説明

アンダーウエアーおよびその使用

【課題】着用快適性を損なわず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有するアンダーウエアーを提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含みかつ肌側の表面摩擦係数(MIU)が0.15以上である布帛を部位FA1としてアンダーウエアーを得る。アンダーウエアーがショートパンツまたはハーフパンツであり、前記部位FAが、着用者の大臀筋、大腿二頭筋、腸脛靭帯、腹直筋、および外側広筋のうちいずれかを覆う部位であることが好ましい。また、アンダーウエアーが、スポーツ用またはインナー用またはトレーニング用またはリハビリ用または老人用であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用快適性を損なわず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有するアンダーウエアーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の欧米化からメタボリック症候群が注目をされている。それにともない、着用して日常生活を過ごすだけで運動効果を高め、着用者の筋肉が必然的に鍛えられるウエアーが提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、かかるウエアーでは、身体に負荷を掛けるために大きな着圧、衣服圧を着用者に与えることになり、着用快適性が充分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3924580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、着用快適性を損なわず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有するアンダーウエアーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、極めて繊度の小さいフィラメント糸を含みかつ布帛表面の摩擦係数が大きい布帛を用いてアンダーウエアーを得ると、該アンダーウエアーは、着用快適性に優れ、かつ運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含みかつ肌側の表面摩擦係数(MIU)が0.15以上である布帛からなる部位FAを有することを特徴とするアンダーウエアー。」が提供される。
その際、前記フィラメント糸Aがポリエステルからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記布帛に弾性繊維が含まれることが好ましい。また、前記布帛の伸長率(245cN/cm荷重時)が、タテ方向およびヨコ方向ともに35%以下であることが好ましい。また、前記布帛において、肌側の表面に前記フィラメント糸Aが露出していることが好ましい。また、前記布帛が、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛に、高圧水を噴射処理したものであることが好ましい。
【0007】
本発明のアンダーウエアーにおいて、アンダーウエアーがショートパンツまたはハーフパンツであり、前記部位FAが、着用者の大臀筋、大腿二頭筋、腸脛靭帯、腹直筋、および外側広筋のうちいずれかを覆う部位であることが好ましい。また、アンダーウエアーが、スポーツ用またはインナー用またはトレーニング用またはリハビリ用または老人用であることが好ましい。
また、本発明によれば、アンダーウエアー着用時における衣服圧が0.6kPa以下である、前記のアンダーウエアーの使用が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着用快適性を損なわず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有するアンダーウエアーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られたアンダーウエアー(ニットボクサーパンツ)の前面を模式的に示す図である。
【図2】実施例1で得られたアンダーウエアー(ニットボクサーパンツ)の後面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)は、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、より好ましくは550〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、部位FAと肌との摩擦が大きくならず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0011】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、部位FAと肌との摩擦を大きくし、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を向上させる上で500本以上(より好ましくは2000〜50000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0012】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0013】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、ポリエステル系ポリマーが好ましい。特に、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2009−01694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0014】
また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。例えばまず、下記のような海島型複合繊維用の海成分ポリマーと島成分ポリマーを用意する。
【0015】
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0016】
一方、島成分ポリマーは、海成分との溶解速度差があればいかなるポリエステルポリマーであってもよいが、前記のように繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。
【0017】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0018】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0019】
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなるので100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
【0020】
