説明

アントラピリドン色素又はその塩、及びそれを含有するインク組成物

【課題】記録物の耐光及び耐オゾンガス性などの堅牢度が強いマゼンタの水性インク組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩を含有するインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアントラピリドン色素又はその塩、それを含有するインクジェット記録用のインク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、及びそれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法において、インクの各種吐出方式が開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材(紙、フィルム、布帛等)に付着させて記録を行うものである。これは、記録ヘッドと被記録材とが接触しない為、音の発生がなく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。
従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水溶性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求され、また形成される画像には、耐水性、耐光性、耐湿性等の各種堅牢度が求められている。
【0003】
一方、コンピューターのカラーディスプレー上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラーで記録するには、一般にはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色で表現される。CRTディスプレー等のレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出きるだけ忠実に再現するには、できるだけY、M、Cのそれぞれが、それぞれの標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。又インク組成物は長期の保存に対し安定であり、記録画像の濃度が高く、しかも耐水性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れていることが求められている。
【0004】
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタにまで拡大されてきており、耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度がこれまで以上に求められている。
耐水性ついては多孔質シリカ、カチオン系ポリマー、アルミナゾル又は特殊セラミック等インク中の色素を吸着し得る無機微粒子をPVA樹脂等とともに紙の表面にコーティングすることにより、大幅に改良されてきているが、未だ満足できる状況には無い。
耐湿性とは着色された被記録材を高湿度の雰囲気下に保存した際に被記録材中の色素が滲んでくるという現象に対する耐性のことである。色素の滲みがあると、特に写真調の高精細な画質を求められる画像においては著しく画像品位が低下するため、できるだけこの様な滲みを少なくする事が重要な課題である。
耐光性については大幅に改良する技術は未だ確立されておらず、特にY、M、C、Kの4原色のうちマゼンタの色素はもともと耐光性が弱いものが多く、その改良が課題とされている。又、最近のデジタルカメラの浸透と共に家庭でも写真をプリントする機会が増しており、得られたプリント物を保管する時に、空気中の酸化性ガスによる画像の変色も問題視されている。その酸化ガスは、記録紙上又は記録紙中で染料と反応し、印刷された画像を変退色させる。酸化性ガスの中でも、オゾンガスはインクジェット記録画像の退色現象を促進させる原因物質とされている。この変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上も課題の1つである。
【0005】
インクジェット記録用の水系インクに用いられるマゼンタ色素としては、特許文献1乃至3等に開示されたキサンテン系と、特許文献4乃至8等に開示されたH酸を分子内に有するアゾ系が代表的である。
しかしキサンテン系については色相及び鮮明性は非常に優れているが、一般に耐光性が非常に劣ることが知られている。またH酸を分子内に有するアゾ系については色相及び耐水性は良いものがあるが、一般に耐光性及び鮮明性が劣ることが知られている。一方、特許文献6に開示された鮮明性及び耐光性の優れたマゼンタ染料も開発されているが、銅フタロシアニン系に代表されるシアン染料やイエロー染料など他の色相の染料に比べ耐光性は依然劣る水準である。また光沢紙へ記録した画像の、風通しの良好な場所等で生じる変色、退色も問題となっている。
【0006】
さらに鮮明性及び耐光性の優れるマゼンタ色素としては特許文献9及び10、さらには特許文献11等に開示されたアントラピリドン系があるが、色相、鮮明性、耐光性、耐水性、および耐オゾンガス性、溶解安定性のすべてについて満足する水準にあるものは未だ得られていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭54−89811号
【特許文献2】特開平8−60053号
【特許文献3】特開平8−143798号
【特許文献4】特開昭61−62562号
【特許文献5】特開昭62−156168号
【特許文献6】特開平3−203970号
【特許文献7】特開平7−157698号
【特許文献8】特公平7−78190号
【特許文献9】特開昭59−74173号
【特許文献10】特開平2−16171号
【特許文献11】特開2002−332418号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐光及び耐オゾンガス性などの堅牢度に優れたマゼンタの水性インク組成物、及び該インク組成物に適するマゼンタ色素を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、特定の下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩、及びこれを含有するインク組成物が、前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち本発明は、
1)
下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩を含有するインク組成物、
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、nは平均値で5.0以上6.0以下を表す。]、
2)
式(1)におけるnが、平均値で5.0以上5.5以下で表されるアントラピリドン色素又はその塩を含有する上記1)に記載のインク組成物、
3)
水溶性有機溶剤をさらに含有する上記1)又は2)に記載のインク組成物、
4)
インクジェット記録に用いる上記1)乃至3)に記載のインク組成物、
5)
上記1)乃至3)のいずれか一項に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に記録を行うインクジェット記録方法、
6)
被記録材が情報伝達用シートである上記5)に記載のインクジェット記録方法、
7)
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである上記6)に記載のインクジェット記録方法、
8)
上記1)乃至3)のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体、
9)
着色がインクジェットプリンタによりなされた上記8)に記載の着色体、
10)
下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩、
【0012】
【化1】

