アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステム
【課題】本発明は、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的で正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムを提供する。
【解決手段】本発明の抗癌剤の感受性判定方法は、癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程を有する。これにより、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的で正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムを提供することができる。
【解決手段】本発明の抗癌剤の感受性判定方法は、癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程を有する。これにより、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的で正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムを提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の一般的な治療法の1つに化学療法があり、各種の抗癌剤投与が行われている。しかしながら癌の種類や患者個々人の差により有効な抗癌剤は異なり、また、抗がん剤は治療域と有害域がオーバーラップする場合が多い。従って、効果的でない抗癌剤を投与した場合は、癌の再発可能性が高まるばかりか、抗癌剤の副作用により患者の体力が低下し、次に有効な別の抗癌剤を投与しても十分な効力を発揮できない恐れがある。このことから、安全性を確保しつつ有効性を得る為に、投与前に有効な抗癌剤を正確に特定する薬剤反応性を予測するシステムの開発が切望されている。
【0003】
従来、癌に対する抗癌剤の感受性検査としては、患者から単離した癌細胞又は癌組織に様々な抗癌剤を接触させ、癌細胞の増殖抑制等を指標としてその癌細胞に有効と思われる抗癌剤を特定する方法が採用されてきた。しかしながら、このような試行錯誤的方法では、検査結果が十分に臨床治療効果に反映しないばかりか、抗癌剤試験に大量の癌細胞又は癌組織が必要となり、患者への負担が大きいという問題が有った。従って、より客観的かつ正確な抗癌剤の感受性判定方法の確立が求められている。
【0004】
セリンスレオニンキナーゼであるAktは、多くの癌組織でその活性化が確認されており、癌化との深い関連が示唆されている。Aktの活性化にはリン酸化が必要であり、活性化されたAktは細胞死抑制に関与する分子のリン酸化を促進する。これにより、細胞のアポトーシスを抑制し、細胞の癌化を引き起こす。更に、一般的に活性化Aktが高発現している患者は、活性化Aktが低発現の患者に比べ、術後の経過が悪く予後不良を引き起こす可能性が高いことが報告されている(非特許文献1)。一般的に予後不良の癌は、抗癌剤による化学療法の奏功性が低く、その治療が困難であり、癌が再発するリスクが高い。
【0005】
アンスラサイクリン系抗癌剤は、トポイソメラーゼIIのDNAの再結合を阻害することで、アポトーシスを誘導する抗癌剤である。臨床上高く評価され、乳癌等の化学療法において汎用されている。しかしながら、他の抗癌剤と同様に、心毒性、白血球減少等の重大な副作用を引き起こす恐れがある。従って、アンスラサイクリン系抗癌剤の客観的且つ正確な感受性判定方法の確立は非常に重要である。
【0006】
【非特許文献1】Cicenas et al. Breast Cancer Research Vol.7 No.3 p394−401(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明者らはアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法を得るべく鋭意研究を行なった結果、以下のi)〜iii)を見出し、本発明を完成するに至った。
i)活性化Aktが高発現の癌細胞又は癌組織はアンスラサイクリン系抗癌剤に高感受性であり、逆に活性化Akt低発現の癌細胞又は癌組織は低感受性であること。
ii)従来、活性化Akt高発現の癌患者は、術後の経過が悪く癌が再発する等の予後不良が指摘されているが、アンスラサイクリン系抗癌剤を投与した場合は、活性化Akt高発現の癌患者の奏功率が高く、逆に活性化Akt低発現の癌患者の奏功率が低いこと。
iii)活性化Aktが高発現であり、且つHER−2及び/又はPTENも高発現の癌細胞又は癌組織は、よりアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性が高く、逆に活性化Aktが低発現であり、且つHER−2及び/又はPTENも低発現の癌細胞又は癌組織は、よりアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性が低いこと。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定方法;
(2)前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、(1)に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(3)前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、(1)又は(2)に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(4)アンスラサイクリン系抗癌剤がダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである、(1)〜(3)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(5)アンスラサイクリン系抗癌剤がドキソルビシン又はエピルビシンである、(1)〜(4)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(6)癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現を検出する工程をさらに有する、(1)〜(5)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(7)癌細胞又は癌組織中のPTENの発現を検出する工程をさらに有する、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(8)癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの検出結果を入力する工程と、前記入力された検出結果と閾値とを比較する工程と、前記比較の結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う工程と、前記判定の結果を出力する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定システム;
(9)前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、(8)に記載の抗癌剤の感受性判定システム;
(10)前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、(8)又は(9)に記載の抗癌剤の感受性判定システム;
(11)癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、(8)〜(10)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(12)癌細胞又は癌組織中のPTENの発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、(8)〜(11)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的で正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムを提供することができる。
【0011】
また、本発明によれば、個々の癌患者に対するアンスラサイクリン系抗癌剤の奏功率が判断できるため、有効なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与が可能となるばかりで無く、不要なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与を回避し、患者の副作用による負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における癌細胞又は癌組織は、特に限定されるものではないが、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌細胞又は癌組織が挙げられ、特に乳癌の癌細胞又は癌組織が好ましい。また、臨床的には癌患者から採取した癌細胞又は癌組織を使用すれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌患者から採取した癌細胞又は癌組織が挙げられ、特に乳癌の患者から採取した癌細胞又は癌組織が好ましい。
