説明

イオンチャンネルタンパク質バイオセンサー

【課題】細胞中のイオンチャンネル活性測定用基板型バッチクランプ素子とその形成方法を提供する。
【解決手段】実質的平面SOI基板に極細孔を貫通させ、その極細孔の入り口付近に細胞膜を配置し、細胞膜と極細孔および導電性液を介して電極を設け、その電極間の電流を取り出せる平面基板型パッチクランプ素子の提供により、細胞膜中のイオンチャンネルタンパク質の活性度を高い応答性をもって測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、細胞中のイオンチャンネル活性測定のための素子、より具体的にはイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ(プレーナーパッチクランプ)素子とその形成法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、装置の小型化が容易であり、かつ高感度で正確な測定が可能とされる集積回路化イオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子とその形成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生命体を構成する細胞表面には種々の膜タンパク質が配置されており、細胞表面の特定サイトへの化学物質(リガンドなどの信号伝達物質)の結合や電気あるい は光の刺激(ゲートトリガー)により膜タンパク質の開口部であるチャンネルが変形し、細胞膜の外と内側の間でのイオンや化学物質の輸送(チャンネルカレン ト)が制御されている。上記のような制御を行うタンパク質をチャンネルタンパク質といい、図1に示しているようにチャンネルタンパク質(5)が脂質膜(4)に埋め込まれた状態で存在するチャンネルとして生命機能を保っている。
【0003】
このチャンネルタンパク質の電気的変化を測定することにより、そのチャンネルタンパク質を含む細胞の活動状態や細胞外の物質との相互作用を検出できるようになる。
チャンネルタンパク質をシリコン固体表面に保持して電気的結合を作ることにより集積化された測定素子を作ることができ、それらの提案が多くなされている。
【0004】
近年シリコンチップのような固体基板上のパッチクランプ装置を開発することに多大な努力がなされている。通常、これらの基板は従来のパッチクランプ電極の開口部に相当する細胞の配置及び固着のための一つ以上の開口部を備えている。例えば、国際公開第01/59447号公報には、複数のパッチクランプ細胞にてパッチクランプ記録を実施するための複数の電極からなる平面的パッチクランプ電極配列について記載されている。
細胞膜での電流の大きさはpAレベルであり、バックグランドノイズを極端に小さくする必要があり、固体基板と脂質膜との間の電気抵抗は109オームを越えた「ギガオームシール」を形成すべきである。
【0005】
このバックグランドノイズを減少させる目的で、特表2005−536751には、細胞との電気的な連通を確立するための非平面素子からなる実質的に平面の基板が開示されている。この平面基板では基板表面は二酸化シリコンで覆われており、その基板上にシリコン基板の性質を利用した回路を直接作りこむことが困難で、外部にチャンネル微小電流を増幅したりする回路を設ける必要があって、抵抗や電気容量を徒に増やすことになり、ノイズを増加させる結果を引き起こす。また素子も巨大となり、測定する際の周辺組織への悪影響が大きくなりやすい。
そして特許文献1の開示している構造は、細胞との電気的な連通を確立するための非平面素子を設ける、すなわち、細胞を置く部分に突起を設けることを趣旨としており、細胞に無用の力学的ストレスを与えイオンチャンネル活性に影響を与え、精度を低下させ、さらに細胞の状態をも変えてしまう虞を有している。
【0006】
【特許文献1】特表2005−536751公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の課題の第一は、イオンチャンネルを含有する細胞膜で基板に形成された微細孔を覆った状態で電極間の抵抗ギガオーム以上の大きさでかつ電気容量が小さい、バックグランドノイズの少ないイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ(プレーナーパッチクランプ)素子および、そのためのシリコン基板を提供することである。
課題の第二は、測定する細胞へのストレスを低減したイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ(プレーナーパッチクランプ)素子および、そのためのシリコン基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、実質的に平面のSOI基板に極細孔を貫通させ、その極細孔の入り口付近に細胞膜を配置し、細胞膜と極細孔および導電性液を介して電極を設け、その電極間の電流を取り出せるイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子により達成される。
本願の本発明を含むすべての発明およびその説明において、細胞膜は、細胞から取り出した細胞膜、活動している細胞の細胞膜、あるいは固定した状態の細胞の孔に接した部分の細胞膜に孔を開けて細胞外部から細胞内部に流れる全電流を測定するホールセルクランプ法に使用される状態の細胞膜や、イオンチャンネルを支えている天然あるいは人工的な脂質二重膜など、イオンチャンネルを含む物質の意味で使用している。
細胞膜は導電駅流路を通して極細孔の付近に誘導し、孔の下部からの吸引、あるいは、電気泳動効果を利用して、孔の真上に固定する。