【0013】
[式(1)中、nは平均値で5.0以上6.0以下を表す。]、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインク組成物をインクとして用いた記録画像は、インクジェット記録紙上で非常に鮮明性、明度の高い色相である。又、該記録画像は被記録材(紙、フィルム等)を選択することなく理想的なマゼンタの色相である。更に本発明のインク組成物は、写真調のカラー画像の色相を紙の上に忠実に再現させることも可能である。更に写真画質用インクジェット専用紙(フィルム)のような無機微粒子を表面に塗工した被記録材に記録しても、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性等の各種堅牢性、特に耐オゾンガス性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性に優れている。又、本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。
一方、本発明の上記式(1)で表される色素又はその塩は水溶解性に優れ、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有する。従って、上記式(1)で表される本発明のアントラピリドン色素又はその塩、及びこれを含有する本発明のインク組成物は、インクジェット記録用途に極めて好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する。なお、特に断りの無い限り、以下の本明細書においては煩雑さを避けるため、「本発明のアントラピリドン色素又はその塩」の両者を含めて、「本発明のアントラピリドン色素」と簡略して記載する。
本発明のインク組成物は、上記式(1)で表される本発明のアントラピリドン色素を含有することを特徴とする水系インク組成物である。上記式(1)において、nは平均値で5.0以上6.0以下を表す。
換言すると本発明の上記式(1)で表されるアントラピリドン色素は、下記式(5)において、n’が5又は6で表される単一の色素;又は、n’が5乃至8、好ましくは5乃至7、より好ましくは5又は6で表されるそれぞれ単一の色素の、上記の平均値で表される範囲内において任意の割合で混合された混合色素;であるが、実質的にn’が1乃至4で表される色素を含有しない。
【0016】
【化5】

【0017】
[式(5)中、n’は5乃至8の整数を表す。]。
【0018】
上記式(1)におけるnは、いずれも平均値で通常5.0以上6.0、好ましくは5.0以上5.5以下、より好ましくは5.0以上5.3以下である。この構成とすることにより、耐オゾンガス性に優れるという本発明の効果が得られる。
【0019】
上記式(1)における、平均値であるnは、LC/MSの測定結果から計算により求めることができる。1例として、仮に上記式(1)で表される色素AをLC/MS測定した結果、以下の分析値が得られたと仮定した場合の計算方法を記載する。即ち色素Aが、n’がzで表され且つそのLCにおける面積比がZである単一の色素と、n’がyで表され且つそのLCにおける面積比がYである単一の色素との、2つの色素の混合物であった場合の平均値nの計算方法である。

色素AのLC/MS測定の結果:
検出ピーク LC面積比(%) n’
ピーク1 Z z
ピーク2 Y y

平均値nの計算式:
上記色素Aのnは、以下の計算式により算出する。
[(zxZ)+(yxY)]/(Z+Y)=n

なお、算出されたnは、その小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁とした値を記載する。
【0020】
上記式(1)で表されるアントラピリドン色素は、例えば次のようにして得ることができる。即ち、公知の合成方法にて得られる下記式(2)で表される化合物を、特許文献11に記載の方法に従って下記式(3)で表される化合物へ誘導する。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
得られた上記式(3)で表される化合物を、5%〜30%発煙硫酸中、110℃〜150℃にて、15分〜10時間でスルホ化を行うことにより、上記式(1)で表される本発明のアントラピリドン色素が得られる。
【0024】
前記式(1)で表されるアントラピリドン色素の塩は、無機又は有機陽イオンとの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンとしては例えば下記式(4)で表される4級アンモニウムがあげられるがこれらに限定されるものではない。また遊離酸、及びそれらの各種の塩が混合物であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩の混合物、遊離酸とナトリウム塩の混合物、リチウム塩、ナトリウム塩およびアンモニウム塩の混合物など、いずれの組み合わせを用いても良い。塩の種類によって溶解性などの物性値が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択したり、複数の塩などを含む場合にはその比率を変化させることにより目的に適う物性を有する混合物を得ることもできる。
【0025】
【化4】

