説明

アーク溶接方法

【課題】消耗電極アーク溶接において、溶接の反復によって溶接トーチの温度が上昇し、溶接電流値が減少して溶接品質が悪くなることを抑制すること。
【解決手段】溶接期間Ta中は溶接トーチから溶接ワイヤを溶接電流設定値Irに対応した送給速度Fwで送給して溶接電流Iwを通電して溶接を行い、休止期間Tb中は溶接ワイヤの送給を停止して溶接を休止し、これらの期間を繰り返して溶接を行うアーク溶接方法において、前記溶接期間Ta中の前記溶接電流I1を検出し、前記溶接電流設定値Irと前記溶接電流検出値I1との偏差に応じて前記休止期間Tbを設定する。これにより、溶接トーチの温度が上昇したことを前記偏差によって間接的に検出して前記休止期間を長くするので、溶接トーチの温度を低下させることができ溶接への悪影響を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチの温度上昇に伴う溶接品質の変化を補償することができるアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、ロボットを使用した消耗電極アーク溶接装置の一般的な構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
【0003】
ティーチペンダントTPは、ロボット制御装置RCに接続され、ロボットRMの動作軌跡を教示すると共に、溶接条件を設定する。ロボット制御装置RCは、ロボットRMを動作制御するための動作制御信号McをロボットRMに設けられた複数のサーボモータ(図示は省略)に出力する。ロボットRMには、送給モータWM及び溶接トーチ4が搭載されている。送給モータWMと溶接トーチ4との間は、コンジットケーブル4aで接続されており、溶接ワイヤ1、シールドガス(図示は省略)及び電力が溶接トーチ4に供給される。
【0004】
溶接電源PSは、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力すると共に、上記の送給モータWMを制御するための送給制御信号Fcを出力する。溶接ワイヤ1は上記の送給モータWMによって上記のコンジットケーブル4a内を通って送給速度Fw(cm/min)で送給され、母材2との間にアーク3が発生する。
【0005】
上記のロボット制御装置RCと上記の溶接電源PSとの間では、インターフェース信号Ifが通信されている。このインターフェース信号Ifには、ロボット制御装置RCから送信される溶接開始信号St、溶接電流設定信号Ir及び溶接電圧設定信号Vrが含まれており、溶接電源PSから送信される電流通電信号Wcrが含まれている。上記の溶接開始信号Stは、溶接電源PSの出力及び溶接ワイヤ1の送給の開始/停止を制御する信号である。上記の溶接電流設定信号Irは、溶接電源PS内で送給速度設定信号Frに変換されて、溶接ワイヤ1の送給速度Fwを設定する信号である。消耗電極アーク溶接では、溶接電源PSの出力は定電圧制御されるために、溶接電流Iwは送給速度Fwによって決定される。上記の溶接電圧設定信号Vrは、定電圧制御される溶接電圧Vwを設定する信号である。上記の電流通電信号Wcrは、溶接電流Iwが通電するとHighレベルになる信号である。溶接開始時において、この電流通電信号WcrがHighレベルになると、ロボット制御装置RCはロボットRMを溶接線に沿って移動を開始させる。
【0006】
図6は、反復して溶接を行っているときの上述した溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示す。また、同図(C)に示す破線は溶接電流設定信号Ir=Ir1を示している。同図は、次々と搬送されてくる1種類のワークを反復して溶接する場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0007】
時刻t1において、ロボットRMは待機位置から溶接開始位置に移動して停止しており、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがHighレベルになる。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接ワイヤ1は送給速度設定信号Fr=Fr1に相当する送給速度Fwで送給される。同時に、同図(C)に示すように、溶接電流Iwが通電を開始する。溶接電流Iwが通電を開始すると、図示しない電流通電信号Wcrが溶接電源PSからロボット制御装置RCに送信されるために、ロボットRMは予め定めた溶接速度で溶接線に沿って移動を開始して溶接が行われる。上記の送給速度設定信号Fr1は、上記の溶接電流設定信号Ir1を変換した値である。
【0008】
時刻t2において、ロボットRMが溶接終了位置に到達すると、ロボットRMは停止し、同図(A)に示すように、溶接開始信号StはLowレベルになる。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接ワイヤ1の送給は停止するために、送給速度Fw=0となる。同時に、溶接電流Iwの通電が停止して、溶接が終了する。溶接電流Iwの通電が終了すると、電流通電信号WcrはLowレベルになるために、ロボットRMは待機位置へと移動する。そして、溶接が終了したワークが搬出され、次のワークが搬入されて、所定位置に載置される。このワークの載置を図5に図示していないプログラム・ロジック・コントローラ(PLC)等が判別すると、ロボット制御装置RCに通知する。ロボット制御装置RCは、この通知を受けると、ロボットRMを待機位置から溶接開始位置に移動させて停止させる。この時点が時刻t3となる。
