説明

アルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法及びその陽極酸化塗装複合皮膜

【課題】 アルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜を数μmに薄膜化しつつ塗膜の耐傷性と塗膜性能を確保する。
【解決手段】 ガラス転移温度を30〜60℃として熱硬化時流動性を抑制したアクリル系電着塗料を用いた1次塗装と、分子量を500〜2000の低分子の同じくアクリル系電着塗料を用いた2次塗装を施すとともに1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量を、1次塗装により90〜98wt%、2次塗装により10〜2wt%として焼付による塗料の熱硬化を行う。1次塗装の塗料が陽極酸化皮膜1のダイスマークによる凹凸面に追従してこれを被覆した数μmの塗膜厚の塗膜基体21となって耐傷性を確保し、2次塗装の塗料が塗膜基体21のピンホール22を埋めた塗膜補修点23となって塗膜性能を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ押出材に陽極酸化皮膜と熱硬化塗膜による塗膜を形成するアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法及びその陽極酸化塗装複合皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば開口部材等の建材や車両に用いられるアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜は、陽極酸化皮膜に、例えば、アクリル系等の熱硬化性樹脂を電着塗装した後、焼付炉での焼付を施して熱硬化塗膜とするのが一般であり、該アルミ押出材の陽極酸化複合皮膜には、JIS H 8602 2010「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜」が適用されるところ、これによれば、その改訂前のJIS H 8602 2006における陽極酸化皮膜の皮膜厚さ9.0μm以上、塗膜厚さ7.0μm以上とする記載がなされていたが、これが、平均皮膜厚さ5.0μm以上の陽極酸化処理を施した後、塗装を施すことと改訂され、従って、この皮膜厚と合計厚の条件に沿って形成した陽極酸化塗装複合皮膜が、所定の塗膜性能を備えることによって、その塗膜厚さを、従来の7.0μm以上のものから、例えば2、3μm乃至3、4μmといったように数μmのものに薄膜化することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】JIS H 8602 2010「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記JIS H 8602 2010は、更に複合塗膜の性能を規定しているから、該陽極酸化塗装複合皮膜の性能を確保しつつ、アルミ押出材の上記複合皮膜の塗膜厚さを上記数μmのものと薄膜化することができれば、石油を原料とする塗料の使用量を減少することができ、環境負荷を低減した上、従前と同等の塗膜性能を有する製品を提供できることになる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、その解決課題とするところは、塗膜厚さを可及的に薄膜化するとともに耐傷性について、更には耐食性を含めた可及的高度な塗膜性能を有するようにしたアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法を提供するにあり、また、耐傷性及び耐食性の塗膜性能を可及的高度に備えたアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に沿って鋭意研究したところ、エッチングを施した後に陽極酸化皮膜を形成することによって押出成形時に形成されたダイスマークは、その凹凸が緩和されるも、なお陽極酸化皮膜の表面に残るところ、熱硬化時の流動性を抑制した塗料を用いて該陽極酸化皮膜に塗装すると、その塗膜厚を数μmに薄膜化しても、熱硬化塗膜が陽極酸化皮膜面を有効に被覆し、その塗膜が優れた耐傷性を呈するものとなること、これは、上記塗料の熱硬化時における流動性を抑制することによって、熱硬化時に塗料が流動化して陽極酸化皮膜面を流れることなく、陽極酸化皮膜面に付着した状態を可及的に維持して架橋硬化するために、薄膜でありながら陽極酸化皮膜を有効に被覆し得ること、そして塗膜を薄膜化したことによって陽極酸化皮膜の表面硬さが塗膜に反映して該塗膜の硬度を向上し、耐傷性に優れた薄膜化した陽極酸化塗装複合皮膜とし得ることの知見を得た。