく、重要なことには、シストを必要量の磁性粒子で費用が効果的な方法により被覆することもできることにある。
【0030】
磁性粒子を粉末の形態でシスト上に塗布することができる。この場合、シストは、好適には粉末を塗布する際に湿潤面(自由流動ではない)を有するので、磁性粒子がシストにより良好に被着する。特にシストをブライン液外に除去した後で、これらを乾燥する前に、粉末をシストに塗布することができるので、これらは依然湿潤面を有する。このようにして、シストを一度だけ、特に25重量%未満の含水量、好適には20重量%未満の含水量、さらに好適には15重量%未満の含水量まで乾燥する必要がある。
【0031】
液状懸濁液を一層容易に塗布することができるため、磁性粒子を液状懸濁液の形態でシストに塗布するのが好ましい。磁性粒子を有機溶媒中で、例えば植物油またはエタノールに懸濁することができるが、水性媒体に懸濁して水性懸濁液とするのが好ましい。この懸濁液を湿潤シストに上述した含水量まで乾燥する前に塗布する、特に上述したように噴霧することができるか、または乾燥した自由流動シスト上に噴霧することができる。水性懸濁液を用いる場合、乾燥したシストの表面は湿潤するが、水は乾燥したシストにより速やかに吸収されるため、シストを攪拌すると、これらが再度速やかに自由流動する。シストが十分乾燥しており、十分に少量の水性懸濁液を用いた場合、処理したシストの含水量(内部)は、25重量%以下、好適には20重量%以下、または15重量%以下に留めることができる。しかし、水性懸濁液を塗布した後、シストを再び乾燥してこのような低含水量を達成することができる。このような低含水量の利点は、磁性粒子を塗布した後で通常通りシストを使用前まで包装し、数ヶ月間保管することにある。シストを再乾燥するさらなる利点は、孵化媒体に導入する前にシストをまず乾燥する際に磁性分離がより効果的になるので、磁性粒子が明らかにシストにより強固に被着することにある。
【0032】
予め形成した磁性粒子をシストに塗布する代わりに、磁性粒子を現場でシスト上に、例えばコーティングの形態で形成することができる。磁性材料のコーティングはまた、本明細書および特許請求の範囲において、シスト上に塗布した磁性粒子とすることもでき、コーティングが連続的である場合でも非常に脆く、容易に磁性粒子に破砕し得るため、シストの孵化が可能になる。特許文献2(国際公開第04/057952号)に開示されているように、シストの殻が過マンガン酸塩(特に過マンガン酸カリウム)と反応して二酸化マンガン層をシスト上に形成することができる。特許文献2において、この二酸化マンガン層をその後除去して皮膜剥離したシストを生成するが、本発明によれば、二酸化マンガン層を除去する必要は無く、シストおよびシスト殻を生成したノープリウスから磁気的に分離するのに用いることができる。
【0033】
磁性粒子を、強磁性、フェリ磁性または常磁性の材料から作ることができる。しかし、シストおよびシスト殻をノープリウスから分離するのに必要な磁力を得るためにより小さな磁場を必要とするため、強磁性材料およびフェリ磁性材料が好適である。磁性粒子は、1つ以上の遷移金属の酸化物からなるのが好ましく、特にCrO(酸化クロム(IV))、CoFe(コバルトフェライト)、CuFe(銅フェライト)、DyFe12(ジスプロシウムフェロガーネット)、DyFeO(ジスプロシウムオルトフェライト)、ErFeO(エルビウムオルトフェライト)、FeGd12(ガドリニウムフェロガーネット)、FeHo12(ホルミウム鉄ガーネット)、FeMnNiO(鉄ニッケルマンガン酸化物)、Fe(マグヘマイト)、Fe(マグネタイト)、Fe(ヘマタイト)、FeLaO(ランタンフェライト)、MgFe(マグネシウムフェライト)、FeMnO(マンガンフェライト)、MnO(二酸化マンガン)、NdTi(ネオジムジチタン酸)Al0.2Fe1.8NiO(アルミニウムニッケルフェライト)、FeNi0.5Zn0.5(ニッケル亜鉛フェライト)、FeNi0.4Zn0.6(ニッケル亜鉛フェライト)、FeNi0.8Zn0.2(ニッケル亜鉛フェライト)、NiO(酸化ニッケル(II))、FeNiO(ニッケルフェライト)、Fe12Sm(サーナリウムフェロガーネット)、Ag0.5Fe12La0.519(銀ランタンフェライト)、Fe12(イットリウム鉄ガーネット)、およびFeOY(イットリウムオルトフェライト)からなる群から選択した1つ以上の酸化物からなる。好ましくは、磁性粒子はFe(ヘマタイトまたはマグネマイト)、MnO(二酸化マンガン)またはフェライト、特にFe(マグネタイト)からなる。マグネタイトは、その強力な磁気特性の観点から最適である。
【0034】
