説明

アルミニウム塊の溶解方法

【課題】 従来技術に比べて更に着熱効率の向上及び燃料原単位の削減が可能であり、且つ二酸化炭素排出量の大幅な削減が可能な金属塊の溶解方法及びこの方法に使用される金属塊を提供すること。
【解決手段】 溶解炉内に金属塊を積層充填して金属塊充填体を形成し、前記金属塊充填体の下部を加熱して前記金属塊を下方から順次溶解するとともに、前記金属塊の溶解により生じる熱エネルギーを利用して前記金属塊充填体を予熱して該金属塊を溶解し溶湯を得る方法であって、前記金属塊の充填率が、前記溶解炉内に該金属塊を充填可能な最大容積の60〜70%であることを特徴とする金属塊の溶解方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品の製造工程における金属塊の溶解方法及びこの溶解方法に使用される金属塊に関し、より詳しくは、二酸化炭素排出量の大幅な削減と、着熱効率の向上及び燃料原単位の低減が可能な金属塊の溶解方法及びこの溶解方法に使用される金属塊に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品を鋳造する際に、その原材料として、略直方体状に成型された5kg(アルミニウム塊1本当たり5kg)のアルミニウム二次合金地金(以下、合金地金と称する)が使用される。この合金地金は、金属溶解保持炉にて加熱、溶解され、溶湯とされて脱酸及び脱ガス処理の後に各種の金属製品となる。金属溶解保持炉には、合金地金が溶解される溶解炉と、合金地金を加熱するバーナーが備えられている。
この合金地金が加熱、溶解される際に高温のガスが排出される。この高温のガスにより合金地金が予熱され、この予熱により合金地金の溶解が促進される。
しかしながら、合金地金では、溶解炉内に間隙が多く形成される。つまり、溶解炉内における合金地金の充填率は低い状態にある。そのため、溶解炉内で発生する熱エネルギーが有効に利用されず、合金地金の加熱、溶解のために多くの燃料を要するものであった。
【0003】
かかる実情に鑑みて、本出願人は溶解炉内で発生する熱エネルギーを有効に利用して金属への着熱効率を向上させ、金属の溶解速度を増加させる溶解方法を提案している(特許文献1参照)。
特許文献1の開示技術は、合金地金の形状を予め所定の形状(例えば四角錐台状)の金属塊として溶解炉に投入し、充填率を増加させるというものである。そうすることで高温ガスの熱エネルギーが有効利用されることとなり、着熱効率を向上させることができる。また、着熱効率が向上するに伴って燃料の使用量を削減することができる。
【0004】
上記したように、溶解炉内における金属塊の充填率を増加させると、着熱効率の向上や、燃料の使用量削減等を実現することができる。しかしながら、着熱効率を更に向上させ、燃料原単位の削減及び二酸化炭素排出量の大幅な削減が可能な金属塊の溶解方法及び金属塊が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−168573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術に比べて更に着熱効率の向上及び燃料原単位の削減が可能であり、且つ二酸化炭素排出量の大幅な削減が可能な金属塊の溶解方法及びこの方法に使用される金属塊を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、溶解炉内に金属塊を積層充填して金属塊充填体を形成し、前記金属塊充填体の下部を加熱して前記金属塊を下方から順次溶解するとともに、前記金属塊の溶解により生じる熱エネルギーを利用して前記金属塊充填体を予熱して該金属塊を溶解し溶湯を得る方法であって、前記金属塊の充填率が、前記溶解炉内に該金属塊を充填可能な最大容積の60〜70%であることを特徴とする金属塊の溶解方法に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の金属塊の溶解方法に使用される金属塊であって、比表面積が500〜650cm/kgであることを特徴とする金属塊に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、形状が四角錐状であることを特徴とする請求項2記載の金属塊に関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、形状が正四角錐状であることを特徴とする請求項2又は3記載の金属塊に関する。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記四角錐の底面の一辺が35〜55mmであり且つ前記底面の重心から頭頂点までの高さが35〜55mmであることを特徴とする請求項3又は4記載の金属塊に関する。