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、即ち、請求項1に記載の発明を、陽極酸化皮膜に耐傷性を有する塗膜厚数μmに薄膜化した熱硬化塗膜を形成する陽極酸化塗装複合皮膜の形成方法であって、上記薄膜化した熱硬化塗膜の塗料を、陽極酸化皮膜のダイスマークによる凹凸面に追従してこれを被覆する熱硬化時流動性を抑制した塗料として上記陽極酸化皮膜に対する塗装とその後の焼付を施すことを特徴とするアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法としたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記塗料の流動性抑制は、これを熱硬化塗膜を形成する塗料の基体におけるガラス転移温度(以下Tgということがある)を、30〜60℃とすることによって有効になし得ることから、これを、上記熱硬化時流動性を抑制した塗料を、熱硬化塗膜の塗料基体のガラス転移温度を30〜60℃として上記熱硬化時流動性を抑制することを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法としたものである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記薄膜化した塗膜は、耐傷性に優れる一方で、ダイスマークの凹凸の状態や、塗装を電着塗装としたときに電解ガス発生に起因して陽極酸化皮膜乃至塗膜に発生することあるピンホールが残存した場合、該残存ピンホールによって耐食性が低下する結果を招くことから、上記薄膜化した耐傷性に優れる塗膜基体を1次塗装によって形成し、該残存ピンホールを、埋めるように充填被覆する低分子量の塗料による塗膜補修点を2次塗装によって形成することによって、耐傷性に加えて耐食性に優れた陽極酸化塗装複合皮膜とすることが可能となることから、これを、上記熱硬化時の流動性抑制塗料の陽極酸化皮膜に対する塗装を1次塗装とし、該1次塗装後に、ダイスマークの凹凸面の被覆漏れによる残存ピンホールを埋め被覆して耐食性を付与する低分子量の塗料による2次塗装を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法としたものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、同じく上記に加えて、該耐食性の確保は、2次塗装の塗料における分子量を、500〜2000とすることによって有効になし得ることから、これを、上記低分子量の塗料の分子量を、500〜2000とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法としたものである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記数μmとした薄膜化の陽極酸化塗装複合皮膜にあって、耐傷性を確保する1次塗装の塗膜を塗膜基部とし、そのピンホールの埋め被覆による耐食性を確保する2次塗装のピンホール被覆部とすることによって、塗膜性能を有効に確保し得ることから、これを、上記1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量を、1次塗装により90〜98w%、二次塗装により10〜2w%とすることを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法としたものである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、上記数μmの薄膜化して優れた耐傷性と優れた耐食性の塗膜性能を備えたアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜を提供するように、これを、陽極酸化皮膜に形成した塗膜厚数μmの熱硬化塗膜に耐傷性及び耐食性を付与したアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜であって、上記熱硬化塗膜を、陽極酸化皮膜におけるダイスマークの凹凸面を被覆した耐傷性付与の塗膜基体面と、該塗膜基体面に一体化した上記ダイスマーク凹凸面被覆漏れの残存ピンホールを埋め被覆した耐食性付与の塗膜補修点を備えて形成してなることを特徴とするアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜としたものである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、上記に加えて、該数μmの薄膜化した塗膜を、少なくともJIS H 8602 2010におけるB種相当の塗膜性能を具備したものとして、従来の7.0μmの塗膜を備えた場合と可及的に同等の製品とし得るように、これを、上記耐傷性を鉛筆硬度6H以上とし、CASS耐食性(試験時間72時間)をレイティングナンバー9.5以上としてなることを特徴とする請求項6に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜としたものである。
【0014】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のとおりに構成したから、請求項1に記載の発明は、熱硬化時の流動性を抑制した塗料を用いて該陽極酸化皮膜に塗装し、該塗料が陽極酸化皮膜面に付着した状態を可及的に維持して架橋硬化することにより、数μmに薄膜化した熱硬化塗膜によって陽極酸化皮膜を被覆するとともに薄膜化したことによって該陽極酸化皮膜の表面硬さを反映した塗膜の硬度を確保して、可及的高度な塗膜性能を有するアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法を提供することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記塗料の流動性抑制は、これを熱硬化塗膜を形成する塗料の基体におけるガラス転移温度を、30〜60℃とすることによって有効に行うものとすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記薄膜化した塗膜は、耐傷性に優れる一方で、ダイスマークの凹凸の状態や、塗装を電着塗装としたときに電解ガス発生に起因して陽極酸化皮膜乃至塗膜に発生することあるピンホールが残存した場合、該残存ピンホールによって耐食性が低下する結果を招くことから、上記薄膜化した耐傷性に優れる塗膜基体を1次塗装によって形成し、該残存ピンホールを埋めるように被覆する低分子量の塗料による塗膜補修点を2次塗装によって形成することによって、耐傷性に加えて耐食性に優れた陽極酸化塗装複合皮膜とすることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、同じく上記に加えて、該耐食性の確保は、2次塗装の塗料における分子量を、500〜2000とすることによって有効になし得るものとすることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、同じく上記に加えて、上記数μmとした薄膜化の陽極酸化塗装複合皮膜にあって、耐傷性を確保する1次塗装によって塗膜基部を形成し、そのピンホールの被覆による耐食性を確保する2次塗装によってピンホール充填部を形成することによって、塗膜性能を有効に確保し得るものとすることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、上記数μmの薄膜化して優れた耐傷性と優れた耐食性の塗膜性能を備えたアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜を提供することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、上記に加えて、該数μmの薄膜化した陽極酸化塗装複合皮膜を、少なくともJIS H 8602 2010におけるB種相当の塗膜性能を具備したものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】耐傷性を有する陽極酸化塗装複合皮膜のモデルを示す縦断面図である。
【図2】耐傷性と耐食性を有する陽極酸化塗装複合皮膜のモデルを示す縦断面図である。
【図3】陽極酸化塗装複合皮膜形成の表面処理工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を更に具体的に説明すれば、アルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法は、これを、陽極酸化皮膜に耐傷性を有する塗膜厚数μmに薄膜化した熱硬化塗膜を形成する陽極酸化塗装複合皮膜の形成方法であって、上記薄膜化した熱硬化塗膜の塗料を、陽極酸化皮膜のダイスマークによる凹凸面に追従してこれを被覆する熱硬化時流動性を抑制した塗料として上記陽極酸化皮膜に対する塗装とその後の焼付を施すものとしてあり、また、上記熱硬化時の流動性抑制塗料の陽極酸化皮膜に対する塗装を1次塗装とし、該1次塗装後に、ダイスマークの凹凸面の被覆漏れによる残存ピンホールを埋め被覆して耐食性を付与する低分子量の塗料による2次塗装を施すものとしてある。
