アルミニウム撚り電線の焼鈍方法、及び、線材の焼鈍方法
【課題】焼鈍効率が高く、かつ、電線への傷つきや切れの発生の恐れがないアルミニウム撚り電線の焼鈍方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行う線材の焼鈍方法。
【解決手段】アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行う線材の焼鈍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材やアルミニウム撚り電線の焼鈍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出を減少するために、自動車の軽量化が要求されている。また、銅資源の枯渇化に対応するために、民生用ケーブル・電線、車両用ワイヤハーネスなどの分野において、従来の銅線を導体とする電線の代わりに、アルミニウムを導体とするアルミニウム電線の使用が年々増えてきている。このようなアルミニウム電線において、用いられる導体の種類も、単線、撚り線、あるいは、フラット・フレキシブル・ケーブルなど多岐に亘って検討されている。
【0003】
アルミニウム電線を製造する工程には、銅線を導体とする電線の場合と同様に、素材の屈曲性を改善するために熱焼鈍のプロセスが必要となる。しかし、アルミニウム導線の表面には自然酸化被覆が形成されているために、従来技術である抵抗加熱などの一般的なプロセスを使用すると、電気接触部に火花が発生し、焼鈍効率の低下や火災の恐れが生じ、また、火花により表面が傷ついた部分では伸び、強度の低下が生じてしまう。アルミニウム電線の焼鈍技術に関して、非接触方式を採用することが必要であることが判った。ここで図12(b)に被処理電線に焼鈍処理中の放電火花により傷ついた部分の写真を示す(図12(a)は焼鈍処理前)。
【0004】
また、非接触焼鈍方法として、誘導加熱方式も用いられているが、この場合、繰り出し部や巻き取り部でのスパークが発生し、電線の表面の傷つきの問題はしばしば生じており、改善が求められていた。
【0005】
このように、焼鈍効率が高く、かつ、電線への傷つきや切れの発生の恐れがない非接触方式の焼鈍方法は事実上確立されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68049公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、焼鈍効率が高く、かつ、電線への傷つきや切れの発生の恐れがないアルミニウム撚り電線の焼鈍方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、銅を導体とする電線の技術分野においても焼鈍処理が行われており、そのような技術の文献である特開2009−68049公報に、低周波のプラズマ処理による加熱により焼鈍する方法が提案されている。
【0009】
この方法は非接触での加熱方法であるため、アルミニウム電線への応用の検討を行った。しかしながら、この方法には次のような問題点があることが判った。
【0010】
(1)上記文献記載の技術は、銅単線を処理する方法である。
(2)アルミ電線の場合は融点が銅より低いために、上記技術を応用したときには、処理時の熱により切れてしまい、焼鈍処理を行うことができない。
(3)撚り線からなる電線表面に撚りによる凹凸があり(図9参照)、上記技術を応用したときには、不平等電界が形成されやすく、このとき、外側の細線が切れやすくなる。
(4)アルミニウム電線を焼鈍する温度が低いために、必要なパワーは銅電線の処理時よりも少なくて充分であるが、プラズマを維持するレベルのパワーは必要であり、そのために焼鈍効率が低下する。
(5)印加電圧が高いために、扱いにくい。
【0011】
上記低周波のプラズマ処理による焼鈍方法では、図10に示すような装置30を用いる。
【0012】
電線10は送り出し部15から巻き取り部16へ徐々に送られる。その速度は制御部11が制御し、また制御部11は電源12を制御し、電極31と電線10との間に印加する電圧を制御する。この印加電圧により筒状の処理容器32内にプラズマPが発生し電線10は加熱されて焼鈍処理される。処理容器32はシールド13によりシールドされている。
【0013】
このような従来のプラズマ処理では実際には、図11に示すような大きく部分的なストリーマ放電が発生し、その衝撃で電線表面に傷がつき、電線の伸び・強度が低下する。
【0014】
本発明者等はこのような問題点を解決するために鋭意検討し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以上の問題を解決するために、請求項1に記載の通り、アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法である。
【0015】
