説明

アルミニウムの固化成形方法

【課題】 アルミニウムを溶融したり、焼結することなく、容易にアルミニウムの固化成形物を得ることを可能にするアルミニウムの固化成形方法を提供する。
【解決手段】 容器10内に、アルミニウム材20と水30とを入れて撹拌し、アルミニウムと水とを混合させる工程と、アルミニウムと水との混合物20aを収容した容器10を静置させた状態で、アルミニウムと水との反応工程を経過させ、アルミニウムと水とが反応して生成されたアルミナ水和物を介して一体化した多孔質体からなる固化成形物22を得る固化工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、アルミニウムの溶融工程を必要とせず、省エネルギーかつ低コストにアルミニウム固化成形物を得るためのアルミニウムの固化成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が深刻な問題となっており、その防止のため温室効果ガスの排出量の削減が求められている。その対策として、水素エネルギーのような無公害な新エネルギーの研究開発や自動車の構造材料に軽量な材料を用いることによる性能、燃費の向上といったことが考えられている。
軽量な構造材料の一つとして発泡アルミニウムがある。発泡アルミニウムは、軽量でエネルギー吸収特性に優れるという利点を有し、構造材料として自動車部品や航空機等に利用されている。発泡アルミニウムは、従来、粉末冶金法、鋳造法、化学蒸着法などによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−45655号公報
【特許文献2】特開平3−219001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉末冶金法あるいは鋳造法といった従来の発泡アルミニウムの製造方法では、発泡させるために複雑な装置を必要とし、また、アルミニウムを溶融するために高温に加熱する必要があり、大きなエネルギーが必要であるとともに、生産コストが高く、環境への負荷が大きいという問題がある。
本出願は、アルミニウムを溶融したり、焼結することなく、容易にアルミニウムの固化成形物を得ることを可能にするアルミニウムの固化成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願に係るアルミニウムの固化成形方法は、容器内に、材料となるアルミニウム材と水とを供給し、混合させる工程と、アルミニウムと水との化学反応工程を経過させ、両者の反応の結果として生成されたアルミナ水和物を介して一体化した多孔質体からなる固化成形物を得る固化工程と、を備えることを特徴とする。アルミニウムと水との反応工程において水素が発生する作用により、固化成形物中に比較的大きな空孔が生成されて多孔質体となる。
【0006】
また、前記アルミニウムと水との反応工程を経過させ、多孔質体からなる固化成形物を得る固化工程においては、前記容器を温度制御装置内に収容し、一定温度環境下において処理することによって、効率的に固化成形物を得ることができる。
また、前記アルミニウムと水との反応工程を経過させ、多孔質体からなる固化成形物を得る固化工程においては、前記容器に機械的エネルギーを作用させ、メカノケミカル反応を利用して前記固化成形物を得ることにより、より強度の高い固化成形物を得ることができる。機械的エネルギーとしては、容器に振動を作用させる、圧力を作用させるといった方法がある。
また、前記アルミニウム材と水とを混合させる工程において、アルミニウムに異種材料を加えた混合物を使用し、アルミニウムを主体とした異種材料を含む多孔質体からなる固化成形物を得ることができる。
また、前記アルミニウム材と水とを混合させる工程において、前記アルミニウム材の形状は特に限定されるものではなく、粉末状のほか、粒状やペレット状、繊維状であっても良い。このため、本発明に係る固化形成方法は、工場から廃棄物として排出されるアルミニウムの切削粉などに適用することが可能である。
また、前記固化工程においては、アルミニウムと水とが反応する際に発生する水素を回収することにより、水素の再利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るアルミニウムの固化成形方法によれば、アルミニウムを溶融したりすることなく、容易に多孔質体からなるアルミニウムの固化成形物を得ることができ、また、固化工程の際に発生する水素を回収して利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アルミニウム粉末のSEM像である。