上記の課題を解決する発明は、より具体的には下記のとおりである。
発明(1)
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ基板と、
第一シリコン層上のおかれた第一の、導電性液体を保持するための液溜部
第一液溜部におかれた導電性液体とこの液体と電通状態を保っておかれた上部電極、
第二シリコン層上のおかれた第二の、導電性液体を保持するための液溜部
第二液溜部におかれた導電性液体とこの液体と電通状態を保っておかれた上部電極、
を有し、
第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着され、
この細胞膜は、それのイオンチャンネル部分が極細孔の入り口付近に存在するように配置されおり、
第一シリコン側の導電性液体と第二シリコン側のそれとは上記極細孔と細孔を通して且つイオンチャンネルを間にして連通しており、
前記イオンチャンネルの開閉に応じて、上部電極と下部電極が電気的にそれぞれ連通遮断することを特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【0009】
発明(2) 絶縁膜が二酸化シリコンである発明(1)に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
発明(3) 上部電極が第一シリコン層表面に下部電極が第二シリコン層の表面に作りこまれている発明(1)または(2)に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
発明(4) 少なくとも一方の電極の表面がAgClで覆われていることを特徴とする発明(1)から(3)に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
発明(5) 極細孔の中の電流を増幅するための増幅回路部が、シリコン層表面に集 積されている発明(1)から発明(4)に記載の集積回路化平面基板型パッチクランプ素子。
発明(6) 電極がSi 表面に金属電極が接する構造を有し、この金属電極がシリコンとの間でオーミックコンタクトとなっていることを特徴とする発明(1)から(5)に記載の集積回路化平面基板型パッチクランプ素子
発明(7) シリコン層表面の少なくとも一部が親水性の自己組織有機単分子膜で覆われ、その上に内部が疎水性で上下表面が親水性 の脂質二層膜の脂質膜が堆積され、その自己組織有機単分子膜と脂質膜との間に水もしくは緩衝液の層が存在する構造を有している発明(1)から(6)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
発明(8)極細孔の径が0.1μmから100μmである発明(1)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
発明(9)極細孔があいている周辺のシリコン層表面がプラス電荷を有する化学物質で化学修飾された発明(1)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
発明(10)極細孔を構成する管の壁の断面が第一シリコン層の側からみて、少なくともシリコン層と絶縁膜層の二層がこの順に積層されている発明(1)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
発明(11)絶縁膜層の厚さが5nmから10μmである発明(1)に記載の平面基板型パッチクランプ素子
発明(12) 第二シリコン層を貫通している細孔が第二シリコン層表面から絶縁膜との境界の向きに行くに従って径が小さくなっていることを特徴とする発明(1)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
発明(13) 第二シリコン層を貫通している細孔の径の小さくなるなり方が曲率をもっていることを特徴とする発明(12)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【0010】
発明(14)
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ基板と、
第一シリコン層上のおかれた第一の、導電性液体を保持するための液溜部
第一液溜部と導電性液体を介して電気的に接する上部電極、
第二シリコン層上のおかれた第二の、導電性液体を保持するための液溜部
第二液溜部と導電性液体を介して電気的に接する上部電極、
を有し、
第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着される際にその位置を示す標識を有し、
第一シリコン側の液溜部と第二シリコン側の液溜部とは上記極細孔と細孔を通して導電性液体で連通可能になっていることを、
特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
上記の標識は、掘り込むあるいは凸部で囲むなどして作成された窪みに細胞膜を置くようにしてもよいし、視覚的なものでよい。前者の方法は細胞膜を配置する場所の周りに関するものであり、細胞膜へはストレスを与えることはないが、色をかえるなど平面的なものの方が全体としてより平坦的になり望ましい。さらには、後述の化学修飾によって細胞膜を配置する基板表面の化学的性質を変えてもよいし、それによって視覚的標識を得ることも可能である。化学修飾の場合には細胞膜と基板表面との化学的親和力の差異により細胞膜が自立的に極細孔に定着することも可能である。
【0011】