また本発明の線材の焼鈍方法は請求項2に記載の通り、被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法である。
【0016】
また、本発明の線材の焼鈍方法は請求項3に記載の通り、請求項2に記載の線材の焼鈍方法において、前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の線材の焼鈍方法は請求項4に記載の通り、請求項2または請求項3に記載の線材の焼鈍方法において、前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法によれば、アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことにより、簡単に、かつ、均一なプラズマを作ることができるので、より少ないパワーで高効率な焼鈍処理ができ、その結果、アルミニウム撚り電線が切れたり、傷ついたりせずに焼鈍を行うことができる。
【0019】
本発明の線材の焼鈍方法によれば、被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことにより、簡易に、均一なプラズマを作ることができるので、より少ないパワーで高効率な焼鈍処理ができ、その結果、線材が切れたり、傷ついたりせずに焼鈍を行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の線材の処理方法によれば、前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる場合であっても、このような融点が低い線材の焼鈍に必要な温度域に対応でき、しかも、効率的に焼鈍処理を行うことができる。
【0021】
請求項4に記載の線材の処理方法によれば、前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有する場合、例えば撚り線であっても、放電回数が多いので、放電エネルギーが均一となり、傷付きや切れの生じない効果的な焼鈍が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる高周波交流電源を用いるプラズマ焼鈍装置の一例を示すモデル図である。
【図2】図2(a)高周波電源による大気圧プラズマでの放電状態を示すモデル図である。図2(b)低周波電源による大気圧プラズマでの放電状態を示すモデル図である。
【図3】本発明に係る焼鈍方法におけるプラズマ放電発生状況を示す写真である。
【図4】焼鈍処理線速度を変化させて焼鈍処理を行ったときの伸び率、引張強度の線速度依存性を示すグラフである。
【図5】伸び率・引張強度の焼鈍温度依存性を示すグラフである。
【図6】ガス流速を変化させたときの電線の伸びと引張強度との変化を示すグラフである。
【図7】ガス流速を変化させたときの焼鈍のエネルギー効率(焼鈍効率)の変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係る焼鈍方法と従来技術に係る低周波電源による焼鈍方法との比較。図8(a)焼鈍処理線速度を変化させたときのエネルギー消費量と焼鈍処理後の電線の伸びとの関係を示すグラフである。図8(b)焼鈍処理線速度を変化させたときのエネルギー消費量と焼鈍処理後の電線の引張強度との関係を示すグラフである。
【図9】撚り線からなる電線表面の凹凸により、不平等電界が形成されやすいことを示す図である。
【図10】従来技術である低周波のプラズマ処理による焼鈍方法で用いる装置を示すモデル図である。
【図11】従来のプラズマ処理でストリーマ放電が生じていることを示す写真である。
【図12】従来の焼鈍処理において、被処理電線に放電により傷がついたことを示す写真である。図12(a)焼鈍処理前。図12(b)放電により傷ついた部分。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法及び線材の焼鈍方法を実施する装置の一例について示す。
【0024】
電磁波をシールドするためのシールドボックス6内に放電管として石英ガラス管1が配置されており、内部をアルミニウム撚り電線(線材)が通っている。アルミニウム撚り電線は処理中、図中右へ移動し連続的に焼鈍処理される。石英ガラス管1の中央部分にはこの例ではアルミニウム撚り電線と垂直な方向に分岐するガス導入部が設けられ、石英ガラス管1内を不活性雰囲気とするガス3が導入される。上記では石英ガラス管を用いたが、一般的なガラスでもよく、また、断熱効果を勘案するとセラミック材料の使用が好ましい。
【0025】
石英ガラス管1の周囲には管状の放電電極4が、アルミニウム撚り電線に沿う方向に配され、分岐部の銅板電極5に電気的に接続している。銅板電極5にはマッチングボックス8を介して高周波電源(高周波電源)7が接続されており、アルミニウム撚り電線2と放電電極4とは石英ガラス管1及び石英ガラス管1内部空間により互いに離間している。