【図2】アルミニウムの固化成形物を作製する工程を示す説明図である。
【図3】アルミニウムの固化成形物の側面写真である。
【図4】アルミニウムの固化成形物の断面写真である。
【図5】アルミニウムの固化成形物の表面のSEM像である。
【図6】アルミニウムの固化成形物の断面のSEM像である。
【図7】アルミニウム粉末と水とが反応する前(a)と、反応した後(b)におけるX線回折パターンである。
【図8】定温乾燥器に容器を静置した後における、容器内の試料の温度変化を測定したグラフである。
【図9】温度制御にウォーターバスを使用した場合の混合工程を示す説明図である。
【図10】温度制御に定温乾燥器と、ウォーターバスを用いた場合とを比較した固化成形物の断面のSEM像である。
【図11】各温度で反応させた固化成形物の概観図である。
【図12】各温度で反応させた固化成形物の断面のSEM像である。
【図13】反応温度と形成された被膜の厚さとの関係を示す相関グラフである。
【図14】荷重を加えて作製した固化成形物の概観図である。
【図15】荷重を加えて作製した固化成形物の断面のSEM像である。
【図16】アルミニウム繊維を材料にして作製した固化成形物の概観図である。
【図17】反応前後のアルミニウム繊維の表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(アルミニウム粉末と純水との反応)
本発明に係るアルミニウムの固化成形方法は、アルミニウムと水との反応によってアルミナ水和物(Al(OH)3)が生成されることに着目し、アルミニウムを加熱したり、焼結したりすることなくアルミニウムの固化成形物を得るものである。
【0010】
純アルミニウムと純水との反応は、次式で表される。
Al+6H2O → 2Al(OH)3 +3H2 (1)
(1)式は、アルミニウムは純水と反応してアルミナ水和物(Al(OH)3)あるいは水酸化アルミニウム(便宜上、以下「アルミナ水和物」という)と水素(H2)とを発生させることを表している。
(1)式に示す反応により、固体のアルミナ水和物と、気体の水素が生成される。生成されるアルミナ水和物は、例として、ベーマイト(アルミナ一水和物)や、バイヤライト(アルミナ三水和物)が考えられ、何が生成されるかは、反応時の温度に依存する。
アルミニウムを純水中に浸漬させると、(1)式の反応により生成されたアルミナ水和物が、アルミニウムの粒子表面に被膜状に析出する。このとき、このアルミニウムの粒子表面で成長したアルミナ水和物が、周辺の粒子との間隙に充填され、各粒子を結びつける役割を果たす。こうして、全ての粒子がアルミナ水和物を介して互いに結び付いた結果として、アルミニウムを固化成形させることが可能になる。
成長する被膜の膜厚は、反応終了時において約0.5μmから5μmであり、どの程度の厚さとなるかは、環境温度に依存する。具体的には、反応時の環境温度が低いほど膜厚は厚くなる傾向がある。反応のための温度範囲は特に限定はないが、各粒子間に十分量のアルミナ水和物が充填され、得られた固化成形物に十分な強度を与えるためには、環境温度は70℃以下が好適であると考えられる。
【0011】
(実施例1)
以下に、アルミニウム粉末を例とした、本発明に係る方法の実施例について詳細に説明する。
固化成形に用いる純アルミニウム粉末として、遠心噴霧法で作製された純度99.7%、粒径63〜75μmの純アルミニウム粉末を使用した。図1は、使用したアルミニウム粉末を走査型電子顕微鏡によって観察したSEM像である。アルミニウム粉末の粒径のばらつきは小さく、アルミニウム粉末の形状が略球形であることがわかる。使用したアルミニウム粉末は、不純物成分としてSi(0.019%)、Fe(0.056%)、Zn(0.002%)、その他(0.0016%)を含む。
【0012】
この純アルミニウム粉末を円筒形の型に入れ、純水を加える。
図2(a)は、容器10にアルミニウム粉末20と水30とを加えた状態を示す。容器10には直径52mm、高さ55mmのポリプロピレン製の容器を使用した。純アルミニウム粉末100gに対し、純水を24g加えて試料とした。容器10にアルミニウム粉末を入れた状態で容器10内におけるアルミニウム粉末の高さは約30mmである。
アルミニウム粉末と純水を撹拌してよくかき混ぜる(アルミニウムと水とを加混合する工程)。撹拌操作により、容器10の底にまで純水が届き、アルミニウム粉末の全体に水が行き渡るようになる。容器10に振動を加えて、水がアルミニウム粉末の全体に均一に行き渡るようにしてもよい。
【0013】