シスト上に塗布する前、シストを被覆するのに用いる磁性粒子は、その少なくとも90重量%が10μm未満、好適には5μm未満、さらに好適には1μm未満、最適には0.5μm未満のサイズを有するように小さいことが好ましい。粒子が小さくなるほど、接着剤を用いることなくシストによく被着する。さらに、特に懸濁液を調製するのに安定化剤(界面活性剤)を用いない場合に、小さな粒子ほど安定な懸濁液となる。磁性粒子をシスト上に塗布した後、これらがより大きなサイズを有する場合がある。被覆したシストの顕微鏡的視点によれば、実際に磁性粒子がシストの表面上で互いに凝集して大きな凝集塊/結晶を形成した様子を見ることができる。このことは、大きな結晶を形成するように水を懸濁液から抜いたことによるばかりか、特に磁性粒子が互いに磁気的に引き寄せあい大きな凝集塊/結晶を形成し得ることからも説明することができる。
【0035】
磁性材料の粉末は、該磁性材料を粉砕することにより作成することができる。次いで、この粉末を水と混合して水性懸濁液とすることができる。このような粉砕方法の欠点は、微細粉とするまでに非常に長時間かかることと、粒径が極めて均一でないことである。さらに、非常に小さな粒径を得ることは困難である。
【0036】
実際、強磁性またはフェリ磁性粒子の安定なコロイド懸濁液として規定することができる所謂磁気流体が存在する。特許文献3(米国特許第4329241号)に記載されるように、このような磁気流体は、例えば、粒子がブラウン運動により懸濁液の安定化を許容するに十分小さくなる(大きさがほぼ10nm)までフェライトを灯油またはオレイン酸の存在下で数週間粉砕することにより製造することができる。しかし、このような処理は全く高価である。より安価な方法は、第一鉄および第二鉄の塩の溶液を水酸化ナトリウムまたはアンモニア溶液のようなアルカリ性物質と反応させることによりコロイド性マグネタイトを沈殿させることからなる。粒径は、攪拌することにより調節することができる。攪拌を十分に激しく行う場合、粒径を10nmより小さくすることができる。安定した磁気流体を得るため、懸濁化剤の被覆を磁性粒子に塗布することができる。このような磁性流体を製造する方法は、例えば特許文献3、特許文献4(米国特許第4906382号)、特許文献5(米国特許第5240626号)、特許文献6(米国特許第6120856号)、特許文献7(米国特許第6277298号)、特許文献8(米国特許第6068785号)、および特許文献9(国際公開第91/02083号)に開示されている。
【0037】
本発明による方法においては、このような安定な磁気流体を用いて磁性粒子をシスト上に塗布することができる。しかし、より安価な懸濁液、すなわち、あらゆる分散剤の使用なしに作成し、数分以内で安定しないが沈殿する懸濁液を用いることもできることを見出した。上述したように、第一鉄および第二鉄の塩をアルカリ性条件下水性媒体中で反応させてマグネタイト粒子を形成し、そのサイズを水性媒体の攪拌により調節し得ることによりマグネタイト粒子の懸濁液を容易に製造することができる。この懸濁液を、シスト、特に乾燥シストに噴霧することができる。磁性粒子が界面活性剤、または特許文献9に記載されているような特定の結合物質で被覆されていないにも関わらず、これらはシストに十分に被着することがわかった。従って、本発明による方法は、安価な材料を用いてかつ比較的簡単な方法で実施することができるため、特に低品質(以下に記載の一派名的な分離方法が、磁石の使用なしで測定した高い分離パーセンテージ)のシストを有用な製品に変えることができる。本発明による処理は、実際に、未孵化のシストを生餌有機体として用いるノープリウスから容易に除去することができる。
【0038】
磁性粒子をシスト上にシスト乾燥物g当たり少なくとも0.75、好適には少なくとも1.0、さらに好適には少なくとも1.5、最適には少なくとも2.0mgの量で塗布するのが好ましい。このような分量を用いると、未孵化のシストを磁石によりノープリウスから有効に引き寄せ、その結果分離することができることが試験により示された。シストに塗布する磁性粒子の量は、シスト乾燥物g当たり好適には200未満、さらに好適には100未満、最適には50mg未満である。特に、磁性粒子の量がシスト乾燥物g当たり20未満、特に15mg未満である場合、シストを効果的に引き寄せることができた。
【0039】
塩化第一鉄(FeCl・4HO)および塩化第二鉄(FeCl・6HO)を互いに水酸化ナトリウム(NaOH)の存在下で反応させることにより調製したマグネタイト粒子の水性懸濁液は、飽和溶液を用いた場合、約100g/Lの磁性粒子を含有する懸濁液をもたらすことができる。かかる懸濁液を乾燥シスト上に噴霧および/または混合した場合、直ちにシストに吸収される。従って、シストの含水量が上昇するが、例えば10%から20%の限られた範囲内であるため、シストは依然休止しており保管することができる。長期保管のため、シストを再度乾燥するのが好ましい。磁性粒子を沈殿させ、上澄み液の一部分を除去することにより生成した懸濁液を容易に濃縮することができる。しかし、磁性粒子の濃度を好適には200g/L以下、さらに好適には150g/L以下に維持して、懸濁液をシスト上に容易に噴霧することができる。シストに塗布した懸濁液における磁性粒子の濃度を、好適には5g/L以上、さらに好適には10g/L以上、最適には20g/L以上とすることで、処理したシストの含水量の上昇を制限する。