【0026】
これら構成により、石英ガラス管1内部にはプラズマ9が発生し、その熱によりアルミニウム撚り電線が焼鈍に適した温度に加熱される。
【0027】
この装置では、高周波電源7とプラズマ焼鈍負荷(放電電極4)の間に上述のようにインピーダンス変換器であるマッチングボックス8を設けることにより、負荷から電源へパワーが反射しないようにすることで電源のパワーが全てプラズマヘの入射パワーになる仕組みになっている。
【0028】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法において、用いる大気圧プラズマは、電源周波数を電波周波数(ラジオ周波数(RF))とする電源により発生させたものである必要がある。具体的な周波数としては、500kHz以上300MHz以下の範囲である。電源周波数が電波周波数でないと本発明の効果が得られない。
【0029】
上記周波数のうち、13.56MHzであると、電波法の規制内で、工業的に実用可能であるので好ましい。
【0030】
このような高い周波数の電源を用いることにより、従来の低周波(LF)技術と比べると、放電回数が大幅に増加(3桁増)するために、放電があたかも連続しているかのようになる。例えばモデル図(図2(a))に示すように小さい放電が高い頻度で生じる。比較として低周波の電源を用いた場合には図2(b)に示すように頻度の少ない大きなエネルギーを有する放電となり、電線の傷付きや断線の恐れがなくなる。
【0031】
上記図2(a)及び図2(b)を比較すると、時間平均放電エネルギーを等しいレベルとした場合に、低周波の電源を用いたときには加熱・冷却の繰り返しになり、効率が低くなるとともに、部分的な加熱となる。これに対して電波周波数の電源を用いた場合には均一で満遍なく加熱されるために効率がよい。
【0032】
このような周波数の電源によるプラズマによって処理することにより、不平等電界の発生を抑えることが可能となり、その結果、撚り電線のような不均一な形状の線材であっても、傷つきや断線の発生なしに均一な焼鈍処理を行うことが可能となった。さらに、従来の低周波の電源周波数を用いた場合には8kV程度の電圧が必要であったが、本発明では数百V(具体的には100〜1000V)での処理が可能となった。
【0033】
本発明の処理雰囲気はアルミニウム撚り電線(金属製の線材)の酸化を防止するために、不活性雰囲気で行うことが必要である。そのような雰囲気を作るガスとしては、ヘリウム、アルゴン、窒素、あるいは、これらの混合ガスを用いることができる。イオンと中性ガスの表面衝撃による加熱効果とコストとを勘案するとアルゴンガスを用いることが好ましい。
【0034】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法では大気圧プラズマ処理であることが必要である。ここで、大気圧以外のプラズマ処理、すなわち、低真空プラズマや高真空プラズマであるとバッチ処理となって長い電線への対応が困難となり、かつ、高価な設備が必要となり、処理コストが上昇する。
【0035】
ここで図3に、図1に示した装置を用いて行った、本発明の焼鈍方法での実際のプラズマ放電発生状況を示す。観察部全体に均一な放電が生じていることが判る(図中不連続部分はシールドの格子によるものであり、実際のプラズマによる発光部分は連続しているように見える(無数の小さいプラズマによるものであり実際には不連続である))。このような均一な放電により電線に均一な焼鈍処理が行われる。
【実施例】
【0036】
実験条件を下記に示した。
実施条件:図1に示す装置を用い、下記の条件で実験を行った。
放電管:石英ガラス管(内径6.5mm、外径8.4mm)。
放電電極;上記石英ガラス管の側面に沿うように筒状に配置したアルミニウム箔、長さ36cm
線材:アルミニウム11本撚り電線(断面積:0.75mm2)。
電源パウー:最大500W。
焼鈍処理線速度(アルミニウム撚り電線の移動速度):8〜30m/分。
使用ガス:アルゴン。
ガス流速:2〜8L/min。
電源周波数:13.56MHz
【0037】
<焼鈍処理線速度の依存性についての検討>
図4にはパワーを500W、ガス流速を2L/分として焼鈍処理線速度を変化させて焼鈍処理を行ったときの伸び率、引張強度(JIS C3002に準拠して行った測定値)の線速度依存性を示す。
【0038】
図4より、焼鈍線速度の増加と共に伸び率が減少することが判る。このとき、屈曲性を有するアルミニウム撚り電線として必要とされる伸び率である15%を得るためには、24m/分以下の焼鈍線速度とすればよいことが理解される。
【0039】
<温度特性についての検討>
プラズマ焼鈍により、電線表面がアルミの焼鈍温度に達し、機械特性が変化する。
図5には伸び率・引張強度の焼鈍温度依存性を示す。
【0040】
図から理解されるように、15%の伸び率達成に必要な焼鈍温度は300℃以上である。
【0041】
<ガス流速の影響について>
