説明

アンテナの偏波角誤差算出方法及びアンテナの偏波角制御装置

【課題】 衛星到来波のC/Nが小さい場合であっても、偏波角の誤差を算出するアンテナの偏波角誤差算出方法、及び、偏波角の誤差を算出し、その算出した偏波角の誤差に基づいて、アンテナ部の偏波角を調整することが可能なアンテナの偏波角制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度における受信レベルを第1受信レベルとし、推定された衛星偏波角推定値の角度から、第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度における受信レベルを第2受信レベルとして算出して、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、第2オフセット角度の第2の誤差を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両、船舶、航空機などの移動体に搭載された衛星通信アンテナや可搬型の衛星通信アンテナにおいて、アンテナの偏波角誤差算出方法及びアンテナの偏波角制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両、船舶、航空機などの移動体に搭載され、通信衛星を介して通信を行う衛星通信アンテナ(通信端末局)には、与えられた衛星の位置情報と、通信端末局のアンテナの放射部であるアンテナ部の傾斜や方位を検出するセンサから得られるアンテナ部の方位角情報及び仰角情報やGPSなどの測位システムから得られるアンテナ部の位置情報を用いて、アンテナ指向方向が衛星方向に、アンテナ偏波が衛星偏波に一致するようアンテナ部を駆動制御するものがある。
【0003】
このような衛星通信アンテナの場合、前述のようなセンサから取得したアンテナ部の傾斜や方位の情報には誤差が含まれるため、アンテナ指向方向及び偏波角の誤差が大きく最良の通信状態とはいえないこともある。そのため、指向方向制御においては、衛星からの到来波(衛星到来波)の受信レベルによるピーキングを行って、その結果に基づいて指向性を調整する制御が行なわれる。
【0004】
また、衛星通信アンテナにおける偏波角制御に関しても、調整する制御を行うための技術が提案されている。衛星通信アンテナにおける偏波角制御方法には、通信を行う主偏波の受信装置とは別に主偏波と直交する交差偏波を受信できる装置も設け、主偏波の受信強度最大角度と直交する角度にある受信強度のNULL点を交差偏波の受信装置に装備したNULLセンサで検出することにより、主偏波角度の調整を行う方式がある(例えば、特許文献1参照)。また、可搬され、任意の場所に設置して使用される可搬が可能な衛星通信アンテナにおいても前述のものと同じく、アンテナ指向方向と、アンテナ偏波角の制御が必要となる。
【0005】
特許文献1に記載されるような偏波角制御技術は、交差偏波のNULL点を検出することにより、主偏波角度の制御を行うため、NULL点検出精度が偏波角制御の精度ということになる。NULL点検出精度εは、衛星到来波のC/N L[dB]に規定され、式(1)に示す関係がある。
【0006】
【数1】

