説明

イオンビーム照射の間にターゲット容積の運動を補償するためのデバイスおよび方法

本発明は、イオンビーム照射の間のターゲット容積(1)の三次元運動を補償するためのデバイス、方法に関する。このデバイスは、運動を検出するための標定および追跡システム(4)並びに、イオンビームの浸透の深さを調整するための深さモジュレータ(6)を含む。運動は、補償の目的のために、横方向の成分と縦方向の成分とにベクトル的に再分割される。横方向の成分は、1つの照射点から他の照射点まで、ラスタースキャンデバイス(3)の補助により補償され、一方縦方向の成分は、1つの照射点から他の照射点まで、深さモジュレータ(6)により、照射を行う前のターゲット容積の位置の変化を検出すること、これを参照テーブルとして運動測定、制御および読出しモジュール(SAMB)のメモリ中に記憶すること、並びにこれを、照射プロセスの間に真実の値に調整することに加えて、ターゲット容積を覆っている健康な組織の構造の変化を検出し、モデル化することにより、補償される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム照射の間に、特にラスタースキャン装置を用いて、患者ベッド上のターゲット容積の三次元運動を補償するための装置に関する。この装置は、イオンビームに関して縦方向および横方向に、ターゲット容積の三次元運動を検出する位置標定および追跡システムを含む。この装置はさらに、深さモジュレータを含み、これによりイオンビームの浸透の深さを再調整することができる。さらに、開発において、この装置は、ラスタースキャン装置と作動的に接続しており、これにより、イオンビームの横方向の偏向が、千分の一秒単位で可能になる。
【背景技術】
【0002】
このような種類の装置は、刊行物DE 100 31 074 A1およびEP 99 107 127を一緒に考慮することから知られており、ここで、運動するターゲット容積をイオンラスタースキャン方法を用いて正確に照射するための方法の原理についても示されている。記載されている方法では、照射実施時間における横方向および縦方向の照射パラメーターの動的な修正が必要である。
【0003】
横方向の修正は、ラスタースキャン方法に基づいており、刊行物EP 99 107 127に記載されている。したがって、ラスタースキャン方法を用いて、イオンビームに対して横方向の設定を変化させることができ、これにより照射点ごとに修正することができる。また強度制御にラスタースキャン方法が提供されているという事実のために、これにより、前に決定された所望の位置の縦方向の照射パラメータを修正することが可能になる。しかし、横方向の補正および修正は千分の一秒単位で行うことができるが、縦方向の設定は、粒子加速器のサイクルと同時にしか変えることができるに過ぎず、このため極めて遅い。イオンビームを組織中に浸透させる深さに関し、関連する問題を図1に例示する。
【0004】
図1は、ビームの上流方向においてターゲット容積を覆う健康な組織の構造の整合性の変化が、イオン照射(曲線cおよびd)と比較して、光子照射(曲線aおよびb)の場合においては、線量の分布を有するという結果を示しており、浸透の深さwを、横座標に対してプロットし、組織により吸収されたイオン線量を、縦座標に対してプロットしている。患者ベッド上の患者の身体の三次元運動の場合において、これは、患者の標定およびその結果としての、変化するイオンビームに対する横方向および縦方向のターゲット容積の標定であるのみならず、ターゲット容積の上流のビームの方向に配置された健康な組織の組成、密度、厚さおよび整合性であり、この結果、光子照射の場合において、線量分布の観点において曲線a(運動前)とは異なる曲線b(運動の間または後)が得られる。
【0005】
イオン照射の場合において、結果は、図1における曲線c(運動前)とd(運動の間または後)との比較により示されるように、はるかに一層重大である。その理由は、イオン照射の場合において、線量分布は、光子照射の場合のように浸透の深さに伴って指数関数的には徐々に低下せず、むしろ線量の段階的増大があり、運動する場合には、覆っている組織の変化のために、例えば、浸透の深さの差分Δwだけ移動し、この結果ターゲット容積の意図した容積要素が失われ得るからである。
【0006】
したがって、イオン照射により施された線量の分布は、例えば密度の変化の場合においては、ビームが通過する健康な組織においては、光子とは対照的に、縦方向においては極めて変化しやすい。このような変化は、例えば、呼吸による臓器の運動の間に、加速器サイクルよりも短い時間スケールで起こり、これは、従来のラスタースキャン方法が反応し得る速度を左右する。このことは、浸透の深さの修正を含む修正は、従来のラスタースキャン方法を用いると、照射点間を短い時間で動く患者に起因する変化を正確には追跡することができないことを意味する。刊行物DE 100 31 074 A1から知られているように、患者が運動する場合において、専ら精密なビデオカメラによるターゲット容積の縦方向の移動の検出では、当該刊行物に開示された装置に基づいてターゲット容積のシフトのためにビーム位置間において補正することができる場合であっても、正確なビームの補正または修正を可能としない。
【0007】
強度変調したラスタースキャン方法により、深い位置にある腫瘍の照射が極めて高い幾何学的精度で可能になるが、比較的遅い。しかし、療法の成功は、ビーム療法の場合においては、ターゲット容積における線量に依存しており、この線量は、一般的には、周囲の組織において許容し得る線量によって制限される。図1に示すように、従来の光子照射と比較して、強度変調したラスタースキャン方法の幾何学的精度により、多くの場合において、ターゲット容積における線量の段階的増大を得ることが可能になる。しかし、こういった精度を利用可能とするためには、ターゲット容積の位置の観点における相対的標定を、照射の間常に、照射計画において推測される場合と一致させなければならない。