【0012】
請求項6に係る発明は、重量が80〜140g/個であることを特徴とする請求項2乃至5いずれかに記載の金属塊に関する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、溶解炉内に金属塊を積層充填して金属塊充填体を形成し、前記金属塊充填体の下部を加熱して前記金属塊を下方から順次溶解するとともに、前記金属塊の溶解により生じる熱エネルギーを利用して前記金属塊充填体を予熱して該金属塊を溶解し溶湯を得る方法であって、前記金属塊の充填率が、前記溶解炉内に該金属塊を充填可能な最大容積の60〜70%であることにより、金属塊の加熱、溶解の際の着熱効率を向上させることができ、金属の溶解速度を増加させることができる。また、溶解炉内で生じる熱エネルギーを有効に利用することができるため、燃料原単位を低減することができる。従って、燃料の使用量を大幅に削減することが可能となり、二酸化炭素の排出量を従来法よりも大幅に削減することが可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、請求項1記載の金属塊の溶解方法に使用される金属塊であって、比表面積が500〜650cm/kgであることにより、効率的に金属塊が溶解されるとともに、金属塊同士での熱エネルギーの伝導を向上させることができ、金属塊の溶解速度を向上させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、形状が四角錐状であることにより、該金属塊を溶解炉に積層充填させた際に高い充填率で充填させることができる。従って、着熱効率を向上させることができて、効率的に金属塊が溶解することとなる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、形状が正四角錐状であることにより、金属塊を溶解炉に投入する際、ランダムに投入しても密に充填することができる。そのため、熱エネルギーが効率的に伝わることとなり、金属塊の溶解を促進することができる。また、適度な空隙を形成しつつ高い充填率で充填することができるため、着熱効率を向上させることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、前記四角錐の底面の一辺が35〜55mmであり且つ前記底面の重心から頭頂点までの高さが35〜55mmであることにより、金属塊の中心部まで速く熱エネルギーを伝導させることができる。また、溶解炉に積層充填させた際に高い充填率で充填させることができる。従って、着熱効率を向上させることができるとともに、二酸化炭素の排出量を削減することができる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、重量が80〜140g/個であることにより、溶解炉への過剰な金属塊の投入を防ぎ、使用した溶湯分だけの供給が可能となる。従って、溶解炉内の温度低下を防止して効率的に金属塊が溶解することとなり、安定的に溶湯を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る金属塊の溶解方法を示す説明図であって、金属溶解保持炉の概略断面図である。
【図2】溶解炉内の空間率と金属塊加熱時の熱収支の関係を示す図である。
【図3】図1のA部分の図であって、溶解炉に形成された金属塊充填体の拡大図である。
【図4】実施例における熱収支を示す図である。
【図5】比較例における熱収支を示す図である。
【図6】対照例における熱収支を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る金属塊の溶解方法及びこの溶解方法に使用される金属塊について詳述する。
【0021】
図1は、本発明に係る金属塊の溶解方法を示す説明図であって、金属溶解保持炉の概略断面図である。
金属溶解保持炉(1)は、金属塊(M)が充填される溶解炉(2)と、金属塊(M)を加熱溶解するバーナー(B)と、溶解された金属、つまり溶湯(M1)が流通する溶湯流通部(3)と、溶湯流通部(3)を通過した溶湯(M1)が一旦貯留される溶湯貯留部(4)とから構成されている。