【0024】
即ち、アルミ押出材は、アルミ合金、例えばJIS 6063 T−5の合金を用いて、これに常法に従ってエッチング、中和等の前処理を施し、同じく常法に従って陽極酸化処理、必要に応じて染色や金属塩の2次電解処理を施した後に、該陽極酸化皮膜に塗装を施し、その後に焼付処理を施すことによって、該アルミ押出材に数μm、例えば3±2μm、好ましくは3±1μmの薄膜化した熱硬化塗膜による陽極酸化塗装複合皮膜を形成するものとしてあり、このとき該陽極酸化塗装複合皮膜形成の塗装を、上記耐傷性を付与したものとするように単一の塗装とし、また、更に該耐傷性と耐食性を付与したものとするように1次及び2次の2段階の塗装としてある。
【0025】
塗装は、アルミ押出材に対するものとして、電着塗料を用いた電着塗装とするのがよく、このとき塗料は、これを、熱硬化時流動性を抑制したものを用いることによって、陽極酸化皮膜に存在するダイスマークによる凹凸面に追従して、該塗料が陽極酸化皮膜面に付着した状態で架橋硬化するようにして、該凹凸面を可及的均一に被覆することができ、従前の電着塗料の場合にみられる塗料の流れが発生することによって凹凸面に対して塗膜が著しく不均一になるのを有効に防止できる。
【0026】
該熱硬化時流動性を抑制した塗料は、これを、熱硬化塗膜の塗料基体のガラス転移温度を30〜60℃として上記熱硬化時流動性を抑制するものとするのが、上記可及的に均一な塗膜を形成する上で好ましく、電着塗料の場合、一般にその塗料のアクリル基体のガラス転移温度を、常法のものより高くしたものとすればよい。このとき、ガラス転移温度が、30℃を下回ると、熱硬化時の流動性が高くなり、均一な被覆をなし難くなり、また、60℃を上回ると、原料樹脂の粘性が高く、電着塗料として用いるのが適当でなくなることから、該ガラス転移温度は、これを上記30〜60℃とするのがよく、一方、40℃を下回ると、熱硬化塗膜の熱硬化時の流動性が高くなる傾向を招き、50℃を上回ると、上記原料樹脂の粘性が高くなる傾向を招くから、該ガラス転移温度は、これを40〜50℃とするのが好ましい。
【0027】
塗装、特に電着塗装にあって、塗膜厚の管理は、塗料に応じた通電条件によってなし得るから、該膜厚を上記数μmとするように、電着塗装における通電条件、即ち電気量をコントロールすればよい。
【0028】
このとき、該電着塗装の塗膜厚は、可及的に3μmに近いものとすることが、耐傷性を高度に確保する上で有効である。これは、3μmに近い塗膜厚とすることによって、陽極酸化皮膜に対して上記可及的均一に被覆した薄膜の塗膜が一体化して、該陽極酸化皮膜が塗膜を裏打ちするように作用する結果、複合塗膜の硬度が、陽極酸化皮膜の硬度乃至これに近似したものとし得るからであると見られるところ、該塗膜厚を3μmから1μm近く薄くした2μmとすると、耐傷性は得られても、熱硬化塗膜の耐食性を確保し難くなる傾向を示し、また、同様に1μm近く厚くした4μm乃至これを超えると、耐傷性が幾分低下する傾向を示し、また、5μmを超えると耐傷性を確保し難くなるからである。
【0029】
該電着塗装の塗膜厚は、上記好ましい3±1μmに対して3.0±0.5μmとするのが、高度な耐傷性を呈するものとし得るから、特に好ましい。
【0030】
塗装後の焼付は、塗料の架橋硬化を行うように使用する塗料に応じた温度、時間の焼付条件を設定し、これによって行うようにすればよい。
【0031】
このように形成したアルミ材Aの陽極酸化塗装複合皮膜2は、図1に示すモデルの如くに、アルミ押出材Aの押出成形時に形成されたダイスマークを反映するように該アルミ押出材に形成された凹凸面をなす陽極酸化皮膜11を、その微孔12を含めて可及的均一に被覆したものとなり、該被覆によって、数μmに薄肉化した塗膜でありながら、上記優れた耐傷性を示す陽極酸化塗装複合皮膜2とすることができる。
【0032】
一方、該電着塗装を施したものは、該電着塗装時に電解ガスが通過することによるピンホールが発生することから、これが電着した塗膜に残存して焼き付けられることによって、陽極酸化塗装複合皮膜の耐食性を低下する結果を招く傾向があるところ、上記陽極酸化塗装複合皮膜が優れた耐傷性を呈するとしても、残存ピンホールによって耐食性を含めた塗膜性能を確保し得ないことになり易く、従って耐傷性と耐食性の双方を兼備したアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜とする必要が生じるところ、これは、下記の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法によって、これを得ることができる。
