説明

アルミニウム基板から規則性多孔質構造を製造する方法

本発明は、アルミニウム基板の陽極酸化により規則性多孔質構造(7)の厚さを含む外側表面層(3)を生成する多孔質構造の製造方法であって、規則性多孔質構造(7)の厚さの製造を可能にするために十分な時間で平滑なアルミニウム基板に対して陽極酸化ステップを実行することを特徴とする方法に関する。次いで、陽極酸化によって形成された前記外側表面層(3)であって、そこから延びる前記外側表面層の厚さの一部分を機械加工によって取り除き、それにより、規則性多孔質構造(7)のゼロではない厚さを保ちつつ、この規則性多孔質構造が残留層のない外側表面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基板から規則性多孔質構造を製造する方法に関する。
【0002】
本明細書全体において、多孔質構造は、同じ横断面(形状および寸法)の、直線チャネル形状の孔であって、径方向の平面内で平行して隣接し、かつ径方向の平面内で均一に分布した孔を有するとき「規則性」と呼ばれる。
【0003】
同様に、本明細書全体において、アルミニウム片、および前記アルミニウム片の陽極酸化をした陽極構造は、それらの2つの対向面であって、電解液と接触する外側の面と呼ばれる第1の面と、電解液と接触しない基板面と呼ばれる第2の面とに沿って配向される。
【0004】
同様に、本明細書全体において、アルミナとは、アルミニウムの酸化形態、すなわち酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、並びにオキシ水酸化アルミニウムを包含する一般用語を意味する。
【背景技術】
【0005】
多数の電子、機械、バイオテクノロジー、または化学システムは、極端な小型化を目指しており、医療、航空、宇宙、電子、情報処理または光通信のような種々の分野に広い応用範囲を開放している。この目的において、それらの超微細構造の材料構造、寸法および規則性の制御が、これらシステムの寸法を縮小させ、試料の比表面積と全体積との間の比率を増加させ、及び/または、特定の物理的現象を得るために大変重要になっている。
【0006】
この目的において、金属アルミニウム基板の陽極酸化により、面積が数μmに及ぶ、化学アルミニウム素子をベースとする規則性多孔質構造を製作することができる。多孔質陽極膜とも呼ばれるこれらの多孔質構造は、ナノ濾過などの本来の用途、またはナノプロット(nanoplot)、ナノワイヤおよびナノチューブなどのナノスケールの寸法の機能素子の製作のための支持体またはマトリックスとして使用できる。超微細構造がメソまたはナノスケールの寸法であるこれらの材料の技術的性能の改善は、大規模で、かつ制御された厚さの多孔質陽極膜の製作を可能にする先進技術によって直接的に起こる。
【0007】
アルミニウム基板の陽極酸化中の多孔質構造の成長は、一方でアルミニウムの酸化、水酸化、またはオキシ水酸化誘導体へのアルミニウムの酸化反応と、他方でこの形成されたアルミナの溶解反応との間の平衡を前提とする、複雑なプロセスによって導かれる。このように、多孔質構造の形成は、これら2つの対立する化学反応それぞれの間の貢献において、陽極酸化の操作条件に依存するバランスの結果であることが知られている。
【0008】
Masuda H.,Yada K.およびOsaka A.,(1998),Jpn.J.Appl.Phys.,37,1340−1342「Self−Ordering of cell configuration of anodic porous alumina with large−size pores in phosphoric acid solution」による文献では、幾つかの処理、すなわち195Vの電圧下、0.3モル/Lの濃度のリン酸溶液中で、前加工されていないアルミニウム基板を、0.5時間〜16時間の様々な時間で陽極酸化させる処理と、HgClの飽和溶液による残留アルミニウム基板の化学溶解処理と、10質量%のリン酸溶液による緻密層とも呼ばれるバリア層の化学溶解処理と、リン酸溶液によって多孔質構造の孔の直径を拡大させる化学処理とを統合した多孔質構造の製造方法を記載している。
【0009】
このように、この文献は、全部が化学または電気化学性質の幾つかの連続した処理によるアルミニウムベースの多孔質構造を製造する参照方法を記載している。この文献は、バリア層、および残留基板除去後の多孔質構造の基板面の表面状態を示している。文献は、特に外面のレベルで、その厚さの中の多孔質構造の状態を記載していない。
【0010】
さらに、同じ形状で、かつ規則的に分布した複数の凹部を外面に有するアルミニウム基板の、陽極酸化による規則的な多孔質構造を得ることが可能であることが知られている。かかる型は、例えば、特に複数の凸部を有する炭化ケイ素製の硬質マトリックスをアルミニウム基板に当てて押圧することにより、アルミニウム基板のナノインデンテーションによって得られる。しかし、このナノインデンテーションステップは、複数の凸部を有する炭化ケイ素製マトリックスをメソまたはナノスケールの規模で製作することが技術的に困難なために、利用することが技術的に非常に困難である。結果的に、このマトリックス製作ステップはコストのかかるステップである。
【0011】
同じ形状の、かつアルミニウムまたはアルミニウム合金基板の表面上で規則的に分布した、複数の凹部を製造することを可能にするもう1つの既知の方法は、「ダブル陽極酸化」と呼ばれる。この「ダブル陽極酸化」方法によれば、第1の陽極酸化ステップにより、初期的に平滑なアルミニウム基板と、この陽極酸化から生じた多孔質構造との界面に複数の凹部を形成することができる。陽極酸化から生じた多孔質構造を化学的方法により完全に溶解することにより、下にある複数の凹部が現れる。この凹型は、次の第2の陽極酸化ステップの際に、規則性多孔質構造の成長のためのガイドとして役立つ。この「ダブル陽極酸化」方法は、陽極酸化ステップが重複するために、利用に時間がかかる。更に、この方法は、第1陽極酸化から生じた多孔質構造の化学溶解ステップを必要とするが、利用が難しく、結果的に産業的規模での実施とほとんど両立しない、または両立しない。さらに、この方法は、溶解ステップの際に、クロム、特にクロムVIの誘導体などの有毒化学製品の利用を必要とする。結局、アルミニウム基板の最初の陽極酸化処理の結果生成され、次に化学処理によって溶解された多孔質構造の厚さには価値がない。
【0012】