【0013】
本発明において活性化Aktとは、リン酸化されたAkt、特にスレオニン308基及びセリン473基の2つのアミノ酸がリン酸化されたAktを示す。
【0014】
本発明においてアンスラサイクリン系抗癌剤としては、抗癌作用を有するアンスラサイクリン系化合物であれば特に限定されないが、臨床的に用いられているアンスラサイクリン系抗生物質及びその誘導体等が好ましく、具体的には、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン及びイダルビシン等が挙げられ、特にドキソルビシン及びエピルビシンが好ましい。
【0015】
本発明において活性化Aktを検出する方法としては、活性化Aktの発現の有無や強弱を確認できれば、特に限定されるものではないが、例えば、公知のタンパク質の検出方法が挙げられ、具体的にはSDSポリアクリルアミド電気泳動法、2次元電気泳動法、プロテインチップによる解析法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光法、ウエスタンブロッティング法、ドットブロッティング法及び免疫沈降法等が挙げられる。
【0016】
本発明においてHER−2及びPTENの発現を検出する方法としては、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱を確認できれば、特に限定されるものではないが、例えば、上述のタンパク質の検出方法の他に、公知のm−RNAの検出方法を使用することができる。公知のm−RNAの検出方法としては、例えば、RT−PCR法、ノーザンブロッティング法、NASBA法及びDNAチップによる方法等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
ここで、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出において、その発現の有無や強弱を確認する場合、目視等により直接的に確認しても良いが、発現量を測定し数値等で確認することもできる。
【0018】
活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出において、その発現量を測定方法する場合は、公知のタンパク質又はm−RNA等の発現量の測定方法を用いればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ウエスタンブロッティング法を用いた場合、ウエスタンブロッティングの結果をイメージスキャナに取り込み、活性化Akt、HER−2及びPTENのタンパク質に係るそれぞれのバンドのシグナル強度を解析することで、発現量を測定することが可能で、それら測定用機器も一般に市販されている。
【0019】
本発明において閾値とは、判定対象である癌細胞又は癌組織のアンスラサイクリン系抗癌剤に対する感受性を判断する際の、当該癌細胞又は癌組織中の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱の判断基準を示し、具体例としては、コントロールとなる細胞又は組織中の活性化Akt等の発現量、ハウスキーピング遺伝子やタンパクの発現量及びカットオフ値等が挙げられるが、特にこれ等に限定されるものではない。
【0020】
本発明において、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程は、活性化Aktの検出結果から、その有無や強弱が判定可能であれば、特に制限されるものではないが、活性化Aktの発現量を測定し、その発現量からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定するほうが客観性の観点から好ましい。
【0021】
また、本発明におけるアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程は、活性化Aktの発現の有無や強弱のみで行うことも可能だが、HER−2及び/又はPTENの発現の検出結果を判定の工程に加えるほうが、正確性の観点からより好ましい。これらHER−2及びPTENの発現も、活性化Aktの検出と同様に、その発現量を測定することでアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定するほうが、客観性の観点から好ましい。
【0022】
活性化Akt、HER−2及びPTENの発現量を測定し判定する方法としては、それらの発現の有無や強弱を基準となる閾値と、絶対的又は相対的に比較し、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱を判定できるものであれば、特に限定されるものではないが、具体的方法としては、以下のi)〜iv)の方法が挙げられる。
i)判定対象である癌細胞又は癌組織の試料に係るタンパク質又は核酸の発現量と、コントロール試料のタンパク質又は核酸の発現量を測定し、それぞれの測定結果を比較及び補正することで発現の有無や強弱を判定する方法。
ii)判定対象である癌細胞又は癌組織の試料とコントロール試料のタンパク含有量等を予め揃えておき、発現量の測定結果を直接比較することで、発現の有無や強弱を判定する方法。
iii)内部標準として、予め適切なハウスキーピング遺伝子のm−RNAやハウスキーピングタンパク(例えばβアクチン、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素等)を定め、該内部標準の発現量と活性化Akt、HER−2及びPTENのタンパク質又はm−RNAの発現量の測定し、それぞれの測定結果を相対的に比較することで発現の有無や強弱を判定する方法。
iv)予め、アンスラサイクリン系抗癌剤に対する感受性が異なる複数の癌細胞又は癌組織の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現量を測定し、その集積された測定結果からカットオフ値を導き出し、当該カットオフ値を基準として発現量を判定する方法等が挙げられる。
【0023】
本発明における、抗癌剤の感受性判定システムは、コンピュータにおいて実行されることが好ましい。以下、本発明の抗癌剤の感受性判定方法を実施するための一実施形態であるコンピュータシステム(図1)及び判定フロー(図2)について説明する。
【0024】
図1に示すシステム100は、コンピュータ本体110、必要データをコンピュータ本体110に入力する入力デバイス130、及び入出力データ等を表示するディスプレイ120を備え、さらに必要に応じて外部記録媒体140が含まれ得る。ここで、本実施形態のプログラム140aは、外部記録媒体140に記録されていてもよいし、コンピュータ本体110に備え付けのメモリ110b〜110dに保存されていてもよい。コンピュータ本体110内において、CPU110a、メモリ110b〜110d、入出力インターフェイス110f、画像出力インターフェイス110h、読出装置110eは、それぞれバス110iにて、データの送受信可能なように接続されている。
【0025】
図2は、上記抗癌剤の感受性判定方法によるアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を実行するためのプログラムの動作を示すフローチャートであり、このプログラムはメモリ110dに格納されている。まず、入力デバイス130により、検体である癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの発現量が入力されると、CPU110aが入出力インターフェイス110fを介して、RAM110cに記憶させる(ステップS1)。
【0026】
CPU110aは、予めプログラムのデータとしてメモリ110dに記憶されていた閾値を呼び出して、これらの閾値と活性化Aktの発現量との比較を実行する(ステップS2)。
【0027】
次に、CPU110aは、比較結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う(ステップS3)。CPU110aは、活性化Aktの発現量が閾値以上である場合には、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性「高」と判定する。活性化Aktの発現量が閾値以下である場合には、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性「低」と判定する。
【0028】
そして、CPU110aは、上記の判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介してディスプレイ120に出力する(ステップS4)。
【0029】
なお、本実施形態においては、活性化Aktの発現量を、入力デバイス130を用いて入力したが、これに限定されるものではなく、例えば、操作者による入力ではなく、活性化Aktの発現量が測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して自動的に取得されるようにしてもよい。
【0030】
