説明

アレルゲン特定用標準アレルゲン及びアレルゲン検出用抗体並びにその利用

【課題】甲殻類由来の新規アレルゲンを提供する。
【解決手段】本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンは、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片からなる。本発明によれば、甲殻類由来の新規アレルゲンを提供し、これを用いて、アレルゲン特定用標準アレルゲン、アレルゲン検出用抗体、アレルゲン混入検査方法、アレルゲン混入検査用試薬、アレルゲン感受性測定方法、及びアレルゲン感受性測定用試薬等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン特定用標準アレルゲン及びアレルゲン検出用抗体に関し、更に、アレルゲン混入検査方法、アレルゲン混入検査用試薬、アレルゲン感受性測定方法、並びにアレルゲン感受性測定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国における食物アレルギーの主な原因食物は、卵、牛乳、大豆、エビ・カニや魚類などである。年齢によって原因食物の頻度は異なり、成人ではエビ・カニなどの甲殻類によるアレルギーがもっとも高頻度に認められる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
エビ・カニなどの甲殻類によるアレルギーは即時型であり、摂食(あるいは接触)の直後から30分以内に口腔粘膜症状(口唇のしびれ、浮腫など)、皮膚症状(蕁麻疹など)、消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢など)や呼吸器症状(喘息、息切れなど)が出現する。ときには重篤な全身性のアナフィラキシーショックに陥ることもある(例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
従来、甲殻類によるアレルギーの原因物質としては、エビトロポミオシン(TMS)やエビアルギニンキナーゼ(AK)が同定されていた(例えば、非特許文献3及び4参照。)。
【非特許文献1】Yoneyama K, Ono A. Study of food allergy among university students in Japan. Allergology International 2002; 51: 205-208.
【非特許文献2】中村 晋、飯倉洋治: 最新食物アレルギー. 永井書店 2004; 241-244.
【非特許文献3】Daul CB, Slattery M, Reese G, et al : Identification of the major brown shrimp(Penaeus aztecus)allergen as the muscle protein tropomyosin. Int Arch Allergy Immunol 1994; 105: 49-55.
【非特許文献4】Yu CJ, Lin YF, Chiang BL, Chow LP. Proteomics and immunological analysis of a novel shrimp allergen, Pen m 2. J Immunol. 2003; 170: 445-453.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
甲殻類由来の食物に対するアレルギー患者の多くは、トロポミオシン(TMS)とアルギニンキナーゼ(AK)の両方あるいはいずれかのIgE抗体を保有する。しかしながら、これらのアレルゲンに対する抗体が陰性である患者もあることから,他の未同定アレルゲンもまた発症に重要な役割を果たしていると考えられる。
【0006】
したがって本発明の目的は、甲殻類由来の新規アレルゲンを提供し、これを用いて、アレルゲン特定用標準アレルゲン、アレルゲン検出用抗体、アレルゲン混入検査方法、アレルゲン混入検査用試薬、アレルゲン感受性測定方法、及びアレルゲン感受性測定用試薬等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、エビ尾肉(筋肉)やカニの脚肉(筋肉)に含まれるカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)がアレルゲンであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
(1)甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片からなることを特徴とするアレルゲン特定用標準アレルゲン。
【0010】
(2)前記カルシウムバインディングプロテインは、エビ類又はカニ類由来である前記(1)記載のアレルゲン。
【0011】
(3)前記カルシウムバインディングプロテインは、クルマエビ、ボタンエビ、大正エビ、芝エビ、甘エビ、伊勢エビ、オマールエビ、ズワイガニ、タラバガニ、又はケガニ由来である前記(1)又は(2)記載のアレルゲン。
【0012】