【0008】
通常用いられるターゲット領域の固定は、例えば胸部など、すべての場合に十分な正確さを提供するわけではない。照射計画のための参照位置に対して照射すべき容積の長さまたは変位の残りの変化のいずれも、不正確な標定とそれにしたがってイオンの不正確な線量をもたらす。したがって、実際に単位容積当たりの施されたイオンの数は、もはや計画された分布とは一致せず、即ち、線量分布の均一性および配置が変化し、この結果治療の成功が危うくなる。
【0009】
この問題を、浸透の深さwに依存する、静的に固定されたターゲット容積(曲線e)および変化した標定のターゲット容積(曲線f)についての相対的な線量の均一性を示した図2により例証する。静的な、つまり固定されたターゲット容積の場合においてさえも、線量の均一性は、組織中のイオンビームの散乱および吸収機構のために、増大する浸透の深さwに伴って低下する。しかし、ターゲット容積が、静的な、即ち固定された標定を有する場合には、こういった減少は、導入された線量の10%よりも大きくならない(曲線e、図2)。しかし、ターゲット容積が運動する場合においては、既に図1で示したように、浸透の深さにおける顕著な縦方向の変化が起こり得、そのため、相対的な線量の均一性は、図2に示すように、補償が行われない場合には、60%まで(曲線f、図2)低下し得る。
【発明の開示】
【0010】
本発明の問題は、上記の問題を克服し、ターゲット容積の照射の正確さを改善する、イオンビーム照射の間のターゲット容積の運動の補償のための装置および方法を提供することにある。
この問題は、独立請求項の主題により解決される。本発明の有利な発展は、従属請求項において見出される。
【0011】
本発明にしたがって、ラスタースキャン装置を用いたイオンビーム照射の間における、患者ベッド上のターゲット容積の三次元の運動の補償のための装置および方法を提供する。この目的のために、補償装置は、イオンビームに対する縦方向および横方向の標的容積の三次元的な運動を検出し、その処理において、運動測定、制御および読出しモジュールSAMBと作動的に接続している、位置標定および追跡システムを含む。補償装置はまた、イオンビームの浸透の深さwを変化させるための運動測定、制御および読出しモジュールSAMBと作動的に接続している深さモジュレータを含む。さらに、イオンビームを横方向に偏向させる装置の一部としてのラスタースキャン装置は、ビームの偏位を横方向に変化させるための、標定測定、制御および読出しモジュールSAMOと作動的に接続している。
【0012】
この目的のために、運動測定、制御および読出しモジュールSAMBは、メモリを有するマイクロプロセッサを含む。このメモリは、ビームの上流方向におけるターゲット容積を覆う、健康な組織の構造のモデルのデータを含む。マイクロプロセッサは、さらに、検出されたターゲット容積の運動を、縦方向および横方向の成分にベクトル的に分解する演算要素を含む。この演算要素はまた、縦方向の成分を、記憶されたモデルに対して比較して、イオンビームの浸透の深さを修正する。
【0013】
メモリ中のモデルのデータは、好ましくは、ターゲット容積上を覆っている健康な組織の超音波断面図またはX線画像から得られる。イオン照射の準備段階におけるX線検査および超音波検査は、共に、その厚さ、並びにその組成、整合性および密度の両方の観点において、ターゲット容積上を覆う健康な組織を正確に表すことができるという利点を有する。その結果、正確な縦方向の偏差の補償を、従来の装置および方法の場合よりもはるかに正確に行うことができる。さらに、モデルの有効性を、X線検出デバイスおよび/または超音波検出デバイスを用いて、さらなる測定により連続的に確実にすることができる。
【0014】
さらに、この装置は、照射の瞬間における最新のターゲット容積の標定および位置における検出された変化に基づいて、当該容積要素の放射線学的位置についての三次元修正ベクトルを決定することが可能であり、また、療法ビームの適切に向けられた移動による破壊的な運動を補償することにより、照射計画にしたがって、照射の予備段階において最適化されたイオンの数が、当該容積要素に送達されることが確実になるという利点を有する。照射中のターゲット領域の運動を補償するために、治療ビームを、すべての3つの空間的方向において再調整する。補償を横方向の、および縦方向の成分に分解することにより、ラスタースキャン装置による、および深さモジュレータによる再調整が可能になる。
【0015】
ターゲット容積は、患者の運動の結果、ビームが通過する健康な組織に変化がもたらされるという事実にもかかわらず、運動しない場合には、解剖学的な配置のために、縦方向の補償のみが必要であり;したがって、イオンビームのエネルギーを、運動と一致させるように補正し、すべての場合において、イオンビームの範囲が、ターゲット容積要素との相互作用が確実になるように変化するようにしなければならない。これはまた、例えば、ターゲット容積の運動と一致する横方向におけるビームの再調整を、リアルタイムで、ラスタースキャン装置により行い、その結果照射の間に、イオンビームが、運動するターゲット容積を追跡するのが確実になる場合である。付随して運動する座標系において、ビームがターゲット容積に対して通過する組織の運動の場合には、イオンビームの浸透の深さを、ビームが通過するべき特定の組織と一致させるように補正することが再び必要となる。
【0016】
施された線量の分布の得られる正確さが、以下の図5および6に示すように、補償の質に依存する場合であっても、本発明の主題により、静的なターゲット容積の質に匹敵する高い程度の均一性を達成することが原則として可能である。運動するターゲット領域の正確な照射は、またはビームが通過する組織の動きの場合において、運動の極めて正確な補償により達成され、そのために、ラスタースキャン装置および深さモジュレータは、照射の間に、ターゲット容積またはビームが通過する組織の運動よりも実質的に大きい速度でビーム位置を修正する。