【0009】
ここで、時刻t1〜t2の期間を溶接期間Ta=Ta1と呼び、時刻t2〜t3の期間を休止期間Tb=Tb0と呼ぶことにする。溶接期間Taは、ワークの溶接線の長さ(溶接長)を溶接速度で除算した時間となる。また、休止期間Tbは、ロボットRMが待機位置への移動を開始し、ワークを交換し、ロボットRMが再び溶接開始位置に移動して停止するのに要する時間となる。したがって、溶接期間Ta及び休止期間Tbは、直接設定される値ではない。
【0010】
時刻t1〜t2の溶接期間Ta1における溶接電流Iwの変化について説明する。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1直後は破線で示す溶接電流設定信号Ir1と略等しいI11となり、時間経過と共に減少して、溶接終了時点t2ではI12となる。電流値I12は、溶接電流設定信号Ir1よりも少しだけ小さな値である。そして、時刻t1〜t2の溶接電流Iwの平均値がI1となる。時間経過に伴って溶接電流Iwの値が次第に減少する理由は、溶接電流Iwの通電及びアークからの熱によって溶接トーチ4の温度が上昇するので、その内部を送給される溶接ワイヤ1の温度も上昇するためである。溶接ワイヤ1の温度が上昇すると、溶接電流Iwの値が小さくなっても同じ送給速度の溶接ワイヤ1を溶融させることができるようになる。この結果、溶接トーチ4の温度が上昇して溶接ワイヤ1の温度が上昇すると、送給速度が一定である場合には、溶接電流Iwの値が減少することになる。
【0011】
時刻t3〜t4の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、溶接開始直後のI21から次第に減少して、溶接終了時はI22となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I2となる。ここで、時刻t1〜t2の期間よりもさらに溶接トーチ4の温度が上昇しているために、I21<I11、I22<I12及びI2<I1となる。時刻t4〜t5の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t3〜t4の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t4〜t5の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb0となる。
【0012】
時刻t5〜t6の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、溶接開始直後のI31から次第に減少して、溶接終了時はI32となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I3となる。ここで、時刻t3〜t4の期間よりもさらに溶接トーチ4の温度が上昇しているために、I31<I21、I32<I22及びI3<I2となる。時刻t6〜t7の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t5〜t6の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t6〜t7の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb0となる。
【0013】
時刻t7〜t8の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、溶接開始直後のI41から次第に減少して、溶接終了時はI42となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I4となる。ここで、時刻t5〜t6の期間よりもさらに溶接トーチ4の温度が上昇しているために、I41<I31、I42<I32及びI4<I3となる。時刻t8〜t9の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t7〜t8の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t8〜t9の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb0となる。
【0014】
上述したように、溶接トーチの温度が上昇すると、溶接電流Iwの値は減少することになる。溶接電流Iwの値が変化すると、ビードの溶け込み、ビード幅等が変化することになり、均一な溶接品質を得ることができない。この問題に対処するためには、以下に説明する従来技術が有効である。
【0015】
