説明

アレーアンテナ装置

【課題】アンテナの利得の低下を抑え、かつ、励振する素子アンテナのアレー素子パターン形状の劣化を抑えたアレーアンテナ装置を得る。
【解決手段】与えられた配列格子の格子点に複数の素子アンテナを設けてなるアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナの中から素子アンテナの間引きを行う際に、励振しない間引き素子アンテナの放射素子4をアレーアンテナの開口面上に残したまま、励振しない間引き素子アンテナの給電点に取り付けた終端抵抗を取り除くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の素子アンテナからなるアレーアンテナ装置に関し、特に、素子アンテナの間引きを行うアレーアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナ装置において、コスト低減の目的で、あるいは素子密度分布を調整することによって所望の指向性を実現する目的で、素子アンテナの間引きが行われる。このような間引きが行われるアレーアンテナ装置においては、励振する素子アンテナと励振しない間引き素子アンテナとが混在している。
【0003】
また、励振しない間引き素子アンテナを確定的に決める方法としては、複数個の素子アンテナを配列し、与えられた配列密度関数にしたがい、素子アンテナの置かれた配列位置によって素子アンテナを励振したり、素子アンテナを励振しなかったりすることによってアンテナ特性として重要なサイドローブレベルの低減を図るアンテナ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような間引きを行う場合には、励振しない間引き素子アンテナをアレーアンテナ装置の開口面上に残すことにより、励振する素子アンテナの特性がばらつかないようにし、さらに、励振しない間引き素子アンテナの給電点部分には、励振する素子アンテナと整合が取れるような終端抵抗を取り付けることが一般的である。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−163505号公報(第6頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。従来のアレーアンテナ装置は、励振する素子アンテナに供給された電力のうち、一部の電力は、放射に寄与せず励振しない間引き素子アンテナへ結合する。そして、そのような一部の電力は、励振しない間引き素子アンテナに取り付けられた終端抵抗で消費されるため、アンテナの利得が低下してしまうという問題があった。また、励振しない間引き素子アンテナの数の分だけ終端抵抗を用意する必要があるため、アンテナのコストが高くなるという問題があった。
【0007】
一方、終端抵抗に加えて、励振しない間引き素子アンテナ全部、特に、放射素子を取り除いてしまうと、アレーアンテナ装置の開口面上で放射素子の分布が不均一となる。その結果、励振する素子アンテナの個々のアレー素子パターン形状が乱れ、アンテナ特性が劣化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、アンテナの利得の低下を抑え、かつ、励振する素子アンテナのアレー素子パターン形状の劣化を抑えたアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアレーアンテナ装置は、与えられた配列格子の格子点に複数の素子アンテナを設けてなるアレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナの中から素子アンテナの間引きを行う際に、励振しない間引き素子アンテナの放射素子をアレーアンテナの開口面上に残したまま、励振しない間引き素子アンテナの給電点に取り付けた終端抵抗を取り除くものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、励振しない間引き素子アンテナの終端抵抗を取り除くことでアンテナの利得の低下を抑え、かつ、励振しない間引き素子アンテナの放射素子をアレーアンテナ開口面上に残すことで励振する素子アンテナのアレー素子パターン形状の劣化を抑えたアレーアンテナ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のアレーアンテナ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナ装置の開口を示す模式図である。アレーアンテナ装置1は、励振する素子アンテナ2(図1中の黒い四角に相当)と、励振しない間引き素子アンテナ3(図1中の白い四角に相当)とが混在して構成される。
【0013】
このとき、励振しない間引き素子アンテナ3をアレーアンテナ装置1の開口面上に残すことにより、励振する素子アンテナ2の特性がばらつかないようにする。そして、従来の間引きにおいては、励振しない間引き素子アンテナ3の給電点部分に、励振する素子アンテナ2と整合が取れるように、終端抵抗を取り付けていた。これに対して、本願のアレーアンテナ装置1は、励振しない間引き素子アンテナ3の給電点部分から終端抵抗を取り外した構成を有している。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態1における間引き素子アンテナおよび従来の間引き素子アンテナの断面図であり、それぞれ図2(a)、図2(b)に示されている。これらのアレーアンテナは、一例として、同軸線路給電型パッチアンテナの断面図を示している。
【0015】
本発明の間引き素子アンテナ3は、図2(a)に示すように、放射素子4(パッチアンテナ銅箔部分)、地板5、誘電体基板6、給電ピン7、およびコネクタ8で構成される。一方、従来の間引き素子アンテナは、図2(b)に示すように、終端抵抗9をさらに備えて構成される。
【0016】
ここで、誘電体基板6の一方の面には、放射素子4が形成され、もう一方の面には地板5が形成されている。そして、地板5にはコネクタ8が接続され、これにより、コネクタ8の外導体と地板5とを短絡する。一方、コネクタ8の芯線と放射素子4とは、給電ピン7によって短絡される。
【0017】
さらに、本願の励振しない間引き素子アンテナ3には、従来とは異なり、コネクタ8に終端抵抗9が取り付けられていない。また、図示していないが、励振する素子アンテナ2には、コネクタ8に増幅器や位相器等からなる給電モジュールが接続される。
【0018】
このように、図2(a)では、励振しない間引き素子アンテナ3から、図2(b)の終端抵抗9を取り外し、コネクタ8を開放端とした場合を示している。これにより、励振する素子アンテナ2から励振しない間引き素子アンテナ3に結合した電力が終端抵抗9で消費されることはない。その結果、アレーアンテナの利得が向上する。
【0019】