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のアレルゲンを認識する抗アレルゲン抗体からなることを特徴とするアレルゲン検出用抗体。
【0013】
(5)抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体である前記(4)記載の抗体。
【0014】
(6)試料中のアレルゲンの混入を検査する方法であって、試料から抽出物を調製し、前記抽出物中の甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片を検出することを特徴とするアレルゲン混入検査方法。
【0015】
(7)前記試料は、飲食品又はその原材料である前記(6)記載のアレルゲン混入検査方法。
【0016】
(8)前記カルシウムバインディングプロテインは、エビ類又はカニ類由来である前記(6)又は(7)記載のアレルゲン混入検査方法。
【0017】
(9)前記カルシウムバインディングプロテインは、クルマエビ、ボタンエビ、大正エビ、芝エビ、甘エビ、伊勢エビ、オマールエビ、ズワイガニ、タラバガニ、又はケガニ由来である前記(6)〜(8)のいずれか1つに記載のアレルゲン混入検査方法。
【0018】
(10)前記抽出物中の甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片を検出する手段が、前記(4)又は(5)記載のアレルゲン検出用抗体を用いた免疫学的検出手段である前記(6)〜(9)のいずれか1つに記載のアレルゲン混入検査方法。
【0019】
(11)試料中のアレルゲンの混入を検査するために用いられる検査用試薬であって、前記(4)又は(5)記載のアレルゲン検出用抗体を含むことを特徴とするアレルゲン混入検査用試薬。
【0020】
(12)前記(4)又は(5)記載のアレルゲン検出用抗体を含有する溶液を含む前記(11)記載のアレルゲン混入検査用試薬。
【0021】
(13)前記(4)又は(5)記載のアレルゲン検出用抗体を担持した担体を含む前記(11)記載のアレルゲン混入検査用試薬。
【0022】
(14)被験者の生体試料又はその調製物に、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のアレルゲンを作用させ、前記生体試料又はその調製物に含まれるIgE抗体のうち、前記アレルゲンに結合するIgE抗体の量を測定することを特徴とするアレルゲン感受性測定方法。
【0023】
(15)被験者のアレルゲンに対する感受性を測定するために用いられる測定用試薬であって、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のアレルゲンを含むことを特徴とするアレルゲン感受性測定用試薬。
【0024】
(16)前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のアレルゲンを含有する溶液を含む前記(15)記載のアレルゲン感受性測定用試薬。
【0025】
(17)前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のアレルゲンを担持した担体を含む前記(15)記載のアレルゲン感受性測定用試薬。
【0026】
(18)更に、標識抗IgE抗体を含む前記(15)〜(17)のいずれか1つに記載のアレルゲン感受性測定用試薬。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、甲殻類由来の新規アレルゲンを提供し、これを用いて、アレルゲン特定用標準アレルゲン、アレルゲン検出用抗体、アレルゲン混入検査方法、アレルゲン混入検査用試薬、アレルゲン感受性測定方法、及びアレルゲン感受性測定用試薬等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、エビ・カニなどの甲殻類に含まれるカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)がアレルゲンであることを見出したことに基づく発明である。すなわち、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンは、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片からなる。
【0029】
本発明において用いられる、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテインは、例えば、次のような方法で得ることができる。すなわち、エビ尾肉(筋肉)やカニの脚肉(筋肉)を原料にして、5〜20倍量の0.5Mクエン酸緩衝液(pH3.8〜4.0)を加えてホモジナイズし、4℃で一晩抽出する。得られた抽出物を遠心後、その上清から塩析により、飽和硫安濃度50%〜70%の分画を回収する。その塩析物を、0.2MNaCL含有0.01M トリス酢酸緩衝液(pH8.0)に対し、4℃で一晩透析し、透析物をNi(ニッケル)キレートカラムにアプライし、カラムに吸着しないカラム未吸着画分を回収する。得られたNiキレートカラム未吸着画分を,0.01Mトリス酢酸緩衝液(pH8.0)に対し、4℃で一晩透析し、透析物を陰イオン交換カラム(例えば、DEAEあるいはMono Qカラムなど)などで精製する。