【0026】
上記式(4)中、Z1〜Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わし、少なくとも1つは水素原子以外の基である。
【0027】
上記式(4)のZ1〜Z4におけるアルキル基の例としてはメチル、エチル等があげられ、ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等があげられ、更にヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等が挙げられる。
【0028】
好ましい塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの各塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。より好ましいものは、リチウム、ナトリウム及びアンモニウム塩である。
【0029】
本発明のインク組成物は、前記式(1)で表されるアントラピリドン色素を水及び必要に応じて水溶性有機溶剤(水との混和可能な有機溶剤)との混合溶媒等の水性媒体に溶解し、さらに必要に応じインク調製剤を添加したものである。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、不純物として含有する金属陽イオンの塩化物、例えば塩化ナトリウム;硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム;等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。この場合、例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量は、本発明の水溶性アゾ化合物の総質量中に1質量%以下程度であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0質量%でもよい。無機不純物の少ない該色素を製造するには、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法又は本発明の色素の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノールなどのアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌して懸濁精製し、固体を濾過分取し、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0030】
本発明のインク組成物は、本発明のアントラピリドン色素を、通常0.1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは2〜10質量%含有する。
本発明のインク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等としての機能を有する場合もあり、本発明のインク組成物中には含有する方が好ましい。その他のインク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、乳化安定剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤、及び分散安定剤等の公知の添加剤が挙げられる。水溶性有機溶剤の含有量はインク組成物の総質量に対して0〜60質量%、好ましくは10〜50質量%であり、インク調製剤は同様に0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%用いるのが良い。上記以外の残部は水である。
【0031】
本発明で使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,2−または1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコールまたはチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;γーブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。
【0032】
上記の水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジまたはトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンおよびブチルカルビトールであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0033】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤として無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム、さらにはアベシア社製、商品名:プロクセルGXL(S)、プロクセルXL−2(S)等が挙げられる。
【0034】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを7.5〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0035】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0036】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化されたベンゾフェノン、スルホン化されたベンゾトリアゾール等が挙げられる。
水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0037】
界面活性剤としては、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等がある。
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体等がある。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレンアルコール系等、さらに日信化学社製、商品名:サーフィノール104E、104PG50、82、465、オルフィンSTG等が挙げられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0038】
本発明の水性インク組成物は、上記式(1)で表される色素を水又は上記水性媒体(水溶性有機溶剤を含有する水)に上記インク調製剤等と共に溶解させることによって製造できる。
【0039】
上記製造法において、各成分を溶解させる順序には特に制限はない。あらかじめ水又は上記水溶性有機溶剤に本発明の化合物を溶解させ、インク調製剤を添加してもよいし、該化合物を水に溶解させたのち、水溶性有機溶剤、インク調製剤を添加してもよい。またこれと順序が異なっていてもよい。インク組成物の調製に使用する水はイオン交換水又は蒸留水等の不純物の少ないものが好ましい。又、必要に応じメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、本発明のインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合には精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1ミクロン〜0.1ミクロン、好ましくは0.8ミクロン〜0.1ミクロンである。
【0040】
本発明の着色体とは、本発明のアントラピリドン化合物、又は該化合物を含有する本発明のインク組成物で着色された物質である。着色される物質には特に制限はなく、例えば紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられるがこれらに限定されない。着色法としては例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェットプリンタによる方法等が挙げられるが、インクジェットプリンタによる方法が好ましい。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法を適用しうる被記録材(メディア)としては、例えば、紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維及び皮革等が挙げられ、情報伝達用シートが好ましい。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的にはこれを基材としてインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオンポリマーを含浸あるいは塗工すること;又は、多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等、インク中の色素を吸着し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニールピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工すること;等により設けられる。このようなインク受容層を設けたものは、通常インクジェット専用紙(フィルム)や光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えば、旭硝子社製、商品名ピクトリコ;キャノン社製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー;エプソン(株)製、商品名クリスピア、写真用紙(光沢)、フォトマット紙、スーパーファイン専用光沢フィルム;日本ヒューレットパッカード(株)製、商品名アドバンスフォトペーパー、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙;コニカ(株)製、商品名フォトライクQP;等がある。なお、普通紙も当然使用できる。
【0042】
これらのうち、多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録した画像のオゾンガスによる変退色は、特に大きくなることが知られているが、本発明の水性マゼンタインク組成物はオゾンガスを含めたガス耐性が優れているため、このような被記録材への記録の際にも効果を発揮する。
このような目的で使用される多孔性白色無機物としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられる。
【0043】
被記録材に本発明のインクジェット記録方法で記録するには、例えば本発明のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置に装填し、通常の方法で被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法では、本発明のマゼンタのみならず、イエロー、シアン、グリーン、オレンジ、ブルー(又はバイオレット)及び必要に応じてブラック等各色のインク組成物を併用しうる。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、これらの容器を、本発明の水性マゼンタインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定位置に装填して使用される。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生じる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等のプリンタが挙げられ、いずれの方式でも使用できる。
【0044】
本発明のインク組成物は、鮮明なマゼンタ色であり、特にインクジェット光沢紙において高い鮮明な色相を有し、記録画像の堅牢性も高い。又、人に対する安全性も高い。
【0045】
本発明のインク組成物は、貯蔵中に沈殿、分離することがない。また、本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は連続式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り重量基準である。又、合成反応、晶析等の各操作は、いずれも特に断りの無い限り攪拌下に行った。
また、各実施例及び比較例で得た色素は、いずれもLC/MS測定を行い、その結果から上記の計算式により平均値nを算出した。LC/MSの測定条件は以下の通りである。