【0022】
先ず、金属塊(M)は、ベルトコンベア等の搬送装置(11)により溶解炉(2)の上部まで搬送され、投入口(21)から溶解炉(2)内に投入される。
ここで、溶解炉(2)の形状は円筒状あるいは角筒状とされ、所定の容積に設定されている。金属塊(M)は、溶解炉(2)内に所定量投入される。
溶解炉(2)に投入可能な金属塊(M)の最大量は、溶解炉(2)の容積によって適宜設定される。また投入された金属塊(M)の量は、溶解炉(2)の上部近傍に設けられる検知手段(22)により検知される。
【0023】
投入された金属塊(M)は、溶解炉(2)の下方から順に充填され、多数の金属塊(M)からなる金属塊充填体(M2)が形成される。
形成された金属塊充填体(M2)は、溶解炉(2)内の側壁に設置されたバーナー(B)により加熱される。バーナー(B)の設置箇所は、溶解炉(2)の上方、下方のいずれであってもよいが、金属塊充填体(M2)を効率的に加熱(予熱)するために、図1に示すように、溶解炉(2)の下方、具体的には溶解炉(2)と傾斜面(31)の境界付近に設置される。
バーナー(B)が溶解炉(2)の下方に設置されるため、金属塊充填体(M2)は底部から加熱される。
【0024】
金属塊充填体(M2)の底部に位置する金属塊(M)が先ずバーナー(B)により直接加熱され、溶解される。
上記したように、金属塊(M)の溶解に伴って高温のガスが発生する。発生した高温ガスは、溶解炉(2)内を上昇して投入口(21)から大気中へ放出される。
このとき、高温ガスの流通経路に存在する金属塊(M)(金属塊充填体(M2))は、ガスの熱エネルギーにより予熱される。従って、バーナー(B)で直接加熱されない金属塊(M)が予熱されることとなる。
金属塊(M)を予熱することで、金属塊(M)の溶解を効率的に行うことができ、溶解速度を増加させることができる。そのために、溶解炉(2)内での高温ガスの滞留時間を長くすることが好ましい。
【0025】
高温ガスの滞留時間を長くするため、溶解炉(2)内の空隙が少なくなるように金属塊(M)が充填される。つまり、溶解炉(2)において金属塊(M)を充填可能な最大容積に対して、高い充填率で金属塊(M)が充填される。
【0026】
ここで、溶解炉(2)内の空間率と金属塊加熱時の熱収支の関係を図2に示す。
図示の如く、空間率が高すぎる(金属塊(M)の充填率が低すぎる)と(右グラフ参照)、排ガス(高温ガス)損失が大きくなって着熱効率が低下する。一方、空間率が低すぎる(金属塊(M)の充填率が高すぎる)と(左グラフ参照)、炉体の放散及び蓄熱等によるその他損失が大きくなって着熱効率が低下する。
従って、図2中央グラフに示すように、高い着熱効率を得るために金属塊(M)の充填率を適当な範囲に設定する必要がある。
尚、空間率は溶解炉(2)容積(金属塊(M)を充填可能な容積)に対する空隙(V)(図3参照)の総量が占める割合である。また、空隙(V)とは、後述のように金属塊(M)間に形成される空間のことである。
【0027】
本発明において、金属塊(M)の充填率は、溶解炉(2)において金属塊(M)の充填可能な最大容積の60〜70%であり、好ましくは65〜70%である。
上記した充填率の範囲であると、従来の方法(後述の対照例)での充填率の場合に比して30〜50%着熱効率が高い、約85%の高い着熱効率を得ることができる。従って、金属塊(M)を効率的に溶解することができる。
更に、溶解炉(2)内に適度に空隙(V)が形成されているため、熱エネルギーは溶解炉(2)外へ放出され、過剰な熱エネルギーが溶解炉(2)内に保持されることがない。従って、溶解炉(2)を熱損する虞がなく、溶解炉(2)の稼働寿命を長くすることができる。
充填率が60%未満であると、金属塊(M)間の空隙(V)(図3参照)が大きくなるため、熱エネルギーが効率的に金属塊(M)同士で伝わりにくくなる。
一方、充填率が70%を超えると、金属塊(M)同士が密着した状態となる。この状態で加熱すると、バーナー(B)周辺の酸素(空気)が不足しやすくなるため、バーナー(B)の燃焼炎が消える虞がある。また、金属塊充填体(M2)内の酸素(空気)は、加熱に伴って不足することとなる。そのため、金属塊(M)同士で熱エネルギーが伝わりにくくなる。
従って、充填率が60%未満、あるいは70%を超えるといずれの場合も着熱効率が低下するため好ましくない。
【0028】
