説明

アルミニウム合金製ブレージングシートのろう材およびその設計方法

【課題】ろう材をクラッドした面においてろう付け処理後に高い耐食性が維持され、しかも良好なろう付け性が得られるアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材およびろう材の設計方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金製ブレージングシート10Aのろう材は、少なくともCuを0.2〜1.0質量%含有するアルミニウム合金からなる心材11の少なくとも一方の面12a(12b)に設けられてアルミニウム合金製ブレージングシートを構成するろう材であって、ろう付け温度における液相率X(%)と、ろう材厚さY(μm)とが、(1)30≦X≦80、(2)Y≧25、(3)1000≦X×Y≦24000、の関係を満たし、Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%を含有するアルミニウム合金からなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器等に使用されるアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材およびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車に搭載される熱交換器は、アルミニウム合金からなるブレージングシートを所定形状に成形し、組み立てて、ろう付けされることにより製造されている。例えば、チューブ用のブレージングシートの板厚は、従来は0.3〜0.5mmであったが、近年は熱交換器を軽量化するために、これを0.2mm以下とする薄肉化が進められており、これに伴ってブレージングシートには高強度化と高耐食化が求められている。
【0003】
また、熱交換器のフィン材に関しては、ろう材をクラッドしないフィン(以下「ベアフィン」という)の使用によってさらなる軽量化が可能であるが、このベアフィンに対して用いるチューブ材は、ベアフィンとの接合面にろう材をクラッドする構成となるために、十分な耐食性を得ることができなくなる。
【0004】
そこで、ろう材をクラッドした面のろう付け処理後の耐食性を向上させたブレージングシートとして、Al−Mn−Cu合金からなる心材に、Znを含有するAl−Si系合金からなるろう材を積層し、ろう付け後表面に犠牲防食作用を付与したブレージングシート及びその製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された技術では、ろう付け処理の際にろう材から心材へZnを拡散させ、ろう付け後表面の電位を卑化することによって犠牲防食作用を付与し、耐食性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3360026号公報(段落[0007],[0019]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、Znの拡散の結果として、ろう付け後表面に残留するZnは少量であるため、ろう付け後表面と板材中央部(ろう付け後のブレージングシートの厚さ方向の中央部を指す。以下同様とする)との間に十分な電位差を付与することは困難である。
【0007】
また、ろう付け処理の際に心材に含まれるCuがろう材面側に拡散し、こうしてろう材面側に拡散したCuは、ろう付け処理の冷却過程においてろう付け後表面に濃縮層を形成する。これにより、ろう付け後表面側の電位が貴化するため、ろう付け後表面と板材中央部との間に十分な電位差を生じさせることができない。その結果、十分な犠牲防食作用が得られず、厳しい腐食環境にさらされた場合には、早期に貫通孔が形成されてしまうおそれがある。
【0008】
さらに、ろう付け処理の際に生成する流動ろうは多量のZnを含有しているために、ろう付け部(フィレット)が優先腐食を起こしやすく、例えば、ベアフィンのろう付けにおいては、ベアフィンが早期に剥離するおそれがある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、ろう材をクラッドした面においてろう付け処理後に高い耐食性が維持され、しかも良好なろう付け性が得られるアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材およびろう材の設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ろう材の厚さとろう付け温度における液相率を制御することにより、心材に含まれるCuのろう材面側への拡散とろう付け後表面における濃縮を抑制することができ、しかも、ろう材にZnが含まれる場合に、ろう付け処理の際に生成する流動ろうに含まれるZnを減少させてろう付け後表面に残留するZnを増加させることができることを見い出した。その結果、ろう付け後表面に良好な犠牲防食作用が付与され、流動ろうに含まれるZn含有量が少ないために優先腐食の発生し難いフィレットが形成されて良好なろう付け性を得ることができるアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材およびろう材の設計方法を発明するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に係るアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材は、少なくともCuを0.2〜1.0質量%含有するアルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面に設けられてアルミニウム合金製ブレージングシートを構成するろう材であって、ろう付け温度における液相率X(%)と、ろう材厚さY(μm)とが、(1)30≦X≦80、(2)Y≧25、(3)1000≦X×Y≦24000、の関係を満たし、Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とする。