規則性多孔質構造の作製を改良するために、他の方法が提案されたが、第1陽極酸化によって形成された構造の中間除去による「ダブル陽極酸化」の利用を回避するには至らなかった。このようにして、EP1715085は、化学溶解処理を電気化学処理に変更し、残留アルミニウム基板と、第1陽極酸化から生じた構造全体との分離を行う方法を提案している。そこでもまた、この方法は、利用に時間がかかり、比較的複雑で、コストがかかり、かつ産業的規模での実施とほとんど両立しない。
【0013】
このように今日まで、同じ横断面(形状および寸法)の直線チャネル形状の孔であって、径方向の平面内で平行に隣接し、かつ径方向の平面内で均一に分布した孔を有する規則性多孔質構造を製造するためには、アルミニウム基板のナノインデンテーションによるにせよ、化学溶解/電気化学分離が後に続く第1陽極酸化によるにせよ、アルミニウム基板の前加工を実行することが必要であると常に考えられていた。
【発明の概要】
【0014】
この状況において、本発明は、ダブル陽極酸化への依存を回避し、かつアルミニウムまたはアルミニウム合金基板の機械的ナノインデンテーションの前ステップの実行を同様に必要としない規則性多孔質構造の、平滑なアルミニウムまたはアルミニウム合金基板の陽極酸化による製造方法を提案することにより、それらの全体的な欠点を緩和することを目的とする。
【0015】
本発明は、特には、簡易、迅速、安価で、環境に配慮し、かつ産業的規模での実施と両立する規則性多孔質構造の、陽極酸化による製造方法を提案することを目的とする。
【0016】
本発明は、特には、良質で、その厚さ全体にわたって均質であり、かつ孔の形状、直径および孔の配列が、完全に制御された、規則性多孔質構造の製造を可能にする方法を提案することを目的とする。
【0017】
本発明は、特には、大きな厚さ(特に50μmを超える)を有し得る規則性多孔質構造の製造を可能にする方法を提案することを目的とする。
【0018】
本発明は、クロム、特にクロムVIの誘導体などの有毒化学化合物の使用を必要としない規則性多孔質構造の製造方法を提案することを同様に目的とする。
【0019】
したがって、本発明は、アルミニウム基板の陽極酸化により規則性多孔質構造を含む外側表面層を生成する、多孔質構造の製造方法であって、
− 規則性多孔質構造の少なくとも1つの厚さを得ることを可能にするために十分な時間で平滑なアルミニウム基板に対して陽極酸化処理を実行することと、
− 次に、陽極酸化によって形成された前記外側表面層であって、そこから延びる外側表面層の厚さの一部分を機械加工によって取り除き、それにより、規則性多孔質構造のゼロではない厚さを保ちつつ、この規則性多孔質構造が残留層のない外側表面を形成することとを特徴とする方法に関する。
【0020】
平滑なアルミニウム基板の単一の陽極酸化により得られた多孔質構造は、不完全に規則性の、すなわち、同じ横断面(形状および寸法)の直線チャネル形状の孔であって、径方向の平面内で平行に隣接し、かつ径方向の平面内で均一に分布した孔を有さない多孔質構造の厚さを、その外面側に有する。しかし、陽極酸化時間が十分に長ければ、多孔質構造は、この規則性のない多孔質構造の下にある完全に規則性の多孔質構造、すなわち同じ横断面(形状および寸法)の直線チャネル形状の孔であって、径方向の平面内で平行に隣接し、かつ径方向の平面内で均一に分布した孔を有する多孔質構造も有する。
【0021】
このように、平滑な、すなわち5nm未満の測定表面粗度を有し、結果的に先行する陽極酸化(ダブル陽極酸化方法)か、機械的ナノインデンテーションステップから生じた複数の凹部を有さないアルミニウム基板により陽極酸化を直接実行することのみにより、実際に、陽極酸化時間が十分に長い場合、表面に延びる不完全に規則性の多孔質層の下に、規則性多孔質構造の厚さを製造することが可能になる。本発明によれば、規則性多孔質構造の孔を表面に貫通させるように、この不完全に規則性の層に相当する厚さが機械的な加工によって取り除かれる。
【0022】
特に、本発明による方法において、1XXXシリーズのアルミニウム合金、例えば1050Aアルミニウム合金、または特に4Nアルミニウムおよび5Nアルミニウムからなる群から選択される精製アルミニウムからなる基板から陽極酸化処理を実行する。
【0023】
本発明による方法において、多孔質構造の少なくとも1つの厚さを含む外側表面層は、前記外側表面層の成長速度によって決まる陽極酸化時間後に得られる。しかるに外側表面層の成長速度は、多孔質構造の物理的特性を実現するために選択される操作条件によって決まる。
【0024】
このように、本発明による方法は、単一の陽極酸化で、かつその後の選択的溶解の化学処理も、電気化学分離も必要とせずに、規則性多孔質構造のゼロではない厚さを有する多孔質構造を迅速かつ簡易に製作することを可能にする。この規則性多孔質構造は、外面と呼ばれる、少なくともこれらの面の1つに開口した多孔質と、マイクロメートル規模で制御される規則性多孔質構造の厚さとを有する。
【0025】
そのために、本発明による製造方法の可能な変形形態によれば、重ねられた規則性多孔質構造の複数の厚さを含むように、外側表面層を製作することは妨げられない。これらの様々な厚さは、複数の連続陽極酸化ステップを含む陽極酸化処理によって特に得られ、前記陽極酸化処理ステップのいずれもその後に、陽極酸化によって形成された層の厚さの一部分の選択的化学溶解処理も、電気化学分離も続かない。この変形形態において、様々な陽極酸化処理ステップは、陽極酸化電圧、陽極酸化溶液の温度、陽極酸化溶液の化学組成、陽極酸化電流密度から形成される群から選択される、陽極酸化パラメータの少なくとも1つを、2つの連続した陽極酸化ステップの間で修正する陽極酸化条件において実行される。
【0026】
本発明による方法において、陽極酸化によって形成された前記層の厚さの一部分の取り除きを実行するために、機械加工によって物質を取り除くあらゆる既知の方法を使用でき、前記厚さの一部分は、規則性多孔質構造のゼロではない少なくとも1つの厚さを保ちつつ、かつこの規則性多孔質構造が残留層のない外側表面を形成するように、前記層の外側表面から延びている。
【0027】
本発明による方法において、機械加工とは、物質の粒子の表面を取り除くあらゆる適切な方法を意味する。本発明による方法において、機械加工によって取り除かれる物質のこれらの粒子は、固体状態の粒子である。しかしながら、本発明による方法において、機械加工によって取り除かれる物質の粒子は気体状態であっても良い。
【0028】
