説明

アンカーボルトの設置方法及びそのアンカーボルト仮支持用の仮設ナット

【課題】柱脚部などに使用されるアンカーボルトの支持用フレームへの取付けや設置状態の調整が容易で、作業性の向上にも有効なアンカーボルトの設置技術を提供する。
【解決手段】複数に分割され、かつ開閉可能に構成された仮設ナット1をアンカーボルト11に仮装着して該仮設ナット1の雌ネジをアンカーボルト11の雄ネジに螺合させた状態で、仮設ナット1を介してアンカーボルト11を支持用フレーム13上に仮支持し、その仮支持状態において必要に応じて仮設ナット1を相対的に回転して高さ調整を行い、しかる後アンカーボルト11を支持用フレーム13側に固定した上、仮設ナット1をアンカーボルト11から取外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の柱脚部などの定着用として使用されるアンカーボルトの施工技術に関し、特に作業が容易で施工性の向上にも有効なアンカーボルトの設置技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のアンカーボルトの設置に関しては、従来から所要数のアンカーボルトを地盤側に設置される支持用フレームにより支持した上、コンクリートを打設することによりアンカーボルトをそれぞれ設置位置に定着させ、建造物の柱脚部等の固定手段として用いる施工技術が広く知られている。また、個々のアンカーボルトの支持用フレームに対する取付け方に関しては、固定ボルトなどの締付け固着手段を用いてアンカーボルトを支持用フレーム側に締付け固定するという形態のもの(特許文献1参照)や、支持用フレームにナットを固着しておき、そのナットに対してアンカーボルトの外周部に形成した雄ネジを螺合させるという形態のもの(特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特許第2548639号公報
【特許文献2】実用新案登録第2603329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した従来技術の場合には、アンカーボルトの支持用フレームへの取付けや設置状態の調整に関する作業性に問題があった。すなわち、締付け固着手段を用いてアンカーボルトを支持用フレーム側に締付け固定する前者の従来技術の場合には、アンカーボルトの重量を支えながら支持用フレームへの締付け作業や高さ調整を行う必要があることから、その作業性には問題があった。また、支持用フレームに固着したナットに対してアンカーボルトの外周部に形成した雄ネジを螺合させる後者の従来技術の場合には、アンカーボルトの支持用フレームへの取付けに際して、前記ナットに対してアンカーボルトを端部から螺合して所定の高さまで回転する必要があることから、やはりその作業性には問題があった。本発明は、以上のような従来技術に伴う技術的問題点を解消し、アンカーボルトの支持用フレームへの取付けや設置状態の調整が容易で、作業性の向上にも有効なアンカーボルトの設置技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の本発明では、複数に分割され、かつ開閉可能に構成された仮設ナットを用い、その仮設ナットをアンカーボルトに仮装着して該仮設ナットの雌ネジをアンカーボルトの雄ネジに螺合させ、前記仮設ナットを介してアンカーボルトを支持用フレーム上に仮支持し、その仮支持状態においてアンカーボルトを前記支持用フレーム側に固定した上、前記仮設ナットをアンカーボルトから取外すという技術手段を採用した。また、請求項2の発明では、複数に分割され、かつ開閉可能に構成された仮設ナットを用い、その仮設ナットを支持用フレームに支持された状態のアンカーボルトに仮装着して該仮設ナットの雌ネジを前記アンカーボルトの雄ネジに螺合させ、それらの仮設ナットとアンカーボルトとを相対的に回転して前記雌ネジと雄ネジとの螺合位置を調整することによりアンカーボルトの高さを微調整し、しかる後前記アンカーボルトを前記支持用フレーム側に固定した上、前記仮設ナットをアンカーボルトから取外すという技術手段を採用した。因みに、この場合にアンカーボルトが支持用フレームに対して固定ボルトなどによって締付け固定される形態の場合には、仮設ナットとアンカーボルトとを相対的に回転してアンカーボルトの高さを微調整する際にアンカーボルトの固定が解除されることはいうまでもない。