【0030】
本発明において用いられる、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテインは、上記の方法以外の方法によっても適宜得ることができる。また、公知の技術を利用して、適宜これを濃縮、精製することができる。
【0031】
カルシウムバインディングプロテインの由来となる甲殻類の種類に特に制限はないが、食用エビであるクルマエビ(Penaeus japonicus)、ボタンエビ(Pandalus platyceros)、大正エビ、芝エビ、甘エビ、伊勢エビ、オマールエビ等や、食用カニであるズワイガニ(Chionoecetes opilio)、タラバガニ(Parolithodes camtschticus)又はケガニ(Erimacrus isenbeckii)等を好ましく例示できる。
【0032】
本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンにおいては、アレルゲン性、抗体産生能、抗体結合能等の特性において、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテインの免疫学的特性を保持するものであれば、そのポリペプチド断片を用いることもできる。すなわち、例えば、抗原−抗体反応の特異性を決定する局所構造であるエピトープは、一般的にそのアミノ酸長は10〜数十アミノ酸程度である。したがって、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテインにもそのような免疫学的特性を保持する部分ポリペプチド断片が存在するものと考えられる。
【0033】
なお、本発明において「免疫学的」とは、当該分野で一般に用いられる用語と同義に用いられ、ヒトに対する免疫性を利用するものだけでなく、例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、サル、ウシ、ニワトリ、モルモット、ラット、マウス等、他の動物に対する免疫性を利用するものも含まれる。
【0034】
本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンにおいては、その免疫学的特性を保持する範囲であれば、可逆的あるいは不可逆的に、他物質と結合させた状態で使用することができる。例えば、樹脂、ガラス、プラスチック、金属、色素分子、放射性物質、蛍光物質、生体高分子、有機材料分子などに結合させた状態で使用することができる。また結合させるものの性状に特に制限はなく、例えば、ゲル状、ナノ粒子状、コロイド状、ビーズ状、多孔質状、プレート状などであってもよい。
【0035】
本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンは、以下のように利用することができる。
【0036】
例えば、試料から抽出物を調製し、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを物質的指標にして、前記抽出物中のアレルゲンを検出する。前記試料としては、飲食品又はその原材料等が挙げられる。
【0037】
これによれば、飲食品中にアレルゲンの混入があるかどうかを製造業者又はその管理者が簡便に検査することができ、これを製品のパッケージ等に表示することによって、購入者に知らしめることができる。そして、アレルギー発症履歴を有するか、発症のおそれのある消費者がその飲食品を摂取することを防止することができる。
【0038】
また、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンは、以下のようにも利用することができる。
【0039】
例えば、被験者の生体試料又はその調製物に、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを作用させ、前記生体試料又はその調製物に含まれるIgE抗体のうち、該アレルゲンに結合するIgE抗体の量を測定する。これによって、被験者のアレルゲンに対する感受性を測定し、又はアレルギー症状の病態を測定することができる。
【0040】
被験者の生体試料又はその調製物としては、血液、血清、血漿等が挙げられる。
【0041】
アレルゲンに結合するIgE抗体の量を測定する手段としては、例えば、まず、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを、マイクロプレートやビーズに固相化しておき、前記生体試料又はその調製物に含まれるIgE抗体のうちその固相に該アレルゲンを介して結合するものを、結合せずに溶液中にとどまるものから洗浄操作や、遠心操作により分離し、これをIgE抗体に対する抗体で測定する方法で行うことができる。IgE抗体に対する抗体としては、抗ヒトIgE-β-ガラクトシダーゼ標識抗体等が市販されている。
【0042】