本発明による方法において、化学的浸食による処理、特に前記多孔質層の孔に毛管現象により浸透し、かつ多孔質構造の孔の形状および寸法を修正する可能性がある溶液により陽極酸化で形成された層の化学処理を除き、機械加工により物質を取り除く、あらゆる既知の方法を使用できる。
【0029】
かかる機械加工は、単一のステップで、または逆に複数の連続ステップによって実行できる。かかる機械加工は、様々な加工ステップの際に利用される単一の機械加工技術によって、または逆に連続機械加工ステップの際の複数の機械加工技術の利用によっても実行できる。
【0030】
本発明によるかかる機械加工は、イオン流束を利用するイオン研磨、特に精密イオン研磨システム(「Precision Ion Polishing System」のPIPS)によって、または二次イオン質量分析計(「Secondary Ions Mass Spectrometry」のSIMS)の一次ブロードエネルギービームを使用して特に実行できる。
【0031】
特に、PIPSにより物質を取り除くことによる機械加工方法において、数時間、特に1時間〜20時間、とりわけ3〜6時間、陽極酸化された外側表面層に、約1.33×10−3Paの二次真空下で1keV〜6keV、特に約5keVの電圧で加速された少なくとも1つのアルゴンイオン流束を受けさせる。
【0032】
好適には、かつ本発明によれば、陽極酸化によって形成された多孔質層の外側表面に適用する機械的研磨によって、すなわち可動研磨固体工具を用いて固体間の動的摩擦によって、かつ前記可動研磨固体工具に対して圧力を及ぼすことによって、前記厚さの一部分が取り除かれる。
【0033】
好適には、かつ本発明によれば、前記機械的研磨は、外側表面が平坦な規則性多孔質構造を得るように実行される。
【0034】
特には、陽極酸化によって形成された多孔質層の外側表面にのみ影響を及ぼし、かつ多孔質構造の厚さにおいて、規則性多孔質構造の孔の直径にも、研磨処理中に現れた前記孔の形状にも影響を及ぼさない、特に機械的研磨による機械加工処理によって、前記厚さの一部分を取り除く。この機械的研磨処理は、陽極酸化によって形成された多孔質層の厚さだけでなく、前記層の孔の形状および直径にも必然的に影響を及ぼす化学溶解処理と区別される。
【0035】
好適には、かつ本発明によれば、研磨懸濁液と呼ばれる水相中の粉末の懸濁液を含浸した布片、特にフェルト片を用いて機械的研磨を実行し、前記粉末はダイヤモンドおよびセラミックス、特に鋼玉から構成される、研磨鉱物の群から選択された少なくとも1の鉱物を含む。
【0036】
本発明による研磨懸濁液を含浸した布片の使用は、規則的かつ非常に精巧な研磨を得ることを可能にする。さらに、機械的研磨中でも、陽極酸化によって得られた多孔質層表面の永続的給湿と、その温度維持も可能にする。このように、前記研磨中の陽極多孔質構造の劣化を回避する。
【0037】
研磨鉱物の選択は、更に多孔質構造の研磨速度を制御するように、前記鉱物の硬度を選択することを可能にする。いずれにせよ、研磨懸濁液中に含まれる研磨鉱物の硬度は、組成が、アルミナ、特にアルミニウムの酸化、水酸化、および/またはオキシ水酸化誘導体ベースである多孔質層の硬度よりも高い。
【0038】
好適には、かつ本発明によれば、単一のステップで、または逆に複数の連続研磨ステップで機械的研磨を実行し、前記連続研磨ステップの各々は、研磨懸濁液によって実行され、連続研磨ステップの各々の研磨懸濁液は、ステップ毎に減少した粒度を有するように選択される。
【0039】
好適には、かつ本発明によれば、精巧でなく、かつ迅速な研磨から、精巧で、かつ緩速の研磨に及ぶ研磨ステップの連続によって機械的研磨を実行する。鉱物粉末の粒径の選択は、多孔質構造の研磨速度も、多孔質構造の表面仕上げ品質も制御することを可能にする。
【0040】
減少した粒度の研磨懸濁液により実行される連続的な研磨ステップは、多孔質構造表面に、低い粗度および優れた仕上げを与えながら、研磨時間を減少させることを更に可能にする。
【0041】
好適には、かつ本発明によれば、研磨懸濁液を含浸した布片により複数の連続研磨ステップの各研磨ステップを実行し、前記布片は、振動支持体および回転支持体から形成される群から選択される剛性支持体の表面に適用される。
【0042】
特に、研磨懸濁液を含浸した布片により複数の連続研磨ステップの各研磨ステップを実行し、前記布片は、振動支持体および回転支持体から形成される群から選択される剛性支持体の表面に適用され、布片および剛性支持体の最小の大きさは、外側表面層の最大の大きさよりも大きい。
【0043】
好適には、かつ本発明によれば、30rad/s未満、特に2rad/s〜20rad/sの回転速度を有する回転支持体により複数の連続研磨ステップの各研磨ステップを実行する。機械研磨中に多孔質層表面に適用される圧力は、特に1kPa〜50kPaである。
【0044】
好適には、かつ本発明によれば、平均粒度が0.8μm〜1.5μm、特に約1μmであるダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による第1の研磨ステップと、平均粒度が0.2μm〜0.4μm、特に約0.25μmであるダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による第2の研磨ステップとによって機械的研磨を実行する。
【0045】
好適には、かつ本発明によれば、機械的研磨の全時間は、30分未満、特に10分〜20分である。この時間は、実際に陽極酸化の際に外側表面に形成された非規則性多孔質層の厚さ全体を除去することを可能にする。
【0046】
本発明による方法の変形形態において、平均粒度が0.25μmに近いダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による、約20分間の単独機械研磨ステップを実行することが可能である。
【0047】
本発明による方法のもう1つの変形形態において、3つの連続機械研磨ステップを実行することが可能である。3つの機械研磨ステップを次々に実行し、これら3つのステップの各々が約10分間である。平均粒度が1μmに近いダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による第1の機械研磨ステップ、次に平均粒度が0.25μmに近いダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による第2のステップ、および最後に平均粒度が0.10μmに近いダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片による第3のステップを実行する。