発明(15) 第一シリコン層から第二シリコン層まで貫通している極細孔およびこれにつながっている細孔(貫通細孔)が複数存在し、それぞれの貫通細孔は導電性液で電通され、さらに電極対に電通している発明(1)から発明(14)に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【0012】
発明(16)
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ細胞膜配置基板と、
第一シリコン層表面に配置される第一流体回路基板と
第二シリコン層表面に配置される第二流体回路基板と
細胞膜の中のイオンチャンネルタンパク質を通過する電流を取り出すための電極対とを有するイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子であって、
前記細胞膜配置基板には、第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着される際に細胞膜を固着する位置を示す標識を有し、
前記第一流体回路基板は、細胞膜配置基板上におかれた細胞膜の上に液溜部を形成するための孔が少なくとも一つ貫通した板と、形成された液溜部と一方の電極と電通させるための導電液流路を有する板とを積み重ねて形成されており、
前記第二流体回路基板は、細胞膜配置基板上の細孔と残りの電極と電通させるための導電液流路を有しており、
第一シリコン側の液溜部と第二シリコン側の細孔とは上記極細孔を通して導電性液体で連通可能になっており、
前記流体回路と細胞膜配置基板とは脱着可能であることを
特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。発明(16)上記細胞膜配置基板には流体回路基板を配置するための標識が設けられているのが好ましい。
また、第二流体回路基板の導電液流路は発明(1)の第二液溜部の機能も兼ねることができる。発明(16)の脱着の思想は発明(1)から(15)の発明にすべて応用できる。
標識は、視覚的なものでも物理的な凹凸でもなんでもよい。凹凸を与える方法は細胞膜を配置する場所の周りに関するものであり、細胞膜へはストレスを与えることはないが、色をかえるなど平面的なものの方が全体として、より平坦的になり望ましい。細胞膜配置基板表面への化学修飾によって化学的性質を変えて視覚的な差異、あるいは流体回路基板との化学的親和力を差異を与えてもよい。
【0013】
発明の具体的態様は図1である。
本発明では、SOI基板を利用する。
SOI基板は、シリコン基板の第二シリコン層(3)の上に絶縁膜(2)を設け、その上に単結晶シリコン(SOI層)からなる第一シリコン層(1)を設けたものである。
SOI基板において、極細孔が第一シリコン層(1)と絶縁膜(2)を貫通しており、それは細孔(9)に繋がって第二シリコン層(3)を貫通している。
極細孔付近に、細胞膜の中に存在するイオンチャンネルタンパク質(5)が、配置されている。
【0014】
極細孔付近に、イオンチャンネルを発現させた細胞を直接おいてもよい。
ヒト胎児腎臓由来HEK(Human Embryonic Kidney )細胞またはチャイニーズハムスタ ー卵巣CHO(Chinese Hamster Ovary )細胞などに遺伝子導入により、所定のイオンチャンネルを発現したものを、所定の流路を通して微細孔の付近に誘導し、孔の下部からの吸引、あるいは、電気泳動効果を利用して、孔の真上に固定する。このようにした状態で微細孔に接した部分の細胞膜表面にあるイオンチャンネルを流れる電流を測定するモードをセルアタッチドモードという。固定した状態で孔に接した部分の細胞膜に孔を開けて細胞外部から細胞内部に流れる全電流を測定するモードをホールセルクランプという。
いずれの測定モードにたいしても、本発明素子構造によれば、表面が非常に平坦であるために容易にギガオームシールが達成でき、また、SOI構造の故に、高い絶縁抵抗と十分小さい容量が容易に実現できる。
【0015】
イオンチャンネルタンパク質(5)の周り、極細孔、細孔、には、導電性液体が充填されている。しかし脂質二重膜(4)、あるいは細胞膜は、第一シリコン層に固着していて、イオンが第一シリコン表面と細孔との間を移動できないようなっており、イオンチャンネルタンパク質が導電状態になった時のみ、すなわちイオンチャンネル(5)が開いた時のみ、電極(6)と(7)との間に電通状態が生じるように保たれている。
【0016】
そして本願発明では、SOI基板を使用しているので極めて絶縁性の高い絶縁膜(2)が2つのシリコン層の間に存在し、イオンチャンネル(5)が開いていないときは高抵抗状態を確立でき、バックグランドのノイズを低減でき、ピコアンペアレベルの電流を正確に測定することができる。
また、SOI基板を使用しているので、極めて高い電気抵抗と細胞膜をおく部分を凹凸1nm以下の極めて高い平坦性を両立させることができるので、ギガオームシールを達成しつつ、細胞膜にストレスを与えることなくイオンチャンネルタンパクの電気的特性を測定できる素子を得ることできる。
【0017】
絶縁膜には、通常SiO2が用いられる。厚みは、SOI基板利用により、5nmから10μm が可能であるが、寄生容量低減と絶縁抵抗増大の観点から、BOX層の膜厚は厚い方が好ましいが、厚すぎると孔開け加工が簡単でなくなる。薄すぎれば容量が大きくなり、抵抗は低くなってノイズが高くなる。
【0018】
極細孔の管の中間での絶縁膜の配置により、極細孔の部分のコンデンサー容量Cが小さくなり、ノイズを低減できる。
誘電率の大きなシリコンだけであると容量が大きくなり雑音が大きくなり、バイオセンサーとしては不利である。(Siの比誘電率:12.1、SiO2の比誘電率:4.5、 真空の誘電率:8.85×10-12 Fm-1)。誘電率(ギャップd面積S平衡平板コンデンサーの容量は、C=Sx(ε/d)で与えられる。