図6にはパワー500W、線速度24m/分としてアルゴンガスによるガス流速を変化させたときの電線の伸びと引張強度との変化を、図7にはこのときの焼鈍のエネルギー効率(焼鈍効率)の変化を、それぞれ示した。なお、焼鈍効率とは測定した電線の温度により求めた値である。
【0042】
図6及び図7より、ガス流速が低い時には熱対流が低く、プラズマゾーンにガスが滞留する時間が長いために、プラズマ温度も高くなり、結果として高い焼鈍効果が得られることが判る。
【0043】
<低周波プラズマ焼鈍との比較検討>
電源パワー240W、アルゴン流量6L/分、と同一の条件下で、従来技術である低周波プラズマ焼鈍(LF)(電源周波数;8kHz:図1の装置のマッチングボックス8及び高周波電源7の代わりに低周波電源を取り付けた)と、本発明に係るプラズマ焼鈍(RF)(電源周波数:13.56MHz)とを、焼鈍処理線速度を変化させながら行った。このときのエネルギー消費量と伸び、及び、引張強度との関係をそれぞれ図8(a)及び図8(b)とにそれぞれ示した。
図8(a)及び図8(b)より、従来技術である低周波プラズマ焼鈍(LF)と比べると、本発明に係る焼鈍処理(RF)では数倍高い焼鈍効率を得ることができることが確認される。さらに、本発明に係る焼鈍方法によって焼鈍処理された電線について目視で確認したところ、放電による傷の発生は一切認められなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 石英ガラス管
2 アルミニウム撚り電線
3 ガス
4 放電電極
5 銅板電極
6 シールドボックス
7 高周波電源
8 マッチングボックス
9 プラズマ
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材やアルミニウム撚り電線の焼鈍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出を減少するために、自動車の軽量化が要求されている。また、銅資源の枯渇化に対応するために、民生用ケーブル・電線、車両用ワイヤハーネスなどの分野において、従来の銅線を導体とする電線の代わりに、アルミニウムを導体とするアルミニウム電線の使用が年々増えてきている。このようなアルミニウム電線において、用いられる導体の種類も、単線、撚り線、あるいは、フラット・フレキシブル・ケーブルなど多岐に亘って検討されている。
【0003】
アルミニウム電線を製造する工程には、銅線を導体とする電線の場合と同様に、素材の屈曲性を改善するために熱焼鈍のプロセスが必要となる。しかし、アルミニウム導線の表面には自然酸化被覆が形成されているために、従来技術である抵抗加熱などの一般的なプロセスを使用すると、電気接触部に火花が発生し、焼鈍効率の低下や火災の恐れが生じ、また、火花により表面が傷ついた部分では伸び、強度の低下が生じてしまう。アルミニウム電線の焼鈍技術に関して、非接触方式を採用することが必要であることが判った。ここで図12(b)に被処理電線に焼鈍処理中の放電火花により傷ついた部分の写真を示す(図12(a)は焼鈍処理前)。
【0004】
また、非接触焼鈍方法として、誘導加熱方式も用いられているが、この場合、繰り出し部や巻き取り部でのスパークが発生し、電線の表面の傷つきの問題はしばしば生じており、改善が求められていた。
【0005】
このように、焼鈍効率が高く、かつ、電線への傷つきや切れの発生の恐れがない非接触方式の焼鈍方法は事実上確立されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68049公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、焼鈍効率が高く、かつ、電線への傷つきや切れの発生の恐れがないアルミニウム撚り電線の焼鈍方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、銅を導体とする電線の技術分野においても焼鈍処理が行われており、そのような技術の文献である特開2009−68049公報に、低周波のプラズマ処理による加熱により焼鈍する方法が提案されている。
【0009】
この方法は非接触での加熱方法であるため、アルミニウム電線への応用の検討を行った。しかしながら、この方法には次のような問題点があることが判った。
【0010】
(1)上記文献記載の技術は、銅単線を処理する方法である。
(2)アルミ電線の場合は融点が銅より低いために、上記技術を応用したときには、処理時の熱により切れてしまい、焼鈍処理を行うことができない。
(3)撚り線からなる電線表面に撚りによる凹凸があり(図9参照)、上記技術を応用したときには、不平等電界が形成されやすく、このとき、外側の細線が切れやすくなる。
(4)アルミニウム電線を焼鈍する温度が低いために、必要なパワーは銅電線の処理時よりも少なくて充分であるが、プラズマを維持するレベルのパワーは必要であり、そのために焼鈍効率が低下する。