【0048】
3つを超える連続ステップにより機械研磨を実行することを妨げるものではない。例えばPIPS、SIMSおよび上述の研磨技術から選択された、別個の加工技術による機械加工ステップを実行することを妨げない。
【0049】
好適には、かつ本発明によれば、15μm〜25μm、特に約17μm〜20μmの外側表面層の厚さを取り除く。この厚さは、少なくとも、陽極酸化によって形成された層の外側表面から延びる完全に規則的でない多孔質構造の厚さに相当する。
【0050】
好適には、かつ本発明によれば、25μm〜300μm、特に100μm〜200μmの厚さ全体を有する、陽極酸化により形成された外側表面層を得るのに適切な時間で平滑なアルミニウム基板に対して陽極酸化処理を実行する。
【0051】
好適には、かつ本発明によれば、平滑なアルミニウム基板に対して単一の陽極酸化処理を実行し、前記処理は、1時間〜12時間、特に約4時間の時間を有する。
【0052】
このように、本発明による方法は、少なくとも1つの陽極酸化ステップ、次に多孔質構造が、完全に規則性でない外側表面層の厚さの一部分を取り除くステップを含む単一の陽極酸化処理を実行することからなる。本発明による方法によれば、陽極酸化処理の終了を示す陽極酸化ステップは、特に機械研磨による機械加工処理が直後に続く。
【0053】
好適には、かつ本発明によれば、陽極酸化によって形成された規則性多孔質構造の厚さが、1μm〜150μm、特に50μm〜150μmとなるのに適切な時間で平滑なアルミニウム基板に対して単一の陽極酸化処理を実行する。
【0054】
好適には、かつ本発明によれば、酸、特に硫酸、硫酸とホウ酸の混合物、シュウ酸、リン酸、マロン酸、酒石酸およびクエン酸の水溶液から形成される群から選択される電解質水溶液中で陽極酸化を実行する。
【0055】
また好適には、かつ本発明によれば、孔が10nm〜500nm、特に100nm〜200nmの直径を有する規則性多孔質構造を提供するように組成が構成される電解質水溶液中で陽極酸化を実行する。
【0056】
更に好適には、かつ本発明によれば、−2℃〜+2℃、特に約−1.5℃−の温度で陽極酸化を実行する。
【0057】
好適には、かつ本発明によれば、19V〜240V、特に125V〜195Vの電圧下で、電解質としてリン酸を含む水溶液とともに陽極酸化を実行する。
【0058】
特に、本発明による方法において、単一ステップで、またはすぐに連続する陽極酸化ステップ全体で、少なくとも1つの陽極酸化、次に機械研磨処理を行う。規則性多孔質構造の少なくとも1つの厚さを含む多孔質構造を得る。このように、本発明による方法において、第1陽極酸化によって形成された層の非規則性構造の厚さの一部分の特に機械的研磨による取り除きを実施した後に、他の陽極酸化処理を行う必要はない。その結果、本発明による方法において、アルミニウム基板の陽極酸化による単一の処理を実施する。特に機械的研磨による非規則性構造の機械加工による取り除きステップ後、場合により他の後処理を実施できるが、化学または電気化学溶解も、陽極酸化による新規処理も行う必要はない。
【0059】
好適には、かつ本発明によれば、前記厚さの一部分を取り除いた直後に、非酸化アルミニウム基板と、前記層の非多孔質の厚さの一部分とを除去して、規則性多孔質構造のみを保存する。
【0060】
好適には、かつ本発明によれば、次に、多孔質構造の孔の直径を増加させるのに適した規則性多孔質構造の化学処理を実行する。
【0061】
かかる化学処理は、孔の隔壁を、孔と相対する前記隔壁の面から隔壁の内部の方向に部分的に溶解するために特に適している。発明者は、前記隔壁を構成する物質層の化学組成が、孔の放射軸により異なることを観測した。孔と相対する、隔壁を構成する物質層の面の化学組成は、酸化、水酸化、および/またはオキシ水酸化アルミニウムベースの混合物であり、かつ陽極酸化に使用される電解液から生じた化合物を20%まで含む。それに反して、前記隔壁の内側部分は、基本的に酸化、水酸化、またはオキシ水酸化アルミニウムから構成される。
【0062】
この孔の開口処理の時間選択、並びにこの処理のために選択される化学剤の性質は、孔の内部に溶解した物質層の厚さを制御可能にし、結果的に、規則性多孔質構造の孔の最終的な直径を決定可能にする。
【0063】
本発明は、同様に、上記または下記に言及した特徴の全部または一部を組み合わせて特徴とする多孔質構造の製造方法にも関する。
【0064】
本発明の他の目的、特徴および利点は、非限定的な例としてのみ与えられて本発明の好適な実施形態を示した添付図面を参照して後述の説明を読むことで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】a〜eは、本発明による方法の連続ステップを示す、厚さおよび幅の縮尺が実際と異なる実施例の断面図である。
【図2】本発明による方法の概略フローチャートである。
【図3】本発明による規則性多孔質構造の成長軸に沿った断面の電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示す。
【図4】アルミニウム基板を有さないが、バリア層を有する本発明による規則性多孔質構造のバリア層の側から見た電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示す。
【図5】陽極酸化後、かつ機械研磨前の本発明による外側表面層の外面の電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示す。
【図6】機械研磨後の本発明による規則性多孔質構造の外面の電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示し、前記多孔質構造は、陽極酸化の方向に対して傾斜している。
【図7】本発明による規則性多孔質構造の外面の電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示し、前記多孔質構造は、陽極酸化の方向に対して傾斜しており、かつアルミニウム基板も、バリア層も含まず、前記多孔質構造は、「ハニカム」タイプのナノ構造化の特徴を示す。