本発明の抗癌剤の感受性判定方法によれば、患者へのアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性について診断することができる。具体的には、患者から採取した癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出及び判定し、活性化Aktの発現が高ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性が高い患者であり、逆に活性化Aktの発現が低ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性が低い患者であるとの診断が可能である。
【0031】
更に、HER−2及びPTENの発現の検出及び判定を、活性化Aktの検出及び判定と組み合わせることにより、より正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性について診断することができる。例えば、活性化Aktの発現が高く、且つHER−2及び/又はPTENの発現が高ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性がより高い患者であるとの診断が可能である。逆に、活性化Aktの発現が低く、且つHER−2及び/又はPTENの発現が低ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性がより低い患者であるとの診断が可能である。
【0032】
この診断により、患者への効果的なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与が可能となる。更に、奏功性が低いと診断された患者に対しては、アンスラサイクリン系抗癌剤以外の抗癌剤を投与することで、非効率的な治療を回避し、患者の副作用による負担を低減することが可能となる。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
<ヒト乳癌細胞又は癌組織の調製>
ヒト乳癌細胞である、MCF−7、T47−D、SK−B−3、SK−Br−3、MDA−MB−231及びMDA−MB−468を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)より購入した。また、癌組織38検体(No.1〜No.38)は、浸潤性乳癌で乳癌ステージ分類においてステージI〜IIIbに分類される乳癌患者38名から摘出したものである。尚、当該乳癌患者38名は癌組織の摘出後にアンスラサイクリン系抗癌剤を主に投与する化学療法を受けている。各ヒト乳癌細胞又は癌組織は、10%FCS(コモンウェルス・ラボラトリーズ社)、1%(v/v)非必須アミノ酸(ギブコ社)、2mM L−グルタミン(シグマ・ケミカル社)、100μg/mlのストレプトマイシン(ギブコ社)、100U/mlのペニシリン(ギブコ社)、および0.28μg/mlのフンギゾン(スクイブ・ファーマスーティカルズ社)を含有するイーグル変法最少必須培地(ギブコ社)(以下、単に培地という)で、37℃、5%CO2/95%空気の加湿雰囲気中で増殖した。
【実施例2】
【0035】
<細胞増殖試験>
3.0×103個のヒト乳癌細胞又は癌組織を96ウェルプレートの培地に撒き、37℃、5%CO2/95%空気の加湿雰囲気中で一日培養した。その後、薬剤未添加の培地、又は1μM ドキソルビシンを含む培地に交換し、0、24、48、及び72時間後の細胞増殖を、Cell proliferation assay kit(ケミコン社)又はCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability assay(プロメガ社)を用い、その使用方法に準じて測定した。その結果を図3〜図11に示す。
【0036】
MCF−7(図3)及びMDA−MB−231(図6及び図11)は、ドキソルビシンの投与0時間目から投与72時間目に渡り、細胞増殖はコントロールに比べ抑制されている。しかしながら、生細胞は0時間目から殆ど変化がないか増加しており、ドキソルビシンによるアポトーシスの誘導が極めて低いことが明らかに示されている。
【0037】
T47−D(図4)、SK−Br−3(図5及び図10)、MDA−MB−468(図7及び図9)及びMDA−MB−453(図8)は、ドキソルビシン投与群では生細胞は0時間目から、時間の経過と共に徐々に減少していることからアポトーシスが誘導されたことが分かる。ここで、SK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)は、ドキソルビシンの投与によりアポトーシスの誘導が極めて高く、72時間後には殆ど生細胞が残っていない。それに対し、T47−D(図4)及びMDA−MB−468(図7及び図9)では、アポトーシスが誘導されてはいるが、SK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)よりもその効果が低いことが分かる。
【実施例3】
【0038】
<ウエスタンブロッティング法による、ヒト乳癌細胞又は癌組織中の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出>
1.0×106個の各ヒト乳癌細胞又は癌組織を60mm培養皿の培地に撒き、1日培養した。培養液及び培養皿に付着したヒト乳癌細胞又は癌組織をセルスクレイパーで回収し、190× g、4℃で5分間遠心し、培養液を除去した。次に、残った細胞塊を液体窒素中で凍結させ、−80℃で一晩保存した。細胞溶解液(0.1% NP−40、50mM Tis−Cl pH7.5、5mM EDTA、50mM NaF、1mM Na3VO4、0.2% プロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社))100μlを保存した凍結細胞塊に加えピペッティングにより懸濁し、10分間氷上で静置した。懸濁液を12000×g、4℃、10分間遠心分離を行い、上清を試料として新しいマイクロチューブに移し、その一部を使用してローリー法によりタンパク量を測定した。
【0039】
試料に6×SDSサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間加熱することで、試料中のタンパク質を変性した。12000×g、4℃、20秒間遠心分離を行い、上清を新しいマイクロチューブに移した。タンパク量が20mg/ウエルとなるようにSDS−PAGE用のゲル(第一化学)に試料を添加し、電気泳動を2時間、20mAの条件下で行った。Mini Trans-Blot cell (BioRad社) を用いてタンパクをSDS−PAGE用のゲルからImmobilon FL membrane (以下、単にメンブレンという)(Millipore社)に、100V、2時間、4℃の条件下でトランスファーした。次に、メンブレンを4%のBSAを含むTBS−Tバッファー(10mM TrisHCl(PH7.6)、150mM NaCl、0.1%(v/v) Tween−20)で30分間常温下においてインキュベートした後、下記の希釈した一次抗体を有する1%のBSAを含むTBS−Tバッファーでメンブレンを4℃で一晩、インキュベートした。
Phospho-Akt (Ser473)(587F11) Mouse mAb(Cell Signaling Technologies社), 1/1000
Akt Antibody(Cell Signaling Technologies社), 1/1000
PARP Antibody (Cell Signaling Technologies社), 1/1000
Anti-Glyceramldehyde-3-Phosphate Dehydrogenase Rabbit Polyclonal Antibody (GAPDH) (TREVIGEN社), 1/1000
Anti-PTEN (A2B1) antibody (Santa Cruz Biotechnology社), 1/200
Anti-PI3-kinase p85a (Z-8) (Santa Cruz Biotechnology社), 1/200
Anti-HER2 antibody (Upstate社), 1/1000
一晩インキュベートしたメンブレンを、常温で5分間、3回TBS−Tバッファー中でインキュベートすることで洗浄した。洗浄後、下記の希釈した二次抗体を有する1%のBSAを含むTBS−Tバッファーでメンブレンを常温で1時間インキュベートし、二次抗体と反応した。
Polyclonal rabbit anti-mouse polyclonal immunoglobulins/HRP (Dako社), 1/2000
Polyclonal swine anti-rabbit polyclonal immunoglobulins/HRP (Dako社), 1/2000
二次抗体と反応後、再度TBS−Tバッファーで三回メンブレンを洗浄し、ECL Plus (Amersham社)で処理した。その結果を図12及び図13に示す。
【0040】
図12から明らかなように、ドキソルビシンによるアポトーシスの誘導が極めて低かった、MCF−7(図3)及びMDA−MB−231(図6及び図11)では、リン酸化されたAkt、即ち活性化Aktの発現が極めて低いことが分かる。逆に、ドキソルビシンによりアポトーシスが誘導されたT47−D(図4)、SK−Br−3(図5及び図10)、MDA−MB−468(図7及び図9)及びMDA−MB−453(図8)では、活性化Aktの発現がバンドとして明確に検出できる。