特許文献1の発明は、効率的な水冷溶接トーチを提供するものである。溶接トーチとしては、空冷のものと水冷のものとがある。空冷溶接トーチは、強制冷却は行っておらず、自然空冷の構造となっている。これに対して、水冷溶接トーチは、その内部を水が流れており、強制冷却構造となっている。溶接トーチとして水冷溶接トーチを使用すれば、溶接電流Iwの通電に伴う温度上昇を抑制することができるので、溶接電流Iwの減少を抑制することができ、均一な溶接品質を得ることができる。
【0016】
特許文献2の発明は、溶接ワイヤとしてフラックス入りワイヤを用い、溶接ワイヤに略一定の溶接電流を供給すると共に、溶接電圧検出値と溶接電圧設定値との偏差が無くなるようにこの溶接電圧偏差値に応じて送給速度を増減変化させてアーク長を略一定に維持する溶接方法である。すなわち、消耗電極アーク溶接であるにも関わらず定電流制御によって一定の溶接電流を通電している。定電流制御ではアーク長制御ができないために良好な溶接を行うことはできない。このために、アーク長に相当する溶接電圧検出値と、目標値である溶接電圧設定値との偏差をフィードバック制御して送給速度を増減させることによってアーク長制御を行っている。この溶接方法では、溶接トーチの温度が上昇しても溶接電流Iwの値は変化しないために、均一な溶接品質を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2002−301572号公報
【特許文献2】特開2000−668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
溶接トーチの温度上昇に伴う溶接電流の減少によって溶接品質が変動する問題に対して、水冷溶接トーチを用いた場合には、以下のような課題がある。水冷溶接トーチは、内部に水を流す構造であるために、空冷溶接トーチに比べて、価格が高価であり、使用場所に制限があり、メンテナンス性が悪い。このために、水冷溶接トーチは溶接電流が大電流値である場合を除きあまり使用されていないのが実状である。したがって、取り扱いの容易な空冷溶接トーチを使用して、上述した問題を解決したいとする要求が強い。
【0019】
溶接トーチの温度上昇に伴う溶接電流の減少によって溶接品質が変動する問題に対して、特許文献2の溶接方法を適用した場合には、以下のような課題がある。特許文献2の溶接方法は、溶接ワイヤにフラックス入りワイヤを使用している。これは、フラックス入りワイヤを用いたアーク溶接では、溶滴は短絡を伴うことなく粒状になって連続的に移行する。このために、外乱によるアーク長の変動の速度は比較的ゆっくりとしているので、送給速度を可変速制御することによってアーク長の変動を抑制することができる。しかしながら、ソリッドワイヤを使用する一般的な消耗電極アーク溶接では、溶滴は短絡移行、グロビュール移行等により行われるので、外乱によるアーク長の変動速度は速くなる。このために、このアーク長変動を送給速度の可変速制御によって抑制することはできない。すなわち、特許文献2の溶接方法は、ソリッドワイヤを用いる消耗電極アーク溶接には適用することができない。
【0020】
そこで、本発明では、空冷溶接トーチを使用し、溶接トーチの温度が上昇しても溶接品質を均一に維持することができるアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接期間中は溶接トーチから溶接ワイヤを溶接電流設定値に対応した送給速度で送給して溶接電流を通電して溶接を行い、休止期間中は溶接ワイヤの送給を停止して溶接を休止し、これらの期間を繰り返して溶接を行うアーク溶接方法において、
前記溶接期間中の前記溶接電流を検出し、前記溶接電流設定値と前記溶接電流検出値との偏差に応じて前記休止期間を設定する、
ことを特徴とするアーク溶接方法である。
【0022】
請求項2の発明は、前記溶接電流検出値が、前記溶接期間中の前記溶接電流の平均値である、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接方法である。
【0023】
請求項3の発明は、前記溶接電流検出値が、前記溶接期間の終了時点における前記溶接電流の値である、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接方法である。
【0024】
請求項4の発明は、前記休止期間中は、前記溶接トーチに外部から送風することによって強制冷却する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接方法である。
【0025】
請求項5の発明は、前記休止期間中は、前記溶接トーチを液体に漬けることによって強制冷却する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、溶接電流設定値と溶接電流検出値(溶接電流平均値、終了時点での溶接電流値)との偏差を算出することによって溶接トーチの温度上昇の度合いを検出し、この偏差に応じて、休止期間の長さを設定する。このために、溶接トーチが空冷であっても、溶接トーチの温度は溶接品質に影響を及ぼさない温度まで低下するので、均一な溶接品質を得ることができる。さらに、休止期間は溶接品質に影響を及ぼさない最少時間に設定されるために、生産効率の低下を必要最小限に止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図2】休止期間設定関数の一例を示す図である。