【0012】
このように、Cuを含有する心材の少なくとも一方の面に、ろう付け温度での液相率及びろう材厚さが前記条件(1)〜(3)を満たす第1ろう材をクラッドすることにより、心材に含まれるCuが第1ろう材面側に向けて拡散してろう付け後表面に濃縮することが抑制され、これによりろう付け後表面から板材中央部に向かって十分に電位が貴になるように電位勾配を付与することができる。その結果、第1ろう材を腐食環境側にかつ心材の露出面を非腐食環境側に配置した場合に、十分な犠牲防食効果が発揮され、高い耐食性が得られる。また、前記条件(1)〜(3)が満たされることにより、流動ろうの量と残留ろうの量が適切に維持され、しかも、ろう付け処理の前後における板厚の変化を抑制することができるため、良好なろう付け性を得ることができる。
【0013】
また、ろう材のSi濃度及びZn濃度を制御することにより、アルミニウム合金製ブレージングシートの耐食性及びろう付け性を向上させることができる。特に、ろう材がクラッドされた面側のろう付け後表面に残留するZnを増加させることができるために、ろう付け後表面の電位を卑とし、当該ろう付け後表面と板材中央部との間に十分な電位差を生じさせて、高い犠牲防食効果を得ることができる。
【0014】
請求項2に係るアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材の設計方法は、少なくともCuを0.2〜1.0質量%含有するアルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面に設けられてアルミニウム合金製ブレージングシートを構成するろう材の設計方法であって、ろう付け温度における液相率X(%)が30≦X≦80を満足するように、Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%の含有範囲内で組成を決定するとともに、ろう材厚さY(μm)を、Y≧25、1000≦X×Y≦24000の関係を満足するように決定することを特徴とする。
【0015】
このように、心材の少なくとも一方の面にろう材を設け、そのろう材は、ろう付け温度における液相率X(%)が30≦X≦80を満足するように、Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%の含有範囲内で組成を決定するとともに、ろう材厚さY(μm)を、Y≧25、1000≦X×Y≦24000の関係である条件を満たすことにより、ろう材を腐食環境に配置した場合にも、十分な犠牲防食効果が発揮され、優れた耐食性が得られる。また、他の板材またはベアフィン等のろう材を備えていない板材とのろう付け接合が可能になる。
【0016】
また、ろう材のSi濃度及びZn濃度を制御することにより、アルミニウム合金製ブレージングシートの耐食性及びろう付け性を向上させることができる。特に、ろう材がクラッドされた面側のろう付け後表面に残留するZnを増加させることができるために、ろう付け後表面の電位を卑とし、当該ろう付け後表面と板材中央部との間に十分な電位差を生じさせて、高い犠牲防食効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ろう材を腐食環境側に配置した場合でも、犠牲防食効果が十分に発揮され、高耐食性を得ることができる。また、心材の両面を腐食環境に配置した場合にも、犠牲防食効果が十分に発揮され、高い耐食性を得ることができる。さらに、ろう材のろう付け後表面に十分なZnが残存するため、さらに耐食性を高めることができる。
【0018】
そして、ろう付け後強度と耐食性がさらに向上し、厳しい腐食環境においても高い耐食性と高いろう付け後強度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係るブレージングシートの概略断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るブレージングシートの概略断面図である。
【図3】(a)は本発明の第3実施形態に係るブレージングシートの概略断面図であり、(b)はろう付け処理後におけるZnとCuの濃度分布を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るブレージングシートの概略断面図であり、(b)はろう付け処理後におけるZnとCuの濃度分布を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係るブレージングシートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
《第1実施形態》
図1に本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金製ブレージングシート(以下「ブレージングシート」という)の概略構造を表した断面図を示す。ブレージングシート10Aは、心材11と、心材11の一方の面に設けられた第1ろう材12aとからなる2層構造を有している。
【0021】