【0007】
このような交差偏波のNULL点を利用して主偏波角度を制御する方法以外に、主偏波角度の制御手段としては、主偏波で受信した衛星到来波の受信レベルをピーキングする方法がある。衛星偏波角度の主偏波角度の離角ρ[°]と受信レベルのピーク値からの降下dlとの関係は、式(2)のように表すことができる。なお、式(2)の右辺の係数「20」は、一例であり、各種条件によって変化する。
【0008】
【数2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−258522号公報(第1図〜第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載されるような偏波角制御技術は、NULL点検出精度が偏波角制御の精度ということになるため、主偏波角度の制御の精度が、衛星到来波のC/N、すなわち、アンテナの性能や基地局の送信電力により制限を受けるという課題があった。
【0011】
具体的には、移動体衛星通信アンテナで一般に必要とされる主偏波角度の制御精度は1°未満であるが、この精度の得るために必要なC/Nは、式(1)によると、35dB以上となる。しかし、通信端末局で受信する衛星到来波のC/Nは一般に10dB程度であるため、主偏波角度の制御を行う際は、通常より電力の大きいキャリアを基地局から上げてもらうか、逆に通信端末局が出力する電波をアンテナゲインの大きな基地局で受信することで、主偏波角度の制御を行うなどの方法を使用する必要があるという課題があった。
【0012】
このような交差偏波のNULL点を利用して主偏波角度を制御する方法以外には、前述のように、主偏波で受信した衛星到来波の受信レベルをピーキングする方法があるが、この方法では、式(2)に示すように、誤差に対する受信レベルの変化は小さく、所望の精度が得られないという課題があった。具体的には、主偏波角度の誤差1°に対する衛星偏波角度近傍での受信強度の降下は式(2)によれば、0.001dB程度であり、一般に受信レベルの測定値に含まれるノイズに対して小さく、精度の良い推定ができないという課題があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、衛星到来波のC/Nが小さい場合であっても、アンテナ部の主偏波で受信した衛星到来波の受信レベルを用いて、アンテナ部の主偏波角度(偏波角)を精度良く衛星偏波角に合わせるために、偏波角の誤差を算出するアンテナの偏波角誤差算出方法、及び、偏波角の誤差を算出し、その算出した偏波角の誤差に基づいて、アンテナ部の偏波角を調整することが可能なアンテナの偏波角制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、アンテナ部により、衛星から到来する衛星到来波を受信して、その受信レベルを導出する受信ステップと、前記アンテナ部の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、前記衛星の位置情報に基づき、前記アンテナ部の偏波角の初期値として衛星偏波角推定値を推定する推定ステップと、推定された前記衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度における前記受信レベルを第1受信レベルとして導出する第1受信レベル導出ステップと、推定された前記衛星偏波角推定値の角度から、前記第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度における前記受信レベルを第2受信レベルとして導出する第2受信レベル導出ステップと、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第1オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第2の誤差を算出するオフセット角度誤差導出ステップと、前記第1の誤差又は前記第2の誤差から、前記衛星偏波角推定値の誤差を算出する衛星偏波角推定値誤差導出ステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項2の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップが、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項1に記載のものである。
【0016】
請求項3の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップが、前記衛星偏波角推定値の角度と前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度とのうち、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度よりの角度である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項2に記載のものである。
【0017】
請求項4の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップが、それぞれ、前記衛星偏波角推定値の角度から+90°離れた角度以内のオフセット量、及び、前記衛星偏波角推定値の角度から−90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項1に記載のものである。
【0018】
請求項5の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップが、前記衛星偏波角推定値の角度からのオフセット量の絶対値が等しい前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項4に記載のものである。
【0019】
請求項6の発明に係るアンテナの偏波角誤差算出方法は、前記衛星偏波角推定値誤差導出ステップにより算出された誤差を反映させた偏波角を第2の衛星偏波角推定値とし、この第2の衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第3オフセット角度における前記受信レベルを第3受信レベルとして導出する第3受信レベル導出ステップと、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第3オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第3の誤差を算出、又は、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第3オフセット角度の第4の誤差を算出する第2のオフセット角度誤差導出ステップと、前記第3の誤差又は前記第4の誤差から、前記第2の衛星偏波角推定値の誤差を算出する第2の衛星偏波角推定値誤差導出ステップとを備えた請求項5に記載のものである。
【0020】