【図3】図1における各信号のタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2に係る溶接電源のブロック図である。
【図5】従来技術におけるロボットを使用した消耗電極アーク溶接装置の構成図である。
【図6】図5の各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成は、上述した図5と同一である。但し、溶接電源PSを構成する回路ブロックが異なっており、後述する図1のようになる。また、これに伴い、インターフェース信号Ifには新たに休止期間設定信号Tbrが追加され、溶接電源PSからロボット制御装置RCに送信される。したがって、インターフェース信号Ifには、ロボット制御装置RCから送信される溶接開始信号St、溶接電流設定信号Ir及び溶接電圧設定信号Vrが含まれており、溶接電源PSから送信される電流通電信号Wcr及び上記の休止期間設定信号Tbrが含まれている。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を実施するための溶接電源PSのブロック図である。以下、同図を参照して、各回路ブロックについて説明する。
【0031】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルから構成される。
【0032】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。
【0033】
インターフェース回路IFは、ロボット制御装置RCとの間でインターフェース信号Ifを通信する。このインターフェース回路IFは、溶接開始信号St、溶接電流設定信号Ir及び溶接電圧設定信号Vrを出力し、電流通電信号Wcr及び休止期間設定信号Tbrが入力される。
【0034】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電流通電判別回路WCRは、この溶接電流検出信号Idを入力として、この値が予め定めた電流判別値以上であるときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルになる電流通電信号Wcrを上記のインターフェース回路IFに出力する。
【0035】
電圧誤差増幅回路EVは、上記のインターフェース回路IFからの溶接電圧設定信号Vrと上記の溶接電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。駆動回路DVは、この電圧誤差増幅信号Ev及び上記のインターフェース回路IFからの溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは、電圧誤差増幅信号Evに基づいてパルス幅変調制御を行い、駆動信号Dvを出力する。したがって、溶接開始信号StがHighレベルのときは定電圧制御によって溶接電圧Vwを出力し、Lowレベルのときは出力を停止する。
【0036】
送給速度設定回路FRは、上記のインターフェース回路IFからの溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた電流値・送給速度変換関数によって送給速度設定信号Frを算出して出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Fr及び上記のインターフェース回路IFからの溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0037】
溶接電流平均値算出回路IAVは、上記の溶接電流検出信号Idを入力として、1回の溶接ごとの平均値を算出して、溶接電流平均値信号Iavを出力する。偏差算出回路DIは、上記のインターフェース回路IFからの溶接電流設定信号Irとこの溶接電流平均値信号Iavとの偏差を算出して、偏差信号ΔI=Ir−Iavを出力する。ここで、溶接トーチの温度上昇に伴って溶接電流Iwは減少するので、偏差信号ΔI≧0である。休止期間設定信号TBRは、この偏差信号ΔIを入力として、図2で後述する予め定めた休止期間設定関数によって休止期間を算出して、休止期間設定信号Tbrを上記のインターフェース回路IFに出力する。
【0038】
図2は、上述した休止期間設定回路TBRに内蔵されている休止期間設定関数の一例を示す図である。同図の横軸は偏差信号ΔI(A)を示し、縦軸は休止期間設定信号Tbr(秒)を示す。同図の関数は、ΔI=0のときTbr=Tb0となり、傾きがaの右上がりの直線となっている。したがって、直線の式は、Tbr=a・ΔI+Tb0となる。ここで、Tb0は、休止期間中にロボットを待機位置に移動させ、ワークを交換するのに必要な最少時間となる。すなわち、休止期間はこの時間Tb0よりも短くすることはできない。ロボットを待機位置に移動させるのに必要な時間は数百msと短いので、実質的には無視することができる。したがって、最少時間Tb0は、ワークを交換するのみ必要な時間となる。偏差信号ΔIの値によって溶接トーチの温度上昇を間接的に検出していることになり、休止期間の長さを決定するようにしている。生産性を考慮して、休止期間設定信号Tbrの値は、溶接トーチの温度が溶接品質に影響を及ぼさない温度まで低下する最少時間になるように関数を設定している。この関数は、溶接トーチの種類、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度、ワイヤ突出し長さ等の溶接条件に応じて、実験によって適正値に設定される。また、同図では、関数は直線として表したが、右上がりの曲線、右上がりのステップ状としても良い。