アルミニウム粉末と純水とを撹拌して混合した後、容器10を定温乾燥器に入れて静置する(アルミニウムと水とを混合する工程)。図2(b)は、純アルミニウム粉末と純水との混合物20aを収容した容器10を定温乾燥器に収納して静置した状態を示す。
定温乾燥器内で容器10を静置し、一定時間経過させ、アルミニウム粉末を固化させる(固化工程)。実験では、定温乾燥器の温度を35℃に設定してアルミニウムの粉末を固化させた。この固化工程は、上述した(1)式の化学的反応を経過させてアルミニウム粉末を固化させる工程である。この化学反応はある程度加温することによって促進される。定温乾燥器を使用するのは、アルミニウム粉末を速く固化させるためである。もちろん、容器を加温せず、室温程度の環境温度に設定して固化させることも可能である。
【0014】
図2(c)は、定温乾燥器内で一定時間経過し、容器10内でアルミニウム粉末が固化した状態を示す。容器10の底にアルミニウムの固化成形物22が形成される。固化成形物22の高さは約43mm、重量は約120gであった。
図3は、アルミニウム粉末と水とから得られた固化成形物22の側面写真、図4は断面写真である。図4の断面写真において、縦方向に溝が見えるのは、温度測定用の熱電対を挿入していた痕跡である。容器10は円形(円筒)容器であるため、固化成形物22は円柱体状に成形される(図3)。
【0015】
図3、4は、アルミニウムの固化成形物22が、内部に多くの空孔がある多孔質体として得られることを示す。固化成形物22が多孔質体として得られる理由は、隣り合ったアルミニウム粉末がアルミナ水和物を介して結びつくことによって一体化しているからである。また、比較的大きな空孔は、アルミニウム粉末と水とが反応する際に発生する水素によって形成されたものと考えられる。
【0016】
図5は固化成形物22の表面のSEM像、図6は、固化成形物22の断面のSEM像である。図5に示すように、固化成形物22はアルミニウムの粉体が粒状のまま残り、粒の表面に針状の結晶が析出している。図6はアルミニウムの粒の表面を覆うようにアルミナ水和物が生成され、このアルミナ水和物によってアルミニウムの粒が連結していることを示す。図5の表面に析出している針状の結晶はバイヤライトの結晶である。
図5、6に示すように、アルミニウムの粒の間には隙間が生じており、固化成形物22が多孔質状となっている。
【0017】
図7はアルミニウムの固化成形物に、アルミニウム粉末と水との反応によって生じたアルミナ水和物が存在することを確かめるためにX線回折測定を行った結果を示す。図7(a)は、水と反応させる前のアルミニウム粉末についてのX線回折パターン、図7(b)は、アルミニウム粉末に水を加えて固化成形させた固化成形物についてのX線回折パターンである。
図7(a)に示す回線パターンはアルミニウム単独の回折パターンを示すのに対して、図7(b)に示す回折パターンは、アルミニウムの結晶構造に由来する回折パターンに加えて、バイヤライトの回折パターンが表れている。このことから、アルミニウムの固化成形物にバイヤライトが生成していること、図5、6に示すアルミニウムの粒の表面に析出しているのはバイヤライトであることがわかる。
【0018】
図8は、アルミニウム粉末を用いる固化工程において、定温乾燥器にアルミニウム粉末と水との混合物を収容した容器を静置した後、48時間経過するまでの試料の温度を測定した結果を示す。
試料の温度測定は、容器10の中心位置と、中心から径方向に異なる4つの点について測定した。具体的には、試料の上方から容器10の底の近傍までK型熱電対を差し込んで測定した。
【0019】
図8の測定結果は、定温乾燥器に容器を静置してから約7時間後に、急激に試料の温度が上昇しはじめ、95℃程度まで温度が上昇した後、約10時間後に定温乾燥器内の温度(35℃)にまで低下したことを示す。図8においては、定温乾燥器内の温度についてもあわせて示している。試料の温度プロフィールは、5つの測定点でいずれも同様のプロフィールを示した。
定温乾燥器に容器を静置してから約7時間後に温度が上昇し始めたのは、この時点でアルミニウム粉末と水との反応が開始したこと、温度の急上昇はその反応が急速に連鎖的に生じたことを示す。実際に、容器内の試料の挙動を観察すると、約7時間経過時から容器内の混合物からふつふつと泡状に気体が発生し、容器内で混合物が動く様子が観察された。このときに、(1)式に示す水素が発生したものと考えられる。
【0020】