LC/MSの測定条件:
測定機器:LC;HP1100(Agilent社製)
MS;LCT(Micromass社製)
Column :YMC−Pack ODS−A 3.0ID×150nm
Column Temp.:40℃
Mobile Phase: A液=5mM AcONH4水溶液
B液=CH3CN
Gradient:
Bconc. 5%−(30min)−50%−(10min)−70%
Total Flow :0.25ml/min
Detector:PDA 220〜900nm
Tof MS(Micromass LCT)
【0047】
実施例1
(1)
キシレン210部中に、公知の方法で得られる下記式(2)で表される化合物67.5部、炭酸ナトリウム1.4部、エチルベンゾイルアセテート67.2部を順次加え、140〜143℃の温度に加熱して、同温度で4時間反応を行った。その間、生成する水及びエタノールをキシレンと共に反応系外へ留去した。反応完結後、水冷し、メタノール175部を加えて30分間撹拌後、析出固体を濾過分離し、メタノール400部、次いで温水にて順次洗浄し、乾燥することにより、下記式(3)で表される化合物76.1部を赤色針状結晶として得た。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
(2)
96.0%硫酸211.5部中に氷水にて冷却しながら、31.9%発煙硫酸268.5部を加え、10%発煙硫酸480部を調製した。次いで室温にて、実施例1(1)で得られた式(3)で表される化合物61.0部を20〜40℃にて、30分で添加した。この液を110℃に加熱し、同温度にて30分間スルホ化反応を行った。
氷水中に上記の反応液を加え、氷及び水で総液量を1000部に調整した。得られた液を濾過して不溶解物を除去し、得られた母液に塩化ナトリウム200部を加えて1時間撹拌した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液50部で洗浄し、ウェットケーキを得た。
(3)
実施例1(2)で得られたウェットケーキを水に加えて溶解し、総液量を1400部に調整した。この液に塩化ナトリウム200部を加えて3時間撹拌し、析出固体を濾過分離し、次いで20%塩化ナトリウム水溶液140部で洗浄し、ウェットケーキ120部を得た。得られたウェットケーキをエタノール800部及び水80部に加えて70℃に加熱し、同温度で20分攪拌した後、析出した無機塩を濾過分離して除去した。得られた母液を氷冷し、3℃にて30分攪拌後、析出固体を濾過分離し、乾燥することにより、上記式(1)において、nが5.0で表される本発明の色素のナトリウム塩60.0部を明赤色固体として得た。
λmax=529.5nm(水溶液中)、水に対する溶解度:100g/L以上。
なお、得られた色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=5が92%、n’=6が2%である色素の混合物であった。
【0051】
実施例2
実施例1(1)及び(2)と同様にして得たウェットケーキを水600部に加え、28%アンモニア水溶液でpH8.5に調整して溶液を得た。得られた溶液に濃塩酸を加えてpH1.0に調整後、塩化アンモニウム120部を加えて室温にて10時間攪拌した。析出固体を濾過分離し、ウェットケーキ95部を得た。
得られたウェットケーキをエタノール800部及び水80部に加えて70℃に加熱し、同温度で30分攪拌した後、析出した無機塩を濾過分離して除去した。得られた母液を10℃に冷却し、15分間攪拌して析出した固体を濾過分離し、乾燥することにより、上記式(1)において、nが5.0で表される本発明の色素のアンモニウム塩54.0部を明赤色固体として得た。
λmax=528.0nm(水溶液中)、水に対する溶解度:100g/L以上。
なお、得られた色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=5が92%、n’=6が2%である色素の混合物であった。
【0052】
実施例3
氷水にて冷却しながら、96.0%硫酸19部に31.9%発煙硫酸29.0部を加え、12%発煙硫酸48部を調製した。次いで室温にて、実施例1(1)と同様にして得られた式(3)の化合物6.1部を30〜40℃にて、30分で添加した。この液を115℃に加熱し、同温度で1.5時間、スルホ化反応を行った。
得られた反応液を氷水中に加え、氷及び水をさらに加えて総液量を100部に調整した。得られた液を濾過して不溶解物を除去し、母液に塩化ナトリウム200部を加えて8時間撹拌した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液50部で洗浄し、ウェットケーキを得た。
得られたウェットケーキを水に加え、総液量を100部に調整して溶液とした。この溶液に塩化ナトリウム20部を加えて5時間撹拌し、析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液50部で洗浄し、ウェットケーキ24部を得た。得られたウェットケーキをエタノール150部に加えて70℃に加熱し、同温度で30分攪拌した。この液を5℃に冷却した後、同温度で1時間攪拌し、析出した無機物を濾過分離して除去した。母液をロータリーエバポレーターにて濃縮し、油状物を得た。得られた油状物をアセトン300部中に加えることにより析出した固体を濾過分離し、乾燥することにより、上記式(1)におけるnが5.3で表される本発明の色素のナトリウム塩2.5部を明赤色固体として得た。
λmax=527.5nm(水溶液中)、水に対する溶解度:100g/L以上。
なお、得られた色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=5が58%、n’=6が31%である色素の混合物であった。
【0053】
比較例1
(1)