次に、島成分の径(直径)は、10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)の範囲とする必要がある。島成分の径を該範囲内とすることにより、最終的に得られる織物に、単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nmのフィラメント糸Aが含まれることになる。ここで、島成分の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を島成分の径とする。なお、島成分の径(直径)は、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去したのち、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0021】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0022】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【0023】
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルに好適である。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0024】
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、定法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
【0025】
かくして得られた海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0026】
また、前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなど着用時の欠陥や染め斑も発生しやすくなる。
【0027】
次いで、該海島型複合繊維にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維を単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。また、アルカリ水溶液処理は、布帛を織編成する前でもよいが、布帛を織編成した後のほうが好ましい。
【0028】
本発明において、部位FAを構成する布帛は、前記フィラメント糸Aのみで構成されていてもよいが、単繊維径が1000nmより大(好ましくは2〜33μm)のフィラメント糸Bと前記フィラメント糸Aとで構成されることが、部位FAの保形性を向上させる上で好ましい。その際、前記布帛において、布帛の少なくとも表裏どちらかの表面に前記フィラメント糸Aが露出していることが好ましい。特に、肌側に位置する表面に前記フィラメント糸Aが露出していることが好ましい。なお、33μmは繊度に換算すると約10dtexである。該単繊維径が1000nm(1μm)以下であると、アンダーウエアーの保形性が損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0029】
前記フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本の範囲内であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されず紡績糸でもよいが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0030】
前記フィラメント糸Bを形成するポリマーの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステル、ポリエーテルエステル、ウレタンなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2009−01694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルやポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸でもよい。特に、アンダーウエアーに弾性を付与する上で、ポリエーテルエステルやポリウレタンなどの弾性樹脂が好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0031】
なお、前記フィラメント糸Aおよび/またはフィラメント糸Bにおいて、繊維は1種類でもよいし、複数の組み合わせであってもよい。例えば、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条と、ポリエステル系繊維糸条とをインターレース空気ノズルなどにより空気混繊させた複合糸や、弾性繊維糸条のまわりにポリエステル系糸条をカバリングした複合糸などや、紡績糸との複合糸でもよい。
【0032】
また、前記布帛において、着用者の肌側に位置する布帛表面において、表面摩擦係数(MIU)が0.15以上(より好ましくは0.15〜0.35)であることが肝要である。表面摩擦係数(MIU)がこのように大きいことにより、部位FAを構成する布帛と皮膚との摩擦が大きくなり、運動時の筋肉活動量を増加させる効果が得られる。該表面摩擦係数(MIU)が0.15未満の場合、運動時の筋肉活動量を増加させる効果が得られないおそれがある。なお、前記布帛において、外気側表面の表面摩擦係数はとくに限定されないが、0.15以上であることが好ましい。
【0033】
また、前記布帛において、前記布帛の伸長率が、タテ方向およびヨコ方向ともに35%以下であることが、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を得る上で好ましい。布帛の伸長率が35%よりも大きいと、運動時に布帛が伸長してしまうため、布帛と皮膚との摩擦作用が発生せず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果が得られないおそれがある。
【0034】
かかる布帛は例えば、以下の製造方法により製造することができる。まず、前記フィラメント糸A(またはフィラメント糸A用海島型複合繊維)と、必要に応じて前記フィラメント糸Bとを用いて常法により布帛を織編成する。その際、布帛の組織は特に限定されず、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
【0035】
該布帛に前記海島型複合繊維が含まれている場合には、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維を単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0036】
次いで、かかる布帛にスパンレース用のウオーターニードル装置で高圧水を噴射すると、布帛表面において、凝集密着しているフィラメント糸Aをばらけさせることができ、前記のような表面摩擦係数を有する布帛を得ることができる。その際、高圧水の水圧としては、20kg/cm以上(196N/cm以上)であることが好ましく、30〜200kg/cm(294〜1960N/cm)であることが特に好ましい。
【0037】
また、該布帛に、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0038】