【0017】
修正された位置は、修正されていない状態における所望の位置および照射計画の参照システムにおけるターゲット容積の特定の容積要素の実際の移動により左右される。ラスタースキャン装置の監視システム中への運動補償の固定された統合により、データ交換が可能になり、これにより、ターゲット容積の単位容積当たりに施された線量の安全性および信頼性が、三次元の運動にもかかわらず改善されるのが確実になる。その結果、本発明の主題により、上述したラスタースキャン方法を、固定することが可能ではないか、または適切に固定することが可能ではないターゲット領域における指示および/または、ビームが通過する組織が、運動の結果このエネルギーを吸収する作用の点において変化するターゲット領域に拡張することが可能になる。これにより、胸郭および腹部における腫瘍を、固定されたターゲット領域の場合において達成できるものと同様の高い程度の正確さで照射することが可能になる。
【0018】
運動補正処理を備えた既存の代替法では、比較的正確さの低い照射または顕著に長い継続時間の照射のいずれかが結果として起こる。これらの方法では、不利なことに、療法の成功する見込みまたは単位時間当たりに処置される患者の数が低下し得る。当該結果のいずれも、本発明の記載した主題の場合においては起こらない。さらに、本発明の装置により、患者の配置が容易になり得る。その理由は、配置におけるわずかな誤差の場合において、ビーム位置が自動的に補正されるからである。本発明の装置の場合において、厳密な患者の固定はもはや必須ではなく、この結果、患者の快適さが顕著に向上する。
【0019】
本発明の好ましい態様において、ラスタースキャン装置は、2つのラスタースキャン磁石を含み、これは、イオンビームを、ラスタースキャン磁石中への結合方向に対して直角に、XおよびY方向に偏向させ、これは次に互いに対して垂直であり、ターゲット容積の領域をスライス状にラスタースキャンするためであり、ラスタースキャン磁石は、高速反応電源ユニットにより制御される。これは、運動によるターゲット容積およびそれを覆う組織における横方向の変化の横方向の補償を、照射位置間で、千分の一秒単位で行うことができるという利点を有する。
【0020】
装置は、好ましくは少なくとも1つの加速器を含み、これによりターゲット容積を浸透の深さに関してずらしてスライス状に照射することができるように、イオンビームのエネルギーを調整することができる。これに伴って、ターゲット容積全体を、引き続いてスライス状にラスタースキャンすることができ、イオンビームのエネルギーを変化させることによりイオンビームの範囲をスライスごとに調整可能であるという、関連した利点がある。この目的のために、加速器は、実質的に、直線状加速器および/またはシンクロトロンまたはサイクロトロンからなり、ここでプロトンおよび/または同一の質量を有する重イオンを、これらのエネルギーに関して段階的に調整することができる。
【0021】
加速器についての制御機能の複雑さのために、イオンビームのエネルギーを、照射空間内、特にターゲット容積内の予め特定された範囲に補正することは、ターゲット容積または患者の運動を自動的に追跡することができる程度に短い時間では、所要の程度の正確さでは可能ではない。むしろ、粒子加速器のサイクルを、ターゲット容積のスライス状のラスタースキャンに整合させる。
【0022】
したがって、本発明のさらに好ましい態様において、深さモジュレータは、イオンビームの照射帯域全体を覆う、くさび形の断面を有する2つのイオン制動プレートを含み、エネルギーレベルごとのイオンビームエネルギーを増大させるよりも、運動するターゲット容積の場合において迅速な深さラスタースキャン修正が可能であり、したがって照射点ごとの浸透の深さの補償は、このような種類の深さモジュレータにより可能になる。このために、深さモジュレータのくさび形のイオン制動プレートは、好ましくは、電磁的に動作可能な台車上に配置されている。
【0023】
この電磁的に動作可能な台車により、くさび形のイオン制動プレートの位置を、千分の一秒単位で補正することができ、したがってくさび形の制動プレートの重複の領域中に存在するイオンの制動経路の長さを、イオン制動プレートにより変化させることができる。この目的のために、イオン制動プレートは、イオンビームの照射領域において重複し、したがってイオンを、これらの範囲に関して、運動するターゲット容積の空間的および一時的な変化と一致させるように補正することができる。
【0024】
イオン制動プレートは、好ましくは、リニアモータ上に載置されている。このような種類のリニアモータは、深さについてターゲット容積のラスタースキャンを補正する目的のために、イオン制動の連続的な微細な調節が可能であるという利点を有する。さらに、くさび形のイオン制動プレートの位置を、リニアモータの補助により変えることは、空間的に極めて精密であるのみならず、ターゲット容積の一時的な移動を、深さに関して、極めて迅速な反応速度で整合させることが可能であり、そのため深さの補償による連続的な追跡および運動の補償が可能である。
【0025】
あるいはまた、エネルギーの補正を、加速器中または高エネルギービーム供給中の電磁的加速経路により行うことができる。
【0026】
本発明のさらに好ましい態様において、位置標定および追跡システムは、時間および空間に関して、患者の身体のターゲット容積を含む領域上のマーキングの標定を、イオンビーム軸に対して2つの空間的な角度から検出する、少なくとも2つの測定センサーを含む。このようなマーキングを、皮膚が耐容可能な発光インクを用いて、点、線もしくは他の幾何学的形状で、または発光要素の形態で適用して、これらが、測定センサーにより明確に登録され、測定されるようにすることができる。
【0027】