ブレージングシート10Aにおいて、心材11は、0.2〜1.0質量%のCuを含有すると共に、ここでは、1.5質量%以下(0質量%を含む)のSiと、1.8質量%以下(0質量%を含む)のMnと、0.35質量%以下(0質量%を含む)のTiと、0.5質量%以下(0質量%を含む)のMgの中から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。Cuは必須成分であるが、Si,Mn,Ti,Mgは任意成分であり、心材11にMn,Ti,Mgをそれぞれ添加する場合には、Mn含有量は0.5〜1.8質量%、Ti含有量は0.05〜0.35質量%、Mg含有量は0.05〜0.5質量%とすることが好ましい。なお、心材11の厚さは特に限定されないが、例えば、熱交換器として組み立てる際の成形性や熱交換器に要求される重量等を考慮し、好ましくは50μm〜1.2mmとされる。
【0022】
第1ろう材12aとしては、2.0〜8.0質量%のSiと、1.0〜6.0質量%のZnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものが好適に用いられる。この第1ろう材12aは、前記したアルミニウム合金であり、かつ、ろう付け温度における液相率をX(%)とし、ろう材厚さをY(μm)としたときに、(1)30≦X≦80、(2)Y≧25、(3)1000≦X×Y≦24000、の条件を満たしている。
【0023】
例えば、ブレージングシート10Aを用いて熱交換器を組み立てる場合には、第1ろう材12aを腐食環境である空気側とし、心材11の露出面を非腐食環境である流体(冷媒等)通路側とする。このとき、第1ろう材12aを前記条件(2)の通りに厚く構成することにより、ろう付け処理の際に第1ろう材12a側においてCu濃縮が発生し難くなり、ろう付け後表面から他面側表面(ブレージングシート10Aのろう材がクラッドされていない面)に向かって電位が貴となる。また、第1ろう材12aに前記した量のZnが含まれている場合には、前記条件(1)〜(3)が満たされていることにより、ろう付け後表面に十分なZnが残存し、これによっても、ろう付け後表面から板材中央部に向かって電位を貴とすることができる。したがって、第1ろう材12aが腐食環境に配置されるようにブレージングシート10Aを用いると、犠牲防食効果が顕著に発揮される。また、前記条件(1)〜(3)が満たされていることにより、ろう付け処理の際に生成する流動ろうの絶対量を適正化できるため、良好なろう付け性を得ることができる。
【0024】
以下に、ブレージングシート10Aの構成要素についてより詳細に説明する。
[心材11]
〔心材11のCu含有量:0.2〜1.0質量%〕
Cuは、ろう付け後強度を向上させる効果がある。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。Cu含有量が0.2質量%未満では、ろう付け後表面と板材中央部との間に十分な電位差を生じさせることができない。一方、Cu含有量が1.0質量%を超えると、心材11の融点の低下に伴ってバーニングが発生する可能性がある。したがって、心材11におけるCu含有量は、0.2〜1.0質量%とし、好ましくは0.3〜0.5質量%とする。
【0025】
〔心材11のSi含有量:1.5質量%以下(0質量%を含む)〕
Siは、ろう付け後強度を向上させる効果があり、特にMg,Mnと共存させた場合にはMg−Si系金属間化合物とAl−Mn−Si系金属間化合物の形成により、さらにろう付け後強度を高めることができる。しかし、Si含有量が1.5質量%を超えると、心材11の融点低下及び低融点相増加により、心材11の溶融が生じる。したがって、心材11におけるSi含有量は、1.5質量%以下とする。なお、Si含有量が少ないと前記効果が小さい。したがって、心材11におけるSi含有量は、好ましくは0.3〜1.2質量%とする。
【0026】
〔心材11のMn含有量:1.8質量%以下(0質量%を含む)〕
Mnは、ろう付け後強度を向上させる効果があり、含有量増加によりろう付け後強度を高めることができる。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。Mn含有量が1.8質量%を超えると粗大なAl−Mn系金属間化合物が形成され、成形性と耐食性が低下する。したがって、心材11におけるMn含有量は1.8質量%以下とする。なお、Mn含有量が0.5質量%未満では前記効果が小さい。したがって、心材11におけるMn含有量は、好ましくは0.5〜1.8質量%とする。
【0027】
〔心材11のTi含有量:0.35質量%以下(0質量%を含む)〕
Tiは、Al合金中でTi−Al系化合物を形成して層状に分散する。Ti−Al系化合物は電位が貴であるため、腐食形態が層状化し、深さ方向への腐食(孔食)に進展し難くなる効果がある。Ti含有量が0.35質量%を超えると粗大なAl−Ti系金属間化合物が形成され、成形性と耐食性が低下する。したがって、心材11におけるTi含有量は、0.35質量%以下とする。なお、Ti含有量が0.05質量%未満では腐食形態の層状化効果が小さい。したがって、心材11におけるTi含有量は、好ましくは0.05〜0.35質量%とする。
【0028】
〔心材11のMg含有量:0.5質量%以下(0質量%を含む)〕
Mgは、ろう付け後強度を向上させる効果がある。一方、Mgはフラックスろう付け性を低下させる作用があるため、Mg含有量が0.5質量%を超えると、ろう付けの際にMgが第1ろう材12aまで拡散し、ろう付け性が著しく低下する。したがって、心材11におけるMg含有量は、0.5質量%以下とする。なお、Mg含有量が0.05質量%未満ではろう付け後強度を向上させる効果が小さい。したがって、心材11におけるMg含有量は、好ましくは0.05〜0.5質量%とする。
【0029】
[第1ろう材12a]
〔ろう付け温度における液相率X(%):30≦X≦80〕