【図8】「スズメバチの巣」タイプのナノ構造化の特徴を示す、アルミニウム基板及びバリア層がない本発明による規則性多孔質構造の外面の電界走査電子顕微鏡法(MEB−FEG)の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1aは、陽極酸化処理24用の基板となり、かつ本発明による規則性多孔質構造7を得ることを可能にするアルミニウムまたはアルミニウム合金片1を示す。このアルミニウム片1は、後述する片1の物理または化学処理の集合を受ける、外面2と呼ばれる少なくとも1つの面を有する。使用されるアルミニウム基板は、例えば1XXXシリーズのアルミニウム合金、例えば1050A合金、または4Nタイプ(純度99.99%)若しくは5Nタイプ(純度99.999%)の精製アルミニウムで形成できる。
【0067】
基板の前処理18
片1の前処理を実行し、その陽極酸化24のために準備する。この前処理18は、規則性多孔質構造7の厚さが得られ易くすることを目的とする。それは、一方で、水溶液での片1の湿潤性を増加させ、かつ他方で片1の表面の既存の傷を削減または除去することを可能にする。前処理18は、片1と陽極酸化溶液24との間に一様な接触を確立することに寄与する。片1の構造の傷を除去することによって、外面2が平滑で測定表面粗度が特に5nm未満である基板を得る。片1のこの前処理18は、一連の4つの処理19、20、21、22を含む。
【0068】
第1の処理19は、有機または水性化学溶剤を用いた片1の脱脂である。この第1の処理は、前記片1を形成する前述の処置、例えば圧延に由来するシミ、脂肪、油または潤滑剤を溶解させ、かつ次にすすぎによって除去することを可能にする含水アルコール溶液中での片1の浸漬によって行うことができる。片1は、次に蒸留水ですすがれる。
【0069】
第2の処理20は、片1の表面の粗度を減少させ、したがって平滑な基板を得ることを可能にする機械的研磨である。基板表面の前加工が、規則性多孔質構造を得るのに有利であると一般的に考えられる先行技術に反して、発明者は逆に、できる限り平滑かつ一様な外側表面から陽極酸化を実行することが好ましいことを証明した。実際、基板の外面2に不規則に分布されていることが知られている基板構造の傷は、不規則な孔の形成、および不完全な規則性多孔質構造の成長の原因である。アルミニウムの測定表面粗度を5nm未満の値に調整するために、次第に微細になり、回転または振動する研磨ディスクを順次使用し、次に研磨懸濁液を含浸した布、特にフェルト片を使用する。典型的には、ダイヤモンド粒子の平均寸法が約1μmである、ダイヤモンド粉末懸濁液を含浸した織物は、本発明による方法の実行に適した仕上がりが得られる。機械的研磨20の終了の際に、片1を蒸留水ですすぐ。
【0070】
第3の処理21は、内部拘束を解放し、かつアルミニウム粒子の寸法を成長させることを目的とする、片1の熱処理からなる。熱処理21中の片1の酸化を回避するために、かつ高温でのアルミニウムの酸化反応速度論の速さを考慮して、この熱処理21は、非酸化性雰囲気下で、典型的には中性、更には還元性雰囲気下で、すなわち不活性ガス雰囲気下、典型的には窒素雰囲気下でまたは部分真空下で好適に実行される。片1は、350℃〜600℃、好ましくは450℃の温度で炉内で加熱される。熱処理は、0.1時間〜8時間、特に0.5時間〜5時間、好ましくは1時間、窒素雰囲気下で450℃の有効温度で続ける。
【0071】
第4の処理は、片1の電解研磨22である。それは、上述したように、できる限り平滑とすべき片1の外面2の表面状態を改善することを目的とする。このために、片1は、1分〜1時間の間、20℃〜30℃の温度に調節された浴を含む電解槽中で、25V〜26Vの電圧下での電解を受ける。前記浴は、アルカリ浴または酸浴であっても良い。例えばJacquet浴のことである。特に、Jacquet浴は、33体積%の過塩素酸および66体積%の氷酢酸の混合物から構成され、片1は、電解の陽極を構成する。典型的には、本発明による電解研磨22は、20℃に温度調節されたJacquet浴中で、25Vでの電解によって片1を2分間、処理して得られる。片1は、次に蒸留水ですすがれ、かつすすぎの直後に陽極酸化処理24を受ける。
【0072】
基板の前処理18の結果、外面2が、低く、かつ規則的な測定表面粗度、特に5nm未満の測定表面粗度を有する片1が得られる。
【0073】
この片1は、陽極酸化24と、それに続く研磨25を含む処理23によって規則性多孔質構造7を調製するために使用される。
【0074】
陽極酸化24
片1は、片1が陽極を構成する、単一の陽極酸化24を受ける。単一の陽極酸化24とは、多孔質構造の中間の化学または電気化学処理ステップのない、単一の陽極酸化ステップか、連続陽極酸化ステップを含む処理を意味する。陽極酸化条件は、好ましくは例えば、Lee W.,Ji,R.,Gosele,U.およびNielsch K.,(2006),Nature Mat.,5;9,741−747「Fast fabrication of long−range ordered porous alumina membranes by hard anodization」という文献に記載されたような「硬質陽極酸化」タイプである。
【0075】
これらの操作条件において、アルミニウムの酸化速度は、好適には形成されたアルミナの電解質による溶解速度を上回る。陽極酸化24は、残留アルミニウム層4によって支持される外側表面層3を含む陽極構造35の形成を引き起こす。
【0076】
陽極酸化24は、硫酸、硫酸とホウ酸の混合物、シュウ酸、リン酸、マロン酸、酒石酸またはクエン酸から選択される電解質中で行うことができる。
【0077】
典型的には、硫酸とホウ酸の混合物を電解質として使用すると、300μmまで達する構造35の厚さを得ることが可能になる。しかし、陽極構造35のかかる厚さは、その厚さ全体に対して規則性多孔質構造7を有さない。
【0078】
大きな厚さの規則性多孔質構造7の形成を促進するために、例えば温度が−2℃〜+2℃、好ましくは−1.5℃に調節された電解槽中で、1%〜8%、好ましくは8%の質量濃度を有するリン酸水溶液を用いる。多孔質構造の均質かつ規則的な成長を促進するために、溶液は、撹拌によって連続的に均質化される。アルミニウム片1に適用される電圧は、典型的には125V〜195Vである。
【0079】
陽極酸化処理24は、外側表面層3が十分な厚さを有し、かつ外側表面層3がその厚さの一部分に対して規則性多孔質構造7の厚さを有するために十分な時間行われる。上述の好ましい操作条件において、例えば4時間の陽極酸化時間に関して厚さ130μmの外側表面層3が得られる。
【0080】