【0019】
導電性液体は、イオンを含むものであれがよいが、チャンネルタンパク質のチャ ンネルの開閉に係わる化学物質が運搬される緩衝液を使用すればよい。また細胞が生体内でさらされる外部イオン環境と同じ溶液が使用可能であり、さらに細胞の生体膜を通過するイオン電流を測定するために通常使用される溶液も使用できる。
【0020】
また、図2の製作工程で説明示すように、XeF2エッチングやTMAH エッチングはエッチング速度が100〜1000倍異なるため、(Si>>SiO2)第二シリコン層側からのエッチングにおいてSiO2層でほぼ完全に停止できるため(図2の(2−8))、極細孔を第二シリコン層(3)と絶縁膜(2)との境界部分まで貫通させ、第二シリコン層(3)の部分については極細孔より径が大きい細孔をあけることができるのである。
すなわち、極細孔で第一シリコン層と絶縁膜を貫通して極細孔のコンデンサー容量を低くして電気的高抵抗を維持し、第二シリコン層については構造が維持できる程度の強度を維持しつつ、第二シリコン層を貫通する細孔の径を大きくすることで、イオンチャンネルタンパク質の開いたときの導電性は高めるという相反する目的を同時に満たすことが可能となる。
本発明では基板をシンプルな形の極細孔で貫通させているので、文献1のような構造に比べ余分のコンデンサー容量を誘発せず、製作もシンプルであり、センサーチップを製造する際にもっとも重視される歩留まりを高くすることができる。
【0021】
SOI基板を利用することで、極めて精密な構造体を形成可能である。
本発明では、第二シリコン層を貫通する細孔は、球状に絶縁膜との境界までえぐられた形をもち、そこで上記の極細孔につながっている。
この細孔は形状が第二シリコン層側の表面から奥に行くほど徐々に口径が小さくなることが重要である。例えば、角錐あるいは円錐状である。
この作業はドリルを用いてもよいし、通常の電子ビーム露光も利用でき、さらに光露光によるリソグラフィによりパタン形成した後プラズマエッチングにより穴形成をしてもよい。
【0022】
上記細孔の径は第二シリコン層の表面で100〜3000μm程度である。大きいほどイオンセンサーを介して電通性を持っている電極間の導電性が高まり、イオンチャンネルたんぱく質からの微弱電流に対する応答速度が速くなる。
【0023】
製作工程(図2)
SOI基板(Si層:1〜100μmが使用できるが、例えば2μm、SiO2 層:0.1μm〜10μmが使用できるが、例えば1μm)の第一シリコン層表面にレジスト塗布(2−2)、電子ビーム露光或いは、光露光によるパターンニング、反応性イオンエッチング(RIE)により極細孔(径0.1~100ミクロン)を形成する。微細孔は通常のRIE工程では SOI基板のSiO2層と第一シリコン層との境界でストップする(2−3)。但し、先に第二シリコン層側からの穴を先に空けておく工程の場合は、第一シリコン層に引き続いてSiO2層もエッチング穴空けをしてしまう方が能率的である。
次に熱酸化(600〜1000C, 10分〜1時間)により薄い酸化膜を形成する。或いは、第一シリコン層表面にCVD, 電子ビーム蒸着あるいはスパッターによりSiO2 膜を堆積する。このSiO2 膜の厚みは0、1〜0.2ミクロン程度である(2−5)。
【0024】
ついでこの表面を保護テープで覆い(2−6)、第二シリコン層の表面からボール状の研磨用ドリルで研磨して直径0.5mm~数mmの穴を掘る。この研磨による穴堀はSOI基板中のSiO2層の数十ミクロン手前でストップさせる(2−7)。
ついで、穴の中の薄い自然酸化膜を1〜3%の希フッサン溶液に数分浸して除去する。ついで、XeF2ガスにさらすか、TMAH(溶液に浸してSiをエッチングする。これらのエッチングは 速度が Si>>SiO2のため、SiO2 層で停止するため、非常に精密な加工が可能である。またドリルでの穴掘りのため穴の先端部は球状をしており、それをさらにエッチングしているため球状の形でSiO2 層に到達する。先端の球状を維持するには穴の最先端がSiO2 層に到達するときにエッチングをやめることで可能である(2−8)。
第一シリコン層側からの極細孔と第二シリコン層側からの穴の間にあるSiO2 膜は、数%から10%の希フッサンによるエッチング或いは、フェムト秒レーザー光の照射によるアブレーションによって除去することで極細孔は第二シリコン層側の穴と結ばれる(2−9)。
【0025】
なお、上記の第二シリコン層側の穴の形状を問題にしなければ、他の加工法も可能である。例えば、研磨を行わないで、第二シリコン層表面に付加された酸化膜のうち穴になる部分についてSiO2を除いておき、最初からXeF2エッチングやTMAHエッチングを行い時間をかかてエッチングだけで裏の穴構造を制作することも可能である。
なお、SOI基板のSiO2とした部分については、Al2O3などの絶縁体でも同様の効果が期待される。
【0026】
本願発明においては、微細孔周辺の第一シリコン(1)表面と細胞膜あるいは脂質二重膜(4)との密着性は、パッチクランプの手法においてギガオームシールと呼ばれ、密着性を良くし、その隙間を流れる電流に対する抵抗を1ギガオーム程度以上にすることが、雑音低下などの観点から必須の条件である。
そのために、細胞を吸着させた後、裏側から吸引するなどを行うが、さらに孔周辺の第一シリコン(1)表面を化学修飾することにより密着性を向上させることが出来る。以下その方法を説明する。
シリコン表面は、空気中で薄い酸化膜が形成される。細胞膜表面は通常中性であり、細胞膜や脂質二重膜の固着を妨げる。そこでシリコン表面をプラス電荷を持った化学物質で化学修飾しておくと固着性が向上する。この場合表面の平坦性は失われないようにしなくてはいけない。