ろう付け温度における第1ろう材12aの液相率X(%)を制御することにより、ろう付け処理の際の第1ろう材12aの流動性を制御し、第1ろう材12aに起因してろう付け処理後に心材11の表面に残存するろう材(残存ろう材)の量を制御することができる。液相率Xが30%未満の場合には、ろう流動性が低いために、十分なろう付け性を確保することができない。一方、液相率Xが80%を超えると、ろう付け処理後の残存ろう材が少なくなるために、残存ろう材に起因する犠牲防食効果が小さくなる。したがって、ろう付け温度における液相率Xは、30〜80%とする。なお、ろう付け温度での液相率X(%)は、ブレージングシート10Aの製造工程で使用するろう材の材料成分に基づいて、標準的な熱力学計算ソフト(例えば、サーモカルク(Thermo-Calc))により算出される値である。液相率Xの単位である“%”は、一般的に“質量%”である。
【0030】
〔ろう材厚さY:Y≧25μm〕
ブレージングシート10Aの製造工程及びブレージングシート10Aを用いた熱交換器等の製品製造の際のろう付け処理工程において、心材11から第1ろう材12aにCuが拡散する。このとき、第1ろう材12aが厚いほど、第1ろう材12a中のCu濃度を小さく抑えることができるため、ろう付け後表面でのCu濃縮を抑制することができる。第1ろう材12aの厚さが25μm未満では、このCu濃縮を十分に抑制することができない。したがって、第1ろう材12aの厚さYを25μm以上とする。なお、厚さYの上限値は、ブレージングシート10Aの板厚や接合点密度等を考慮する必要があるために、特に限定されないが、板厚の1/2とすることが好ましい。
【0031】
〔液相率Xとろう材厚さYの積:1000≦X×Y≦24000〕
液相率Xとろう材厚さYとを制御することにより、ろう付け処理の際に生成する流動ろうの絶対量と、残存ろう材の絶対量を制御することができる。これにより、例えば、フィン等とのろう付け処理においては、適切な絶対量の流動ろうの生成が確保され、十分なろう付け性を得ることができるとともに、適切な絶対量の残存ろう材が確保されて、残存ろう材に起因する犠牲防食効果が十分に発揮される。液相率Xとろう材厚さYの積が1000未満では、流動ろうの絶対量が少なくなるために、十分なろう付け性を確保することができない。例えば、フィレットの形成が不十分となって、接合強度が低下する。一方、液相率Xと厚さYの積が24000を超えると、流動ろうの絶対量が多くなるため、ろう付け処理の前後におけるブレージングシート10Aの板厚の変化が大きくなってコア割れが発生し、また、過剰に生成した流動ろうによる心材11の浸食等が発生し、耐食性が低下する。したがって、液相率Xと厚さYの積(X×Y)は、1000〜24000とする。
【0032】
〔第1ろう材12aのSi含有量:2.0〜8.0質量%〕
Siは、第1ろう材12aたるAl合金の融点を低下させ、ろう付け温度での液相率及び流動性を高める作用がある。Si含有量が2.0質量%未満では、ろう付け処理の際に流動ろうの量が不足してろう付け性が低下する。一方、Si含有量が8.0質量%を超えると、流動ろうが過剰に生成し、板厚の減少によるコア割れや心材11の浸食等のろう付け不良が発生する。したがって、第1ろう材12aにSiを含有させる場合には、Si含有量は、2.0〜8.0質量%とする。
【0033】
〔第1ろう材12aのZn含有量:1.0〜6.0質量%〕
Znは、第1ろう材12aたるAl合金の電位を卑にする作用があり、また融点の低下及び液相率を増加する作用がある。Zn含有量が1.0質量%未満では、ろう付け後表面に残留するZnは極少量となるため、耐食性の向上はほとんど認められない。一方、Zn含有量が6.0質量%を超えると、流動ろうに含有されるZn濃度が増大し、フィレット等が優先腐食する原因となる。したがって、第1ろう材12aにZnを含有させる場合には、Zn含有量は、1.0〜6.0質量%とする。
【0034】
なお、SiとZnのいずれにもAl合金の融点を低下させ、液相率を増加させる作用があるため、SiとZnの各添加量は、特に、前記した条件(1)が満たされるように、熱力学的計算を行って決定し、その上で、厚さYを前記した条件(2)及び条件(3)が満たされるように、決定することが望ましい。また、上記成分の他、第1ろう材12aには、電位を卑にするIn、Sn等が適宜添加されていてもよい。また、厳しい腐食環境下で使用されない場合(腐食深さが浅い場合)において、心材11の他方の面に、板材全体の材料特性を低下させない範囲(材料構成)のAl合金層をクラッドすることが可能である。
【0035】
《第2実施形態》
図2に本発明の第2実施形態に係るブレージングシートの概略構造を表した断面図を示す。ブレージングシート10Bは、心材11と、心材11の一方の面に設けられた第1ろう材12aと、心材11の他方の面に設けられた第2ろう材12bとからなる3層構造を有している。ここでは、ブレージングシート10Bの心材11の組成及び厚さはブレージングシート10Aの心材11の組成及び厚さと同じであるとする。また、ブレージングシート10Bの第1ろう材12aの組成及び厚さは、ブレージングシート10Aの第1ろう材12aの組成及び厚さと同じであるとする。そのため、心材11と第1ろう材12aについての説明は省略する。
【0036】
ブレージングシート10Bを構成する第2ろう材12bについては、第1ろう材12aと同様に、2.0〜8.0質量%のSiと、1.0〜6.0質量%のZnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものを用いることにより、耐食性をさらに向上させることができる。そして、第2ろう材12bは、前記したアルミニウム合金であり、かつ、ろう付け温度における液相率をX1(%)とし、ろう材厚さをY1(μm)としたときに、(1a)30≦X1≦80、(2a)Y1≧25、(3a)1000≦X1×Y1≦24000、の関係が満たされている。これにより、第1ろう材12aと同様の特性を第2ろう材12bに付与することができ、第1ろう材12aのみならず第2ろう材12bをも腐食環境において用いることができ、第2ろう材12b側でも優れた耐食性を得ることができる。その理由は、前記した第1ろう材12aと同じである。