【0039】
図3は、図1で上述した溶接電源の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示す。また、同図(C)に示す破線は溶接電流設定信号Ir=Ir1を示している。同図は、上述した図6と対応しており、次々と搬送されてくる1種類のワークを反復して溶接する場合である。以下、図6と異なる点を中心として同図を参照して説明する。
【0040】
時刻t1において、ロボットRMは待機位置から溶接開始位置に移動して停止しており、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがHighレベルになる。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接ワイヤ1は送給速度設定信号Fr=Fr1に相当する送給速度Fwで送給される。同時に、同図(C)に示すように、溶接電流Iwが通電を開始する。溶接電流Iwが通電を開始すると、図示しない電流通電信号Wcrが溶接電源PSからロボット制御装置RCに送信されるために、ロボットRMは予め定めた溶接速度で溶接線に沿って移動を開始して溶接が行われる。上記の送給速度設定信号Fr1は、上記の溶接電流設定信号Ir1を変換した値である。
【0041】
時刻t1〜t2の溶接期間Ta1における溶接電流Iwの変化について説明する。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1直後は破線で示す溶接電流設定信号Ir1と略等しいI11となり、時間経過と共に減少して、溶接終了時点t2ではI12となる。電流値I12は、溶接電流設定信号Ir1よりも少しだけ小さな値である。そして、時刻t1〜t2の溶接電流Iwの平均値がI1となる。したがって、偏差信号ΔI=Ir1−I1となり、図2で上述した休止期間設定関数によって休止期間設定信号Tbr=Tb1が算出される。ここで、休止期間設定信号Tb1の値は、図6のTb0よりも大きな値である。
【0042】
時刻t2において、ロボットRMが溶接終了位置に到達すると、ロボットRMは停止し、同図(A)に示すように、溶接開始信号StはLowレベルになる。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接ワイヤ1の送給は停止するために、送給速度Fw=0となる。同時に、溶接電流Iwの通電が停止して、溶接が終了する。溶接電流Iwの通電が終了すると、電流通電信号WcrはLowレベルになるために、ロボットRMは待機位置へと移動する。同時に、上記の休止期間設定信号Tbrが溶接電源PSからロボット制御装置RCへと送信される。そして、溶接が終了したワークが搬出され、次のワークが搬入されて、所定位置に載置される。ロボット制御装置RCは、電流通電信号WcrがLowレベル(時刻t2)になってから上記の休止期間設定信号Tbrによって定まる期間が経過するまでは、待機位置で停止している。そして、この設定された休止期間が経過すると、ロボット制御装置RCは、ロボットRMを待機位置から溶接開始位置に移動させて停止させる。この時点が時刻t3となる。したがって、厳密には、時刻t2から休止期間設定信号Tbrによって定まる期間が経過するとロボットRMが溶接開始位置へと移動を開始することになる。しかし、ロボットRMが待機位置から溶接開始位置へと移動するのに要する時間は短いので、時刻t2〜t3の期間が、休止期間設定信号Tbrによって定まる期間Tb1であると見なすことができる。
【0043】
このように、溶接トーチ4の温度が上昇して溶接電流Iwが減少すると、その減少幅(偏差信号ΔI)に応じて休止期間を長くして、溶接トーチ4の温度が低下するようにしている。
【0044】
時刻t3〜t4の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1〜t2と同様に、溶接開始直後のI11から次第に減少して、溶接終了時はI12となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I1となる。したがって、偏差信号ΔIの値は、時刻t1〜t2の期間と同様に、Ir1−I1となり、休止期間設定信号Tbrの値も同様にTb1となる。時刻t4〜t5の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、電流通電信号Wcr=Lowレベル及び休止期間設定信号Tbrのロボット制御装置RCへの送信が行われる。そして、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t3〜t4の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t4〜t5の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb1となる。
