説明

アンテナ装置

【課題】アンテナ装置運用時の性能劣化を低減すること。
【解決手段】本実施形態に係るアンテナ装置は、平面上に配列した複数のアンテナ素子101と、上記平面と平行な線上に実装した複数の傾斜センサ102と、傾斜センサ102の検出情報をもとに上記平面の湾曲状態を示すデータを計算する湾曲状態計算部13と、アンテナ素子101による受信信号を上記湾曲状態に基づいて補正する信号処理部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数のアンテナ素子を配列したアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、アンテナ装置が湾曲・変形した場合には、アンテナ装置としての性能が劣化する。特にフェーズドアレイアンテナにおいては、各アンテナ素子から送受信されるRF信号の位相が不適切となり、形成される電波指向性パターンの特性が劣化する。この劣化を低減するためには、アンテナ装置の湾曲・変形の状態を検出し、適切な位相設定量を算出する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3081997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来では、アンテナ装置運用時に湾曲・変形の状態が連続的に変化した際の検出を行うことができず、上記状態での性能劣化を回避することができなかった。
【0005】
本実施形態の目的は、アンテナ装置運用時の性能劣化を低減することができるアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るアンテナ装置は、平面上に配列した複数のアンテナ素子と、前記平面と平行な線上に実装した複数の傾斜センサと、前記傾斜センサの検出情報をもとに前記平面の湾曲状態を示すデータを計算する計算手段と、前記アンテナ素子による受信信号を前記湾曲状態に基づいて補正する補正手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態に係るアンテナ装置の構成を示すブロック図。
【図2】アンテナ部の構成例を示す図。
【図3】図2のアンテナ部が湾曲した状態を示す図。
【図4】位相設定量の計算手順を示すフローチャート。
【図5】角度関係を示す図。
【図6】本実施形態に係るアンテナ装置の電波指向性を示す図。
【図7】アンテナ部の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るアンテナ装置を説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置の構成を示すブロック図である。このアンテナ装置は、複数のアンテナ素子101及び複数の傾斜センサ102を実装するアンテナ部10、各アンテナ素子101に接続される複数の送受信機11、信号処理部12、並びに湾曲状態計算部13を備える。各送受信機11は、アンテナ素子101による受信信号の位相を制御する移相器を備える。信号処理部12は、受信信号に対して信号処理を施すことにより電波指向性の制御などを行う。
【0010】
図2は、アンテナ部10の実施例1を示したものである。図2のように直方体a1a2a3a4c1c2c3c4で表される線分a1c1方向に対し薄いフェーズドアレイアンテナを想定する。面a1a2a3a4側の表面に複数のアンテナ素子101が実装されており、当面から電波の送信もしくは受信を行う。
【0011】
例えば、当フェーズドアレイアンテナは図3のように湾曲するものとする。湾曲する方向が面a1a2c2c1と曲面b1b2b3b4とが常に直角をなすように当フェーズドアレイアンテナの構造がなっている。なお、湾曲した際に曲面b1b2b3b4は当曲面上の全ての線において曲面上の長さは変化しない、つまり湾曲はしても伸び縮みしない構造となっている、もしくはそのような平面を想定する。また、湾曲していない状態での直方体a1a2a3a4c1c2c3c4内における面b1b2b3b4に直角な全ての線分は、湾曲後も面b1b2b3b4に対し直角となる構造となっている。
【0012】
また、曲面b1b2b3b4上、なおかつ図2の状態における面a1a2c2c1と平行な線s0s7上に等間隔に傾斜センサ102がs0〜s6に7個取付けられている。傾斜センサ102は、垂直方向を基準とした取付けられた面の法線方向を検出できるセンサである。例えば、傾斜センサ102は面a1a2a3a4側を正とする法線を単位ベクトル(以降法線ベクトル)として出力する。
【0013】
次に、このように構成されたアンテナ装置の動作について説明する。
【0014】
フェーズドアレイアンテナが上記構成条件のもと図3のように湾曲した場合、フェーズドアレイアンテナの湾曲状態は、曲線s0s7の形状により一意的に特定できる。また、曲線s0s7は、隣り合う傾斜センサ間の曲線s0s1,s2s3,s2s3,s3s4,s4s5,s5s6それぞれの曲線の形状により特定できる。更に曲線s0s1,s1s2,s2s3,s3s4,s4s5,s5s6の形状は、それぞれの曲線の長さが、その曲線内の全ての点における曲率半径に対し十分に小さいとき、曲率半径のみで一意的に近似として特定することができる。
【0015】