【0037】
なお、第2ろう材12bが非腐食環境に配置される場合には、前記した条件(1a)〜(3a)の関係は必ずしも満たされている必要はなく、また、第1ろう材12aに好適に用いられる前記した組成条件も満たされている必要はない。例えば、ブレージングシート10Bを用いて熱交換器を組み立てる場合には、第1ろう材12aを腐食環境である空気側に配置すれば、必然的に第2ろう材12bは非腐食環境に配置されるために、前記した条件(1a)〜(3a)の関係は必ずしも満たされている必要はなく、また、前記した組成条件も満たされている必要はない。
【0038】
《第3実施形態》
図3(a)に本発明の第3実施形態に係るブレージングシートの概略構造を表した断面図を示し、図3(b)に第3実施形態に係るブレージングシートのろう付け処理後におけるZnとCuの濃度分布を模式的に示す。ブレージングシート10Cは、心材11と、心材11の一方の面に設けられた第1ろう材12aと、心材11の他方の面に設けられた内張材13からなる三層構造を有している。ブレージングシート10Cを構成する心材11及び第1ろう材12aは、前記したブレージングシート10A,10Bを構成する心材11及び第1ろう材12aと実質的に同じである。図3(b)に示す符号「12a」はろう付け処理後に心材11の表面に残るろう材、すなわち、第1残存ろう材を示している。
【0039】
内張材13は、心材11にクラッドされるAl合金層であって、ろう材として機能せず、また、Znを含有しない点で犠牲陽極材と区別される。内張材13は、心材11のCu含有量以上1.0質量%以下のCuを含有し、1.5質量%以下のSi,0.5〜1.8質量%のMn,0.05〜0.35質量%のTiから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。ブレージングシート10Cにおける内張材13の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.01〜0.3mmとされる。
【0040】
例えば、ブレージングシート10Cを用いて熱交換器等の製品を組み立てる場合には、第1ろう材12aを腐食環境である空気側とし、内張材13を非腐食環境である流体(冷媒等)通路側とする。例えば、第1ろう材12aとして所定量のZnを含むものを用い、内張材13として前記した組成を有するものを用いた場合、図3(b)に示すように、ろう付け処理後のブレージングシート10Cにおいては、第1残存ろう材12a側から内張材13側に向かってZn濃度は低下するがCu濃度は増加するように濃度勾配を形成することができるため、第1残存ろう材12aから内張材13にわたって常に貴化する電位勾配を形成することができる。その結果、腐食が内張材13側へ進行した場合にも犠牲防食作用が維持され、長期にわたって耐食性を維持することができる。
【0041】
[内張材13]
〔内張材13のCu含有量:心材11のCu含有量以上1.0質量%以下〕
Cuは、ろう付け後強度を向上させる効果がある。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。しかし、Cu含有量が1.0質量%を超えると、融点の低下に伴ってバーニングが発生する可能性がある。また、Cu含有量が心材11のCu含有量未満であると、内張材13に対して心材11側の電位が貴になるため、心材11以深で孔食進展が促進される。したがって、内張材13におけるCu含有量は、心材11のCu含有量以上1.0質量%以下とする。なお、Cu含有量が0.05質量%未満では前記した各種効果が小さい。内張材13のCu含有量は、0.9質量%以下かつ心材11のCu含有量以上とすることが好ましく、心材11のCu含有量+0.1質量%以上とすることがより好ましい。
【0042】
〔内張材13のSi含有量:1.5質量%以下〕
Siは、ろう付け後強度を向上させる効果があり、特にMg,Mnと共存させた場合には、Mg−Si系金属間化合物、Al−Mn−Si系金属間化合物の形成により、さらにろう付け後強度を高めることができる。しかし、Si含有量が1.5質量%を超えると、内張材13の融点低下と低融点相の増加により、内張材13の溶融が生じる。したがって、内張材13におけるSi含有量は、1.5質量%以下とする。なお、Si含有量が0.03質量%未満では前記した効果が小さい。したがって、内張材13におけるSi含有量は、0.03〜1.2質量%とすることがより好ましい。
【0043】
〔内張材13のMn含有量:0.5〜1.8質量%〕
Mnは、ろう付け後強度を向上させる効果があり、含有量増加によりろう付け後強度を高めることができる。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。しかし、Mn含有量が0.5質量%未満では強度向上の効果は小さい。一方、Mn含有量が1.8質量%を超えると、粗大なAl−Mn系金属間化合物が形成され、成形性の低下や耐食性の低下が起こりやすい。したがって、内張材13におけるMn含有量は、0.5〜1.8質量%とする。
【0044】
〔内張材13におけるその他の含有元素〕
内張材13側の電位貴化及び強度向上のために、Cr,Ni,Zr等から選ばれる1種または複数種をそれぞれ0.3質量%以下添加してもよい。
【0045】
《第4実施形態》
図4(a)に本発明の第4実施形態に係るブレージングシートの概略構造を表した断面図を示し、図4(b)に第4実施形態に係るブレージングシートのろう付け処理後におけるZnとCuの濃度分布を模式的に示す。ブレージングシート10Dは、心材11と、心材11の一方の面に設けられた第1ろう材12aと、心材11の他方の面に設けられた第2ろう材14からなる三層構造を有している。ブレージングシート10Dの心材11及び第1ろう材12aは、前記したブレージングシート10A〜10Cを構成する心材11及び第1ろう材12aと実質的に同じである。図4(b)に示す符号「12a」は、図3(b)と同様に、ろう付け処理後に心材11の表面に残る第1ろう材12aの残存ろう材(第1残存ろう材)を示し、符号「14a」は第2ろう材14の残存ろう材(第2残存ろう材)を示している。