混合物の温度が上昇した後、混合物の温度が庫内温度にまで降下すると、水素の発生はおさまり、混合物は徐々に固化していく。定温乾燥器に収納した後、およそ24時間程度静置することで、固化成形が完了する。固化成形物は、外観が灰色を呈し、固いブロック体として得られる。
【0021】
本実施形態において、アルミニウム粉末と水との混合物を収容した容器を定温乾燥器に収納して固化成形物を作製したのは、アルミニウムの粉末と水との反応を効率的に生じさせるためで、室温よりも加温した状態で反応させることによって反応を促進させ、より短時間で固化成形物を得ることができる。もちろん、定温乾燥器等の温度制御装置を使用せず、単に、容器を室温環境に静置してアルミニウムの固化成形物を得ることも可能である。
【0022】
(実施例2)
前記実施例では、定温乾燥器の設定温度が35℃であったのに対し、実際の反応時には、95℃程度まで温度が上昇していたことが認められた。このため、より適正な方法で温度を制御することで、実験誤差を小さくするとともに、効率的に反応を進行させることが必要となる。図9は、本発明に係る方法を、温度制御装置として使用した定温乾燥器に代えて、ウォーターバス40を使用した様子を示す。容器10の周辺を水50で覆うことによって、温度をより適正に管理することができ、また、反応途中での急激な温度上昇を抑制し、安全に作業を行うことが可能になる。
【0023】
図10は、上記実施例により得られた固化成形物と、水温を35℃に設定したウォーターバスを用いて得られた固化成形物とを、走査型電子顕微鏡で観察した様子を示す。両者の実験条件は、温度制御装置(定温乾燥器又はウォーターバス)以外は全て同じである。図から、ウォーターバスを使用した方法で得られた固化成形物の方が、アルミナ水和物の被膜が厚く形成されていることが認められる。
【0024】
(実施例3)
前記(1)式の反応時の、環境温度の違いによる固化成形物の性質変化を確認するため、反応時の環境温度を35℃から80℃まで6段階に変化させ、それぞれの温度条件下で得られた固化成形物について肉眼観察および膜厚測定による比較を行った。
【0025】
本実験に使用した容器、アルミニウム粉末は、いずれも実施例に使用した物と同じ種類の物である。容器に、純アルミニウム粉末20gと、純水4.8gとを入れ、攪拌混合した後、水温が35℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃にそれぞれ設定されたウォーターバス中に、容器を浸漬させた状態で24時間静置し、反応を進行させた。
【0026】
図11、12は、各温度条件下で、得られた固化成形物の概観図およびSEM像を示す。図から、全ての温度条件下で、固化成形に成功している様子が認められる。温度が50℃以上における試料については、小片状に破壊されているが、これは、実験終了後の外的作用によるものである。35℃、40℃での試料については、破壊されていないことから、得られた固化成形物が、他の温度条件と比較して、高い耐久性を有していることが認められる。
【0027】
図13は、反応時の環境温度と、得られた固化成形物の粒子間に形成された、アルミナ水和物の被膜の膜厚とをX−Y面上にプロットしたグラフを示す。グラフから、反応時の温度と、被膜の膜厚との関係には、負の相関が認められる。具体的には、反応時の環境温度が上昇するのに伴って、形成される被膜の膜厚は薄くなる傾向にあることが認められる。また、60℃を境にして、膜厚の傾きが変化していることが認められるが、これは、反応が進行している箇所においては、反応熱による温度上昇があるため、これにより局所的に10℃程度の誤差が生じたためだと思われる。つまり、理論上の反応の適正温度の境界が70℃であるところ、実際の反応箇所では、設定温度が60℃のときに、70℃付近にあったものと考えられる。
また、本実験では、反応の速度についても、環境温度と高い相関が認められた。具体的には、反応速度は、環境温度の上昇に同期して上がっていくことが認められた。
【0028】
(実施例4)
上記実施例においては、容器にアルミニウム粉末と水との混合物を収容し、とくに機械的な力を作用させたりすることなく、アルミニウムと水との化学反応を利用してアルミニウムの固化成形物を得た。アルミニウムと水との反応を促進させ、効率的に固化成形物を得る方法として、アルミニウムと水との混合物に機械的エネルギーを作用させて反応させる(メカノケミカル反応)方法も有効である。混合物に機械的エネルギーを作用させる方法としては、アルミニウムと水との混合物を収容した容器に振動を作用させる、容器を密閉して混合物に圧力を作用させるといった方法がある。メカノケミカル反応を利用すれば、より強度の高いアルミニウムの固化成形物を得ることが可能である。