本発明のさらに好ましい態様において、測定センサーは、少なくとも1つの精密なビデオカメラおよび/またはX線検出手段および/または超音波検出手段であり、これらは、運動測定、制御および読出しモジュールSAMB中の画像評価ユニットと協動する。これにより、ターゲット容積の付近の身体の領域の運動を正確に測定し、ターゲット容積およびそれを覆う組織の位置における一時的および空間的な移動と、例えば記憶したルックアップテーブルの形態で相関させることが有利に可能になる。
【0028】
腫瘍容積の照射は、原則的に、スライスの形態で平坦な配置でラスター形態で互いに関連して設定された像点で構成されており、イオンビームは、照射点ごとに、X方向およびY方向でこのビーム軸に直角に、ラスタースキャン装置により偏向され;装置は、標定検出の目的のために、マルチワイヤー比例チャンバを標定感受性検出器として含み、これは、深さモジュレータの上流のビーム方向に配置されており、実際の横方向の位置と、所望の横方向の位置との間の相違を、照射計画および運動によるターゲット容積の実際の偏差に基づいて補償するために、イオンビームの実際の位置を、標定測定、制御および読出しモジュールに転送する。
【0029】
イオンビーム中のイオンのエネルギーを、当該加速器により一定に保持することができる場合であっても、時間経過に伴う単位容積当たりのイオンの数は、なお一定ではない。しかし、等しい規模のイオンビーム線量を、腫瘍組織の各々の容積点において維持する、つまり線量の均一性を提供するために、迅速な読出しを有するイオン化チャンバは、本発明の好ましい態様において、イオンビーム流の強度をモニタリングする目的のために、イオンビームのビーム経路中の伝達カウンターとして配置される。このような種類の伝達カウンターは、照射されるべきターゲット容積の容積点におけるイオンビームの滞留時間を決定し、制御および読出しモジュールSAMIは、これに関連して、信号を、読出しモジュールに送達して、予め特定されたビーム線量に到達すると直ちに次の容積点に向ける。したがって、平面状の範囲にわたる腫瘍容積の容積スライスを、照射点ごとにラスター状にラスタースキャンすることが、有利に可能である。好ましくは、イオン化チャンバは、偏向デバイスと深さモジュレータとの間に配置される。特に、その理由は、深さモジュレータが、このくさび形イオン制動プレートと共に、イオンを専らこれらの範囲に関して、イオン線量に影響せずに制御するからである。
【0030】
ラスタースキャン装置を用いたイオンビーム照射の間の、患者ベッド上のターゲット容積の三次元の運動を補償するための方法は、以下の方法工程を含む。先ず、ビームの上流方向におけるターゲット容積を覆っている健康な組織構造を、準備段階の検査において検出し、覆っている健康な組織の検出された構造のデジタルモデルを生成する。このモデルを、例えばルックアップテーブルの形態での運動制御および読出しモジュールSAMBのメモリに記憶させる。次に、ターゲット容積を患者ベッド上に配置することができる。
【0031】
照射中、位置標定および追跡システムによりターゲット容積の三次元の運動をリアルタイムで検出する。次に、運動を、縦方向および横方向の成分にベクトル的に分解し、運動の横方向の成分を、ラスタースキャン装置のラスタースキャン磁石の修正制御により補償する。最後に、運動の縦方向の成分を、記憶されたモデルのデータとの比較および深さモジュレータの設定の比較に基づく補正により補償する。
【0032】
したがって、本発明により、ターゲット領域の運動を、例えばプロトンまたは重イオンによるイオン照射の間にリアルタイムで、三次元的に補償するための方法が有利に利用可能になる。この目的のために、ラスタースキャンシステムによるビームの横方向の偏位を、追加的な深さ調節と組み合わせる。計画において用いる参照位置からの、ターゲット容積の特定の容積要素の標定および位置における最新の測定された偏差から、特にビームが通過する特定の組織を考慮して、動的修正ベクトルを決定し、横方向および縦方向の成分に分解する。縦方向の成分は、ビームが通過する特定の組織を計算において考慮し、ターゲット容積における特定の容積要素におけるイオンの相互作用をもたらすのに必要なエネルギーを決定する。
【0033】
横方向の成分は、ラスタースキャンシステムの所望の位置に対する動的なオフセットとして加えられ、縦方向の成分は、深さモジュレータの設定を左右する。この手段により、ビーム位置を、3つの空間的方向のすべてにおいて、三次元的なターゲット領域の運動と一致させるように動的に再調整する。運動測定、制御および読出しモジュールSAMBによるイオンビーム治療施設の監視照射制御システム中への完全な統合の結果、照射の一時的な順序は、通常は影響を受けない。監視システムの個々の電子的モジュールの間の直接の接続により、システム全体における整合した、動的な運動データの有用性が可能になる。
【0034】
この目的のために、好ましくは、照射の準備段階において、ビームの上流方向においてターゲット容積を覆う組織の構造のデジタルモデルを、X線および/または超音波検査により検出する。このような検査を照射の準備段階において用いて、運動の場合における、イオン照射の間の深さの観点における線量の段階的増大の補正を、リアルタイムで深さモジュレータの再調整により、縦方向の深さの修正を、ビーム位置ごとの深さモジュレータにより行うという事実によって、極めて正確に補償することができる。
【0035】
この方法を行う好ましい例において、標定測定を、マルチワイヤー比例チャンバを用いて、標定測定、制御および読出しモジュールSAMOにより登録し、評価する。横方向の補償の目的のために、監視システムの標定測定、制御および読出しモジュールSAMO中に記憶された照射計画の所望の位置に関する情報を、標定感受性検出器からのビーム位置の測定された実際の位置と、リアルタイムで、ターゲット容積の検出された横方向の運動成分を考慮して比較し、XおよびY方向における横方向の標定補償を、高速スキャナー磁石電源ユニットにより、ラスタースキャン装置のラスタースキャン磁石のための制御および読出しモジュールSAMSと協動させて行う。