本発明のアンダーウエアーにおいて、前記部位FAの総面積(全ての部位FAの面積を合計した値)としては10〜8000cm(より好ましくは500〜4000)の範囲内であることが着用快適性を損なわずに運動時の筋肉活動量を増加させる効果を高める上で好ましい。前記部位FAの総面積が10cmよりも小さいと、アンダーウエアーと肌との摩擦が小さくなりすぎて運動時の筋肉活動量を増加させる効果を高めることができないおそれがある。逆に、該面積が8000cmよりも大きいと、アンダーウエアーと肌との摩擦が大きくなりすぎて着用快適性が損われるおそれがある。なお、前記部位FAひとつの面積としては10〜4000cmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
本発明のアンダーウエアーは前記布帛(前記部位FA)のみで構成されていてもよいが、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛からなる部位FAと、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含まない布帛(ポリエステル系繊維および/または弾性繊維からなる前記フィラメント糸Bのみで構成されることが好ましい。)からなる部位FBとで構成されると、運動時の筋肉活動量を増加させる効果の促進効果を維持しながら着用快適性をさらに向上させることができ好ましい。その際、前記部位FAと他の部位FBとの総面積比率が(FA:FB)1:0.5〜1:20(より好ましくは1:0.5〜1:5)の範囲内であることが好ましい。前記部位FAの面積比率が該範囲よりも小さいと、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を高めることができないおそれがある。逆に、前記部位FAの面積比率が該範囲よりも大きいと、肌との摩擦が大きいためアンダーウエアーの着脱が困難になるおそれがある。なお、前記の総面積比率は、部位FAと部位FBとを裁断した後各々の面積を測定してもよいし、公知の画像処理装置を用いて測定してもよい。
また、前記部位FAと他の部位FBとは、ジャガード織またはジャガード編により連続的に製編織されているか、または、互いに縫い合わされていてもよい。
【0040】
本発明のアンダーウエアーにおいて、その形状は特に限定されないが、長袖シャツ、半袖シャツ、ショートパンツ、ハーフパンツ、ロングパンツ、サポーターなどが好適に例示される。特に、アンダーウエアーがショートパンツまたはハーフパンツであり、前記部位FAが、着用者の大臀筋、大腿二頭筋、腸脛靭帯、腹直筋、および外側広筋のうちいずれかを覆う部位であることが好ましい。その際、FA以外の他の部位FBは、前記フィラメント糸Bのみからなる布帛で構成されることが好ましい。
【0041】
本発明のアンダーウエアーは、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含みかつ肌側の表面摩擦係数(MIU)が0.15以上である布帛からなる部位FAを有するので、該部位FAと肌との摩擦が大きいため、着用者が運動するとエネルギー消費量が大きくなり、運動効果を高めることができる。しかも、大きな着圧、衣服圧を着用者に与えることがなく、着用快適性にも優れる。その際、アンダーウエアー着用時における衣服圧(例えば大腿前面)が0.6kPa以下であることが好ましい。
【0042】
本発明のアンダーウエアーにおいて、その用途は特に限定されないが、スポーツ用またはインナー用またはトレーニング用またはリハビリ用または老人用であることが好ましい。
なお、本発明のアンダーウエアーにおいて、本発明の主目的が阻害されない範囲において、常法の染色加工、起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0044】
<溶融粘度>
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットした。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見た。
【0045】
<溶解速度>
海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0046】
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0047】
<ナノファイバーのばらけ状態>
布帛を液体窒素に浸漬して固まらせた後カットし、断面(縦61μm×横80μm、面積4880μm)を電子顕微鏡で10箇所撮影(倍率1500倍)し、100本以上のナノファイバーが凝集密着したナノファイバー塊の合計個数をカウントした。合計個数が0個の場合を合格とし、1個以上の場合を不合格とした。
【0048】
<目付>
JIS L1096 6.4.2に従い目付を測定した。
【0049】
<布帛表面の平均摩擦係数MIU>
カトーテック社製摩擦感テスター(KES−SE)を使用し、垂直荷重0.49N、摩擦子の移動速度1mm/sで、布帛表面の平均摩擦係数MIUを測定した。
【0050】
<布帛の伸長率>
岩本製作所製2軸引張試験機を使用して、布帛の1軸拘束2軸伸長特性を測定した。タテ方向とヨコ方向について、245cN/cm荷重時の伸長率を測定した。
【0051】
<衣服圧>
着用快適性の代用特性として、室温25℃、相対湿度50%にコントロールされた人工気象室内にてAMI社製エアパック衣服圧測定器を使用し、大腿前面の衣服圧を計測した。計測したポイントは腸骨稜点と膝蓋上縁とを結ぶ線上で、臀溝囲線より30mm下のポイントで測定した。下記の運動時の筋肉活動量を増加させる効果を測定した後、衣服圧を測定した。被験者は健康な成人男性4名で行った。衣服圧が平均0.60kPa以下であれば、締め付けが小さく合格とする。
【0052】
<運動時の筋肉活動量を増加させる効果>
室温25℃、相対湿度50%にコントロールされた人工気象室内にて、ハーフパンツの形態に縫製したアンダーウエアーを着用し、トレッドミル(コンビ社製エアロウオーカー2100P(商品名))を用いて歩行運動を行った。そして、歩行時の大腿直筋筋電図を生体情報測定システム(日本光電社製WEB−9500)を用いて、2kHzにて測定し、収録データ中の10歩分にあたる筋電図波形から絶対値積分を行った。被験者は衣服圧と同じ被験者4名で行った。筋電図積分値で平均220mV以上を筋肉の活動量が大きく合格とする。
【0053】
<長期着用効果>
健康な成人男性14名の被験者が4週間の着用テストを行った。被験者の身体特性は以下の通りであった。平均年齢37.62歳(標準偏差1.31歳)、平均身長1.74m(標準偏差0.02m)、平均BMI23.96(標準偏差0.94)、腹囲83.34〜88.16cmであった。テスト期間中は、食事や運動に関してテスト前と同様にした。体重、体脂肪率はオムロン社製体重体組成計カラダスキャンHBF−363IT(商品名)を使用して、1週間ごとに起床直後に測定した。腹囲は、体重測定と同じときに臍上をメジャーで測定した。また、活動量として山佐時計計器社製万歩計(登録商標)プレジャーウオーカーPZ−250を使用して毎日の歩数を計測し活動量とした。また、1週間ごとの変化を着用前のデータと比較し、対応のある平均値の差の検定Paired T−test(両側検定、有意水準:危険率5%)による統計処理を行った。
【0054】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用海島型複合繊維)は55dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