上記のような理由で、本願発明では、発明(9)に記載したように、極細孔周辺の第一シリコン層表面に細胞や脂質二重膜が固着しやすくするために、第一シリコン層表面に化学修飾によりタンパク質と反応活性な基、たとえば、−COOH基、あるいはNH2を配置するのが、望ましい形態である。
【0027】
例えば、3−アミノプロピルジメチレトキシシラン(3-Aminopropyldimethylethoxysilane (APS) )の2%トルエン溶液に8時間浸すことで表面を+電荷のNH2 基で覆うことが出来る(文献 A. Berquand, P.E. Mazeran, J. Pantigny, V. Proux-Delrouyre, J.M. Laval, C. Bourdillon, Langmuir 19 (2003) 1700.参照)。
この表面化学修飾は微細孔周辺の細胞が接触する領域のみを行うことが望ましいので、パターンニングを行う。
シリコン表面を例えばオクタデシルトリクロロシラン(OTS)などのシランカップリング剤を用いて先端がCH3基の自己組織単分子膜で覆う。ついで、レジストで所定のパターンを形成し、上部から、紫外線アッシングもしくはプラズマアッシングを施すと薄いOTS膜はレジストで覆われていない部分で除去される。しかし、このままでは一部除去されないレジスト(レジスト残滓)が残り表面の凹凸の原因となるため、このレジストを完全に除去するために、H2SO4+H22(4:1)溶液に浸す(50℃3分程度)。
このようなパターンニングの手法はAPS に限らず、自己組織単分子膜と呼ばれる各種の有機薄膜による化学修飾膜のパターン形成に応用できる。ついで、ここに上記の方法でAPS膜を形成すれば、OTSの無いところにのみAPS膜を堆積することができる。
【0028】
一般にシリコン基板を利用すると表面を1nm以下の凹凸で平坦度を保つことが容易であり、レジストによるパターン化の後に本方法の処理をすることは表面を平坦に保つ上で意義が大きい。
【0029】
さらなる化学修飾の例として下記がある。
A)ウンデセン酸で表面を処理する方法
シリコンを1000℃で1〜2時間酸素雰囲気中で加熱、冷却後2%HF酸溶液に30秒つけて表面のSiO2をとる(水素終端化処理)。その後ウンデセン酸に150〜200℃で漬ける。
B)アビチンビオチン処理の方法
処理方法自体広く知られており、例えば、
Analytical Sciences 2001、Vol 17 Supplement I1379〜I1382
に記載の方法で可能である。
C)オクテニルトリクロロシランで表面を処理する方法
シリコン基板をオクテニルトリクロロシラン(OTTS)の1〜2mMのトルエン溶液に基板を30分〜l時問60℃で浸潰し、表面に形成されたOTTSの自己組織有機単分子膜のCH=CH2の基を酸化して、COOH基に変換する。
表面に導入したこれらのCOOH基或いはNH2基とタンパク質を直接反応させるか、あるいは一旦これらとアビヂン(avidin)を反応させ、タンパク質にビオチンを導入し、このアビヂン-ビオチン反応を利用してタンパク質をシリコン表面に固定する。
【0030】
図3-aは製作した基板に脂質二重膜(デイフィタノイルホスファテイデイルコリン D(PC)にグラミシジンAというイオンチャンネルを取り込んで単一イオンチャンネル電流を計測した例。導電性液体は1MのKCl電解質溶液を使用。バックグランド電流、すなわちノイズが低く、3ピコアンペアの変化を明瞭に捉えており、ピコアンペアレベルの電流について十分な分解能を有していることがわかる。また、図3-b)に示すように、従来技術と比較し、20倍近くノイズが減少していることがわかる。
すなわち、本願発明の構成により、ギガオームシールを具体的に達成する手段を提供でき、プレナークランプ法に最適のデバイスを提供できた。
【0031】
さらに、SOI基板を利用すれば、シリコン層が表面にあるため、この部分にMOSトランジスタなどの電子回路を形成でき、膜タンパクセンサー部と一体の回路が製作できるため、体内埋め込み可能な超小型の素子が製作可能である。
図4は実際に製作した素子と電子回路部分の等価回路を示す。
図4のプレーナーパッチクランプ素子部の脂質二重膜に支えられたチャンネルタンパク質(5)の上方は、上部液溜部の導電性液をとおして電極(7)と通電状態にあり、チャンネルタンパク質(5)の下部は下部液溜部の導電液を介して電極(6)と通電状態にある。このプレーナーパッチクランプ素子部からの1pAレベルのイオンチャンネル電流が電極(6)(7)を経由して基板上に作られた電子回路(ここでは、等価回路を示してある。)に流れ、そこで増幅されて計測可能となる。
【0032】
本発明では、基板上に細胞膜をおく極細孔を複数あけた素子も一つの実施態様であり、それにより同時に複数の細胞膜の活動を測定することができる。この態様を具体的に記載したものが、図5である。
また発明(16)の思想が図5の態様において具体化されており、細胞膜配置基板の上に導電性液流路を形成するための、孔の開いた流体回路基板をその孔が、シリコン基板上の細胞膜を置く部分にあわせておくことで、細胞膜をプレーナーパッチクランプ素子に簡単に配置し、導電性液流路も直ちに作れる形態をとっている。電極(6)(7)は増幅用電子回路に接続されている。
図6は流体回路基板の概念図である。また図6では、細胞をそのまま置いた態様がとられている。
【発明の効果】
【0033】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、タンパク質1つのチャンネルカレントを直接測定することができ、また基板上に電子回路をセンサー部と 一体の集積回路として作製することが可能なため、増幅器部も含めると従来素子と比較して百万分の一程度に素子を小型化することができる。