【0033】
即ち、該陽極酸化塗装複合皮膜形成方法は、上記熱硬化時の流動性抑制塗料の陽極酸化皮膜に対する塗装を電着塗装とするとともに該電着塗装を1次塗装とし、該1次塗装後に、ダイスマークの凹凸面の被覆漏れによる残存ピンホールを埋め被覆して耐食性を付与する低分子量の塗料による電着塗装の2次塗装を施すものとしてある。
【0034】
即ち、例えば、図3の表面処理工程に示すように、常法に従って陽極酸化処理、水洗、湯洗を施した後、1次塗装と、2次塗装の2段階電着塗装を施し、その後に焼付を施すことによって、上記1次塗装により、複合塗膜に上記耐傷性を付与する一方、2次塗装により、該1次塗装によってその電着した塗膜に生じた残存ピンホールを埋め被覆して、該残存ピンホールによる耐食性を付与して、耐傷性と耐食性の双方を兼備した複合塗膜を形成することができる。
【0035】
このとき、上記2次塗装の塗料の分子量は、これを、500〜2000とすることが好ましく、また、上記1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量は、これを、1次塗装により90〜98wt%、二次塗装により10〜2wt%とすることが好ましい。
【0036】
上記低分子量の電着塗料を使用して2次塗装を行うことによって、1次塗装による耐傷性を確保した塗膜に良好な耐食性を付与して、上記JIS H 8602(2010)に規定の塗膜性能を有する複合塗膜とすることができる。
【0037】
2次塗装の塗料の分子量が、500を下回ると、塗料として耐水性が劣るため塗膜性能を確保し難くなる傾向を招き、また、2000を上回ると、塗料の粒径が過大となり、上記残存ピンホールを埋め被覆し難くなる傾向を招くから、該分子量は、上記範囲のものとすることがよい。
【0038】
また、塗装の樹脂塗着量は、1次塗装の複合皮膜の耐食性を損なうのは、1次塗装時のピンホールの発生にあり、ピンホールの発生がなければ耐食性を併存したものとすることができるから、2次塗装は、このピンホールを埋めれば足り、従って、2次塗装は、該ピンホールを埋めるに足りる量とすればよく、これを超えて1次塗装の塗膜を更に追加的に被覆する必要はなく、従って、1次塗装による樹脂塗着量が90wt%を下回る、即ち、2次塗装による樹脂塗着量が10wtを上回ると、該2次塗装の樹脂塗着量が過剰となる傾向を招き、また、1次塗装による樹脂塗着量が98wt%を上回る、即ち、2次塗装による樹脂塗着量が2wtを下回ると、該2次塗装の樹脂塗着量が不足し、ピンホールの埋めが不十分となり、ピンホールが残る傾向を招くから、該1次塗装、2次塗装の樹脂塗着量は、これを上記範囲のものとすることが好ましい。
【0039】
このように形成したアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜は、陽極酸化皮膜に形成した塗膜厚数μmの熱硬化塗膜に耐傷性及び耐食性を付与したアルミ押出材の皮膜として、上記熱硬化塗膜を、陽極酸化皮膜におけるダイスマークの凹凸面を被覆した耐傷性付与の塗膜基体面と、該塗膜基体面に一体化した上記ダイスマーク凹凸面被覆漏れの残存ピンホールを埋め被覆した耐食性付与の塗膜補修点を備えて形成したものとすることができる。
【0040】
即ち、図2に示すモデルの如くに、上記図1の陽極酸化皮膜11を被覆した塗膜を塗膜基体面21とし、該塗膜基体面21に、その残存ピンホール22を埋め被覆する塗膜補修点23を一体化したものとしてあり、この場合、塗膜基体面21の膜厚を数μmとしながら、該塗膜基体面21による耐傷性と、そのピンホール22を埋め被覆する塗膜補修点23による耐食性を備えた陽極酸化塗装複合皮膜2をアルミ押出材Aに形成したものとしてあり、これによって、例えば、上記耐傷性を鉛筆硬度6H以上とし、試験時間72時間、120時間としたときのCASS耐食性をレイティングナンバー9.5乃至9.8以上として、アルミ押出材Aの陽極酸化塗装複合皮膜2を、上記数μmの可及的に薄肉化したものとし且つ該薄肉化しながらも、JIS H 8602 2010におけるB種相当乃至それ以上のA種相当の塗膜性能を有するものとすることができる。
【0041】
本発明の実施に当って、アルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法及び該陽極酸化塗装複合皮膜について、そのアルミ押出材、陽極酸化皮膜、熱硬化塗膜、その形成方法、熱硬化時流動性抑制塗料、ガラス転移温度、1次塗装、塗膜基体、2次塗装、塗膜補修点、低分子量の塗料、その分子量、耐傷性、CASS耐食性等の各具体的構成、材質、形状、これらの関係、これらに対する付加等は、上記発明の要旨に反しない限り様々な形態のものとすることができる。