前記仮設ナットとしては、内周面にアンカーボルトの外周面に形成された雄ネジに螺合可能な雌ネジが形成され、かつ複数に分割構成されるとともに、前記アンカーボルトに対して側方から着脱し得るように開閉可能に構成したアンカーボルト仮支持用の仮設ナットが使用される(請求項3)。さらに、前記仮設ナットの連結部を傾斜面から構成し、その傾斜面からなる連結部を貫通するように形成された挿通孔に対して止め具を挿通することにより仮設ナットを閉じた状態にセットし得るように構成することも可能である(請求項4)。因みに、本発明に係る仮設ナットにおいて、開閉可能とは、アンカーボルトに対して任意の位置に側方から仮装着し得るものであれば、必ずしも一端側が連結ピン等の枢着手段などにより回転可能に連結され、他端側が開閉される形態に限らず、複数個に分割された構成部分をナット状に組合わせて連結一体化する形態で、アンカーボルトへの仮装着時には分解して装着するものも含む。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)仮設ナットを開いてアンカーボルトに対して側方から任意の位置に仮装着できることから、アンカーボルトに関する高さ調整の範囲が少なくて済み、作業効率を大幅に向上できる。
(2)仮設ナットを介してアンカーボルトを支持用フレーム側に仮支持し得るので、アンカーボルトを支持用フレーム側に固定する際にアンカーボルトの荷重を支持する必要がないことから、作業者に掛る負荷が大幅に軽減され、作業性が向上される。
(3)支持用フレーム上のアンカーボルトの高さ調整は、仮設ナットとアンカーボルトとを相対的に回転してそれらの螺合位置を調整することにより、簡便かつ的確に行うことができる。
(4)アンカーボルトを支持用フレーム側に固定した後には、前記仮設ナットを開いてアンカーボルトから容易に取外せることから、その仮設ナットによって打設コンクリートのアンカーボルトに対する定着作用が害されることがないとともに、仮設ナットの再使用も可能である。
(5)仮設ナットの使用によって、いつの段階でもアンカーボルトの微調整が可能なことから、アンカーボルトの設置位置が高い位置にあり、アンカーボルトを支持用フレームに仮組みした状態で、地盤側に設置された架台上に据付けるような施工形態の場合でも、その架台上への据付け後の最終段階でのアンカーボルトに対する微調整によって正確な高さ調整を簡便に実現することができる。
(6)仮設ナットの連結部を傾斜面から構成し、その傾斜面を貫通する挿通孔に対して止め具を挿通するように構成すれば、アンカーボルトに対する仮装着において仮設ナットを閉じた状態に簡便かつ的確にセットすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、外周面に雄ネジが形成されたアンカーボルトを設置する場合に広く適用することができる。その雄ネジの具体的形状に関しては特段の制約はなく、ネジ鉄筋や全ネジボルトなどを使用したアンカーボルトに広く適用できる。要は、仮設ナットの雌ネジとの螺合によりアンカーボルトの荷重を支持できるものであれば、本発明に係る仮設ナットの適用が可能である。また、仮設ナットを分割構成した構成部分を開閉する構造は、アンカーボルトに対して任意の位置に側方から仮装着し得るものであれば、以下の実施例のように構成部分相互間を回転可能に連結した枢着部を中心に開閉する形態だけでなく、上述のように複数個に分割された構成部分をナット状に組合わせて連結ピンなどの連結具を用いて一体化する形態で、アンカーボルトへの仮装着時には連結具を外して分解して装着するものも可能である。仮設ナットの具体的な外形は、六角形のものに限られないが、工具によって回転しやすい形状のものが望ましい。また、アンカーボルトの支持用フレームの具体的な構成に関しても特段の制約はない。一般的には複数本のアンカーボルトをまとめて支持する支持用フレームに適用される場合が多いが、1本のアンカーボルトを支持する支持用フレームの形態にも本発明を適用することは可能である。
【実施例】
【0007】
図1及び図2は本発明の実施例に係る仮設ナットを示した斜視図である。図中1は仮設ナットで、図示のように本実施例では2つの構成部分2,3に分割構成され、蝶番などからなる枢着部4を介して開閉可能に構成されている。また、仮設ナット1の内周面には、アンカーボルトの外周面に形成された雄ネジに対して螺合し得る雌ネジ5が形成され、外形はスパナが掛けやすい六角形を採用した場合を示した。さらに、本実施例では、仮設ナット1の構成部分2,3の連結部を傾斜面6,7から構成し、それらの傾斜面6,7を貫通するように挿通孔8,9を形成して、連結ピン等の止め具10を挿通することにより、仮設ナット1を閉じた状態にセットし得るように構成している。