【0041】
ここで、ドキソルビシンによるアポトーシス誘導の効果が低いT47−D(図4)及びMDA−MB−468(図7及び図9)は、活性化Aktの発現は確認可能であるが、アポトーシス誘導の効果が高いSK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)よりもHER−2の発現が、明らかに低いことが分かる。また、MDA−MB−468(図7及び図9)は、PTENの発現量も低いことも確認できる。
【0042】
更に、図13は、アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体のウエスタンブロッティング法の結果を示す。図中、無病生存期間(年)は、患者が癌を再発すること無く、術後に経過した年数を示している。また、再発の+及び−は再発の有無を示しており、+は再発した患者を、−は再発していない患者を示す。例えば、No.1は術後5.02年経過したが癌の再発が無い患者を表し、No.9は術後4.60年経過後に癌が再発した患者を表す。癌が再発した8検体(No.9、No.14、No.23、No.26、No.29、No.31、No.35及びNo.37)では、No.35を除き、明らかに全ての検体の活性化Aktの発現が低い。また、活性化Aktの発現が有るが癌が再発したNo.35では、HER−2及びPTEN、特にPTENの発現量が極めて低いことが確認された。
【実施例4】
【0043】
<活性化Aktの発現量の測定>
上述のウエスタンブロッティング法により得られた各ヒト乳癌細胞又は癌組織の、リン酸化及び非リン酸化両方のAktのバンドに係るシグナルカウントを、Molecular Imager FX (BioRad社) を用いてそれぞれの分子量のバンドを定量した。Akt活性は、リン酸化Aktのシグナルカウントの、リン酸化及び非リン酸化のAktのシグナルカウントに対する割合で示した。その測定結果を図14及び図15に示す。
【0044】
図14から明らかなように、MCF−7、T47−D、SK−B−3、SK−Br−3、MDA−MB−231及びMDA−MB−468のヒト乳癌細胞又は癌組織のうち、ドキソルビシンによるアポトーシス誘導の効果が低いT47−D及びMDA−MB−468は、活性化Aktの発現量が極めて低いことが分かる。
【0045】
図15は、アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体を、癌の再発群及び非再発群に分け、それぞれの活性化Aktの発現量を示したものである。図15から明らかなように、非再発群には活性化Aktが高発現の乳癌患者が多く、逆に再発群には活性化Aktが低発現の乳癌患者が多い。
【0046】
以上の実施例から明らかなように、アンスラサイクリン系抗癌剤は、従来予後不良を引き起こす可能性が高いとされている、活性化Aktが高発現の癌細胞又は癌組織に対し治療効果が高く、逆に活性化Aktが低発現の癌細胞又は癌組織に対し治療効果が低い。更に、活性化Aktが高発現であり、更にHER−2及び/又はPTENの発現が高い癌細胞又は癌組織に対し、アンスラサイクリン系抗癌剤は特に有効であることが示された。
【0047】
このことから、個々の癌患者の癌細胞又は癌組織における活性化Aktを検出することにより、アンスラサイクリン系抗癌剤の奏功率の高低が判断できるため、効率的な抗癌剤の選択、特にアンスラサイクリン系抗癌剤の選択の適否をより正確に行うことができる。これにより、患者に対する非効率的な治療を回避し、副作用による弊害をより軽減することが可能となり、患者のQOLを交渉することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】抗癌剤の感受性判定システムのコンピュータシステムによる一実施形態を示す。
【図2】抗癌剤の感受性判定システムのコンピュータシステムにおける判定フローを示す。
【図3】MCF−7のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図4】T47−Dのドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図5】SK−Br−3のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図6】MDA−MB−231のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図7】MDA−MB−468のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図8】MDA−MB−453のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図9】MDA−MB−468のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図10】SK−Br−3のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図11】MDA−MB−231のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図12】MDA−MB−453、MDA−MB−468、MDA−MB−231、SK−B−3、T47−D及びMCF−7のウエスタンブロッティング法による、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の確認。
【図13】アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体のウエスタンブロッティング法による、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の確認。
【図14】MDA−MB−453、MDA−MB−468、MDA−MB−231、SK−B−3、T47−D及びMCF−7のリン酸化Aktのシグナルカウントの分析結果。
【図15】アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体の、非再発及び再発群における、リン酸化Aktのシグナルカウントの分析結果。
【符号の説明】
【0049】
100:システム 110:コンピュータ本体 110a:CPU 110b:ROM 110c:RAM 110d:メモリ 110e:読出装置 110f:入出力インターフェイス 110h:画像出力インターフェイス 110i:バス 120:ディスプレイ 130:入力デバイス 140:外部記録媒体 140a:プログラム 200:測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の一般的な治療法の1つに化学療法があり、各種の抗癌剤投与が行われている。しかしながら癌の種類や患者個々人の差により有効な抗癌剤は異なり、また、抗がん剤は治療域と有害域がオーバーラップする場合が多い。従って、効果的でない抗癌剤を投与した場合は、癌の再発可能性が高まるばかりか、抗癌剤の副作用により患者の体力が低下し、次に有効な別の抗癌剤を投与しても十分な効力を発揮できない恐れがある。このことから、安全性を確保しつつ有効性を得る為に、投与前に有効な抗癌剤を正確に特定する薬剤反応性を予測するシステムの開発が切望されている。
【0003】
従来、癌に対する抗癌剤の感受性検査としては、患者から単離した癌細胞又は癌組織に様々な抗癌剤を接触させ、癌細胞の増殖抑制等を指標としてその癌細胞に有効と思われる抗癌剤を特定する方法が採用されてきた。しかしながら、このような試行錯誤的方法では、検査結果が十分に臨床治療効果に反映しないばかりか、抗癌剤試験に大量の癌細胞又は癌組織が必要となり、患者への負担が大きいという問題が有った。従って、より客観的かつ正確な抗癌剤の感受性判定方法の確立が求められている。
【0004】
セリンスレオニンキナーゼであるAktは、多くの癌組織でその活性化が確認されており、癌化との深い関連が示唆されている。Aktの活性化にはリン酸化が必要であり、活性化されたAktは細胞死抑制に関与する分子のリン酸化を促進する。これにより、細胞のアポトーシスを抑制し、細胞の癌化を引き起こす。更に、一般的に活性化Aktが高発現している患者は、活性化Aktが低発現の患者に比べ、術後の経過が悪く予後不良を引き起こす可能性が高いことが報告されている(非特許文献1)。一般的に予後不良の癌は、抗癌剤による化学療法の奏功性が低く、その治療が困難であり、癌が再発するリスクが高い。
【0005】
アンスラサイクリン系抗癌剤は、トポイソメラーゼIIのDNAの再結合を阻害することで、アポトーシスを誘導する抗癌剤である。臨床上高く評価され、乳癌等の化学療法において汎用されている。しかしながら、他の抗癌剤と同様に、心毒性、白血球減少等の重大な副作用を引き起こす恐れがある。従って、アンスラサイクリン系抗癌剤の客観的且つ正確な感受性判定方法の確立は非常に重要である。
【0006】
【非特許文献1】Cicenas et al. Breast Cancer Research Vol.7 No.3 p394−401(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明者らはアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法を得るべく鋭意研究を行なった結果、以下のi)〜iii)を見出し、本発明を完成するに至った。