終端抵抗9を取り付けずに励振しない間引き素子アンテナ3のコネクタ8をオープン状態にすると、終端抵抗9による電力消費がないために、励振する素子アンテナ2から励振しない間引き素子アンテナ3に結合した電力は、全反射による2次放射を生じ、アレー素子パターン形状が崩れる要因となる。しかしながら、1個1個の分布は悪くなるものの、全体としてはランダムに間引きすれば平均化されて、アレーアンテナ全体としては平均化されることとなる。
【0020】
一方、励振しない間引き素子アンテナ3の放射素子4をアレーアンテナ開口面上に残すので、アレーアンテナ開口面上で放射素子4の分布が均一のままとなる。したがって、励振する素子アンテナ2のアレー素子パターン形状が乱れるのを抑え、その結果、アンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【0021】
次に、本発明の効果を示す。図3は、図1のxz面およびyz面(zは紙面の手前に向かう方向)における終端抵抗9の有無による利得の差の計算結果を示す図であり、それぞれ図3(a)、図3(b)に示されている。ここで、縦軸に示した利得の差は、励振しない間引き素子アンテナ3に終端抵抗9がない場合の本願のアレーアンテナ装置における利得から、励振しない間引き素子アンテナ3に終端抵抗9がある場合の従来のアレーアンテナ装置における利得を引いた差分を示している。
【0022】
ここで、利得に関する計算には、有限差分時間領域法を用いている。図3(a)および図3(b)の両方において、中心から±60°以上の広範囲にわたって、終端抵抗9を無くした本発明によるアレーアンテナ装置は、終端抵抗9を取り付けた従来のアレーアンテナ装置よりも利得が向上することがわかる。
【0023】
さらに、図3(a)および図3(b)の両方において、中心から±60°以上の広範囲にわたって、利得の差を示す波形は、0〜1dB内に収まった値を示している。これにより、本発明のアレーアンテナ装置において、励振しない間引き素子アンテナ3から終端抵抗9を取り除いた場合にも、全体としてはランダムに間引きすれば平均化されることにより、アレーアンテナ全体としては平均化された利得が得られることがわかる。
【0024】
実施の形態1によれば、励振しない間引き素子アンテナの終端抵抗を取り除くことでアンテナの利得の低下を抑え、かつ、励振しない間引き素子アンテナの放射素子をアレーアンテナ開口面上に残すことで励振する素子アンテナのアレー素子パターン形状の劣化を抑えたアレーアンテナ装置を得ることができる。
【0025】
さらに、実施の形態1におけるアレーアンテナ装置は、利得が向上する分、励振する素子アンテナの数を減らすことができる。これにより、給電モジュール数も削減することができ、その結果、アンテナ製造コストを低減できる。
【0026】
なお、図1では、パッチアレーアンテナを例にとって説明したが、素子アンテナは、任意形状のものでよい。また、図2(a)では、終端抵抗を取り除いて給電点を開放端とした場合を示しているが、これに限定されず、給電点を短絡端とすることによっても同様の効果が得られる。
【0027】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2における間引き素子アンテナの断面図である。実施の形態1における間引き素子アンテナ3の断面図である図2(a)と比較すると、図4における間引き素子アンテナ3は、給電点における終端抵抗9を不要としたことに伴って、さらに給電ピン7およびコネクタ8が取り除かれた構成となっている。
【0028】
すなわち、実施の形態1で示したように、間引き素子アンテナ3は、終端抵抗9を取り外すことにより、給電ピン7およびコネクタ8など放射素子4と終端抵抗9とを接続するための給電線路が不要となり、図4のようにこれらの給電線路を取り除いた構成とすることが可能となる。その結果、アンテナのコストを低減させることができる。
【0029】
さらに、給電線路を取り除くことにより、給電線路自身からの不要放射、あるいは素子アンテナの不要モードを無くすことができる。例えば、図2(a)のパッチアンテナの例では、放射素子4と地板5との間に電界が生じ、この電界と同じ向きに給電ピン7が存在するため、給電ピン7に誘起された電流から不要放射が生じてしまう。
【0030】
これに対して、図4の間引き素子アンテナ3の場合には、給電ピン7が存在しないため、前述のような不要放射を生ずる現象を回避することができる。その結果、アンテナ特性の劣化の原因となる交差偏波などを抑制できる。
【0031】
実施の形態2によれば、励振しない間引き素子アンテナの給電点における終端抵抗を取り除くとともに、給電線路を取り除くことで、アンテナの利得の低下を抑え、かつ、不要放射の発生を回避することができ、アンテナ特性の劣化の原因となる交差偏波などを抑制できる。さらに、アンテナの部品点数を減らすことができるため、コストを低減し、また、加工によるばらつきを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナ装置の開口を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における間引き素子アンテナおよび従来の間引き素子アンテナの断面図である。
【図3】図1のxz面およびyz面における終端抵抗の有無による利得の差の計算結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2における間引き素子アンテナの断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 アレーアンテナ装置、2 励振する素子アンテナ、3 励振しない間引き素子アンテナ、4 放射素子、5 地板、6 誘電体基板、7 給電ピン(給電線路)、8 コネクタ(給電線路)、9 終端抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
与えられた配列格子の格子点に複数の素子アンテナを設けてなるアレーアンテナ装置において、
前記複数の素子アンテナの中から素子アンテナの間引きを行う際に、励振しない間引き素子アンテナの放射素子を前記アレーアンテナの開口面上に残したまま、前記励振しない間引き素子アンテナの給電点に取り付けた終端抵抗を取り除くことを特徴とするアレーアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアレーアンテナ装置において、
前記励振しない間引き素子アンテナにおける前記放射素子と前記給電点との間の給電線路をさらに取り除くことを特徴とするアレーアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−197370(P2006−197370A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8001(P2005−8001)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】