溶解炉(2)に投入される金属塊の比表面積は500〜650cm/kgであることが好ましい。
比表面積を上記した範囲に設定することで、高い充填率(60〜70%)を実現することができ、金属塊(M)に効率的に熱エネルギーが伝わることとなる。従って、金属塊(M)の溶解が促進され、溶解速度が速くなる。また、熱エネルギーが効率的に伝わるため、少ない燃料での溶解が可能となり、燃料の使用量を削減することができる。
比表面積が500cm/kg未満であると、上記した高い充填率とすることができない。そのため、溶解炉(2)(金属塊充填体(M2))内の空隙(V)の占める割合が大きくなって熱エネルギーが効率的に伝わらず、多くの熱エネルギー(燃料)を要する。一方、比表面積が650cm/kgを超えると、充填率が高くなり過ぎて着熱効率が低下する虞がある。
【0029】
金属塊(M)の形状は四角錐状であることが好ましく、直錐状の四角錐であることが好ましい。金属塊(M)を四角錐状とすることで、加熱(予熱)した際に、四角錐の頂点や稜部分から先ず溶解し、熱エネルギーが四角錐の中心部に向けて伝わることとなり、効率的に金属塊(M)が溶解される。
【0030】
更に、金属塊(M)の形状を全て同一の正四角錐状、即ち同じ比表面積の正四角錐状とすることで、金属塊(M)を均一に溶解することが可能となる。
通常、金属塊(M)はランダムに溶解炉(2)に投入される。金属塊(M)が様々な形状の混在物である場合や、四角錐状であっても大きさが同一でない場合は、図3に示すように密に充填することは困難である。
しかし、金属塊(M)を全て同じ比表面積の正四角錐状とすると、溶解炉(2)に金属塊(M)を投入した際に、図3に示すように、規則正しく充填されやすくなる。つまり、高い充填率の金属塊充填体(M2)を得ることができる。また、図3に示すように、空隙(V)も均一に形成されるため、上記した高温ガスの熱エネルギーが金属塊充填体(M2)の全体にわたって均等に行き渡ることとなる。
【0031】
図3に示すように、金属塊(M)が密に充填されることで、金属塊(M)間で熱エネルギーが伝わりやすくなり、着熱効率が向上する。
金属塊(M)の形状を正四角錐状とし、且つ比表面積を500〜650cm/kgの範囲で全て同じにすると、着熱効率を向上させることができる。
また、金属塊(M)間に適度な空隙(V)が存在するため、金属塊(M)の溶解の際に発生する高温ガスの熱エネルギーを行き渡らせることができ、金属塊充填体(M2)の全体を予熱することができる。そのため、金属塊(M)の溶解速度が速くなり、効率的に溶湯(M1)を得ることができる。その場合、従来の方法(後述の対照例)よりも燃料原単位を30〜60%削減することができる。また、燃料使用量の削減に伴って、二酸化炭素排出量を30〜40%削減することができる。
【0032】
また、金属塊(M)の大きさは、従来の方法に使用される同材質の金属塊(M)(例えば、対照例の5kgアルミニウム塊)よりも小さいことが好ましい。
金属塊(M)の大きさは、底面の一辺が35〜55mmで、且つ底面の重心から頭頂点までの高さが35〜55mmの四角錐型に設定される。
金属塊(M)の大きさを従来のものより小さい上記の範囲とすることで、溶解炉(2)に充填した際に高い充填率(60〜70%)とすることができるとともに、金属塊(M)の中心部まで速く熱エネルギーを伝導させることができる。従って、着熱効率の向上を図ることができるとともに、燃料原単位を削減することが可能となる。
四角錐状の金属塊(M)の底面の一辺が35mm未満であると充填率が高くなり過ぎ、一方、55mmを超えると充填率が低くなり過ぎることとなり、いずれの場合も着熱効率が低下するため好ましくない。
【0033】
金属塊(M)の重量は、80〜140g/個であることが好ましい。
金属塊(M)の重量を上記した範囲に設定することで、使用した溶湯(M1)の分だけ金属塊(M)を供給することができる。つまり、溶解炉(2)への金属塊(M)の投入(供給)量を調節することができる。従って、溶解炉(2)内の温度低下を防止することができ、効率的に金属塊(M)が溶解することとなる。
一方、従来の金属塊(M)(後述の対照例)のように大きいと、使用した溶湯(M1)の量に相当する金属塊(M)よりも多い金属塊(M)が溶解炉(2)に供給される虞がある。そうすると、溶解炉(2)内の温度が低下して、十分に金属塊充填体(M2)が予熱されなくなり安定的に溶湯(M1)を得ることが困難となる。
【0034】