【0034】
このため体内に埋め込んで病気の診断をしたり、ドラッグデリバリーを行うなどの新しい応用が開かれる。また、構造的にタンパク質1つのチャンネルカレント を直接測定できる方式であるので、センサー部と増幅回路部が一体となっていることで雑音を拾いにくいというという特性と併せて、極めて高感度かつ正確な測 定を行うことが可能となる。また、複数の信号伝達物質の同時計測や脂質膜面内でのチャンネルカレントの分布など、従来のバイオセンサーではなし得なかった 測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0036】
この出願の発明のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプでは、前述のとおり基本的に、二酸化シリコンなどの絶縁膜上にシリコン単結晶が配置されている基板を使用しており、その基板を、極細孔が貫通している。
したがって両方のシリコン層表面にもうけられた電極は、イオンチャンネルが開いていないときは高抵抗下でノイズ電流がほとんどゼロとなり、開いたときの微弱イオン電流を高精度に測定することができる。
そしてさらにチャンネルタンパク質の チャンネルカレントを増幅するための増幅回路部を、イオンチャンネルがある基板と同一の基板上に集積していることを大きな特徴としており、素子の小型化が可能となり、増幅回路部も含めると従来素子と比較して100万分の1程度まで小型化することができる。
【0037】
また、この出願の発明の素子では、タンパク質1つのチャンネルカレントを直接測定することができる方式としていることから、測定部と増幅回路部を一体の集積回路とすることによって雑音を拾いにくくできるという特性と併せて、極めて高感度かつ正確な測定が可能となる。また、人工細胞 膜面内の電流分布も測ることも可能となる。
【0038】
また、上部電極および下部電極の表面をAgClで覆われた状態とすることで、電極表面の電位を一定に保つことができる。また下部電極をSi表面にPtなど の金属電極が接する構造とし、この金属電極をSiとの間でオーミックコンタクトとすることで、雑音の原因となる、Si表面と金属電極との間の接触電位をほ ぼ0とでき、微小なチャンネルカレントを精度よく測定することが可能となる。とくに下部電極を、表面側からAgCl/Ag/Ptの積層構造とした場合に微 小なチャンネルカレントを極めて精度よく測定することができる。
【0039】
またこの出願の発明の素子では、脂質膜が配置される箇所において、Si基板表面の一部あるいは全部を親水性の自己組織有機単分子膜で覆い、その上に内部が 疎水性で上下表面が親水性の脂質二層膜の脂質膜を堆積し、その自己組織有機単分子膜と脂質膜との間に水もしくは緩衝液の層が存在する構造とすることによ り、脂質膜と親水性の自己組織単分子膜との間に薄い水の層を介することで、脂質膜が緩衝液内で安定に存在することができる構成とすることができる。
【0040】
さらに、自己組織有機単分子膜を複数種類の有機分子から構成し、その一部の種類の有機分子が他の種類の有機分子よりも長く先端部が疎水性を有するものとす ることにより、自己組織有機単分子膜の一部が脂質膜の内部の疎水性の領域に入り込んだ状態とすることができ、このようにすることで流動性の脂質膜をさらに 緩衝液中で安定に保持することができる。このような自己組織単分子膜の一例としては、先端が疎水性のものとしてはオクテニルトリクロロシラン(OTS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)が ある。また親水性のものとしては、オクテニルトリクロロシラン(OTTS)を堆積後、その表面を酸化してCOOH基にしたもの、先端がCOOCH3などのアルキルエステルとなっている自己組織単分子膜を形成した後、個の部分を酸で加水分解してCOOH期に変換したもの、あるいは、先端がアミノ基(−NH2)となったものなどが例示されるが、同様な構造でCH2鎖を長くしたものなどほかにも各種のものが利用できる。さらに、自己組織単分子膜の中にCH2鎖が長く且つ先端部が疎水性となっており、脂質膜内部に突き刺さって流動性の脂質膜を緩衝液中で安定に保持する役目を果たすアンカー分子を混入することも可能である。このようなアンカー分子は、−CH2鎖の長いアルキル単分子膜を用いたり、あるいは表面がCOOH基に変換された後、先端にOH基を有する長鎖分子と反応させることにより導入が可能である。
【0041】
この 出願発明において、脂質膜が配置される箇所においては、Si層表面に先端部が疎水性の有機分子 を島状成長させて自己組織有機単分子膜の島を形成し、その自己組織有機単分子膜の島が脂質膜の内部の疎水性の領域に入り込んだ状態とすることができ、この ようにすることによって、疎水性である自己組織有機単分子膜の島の先端部が、疎水性相互作用により脂質膜の内部の疎水性の領域に食い込んで、脂質膜を確実 に基板上につなぎとめることができる。すなわち自己組織有機単分子膜の島がアンカーの役割を果たすのである。このような自己組織単分子膜の一例としては、 たとえばオクタデシルトリクロロシラン(OTS)やオクテニルトリクロロシラン(OTS)がある。
【0042】
なおこの出願の発明の集積回路に用いるタンパク質や脂質膜については、自然界あるいは人工的に存在するすべての脂質膜およびチャンネルタンパク質に適用することができる。
【0043】