(5)印加電圧が高いために、扱いにくい。
【0011】
上記低周波のプラズマ処理による焼鈍方法では、図10に示すような装置30を用いる。
【0012】
電線10は送り出し部15から巻き取り部16へ徐々に送られる。その速度は制御部11が制御し、また制御部11は電源12を制御し、電極31と電線10との間に印加する電圧を制御する。この印加電圧により筒状の処理容器32内にプラズマPが発生し電線10は加熱されて焼鈍処理される。処理容器32はシールド13によりシールドされている。
【0013】
このような従来のプラズマ処理では実際には、図11に示すような大きく部分的なストリーマ放電が発生し、その衝撃で電線表面に傷がつき、電線の伸び・強度が低下する。
【0014】
本発明者等はこのような問題点を解決するために鋭意検討し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以上の問題を解決するために、請求項1に記載の通り、アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法である。
【0015】
また本発明の線材の焼鈍方法は請求項2に記載の通り、被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法である。
【0016】
また、本発明の線材の焼鈍方法は請求項3に記載の通り、請求項2に記載の線材の焼鈍方法において、前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の線材の焼鈍方法は請求項4に記載の通り、請求項2または請求項3に記載の線材の焼鈍方法において、前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法によれば、アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことにより、簡単に、かつ、均一なプラズマを作ることができるので、より少ないパワーで高効率な焼鈍処理ができ、その結果、アルミニウム撚り電線が切れたり、傷ついたりせずに焼鈍を行うことができる。
【0019】
本発明の線材の焼鈍方法によれば、被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことにより、簡易に、均一なプラズマを作ることができるので、より少ないパワーで高効率な焼鈍処理ができ、その結果、線材が切れたり、傷ついたりせずに焼鈍を行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の線材の処理方法によれば、前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる場合であっても、このような融点が低い線材の焼鈍に必要な温度域に対応でき、しかも、効率的に焼鈍処理を行うことができる。
【0021】
請求項4に記載の線材の処理方法によれば、前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有する場合、例えば撚り線であっても、放電回数が多いので、放電エネルギーが均一となり、傷付きや切れの生じない効果的な焼鈍が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる高周波交流電源を用いるプラズマ焼鈍装置の一例を示すモデル図である。
【図2】図2(a)高周波電源による大気圧プラズマでの放電状態を示すモデル図である。図2(b)低周波電源による大気圧プラズマでの放電状態を示すモデル図である。
【図3】本発明に係る焼鈍方法におけるプラズマ放電発生状況を示す写真である。
【図4】焼鈍処理線速度を変化させて焼鈍処理を行ったときの伸び率、引張強度の線速度依存性を示すグラフである。
【図5】伸び率・引張強度の焼鈍温度依存性を示すグラフである。
【図6】ガス流速を変化させたときの電線の伸びと引張強度との変化を示すグラフである。
【図7】ガス流速を変化させたときの焼鈍のエネルギー効率(焼鈍効率)の変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係る焼鈍方法と従来技術に係る低周波電源による焼鈍方法との比較。図8(a)焼鈍処理線速度を変化させたときのエネルギー消費量と焼鈍処理後の電線の伸びとの関係を示すグラフである。図8(b)焼鈍処理線速度を変化させたときのエネルギー消費量と焼鈍処理後の電線の引張強度との関係を示すグラフである。
【図9】撚り線からなる電線表面の凹凸により、不平等電界が形成されやすいことを示す図である。
【図10】従来技術である低周波のプラズマ処理による焼鈍方法で用いる装置を示すモデル図である。
【図11】従来のプラズマ処理でストリーマ放電が生じていることを示す写真である。