請求項7の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、衛星からの衛星到来波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した衛星到来波の受信レベルを測定し出力する受信部と、前記アンテナ部を指向方向に駆動させる指向方向駆動部と、前記アンテナ部を駆動させて偏波角を変更する偏波角駆動部と、前記アンテナ部の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、前記衛星の位置情報から、前記アンテナ部の指向方向と偏波角の推定値である衛星偏波角推定値とを算出し、この算出結果に基づき、前記指向方向駆動部及び前記偏波角駆動部を制御してアンテナ部の方向を決定するアンテナ姿勢制御部と、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度に変更させ、前記第1オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベルとして出力させ、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記衛星偏波角推定値の角度から、前記第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度に変更させ、前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第2受信レベルとして出力させて、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第1オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第2の誤差を算出する偏波角制御演算部とを備え、前記偏波角制御演算部は、前記第1の誤差又は前記第2の誤差に基づいて、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を調整することを特徴とするものである。
【0021】
請求項8の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、前記偏波角制御演算部が、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項7に記載のものである。
【0022】
請求項9の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、前記偏波角制御演算部が、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を、前記衛星偏波角推定値の角度と前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度とのうち、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度よりの角度である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項8に記載のものである。
【0023】
請求項10の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、前記偏波角制御演算部が、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を、それぞれ、前記衛星偏波角推定値の角度から+90°離れた角度以内のオフセット量、及び、前記衛星偏波角推定値の角度から−90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項7に記載のものである。
【0024】
請求項11の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、前記偏波角制御演算部が、前記衛星偏波角推定値の角度からのオフセット量の絶対値が等しい前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項10に記載のものである。
【0025】
請求項12の発明に係るアンテナの偏波角制御装置は、前記偏波角制御演算部は、前記第1の誤差又は第2の誤差から算出した誤差を前記衛星偏波角推定値に反映させて偏波角を第2の衛星偏波角推定値とし、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記第2の衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第3オフセット角度に変更させ、前記第3オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第3受信レベルとして出力させて、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第3オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第3の誤差を算出、又は、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第3オフセット角度の第4の誤差を算出し、前記第1の誤差又は前記第2の誤差から算出された前記第3の誤差又は前記第4の誤差に基づいて、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を調整するものである請求項11に記載のものである。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、請求項1〜6に係る発明によれば、アンテナの主偏波角度を衛星偏波角からオフセットさせた位置で測定した受信レベルから、到来波偏波の角度を推定することで、衛星到来波のC/Nが小さい場合であっても、衛星偏波角の推定値の誤差を精度良く算出できるアンテナの偏波角誤差算出方法を得ることができる。
【0027】
請求項7〜12に係る発明によれば、アンテナの主偏波角度を衛星偏波角からオフセットさせた位置で測定した受信レベルから、到来波偏波の角度を推定することで、衛星到来波のC/Nが小さい場合であっても、アンテナの主偏波角度を衛星偏波角に対して精度良く制御できるアンテナの偏波角制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1及び2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)動作のフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)動作のフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における初段(一段目)の動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における二段目の動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における三段目の動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における処理を示すシミュレーション結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について図1〜3を用いて説明する。図1において、アンテナ部1は、衛星からの衛星到来波を受信するものであり、車両、船舶、航空機などの移動体に搭載され、通信衛星を介して通信を行う通信端末局や可搬が可能な通信端末局における衛星通信アンテナ(アンテナ部)そのものである。受信部2は、アンテナ部1が受信した衛星到来波の受信レベルを測定し出力するものであり、RF部3及び追尾受信部4から構成される。それぞれ、RF部3は、衛星到来波を受信するアンテナ部で受信した衛星到来波を増幅し周波数を変換するものであり、追尾受信部4は、RF部3で変換された衛星到来波から衛星到来波の受信レベルを測定し出力するものである。指向方向駆動部5は、アンテナ部1を指向方向に駆動させるものである。偏波角駆動部6は、アンテナ部1を駆動させて偏波角を変更するものである。
【0030】