【0046】
第2ろう材14は、心材11のCu含有量以上3.0質量%以下のCuと、7質量%以上13質量%未満のSiを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。ブレージングシート10Dにおける第2ろう材14の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.01〜0.3mmとされる。
【0047】
ブレージングシート10Dを用いて、例えば熱交換器等の製品を組み立てる場合には、第1ろう材12aを腐食環境である空気側とし、第2ろう材14を非腐食環境である流体(冷媒等)通路側とする。例えば、第1ろう材12aとして所定量のZnを含むものを用い、第2ろう材14として前記したCuを含有する組成を有するものを用いた場合には、図4(b)に示されるように、ブレージングシート10Dにおいても前記したブレージングシート10Cと同様に、ろう付け処理後において、第1残存ろう材12a側から第2残存ろう材14a側に向かってZn濃度は低下するがCu濃度は増加するように濃度勾配を形成することができるため、第1残存ろう材12aから第2残存ろう材14aにわたって常に貴化する電位勾配を形成することができる。その結果、腐食が第2残存ろう材14a側へ進行した場合にも犠牲防食作用が維持され、長期にわたって耐食性を維持することができる。
【0048】
[第2ろう材14]
〔第2ろう材14のCu含有量:心材11のCu含有量以上3.0質量%以下〕
Cuは、ろう付け後強度を向上させる効果がある。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。Cu含有量が3.0質量%を超えると、多量のCuを含有するフィレットが形成され、フィレット周辺に優先腐食が発生する。また、心材11のCu含有量未満であると、製造及びろう付け処理の際に、心材11から第2ろう材14にCuが拡散する結果、心材11における第2ろう材14側の電位が卑になるため、心材11以深で孔食進展が促進される。したがって、第2ろう材14におけるCu含有量は、心材11のCu含有量以上3.0質量%以下とする。なお、Cu含有量が0.05質量%未満では前記した各種効果が小さい。第2ろう材14のCu含有量は、2.0質量%以下かつ心材11のCu含有量以上とすることが好ましく、心材11のCu含有量+0.3質量%以上とすることがより好ましい。
【0049】
〔第2ろう材14のSi含有量:7質量%以上13質量%未満〕
Siは、アルミニウム合金の融点低下、ろう付け温度での液相率及び流動性を高める作用がある。Si含有量が7質量%未満では、ろう付け処理の際に流動ろうの量が不足してろう付け性が低下する。一方、Si含有量が13質量%以上であると、過剰の流動ろうが生成し、板厚の減少によるコア割れの他、心材11の浸食等のろう付け不良が発生する。したがって、第2ろう材14におけるSi含有量は、7質量%以上13質量%未満とする。なお、第2ろう材14のSi含有量が、第1ろう材12aのSi含有量と異なるのは、第2ろう材14を厚くせず、ろう付け温度における液相率をほぼ100%として使用するためである。
【0050】
〔第2ろう材14におけるその他の含有元素〕
ろう付け処理後における第2残存ろう材14a側の電位貴化のために、第2ろう材14には、Cr,Ni,Zr等から選ばれる1種または複数種をそれぞれ0.3質量%以下添加してもよい。
【0051】
〔第2ろう材14の液相率X2とろう材厚さY2〕
ブレージングシート10Dのろう付け温度における第2ろう材14の液相率をX2(%)とし、ろう材厚さをY2(μm)とすると、より好ましくは下記(1b)〜(3b)の関係が満たされることにより、ろう付け処理後における第2内側残存ろう材14aにおけるCu残存量を増加させ、フィレットにおけるCu含有量を低減させることができる。これにより、さらに心材11から第1ろう材12a及び第2ろう材14への元素拡散を低減させることができる。
(1b)30≦X2≦80
(2b)Y2≧25
(3b)1000≦X2×Y2≦24000
【0052】
《第5実施形態》
図5に本発明の第5実施形態に係るブレージングシートの概略構造を表した断面図を示す。ブレージングシート10Eは、心材11と、心材11の一方の面に設けられた第1ろう材12aと、心材11の他方の面に設けられた犠牲陽極材15からなる三層構造を有している。ブレージングシート10Eの心材11及び第1ろう材12aは、前記したブレージングシート10A〜10Dを構成する心材11及び第1ろう材12aと実質的に同じである。犠牲陽極材15はAl−Zn系合金からなり、第1ろう材12aのろう付け温度では溶融せず、ろう材としては機能しない。このブレージングシート10Eは、第1ろう材12a側と犠牲陽極材15側の両面を腐食環境にさらして用いることができ、特に一方の面にのみろう材が必要である環境において好適に用いられ、良好な耐食性を得ることができる。
【0053】
犠牲陽極材15は、心材11に対して電位が卑であり、犠牲防食作用を示すものであればAl−Zn系組成は特に限定されるものではない。例えば、1〜5質量%のZnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるAl−Zn合金や、これに強度向上を目的としてSiやMnを添加したAl−Si−Mn−Zn合金等が好適に用いられる。
【0054】
《ブレージングシート10A〜10Eの製造方法》