【0008】
次に、図3〜図9に従って前記仮設ナット1を用いたアンカーボルトの設置に関する施工手順の一例について説明する。先ず図3に示したように、仮設ナット1から止め具10を引抜き、その構成部分2,3を枢着部4を中心に開いた状態において、アンカーボルト11に対して側方から仮装着する。この場合、アンカーボルト11の設置高さを考慮して、少ない高さ調整で済む位置に、仮設ナット1の雌ネジ5とアンカーボルト11の雄ネジ12とが螺合し得るように閉じ、さらに前記挿通孔8,9に対して止め具10を挿入する。図4は、この仮設ナット1がアンカーボルト11に対して仮装着された状態を例示したものである。なお、本実施例では、アンカーボルト11をネジ鉄筋から構成した場合を示したが、全ネジボルトから構成することも可能なことはいうまでもない。
【0009】
以上のようにしてアンカーボルト11に対する仮設ナット1の仮装着が済んだら、図5に示したように、次の支持用フレーム13に対するアンカーボルト11の仮支持作業に移る。因みに、支持用フレーム13は、予め捨てコンクリートなどの地盤側の設置位置に据付けた状態に組立てたものでもよいし、他の場所に仮組みされ、アンカーボルト11を取付けた後に、地盤側の設置位置へ移して据付ける形態のものでもよい。なお、図中14はフレームベース、15は支柱で、本実施例では共にアングル材から構成され、各支柱15の上部にはアンカーボルト11の支持部材16が設置されるとともに、それらの各支持部材16にはアンカーボルト11を押圧して締付け固定するための固定ボルト17が設けられている。
【0010】
しかして、アンカーボルト11の仮支持は、図6に示したようにアンカーボルト11を前記支柱15の上部に設置された支持部材16内に挿通し、そのアンカーボルト11に仮装着された前記仮設ナット1を支持部材16上に仮載置することにより行われる。さらに必要に応じて、このアンカーボルト11の仮支持状態において、仮設ナット1をアンカーボルト11に対して相対的に回転してそれらの螺合位置を調整することにより、アンカーボルト11の高さに関する微調整が行われる。しかる後、図7に示したように、固定ボルト17によってアンカーボルト11の側面を押圧しながら締付け固定する。因みに、アンカーボルト11の支持手段は、前記支持部材16に限られるものではなく、他の形態の場合も可能である。また、アンカーボルト11の固定手段に関しても同様であり、前記固定ボルト17に替えて他の固定手段を採用してもよい。そして、アンカーボルト11が前記支持部材16に所定の高さに固定された場合には、仮設ナット1の挿通孔8,9から止め具10を引抜き、前述のように構成部分2,3を枢着部4を中心に開いてアンカーボルト11から取外すことにより、図8に示したように1本目のアンカーボルト11の支持用フレーム13に対する所期の取付け状態が得られ、1本目のアンカーボルト11の設置作業が完了することになる。
【0011】
その後、支持用フレーム13の残りの全ての支柱15に対しても、上述と同様の手順に従ってアンカーボルト11を順次設置し、さらに図9に示したように、それらのアンカーボルト11の下部に定着板18、上部に添プレート19を設置することによりアンカー定着装置が形成される。因みに、本実施例の場合には、アンカーボルト11を1本ずつ順次支持用フレーム13に設置することから、1個の仮設ナット1を有効に再利用して施工することも可能である。
【0012】
ところで、以上に説明した施工手順は、あくまで一例を示したものであって、全てのアンカーボルト11を支持用フレーム13の各支柱15に対して同時並行的に取付ける施工形態も可能である。この場合には、各支柱15に対して前記仮設ナット1を介して全てのアンカーボルト11を仮支持し、それらのアンカーボルト11の上部に添プレート19を設置した後に、各アンカーボルト11に仮装着されたそれぞれの仮設ナット1を用いて全てのアンカーボルト11の高さに関する微調整を行うようにしてもよい。このような施工手順を採用できるのも、開閉可能な前記仮設ナット1の一つの特徴である。
【0013】
図10及び図11は他の施工形態を示した斜視図である。本実施例は、アンカーボルトの設置位置が地盤より相当高い位置にある場合に対応するものである。このように、アンカーボルトの設置位置が高い位置にある場合には、図10に示したように、アンカーボルト11を支持用フレーム13に取付けたアンカー組立体20を予め仮組みし、そのアンカー組立体20を地盤側に据付けられた架台21上に設置する施工形態が好適である。この施工形態の場合には、仮組みの段階でアンカーボルト11の最終的な高さ調整を行うことは技術的に困難である。