【図12】従来の焼鈍処理において、被処理電線に放電により傷がついたことを示す写真である。図12(a)焼鈍処理前。図12(b)放電により傷ついた部分。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法及び線材の焼鈍方法を実施する装置の一例について示す。
【0024】
電磁波をシールドするためのシールドボックス6内に放電管として石英ガラス管1が配置されており、内部をアルミニウム撚り電線(線材)が通っている。アルミニウム撚り電線は処理中、図中右へ移動し連続的に焼鈍処理される。石英ガラス管1の中央部分にはこの例ではアルミニウム撚り電線と垂直な方向に分岐するガス導入部が設けられ、石英ガラス管1内を不活性雰囲気とするガス3が導入される。上記では石英ガラス管を用いたが、一般的なガラスでもよく、また、断熱効果を勘案するとセラミック材料の使用が好ましい。
【0025】
石英ガラス管1の周囲には管状の放電電極4が、アルミニウム撚り電線に沿う方向に配され、分岐部の銅板電極5に電気的に接続している。銅板電極5にはマッチングボックス8を介して高周波電源(高周波電源)7が接続されており、アルミニウム撚り電線2と放電電極4とは石英ガラス管1及び石英ガラス管1内部空間により互いに離間している。
【0026】
これら構成により、石英ガラス管1内部にはプラズマ9が発生し、その熱によりアルミニウム撚り電線が焼鈍に適した温度に加熱される。
【0027】
この装置では、高周波電源7とプラズマ焼鈍負荷(放電電極4)の間に上述のようにインピーダンス変換器であるマッチングボックス8を設けることにより、負荷から電源へパワーが反射しないようにすることで電源のパワーが全てプラズマヘの入射パワーになる仕組みになっている。
【0028】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法において、用いる大気圧プラズマは、電源周波数を電波周波数(ラジオ周波数(RF))とする電源により発生させたものである必要がある。具体的な周波数としては、500kHz以上300MHz以下の範囲である。電源周波数が電波周波数でないと本発明の効果が得られない。
【0029】
上記周波数のうち、13.56MHzであると、電波法の規制内で、工業的に実用可能であるので好ましい。
【0030】
このような高い周波数の電源を用いることにより、従来の低周波(LF)技術と比べると、放電回数が大幅に増加(3桁増)するために、放電があたかも連続しているかのようになる。例えばモデル図(図2(a))に示すように小さい放電が高い頻度で生じる。比較として低周波の電源を用いた場合には図2(b)に示すように頻度の少ない大きなエネルギーを有する放電となり、電線の傷付きや断線の恐れがなくなる。
【0031】
上記図2(a)及び図2(b)を比較すると、時間平均放電エネルギーを等しいレベルとした場合に、低周波の電源を用いたときには加熱・冷却の繰り返しになり、効率が低くなるとともに、部分的な加熱となる。これに対して電波周波数の電源を用いた場合には均一で満遍なく加熱されるために効率がよい。
【0032】
このような周波数の電源によるプラズマによって処理することにより、不平等電界の発生を抑えることが可能となり、その結果、撚り電線のような不均一な形状の線材であっても、傷つきや断線の発生なしに均一な焼鈍処理を行うことが可能となった。さらに、従来の低周波の電源周波数を用いた場合には8kV程度の電圧が必要であったが、本発明では数百V(具体的には100〜1000V)での処理が可能となった。
【0033】
本発明の処理雰囲気はアルミニウム撚り電線(金属製の線材)の酸化を防止するために、不活性雰囲気で行うことが必要である。そのような雰囲気を作るガスとしては、ヘリウム、アルゴン、窒素、あるいは、これらの混合ガスを用いることができる。イオンと中性ガスの表面衝撃による加熱効果とコストとを勘案するとアルゴンガスを用いることが好ましい。
【0034】
本発明のアルミニウム撚り電線の焼鈍方法では大気圧プラズマ処理であることが必要である。ここで、大気圧以外のプラズマ処理、すなわち、低真空プラズマや高真空プラズマであるとバッチ処理となって長い電線への対応が困難となり、かつ、高価な設備が必要となり、処理コストが上昇する。
【0035】
ここで図3に、図1に示した装置を用いて行った、本発明の焼鈍方法での実際のプラズマ放電発生状況を示す。観察部全体に均一な放電が生じていることが判る(図中不連続部分はシールドの格子によるものであり、実際のプラズマによる発光部分は連続しているように見える(無数の小さいプラズマによるものであり実際には不連続である))。このような均一な放電により電線に均一な焼鈍処理が行われる。
【実施例】
【0036】
実験条件を下記に示した。
実施条件:図1に示す装置を用い、下記の条件で実験を行った。
放電管:石英ガラス管(内径6.5mm、外径8.4mm)。
放電電極;上記石英ガラス管の側面に沿うように筒状に配置したアルミニウム箔、長さ36cm
線材:アルミニウム11本撚り電線(断面積:0.75mm2)。