i)活性化Aktが高発現の癌細胞又は癌組織はアンスラサイクリン系抗癌剤に高感受性であり、逆に活性化Akt低発現の癌細胞又は癌組織は低感受性であること。
ii)従来、活性化Akt高発現の癌患者は、術後の経過が悪く癌が再発する等の予後不良が指摘されているが、アンスラサイクリン系抗癌剤を投与した場合は、活性化Akt高発現の癌患者の奏功率が高く、逆に活性化Akt低発現の癌患者の奏功率が低いこと。
iii)活性化Aktが高発現であり、且つHER−2及び/又はPTENも高発現の癌細胞又は癌組織は、よりアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性が高く、逆に活性化Aktが低発現であり、且つHER−2及び/又はPTENも低発現の癌細胞又は癌組織は、よりアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性が低いこと。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定方法;
(2)前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、(1)に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(3)前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、(1)又は(2)に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(4)アンスラサイクリン系抗癌剤がダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである、(1)〜(3)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(5)アンスラサイクリン系抗癌剤がドキソルビシン又はエピルビシンである、(1)〜(4)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(6)癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現を検出する工程をさらに有する、(1)〜(5)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(7)癌細胞又は癌組織中のPTENの発現を検出する工程をさらに有する、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(8)癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの検出結果を入力する工程と、前記入力された検出結果と閾値とを比較する工程と、前記比較の結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う工程と、前記判定の結果を出力する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定システム;
(9)前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、(8)に記載の抗癌剤の感受性判定システム;
(10)前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、(8)又は(9)に記載の抗癌剤の感受性判定システム;
(11)癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、(8)〜(10)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
(12)癌細胞又は癌組織中のPTENの発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、(8)〜(11)のいずれか1に記載の抗癌剤の感受性判定方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的で正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性判定方法及びそのシステムを提供することができる。
【0011】
また、本発明によれば、個々の癌患者に対するアンスラサイクリン系抗癌剤の奏功率が判断できるため、有効なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与が可能となるばかりで無く、不要なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与を回避し、患者の副作用による負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における癌細胞又は癌組織は、特に限定されるものではないが、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌細胞又は癌組織が挙げられ、特に乳癌の癌細胞又は癌組織が好ましい。また、臨床的には癌患者から採取した癌細胞又は癌組織を使用すれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌患者から採取した癌細胞又は癌組織が挙げられ、特に乳癌の患者から採取した癌細胞又は癌組織が好ましい。
【0013】
本発明において活性化Aktとは、リン酸化されたAkt、特にスレオニン308基及びセリン473基の2つのアミノ酸がリン酸化されたAktを示す。
【0014】
本発明においてアンスラサイクリン系抗癌剤としては、抗癌作用を有するアンスラサイクリン系化合物であれば特に限定されないが、臨床的に用いられているアンスラサイクリン系抗生物質及びその誘導体等が好ましく、具体的には、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン及びイダルビシン等が挙げられ、特にドキソルビシン及びエピルビシンが好ましい。
【0015】
本発明において活性化Aktを検出する方法としては、活性化Aktの発現の有無や強弱を確認できれば、特に限定されるものではないが、例えば、公知のタンパク質の検出方法が挙げられ、具体的にはSDSポリアクリルアミド電気泳動法、2次元電気泳動法、プロテインチップによる解析法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光法、ウエスタンブロッティング法、ドットブロッティング法及び免疫沈降法等が挙げられる。
【0016】
本発明においてHER−2及びPTENの発現を検出する方法としては、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱を確認できれば、特に限定されるものではないが、例えば、上述のタンパク質の検出方法の他に、公知のm−RNAの検出方法を使用することができる。公知のm−RNAの検出方法としては、例えば、RT−PCR法、ノーザンブロッティング法、NASBA法及びDNAチップによる方法等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
ここで、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出において、その発現の有無や強弱を確認する場合、目視等により直接的に確認しても良いが、発現量を測定し数値等で確認することもできる。
【0018】
活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出において、その発現量を測定方法する場合は、公知のタンパク質又はm−RNA等の発現量の測定方法を用いればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ウエスタンブロッティング法を用いた場合、ウエスタンブロッティングの結果をイメージスキャナに取り込み、活性化Akt、HER−2及びPTENのタンパク質に係るそれぞれのバンドのシグナル強度を解析することで、発現量を測定することが可能で、それら測定用機器も一般に市販されている。
【0019】
本発明において閾値とは、判定対象である癌細胞又は癌組織のアンスラサイクリン系抗癌剤に対する感受性を判断する際の、当該癌細胞又は癌組織中の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱の判断基準を示し、具体例としては、コントロールとなる細胞又は組織中の活性化Akt等の発現量、ハウスキーピング遺伝子やタンパクの発現量及びカットオフ値等が挙げられるが、特にこれ等に限定されるものではない。
【0020】
本発明において、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程は、活性化Aktの検出結果から、その有無や強弱が判定可能であれば、特に制限されるものではないが、活性化Aktの発現量を測定し、その発現量からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定するほうが客観性の観点から好ましい。