図1bは陽極構造35を図式化する。図1bは、単に図式化したものであり、例示的であり、縮尺は守られていない。陽極構造は、外側表面層3を支持する非酸化残留アルミニウム層4を含む。外側表面層3は、残留アルミニウム層4と外側表面層3との間の界面となる内面6と、孔8の開口しない端部となる外面10とで画定する緻密層とも呼ばれる非多孔質バリア層5から構成される。更に、外側表面層3は、外側表面層3の外面から規則性/非規則性の界面14まで延びる非規則性多孔質層11を規則性多孔質構造7とともに含む。規則性多孔質構造7には、陽極構造35の外面2に直交し、陽極酸化方向に相当する主方向に沿う軸方向に延びて直線管形状で直径が一定の物質の空孔8と、その孔8を分離する隔壁9とが規則的に並置されている。隔壁9は、多孔質構造7の厚さ全体に対して一定の厚さを更に有する。陽極酸化24の条件によれば、2つの隣接する孔の中心を結ぶ平均距離は、50nm〜600nmの値を取り、かつ前記孔の平均直径は、10nm〜500nmの値を取る。非規則性多孔質層11は、形状、配向および寸法が異なる物質の空孔が不規則的に並置され、非多孔質層11全体に対して形状、配向および厚さの寸法が異なる隔壁によって分離されてなる。
【0081】
実際に、規則性多孔質構造7に重ねられた非規則性多孔質層11が、前記規則性多孔質構造7の外側表面を部分的に覆い、かつ塞ぐことが確認された。
【0082】
研磨25
本発明によれば、非規則性多孔質層11は、次に規則性多孔質構造7の少なくとも1つの厚さが現れるように、陽極構造35から除去される。
【0083】
本発明の好ましい実施形態によれば、非規則性多孔質層11は、特に少なくとも1つの機械的研磨処理25によって物質を取り除くことによって除去される。そのために、外側表面層3の外面に対して、回転装置等の剛性円盤状で平坦面の中実工具12であって、表面に研磨懸濁液で予め含浸した布、特にフェルト片13が固定された工具12を適用する。
【0084】
研磨懸濁液は、硬度並びに寸法に特徴のある水中不溶性の粒子の水性分散からなる。研磨懸濁液の固体粒子は、固体研磨材料、例えばダイヤモンドおよびセラミックス、特に鋼玉からなる群から選択される。
【0085】
平均直径が約1μmであるダイヤモンド粒子の懸濁液からなる研磨懸濁液を用いて、数分間、例えば10分間、外側表面層3の外面に対する研磨により、非規則性多孔質層11の第1部分が除去される。この第1の研磨ステップ後に、多孔質層の表面は、蒸留水ですすがれる。続く第2ステップにおいて、非規則性多孔質層11の第2部分は、粒子の平均直径が0.25μmであるダイヤモンド粒子の水性懸濁液からなる研磨懸濁液を用いて、数分間、例えば10分間、陽極構造35の外面に対して精密研磨によって除去される。
【0086】
このようにして機械的研磨25によって外側表面層3の1つの厚さを除去する。その厚さは、15μm〜25μm、特に約17μm〜20μmであり、非規則性多孔質層11の厚さに相当し、片15の平坦かつ粗くない外側表面16に、規則性多孔質構造7の厚さが現れる。
【0087】
平均寸法が1μmのダイヤモンド粒子を用いて研磨25の時間を増加させると、規則性多孔質構造7のゼロではない少なくとも1つの厚さを保護するように、外側表面層3の外面の研磨25を拡張することが可能である。
【0088】
非規則性多孔質層11の除去により、外側表面層3の外面の研磨25から生じた片15を図1cに概略的に示す。この片15は、残留アルミニウム層4上に支持される陽極酸化層36を含み、前記陽極酸化層36は、横断方向の多孔質を有するが、バリア層5およびアルミニウム層4が存在するため貫通していない。
【0089】
表面の機械的研磨25による非規則性多孔質層11の除去は、規則性多孔質構造7の外側表面16で、孔8の径方向分布を無傷な状態で保つことを可能にする。特に、表面の機械的研磨25による非規則性多孔質層11の除去は、孔8の直径の値を変えずに、陽極酸化24の終了時に有する値と等しい値に保つことを可能にする。
【0090】
構造特性の調整26、30
図1cに図示された片15では、外側表面16に、六角形の網目状に、すなわち「ハニカム」形態に組成された環状横断面を有する管状孔8を均一に分布している。孔8は、環状横断面を有し、例えば、約250nmの直径を有する。
【0091】
幾つかの用途において、この片15は、他の変更なしに、バリア層5および残留アルミニウム層4と共に使用できる。他の用途においては、この片15には、片15の機能特性を調整できる後処理26、30の少なくとも1つが課される。
【0092】
後処理30の第1の変形形態において、陽極酸化層36および残留アルミニウム層4の電気化学的分離31によって残留アルミニウム層4を除去する。この分離31は、5%〜20%、典型的には16%の質量濃度、および25℃〜35℃、典型的には30℃の温度で、30分間、30ボルトの交流電圧下で、撹拌されたリン酸溶液中で行われる。さらに、この処理30は、バリア層5の除去、並びに孔8の開放を特に多孔質構造33の内面上で同時に引き起こす。得られた片34は、規則性多孔質構造7の2つの面(外面16および内面17)を横断して貫通する多孔質を有し、図1eに示される。
【0093】
後処理30の第1の変形形態において、次に規則性多孔質構造7の孔8の拡大を引き起こす、化学溶解により処理32を実行することもできる。そのために、5%〜16%、典型的には16%の質量濃度を有するリン酸溶液中に片34を浸漬する。リン酸の処理32の時間および質量濃度は、孔8の直径を、例えば規則性多孔質構造7中の2つの隣接孔の中心を分離する距離とほぼ同じ直径の値に達するまで増大させるように選択される。
【0094】
後処理26の第2の変形形態において、機械的研磨25の結果得られた片15に対して、片15の構成要素の選択的溶解による一連の3つの処理27、28、29すなわち、孔8の開口を制御する第1の処理27、残留アルミニウム層4を化学/レドックス溶解する第2の処理28、次にバリア層5を化学溶解する第3の処理29が実行される。
【0095】
第1の処理27は、隔壁9の部分的化学溶解からなり、孔8の直径を、使用される酸の反応時間および質量濃度によって決まる値まで増大させることができる。この第1の処理27は、孔8の直径だけでなく、横断面の幾何学的形状も、環状断面から六角形断面まで完全に制御することを可能にする。この第1の処理27はさらに、バリア層5にも残留アルミニウム層4にも影響を及ぼすことなく、孔8の直径を変更することを可能にする。
【0096】