そして、この出願の発明は、脂質膜、チャンネルタンパク質、液溜部、流路および電極対が複数配置された測定部と、それぞれ の電極対に対応した複数の増幅回路部が測定部と同一シリコン基板上に集積されている構成とすることもでき、このような構成とすることにより複数の種類 の信号伝達物質を同時に計測することが可能となる。
【0044】
さらには、この出願の発明は、脂質膜の上方 と下方の電極対を1つの脂質膜部の面内に複数対形成し、それぞれの電極対に対応して増幅回路部を集積し、脂質膜面内でのチャンネルカレントの分布とその時 間変化が計測できるようにすることも可能である。このようにすることで、複数の信号伝達物質の同時計測や脂質膜面内でのチャンネルカレントの分布など従来 のバイオセンサーではなし得なかった測定が可能となる。
【0045】
ゆがみの少ない脂質二重膜の形成法としてベシクルフージョンがよく知られており、これを利用することもできる。
水中では脂質二重膜はマリモのような形をしてお り、これはベシクルと読ばれており、このベシクルを固体表面に供給し、表面で平らな二重膜を形成することをベシクルフージョンという。
【0046】
またこの出願の発明では、液溜部およびシリコン層や絶縁膜の穴を電子シンクロトロン放射光エッチングにより形成できる。このようにすることで、シリコン基板上に側壁が垂直で底面が 非常に平らな流路、液溜部を形成することができ、また絶縁膜の穴における側壁を垂直にすることができ、また穴の底面を非常に平ら(凸凹0.4nm程度)に することができ精度の良い加工を行うことができる。
【0047】
なお、電子シンクロトロン放射光エッチングの際に反応ガスとしてフッ素系ガスを用いることができる。とくに電子シンクロとロン放射光エッチングの反応ガスとしてSF6またはXeF2を好適に用いることができ、また放射光エッチングの反応ガスとしてフッ素を含む化合物ガスと酸素ガスの混合ガスがとくに好適に用いられる。
【0048】
電子シンクロトロン放射光エッチングのエッチングマスク材料として10%以下の低濃度の酸水溶液にて溶解しやすい金属の薄膜を用いることができ、とくにその金属の薄膜としてCo、Ni、Feあるいはこれらの合金を好適に用いることができる。
【0049】
電子シンクロトロン放射光エッチングの終了後、上記の金属薄膜からなるエッチングマスクの除去を前述のとおりの10%以下の低濃度の塩酸、硝酸あるいは フッ酸などの酸の水溶液を用いて行うことで、エッチング時およびエッチング後のエッチングマスク除去時に、基板のみならず基板に堆積した有機材料あるいは 生体物質を損傷するのを防止することができる。
【0050】
本発明の素子を作る際には、収束イオンビーム法をとることもできるが、その際の工程は図7に記載のとおりである。
本発明ではSOI基板の第二シリコン層側からのイオンビームでのエッチング(図7−6)のあと、希フッ素酸でエッチングするので、第一シリコン層表面に残るエッチング残渣を完全に排除でき、極めて平坦な素子基板をえることできる。すなわちギガオームシールの平面基板型パッチクランプの作成に極めて適合した製法である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の基板および平面基板型パッチクランプの要部拡大断面構成図である。
【図2】この発明の基板の製作工程である。
【図3】この発明の平面基板型パッチクランプにて測定したイオンチャンネルタンパク質の電流測定図である。
【図4】本発明の平面基板型パッチクランプにさらに増幅回路などを組み込んだ集積回路化素子の例の断面図である。
【図5】発明16の態様でかつ細胞膜をおく部分を複数にしたアレイ状の素子の態様である。
【図6】発明16の概念図であり、細胞を直接測定している態様である。
【図7】収束イオンビーム法を利用した本発明の素子の作成工程図である。
【符号の説明】
【0052】
1 シリコン単結晶層
2 絶縁膜(SiO2層)
3 シリコン単結晶層
4 脂質二重膜
5 チャンネルタンパク質
6 電極
7 電極
8 電流増幅部
9 細孔



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ基板と、
第一シリコン層上のおかれた第一の、導電性液体を保持するための液溜部
第一液溜部におかれた導電性液体とこの液体と電通状態を保っておかれた上部電極、
第二シリコン層上のおかれた第二の、導電性液体を保持するための液溜部
第二液溜部におかれた導電性液体とこの液体と電通状態を保っておかれた上部電極、
を有し、
第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着され、
この細胞膜は、それのイオンチャンネル部分が極細孔の入り口付近に存在するように配置されおり、
第一シリコン側の導電性液体と第二シリコン側のそれとは上記極細孔と細孔を通して且つイオンチャンネルを間にして連通しており、
前記イオンチャンネルの開閉に応じて、上部電極と下部電極が電気的にそれぞれ連通遮断することを特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項2】
絶縁膜が二酸化シリコンである請求項1に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項3】
上部電極が第一シリコン層表面に下部電極が第二シリコン層の表面に作りこまれている請求項1または請求項2に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項4】
少なくとも一方の電極の表面がAgClで覆われていることを特徴とする請求項1から請求項3に記載のイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項5】