また、金属塊(M)を、例えば上記した大きさ及び重量の正四角錐状とした場合、従来のもの(対照例の5kgアルミニウム塊)よりも金属組織を微細化でき、機械的性質(例えば引張強度)を向上させることができる。
【0035】
また、後述の対照例のような大きい金属塊(M)を溶解炉(2)に投入すると、溶解炉(2)内壁を損傷する虞がある。しかし、上記した小さい金属塊(M)とすることで、溶解炉(2)への投入時の衝撃を低減することができ、内壁の損傷を防止することができる。従って、溶解炉(2)の稼働寿命を長くすることが可能である。
【0036】
金属塊(M)の材質は特に限定されず、鉄、非鉄金属のいずれであってもよいが、同じ材質とされる。本発明においては、様々な金属製品の原料として汎用可能なアルミニウムが好適である。
【0037】
溶解炉(2)において溶解された金属は溶湯(M1)となって図1に示す傾斜面(31)に沿って溶湯流通部(3)に流れ込む。溶湯流通部(3)を通過した溶湯(M1)は溶湯貯留部(4)に流れ込み、一旦貯留される。溶湯(M1)は次の工程に搬送されるまで凝固しないように温度調節されながら溶湯貯留部(4)に貯留されることとなる。
上記した金属塊の溶解方法及び金属塊を用いることで、金属溶湯の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係る金属塊の溶解方法及び金属塊に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は下記実施例に限定されない。
【0039】
(実施例)
図1に示す金属溶解保持炉において、正四角錐状の金属塊(アルミニウム)を溶解炉に投入、充填して加熱、溶解を行った。投入した金属塊は全て同じ形状とした。尚、金属塊の比表面積は600cm/kg、溶解炉における充填率は68%である。
容積の異なる溶解炉1及び溶解炉2において夫々試験を行った。
【0040】
(比較例)
比較例として、形状が四角錐台状(比表面積445cm/kg)の金属塊(アルミニウム)を使用して加熱、溶解を行った。投入した金属塊は全て同じ形状とした。尚、溶解炉における充填率は49%である。
金属溶解保持炉は実施例と同様の構成のものを使用し、容積の異なる溶解炉3〜5において夫々試験を行った。
【0041】
(対照例)
対照例として、形状が略直方体状(比表面積383cm/kg)の従来より汎用されている金属塊(5kg、アルミニウム塊)を使用して加熱、溶解を行った。投入した金属塊は全て同じ形状とした。尚、溶解炉における充填率は40%である。
金属溶解保持炉は実施例、比較例と同様の構成のものを使用し、実施例、比較例夫々の溶解炉に相当する溶解炉1〜5において夫々試験を行った。
【0042】
実施例、比較例、対照例夫々において、燃料使用量、二酸化炭素排出量を測定した。また、燃料使用量に基づいて燃料原単位及び着熱効率を算出した。更に、燃料原単位及び着熱効率について、対照例との比較による改善の度合い(改善効果率)を算出した。結果を表1〜3に示す。
【0043】
表1は燃料原単位及び対照例に対する改善効果率の結果である。
尚、改善効果率は、対照例と実施例又は比較例の差に対する対照例の割合を百分率で示したものである。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、充填率が68%である実施例の方が、充填率が49%である比較例や40%である対照例よりも燃料原単位を低減できることがわかる。これにより、金属塊の充填率を高くすることで燃料原単位を削減できることが確認された。
従って、実施例のように充填率を高くすることで、燃料使用量を大幅に削減することが可能である。
【0046】
表1より、正四角錐状の金属塊を使用した実施例の方が、従来の金属塊を使用した対照例よりも燃料原単位が減少していることがわかる。一方、四角錐台状の金属塊を使用した比較例においても、対照例よりも燃料原単位が減少していることがわかる。
実施例、比較例の改善効果を比較すると、実施例の改善効果が顕著であり、燃料原単位を大幅に削減できることが確認された。
【0047】
表2は着熱効率及び対照例に対する改善効果率である。
尚、改善効果率は、対照例と実施例又は比較例の差である
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、充填率が68%である実施例の方が、充填率が49%である比較例や40%である対照例よりも着熱効率が向上されることがわかる。従って、金属塊の充填率を高くすることで着熱効率を向上させることができる。