特に25〜35℃に調節した温度で、5〜16%の質量濃度を有するリン酸溶液中に片15を浸漬することにより、前記第1の処理27が行われる。典型的には、リン酸溶液の濃度は16%であり、かつ温度は30℃である。処理時間は、陽極酸化層36の表面16での所望の幾何学的形状に従って変化する。65分の処理時間により、孔8が六角形に整えられ、かつ「スズメバチの巣」形態による六角形の横断面、約400nmの直径を有する規則性多孔質構造7となる。中間処理時間により、孔の直径が250nm〜400nmの値を取る、「ハニカム」形態と「スズメバチの巣」形態との間の中間形態となる。
【0097】
アルミニウム層4の化学またはレドックス溶解による第2の処理28によって、特に残留アルミニウム層4を除去することができる。周囲温度で、酸化溶液中に片15を浸漬する。この酸化溶液は、濃度0.1モル/LのCuClまたはCuClと、質量濃度18%の塩酸との混合液であっても良い。この浸漬は、金属アルミニウムの酸化と銅カチオンの還元を同時にもたらす。Al3+/Al対との大きなレドックス電位差を有する他のレドックス対は、特にHg2+/Hg対が好適には使用できる。
【0098】
第2の処理28の変形形態において、周囲温度で、特にガリウムまたは水銀の液体の金属を、残留アルミニウム層4のアルミニウムとアマルガム化することが行われる。アマルガムの抽出により、支持体のアルミニウムの除去が可能になる。
【0099】
この第2の処理28は、アルミニウム基板なしで横断しているが、バリア層5が存在するために貫通していない多孔質を有する片33を生成する。
【0100】
第3の処理29は、5%〜20%、例えば約16%の質量濃度を有するリン酸溶液中への片33の浸漬によるバリア層5の化学溶解からなり、前記溶液の温度は、25℃〜35℃、特に30℃に調節される。
【0101】
このようにして、片34の2つの面を横断して貫通している多孔質を有する規則性多孔質構造7からなる片34が得られる。
【0102】
硬度が低い、特に約150Hvの片34は、次にその硬度を、特に2000Hvの値まで増大させるために熱処理される。
【実施例1】
【0103】
円盤形状で、直径10−2m、厚さ10−3mの4N品質の精製アルミニウム片1は、研磨器、研磨ディスク、および平均寸法が1μmまで減少したダイヤモンド粒子の懸濁液を含浸した布を用いて機械的に研磨20される。研磨の合計時間は、約20分から30分である。次にアルミニウム片1は蒸留水ですすがれ、窒素雰囲気下、450℃で2時間、炉内に置かれる。冷却後、アルミニウム片1は、体積組成が、33%の過塩素酸および66%の氷酢酸であり、25Vの電圧下で2分間、20℃に調節されたJacquet浴中で電解研磨処理22される。
【0104】
電解研磨処理22の終了直後、アルミニウム片1は、速度37rad/sの回転撹拌により均質化し、−1.5℃の温度に調節した、8(質量)%のリン酸の水性浴を含む陽極酸化タンク内に置かれる。電圧は180Vに固定し、陽極酸化時間は4時間である。
【0105】
陽極酸化24後、研磨25前に得られた外側表面層3の外面2の電界走査電子顕微鏡法での分析を図5に示す。この写真は、表面全体に不規則的に分布し、かつ寸法および形状が不均質な横断面を有する複数の孔を示す。さらに、これらの少数の孔が、貫通した多孔質を有することに気付く。
【実施例2】
【0106】
アルミニウム片1を、実施例1に記載されたように調製し、185Vの電圧下で、4時間陽極酸化する。
【0107】
陽極酸化後、10分間、平均直径が1μmのダイヤモンド粒子の懸濁液を含浸したフェルト片を用い、次いで、さらに10分間、平均直径が0.25μmのダイヤモンド粒子の懸濁液を含浸したフェルト片を用いて陽極構造35の外側表面を研磨25により除去する。
【0108】
次に、16%の質量濃度を有し、30℃の温度に調節され、1時間、速度37rad/sの回転撹拌により均質化されるリン酸溶液によって多孔質構造を支持するアルミニウム片1を処理する。
【0109】
すすぎ後、残留アルミニウムの厚さが完全に溶解するまで、20℃の温度で、CuClおよびHClの溶液によって多孔質構造を支持するアルミニウム片1を処理する。
【0110】
得られた規則性多孔質構造7の縦断面の電界走査電子顕微鏡法での分析を図3に示す。平均幅が360nmであって多孔質構造の成長方向に沿って伸びる、並置された線形管の断面が観察される。
【実施例3】
【0111】
アルミニウム片1を、実施例1に記載されたように調製し、次に185Vの電圧下で、4時間陽極酸化し、最後に実施例2に記載されたように機械的研磨を行う。
【0112】
すすぎ後、残留アルミニウムの厚さが完全に溶解するまで、20℃の温度に調節されたCuClおよびHClの溶液中に規則性多孔質構造物を浸漬する。残留金属アルミニウム層4なしに、横断しているが、バリア層5により貫通していない多孔質を有する片33が得られる。
【0113】
片33のバリア層5の表面の電界走査電子顕微鏡法での分析を図4に示す。中心を揃えた六角形の配列により規則的に整えられ、この六角形を描く円の平均直径が460nmとなる断面が六角形であって、貫通していない六角形の並置が観察される。
【0114】
他方で、片33の研磨された外面2の電界電子顕微鏡法での分析を図6に示す。環状断面で規則的に整えられ、平均直径が300nmの孔8の六角形配列が観察される。
【実施例4】
【0115】
アルミニウム片1は、実施例1に記載されたように調製され、次に180Vの電圧下で、4時間陽極酸化され、最後に実施例2に記載されたように機械的に研磨を行う。
【0116】
すすぎ後、電気化学により、30V/50Hzの電圧下で、16%の質量濃度を有し、30℃の温度に調節し、45分間、速度37rad/sの回転撹拌により均質化したリン酸溶液中で多孔質構造15が処理される。バリア層5がなく横断して貫通しており、孔8の直径が拡大された多孔質を有して、残留アルミニウム層4がない片33が得られる。
【0117】
このように得られた規則性多孔質構造7の外側表面の電界走査電子顕微鏡法での分析を図7に示す。規則的に整えられ、平均直径が「ハニカム」タイプの240nmである環状断面を有して並置された孔が観察される。
【実施例5】
【0118】
アルミニウム片1は、実施例1に記載されたように調製され、次に210Vの電圧下で、15時間陽極酸化され、最後に実施例2に記載されたように機械的な研磨が行われる。
【0119】
すすぎ後、実施例4に記載されたように電気化学により、35V/50Hzの電圧下で、65分間、構造体15が処理される。規則性多孔質構造7の2つの面に対して横断して貫通した、バリア層5がない多孔質を有して、金属アルミニウム層4がない片33が得られる。
【0120】