【0036】
この方法を行う好ましい例において、補償の作動範囲外の不測の運動条件が発生した場合における、制御された、継続時間が短い中断により、あらゆる種類の運動について柔軟であり、なおかつ安全な使用が確実になる。この目的のために、測定値と横方向のビーム位置の、および/または浸透の縦方向の深さの所望の値との間の差異が、それぞれ制御および読出しモジュールSAMOおよび/またはSAMBのリアルタイムソフトウエアにおいて設定され得るしきい値を超えた場合に、ビームの迅速な停止を、標定感受性検出器の標定測定、制御および読出しモジュールSAMOによりリアルタイムで、および/または深さモジュレータの運動、制御および読出しモジュールSAMBにより開始する。
【0037】
さらに、イオンビームの所望の位置の修正および深さモジュレータの制御に加えて、SAMBは、位置標定および標定追跡方法についての、および深さ調節についての接続されたサブシステムにおける障害またはこの故障のモニタリングに関与する。SAMBは、整合性および一貫性についての得られた値をチェックし、障害の場合には、照射を中断する対応する連動信号を開始する。所要の修正パラメーターが、準備段階の間に固定された制限を超えた場合には、照射は、値が再び許容されている範囲内にあるまで、短時間中断される。
【0038】
本発明を、ここで、添付した図3〜6を参照して、一層詳細に説明する。
【0039】
図3は、本発明の第1の態様による装置の構成要素の配置および接続図式の一般化された図を表す。このために、参照符号1は、ターゲット容積を示し、破線20は、患者ベッド2上のターゲット容積1の三次元の運動を示す。参照符号3は、ラスタースキャン装置を示し、これは、プロトンまたは重イオンからなるイオンビーム5のX偏位についてのラスタースキャン磁石7を含み、これは、イオンビーム5のY偏向についての他のラスタースキャン磁石8を含む。
【0040】
ラスタースキャン装置3の後に、イオンビーム5は、複数の測定チャンバ23を通過し、このうちイオン化チャンバ14および15は、イオンビーム5の線量を検出する作用を有し、マルチワイヤー比例チャンバ16および17は、イオンビーム5の空間的な位置を測定する作用を有し、このために、深さモジュレータ6の上流のビーム方向におけるイオンビーム5中に配置されている。さらに、イオンビーム5は、制限値モニタリングのための追加の測定チャンバ21を通過し、これは、照射室18の監視制御コンピュータ19と直接作動的に接続している。さらに、イオンビーム5はまた、深さモジュレータ6の前のくし形フィルター22を通過する。
【0041】
深さモジュレータ6は、ターゲット容積1の前に配置されており、2つのくさび形イオン制動プレート9および10を含み、これは、患者ベッド2上の患者の運動の場合には、深さ調節のために、リニアモータ11および12により互いに対して移動させて、健康な組織の変化およびターゲット容積1の標定の変化を考慮して、浸透補償の深さを行うことができる。
【0042】
運動の検出のために、照射室18は、位置標定および追跡システム4を有し、これは、測定センサーとして、少なくとも1つの精密なビデオカメラ13および/またはX線検出手段および/または超音波検出手段を有し、これらは、運動補償のための制御および読出しモジュールSAMBと作動的に接続している。
【0043】
したがって、図3は、強度、標定および運動調節ラスタースキャン方法のための、本発明の照射システムの態様を示す。図3のハードウエア概観は、DE 100 31 074 A1およびEP 99 107 121に記載されている主題のシステムのさらなる発展形を構成し、これにより、運動するターゲット領域の正確な照射が改善される。この照射システムにおける改善は、ラスタースキャンシステムと深さモジュレータとを組み合わせることにより、およびまた他の電子モジュールSAMBを監視システムに加えることによりリアルタイムで測定された運動情報の加工により、並びに他の通信用インターフェースおよび改善されたデジタルモデルを用いることにより、達成される。
【0044】
したがって、本発明により、治療ビームの改善された動的な三次元再調整が、リアルタイムで、上質の分解能および極めて高度な正確さで可能になる。
【0045】
図4は、図式的形態において、図3の装置の、接続された外部デバイスと一緒の、制御および読出しモジュールSAMのブロック回路図を示す。図4により、本発明の装置および本発明の方法は、監視照射制御システム内に完全に統合され、これは、システム制御および配列制御および監視制御コンピュータ19から構成されていることを示す。この例示的態様において、監視制御システムの配列制御は、複数の電子的モジュール、種々の機能を有する制御および読出しモジュールSAM、並びに配列制御コンピュータASRからなる。
【0046】
また、専らターゲット領域の運動の補償のための専用のモジュールSAMBがある。安全に関連する理由により、第2の、同一のモジュールを用いることができ、これにより、データ流に対する整合性のチェックが可能になる。SAMBモジュールは、データ鎖中に位置しており、これを、図4中に、矢印により、例えば標定測定SAMO1の上流で示す。SAMB上のリアルタイムソフトウエアは、運動情報を、固定された時間間隔で、インターフェースにより接続された位置および標定追跡システム4から、準備段階の間に計算された参照テーブルの補助により読み取り、所要の比較ベクトルを、照射処理の基準システムにおいて決定する。
【0047】
運動の測定の周波数を、特定の位置標定および標定追跡方法に、および所要の測定の正確さに自由に、例えば10Hz〜100Hzに適合させることができる。測定間隔の長さが、監視システムにおける標定測定の継続時間を超える場合には、所定の補償ベクトルは、位置標定および標定追跡システム4の補助により、次のサイクルの運動登録まで最新に維持される。
【0048】