ブレージングシート10A〜10Eの製造方法の一例について説明する。例えば、ブレージングシート10A〜10Eのろう付け温度を決定し、そのろう付け温度での第1ろう材12aの液相率X(%)を30≦X≦80の範囲で決定するとともに、第1ろう材12aの組成を決定する。次いで第1ろう材12aの厚さY(μm)を、Y≧25μm、かつ、1000≦X×Y≦24000、となるように決定し、材料板厚や圧延条件を決定する。ブレージングシート10Bについては、必要に応じて、第1ろう材12aと同様の設計を第2ろう材12bについて行う。
【0055】
このような設計の後、実際の製造プロセスにおいては、まず、心材用アルミニウム合金,第1ろう材用アルミニウム合金,第2ろう材用アルミニウム合金,内張材用アルミニウム合金及び犠牲陽極材用アルミニウム合金をそれぞれ、連続鋳造にて溶解、鋳造し、必要に応じて面削、均質化熱処理(以下「均熱」という)して、心材用鋳塊,第1ろう材用鋳塊,第2ろう材用鋳塊,内張材用鋳塊及び犠牲陽極材用鋳塊を得る。第1ろう材用鋳塊,第2ろう材用鋳塊,内張材用鋳塊及び犠牲陽極材用鋳塊をそれぞれ熱間圧延または切断によってそれぞれ所定厚さにして、第1ろう材12a,第2ろう材12b,第2ろう材14,内張材13及び犠牲陽極材15を製造する。
【0056】
心材用鋳塊の一方の面に第1ろう材12aを配置し、必要に応じて心材用鋳塊の他方の面に第2ろう材12b,第2ろう材14,内張材13及び犠牲陽極材15から選ばれた1つの材料を配置して、所定のクラッド率になるように重ね合わせ、400℃以上の温度で加熱した後、熱間圧延により圧着し、板材とする。その後、冷間圧延−中間焼鈍−冷間圧延を行うことにより所定の板厚とする。なお、熱間圧延による圧着後、冷間圧延前に、合金中の元素分布を調整する目的で、粗鈍を実施してもよい。中間焼鈍は350〜450℃で3時間以上実施することが望ましく、最終の冷間加工率は30〜60%となるようにすることが好ましい。また、最終の板厚とした後、成型加工性を考慮して仕上げ焼鈍を実施してもよい。仕上げ焼鈍により、材料が軟化し、伸びが向上するため加工性を高めることができる。
【実施例】
【0057】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の構成要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に用いる「第1ろう材」,「第2ろう材」はそれぞれ、前記した実施の形態における「第1ろう材12a」,「第2ろう材12b」と同じ意味で用いるものとする。
【0058】
[供試材作製]
表1に示す心材及び内張材と、表2に示す組成を有するろう材及び犠牲陽極材を周知の方法を用いて作製し、表3,4に示す組合せで重ね合わせ、450℃において熱間圧延してクラッドし、粗鈍を行うことなく冷間圧延にて板厚を0.3mmとした。その後、400℃で5時間の中間焼鈍を行い、さらに加工率;50%で冷間圧延を行うことにより、板厚を0.2mm又は1.0mmとし、最後に仕上げ焼鈍を300℃で3時間行って、表3,4に示す供試材(3層材)を作製した。
【0059】
なお、表2に示す通り、ろう材は、Znを含有するがCuを含有しないものを「ろう材A」とし、Znを含有しないがCuを含有するろう材をさらにその厚さにより区別(表3,4参照)して、2つのグループ「ろう材B」と「ろう材C」に分けている。第1ろう材としては、ろう材Aのみが用いられる。第2ろう材としては、ろう材B,Cのみならずろう材Aを用いることができるため、表3,4では、第2ろう材の液相率と厚さをそれぞれ第1ろう材と同様にX,Yで表すこととする。
【0060】
[熱処理材と試験材の作製]
作製した各供試材の第1ろう材の表面に市販の非腐食性のフラックスを3g/mで塗布し、治具を用いて吊り下げて、酸素濃度が200ppm以下の雰囲気において590〜600℃で2分間保持することにより、ろう付け加熱を行い、ろう付け熱処理材を作製した。その後、ろう付け熱処理材から所定の形状の試験材を切り出して、下記の腐食試験に供した。なお、加工性や融点等の問題から、試験材を作製できなかったものについては、表3,4の「試験材の作製可否」の欄に「−」で示しており、試験材を作製することができたものについては同欄に「○」で示している。
【0061】
[腐食試験]
腐食試験は、ろう付け熱処理材から60mm×50mmの試験材を切り出し、第1ろう材面が試験面となるように、第1ろう材面の反対の面及び端面をシールテープによりシールして、CASS試験(JIS Z 2371)を1000時間実施することにより、行った。試験後、最大腐食深さを測定し、最小残存板厚(=試験前の板厚−最大腐食深さ)を算出した。結果を表3,4に示す。この腐食試験の合格基準は、試験材の最小残存板厚が元板厚(ろう付け前厚さの)の40%(板厚0.2mmの場合は80μm、板厚1.0mmの場合は400μm)以上であることとした。
【0062】
[接合部腐食試験]
ブレージングシートが熱交換器として使用される際の耐食性を評価するため、供試材から所定形状の板材を切り出して、その第1ろう材の表面にベアフィン材(Al−2Zn)を、前記ろう付け熱処理材と同様にして、ろう付け接合し、この面が試験面となるように、第1ろう材面の反対の面及び端面をシールして、CASS試験(JIS Z 2371)を実施した。試験後、ベアフィン材との接合部周辺(つまり、フィレットの周辺のベアフィン材、ブレージングシート)における腐食発生の有無を目視判定し、腐食の発生が確認されなかったものを合格として表3,4に「○」で示し、腐食の発生が確認されたものを不合格として表3,4に「×」で示した。
【0063】