【実験例1】
【0042】
JIS A 6063 T−5の押出材を用いて、常法による陽極酸化を施し、その陽極酸化皮膜に対して、ガラス転移温度38℃のアクリル系電着塗料を用いた電着塗装及び焼付を施して、塗膜厚を3μmから8μmまで1μm毎に変化した熱硬化塗膜を形成し、手持ちした10円硬化を手首を回すように該熱硬化塗膜に叩きつけて表面の傷が入ったか否かを判定するコインスクラッチ法によって耐傷性を評価した。その結果を、対応する鉛筆硬度とともに表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1において、◎は傷が目立たない状態、○は傷がやや認められる状態、×は傷が目立つ状態をそれぞれ示す。
【0045】
表1によれば塗膜厚3μmで鉛筆硬度7H相当の極めて高度な耐傷性を、4μmで鉛筆硬度6μm相当の硬度の耐傷性を得られたが、5μm、6μmで鉛筆硬度5H、7μm、8μmで鉛筆硬度4Hと膜厚を厚くするにつれて耐傷性が低下する結果であった。
【実験例2】
【0046】
JIS A 6063 T−5の押出材を用いて、常法による陽極酸化を施し、その陽極酸化皮膜に対して、ガラス転移温度38℃のアクリル系電着塗料を用いた電着塗装及び焼付を施して、塗膜厚2.8μm(実測値)の熱硬化塗膜を形成し、耐コインスクラッチ性試験による耐傷性、0.5%水酸化ナトリウム水溶液を用いたリング浸漬法試験による耐アルカリ性、5%硫酸水溶液を用いたリング浸漬法試験による耐硫酸性、72hr及び120hrのCASS試験によるCASS耐食性について塗膜性能試験を行なった。その結果を試料1として表2に示す。
【0047】
ガラス転移温度25℃のアクリル樹脂系電着塗料の1次電着塗装後に、アクリル樹脂の分子量1000の同じくアクリル樹脂系電着塗料の2次電着塗装及び焼付を施すとともに1次電着塗装と2次電着塗装の樹脂塗着量を90:10として塗膜厚2.5μmの複合塗膜を形成した以外、上記試料1と同様とした。その結果を試料2として表2に示す。
【0048】
ガラス転移温度を38℃、1次電着塗装と2次電着塗装の樹脂塗着量を99:1とし、また、塗膜厚を2.7μmとした以外、上記試料2と同様とした。その結果を試料3として表2に示す。
【0049】
樹脂塗着量を95:5とし、塗膜厚を2.9μmとする以外、上記試料3と同様とした。その結果を試料4として表2に示す。
【0050】
樹脂塗着量を90:10とし、塗膜厚を3.1μmとする以外、上記試料3と同様とした。その結果を試料5として表2に示す。
【0051】
樹脂塗着量を50:50とし、塗膜厚を3.5μmとする以外、上記試料3と同様とした。その結果を試料6として表2に示す。
【0052】
ガラス転移温度を25℃とし、塗膜厚を3.1μmとした以外、上記試料1と同様とした。その結果を試料7として表2に示す。
【0053】
塗膜厚を6.9μmとした以外、試料7と同様とした。その結果を試料8として表2に示す。
【0054】
1次電着塗装と2次電着塗装の樹脂塗着量を90:10とし、また、塗膜厚を2.9μmとした以外、試料2と同様とした。その結果を試料9として表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2において、◎はレイティングナンバー9.8以上、○は同9.0〜9.5、△は同7.0〜8.0、×は全面腐食の状態をそれぞれ示す。
【0057】
以上の実験例2によれば、(1)ガラス転移温度25℃のアクリル樹脂系電着塗料を用いた場合、試料6のように塗膜厚を6.9μm、即ち7μm程度とすれば耐傷性は低いが、耐アルカリ性、耐硫酸性、CASS耐食性等の塗膜性能を確保し得るが、試料7のように塗膜厚を3.1μm、即ち3μm程度とすると、耐傷性は良好に確保し得るが、これらの塗膜性能を確保し得ない一方で、試料9のように同じく塗膜厚を2.9μm、即ち3μm程度しても、低分子量の2次電着塗装を施すと、耐傷性を維持しながら、塗膜性能を向上し得ること、(2)これに対してガラス転移温度を25℃、38℃の同様の塗料を用いて、塗膜厚を2.5乃至3.5μmとしたものは、試料1乃至試料6のように、良好な耐傷性を示すものとなし得ること、(3)この場合でも、試料1のように、ガラス転移温度38℃の電着塗料による単一の電着塗装、即ち、単層の塗膜を形成した場合、耐アルカリ性、耐硫酸性はある程度確保し得るも、CASS耐食性を得られないこと、(4)これに対して、該塗膜に対して、低分子量の塗料による2次電着塗装を施したものは、試料2、試料4、試料5のように耐傷性とともに耐アルカリ性、耐硫酸性、CASS耐食性を向上乃至確保し得ること