迅速な標定修正の各々の測定サイクル、例えば150μsにおいて、SAMBにより、最新の横方向のビーム位置が、記憶された所望のデータセットから確定され、これに、最新の補償ベクトルの横方向の成分を付与する。新たな所望の位置は、SAMO1によるリアルタイム制御におけるインターフェースにより、ラスタースキャン磁石7および8の制御SAMSに転送され、これは、値を、SAMO1の最新の測定された実際の位置と比較し、必要に応じて、横方向のビーム位置を、フィードバック制御ループにより修正する。
【0049】
修正された所望の位置および運動の情報を、監視システムの他のモジュールすべてに、ロギングおよびデータ整合性の目的のために転送する。さらに、所望の縦方向のビーム位置および所定の縦方向の補償成分から、SAMBは、深さモジュレータ6の設定を計算する。深さモジュレータ6の制御を、SAMBのインターフェースにより直接行う。したがって、図4は、例により、データフローおよび所要のインターフェースを示す。
【0050】
図5は、図式的形態において、曲線g〜nにより、運動補償を、σ=±0.0mm(曲線g)〜σ=±3.0mm(曲線n)の種々の程度の分散で行うことができる場合の、mm単位の浸透の深さwに依存しての相対的な線量の均一性DHに関する運動補償の結果を示す。本発明の装置および本発明の方法を用いた補償の結果、線量の均一性が達成され、これは、運動するターゲット容積とは無関係に、静的であり、即ち患者ベッド上に固定されているターゲット容積の場合における線量の均一性にほぼ到達する。比較により、これらの結果を、曲線fにおいて示すように、およびまた図2に示すように、補償手段を用いずに相対的な線量の均一性に対して設定する。
【0051】
図6は、図式的形態において、運動を、σ=±0.5mm(曲線i)、σ=1.0mm(曲線k)およびσ=1.5mm(曲線l)の分散に伴って検出し、補償することができる場合の、mm単位の浸透の深さwに依存しての静的なターゲット容積の、線量の均一性DHの百分率における線量の均一性の、百分率偏差ΔDHに関する拡大された規模での運動の補償の結果を示す。
【0052】
図7は、本発明を、患者の運動に依存して、即ち患者の身体の領域の運動、例えば胸の呼吸の運動に依存して、イオンビームの図1、8、9および10に示す浸透の深さWを補正するための装置100の例により例示する。装置100は、患者の運動をモニタリングするための位置標定および追跡システム104、イオンビームの患者中への浸透の深さを調整するための深さモジュレータ106並びに、位置標定および追跡システム104および深さモジュレータ106と作動的に接続している運動測定および制御ユニット108を含む。
【0053】
運動測定および制御ユニット108は、メモリを有するマイクロプロセッサ110を含み、ここで、モデル112のデータが記憶されている。モデル112は、ビームの上流の方向において、およびしたがってイオンビームが照射の際に透過しなければならないターゲット容積を覆う健康な組織の構造を記載している。このような種類のモデルは、例えば"A. Schweikardら:Robotic motion compensation for respiratory movement during radiosurgery. Comput Aided Surg. 2000;5(4):263-77"から知られている。
【0054】
運動測定および制御ユニット108は、患者の運動に関する情報を、位置標定および追跡システム104から受ける。このユニットは、マイクロプロセッサの補助により、当該情報を、モデルと共に加工して、深さモジュレータ106のための制御信号を利用可能にする。当該制御信号は、深さモジュレータ106を、患者の運動とは無関係に、イオンビームの浸透の深さが、患者におけるターゲット容積(腫瘍)における特定の瞬間において照射されるべきターゲット容積要素に対して常に調整されるように制御しなければならない。(以下で、特定の文脈からより正確な意味が生じるため、「ターゲット容積」および「ターゲット容積要素」を同義に用いることがある。)
【0055】
この目的のために、特に、ターゲット容積要素に対する健康な組織の運動が必要である。その理由は、粒子ビームの種々のエネルギー吸収が、患者において、ビームが通過する健康な組織に依存して起こり、したがってイオンビームの浸透の深さが、ターゲット容積要素に対する健康な組織の動きの場合に、ビームが通過する組織に依存して変化するからである。ビームが通過する組織に依存してのイオンビームの範囲内での変化を、例えば照射中にオンラインで計算するか、または例えば療法計画の間に、生じたテーブルの補助により決定し、これにより、種々の組織の配置を表すことができる。
【0056】
浸透の深さを補正するための装置100の拡張された態様において、患者に対するイオンビームの標定に関する標定情報を得るための追加の手段114を設けることができる。当該標定情報を、次に、ラスタースキャン装置116を制御する目的のために、モデルおよび患者の運動に関する情報の補助により一緒に用いることができる。この結果、イオンビームは、ターゲット容積の運動をイオンビームに対して横方向に追跡することができ、同時に、ターゲット容積に対する健康な組織の運動に依存して、浸透の深さを修正することが可能である。
【0057】
図8は、本発明に関連する、静的な状態におけるビーム療法の間の観点を示し、ここで、治療の間にビームが通過するターゲット容積120もしくは腫瘍組織120または覆っている組織122もしくは健康な組織122のいずれも運動しない。3つの照射点124(ターゲット容積要素)を、図式的方式で示し、これは、各々の場合において、イオンビーム126A、126Bおよび126Cにより照射される。治療計画の間に、ビームが通過する組織122を分析する。ビームの位置124を深さWに到達させるために、イオンビームエネルギーを、ビームが通過する覆っている容積122と一致するように補正する。このプロセスにおいて、イオンビーム126Bについての場合と同様に、ビームが、例えば骨128を通過するか、これが通過しない(イオンビーム126Aおよび126C)かを考慮に入れる。