また試験後において、フィレットが健全にベアフィン材とブレージングシートを接合できている部分の比率(以下「接合部残存率」という)を求めた。この接合部残存率は、“試験後のフィレット長さ/ベアフィン材の幅×100(%)”で定義される。この接合部腐食試験での合格基準は、接合部残存率が60%以上であることとした。なお、接合部周辺の優先腐食については、すべてのろう材面(腐食環境側の第1ろう材と非腐食環境側の第2ろう材の両方)について観察した。
【0064】
[第2ろう材のろう付け性評価]
第2ろう材を有する供試材から所定形状の板材を切り出して、第2ろう材の表面にベアフィン材(Al−2Zn)を、前記ろう付け熱処理材と同様にして、ろう付け接合し、ろう切れの有無を観察した。この試験では、ろう切れが発生していないものを合格として表3,4に「○」で示し、ろう切れが発生したものを不合格として表3,4に「×」で示した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
[試験結果]
実施例1〜33は本発明の構成要件を備えているために、最小残存板厚は最も薄い実施例3で95μmであり、また、接合部残存率は最も小さい実施例2で67%であり、目視判定結果も良好であるという結果が得られ、良好な耐食性を示すことが確認された。また、第2ろう材によるろう付け性も良好であった。
【0070】
なお、実施例1〜33はこのように十分な耐食性を示すが、例えば、実施例1を基準としたときに、実施例3では、フィレット耐食性がCuの増加により向上している。実施例4〜7から、心材のSiとMnは耐食性に大きな影響を与えないことがわかる。実施例9では、心材のTiが多いために第1ろう材側の耐食性が向上している。実施例12では、第1ろう材の厚さが薄いことにより、フィレットではZnが減少し、耐食性が向上している。実施例15では、第1ろう材のZnが少ないためにフィレットの耐食性が向上している。実施例16では、第1ろう材のZnが多いために第1ろう材側の耐食性が向上している。実施例17〜23では、第2ろう材としてCuを含むろう材を用いているが、腐食が深く進行しておらず、第1ろう材側における耐食性への影響は小さいことがわかる。実施例24〜26は犠牲陽極材を備えているが、第1ろう材側の耐食性への影響は小さいことがわかる。実施例27〜31は内張材を備えているが、第1ろう材側の耐食性への影響は小さいことがわかる。
【0071】
一方、比較例34では、心材のCuが少ないために耐食性が低下した。比較例35では心材のCuが過剰なため、心材にバーニングが発生した。
【0072】
比較例36では、第1ろう材のろう材不足によりろう切れが発生し、接合部残存率を求めることができなかった。比較例37は、第1ろう材のろう材不足によりろう切れが発生して接合部残存率を求めることができず、また、第1,第2ろう材の厚さが薄いためにCuの濃縮による貫通(孔食)が発生した。比較例38,39では、第1ろう材のろう材不足によりろう切れが発生し、接合部残存率を求めることができなかった。比較例40,41では、第1ろう材の液相率Xが大きいために、第1ろう材側のろう付け後表面における残存Zn不足により、耐食性が低下した。
【0073】
比較例42では、第1ろう材に含まれるZnが少ないために、ろう付け後表面における残存Zn不足により、耐食性が低下した。比較例43では、第1ろう材に含まれるZnが過剰なため、フィレット耐食性が低下した。比較例44ではろう材過剰により、心材に多量のSiが侵食するデソリューションが発生し、耐食性が低下した。なお、比較例42〜43は、第2ろう材の組成が所定範囲に限定されることを実証するものである。
【符号の説明】
【0074】
10A,10B,10C,10D,10E ブレージングシート
11 心材
12a 第1ろう材
12a 第1残存ろう材
12b 第2ろう材
13 内張材
14 第2ろう材
14a 第2残存ろう材
15 犠牲陽極材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCuを0.2〜1.0質量%含有するアルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面に設けられてアルミニウム合金製ブレージングシートを構成するろう材であって、
ろう付け温度における液相率X(%)と、ろう材厚さY(μm)とが、
(1)30≦X≦80、
(2)Y≧25、
(3)1000≦X×Y≦24000、の関係を満たし、
Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とするアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材。
【請求項2】
少なくともCuを0.2〜1.0質量%含有するアルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面に設けられてアルミニウム合金製ブレージングシートを構成するろう材の設計方法であって、
ろう付け温度における液相率X(%)が30≦X≦80を満足するように、Si:2.0〜8.0質量%,Zn:1.0〜6.0質量%の含有範囲内で組成を決定するとともに、ろう材厚さY(μm)を、Y≧25、1000≦X×Y≦24000の関係を満足するように決定することを特徴とするアルミニウム合金製ブレージングシートのろう材の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172965(P2010−172965A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53487(P2010−53487)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2007−332700(P2007−332700)の分割
【原出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)