上記の測定方法を簡便且つ迅速にできるようにするために、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを含むアレルゲン感受性測定用試薬が提供され得る。また、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンの他に必要とされる任意の試薬を更に含むアレルゲン感受性測定用試薬としても提供され得る。他に必要とされる任意の試薬としては、例えば、上記抗ヒトIgE-β-ガラクトシダーゼ標識抗体等の標識抗IgE抗体が挙げられる。
【0043】
一方、本発明のアレルゲン検出用抗体は、本発明の本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを認識する抗体であり、具体的には、抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体等として提供され得る。その調製方法としては、当該分野で周知のいずれの技術をも用いることができる。例えば、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンを免疫動物に投与し、当該動物からの抗血清の採取する。免疫動物としては、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、サル、ウシ、ニワトリ、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。また、本発明のアレルゲン特定用標準アレルゲンに対するモノクローナル抗体を産生するマウスハイブリドーマを公知の方法で単離することができる。
【0044】
本発明のアレルゲン検出用抗体においては、その免疫学的特性を保持する範囲であれば、可逆的あるいは不可逆的に、他物質と結合させた状態で使用することができる。例えば、樹脂、ガラス、プラスチック、金属、色素分子、放射性物質、蛍光物質、生体高分子、有機材料分子などに結合させた状態で使用することができる。また結合させるものの性状に特に制限はなく、例えば、ゲル状、ナノ粒子状、コロイド状、ビーズ状、多孔質状、プレート状などであってもよい。
【0045】
本発明のアレルゲン検出用抗体は、以下のように利用することができる。
【0046】
例えば、上述の、試料中のアレルゲンを検出する方法において、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片を検出する手段として、本発明のアレルゲン検出用抗体を用いた免疫学的検出手段を用いることができる。
【0047】
免疫学的検出手段はELISA法やイムノクロマト法等をはじめとして各種の方法が広く普及しており、当該分野の当業者であれば、公知の技術を適宜利用することに困難はない。
【0048】
上記の検査方法を簡便且つ迅速にできるようにするために、本発明のアレルゲン検出用抗体を含むアレルゲン混入検査用試薬が提供され得る。また、本発明のアレルゲン検出用抗体の他に必要とされる任意の試薬を更に含むアレルゲン混入検査用試薬としても提供され得る。更に、他に必要とされる任意の試薬としては、例えば、免疫グロブリンを認識する抗IgG―Fcフラグメント抗体等、抗IgG2次抗体が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
<例1> カルシウムバインディングプロテイン(CaBP)の調製
クルマエビ(クルマエビ科クルマエビ)の尾肉、ボタンエビ(タラバエビ科ボタンエビ)の尾肉、及びズワイガニ(Chionoecetes opilio)の脚肉を原料にして、以下のようにしてカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)を調製した。
【0051】
原料に対して5倍量の0.5Mクエン酸緩衝液(pH3.8)を加えてホモジナイズし、4℃で一晩抽出した。得られた抽出物を遠心してその上清を取り、硫酸アンモニウムでの塩析により、飽和硫安濃度50%〜70%の分画を回収した。その塩析物を、0.2MNaCL含有0.01M トリス酢酸緩衝液(pH8.0)に対し、4℃で一晩透析し、透析物をNi(ニッケル)キレートカラムにアプライして、カラムに吸着しない未吸着画分を回収した。得られたNiキレートカラム未吸着画分を、0.01Mトリス酢酸緩衝液(pH8.0)に対し、4℃で一晩透析し、その透析物をMono Qカラムにアプライして、NaCl濃度0Mから0.25Mへの濃度勾配により溶出した。図1には、例として、クルマエビからの精製物について、MonoQカラムからのタンパク質溶出プロファイルを示す。この溶出プロファイルの32〜35番目の画分を回収したところ、図2に示すように、SDS−PAGE分析において単一バンドを呈する22kDaのタンパク質が得られた。また、ボタンエビ及びズワイガニを原料にした場合も、それぞれ23kDa、21kDaのタンパク質が得られた。
【0052】
上記タンパク質のトリプシン消化後のペプチド断片について、部分アミノ酸配列解析を行ったところ、表1に示すように、3つのペプチド断片についてはクルマエビ科大正エビ(Penaeus orientaris)のSarcoplasmic calcium-binding protein alpha B chain の配列と完全に一致していた。そして、1アミノ酸置換を許容した場合では、更に2つのペプチド断片が合致していた。よって、得られたタンパク質が、カルシウムバインディングプロテイン(CaBP)であることが同定できた。