図1において、アンテナ姿勢制御部7は、アンテナ方向演算部8,指向制御演算部9,偏波角制御演算部10からなるものである。アンテナ方向演算部8は、アンテナ部1の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、外部から与えられた衛星の位置情報から、アンテナ部1の指向方向と偏波角の推定値である衛星偏波角推定値とを算出するものである。この算出結果に基づき、指向制御演算部9が指向方向駆動部5を制御し、偏波角制御演算部10が偏波角駆動部を制御してアンテナ部1の方向を決定する。衛星方向演算部11は、衛星位置情報(衛星の位置情報)と、GPS等の位置検出手段12から出力されたアンテナの位置情報から、アンテナ部1又はアンテナ部1を有する通信端末局から見た衛星指向方向と衛星偏波角度をアンテナ方向演算部8へ出力するものである。なお、アンテナ部1を有する通信端末局が航空機に搭載されている場合やアンテナ部1を有する通信端末局が高度が高い位置に存在する場合は、位置検出手段12によるアンテナ部1の位置情報には高度を考慮する必要がある。また、方位検出手段13は、アンテナ部1が向いているの方位を検出してアンテナ方向演算部8へアンテナ部1の方位角情報として出力するものである。姿勢検出手段14はアンテナ部1の姿勢を検出してアンテナ方向演算部8へアンテナ部1の仰角情報して出力するものである。
【0031】
まず、実施の形態1に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)の偏波角誤差の算出前までの基本動作を説明する。アンテナ方向演算部7は、アンテナ部1から見た衛星指向方向と衛星偏波角度、アンテナ部1の方位及びアンテナ部1の姿勢から、アンテナ指向方向指令値とアンテナ偏波角度指令値を演算しそれぞれ指向方向制御部5と偏波角制御演算部6に出力する。アンテナ方向演算部7からアンテナ指向方向指令値を受けた指向制御演算部9は、指向方向駆動部5に指向方向指令値を出力しつつ、アンテナ指向方向指令値を基準方向として、受信強度によるピーキングを行うことで、アンテナ指向方向を衛星方向に対して適切な状態で一致させる。なお、指向方向駆動部5は指向制御演算部9の指令を受けてアンテナ指向方向を駆動する。アンテナ方向演算部7からアンテナ偏波角度指令値を受けた偏波角制御演算部10は、偏波角駆動部6に偏波角度指令値を出力しつつ、アンテナ偏波角度指令値を基準として、偏波角を駆動しつつ受信強度を測定することで、アンテナの偏波角を衛星偏波角に対して適切な状態で一致させる。なお、偏波角駆動部6は偏波角制御演算部10から指令を受けてアンテナ偏波方向を駆動する。
【0032】
指向制御演算部9が行う受信強度を使用したアンテナ指向方向の制御と、偏波角制御演算部10が行う受信強度を使用したアンテナ偏波角の制御は、方位検出手段13が出力するアンテナ方位や、姿勢検出手段14が出力するアンテナ姿勢が、誤差を含んでおり、これが、アンテナ方向演算部8が計算するアンテナ指向方向指令値とアンテナ偏波方向指令値の誤差となる。つまり、衛星の偏波角は誤差を含んだ衛星偏波角推定値であるといえる。
【0033】
次に、それらの誤差によるアンテナの偏波角の誤差を補正する実施の形態1に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)の動作を説明する。指向制御演算部9による指向制御に関しては、例えば、サーチによる衛星方向の粗検出が行なわれ、ステップトラックやコニカルスキャンにより更に高精度な指向制御が実施される。
【0034】
偏波角制御演算部11による偏波角制御に関しては、指向制御演算部9が偏波角駆動部6を制御してアンテナ部1の偏波角を衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度に変更させ、第1オフセット角度における受信レベルを受信部2から第1受信レベルとして出力させる。同じく、偏波角制御演算部11が偏波角駆動部6を制御してアンテナ部1の偏波角を衛星偏波角推定値の角度から、第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度に変更させ、第2オフセット角度における受信レベルを受信部2から第2受信レベルとして出力させる。そして、偏波角制御演算部11が、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき(式(2)参照)、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第2オフセット角度から、第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第1オフセット角度から、第2オフセット角度の第2の誤差を算出する。
【0035】
第1の誤差と第2の誤差とは、それぞれ、衛星偏波角推定値の角度からの所定の角度オフセットされた第1オフセット角度と第2オフセット角度の誤差であるから、何れかを用いて、偏波角制御演算部11は衛星偏波角推定値の誤差、つまり、衛星偏波角推定値における衛星の偏波角(真値)からずれを算出することができる。換言すると、偏波角制御演算部11を衛星の偏波角(真値)を導出することができる。よって、第1の誤差又は前記第2の誤差に基づく衛星の偏波角(真値)を用いて、偏波角制御演算部11は、偏波角駆動部6を制御してアンテナ部1の偏波角を調整して、アンテナの偏波角と衛星の偏波角(真値)とを一致させることができる。
【0036】
図2及び図3を用いて、実施の形態1に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)及び実施の形態1に係るアンテナの偏波角誤差算出方法を、アンテナの偏波角誤差算出に主眼をおいて、さらに詳しく説明する。図2は、発明の実施の形態1に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。図2は、衛星偏波角(誤差を修正する前の「衛星偏波角推定値の角度」も含む)を0[°]として図示している。図2において、ρ[°]は衛星偏波角推定値の角度からのρ[°]オフセットした角度、ρ+Δ[°]は衛星偏波角推定値の角度からのρ+Δ[°]オフセットした角度、lは衛星偏波角推定値の角度における受信レベルであり、受信レベルのピーク値となる(誤差を補正する前の仮想のピーク値)。lはρ[°]における受信レベル(測定点1)、lはρ+Δ[°]における受信レベル(測定点2)である。
【0037】
図2から、偏波角制御演算部10は、偏波角駆動部6を制御してアンテナ部1を衛星偏波角推定値の角度(0[°])から90[°]離れた角度以内のオフセット量である第1オフセット角度及び第2オフセット角度に変更し、第1オフセット角度及び第2オフセット角度における受信レベルを受信部2から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものであるといえる。
【0038】
偏波角制御演算部10は、偏波角駆動部6に指令を送り、アンテナ部1を駆動して、衛星偏波角(衛星偏波角推定値の角度)からρ[°]オフセットしたアンテナ偏波角度(第1オフセット角度)で測定した受信レベルlと、衛星偏波角度からρ+Δ[°]オフセットしたアンテナ偏波角度(第2オフセット角度)で測定した受信レベルlとをそれぞれ受信部2から取得する。Δ[°]は、図3では、ρ[°]に対して0[°]から離れた正の値であるが、Δ[°]がρ[°]に対して0°よりの値、つまり、負の値であれば、第1オフセット角度がρ+Δ[°]となり、第2オフセット角度がρ[°]となる。
【0039】
ここで、衛星偏波角の真値がわかっていないのでρ[°]には未知の誤差が含まれている。これを次に示す方法で推定する。アンテナ偏波角の衛星偏波角からのオフセット角度ρ[rad]と受信強度の関係式は、式(3)で表される。l[dB]は、受信レベルのピークレベル値(ピーク値)である。
【0040】
【数3】