氷水にて冷却しながら96%硫酸34.6部に31.9%発煙硫酸37.4部を加え、8%発煙硫酸72部を調製し、室温にて実施例1(1)と同様にして得られた式(3)の化合物9.2部を30〜40℃にて、30分で加えた。次いでこの液を47〜53℃に加熱し、同温度にて3.5時間、スルホ化反応を行った。この反応液を氷水中に加え、氷及び水で総液量を150部に調整した。得られた液を濾過して不溶解物を除去し、母液に塩化ナトリウム30部を加えて1時間攪拌した。析出固体を濾過分離し、20%塩化ナトリウム水溶液30部で洗浄し、ウェットケーキを得た。
(2)
比較例1(1)で得られたウェットケーキをエタノール300部に加え、60℃に加熱した後、30分間攪拌し、次いで5℃に冷却後、析出固体を濾過分離してウェットケーキ16部を得た。得られたウェットケーキを乾燥して得た乾燥固体11部をエタノール70部及び水50部中に加えて65℃にて30分間加熱後、5℃に冷却し15分間攪拌後、析出した無機物を濾過分離して除去した。母液をロータリーエバポレーターにて濃縮し、粘性固体を得た。
(3)
比較例1(2)で得られた粘性固体にイソプロピルアルコール150部を加えて室温にて30分攪拌して得られた固体を濾過分離、乾燥することにより、上記式(1)におけるnが3.5で表される比較用の色素のナトリウム塩1.8部を赤色固体として得た。
λmax=528.0nm(水溶液中)。
なお、得られた比較用色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=2が11%、n’=3が40%、n’=4が35%、n’=5が13%である色素の混合物であった。
【0054】
比較例2
比較例1(1)及び(2)と同様にして得た粘性固体に、イソプロパノール100部を加えて70℃に加熱後、50℃にて析出固体を濾過分離して乾燥することにより、上記式(1)におけるnが4.2で表される比較用の色素のナトリウム塩1.0部を赤色固体として得た。
λmax=528.5nm(水溶液中)。
なお、得られた比較用色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=2が2%、n’=3が10%、n’=4が57%、n’=5が29%である色素の混合物であった。
【0055】
比較例3
比較例1に準じて8%発煙硫酸48部を調製し、室温にて式(3)で表される化合物6.1部を20℃にて20分で加えた。この液を35℃にて1時間、次いで45℃にて1時間、更に55℃にて2.5時間反応させた。反応液を氷水100部中に加え、60℃に加熱後、塩化ナトリウム20部を加えて析出した固体を濾過分離し、ウェットケーキを得た。
得られたウェットケーキをエタノール200部に加え、70℃にて30分攪拌後、40℃にて30分攪拌し、析出固体を濾過し、エタノールで洗浄することにより固体を得た。得られた固体を水15部に加えて溶液とし、これにエタノール45部を加えることにより固体を析出させた。この液を60℃にて15分攪拌後、析出固体を濾過分離し、エタノール洗浄して固体8.5部を得た。得られた固体を乾燥することにより、上記式(1)におけるnが4.6で表される比較用の色素のナトリウム塩3.9部を赤色固体として得た。
なお、得られた比較用色素は、LC/MSの面積比で、上記式(5)におけるn’=3が3%、n’=4が35%、n’=5が60%である色素の混合物であった。
【0056】
(A)インクの調製
実施例1で得られた色素を用いて下記表1に示した組成のインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過することにより、インクジェット記録用の試験インクを得た。この際、水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8〜10になるように28%アンモニア水溶液で調整し、総量100部になるように更に水を加えた。実施例1で得られた色素を用いたインクの調製を実施例4とする。同様に実施例2及び3で得られた色素を用いたインクの調製を、それぞれ実施例5及び6とする。
【0057】
表1
実施例1の色素 6.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
IPA(イソプロピルアルコール) 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
界面活性剤(サーフィノール104PG50 日信化学社製)
0.1部
28%アンモニア水+水 74.9部
計 100.0部
【0058】
各実施例で得られた色素の代わりに、比較例1乃至3で得られた色素を用いる以外は実施例4と同様にして、比較例4乃至6の比較用インクを調製し、比較試験を実施した。
【0059】
(B)インクジェット記録
実施例4乃至6及び比較例4乃至6にて調製した各インクを、インクジェットプリンタ(キヤノン社、商品名:Pixus iP3100)を用いて、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有する光沢紙(キヤノン社製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー PR−101;エプソン社製、商品名クリスピア)の2種の被記録材にインクジェット記録を行った。この2種の光沢紙を、それぞれ光沢紙1及び光沢紙2とする。インクジェット記録の際、数段階の階調で印刷濃度が得られるように画像パターンを作り記録物を作成した。この記録物を試験片として用い、以下の評価試験を行った。
【0060】
(C)記録画像の耐オゾンガス性試験
【0061】
以下に耐オゾンガス性試験の評価について記載する。
【0062】
上記のようにして調製した各試験片をオゾンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度40ppm、温度24℃、湿度60%RHで24時間放置し、印字濃度(反射濃度D値=1.0付近)の試験前後の色素の残存率(%)を測定した。色素の残存率は、測色システム(GRETAG SPM50:GRETAG社製)を用いて測定し、以下の計算式で算出した。