【0053】
【表1】

【0054】
得られたカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)を、「精製CaBP」として以下の例に用いた。
【0055】
<例2> カルシウムバインディングプロテインのアレルゲン性
エビアレルギー患者(エビCAP RAST陽性22例)の血清中で、カルシウムバインディングプロテインに対するIgE抗体が増加しているかどうかを調べる目的で、以下のようにして、間接ELISA法による測定を行った。このエビアレルギー患者は、エビの摂食で口唇浮腫やじん麻疹、また接触皮膚炎(調理中)などのアレルギーを発症した経験があり、その血清は、市販のアレルゲンIgE抗体検査キット(CAP-RAST)での判定で陽性であった。また、対照として、市販のアレルゲンIgE抗体検査キット(CAP-RAST)での判定で陰性であった健常者11人の血清についても測定した。
【0056】
上記例1で得られたクルマエビ由来の精製CaBPを、0.05M炭酸-重炭酸緩衝液、pH9.6で2μg/mlに調製し、96穴平底マイクロプレートの1ウェル中に約1μg含まれるように固相化した。PBST(PBS,0.05% Tween 20)で3回洗浄後、エビアレルギー患者の血清を1%BSA-PBSTで4倍に希釈して分注し、室温で3時間反応させた。PBSTで3回洗浄後、抗ヒトIgE-β-ガラクトシダーゼ標識抗体(「CAP RAST FEIAキット」(商品名)、ファディア株式会社製)を1%BSA-PBSTで15倍希釈して分注し、4℃で一晩反応させた。PBSTで3回洗浄後、0.3mM 4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシドを加え、37℃の恒温槽中で90分間反応させた。最後に0.1M グリシン-NaOH(pH10.2)を加えて反応を停止させた。反応後の蛍光単位(FU)を、マイクロプレートリーダー「Fluoroskan II」(商品名、米国Titertek社製)を用いて測定した。抗体陽性か陰性かの判定のためのカットオフ値は、健常者から得られた平均値にその標準偏差の4倍の値を足した値である60蛍光単位(FU)とし、それ以上を抗体陽性とした。
【0057】
その結果を図3に示す。図3に示すとおり、抗原としてクルマエビ由来のカルシウムバインディングプロテインを用いた場合には、エビアレルギー患者22例のうち13例(59%)が抗体陽性であった。
【0058】
以上から、一部のエビアレルギー患者の血清で、カルシウムバインディングプロテインに対するIgE抗体が増加していることが明らかとなった。したがって、カルシウムバインディングプロテインがエビアレルギー症状の原因物質のひとつであることが示唆された。
【0059】
<例3> 抗血清の調製
常法に従い、上記例1で得られた精製CaBPをマウスや家兎に免疫して抗血清(ポリクローナル)を作製した。この抗血清は、サンドイッチELISAやウエスタンブロッティング、そして、イムノクロマトなどの免疫学的測定に利用できる抗体であった。
【0060】
<例4> IgG画分の調製
上記例3で得られた抗血清から、市販の免疫グロブリン精製用キット(商品名「アフィゲル プロテインA MAPS-IIキット」、米国 Bio-Rad 社製)を用いて、IgG画分を調製し、ビオチン標識した。
【0061】
<例5> クルマエビとボタンエビ間での交差反応性試験
上記例4で得られたクルマエビ由来の精製CaBPに対するマウス抗血清からのIgG画分(以下、「抗クルマエビCaBP抗体」という。)と、ボタンエビ由来の精製CaBPに対するマウス抗血清からのIgG画分(以下、「抗ボタンエビCaBP抗体」という。)の、それぞれの抗原に対する交差反応性について調べた。そのためのサンドイッチELISAを以下の手順で行った。
(1)炭酸緩衝液(pH9. 6)で抗クルマエビCaBP抗体(または抗ボタンエビCaBP抗体)を2μg/mlに希釈し、マイクロプレートに分注、一晩静置。
(2)プレートをPBS-0.05% Tween 20(PBST)で3回洗浄後、1%ウシ血清アルブミンーPBST (BSΛ-PBST)で階段希釈した精製CaBP(50ng−0.07ng/ml)を加えて室温60分間反応。
(3)プレートをPBSTで洗浄後、0.2μg/mlのビオチン標識抗クルマエビCaBP抗体(またはビオチン標識抗ボタンエビCaBP抗体)を加えて、室温60分間反応。
(4)洗浄後、アルカリ性ホスファターゼ標識ストレプトアビジン(1 : 2000)を加え、室温60分間反応。
(5)洗浄後、p−ニトロフェニールホスフェイトを加え、室温15分間反応。
(6)0.2M EDTAを加えて反応を停止し、405nmで吸光度を測定。
【0062】
結果を図4に示す。図4(a)に示すように、抗クルマエビCaBP抗体は、ボタンエビ由来カルシウムバインディングプロテインには反応せず、クルマエビ由来カルシウムバインディングプロテインとのみ反応した。一方、図4(b)に示すように、抗ボタンエビCaBP抗体は、クルマエビ由来カルシウムバインディングプロテインには反応せず、ボタンエビ由来カルシウムバインディングプロテインとのみ反応した。また、いずれの抗体もズワイガニ由来カルシウムバインディングプロテインには反応しなかった。