【0041】
なお、式(3)は、式(2)と同様に、右辺の係数「20」は、一例であり、各種条件によって変化する。この式(3)によれば、前記手順で取得された受信レベルl[dB]とl[dB]は、式(4)及び式(5)のように表すことができる。
【0042】
【数4】

【0043】
【数5】

【0044】
式(4)と式(5)からlを消去することで次の式を得る。
【0045】
【数6】

【0046】
式(6)を変形して、式(7)を得る。
【0047】
【数7】

【0048】
この式(7)により、オフセット角度の真値ρ、すなわち衛星偏波角の真値を求めることが可能となる。つまり、衛星偏波角推定値からのオフセット量に相当するオフセット角度ρ[°]及びΔ[°]の値が既知であることから、オフセット角度の真値ρを得ることができると、オフセット角度の真値ρ及びオフセット角度の真値ρから、衛星偏波角推定値の角度における「衛星偏波角の真値」からの誤差が算出することができるので、結果として、「衛星偏波角の真値」を得ることができる。
【0049】
次に、このオフセット角度ρがあることが、精度のよい衛星偏波角の測定(誤差算出)に寄与する理由について述べる。式(7)の両辺を受信レベルに関して変分をとることにより式(8)を得る。
【0050】
【数8】

【0051】
Δ(l−l)[dB]は、ノイズなど受信レベルの測定誤差、Δρは、それにより発生するオフセット角度ρの推定誤差ということになる。右辺の係数であるcosρはρが0[°]から90[°]の範囲おいてρに対する単調減少関数である。また、同じく右辺の係数である式(6)の左辺
【0052】
【数9】