【0029】
メカノケミカル反応を利用した固化成形について、有効性を検証するため、容器に収納された混合物に荷重を加えて、メカノケミカル反応を進行させる実験を行った。使用した容器、アルミニウム粉末は、いずれも上記実施例に使用した物と同じ種類の物である。35℃に設定された定温乾燥器中に、容器を入れた状態で、容器に、純アルミニウム粉末20gと、純水4.8gとを入れ、攪拌混合した後、混合物の上部に板材を置き、板材に対して、上方向から約10kNの荷重を加えて、反応を進行させた。この際、荷重を加えた状態で24時間静置する方法(静的荷重)と、荷重を1時間に2回ずつ24時間繰り返し加え続ける方法(動的荷重)との、二通りの方法によって実験を行った。
【0030】
図14および図15は、上記のメカノケミカル反応を利用した方法により、得られた固化成形物の概観図及び断面のSEM像を示す。静的荷重、動的荷重のいずれの方法についても固化成形に成功していることが認められる。これにより、本発明に係る方法を用いて固化成形物を得る際に、混合物に機械エネルギーを作用させてメカノケミカル反応を利用することが有効であることが認められる。
【0031】
表1は、無負荷で作製した試料と、静的荷重、動的荷重を負荷して作製した試料の密度と相対密度を示す。相対密度は試料の密度を純アルミニウムの密度で除して求めた。表から、無荷重で作製した固化成形物と比較して、荷重(動的、静的)を負荷して作製した固化成形物の方が密度が高くなっていることが認められる。

【0032】
(実施例5)
本発明方法においては、使用するアルミニウムの粉末として、工場等から排出されるアルミニウムの切削粉を利用することも可能である。工場等から排出されるアルミニウムの廃棄物を清浄化した後に、水と反応させることによって、上述したアルミニウムの固化成形物が得られる。このようなアルミニウムの廃棄物を利用する方法は、環境保護の面からも、製造コストの面からも有効であると考えられる。
【0033】
アルミニウム切削粉を材料とした場合における、本発明方法の有効性を検証するため、材料にアルミニウム繊維を用いて、本発明方法によりアルミニウム固化成形物を得る実験を行った。換算直径150μm、長さ10mmの純アルミニウム繊維を純水に浸漬させ、35℃の温度で、24時間保持した。
【0034】
図16は、アルミニウム繊維を材料として本発明により得られた固化成形物の概観図を示す。また、図17は、反応の前後における、アルミニウム繊維の断面のSEM像を示す。図16からは、アルミニウム繊維が塊状に固化している様子が認められる。また、図17からは、アルミニウム繊維表面に新たな結晶が析出している様子が認められる。これは、アルミニウムが、純水と反応して生成された、アルミナ水和物であると考えられる。従って、本発明に係る方法は、材料の形状が繊維状等の場合にも有効なものと認められる。
【0035】
(水素の回収実験)
本発明方法によれば、アルミニウムの固化成形物を得る工程において、アルミナ水和物と同時に水素が生成される。このため、処理工程中で発生する水素を回収することによって、回収した水素を燃料電池等に利用することが可能である。水素回収の検証を行うため、本発明に係る処理工程中の水素回収実験を行った。
【0036】
実験に使用した容器、アルミニウム粉末は、いずれも上記実施例に使用した物と同じ種類の物である。容器中にアルミニウム粉末5gと、純水1.2gとを攪拌混合し、保持温度35℃で24時間保持した。この際に発生した気体について、水上置換法により回収した。その結果、約145mlの気体が回収された。また、この気体について、ガス検知管を用いて調べた結果、水素であることが確認された。
【0037】
上記実施例においては、円形容器を使用して円柱体状の固化成形物を得たが、角形の容器を使用すれば角柱体状の固化成形物を得ることができる。本発明に係るアルミニウムの固化成形方法は、アルミニウム材と水とを混合させてアルミニウムの固化成形物を作製する方法であり、混合物を収容する容器の形状や大きさが限定されるものではない。したがって、アルミニウムと水との混合物を所定形状の型に充填することによって、任意の大きさ、任意の形状のアルミニウムの固化成形物を得ることができる。
【0038】
本発明方法によって得られるアルミニウムの固化成形物は、溶融方法等によって作製したアルミニウム金属からなる多孔質体と比較すると強度は劣るが、簡単には割れない程度の強度を有するブロック体として得られる。したがって、この固化成形物をガス吸着等の吸着材として使用するといったことが可能である。
【0039】