一方、他の繊維として通常のポリウレタン弾性糸(総繊度22dtex/1fil)を用意した。
【0055】
次いで、通常の28ゲージ丸編ダブル機を使用してベア天編物を編成した。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために編地を25g/リットルNaOH水溶液で、70℃にて30%アルカリ減量した後、常法の染色加工を行った。
次いで、この編物に対し、スパンレース用のウオーターニードル装置(噴射孔径:0.1mm、孔ピッチ:1.0mm、孔配列:2列千鳥)を使用し、水圧60kg/cm(588N/cm)、編地の送り速度2m/分、編地の支持メッシュ:50メッシュの条件で高圧水を噴射した。
得られた編物において、目付は96g/mであり、単繊維径が700nmのフィラメント糸Aが75重量%、単繊維径が30μmのポリウレタン弾性糸が25重量%含まれていた。該編物において、ナノファイバー(フィラメント糸A)同士が凝集密着することなく、ばらけた状態で存在しており、ナノファイバー塊の個数は0個であった。
また、該編物において、表裏の表面には、フィラメント糸Aだけが露出しており、表面摩擦係数(MIU)は表裏の表面ともに0.18であった。また、布帛伸長率は、タテ方向18%、ヨコ方向25%であった。
【0056】
該編物(布帛)を用いて、該編物を含む部位FAが図1および図2に示すとおり、大臀筋から大腿二頭筋、および腹直筋から外側公筋にかけて覆うようにニットボクサーパンツ(アンダーウエアー)を縫製した。その際、前記編物を含まない部位FBは、ポリエステル繊維からなるよこ編物で構成し、部位FAと部位FBとは縫製により接合した。部位FAと部位FBとの面積比率は(FA:FB)70:30であった。
該ハーフパンツを着用して、大腿直筋の筋電図を測定したところ、筋電図積分値で平均247.8mV(標準偏差50.2mV)であり、極めて筋肉の活動量が大きかった。また、衣服圧は平均0.49kPa(標準偏差0.12kPa)であり、締め付けが緩やかであった。
長期着用評価については、テスト前の体重69.02〜75.62kgが5週間後に体重68.27〜74.49kgと減少し、検定の結果でも危険率2%と有意な低下を示した。また、体重と体脂肪率とから算出した体脂肪量については、テスト前の体脂肪量13.93〜17.07kgが4週間後に平均体脂肪量13.42〜16.46kgと減少し、検定の結果でも危険率2%と有意な低下を示した。一方、活動量(歩数)はテスト開始時6916〜8020歩が4週間後に7193〜8386歩と微増したが、検定結果では有意な差が認められなかった。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、海島型複合延伸糸のかわりにポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(総繊度35dtex/72fil、単繊維径6μm)を用いることとアルカリ減量しないこと以外は実施例1と同様に編物(目付107g/m2)を得た後、実施例1と同様にハーフパンツを得た。また、該編物において、表面摩擦係数(MIU)は表裏の表面ともに0.09であった。
該ハーフパンツを着用して、大腿直筋の筋電図を測定したところ、筋電図積分値で平均201.7mV(標準偏差42.3mV)であり、筋肉の活動量は小さかった。また、衣服圧は平均0.76kPa(標準偏差0.09kPa)であり、締め付けが大きかった。
【0058】
[比較例2]
実施例1において、高圧水を噴射しないこと以外は実施例1と同様に編物(目付107g/m)を得た後、実施例1と同様にハーフパンツを得た。また、該編物において、表面摩擦係数(MIU)は表裏の表面ともに0.13であった。
該ハーフパンツを着用して、大腿直筋の筋電図を測定したところ、筋電図積分値で平均210.5mV(標準偏差38.1mV)であり、筋肉の活動量は小さかった。また、衣服圧は平均0.52kPa(標準偏差0.08kPa)であり、締め付けが大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、着用快適性を損なわず、運動時の筋肉活動量を増加させる効果を有するアンダーウエアーが提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0060】
1,3:部位FA
2,4:部位FB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含みかつ肌側の表面摩擦係数(MIU)が0.15以上である布帛からなる部位FAを有することを特徴とするアンダーウエアー。
【請求項2】
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなる、請求項1に記載のアンダーウエアー。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1または請求項2に記載のアンダーウエアー。
【請求項4】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜3のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項5】
前記布帛に弾性繊維が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項6】
前記布帛の伸長率(245cN/cm荷重時)が、タテ方向およびヨコ方向ともに35%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項7】
前記布帛において、肌側の表面に前記フィラメント糸Aが露出している、請求項1〜6のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項8】
前記布帛が、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含む布帛に、高圧水を噴射処理したものである、請求項1〜7のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項9】
アンダーウエアーがショートパンツまたはハーフパンツであり、前記部位FAが、着用者の大臀筋、大腿二頭筋、腸脛靭帯、腹直筋、および外側広筋のうちいずれかを覆う部位である、請求項1〜8のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項10】
アンダーウエアーが、スポーツ用またはインナー用またはトレーニング用またはリハビリ用または老人用である、請求項1〜9のいずれかに記載のアンダーウエアー。
【請求項11】
アンダーウエアー着用時における衣服圧が0.6kPa以下である、請求項1〜10のいずれかに記載のアンダーウエアーの使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168934(P2011−168934A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35918(P2010−35918)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】