【0053】
は、ρ+Δが0[°]から90[°]の範囲おいて、Δに対する単調減少関数である。
【0054】
したがって、オフセット角度ρの推定誤差に対する、受信レベル測定誤差の影響は、当初のオフセット角度が大きいほど、かつ受信レベルを測定する2点間の離角が大きいほど、小さくなることがわかる。例えば、受信レベルのノイズが0.1[dB]であると仮定した場合、オフセット角度ρが0[°]、測定点の離角Δを5[°]の、すなわちピーク近傍でピーク角度の推定が行なわれると、式(8)より、オフセット角度ρの推定誤差Δρは、7.5[°]程度になる。
【0055】
一方、オフセット角度が45[°]、測定点の離角Δを15[°]で推定が行なわれると、式(8)より、オフセット角度ρの推定誤差Δρは、0.9[°]程度になる。また、ピーク角度からもっとも離れている測定点2における、ピークレベルからの受信レベルの降下は、式(2)より6[dB]である。したがって、衛星偏波角(衛星偏波角推定値の角度)近傍で推定を行うより高い精度で推定が行えることなる。
【0056】
つまり、偏波角制御演算部10が、偏波角駆動部6を制御してアンテナ部1を、衛星偏波角推定値の角度(0[°])と衛星偏波角推定値の角度から90[°]離れた角度とのうち、衛星偏波角推定値の角度(0[°])から90[°]離れた角度よりの角度である第1オフセット角度及び第2オフセット角度に変更し、第1オフセット角度及び第2オフセット角度における受信レベルを受信部2から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させて、衛星偏波角推定値の誤算を算出した方が、高い精度で推定が行えることなる。以上のことから、この手法は、特許文献1に記載された手法と比べ、低いC/Nで同じ精度を実現できることがわかる。
【0057】
図3は、実施の形態1に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)動作のフローチャートである。詳しくは、アンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)によるアンテナの偏波角誤差算出方法のフローチャートである。アンテナの偏波角誤差算出方法の処理ステップを説明する。実施の形態1に係るアンテナの偏波角誤差算出方法のフローは、図3に示すSTEP11〜16からなるものである。
【0058】
STEP11は、アンテナ部1により、衛星から到来する衛星到来波を受信して、その受信レベルを導出し、アンテナ部1の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、衛星の位置情報に基づき、アンテナ部1の偏波角の初期値として衛星偏波角推定値を推定するものである。STEP12は、アンテナ部1の偏波角を偏波角駆動部6により駆動し、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度に変更するものであり、STEP13は、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度における受信レベルを第1受信レベルとして導出するものである。
【0059】
STEP14は、アンテナ部1の偏波角を偏波角駆動部6により駆動し、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度に変更するものであり、STEP15は、推定された衛星偏波角推定値の角度から、第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度における受信レベルを第2受信レベルとして導出するものである。
【0060】
STEP16は、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第2オフセット角度から、第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第1オフセット角度から、第2オフセット角度の第2の誤差を算出するものである。この算出された誤差を用い、STEP17では、第1の誤差又は第2の誤差から、衛星偏波角推定値の誤差を算出する。
【0061】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2について図1、図4〜9を用いて説明する。実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における機能ブロック構成は、実施の形態1と基本的な部分は共通である(図1)。詳しくは、実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)及びアンテナの偏波角誤差算出方法において、実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)の偏波角誤差の算出前までの基本動作は、実施の形態1と同じである。
【0062】
実施の形態1では、アンテナ偏波角に対する受信レベルの変化の関係式として式(3)が完全に成立すること前提とされている。しかし、実際のアンテナ装置においては、アンテナ自体の特性や受信する衛星到来波の特性により、式(3)が成立しない場合が考えられる。この場合でも、アンテナ偏波角度に対する受信レベルの変化が、衛星偏波角度に関して、図4に示す対称性を持つこと利用して、本願発明を利用して、衛星偏波角を推定する方式について、実施の形態2として説明する。
【0063】
図4及び図5を用いて、実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)及び実施の形態2に係るアンテナの偏波角誤差算出方法を、アンテナの偏波角誤差算出に主眼をおいて、詳しく説明する。前述のとおり、それまでの説明は、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。図4は、発明の実施の形態2に係るに係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)における動作の概念を示す偏波角と受信強度の関係図である。衛星偏波角の誤差が収束していく状態を説明するために、図6〜図8も用いる。
【0064】
図4は、衛星偏波角(誤差を修正する前の「衛星偏波角推定値の角度」も含む)を0[°]として図示している。図4において、x[°]は衛星偏波角推定値の角度からのx[°]オフセットした角度、−x[°]は衛星偏波角推定値の角度からの−x[°]オフセットした角度、f(x)lは衛星偏波角推定値の角度における受信レベルであり、受信レベルのピーク値となる(誤差を補正する前の仮想のピーク値)。なお、図6〜図8における角度や測定点に関しては、図6〜図8を用いた説明の際に言及する。
【0065】
図5は、実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)動作のフローチャートである。詳しくは、アンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)によるアンテナの偏波角誤差算出方法のフローチャートである。アンテナの偏波角誤差算出方法の処理ステップを説明する。なお、図5に示すフローチャートにおいて、図3の示すフローチャートと同様の処理ステップに関しては同じ番号としている。実施の形態2に係るアンテナの偏波角誤差算出方法のフローは、図5に示すSTEP11,STEP21〜STEP25,STEP17,STEP26からなるものである。
【0066】
STEP11は、アンテナ部1により、衛星から到来する衛星到来波を受信して、その受信レベルを導出し、アンテナ部1の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、衛星の位置情報に基づき、アンテナ部1の偏波角の初期値として衛星偏波角推定値を推定するものである。
【0067】
STEP21は、アンテナ部1の偏波角を偏波角駆動部6により駆動し、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度に変更するものであり、STEP22は、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度における受信レベルを第1受信レベルとして導出するものである。
【0068】
STEP23は、アンテナ部1の偏波角を偏波角駆動部6により駆動し、推定された衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度に変更するものであり、STEP24は、推定された衛星偏波角推定値の角度から、第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度における受信レベルを第2受信レベルとして導出するものである。ここで、第1オフセット角度及び第2のオフセット角度との関係は、衛星偏波角推定値の角度から+90°離れた角度以内のオフセット量、及び、衛星偏波角推定値の角度から−90°離れた角度以内のオフセット量であり、このオフセット量の絶対値が等しいものであるとする。
【0069】
STEP25及びSTEP16は、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第2オフセット角度から、第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、第1受信レベル及び第2受信レベル並びに第1オフセット角度から、第2オフセット角度の第2の誤差を算出するものである。この算出された誤差(第1の誤差又は第2の誤差)から、衛星偏波角推定値の誤差を算出して、STEP26において、その値が後述する所定の条件を満たしておれば、終了となる。また、後述する所定の条件を満たしていない場合は、算出した誤差を反映させた衛星偏波角推定値を「第2の衛星偏波角推定値」として、STEP21へ戻る。なお、初段(第1段目の処理では、STEP26の判定を行わずに、STEP21へ戻ってもよい。)
【0070】
STEP26からSTEP21に戻った場合、前述のとおり、算出された誤差を反映させた偏波角を第2の衛星偏波角推定値とし、この第2の衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第3オフセット角度における前記受信レベルを第3受信レベルとして導出する(STEP21→STEP22)。そして、STEP23及びSTEP24を再度行って得られる第2受信レベルか、前回行ったSTEP23及びSTEP24から得られた第2受信レベルを用いて、STEP25及びSTEP16において、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、第2受信レベル及び第3受信レベル並びに第3オフセット角度から、第2オフセット角度の第3の誤差を算出、又は、第2受信レベル及び第3受信レベル並びに第2オフセット角度から、第3オフセット角度の第4の誤差を算出し、第3の誤差又は前記第4の誤差から、第2の衛星偏波角推定値の誤差を算出する。この「第2の衛星偏波角推定値」に対して、STEP26で初段で行った「衛星偏波角推定値」に対する処理を行う。以上の処理を後述する所定の条件を満たすまで行う。
【0071】
図6に実施の形態2の初段(第1段目)の動作の概念を示す。図中に示された初期地であるの衛星偏波角推定値ρとは、アンテナ方向演算部8から出力された偏波角で、方位検出手段13と姿勢検出手段14の誤差を含むものとする。偏波角駆動部6は、初期の衛星偏波角推定値ρからΔだけオフセットした方向に偏波角を駆動し、受信レベルの測定を行ないその値をlとする(第1受信レベル)。次に、初期の衛星偏波角推定値ρから−Δだけオフセットした方向にアンテナを駆動し、受信レベルの測定を行ないその値をlとする(第2受信レベル)。この際、測定点1と測定点2とが衛星偏波角の真値に対し、0[°]を境界とした場合、同じ側にならないようにΔの大きさを選ぶ必要がある。このとき次の関係式が成り立つ。以下の式(9)と式(10)をτについて解くことで、衛星偏波角推定誤差τを求めることができる。なお、式(9)及び式(10)の右辺の係数「20」は、一例であり、各種条件によって変化する。
【0072】
【数10】