電源パウー:最大500W。
焼鈍処理線速度(アルミニウム撚り電線の移動速度):8〜30m/分。
使用ガス:アルゴン。
ガス流速:2〜8L/min。
電源周波数:13.56MHz
【0037】
<焼鈍処理線速度の依存性についての検討>
図4にはパワーを500W、ガス流速を2L/分として焼鈍処理線速度を変化させて焼鈍処理を行ったときの伸び率、引張強度(JIS C3002に準拠して行った測定値)の線速度依存性を示す。
【0038】
図4より、焼鈍線速度の増加と共に伸び率が減少することが判る。このとき、屈曲性を有するアルミニウム撚り電線として必要とされる伸び率である15%を得るためには、24m/分以下の焼鈍線速度とすればよいことが理解される。
【0039】
<温度特性についての検討>
プラズマ焼鈍により、電線表面がアルミの焼鈍温度に達し、機械特性が変化する。
図5には伸び率・引張強度の焼鈍温度依存性を示す。
【0040】
図から理解されるように、15%の伸び率達成に必要な焼鈍温度は300℃以上である。
【0041】
<ガス流速の影響について>
図6にはパワー500W、線速度24m/分としてアルゴンガスによるガス流速を変化させたときの電線の伸びと引張強度との変化を、図7にはこのときの焼鈍のエネルギー効率(焼鈍効率)の変化を、それぞれ示した。なお、焼鈍効率とは測定した電線の温度により求めた値である。
【0042】
図6及び図7より、ガス流速が低い時には熱対流が低く、プラズマゾーンにガスが滞留する時間が長いために、プラズマ温度も高くなり、結果として高い焼鈍効果が得られることが判る。
【0043】
<低周波プラズマ焼鈍との比較検討>
電源パワー240W、アルゴン流量6L/分、と同一の条件下で、従来技術である低周波プラズマ焼鈍(LF)(電源周波数;8kHz:図1の装置のマッチングボックス8及び高周波電源7の代わりに低周波電源を取り付けた)と、本発明に係るプラズマ焼鈍(RF)(電源周波数:13.56MHz)とを、焼鈍処理線速度を変化させながら行った。このときのエネルギー消費量と伸び、及び、引張強度との関係をそれぞれ図8(a)及び図8(b)とにそれぞれ示した。
図8(a)及び図8(b)より、従来技術である低周波プラズマ焼鈍(LF)と比べると、本発明に係る焼鈍処理(RF)では数倍高い焼鈍効率を得ることができることが確認される。さらに、本発明に係る焼鈍方法によって焼鈍処理された電線について目視で確認したところ、放電による傷の発生は一切認められなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 石英ガラス管
2 アルミニウム撚り電線
3 ガス
4 放電電極
5 銅板電極
6 シールドボックス
7 高周波電源
8 マッチングボックス
9 プラズマ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とするアルミニウム撚り電線の焼鈍方法。
【請求項2】
被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法。
【請求項3】
前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項2に記載の線材の焼鈍方法。
【請求項4】
前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の線材の焼鈍方法。
【請求項1】
アルミニウム撚り電線を一方の電極とし、該一方の電極と前記アルミニウム撚り電線に沿ってかつアルミニウム撚り電線と離間して配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とするアルミニウム撚り電線の焼鈍方法。
【請求項2】
被焼鈍処理線材を一方の電極とし、該一方の電極と前記被焼鈍処理線材に沿って配置された他方の電極との間に、高周波電源により大気圧プラズマを発生させて焼鈍処理を行うことを特徴とする線材の焼鈍方法。
【請求項3】
前記被焼鈍処理線材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項2に記載の線材の焼鈍方法。
【請求項4】
前記被焼鈍処理線材がその側面に凹凸を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の線材の焼鈍方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−117020(P2011−117020A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273580(P2009−273580)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
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