【実施例】
【0040】
実験に用いるすべての試薬および化学薬品は、分析用であり、Sigma Aldrich社(ベルギー)から入手した。攪拌しながら塩化第一鉄四水和物(FeCl・4HO)、塩化第二鉄六水和物(FeCl・6HO)、水酸化ナトリウム(NaOH)および水を1:2:2:10の割合で混合することによりマグネタイト懸濁液(MS)を調製した。この混合物は、懸濁したFeナノ粒子の形成をもたらす。この調製物はおよそ0.1gFe/mLを包含する。
【0041】
シスト上に塗布する前に、マグネタイト粉末(酸化鉄(II、III)、Sigma Aldrich社、粒子<5μm)(MP)を水中で懸濁した。
【0042】
本発明の方法によりマグネタイト粒子を被覆するために、種々の濃度の様々な塗料(MSおよびMP)の5mLアリコートを、50gの異なるタイプのシスト(シストの含水率が±10%)と混合する。肯定的な被覆結果は、シストの目視検査から明白である。
【0043】
1リットルの円錐体を用い、ここでアルテミアシスト2gを人口海水(25g/L)内で好適には(しかし限定しない)24時間孵化する。円錐体内の水温を30℃付近で一定に維持し、水を常に通気し、光を当てた。シストが十分被覆されたかを判断するのに用いる判定基準は、シスト、シスト殻、傘および孵化したノープリウスの全量に対するシストおよびシスト殻の量を画定することである。さらにここでは、この数を「分離パーセンテージ」として示す。
【0044】
分離パーセンテージを決定するため、磁石を1Lの円錐体内の孵化媒体に円錐体の底部からおよそ5cm(=20〜30mL標線)の距離で懸濁した。通気を停止し、通気管を除去する。30秒後、アルテミアノープリウス、傘、未孵化のシストおよび空のシスト殻を含有する孵化媒体30mLを収集し、孵化円錐体の底部に設けたサイホンを用いて再度孵化円錐体に移送する。磁性粒子を磁石に収集して2分後、サイホンを用いてさらに200mLの孵化媒体を除去し、新たな容器に移送する。その後、800mLの人口海水を新たな円錐体に加えて容積を1リットルまで増加する。試料を採取して分離パーセンテージを測定する。
【0045】
分離パーセンテージに対するMSおよびMPの投与量効果を表1および2に示す。異なる投与量のマグネタイトを、MSまたはMP溶液として本発明の方法に従ってバッチ1(表1)およびバッチ2(表2)のシストに被覆する。各処理を三回評価し、処理結果を三回の平均とする。この例において、表1から明らかなように、シスト乾燥重量g当たり4.5mgFeのMSでのバッチ1のシストの被覆は、4%の最低分離パーセンテージを示し、未処理のシストの分離パーセンテージは22%であった。
【0046】
さらに重要なことには、1.5mgFe/gシストの濃度で、分離パーセンテージが既に14%相当まで低下する。3mgFe/gシストの濃度では、分離パーセンテージが7%未満であること明白で、大量のMSを導入した場合に7%を維持する。さらに重要なことには、MSを用いてシストを被覆するための4.5mgFe/gシスト乾燥重量を超える濃度では、分離パーセンテージがもはや低下しなかった。
【0047】
MPの場合、22%から始まり最低8%と分離パーセンテージに明白な改善が見られた。バッチ1に対し、シストを7.8mgFe/gシスト乾燥重量で被覆した場合、8%の最低分離パーセンテージに達した。さらに重要なことには、4.4mgFe/gシストの濃度では、分離パーセンテージが既に15%相当まで低下する。バッチ2に対し、開始分離パーセンテージは8%〜10%であった。この分離パーセンテージを、MSおよびMPの添加で最低1%〜0%まで改善する。しかし、MPの添加では、多くのマグネタイト粒子がシストに完全に被着されず、孵化の間に孵化媒体に流出した。
【0048】