【0073】
【数11】

【0074】
しかし、偏波角の回転に対する受信強度の変化の関係式として、式(3)に完全に一致しているわけではないので、前記で求められたτは誤差を含んでいる。そこで、式(11)に示すとおり、τに1より小さい正の値をもつ制御ゲインωを乗じたものを初期に衛星偏波角度推定値ρに加算して、新たな衛星偏波角度推定値ρ(第2の衛星偏波角度推定値)を得る。
【0075】
【数12】

【0076】
図7に実施の形態2に係るアンテナ偏波角制御装置及びアンテナの偏波角誤差算出方法における第2段目の動作の概念を示す。偏波角駆動部6は衛星偏波角度推定値ρからΔだけオフセットした偏波角度を駆動し(測定点3)、受信強度の測定を行ない、その値をlとする(第3受信レベル)。このとき次の関係が成り立つ。なお、第2段目では、第2受信レベルlを第4受信レベルと称して第1段目の処理と区別する。
【0077】
【数13】

【0078】
【数14】

【0079】
式(12)と式(13)とをτについて解くことで、現在の衛星偏波角推定の誤差を求めることができ、式(11)と同じく、新たな衛星偏波角推定値ρ(第3の衛星偏波角推定値)が式(14)により求まる。
【0080】
【数15】

【0081】
図8に実施の形態2に係るアンテナ偏波角制御装置及びアンテナの偏波角誤差算出方法における第3段目の動作の概念を示す。偏波角駆動部6は衛星偏波角度推定値ρから−Δだけオフセットした偏波角度を駆動し(測定点4)、受信強度の測定を行ない、その値をlとする(第6受信レベル)。このとき次の関係が成り立つ。なお、第3段目では、第3受信レベルlを第5受信レベルと称して第2段目の処理と区別する。
【0082】
【数16】

【0083】
【数17】

【0084】
式(15)と式(16)をτについて解くことで、現在の衛星偏波角度推定誤差を求めることができ、式(11)と同じく、新たな衛星偏波角度推定値ρ(第4の衛星偏波角推定値)が式(17)により求まる。
【0085】
【数18】

【0086】
上記の動作を繰り返すことにより、衛星偏波角度推定値は真の衛星偏波角度に漸近してゆく。偏波角制御(偏波角誤差算出)の終了は、STEP26の説明で述べた「所定の条件」を判定基準とする。この「所定の条件」を列記する。衛星偏波角推定値が十分精度良く求まったことを条件として判定される。例えば、所定の回数だけ推定値算出が行なわれたかや、推定値算出毎に算出される衛星偏波角度推定誤差が所定の閾値に以内になったこと、などを終了条件(所定の条件)とすることができる。
【0087】
次に、シミュレーションの結果から、実施の形態2に係るアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)及びアンテナの偏波角誤差算出方法が成立していることを説明する。図9は、アンテナ偏波角度回転に対する受信レベルとの関係式が式(3)とは異なり、式(18)の関係を持つときに、実施の形態2を適用した場合の、受信強度最大方向推定値の変化を示したものである。式(18)の右辺の係数「15」は、一例であり、各種条件によって変化する。
【0088】
【数19】