【0045】
時刻t5〜t6の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1〜t2と同様に、溶接開始直後のI11から次第に減少して、溶接終了時はI12となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I1となる。したがって、偏差信号ΔIの値は、時刻t1〜t2の期間と同様に、Ir1−I1となり、休止期間設定信号Tbrの値も同様にTb1となる。時刻t6〜t7の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、電流通電信号Wcr=Lowレベル及び休止期間設定信号Tbrのロボット制御装置RCへの送信が行われる。そして、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t5〜t6の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t6〜t7の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb1となる。
【0046】
時刻t7〜t8の溶接期間中の動作は、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。すなわち、同図(A)に示すように、溶接開始信号Stは、この期間中Highレベルになる。また、同図(B)に示すように、この期間中の送給速度Fwは送給速度設定信号Fr1に相当する値となる。また、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1〜t2と同様に、溶接開始直後のI11から次第に減少して、溶接終了時はI12となる。この期間中の溶接電流Iwの平均値は、I1となる。したがって、偏差信号ΔIの値は、時刻t1〜t2の期間と同様に、Ir1−I1となり、休止期間設定信号Tbrの値も同様にTb1となる。時刻t8〜t9の休止期間の動作は、上述した時刻t2〜t3の動作と同様であり、電流通電信号Wcr=Lowレベル及び休止期間設定信号Tbrのロボット制御装置RCへの送信が行われる。そして、ロボットRMの待機位置への移動、ワークの交換、ロボットRMの溶接開始位置への移動が行われる。時刻t7〜t8の溶接期間の長さは、時刻t1〜t2と同一のTa1となり、時刻t8〜t9の休止期間の長さは、時刻t2〜t3と同一のTb1となる。
【0047】
上述した実施の形態1によれば、溶接電流設定値と溶接電流検出値(溶接電流平均値)との偏差を算出することによって溶接トーチの温度上昇の度合いを検出し、この偏差に応じて、休止期間の長さを設定する。このために、溶接トーチが空冷であっても、溶接トーチの温度は溶接品質に影響を及ぼさない温度まで低下するので、均一な溶接品質を得ることができる。さらに、休止期間は溶接品質に影響を及ぼさない最少時間に設定されるために、生産効率の低下を必要最小限に止めることができる。
【0048】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2では、上述した実施の形態1と偏差信号ΔIの算出方法が異なる。すなわち、実施の形態1では、溶接電流設定信号Irと溶接電流平均値信号Iavとの減算によって偏差信号ΔIを算出していた。これに対して、実施の形態2では、溶接電流平均値信号Iavに代えて、各溶接期間の終了時点での溶接電流値(終了時点溶接電流値信号Ie)を使用するものである。したがって、実施の形態2においては、偏差信号ΔI=Ir−Ieとなる。以下、この実施の形態2について、図面を参照して説明する。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1に対応しており、図1と同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は省略する。同図は、図1の溶接電流平均値算出回路IAVを破線で示す終了時点溶接電流値検出回路IEに置換し、図1の偏差算出回路DIを破線で示す第2偏差算出回路DI2に置換したものである。以下、これらのブロックについて、図面を参照して説明する。
【0050】
終了時点溶接電流値検出回路IEは、溶接電流検出信号Idを入力として、各溶接期間の終了時点での溶接電流値を検出し、終了時点溶接電流値信号Ieを出力する。第2偏差算出回路DI2は、溶接電流設定信号Irとこの終了時点溶接電流値信号Ieとの偏差を算出して、偏差信号ΔI=Ir−Ieを出力する。ここで、溶接トーチの温度上昇に伴って溶接電流Iwは減少するので、偏差信号ΔI≧0である。
【0051】
実施の形態1における図2及び図3は、略そのまま実施の形態2にも適合するので、それらの説明は省略する。実施の形態2の効果は、実施の形態1と同様である。
【0052】