、(5)この場合でも、1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量を、試料3の99:1とするように、2次塗装の樹脂塗着量が極く少ないときには、耐アルカリ性、耐硫酸性をある程度向上し得るも、CASS耐食性を確保し得ず、また、試料6の50:50とするように、2次塗装の樹脂塗着量が極く多いと、耐アルカリ性、耐硫酸性がやや劣るとともにCASS耐食性を確保し得ないこと、(6)一方、1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量が、試料4の95:5、試料2及び試料5の90:10の場合には、比較的良好な塗膜性能を呈したものとなり、耐傷性に優れるとともに、耐アルカリ性、耐硫酸性及びCASS耐食性のレイティングナンバーを9.0〜9.5以上乃至9.8以上のものとすることができ、特に塗膜厚3±1μmの3μm程度、1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量95:5及び90:10としたときの試料4、5は、試験時間72hrで耐アルカリ性のレイティングナンバー9.0〜9.5、耐硫酸性のレイティングナンバー及びCASS耐食性のレイティングナンバー9.8以上であり、試験時間120hrでも略同等であり、樹脂塗着量95:5のときCASS耐食性がレイティングナンバー9.0〜9.5という結果であった。
【符号の説明】
【0058】
A アルミ押出材
1 陽極酸化皮膜
11 微孔
2 陽極酸化塗装複合皮膜
21 熱硬化塗膜(塗膜基体)
22 ピンホール
23 塗膜補修点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化皮膜に耐傷性を有する塗膜厚数μmに薄膜化した熱硬化塗膜を形成する陽極酸化塗装複合皮膜の形成方法であって、上記薄膜化した熱硬化塗膜の塗料を、陽極酸化皮膜のダイスマークによる凹凸面に追従してこれを被覆する熱硬化時流動性を抑制した塗料として上記陽極酸化皮膜に対する塗装とその後の焼付を施すことを特徴とするアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法。
【請求項2】
上記熱硬化時流動性を抑制した塗料を、熱硬化塗膜の塗料基体のガラス転移温度を30〜60℃として上記熱硬化時流動性を抑制することを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法。
【請求項3】
上記熱硬化時の流動性抑制塗料の陽極酸化皮膜に対する塗装を1次塗装とし、該1次塗装後に、ダイスマークの凹凸面の被覆漏れによる残存ピンホールを埋め被覆して耐食性を付与する低分子量の塗料による2次塗装を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法。
【請求項4】
上記低分子量の塗料の分子量を、500〜2000とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法。
【請求項5】
上記1次塗装と2次塗装の樹脂塗着量を、1次塗装により90〜98w%、二次塗装により10〜2w%とすることを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜形成方法。
【請求項6】
陽極酸化皮膜に形成した塗膜厚数μmの熱硬化塗膜に耐傷性及び耐食性を付与したアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜であって、上記熱硬化塗膜を、陽極酸化皮膜におけるダイスマークの凹凸面を被覆した耐傷性付与の塗膜基体面と、該塗膜基体面に一体化した上記ダイスマーク凹凸面被覆漏れの残存ピンホールを埋め被覆した耐食性付与の塗膜補修点を備えて形成してなることを特徴とするアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜。
【請求項7】
上記耐傷性を鉛筆硬度6H以上とし、CASS耐食性(試験時間72時間)をレイティングナンバー9.5以上としてなることを特徴とする請求項6に記載のアルミ押出材の陽極酸化塗装複合皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197480(P2012−197480A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62286(P2011−62286)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】