このように得られた規則性多孔質構造7の外側表面の電界走査電子顕微鏡法での分析を図8に示す。中心を揃えた六角形の配列により規則的に整えられ、「スズメバチの巣」タイプの、かつ孔の平均直径が240nmである、六角形断面を有して並置された孔8が観察される。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図1e】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基板(1)の陽極酸化(24)により、多孔質構造(7)を含む外側表面層(3)を生成する多孔質構造(15、33、34)の製造方法であって、
− 規則性多孔質構造(7)の少なくとも1つの厚さを得ることを可能にするために十分な時間で平滑なアルミニウム基板(1)に対して陽極酸化処理(24)を行うことと、
− 次に、前記陽極酸化(24)によって形成された前記外側表面層(3)であって、そこから延びる前記外側表面層(3)の厚さの一部分を機械加工によって取り除き、それにより、規則性多孔質構造(7)のゼロではない少なくとも1つの厚さを保ちつつ、前記規則性多孔質構造(7)が残留層のない外側表面(16)を形成することとを特徴とする方法。
【請求項2】
前記厚さの一部分は、機械的な研磨(25)により取り除かれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
研磨懸濁液と呼ばれる水相中の粉末の懸濁液を含浸した布片(13)を用いて機械的な研磨(25)が実行され、前記粉末は研磨用鉱物の群から選択された少なくとも1の鉱物を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数の連続的な研磨ステップにより機械的な研磨(25)が実行され、前記連続的な研磨ステップそれぞれは、研磨懸濁液によって実行され、研磨の連続的なステップそれぞれの研磨懸濁液は、ステップ毎に減少した粒度を有するように選択されることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
研磨懸濁液を含浸した布片を用いて複数の連続的な研磨ステップの各研磨ステップが実行され、前記布片は、振動支持体および回転支持体から形成される群から選択される剛性支持体の表面に適用されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
平均粒度が0.8μm〜1.5μm、特に約1μmであるダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片を用いた第1の研磨ステップ、次に平均粒度が0.2μm〜0.4μm、特に約0.25μmであるダイヤモンド懸濁液を含浸したフェルト片を用いた第2の研磨ステップによって機械的な研磨(25)が実行されることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記外側表面層(3)の厚さの一部分が取り除かれ、前記外側表面層(3)の厚さの一部分の厚さが、15μm〜25μm、特に約17μm〜20μmであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに一項記載の方法。
【請求項8】
25μm〜300μm、特に100μm〜200μmの厚さを有する外側表面層(3)を得るために適切な時間で平滑なアルミニウム基板(1)に対して陽極酸化処理(24)が行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
平滑なアルミニウム基板(1)に対して単一の陽極酸化処理(24)が実行され、前記処理が、1時間〜12時間、特に約4時間の期間を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
陽極酸化(24)によって形成された規則性多孔質構造(7)の厚さが、1μm〜150μmとなるための適切な期間、平滑なアルミニウム基板(1)に対して単一の陽極酸化処理(24)が実行されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
オキソ酸水溶液、特に硫酸、硫酸とホウ酸の混合物、シュウ酸、リン酸、マロン酸、酒石酸およびクエン酸の水溶液から形成される群から選択される電解質水溶液中で陽極酸化(24)が実行されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
孔が10nm〜500nm、特に100nm〜200nmの直径である規則性多孔質構造を提供するように組成が構成される電解質水溶液中で陽極酸化(24)が実行されることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
−2℃〜+2℃、特に約−1.5℃の温度で陽極酸化(24)が実行されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
19V〜240V、特に125V〜195Vの電圧下で電解質としてリン酸を含む水溶液とともに陽極酸化(24)が実行されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記厚さの一部分を取り除いた直後に、非酸化アルミニウム基板(4)と前記外側表面層の非多孔質の厚さの一部分(5)とを除去して、規則性多孔質構造(7)のみを残すことを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
次に、前記多孔質構造(7)の化学処理を実行して前記規則性多孔質構造(7)の孔の直径を増大させることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−500969(P2011−500969A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530531(P2010−530531)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051921
【国際公開番号】WO2009/056744
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(506002731)ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER TOULOUSE III
【出願人】(509016944)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (5)