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3は、上述した実施の形態1及び2に追加して、休止期間中に溶接トーチを外部から強制冷却するステップを設けたものである。このために、実施の形態3に対しては、実施の形態1及び2の説明はそのまま適合することができる。したがって、追加されたステップについて、以下説明する。
【0053】
上述した図3の時刻t2において、同図(A)に示すように、溶接開始信号StがLowレベルになると、同図(B)に示すように、溶接ワイヤの送給が停止し、同図(C)に示すように、溶接電流Iwの通電が停止する。このために、電流通電信号WcrがLowレベルになり、溶接電源PSからロボット制御装置RCへと通知される。ロボット制御装置RCは、この通知を受けると、ロボットRMを実施の形態1及び2とは異なり冷却位置に移動させる。この冷却位置において、溶接トーチは、送風機からの送風によって強制冷却される。また、別の冷却方法としては、スパッタ付着防止液等の溶接に悪影響を与えない液体に溶接トーチの先端部(ノズル部分)を漬けることによって、強制冷却するようにしても良い。この冷却中にワークの交換が行われる。そして、時刻t2から設定された休止期間が経過すると、ロボット制御装置RCは、ロボットRMを溶接開始位置へと移動させて停止させる。
【0054】
実施の形態3においては、休止期間中に溶接トーチを強制冷却するので、温度の低下速度が速くなる。このために、上述した図2の休止期間設定関数を、強制冷却に適合するように変更する必要がある。すなわち、偏差信号ΔIの値に対する休止期間設定信号Tbrの値が、実施の形態1及び2よりも小さな値となる。
【0055】
上述した実施の形態3によれば、休止期間中に溶接トーチを外部から強制冷却するので、溶接トーチの温度の低下を迅速化することができる。このために、休止期間を短縮することができるので、実施の形態1及び2の効果に加えて、生産効率を高めることができる。
【0056】
上述した実施の形態1〜3では、1種類のワークを反復溶接する場合を例示したが、1つのワークに複数の溶接個所がある場合にも適用することができる。また、複数のワークを混在して溶接する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
4a コンジットケーブル
5 送給ロール
DI 偏差算出回路
DI2 第2偏差算出回路
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
IAV 溶接電流平均値算出回路
Iav 溶接電流平均値信号
ID 電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
IE 終了時点溶接電流値検出回路
Ie 終了時点溶接電流値信号
IF インターフェース回路
If インターフェース信号
Ir 溶接電流設定信号
Iw 溶接電流
Mc 動作制御信号
PM 電源主回路
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
RM ロボット
St 溶接開始信号
Ta 溶接期間
Tb 休止期間
TBR 休止期間設定回路
Tbr 休止期間設定信号
TP ティーチペンダント
VD 電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WCR 電流通電判別回路
Wcr 電流通電信号
WM 送給モータ
ΔI 偏差信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接期間中は溶接トーチから溶接ワイヤを溶接電流設定値に対応した送給速度で送給して溶接電流を通電して溶接を行い、休止期間中は溶接ワイヤの送給を停止して溶接を休止し、これらの期間を繰り返して溶接を行うアーク溶接方法において、
前記溶接期間中の前記溶接電流を検出し、前記溶接電流設定値と前記溶接電流検出値との偏差に応じて前記休止期間を設定する、
ことを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項2】
前記溶接電流検出値が、前記溶接期間中の前記溶接電流の平均値である、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電流検出値が、前記溶接期間の終了時点における前記溶接電流の値である、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
前記休止期間中は、前記溶接トーチに外部から送風することによって強制冷却する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。
【請求項5】
前記休止期間中は、前記溶接トーチを液体に漬けることによって強制冷却する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−50967(P2011−50967A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199631(P2009−199631)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】