【0021】
また、本発明におけるアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程は、活性化Aktの発現の有無や強弱のみで行うことも可能だが、HER−2及び/又はPTENの発現の検出結果を判定の工程に加えるほうが、正確性の観点からより好ましい。これらHER−2及びPTENの発現も、活性化Aktの検出と同様に、その発現量を測定することでアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定するほうが、客観性の観点から好ましい。
【0022】
活性化Akt、HER−2及びPTENの発現量を測定し判定する方法としては、それらの発現の有無や強弱を基準となる閾値と、絶対的又は相対的に比較し、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の有無や強弱を判定できるものであれば、特に限定されるものではないが、具体的方法としては、以下のi)〜iv)の方法が挙げられる。
i)判定対象である癌細胞又は癌組織の試料に係るタンパク質又は核酸の発現量と、コントロール試料のタンパク質又は核酸の発現量を測定し、それぞれの測定結果を比較及び補正することで発現の有無や強弱を判定する方法。
ii)判定対象である癌細胞又は癌組織の試料とコントロール試料のタンパク含有量等を予め揃えておき、発現量の測定結果を直接比較することで、発現の有無や強弱を判定する方法。
iii)内部標準として、予め適切なハウスキーピング遺伝子のm−RNAやハウスキーピングタンパク(例えばβアクチン、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素等)を定め、該内部標準の発現量と活性化Akt、HER−2及びPTENのタンパク質又はm−RNAの発現量の測定し、それぞれの測定結果を相対的に比較することで発現の有無や強弱を判定する方法。
iv)予め、アンスラサイクリン系抗癌剤に対する感受性が異なる複数の癌細胞又は癌組織の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現量を測定し、その集積された測定結果からカットオフ値を導き出し、当該カットオフ値を基準として発現量を判定する方法等が挙げられる。
【0023】
本発明における、抗癌剤の感受性判定システムは、コンピュータにおいて実行されることが好ましい。以下、本発明の抗癌剤の感受性判定方法を実施するための一実施形態であるコンピュータシステム(図1)及び判定フロー(図2)について説明する。
【0024】
図1に示すシステム100は、コンピュータ本体110、必要データをコンピュータ本体110に入力する入力デバイス130、及び入出力データ等を表示するディスプレイ120を備え、さらに必要に応じて外部記録媒体140が含まれ得る。ここで、本実施形態のプログラム140aは、外部記録媒体140に記録されていてもよいし、コンピュータ本体110に備え付けのメモリ110b〜110dに保存されていてもよい。コンピュータ本体110内において、CPU110a、メモリ110b〜110d、入出力インターフェイス110f、画像出力インターフェイス110h、読出装置110eは、それぞれバス110iにて、データの送受信可能なように接続されている。
【0025】
図2は、上記抗癌剤の感受性判定方法によるアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を実行するためのプログラムの動作を示すフローチャートであり、このプログラムはメモリ110dに格納されている。まず、入力デバイス130により、検体である癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの発現量が入力されると、CPU110aが入出力インターフェイス110fを介して、RAM110cに記憶させる(ステップS1)。
【0026】
CPU110aは、予めプログラムのデータとしてメモリ110dに記憶されていた閾値を呼び出して、これらの閾値と活性化Aktの発現量との比較を実行する(ステップS2)。
【0027】
次に、CPU110aは、比較結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う(ステップS3)。CPU110aは、活性化Aktの発現量が閾値以上である場合には、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性「高」と判定する。活性化Aktの発現量が閾値以下である場合には、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性「低」と判定する。
【0028】
そして、CPU110aは、上記の判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介してディスプレイ120に出力する(ステップS4)。
【0029】
なお、本実施形態においては、活性化Aktの発現量を、入力デバイス130を用いて入力したが、これに限定されるものではなく、例えば、操作者による入力ではなく、活性化Aktの発現量が測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して自動的に取得されるようにしてもよい。
【0030】
本発明の抗癌剤の感受性判定方法によれば、患者へのアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性について診断することができる。具体的には、患者から採取した癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出及び判定し、活性化Aktの発現が高ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性が高い患者であり、逆に活性化Aktの発現が低ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性が低い患者であるとの診断が可能である。
【0031】
更に、HER−2及びPTENの発現の検出及び判定を、活性化Aktの検出及び判定と組み合わせることにより、より正確なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性について診断することができる。例えば、活性化Aktの発現が高く、且つHER−2及び/又はPTENの発現が高ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性がより高い患者であるとの診断が可能である。逆に、活性化Aktの発現が低く、且つHER−2及び/又はPTENの発現が低ければアンスラサイクリン系抗癌剤の投与による奏功性がより低い患者であるとの診断が可能である。
【0032】
この診断により、患者への効果的なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与が可能となる。更に、奏功性が低いと診断された患者に対しては、アンスラサイクリン系抗癌剤以外の抗癌剤を投与することで、非効率的な治療を回避し、患者の副作用による負担を低減することが可能となる。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
<ヒト乳癌細胞又は癌組織の調製>
ヒト乳癌細胞である、MCF−7、T47−D、SK−B−3、SK−Br−3、MDA−MB−231及びMDA−MB−468を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)より購入した。また、癌組織38検体(No.1〜No.38)は、浸潤性乳癌で乳癌ステージ分類においてステージI〜IIIbに分類される乳癌患者38名から摘出したものである。尚、当該乳癌患者38名は癌組織の摘出後にアンスラサイクリン系抗癌剤を主に投与する化学療法を受けている。各ヒト乳癌細胞又は癌組織は、10%FCS(コモンウェルス・ラボラトリーズ社)、1%(v/v)非必須アミノ酸(ギブコ社)、2mM L−グルタミン(シグマ・ケミカル社)、100μg/mlのストレプトマイシン(ギブコ社)、100U/mlのペニシリン(ギブコ社)、および0.28μg/mlのフンギゾン(スクイブ・ファーマスーティカルズ社)を含有するイーグル変法最少必須培地(ギブコ社)(以下、単に培地という)で、37℃、5%CO2/95%空気の加湿雰囲気中で増殖した。
【実施例2】
【0035】
<細胞増殖試験>
3.0×103個のヒト乳癌細胞又は癌組織を96ウェルプレートの培地に撒き、37℃、5%CO2/95%空気の加湿雰囲気中で一日培養した。その後、薬剤未添加の培地、又は1μM ドキソルビシンを含む培地に交換し、0、24、48、及び72時間後の細胞増殖を、Cell proliferation assay kit(ケミコン社)又はCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability assay(プロメガ社)を用い、その使用方法に準じて測定した。その結果を図3〜図11に示す。
【0036】
MCF−7(図3)及びMDA−MB−231(図6及び図11)は、ドキソルビシンの投与0時間目から投与72時間目に渡り、細胞増殖はコントロールに比べ抑制されている。しかしながら、生細胞は0時間目から殆ど変化がないか増加しており、ドキソルビシンによるアポトーシスの誘導が極めて低いことが明らかに示されている。