図4は、位相設定量の計算手順を示すフローチャートである。図5は、この計算を説明するための角度関係を示す図である。図5に示すように、曲線s0s1の曲率半径r01は、傾斜センサs0と傾斜センサs1により検出された2つの法線ベクトルがなす角度θ01[rad]を用いて計算することができる。
【0016】
図4において、傾斜センサs0と傾斜センサs1との差分を計算し(ステップ401)、に曲線s0s1の長さをL01とすると、曲率半径r01は次式のように計算できる(ステップ402)。
r01=L01/θ01
曲線s1s2,s2s3,s3s4,s4s5,s5s6における曲率半径も同様にして算出できることから、上記方法により、フェーズドアレイアンテナの湾曲状態を近似的に特定することができる。
【0017】
次に、上記特定された湾曲状態に基づいてアンテナ素子101それぞれの基準座標を計算する(ステップ403)。各アンテナ素子101の基準座標をもとに各送信機11の移相器に対する位相設定量を計算する(ステップ404)。
【0018】
フェーズドアレイアンテナは、内蔵する移相器に対し適切な位相設定量を設定し、所望の電波指向性パターン形状を形成しようとする機能を有している。上記適切な位相設定量の計算には、複数有するアンテナ素子それぞれの基準座標の情報が必要となる。上記方法により、たとえフェーズドアレイアンテナが湾曲している状態でも、フェーズドアレイアンテナの湾曲状態は特定できることから、アンテナ素子それぞれの基準座標も特定できることができ、一般的なフェーズドアレイアンテナの特性の範囲において所望の電波指向性パターン形状を形成することが可能となる。
【0019】
図6は、本実施形態に係るアンテナ装置の電波指向性を示したもので、横軸に角度[°]、縦軸に振幅[dB]を示す。図6(a)には補正なしの場合、図6(b)には補正ありの場合を示す。図6(a)、図6(b)ともに0°方向にメインローブを形成しているが、図6(a)で発生していたメインローブの肩の形状が図6(b)では無くなり、電波指向性が改善されていることがわかる。
【0020】
なお、湾曲状態が特定できる状態では、7個の傾斜センサのうちどれか1つの傾斜情報を用いれば、フェーズドアレイアンテナ全体の絶対的な傾斜状態も特定できる。これにより、たとえフェーズドアレイアンテナが回転した場合においても、フェーズドアレイアンテナ外部からの情報を必要とすることなく、一般的なフェーズドアレイアンテナの特性の範囲において所望な方向へ電波指向性パターンを形成することが可能となる。
【0021】
上記効果は、傾斜センサでの法線ベクトルの検出と、検出された情報から移相器への位相設定量の設定を行うまでの処理を繰り返し行うことにより、フェーズドアレイアンテナの湾曲形状が連続的に変化しても、当変化を追従する形で随時一般的なフェーズドアレイアンテナの特性の範囲において所望な電波指向性パターンを形状および方向ともに形成することが可能となる。
【0022】
(変形例)
さらに、本実施形態について、次のような変形例が考えられる。図7にアンテナ部10の変形例を示す。図7では、曲面b1b2b3b4上、なおかつ図2の状態における面a1a2c2c1と平行な4本の線s00〜s05、s10〜s14、s20〜s25、s30〜s34上に等間隔に傾斜センサ102を取り付ける。このように取り付けられた傾斜センサ102の検出情報をもとに、上記実施形態と同様の動作を行う。
【0023】
図7のように構成することで、上記実施形態では、図1に示したように湾曲する方向を1方向に限定していたが、変形例によればこの条件を緩和し、湾曲する方向を任意のものとすることができる。すなわち、上記のように構成を緩和した状態で、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0024】
なお、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
10…アンテナ部、101…アンテナ素子、102…傾斜センサ、11…送受信機、12…信号処理部、13…湾曲状態計算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に配列した複数のアンテナ素子と、
前記平面と平行な線上に実装した複数の傾斜センサと、
前記傾斜センサの検出情報をもとに前記平面の湾曲状態を示すデータを計算する計算手段と、
前記アンテナ素子による受信信号を前記湾曲状態に基づいて補正する補正手段と
を具備することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記傾斜センサの検出情報から特定される前記平面全体の傾斜状態に基づいて前記アンテナ素子により形成される電波指向性パターンのビーム方向を補正することをさらに特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ素子による受信信号の位相を制御する複数の移相器をさらに具備し、
前記補正手段は、前記湾曲状態に基づいて前記移相器の移相設定量を補正することを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記計算手段及び前記補正手段を繰り返し行うことにより前記平面の湾曲状態の変化を追従することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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