【0063】
<例6> 各種魚介類間での交差反応性試験
他種生物間での交差反応性を更に調べるために、各種魚介類抽出液を作製し、上記例5と同様にして、サンドイッチELISAを行った。
【0064】
具体的には、魚介類(ズワイガニ、マグロ、真タラ、ハマグリ、スルメイカ、本シャコ、オキアミ、桜エビ、甘エビ、ボタンエビ、伊勢エビ、芝エビ、大正エビ、クルマエビ、オマールエビ)の各試料を、5倍量の0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)中でホモジナイズし、室温で60分間攪拌した。つぎに、4℃で10分間遠心し(15000rpm)、上清を0.45μmのフィルターでろ過し、魚介類抽出液とした。得られた魚介類抽出液を、0.2M酢酸緩衝液(pH6.4)で100倍希釈し、そこに抗原処理液を1:1で加えた。これを100℃にて2分間煮沸し、冷水中にて放熱した。そして、予め作製しておいた各サンドイッチELISAに、先の試料を600倍から3倍の段階希釈で加え、室温で1時間反応させた。抗体としては、上記抗クルマエビCaBP抗体、上記抗ボタンエビCaBP抗体、又は抗エビトロポミオシン−マウスポリクローナル抗体を用いた。
【0065】
結果を図5に示す。図5(a)に示すように、抗クルマエビCaBP抗体は、クルマエビ科のクルマエビ、大正エビ、芝エビからの抽出物と反応し、その他の魚介類抽出物との反応性は確認できないか、又は弱いものであった。また、図5(b)に示すように、抗ボタンエビCaBP抗体は、タラバエビ科のボタンエビ、甘エビからの抽出物と反応し、その他の魚介類抽出物との反応性は確認できないか、又は弱いものであった。一方、抗エビトロポミオシン−マウスポリクローナル抗体は、エビ抽出物だけでなく、オキアミ、ズワイガニ、シャコからの抽出物にも反応し、他種間での交差反応性が認められた。
【0066】
以上から、甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテインは、他種エビ類間、又は他種魚介類間での交差反応性が低いアレルゲンであることが明らかとなった。
【0067】
<例7> 加工食品中のカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)の検出
各種の市販の加工食品のうち、原材料名に「魚介エキス」「エビ」などといった表記を含んだものを選んで、以下のようにして、食品中のカルシウムバインディングプロテイン(CaBP)を検出した。加工食品としては、「タイ風炒飯カオッパ(商品名、カゴメ株式会社)」(以下、「炒飯」という。)、「枝豆とロブスターのリゾット(商品名、カゴメ株式会社)」(以下、「リゾット」という。)、「えびせんの華(商品名、キク)」(以下、「えび煎餅」という。)、「子魚ふりかけ(商品名、株式会社大森屋)」(以下、「ふりかけ」という。)、「アミノコラーゲン(商品名、明治製菓株式会社)」(以下、「ゼリー」という。)、「シーフードヌードル(商品名、日清食品株式会社)」(以下、「ヌードル」という。)、「おすし屋さんのみそ汁(商品名、ハナマルキ株式会社)」(以下、「みそ汁」という。)、「海老シュウマイ(商品名、味の素株式会社)」(以下、「シューマイ」という。)、「海老カツ(商品名、日本水産株式会社)」(以下、「エビカツ」という。)、「XO醤(商品名、ユウキ食品株式会社)」(以下、「XO醤」という。)、「キムチ鍋の素(商品名、エバラ食品工業株式会社)」(以下、「キムチ鍋の素」という。)を用いた。
・固形物の場合:食品10gに0. 2M acetate buffer (pH6.4)40mlを加えて12000rpm/3minでホモジナイズ処理し、12000rpm/lOminで遠心した後の上清2mlに同量の0. 2M DTT、1% SDSを加え混和した。沸湯水中で4分間加熱し、0.22μmの濾過フィルターで濾過して抽出液とした。
・液状または半液状の湯合:食品2gに2mlの0. 2M DTT、1% SDS加えて混和した。沸湯水中で4分間加熱し、0.22μmの濾過フィルターで濾過して抽出液とした。
【0068】
上記のようにして得た抽出液について、上記例4又は例5と同様にして、サンドイッチELISAを行った。抗体としては、上記抗クルマエビCaBP抗体、又は上記抗ボタンエビCaBP抗体を用いた。なお、サンドイッチELISAの結果は、精製CaBPを用いて検量線を作成し、各試料の反応値を内挿し、食品1g中のアレルゲンの濃度(ng/g)として表わした。
【0069】
結果を図6に示す。図6に示すように、「エビ煎餅」、「ふりかけ」、「シューマイ」、「エビカツ」、「XO醤」、「リゾット」、「炒飯」からはクルマエビ由来カルシウムバインディングプロテイン(CaBP)が検出された。また、「ふりかけ」、「シューマイ」、「エビカツ」、「ヌードル」、「リゾット」、「炒飯」からはボタンエビ由来カルシウムバインディングプロテイン(CaBP)が検出された。一方、「キムチ鍋の素」、「みそ汁」、「ゼリー」からは検出されなかった。
【0070】
以上から、上記抗クルマエビCaBP抗体、又は上記抗ボタンエビCaBP抗体を、食品中の特定原材料の検出のために利用できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0071】