色素残存率(%)=(試験後D値)/(試験前D値)x100

結果を下記表2に示す。なお表2中、「n」は、各インクに含有する上記式(1)で表される色素におけるnの平均値を意味する。
【0063】
表2
色素残存率(%)
光沢紙1 光沢紙2 n
実施例4 77.2 88.0 5.0
実施例5 79.0 88.0 5.0
実施例6 76.8 87.2 5.3
比較例4 50.4 74.0 3.5
比較例5 71.0 82.1 4.2
比較例6 64.4 84.3 4.6
【0064】
表2より明らかなように実施例4乃至6は、いずれの光沢紙においても各比較例と比較して色素残存率が高く、特に光沢紙1を用いた場合にはその差が顕著である。従って、本発明の色素を含有するインクの耐オゾンガス性は、非常に良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩を含有するインク組成物、
【化1】

[式(1)中、nは平均値で5.0以上6.0以下を表す。]。
【請求項2】
式(1)におけるnが、平均値で5.0以上5.5以下で表されるアントラピリドン色素又はその塩を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インクジェット記録に用いる請求項1乃至3に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項6】
被記録材が情報伝達用シートである請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体。
【請求項9】
着色がインクジェットプリンタによりなされた請求項8に記載の着色体。
【請求項10】
下記式(1)で表されるアントラピリドン色素又はその塩、
【化1】

[式(1)中、nは平均値で5.0以上6.0以下を表す。]。

【公開番号】特開2010−59217(P2010−59217A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222973(P2008−222973)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】