【0089】
式(18)は実際のアンテナで取得したパターンを元にしたものである。パラメータは以下の値を使用している。
・初期の衛星偏波角推定値の誤差
ケース1 10[°]
ケース2 −10[°]
ケース3 30[°]
・制御ゲイン 0.8
・衛星偏波角の真値 0[°]
【0090】
図9のアンテナの偏波角制御装置(アンテナ追尾装置)及びアンテナの偏波角誤差算出方法における処理を示すシミュレーション結果のグラフから、いずれのケースも数回の推定で衛星偏波角度推定値が、衛星偏波角の真値である、0[°]に、ほぼ収束していることがわかる。
【符号の説明】
【0091】
1・・アンテナ部、2・・受信部、3・・RF部、4・・追尾受信部、5・・指向方向駆動部、6・・偏波角駆動部、7・・アンテナ姿勢制御部、8・・アンテナ方向演算部、9・・指向制御演算部、10・・偏波角制御演算部、11・・衛星方向演算部、12・・位置検出手段、13・・方位検出手段、14・・姿勢検出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ部により、衛星から到来する衛星到来波を受信して、その受信レベルを導出する受信ステップと、前記アンテナ部の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、前記衛星の位置情報に基づき、前記アンテナ部の偏波角の初期値として衛星偏波角推定値を推定する推定ステップと、推定された前記衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度における前記受信レベルを第1受信レベルとして導出する第1受信レベル導出ステップと、推定された前記衛星偏波角推定値の角度から、前記第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度における前記受信レベルを第2受信レベルとして導出する第2受信レベル導出ステップと、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第1オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第2の誤差を算出するオフセット角度誤差導出ステップと、前記第1の誤差又は前記第2の誤差から、前記衛星偏波角推定値の誤差を算出する衛星偏波角推定値誤差導出ステップとを備えたアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項2】
前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップは、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項1に記載のアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項3】
前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップは、前記衛星偏波角推定値の角度と前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度とのうち、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度よりの角度である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項2に記載のアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項4】
前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップは、それぞれ、前記衛星偏波角推定値の角度から+90°離れた角度以内のオフセット量、及び、前記衛星偏波角推定値の角度から−90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項1に記載のアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項5】
前記第1受信レベル導出ステップ及び前記第2受信レベル導出ステップは、前記衛星偏波角推定値の角度からのオフセット量の絶対値が等しい前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベルを導出するものである請求項4に記載のアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項6】
前記衛星偏波角推定値誤差導出ステップにより算出された誤差を反映させた偏波角を第2の衛星偏波角推定値とし、この第2の衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第3オフセット角度における前記受信レベルを第3受信レベルとして導出する第3受信レベル導出ステップと、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第3オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第3の誤差を算出、又は、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第3オフセット角度の第4の誤差を算出する第2のオフセット角度誤差導出ステップと、前記第3の誤差又は前記第4の誤差から、前記第2の衛星偏波角推定値の誤差を算出する第2の衛星偏波角推定値誤差導出ステップとを備えた請求項5に記載のアンテナの偏波角誤差算出方法。
【請求項7】
衛星からの衛星到来波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部が受信した衛星到来波の受信レベルを測定し出力する受信部と、前記アンテナ部を指向方向に駆動させる指向方向駆動部と、前記アンテナ部を駆動させて偏波角を変更する偏波角駆動部と、前記アンテナ部の方位角情報及び仰角情報並び位置情報、前記衛星の位置情報から、前記アンテナ部の指向方向と偏波角の推定値である衛星偏波角推定値とを算出し、この算出結果に基づき、前記指向方向駆動部及び前記偏波角駆動部を制御してアンテナ部の方向を決定するアンテナ姿勢制御部と、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第1オフセット角度に変更させ、前記第1オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベルとして出力させ、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記衛星偏波角推定値の角度から、前記第1の所定角度と異なる第2の所定角度だけ離れた第2オフセット角度に変更させ、前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第2受信レベルとして出力させて、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度の第1の誤差を算出、又は、前記第1受信レベル及び前記第2受信レベル並びに前記第1オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第2の誤差を算出する偏波角制御演算部とを備え、前記偏波角制御演算部は、前記第1の誤差又は前記第2の誤差に基づいて、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を調整するアンテナの偏波角制御装置。
【請求項8】
前記偏波角制御演算部は、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項7に記載のアンテナの偏波角制御装置。
【請求項9】
前記偏波角制御演算部は、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を、前記衛星偏波角推定値の角度と前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度とのうち、前記衛星偏波角推定値の角度から90°離れた角度よりの角度である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項8に記載のアンテナの偏波角制御装置。
【請求項10】
前記偏波角制御演算部は、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部を、それぞれ、前記衛星偏波角推定値の角度から+90°離れた角度以内のオフセット量、及び、前記衛星偏波角推定値の角度から−90°離れた角度以内のオフセット量である前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度に変更し、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項7に記載のアンテナの偏波角制御装置。
【請求項11】
前記偏波角制御演算部は、前記衛星偏波角推定値の角度からのオフセット量の絶対値が等しい前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度から、前記第1オフセット角度及び前記第2オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第1受信レベル及び第2受信レベルとして出力させるものである請求項10に記載のアンテナの偏波角制御装置。
【請求項12】
前記偏波角制御演算部は、前記第1の誤差又は第2の誤差から算出した誤差を前記衛星偏波角推定値に反映させて偏波角を第2の衛星偏波角推定値とし、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を前記第2の衛星偏波角推定値の角度から第1の所定角度だけ離れた第3オフセット角度に変更させ、前記第3オフセット角度における前記受信レベルを前記受信部から第3受信レベルとして出力させて、衛星到来波の偏波角からのオフセット量に応じた衛星到来波の受信レベルの降下に基づき、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第3オフセット角度から、前記第2オフセット角度の第3の誤差を算出、又は、前記第2受信レベル及び前記第3受信レベル並びに前記第2オフセット角度から、前記第3オフセット角度の第4の誤差を算出し、前記第1の誤差又は前記第2の誤差から算出された前記第3の誤差又は前記第4の誤差に基づいて、前記偏波角駆動部を制御して前記アンテナ部の偏波角を調整するものである請求項11に記載のアンテナの偏波角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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