また、本発明に係るアルミニウムの固化成形方法は、アルミニウムと水とを混合するというきわめて簡易な方法によってアルミニウムの固化成形物を得る方法であり、アルミニウム金属を溶融するために高温に加熱するといった処理が不要であり、省エネルギー化を図ったアルミニウムの多孔質体の製造方法として利用できる。
【0040】
また、本実施形態によって得られたアルミニウムの固化成形物は、アルミナ水和物(Al(OH)3)を含有するが、このアルミナ水和物は加熱によって簡単に水を失い、酸化アルミニウムとなる性質がある。アルミナ水和物は200℃〜350℃で激しく加水分解して、66%のAl2O3と34%の結晶水となる。したがって、本方法によって得られたアルミニウムの固化成形物を300℃程度に加熱することによって、アルミナの焼結体(セラミック体)を得ることができる。
【0041】
一般にアルミナの焼結体は、1000℃程度の高温に加熱してはじめて得られる。本発明方法によって得られたアルミニウムの固化成形物を加熱してアルミナの成形体とする方法は、従来のアルミナの焼結体を製造する方法と比較して処理操作が容易であり、エネルギー的にみてもきわめて効率的である。また、本発明方法によれば、アルミニウムの固化成形物を任意の形状、任意の大きさに形成することは容易であるから、所望のセラミック体の形状、大きさに合わせて、あらかじめアルミニウムの固化成形物を作製しておけば、簡単に所望の形状のセラミック体を得ることができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、純アルミニウム粉末と純水を反応させてアルミニウムの固化成形物を得たが、アルミニウム粉末に異種金属や異種材料を加えて固化成形物を製造することも可能である。実験では、純アルミニウム粉末に異種材料として、ハイドロキシアパタイト、チタン粉末、ステンレス粉末、カーボンナノチューブ(VGCF-X)をそれぞれ体積比で1%添加した粉末を使用し、上記方法によって異種材料を含むアルミニウムの固化成形物を得ることができている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明方法によって得られるアルミニウムの固化成形物は、多孔質体として得られることから、簡易な構造材料やガス吸着体として利用でき、固化成形物を加熱してセラミック体として利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 容器
20 アルミニウム粉末
20a 混合物
22 固化成形物
30 純水
40 ウォーターバス
50 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に、アルミニウム材と水とを供給し、混合させる工程と、
アルミニウムと水との反応工程を経過させ、アルミニウムと水とが反応して生成されたアルミナ水和物を介して一体化した多孔質体からなる固化成形物を得る固化工程と、
を備えることを特徴とするアルミニウムの固化成形方法。
【請求項2】
前記固化工程においては、
前記容器を温度制御装置内に収容し、定温環境下において処理することを特徴とする請求項1記載のアルミニウムの固化成形方法。
【請求項3】
前記固化工程においては、
前記容器内に収納されたアルミニウムと水との混合物に機械的エネルギーを作用させ、メカノケミカル反応を利用して前記固化成形物を得ることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウムの固化成形方法。
【請求項4】
前記混合させる工程において、
アルミニウム材に異種材料を加えた材料を使用し、
アルミニウムを主体とし異種材料を含む多孔質体からなる固化成形物を得ることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のアルミニウムの固化成形方法。
【請求項5】
前記固化工程においては、
アルミニウムと水とが反応する際に発生する水素を回収することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のアルミニウムの固化成形方法。

【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−52223(P2012−52223A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162238(P2011−162238)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】