極細孔の中の電流を増幅するための増幅回路部が、シリコン層表面に集 積されている請求項1から請求項4に記載の集積回路化平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項6】
電極がSi 表面に金属電極が接する構造を有し、この金属電極がシリコンとの間でオーミックコンタクトとなっていることを特徴とする請求項1から請求項5に記載の集積回路化平面基板型パッチクランプ素子
【請求項7】
シリコン層表面の少なくとも一部が親水性の自己組織有機単分子膜で覆われ、その上に内部が疎水性で上下表面が親水性 の脂質二層膜の脂質膜が堆積され、その自己組織有機単分子膜と脂質膜との間に水もしくは緩衝液の層が存在する構造を有している請求項1から請求項6に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項8】
極細孔の径が0.1μmから100μmである請求項1に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項9】
極細孔があいている周辺のシリコン層表面がプラス電荷を有する化学物質で化学修飾された請求項1に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項10】
極細孔を構成する管の壁の断面が第一シリコン層の側からみて、少なくともシリコン層と絶縁膜層の二層がこの順に積層されている請求項1に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項11】
絶縁膜層の厚さが5nmから10μmである請求項1に記載の平面基板型パッチクランプ素子
【請求項12】
第二シリコン層を貫通している細孔が第二シリコン層表面から絶縁膜との境界の向きに行くに従って径が小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項13】
第二シリコン層を貫通している細孔の径の小さくなるなり方が曲率をもっていることを特徴とする請求項12に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項14】
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ基板と、
第一シリコン層上のおかれた第一の、導電性液体を保持するための液溜部
第一液溜部と導電性液体を介して電気的に接する上部電極、
第二シリコン層上のおかれた第二の、導電性液体を保持するための液溜部
第二液溜部と導電性液体を介して電気的に接する上部電極、
を有し、
第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着される際にその位置を示す標識を有し、
第一シリコン側の液溜部と第二シリコン側の液溜部とは上記極細孔と細孔を通して導電性液体で連通可能になっていることを、
特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項15】
第一シリコン層から第二シリコン層まで貫通している極細孔およびこれにつながっている細孔(貫通細孔)が複数存在し、それぞれの貫通細孔は導電性液で電通され、さらに電極対に電通している請求項1から請求項14に記載の平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項16】
第一シリコン層/絶縁膜/第二シリコン層と積層されている実質的に平面のSOI構造を持つ細胞膜配置基板と、
第一シリコン層表面に配置される第一流体回路基板と
第二シリコン層表面に配置される第二流体回路基板と
細胞膜の中のイオンチャンネルタンパク質を通過する電流を取り出すための電極対とを有するイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子であって、
前記細胞膜配置基板には、第一シリコン層の表面から絶縁膜まで極細孔が貫通し、絶縁膜と第二シリコン層とが接している位置から極細孔より開口面積の大きい細孔となり、その細孔が第二シリコン層の表面まで貫通しており、
この極細孔のまわりの第一シリコン層表面に細胞膜が固着される際に細胞膜を固着する位置を示す標識を有し、
前記第一流体回路基板は、細胞膜配置基板上におかれた細胞膜の上に液溜部を形成するための孔が少なくとも一つ貫通した板と、形成された液溜部と一方の電極と電通させるための導電液流路を有する板とを積み重ねて形成されており、
前記第二流体回路基板は、細胞膜配置基板上の細孔と残りの電極と電通させるための導電液流路を有しており、
第一シリコン側の液溜部と第二シリコン側の細孔とは上記極細孔を通して導電性液体で連通可能になっており、
前記流体回路と細胞膜配置基板とは脱着可能であることを
特徴とするイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子。
【請求項17】
実質的に平面のSOI基板に極細孔を貫通させ、その極細孔の入り口付近に細胞膜を配置し、細胞膜と極細孔および導電性液を介して電極を設け、その電極間の電流を取り出せるイオンチャンネル活性測定用平面基板型パッチクランプ素子



【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−156572(P2009−156572A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105188(P2006−105188)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】