【0058】
次に、図9は、図8の図式に患者の運動を補足する;この場合において、例により、骨128は、胸の肋骨に相当し、呼吸の間に、これらは、静的なターゲット容積120に対して矢印Aの方向に運動する。運動していない腫瘍組織124Aの場合において、ビーム位置126Cについて、ビームが通過する特定の覆っている容積122の組成は、呼吸の間に、および照射の間に変化する:時点T=T1において、ビームは肋骨128を通過せず、時点T=T2において、ビームは肋骨128を通過する。したがって、ビームエネルギーを時間に依存する方式で修正して、イオンビーム126Cが、照射の際に浸透の深さWを有することを確実にしなければならない。この目的のために、位置標定および追跡システムは、患者の運動、この場合においては胸の運動をモニタリングし、当該情報を運動測定および制御ユニットに伝達し、ここで、ビームが通過する覆っている容積122のモデルを比較し、深さモジュレータ130の適切な深さの調節をもたらす。例えば、深さモジュレータ130のくさび132および134は、時点T2においては、時点T1におけるよりも大きい程度に重複する。
【0059】
次に、図10は、さらに、ターゲット容積124B自体の方向Bにおける運動を考慮する。このモデルによって患者の運動をモニタリングすることにより、ターゲット容積の運動の決定が可能になる。例えば、図10bにおいて、時点T2において、腫瘍組織124Bは、矢印Bの方向に下方に運動しており、健康な組織122は、矢印Aの方向に上方に運動している。イオンビーム126Cを、例えば126Cと平行に、下方の方向に移動させて、当該照射点124が常に照射されるようにするのは、ビーム再調整装置、例えばラスタースキャン装置の機能である。本発明において、ここでまた、ビームが、健康な組織122を通過し、次に結果的に深さモジュレータを制御する場合には、モデルの補助により、腫瘍組織124Bおよび健康な組織122の相対的な運動に起因する状態の変化を考慮することが可能である。
【0060】
浸透の深さの修正を、本発明にしたがって行うための可能性は、冒頭に概説したように、粒子線治療の場合において、既知のラスタースキャン方法に限定されず、また強度が調節されている照射の場合において用いることができる。プロセスにおいて、ラスタースキャン方法とは対照的に、領域の小さい範囲を、例えば多葉コリメータを用いてマスクし、変化する強度で互いに対して設定する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ビームの上流においてターゲット容積を覆う健康な組織の構造の整合性の変化が、イオン照射(曲線cおよびd)と比較して、光子照射(曲線aおよびb)の場合において、線量の分布を有するという結果を示す図である。
【図2】浸透の深さwに依存する、静的に固定されたターゲット容積(曲線e)および変化した標定のターゲット容積(曲線f)についての相対的な線量の均一性を示す図である。
【図3】本発明の一態様による装置の要素の配置および接続図式の一般化された図示を示す図である。
【図4】図式的形態における、図3の装置の、接続された外部デバイスと一緒の、制御および読出しモジュールのブロック回路図である。
【図5】図式的形態において、運動が、0.0mm〜3.0mmの種々の程度の分散に伴って検出され得る場合の、浸透の深さに依存しての相対的な線量の均一性に関する運動の補償の結果を示す図である。
【図6】図式的形態において、運動が、0.5mm、1.0mmまたは1.5mmの分散に伴って検出され得る場合の、静的なターゲット容積の場合における浸透の深さに依存する相対的な線量の均一性の百分率偏差に関する、拡大された規模での運動の補償の結果を示す図である。
【図7】図式的形態における、本発明の態様による装置のブロック図である。
【図8】図式的形態において、ターゲット容積の照射の静的な場合を示す図である。
【図9】図式的形態において、運動する覆っている容積を有する、静的なターゲット容積の照射の動的な場合を示す図である。
【図10】図式的形態において、運動するターゲット容積および運動する覆っている容積の照射の動的な場合を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ターゲット容積
2 患者ベッド
3 ラスタースキャン装置
4 位置標定および追跡システム
5 イオンビーム
6 深さモジュレータ
7 ラスタースキャン磁石(X偏向)
8 ラスタースキャン磁石(Y偏向)
9 くさび形イオン制動プレート
10 くさび形イオン制動プレート
11 リニアモータ
12 リニアモータ
13 精密ビデオカメラ;X線検出手段;超音波検出手段
14 イオン化チャンバ
15 イオン化チャンバ
16 マルチワイヤー比例チャンバ
17 マルチワイヤー比例チャンバ
18 処置室
19 監視制御コンピュータ
20 破線
21 追加の測定チャンバ
22 くし形フィルター
23 測定チャンバ
【0063】
100 浸透の深さを修正するための装置
104 位置標定および追跡システム
106 深さモジュレータ
108 運動および制御ユニット
110 マイクロプロセッサ
112 モデル
120 ターゲット容積または腫瘍組織
122 ビームが通過する覆っている容積または健康な組織
124 照射点
124A ビーム位置
126A イオンビーム
126B イオンビーム
126C イオンビーム
128 骨
130 深さモジュレータ
132 くさび
134 くさび
【0064】
A 矢印の方向
B 矢印の方向
T 時間
T1 時点
T2 時点
測定値と所望の値との間の差異
Δw 浸透の深さの変化
w 浸透の深さ
SAMO1 標定測定、制御および読出しモジュール
SAMO2 標定測定、制御および読出しモジュール