表3は、MSで被覆したシストの分離パーセンテージに対する被覆シストの乾燥効果を示す。本発明の方法により被覆したバッチ1のシストを当初の含水量10%まで乾燥した。両試料、すなわち乾燥前(含水量20%)および乾燥後(含水量10%)の分離パーセンテージを測定した。明らかに、シストを乾燥することによりFeで被覆したシストの分離パーセンテージを改善することができた。Feで被覆しその後乾燥したシストが、未乾燥の被覆シストと比較して孵化媒体に懸濁した磁石により急速に引き寄せられることが注目される。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シスト、特にアルテミアシストを液体孵化媒体中で孵化して生餌有機体を産出するように処理するに当たり、前記シストに磁性粒子を付与して、特に前記液体孵化媒体中で前記シストを磁気的に引き付ける工程を供えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁性粒子を液体懸濁液の形態、特に水生懸濁液の形態で、好適には前記シストが自由に流動するような乾燥表面を有する際に前記シストに付与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記磁性粒子を粉末の形態で前記シストに付与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記磁性粒子を前記シストに付与した後、該シストが25重量%未満、好適には20重量%未満の含水量を有するか、または25重量%未満、好適には20重量%未満、さらに好適には15重量%未満の含水量まで乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記シストに塗布する前に、前記磁性粒子の少なくとも90重量%が10μm未満、好適には5μm未満、さらに好適には1μm未満、最適には0.5μm未満のサイズを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記磁性粒子が強磁性、フェリ磁性または常磁性材料を含み、該磁性粒子が好ましくは1つ以上の遷移金属の酸化物、特にFe(ヘマタイトまたはマグネマイト)、MnO(二酸化マンガン)またはフェライト、特にFe(マグネタイト)からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法により得ることができるシスト、特にアルテミアシストであって、外表面に付与した磁性粒子を有することを特徴とするシスト。
【請求項8】
前記シストが、前記磁性粒子をシスト乾燥物g当たり少なくとも0.75、好適には少なくとも1.0、さらに好適には少なくとも1.5、最適には少なくとも2.0mgの量で備えることを特徴とする請求項7に記載のシスト。
【請求項9】
前記磁性粒子が強磁性、フェリ磁性または常磁性材料を含み、該磁性粒子が好ましくは1つ以上の遷移金属の酸化物、特にFe(ヘマタイトまたはマグネマイト)、MnO(二酸化マンガン)またはフェライト、特にFe(マグネタイト)からなることを特徴とする請求項7に記載のシスト。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載のシストから出発して自由遊泳生餌有機体を製造するに当たり、前記シストの一部が孵化し且つ自由遊泳生餌有機体を放出するように前記シストを孵化媒体内で孵化する工程と、前記自由遊泳生餌有機体を孵化しなかったシストから分離する工程とを備え、
前記孵化工程後、外表面に付与した磁性粒子を有する前記未孵化のシストを、外表面に付与した磁性粒子を有していない前記自由遊泳生餌有機体から磁力により分離することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記シストを孵化容器内で孵化し、ここで少なくとも1つの磁石を配置して前記未孵化のシストを前記自由遊泳生餌有機体から分離することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シストを、少なくとも1つの磁石を備えた壁を有する孵化容器内で孵化して、前記未孵化のシストを前記容器の壁に磁気的に引き付けることを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記孵化工程後、自由遊泳有機体および未孵化のシストを含む前記孵化媒体の少なくとも一部を前記孵化容器から除去し、少なくとも1つの磁石に誘導して、前記自由遊泳生餌有機体が前記磁石を通過する一方、前記未孵化のシストを前記磁石に貼着することを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−511642(P2011−511642A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546316(P2010−546316)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051545
【国際公開番号】WO2009/101095
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(508090103)インヴェ テクノロジーズ エヌヴィ (2)
【Fターム(参考)】