【0014】
そこで、本実施例では、図11に示したように、架台21上に仮組みした前記アンカー組立体20を固定した後に、その支持用フレーム13の各支柱15に設けられた支持部材16の上方近傍において、それぞれのアンカーボルト11に対して前述の仮設ナット1を仮装着し、前記固定ボルト17を弛めてそれらの仮設ナット1をアンカーボルト11に対して相対的に回転することにより、各アンカーボルト11の高さに関する微調整を行うようにした。この微調整により、本実施例の場合には、最終的に正確なアンカーボルト11の高さ調整が可能となる。そして、以上の微調整が終了した場合には、前記固定ボルト17により各アンカーボルト11を再度支持フレーム13側に固定した上、各仮設ナット1をアンカーボルト11から取外すことになる。以上のように、前記仮設ナット1の使用により、各アンカーボルト11の設置作業の最終段階における正確な微調整を簡便に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る仮設ナットを示した斜視図である。
【図2】同仮設ナットを示した斜視図である。
【図3】本発明に係るアンカーボルトの設置方法における施工手順の一例を示した斜視図である。
【図4】同施工手順を示した斜視図である。
【図5】同施工手順を示した斜視図である。
【図6】同施工手順を示した斜視図である。
【図7】同施工手順を示した斜視図である。
【図8】同施工手順を示した斜視図である。
【図9】同施工手順を示した斜視図である。
【図10】他の施工形態を示した斜視図である。
【図11】同施工形態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1…仮設ナット、2,3…構成部分、4…枢着部、5…雌ネジ、6,7…傾斜面、8,9…挿通孔、10…止め具、11…アンカーボルト、12…雄ネジ、13…支持用フレーム、14…フレームベース、15…支柱、16…支持部材、17…固定ボルト、18…定着板、19…添プレート、20…アンカー組立体、21…架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数に分割され、かつ開閉可能に構成された仮設ナットを用い、その仮設ナットをアンカーボルトに仮装着して該仮設ナットの雌ネジをアンカーボルトの雄ネジに螺合させ、前記仮設ナットを介してアンカーボルトを支持用フレーム上に仮支持し、その仮支持状態においてアンカーボルトを前記支持用フレーム側に固定した上、前記仮設ナットをアンカーボルトから取外すようにしたことを特徴とするアンカーボルトの設置方法。
【請求項2】
複数に分割され、かつ開閉可能に構成された仮設ナットを用い、その仮設ナットを支持用フレームに支持された状態のアンカーボルトに仮装着して該仮設ナットの雌ネジを前記アンカーボルトの雄ネジに螺合させ、それらの仮設ナットとアンカーボルトとを相対的に回転して前記雌ネジと雄ネジとの螺合位置を調整することによりアンカーボルトの高さを微調整し、しかる後前記アンカーボルトを前記支持用フレーム側に固定した上、前記仮設ナットをアンカーボルトから取外すようにしたことを特徴とするアンカーボルトの設置方法。
【請求項3】
内周面にアンカーボルトの外周面に形成された雄ネジに螺合可能な雌ネジが形成され、かつ複数に分割構成されるとともに、前記アンカーボルトに対して側方から着脱し得るように開閉可能に構成したことを特徴とするアンカーボルト仮支持用の仮設ナット。
【請求項4】
開閉可能に構成された前記仮設ナットの連結部を傾斜面から構成し、その傾斜面からなる連結部を貫通するように形成された挿通孔に対して止め具を挿通することにより仮設ナットを閉じた状態にセットし得るように構成したことを特徴とする請求項3に記載のアンカーボルト仮支持用の仮設ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−156822(P2008−156822A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343585(P2006−343585)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】