【0050】
表2より、実施例の方が、対照例よりも着熱効率が増加していることがわかる。一方、比較例においても、対照例よりも着熱効率が増加していることがわかる。
実施例、比較例の改善効果を比較すると、実施例の改善効果が顕著であり、着熱効率が大幅に向上していることが確認された。
【0051】
表3に二酸化炭素排出量を示す。また、二酸化炭素排出量に基づいて、月単位の二酸化炭素の削減量及び削減率を算出した。
【0052】
【表3】

【0053】
表3より、充填率が高い実施例の方が、充填率が低い場合(比較例、対照例)よりも二酸化炭素の排出量が削減されることがわかる。
【0054】
表3より、実施例の方が、対照例よりも二酸化炭素排出量が減少していることがわかる。比較例においても、対照例よりも二酸化炭素排出量が減少していることがわかる。
実施例、比較例のいずれにおいても対照例より二酸化炭素排出量は削減される。
ここで、実施例、比較例の月単位の二酸化炭素排出量の削減量を比較すると、比較例は10/月t−COであるのに対し、実施例は100/月t−COである。
以上より、実施例では、比較例に比して大幅に二酸化炭素排出量の削減が可能となることが確認された。
【0055】
ここで、実施例、比較例、対照例の熱収支を図4〜図6に示す。
図4は実施例、図5は比較例、図6は対照例における熱収支の算出結果である。
【0056】
全入熱100%において、実施例ではほとんど(85.5%)の熱エネルギーが金属塊の溶解に利用されている。これに対し、比較例、対照例では夫々、54.5%、66.5%の熱エネルギーが利用されるにとどまっていることがわかる。
また排ガス顕熱、即ち、金属塊の溶解時に生じる熱エネルギーは、実施例において最も少ないことがわかる。つまり、充填率を高くし、且つ金属塊形状を全て正四角錐状とすることで、金属塊の溶解により生じる熱エネルギーが金属塊の溶解に有効に利用されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る金属塊の溶解方法及び金属塊は、アルミニウム等からなるインゴット等の金属製品の製造工程に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 金属溶解保持炉
2 溶解炉
M 金属塊
M1 溶湯
M2 金属塊充填体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉内に金属塊を積層充填して金属塊充填体を形成し、
前記金属塊充填体の下部を加熱して前記金属塊を下方から順次溶解するとともに、前記金属塊の溶解により生じる熱エネルギーを利用して前記金属塊充填体を予熱して該金属塊を溶解し溶湯を得る方法であって、
前記金属塊の充填率が、前記溶解炉内に該金属塊を充填可能な最大容積の60〜70%であることを特徴とする金属塊の溶解方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属塊の溶解方法に使用される金属塊であって、比表面積が500〜650cm/kgであることを特徴とする金属塊。
【請求項3】
形状が四角錐状であることを特徴とする請求項2記載の金属塊。
【請求項4】
形状が正四角錐状であることを特徴とする請求項2又は3記載の金属塊。
【請求項5】
前記四角錐の底面の一辺が35〜55mmであり且つ前記底面の重心から頭頂点までの高さが35〜55mmであることを特徴とする請求項3又は4記載の金属塊。
【請求項6】
重量が80〜140g/個であることを特徴とする請求項2乃至5いずれかに記載の金属塊。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−247434(P2011−247434A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117799(P2010−117799)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【特許番号】特許第4814387号(P4814387)
【特許公報発行日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(500548839)アサヒセイレン株式会社 (6)
【Fターム(参考)】