【0037】
T47−D(図4)、SK−Br−3(図5及び図10)、MDA−MB−468(図7及び図9)及びMDA−MB−453(図8)は、ドキソルビシン投与群では生細胞は0時間目から、時間の経過と共に徐々に減少していることからアポトーシスが誘導されたことが分かる。ここで、SK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)は、ドキソルビシンの投与によりアポトーシスの誘導が極めて高く、72時間後には殆ど生細胞が残っていない。それに対し、T47−D(図4)及びMDA−MB−468(図7及び図9)では、アポトーシスが誘導されてはいるが、SK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)よりもその効果が低いことが分かる。
【実施例3】
【0038】
<ウエスタンブロッティング法による、ヒト乳癌細胞又は癌組織中の活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の検出>
1.0×106個の各ヒト乳癌細胞又は癌組織を60mm培養皿の培地に撒き、1日培養した。培養液及び培養皿に付着したヒト乳癌細胞又は癌組織をセルスクレイパーで回収し、190× g、4℃で5分間遠心し、培養液を除去した。次に、残った細胞塊を液体窒素中で凍結させ、−80℃で一晩保存した。細胞溶解液(0.1% NP−40、50mM Tis−Cl pH7.5、5mM EDTA、50mM NaF、1mM Na3VO4、0.2% プロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社))100μlを保存した凍結細胞塊に加えピペッティングにより懸濁し、10分間氷上で静置した。懸濁液を12000×g、4℃、10分間遠心分離を行い、上清を試料として新しいマイクロチューブに移し、その一部を使用してローリー法によりタンパク量を測定した。
【0039】
試料に6×SDSサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間加熱することで、試料中のタンパク質を変性した。12000×g、4℃、20秒間遠心分離を行い、上清を新しいマイクロチューブに移した。タンパク量が20mg/ウエルとなるようにSDS−PAGE用のゲル(第一化学)に試料を添加し、電気泳動を2時間、20mAの条件下で行った。Mini Trans-Blot cell (BioRad社) を用いてタンパクをSDS−PAGE用のゲルからImmobilon FL membrane (以下、単にメンブレンという)(Millipore社)に、100V、2時間、4℃の条件下でトランスファーした。次に、メンブレンを4%のBSAを含むTBS−Tバッファー(10mM TrisHCl(PH7.6)、150mM NaCl、0.1%(v/v) Tween−20)で30分間常温下においてインキュベートした後、下記の希釈した一次抗体を有する1%のBSAを含むTBS−Tバッファーでメンブレンを4℃で一晩、インキュベートした。
Phospho-Akt (Ser473)(587F11) Mouse mAb(Cell Signaling Technologies社), 1/1000
Akt Antibody(Cell Signaling Technologies社), 1/1000
PARP Antibody (Cell Signaling Technologies社), 1/1000
Anti-Glyceramldehyde-3-Phosphate Dehydrogenase Rabbit Polyclonal Antibody (GAPDH) (TREVIGEN社), 1/1000
Anti-PTEN (A2B1) antibody (Santa Cruz Biotechnology社), 1/200
Anti-PI3-kinase p85a (Z-8) (Santa Cruz Biotechnology社), 1/200
Anti-HER2 antibody (Upstate社), 1/1000
一晩インキュベートしたメンブレンを、常温で5分間、3回TBS−Tバッファー中でインキュベートすることで洗浄した。洗浄後、下記の希釈した二次抗体を有する1%のBSAを含むTBS−Tバッファーでメンブレンを常温で1時間インキュベートし、二次抗体と反応した。
Polyclonal rabbit anti-mouse polyclonal immunoglobulins/HRP (Dako社), 1/2000
Polyclonal swine anti-rabbit polyclonal immunoglobulins/HRP (Dako社), 1/2000
二次抗体と反応後、再度TBS−Tバッファーで三回メンブレンを洗浄し、ECL Plus (Amersham社)で処理した。その結果を図12及び図13に示す。
【0040】
図12から明らかなように、ドキソルビシンによるアポトーシスの誘導が極めて低かった、MCF−7(図3)及びMDA−MB−231(図6及び図11)では、リン酸化されたAkt、即ち活性化Aktの発現が極めて低いことが分かる。逆に、ドキソルビシンによりアポトーシスが誘導されたT47−D(図4)、SK−Br−3(図5及び図10)、MDA−MB−468(図7及び図9)及びMDA−MB−453(図8)では、活性化Aktの発現がバンドとして明確に検出できる。
【0041】
ここで、ドキソルビシンによるアポトーシス誘導の効果が低いT47−D(図4)及びMDA−MB−468(図7及び図9)は、活性化Aktの発現は確認可能であるが、アポトーシス誘導の効果が高いSK−Br−3(図5及び図10)及びMDA−MB−453(図8)よりもHER−2の発現が、明らかに低いことが分かる。また、MDA−MB−468(図7及び図9)は、PTENの発現量も低いことも確認できる。
【0042】
更に、図13は、アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体のウエスタンブロッティング法の結果を示す。図中、無病生存期間(年)は、患者が癌を再発すること無く、術後に経過した年数を示している。また、再発の+及び−は再発の有無を示しており、+は再発した患者を、−は再発していない患者を示す。例えば、No.1は術後5.02年経過したが癌の再発が無い患者を表し、No.9は術後4.60年経過後に癌が再発した患者を表す。癌が再発した8検体(No.9、No.14、No.23、No.26、No.29、No.31、No.35及びNo.37)では、No.35を除き、明らかに全ての検体の活性化Aktの発現が低い。また、活性化Aktの発現が有るが癌が再発したNo.35では、HER−2及びPTEN、特にPTENの発現量が極めて低いことが確認された。
【実施例4】
【0043】
<活性化Aktの発現量の測定>
上述のウエスタンブロッティング法により得られた各ヒト乳癌細胞又は癌組織の、リン酸化及び非リン酸化両方のAktのバンドに係るシグナルカウントを、Molecular Imager FX (BioRad社) を用いてそれぞれの分子量のバンドを定量した。Akt活性は、リン酸化Aktのシグナルカウントの、リン酸化及び非リン酸化のAktのシグナルカウントに対する割合で示した。その測定結果を図14及び図15に示す。
【0044】
図14から明らかなように、MCF−7、T47−D、SK−B−3、SK−Br−3、MDA−MB−231及びMDA−MB−468のヒト乳癌細胞又は癌組織のうち、ドキソルビシンによるアポトーシス誘導の効果が低いT47−D及びMDA−MB−468は、活性化Aktの発現量が極めて低いことが分かる。
【0045】
図15は、アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体を、癌の再発群及び非再発群に分け、それぞれの活性化Aktの発現量を示したものである。図15から明らかなように、非再発群には活性化Aktが高発現の乳癌患者が多く、逆に再発群には活性化Aktが低発現の乳癌患者が多い。
【0046】
以上の実施例から明らかなように、アンスラサイクリン系抗癌剤は、従来予後不良を引き起こす可能性が高いとされている、活性化Aktが高発現の癌細胞又は癌組織に対し治療効果が高く、逆に活性化Aktが低発現の癌細胞又は癌組織に対し治療効果が低い。更に、活性化Aktが高発現であり、更にHER−2及び/又はPTENの発現が高い癌細胞又は癌組織に対し、アンスラサイクリン系抗癌剤は特に有効であることが示された。
【0047】
このことから、個々の癌患者の癌細胞又は癌組織における活性化Aktを検出することにより、アンスラサイクリン系抗癌剤の奏功率の高低が判断できるため、効率的な抗癌剤の選択、特にアンスラサイクリン系抗癌剤の選択の適否をより正確に行うことができる。これにより、患者に対する非効率的な治療を回避し、副作用による弊害をより軽減することが可能となり、患者のQOLを交渉することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】抗癌剤の感受性判定システムのコンピュータシステムによる一実施形態を示す。
【図2】抗癌剤の感受性判定システムのコンピュータシステムにおける判定フローを示す。