【図1】例1のクルマエビ由来精製物を調製する際のMono Qカラムタンパク質溶出プロファイルを示す図表である。
【図2】例1で得られた精製物をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に処しクマシー染色した写真である。
【図3】例1で得られたクルマエビ由来CaBPに対して結合能を示す血清IgEを有する被験者の割合を示す図表である。
【図4】精製CaBPに対するサンドイッチELISAの結果を示す図表である。
【図5】各種魚介類抽出液に対するサンドイッチELISAの結果を示す図表である。
【図6】各種食品抽出液に対するサンドイッチELISAの結果を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片からなることを特徴とするアレルゲン特定用標準アレルゲン。
【請求項2】
前記カルシウムバインディングプロテインは、エビ類又はカニ類由来である請求項1記載のアレルゲン。
【請求項3】
前記カルシウムバインディングプロテインは、クルマエビ、ボタンエビ、大正エビ、芝エビ、甘エビ、伊勢エビ、オマールエビ、ズワイガニ、タラバガニ、又はケガニ由来である請求項1又は2記載のアレルゲン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のアレルゲンを認識する抗アレルゲン抗体からなることを特徴とするアレルゲン検出用抗体。
【請求項5】
抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体である請求項4記載の抗体。
【請求項6】
試料中のアレルゲンの混入を検査する方法であって、試料から抽出物を調製し、前記抽出物中の甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片を検出することを特徴とするアレルゲン混入検査方法。
【請求項7】
前記試料は、飲食品又はその原材料である請求項6記載のアレルゲン混入検査方法。
【請求項8】
前記カルシウムバインディングプロテインは、エビ類又はカニ類由来である請求項6又は7記載のアレルゲン混入検査方法。
【請求項9】
前記カルシウムバインディングプロテインは、クルマエビ、ボタンエビ、大正エビ、芝エビ、甘エビ、伊勢エビ、オマールエビ、ズワイガニ、タラバガニ、又はケガニ由来である請求項6〜8のいずれか1つに記載のアレルゲン混入検査方法。
【請求項10】
前記抽出物中の甲殻類由来のカルシウムバインディングプロテイン又はそのポリペプチド断片を検出する手段が、請求項4又は5記載のアレルゲン検出用抗体を用いた免疫学的検出手段である請求項6〜9のいずれか1つに記載のアレルゲン混入検査方法。
【請求項11】
試料中のアレルゲンの混入を検査するために用いられる検査用試薬であって、請求項4又は5記載のアレルゲン検出用抗体を含むことを特徴とするアレルゲン混入検査用試薬。
【請求項12】
請求項4又は5記載のアレルゲン検出用抗体を含有する溶液を含む請求項11記載のアレルゲン混入検査用試薬。
【請求項13】
請求項4又は5記載のアレルゲン検出用抗体を担持した担体を含む請求項11記載のアレルゲン混入検査用試薬。
【請求項14】
被験者の生体試料又はその調製物に、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアレルゲンを作用させ、前記生体試料又はその調製物に含まれるIgE抗体のうち、前記アレルゲンに結合するIgE抗体の量を測定することを特徴とするアレルゲン感受性測定方法。
【請求項15】
被験者のアレルゲンに対する感受性を測定するために用いられる測定用試薬であって、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアレルゲンを含むことを特徴とするアレルゲン感受性測定用試薬。
【請求項16】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のアレルゲンを含有する溶液を含む請求項15記載のアレルゲン感受性測定用試薬。
【請求項17】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のアレルゲンを担持した担体を含む請求項15記載のアレルゲン感受性測定用試薬。
【請求項18】
更に、標識抗IgE抗体を含む請求項15〜17のいずれか1つに記載のアレルゲン感受性測定用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−236809(P2009−236809A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85397(P2008−85397)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月30日 社団法人日本アレルギー学会発行の「アレルギー 第57回日本アレルギー学会秋季学術大会号 第56巻 第8・9号」に発表
【出願人】(507161983)ITEA株式会社 (3)
【Fターム(参考)】