【図3】MCF−7のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図4】T47−Dのドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図5】SK−Br−3のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図6】MDA−MB−231のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図7】MDA−MB−468のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図8】MDA−MB−453のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図9】MDA−MB−468のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図10】SK−Br−3のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図11】MDA−MB−231のドキソルビシン添加の有無における細胞増殖試験の結果を示す。
【図12】MDA−MB−453、MDA−MB−468、MDA−MB−231、SK−B−3、T47−D及びMCF−7のウエスタンブロッティング法による、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の確認。
【図13】アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体のウエスタンブロッティング法による、活性化Akt、HER−2及びPTENの発現の確認。
【図14】MDA−MB−453、MDA−MB−468、MDA−MB−231、SK−B−3、T47−D及びMCF−7のリン酸化Aktのシグナルカウントの分析結果。
【図15】アンスラサイクリン系抗癌剤を主に治療に使用した乳癌患者の癌細胞又は癌組織38検体の、非再発及び再発群における、リン酸化Aktのシグナルカウントの分析結果。
【符号の説明】
【0049】
100:システム 110:コンピュータ本体 110a:CPU 110b:ROM 110c:RAM 110d:メモリ 110e:読出装置 110f:入出力インターフェイス 110h:画像出力インターフェイス 110i:バス 120:ディスプレイ 130:入力デバイス 140:外部記録媒体 140a:プログラム 200:測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項2】
前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、請求項1に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項3】
前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、請求項1又は2に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項4】
アンスラサイクリン系抗癌剤がダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項5】
アンスラサイクリン系抗癌剤がドキソルビシン又はエピルビシンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項6】
癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現を検出する工程をさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項7】
癌細胞又は癌組織中のPTENの発現を検出する工程をさらに有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項8】
癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの発現の検出結果を入力する工程と、前記入力された検出結果と閾値とを比較する工程と、前記比較の結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う工程と、前記判定の結果を出力する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項9】
前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、請求項8に記載の抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項10】
前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、請求項8又は9に記載の抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項11】
癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項12】
癌細胞又は癌組織中のPTENの発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、請求項8〜11のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項1】
癌細胞又は癌組織中の活性化Aktを検出する工程と、前記検出の結果からアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判定する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項2】
前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、請求項1に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項3】
前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、請求項1又は2に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項4】
アンスラサイクリン系抗癌剤がダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項5】
アンスラサイクリン系抗癌剤がドキソルビシン又はエピルビシンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項6】
癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現を検出する工程をさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項7】
癌細胞又は癌組織中のPTENの発現を検出する工程をさらに有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項8】
癌細胞又は癌組織中の活性化Aktの発現の検出結果を入力する工程と、前記入力された検出結果と閾値とを比較する工程と、前記比較の結果に基づいてアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を行う工程と、前記判定の結果を出力する工程と、を有する抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項9】
前記癌細胞又は癌組織が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞又は癌組織である、請求項8に記載の抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項10】
前記癌細胞又は癌組織が、乳癌の癌細胞又は癌組織である、請求項8又は9に記載の抗癌剤の感受性判定システム。
【請求項11】
癌細胞又は癌組織中のヒト上皮成長因子受容体2型の発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【請求項12】
癌細胞又は癌組織中のPTENの発現の検出結果を入力する工程をさらに有する、請求項8〜11のいずれか1項に記載の抗癌剤の感受性判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図7】
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【図11】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−122258(P2008−122258A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307276(P2006−307276)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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