SAMS ラスタースキャン磁石の制御および読出しモジュール
SAMB 運動測定、制御および読出しモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム照射の間にラスタースキャン装置(3)を用いて、患者支持装置(2)上のターゲット容積(1)の三次元運動を補償するための装置であって、該補償装置は:
−ターゲット容積(1)の三次元運動を検出する位置標定および追跡システム(4)、および
−イオンビーム(5)の浸透の深さwを再調整する深さモジュレータ(6)、
−イオンビーム(5)を横方向に偏向させ、標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)ならびにビーム偏位を変化させるためのモジュール(SAMS)と作動的に接続している、ラスタースキャン装置(3)を含む装置であって、
位置標定および追跡システム(4)が、運動測定、制御および読出しモジュールSAMBと作動的に接続しており、
深さモジュレータ(6)が、運動測定、制御および読出しモジュールSAMBと作動的に接続しており、
運動測定、制御および読出しモジュール(SAMB)が、メモリを有するマイクロプロセッサを含み、
該メモリが、ターゲット容積(1)をビームの上流方向において覆っている健康な組織の構造のモデルのデータを含み、
マイクロプロセッサが、ターゲット容積(1)の検出された運動を、イオンビーム(5)に対して縦方向と横方向の成分にベクトル的に分解し、縦方向の成分を、イオンビーム(5)の浸透の深さwを修正するために、記憶されたモデルと比較する、演算要素を含む
ことを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
ラスタースキャン装置(3)が、2つのラスタースキャン磁石(7、8)を含み、これが、イオンビーム(5)を、ラスタースキャン磁石(7、8)への結合方向に関して直角に、好ましくは互いに対して直角に配置された2つの方向に偏向させ、これが次に、ターゲット容積(1)の領域をスライス状にラスタースキャンするために、互いに垂直に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ラスタースキャン磁石(7、8)が、高速反応電源ユニットにより制御されることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
装置が、ターゲット容積(1)を浸透の深さwに関してずらしてスライス状に照射することができるように、イオンビーム(5)のエネルギーを調整することができるイオン加速要素を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
深さモジュレータ(6)が、ラスタースキャンしたイオンビーム(5)の照射域全体を覆う、くさび形の断面を有する2つのイオン制動プレート(9、10)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
イオン制動プレート(9、10)が、リニアモータ(11、12)上に載置されていることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
イオン制動プレート(9、10)が、電磁的に作動可能な台車上に配置されていることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
イオン制動プレート(9、10)が、イオンビーム(5)の領域において重なり合うくさび形断面により、互いに対して移動可能であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
位置標定および追跡システム(4)が、少なくとも1つの精密なビデオカメラ(13)および/またはX線検出手段および/または超音波検出手段を有し、これらが、運動測定、制御および読出しモジュールSAMB内の画像評価ユニットと作動的に接続していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
イオンビーム流の強度をモニタリングするための高速読出しを有するイオン化チャンバ(14、15)が、伝達カウンタとしてイオンビーム(5)のビーム経路に配置されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
イオン化チャンバ(14、15)が、ラスタースキャン装置(3)と深さモジュレータ(6)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
マルチワイヤー比例チャンバ(16、17)が、標定感受性検出器として、深さモジュレータ(6)の上流のビーム方向に配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
イオンビームの浸透の深さを、治療施設の患者支持装置上の患者の運動に依存して補正するための装置であって、
−患者の運動をモニタリングするための位置標定および追跡システム(4)、
−イオンビームの患者中への浸透の深さを調整するための深さモジュレータ、および
−位置標定および追跡システム(4)ならびに深さモジュレータに接続されており、位置標定および追跡システム(4)からの患者の運動に関する情報を受け、浸透の深さを補正するための深さモジュレータを制御する、運動測定および制御ユニット
を含む装置であって、
前記運動測定および制御ユニットが、メモリを有するマイクロプロセッサを含み、該メモリは、ビームの上流方向におけるターゲット容積を覆う健康な組織の構造のモデルのデータを含み、前記マイクロプロセッサは、患者の運動に関するモデルおよび情報の補助により、イオンビームの浸透の深さが、患者の運動とは無関係に、特にターゲット容積に相対する健康な組織の運動とは無関係に患者のターゲット容積要素に調整されるように、深さモジュレータを制御する
ことを特徴とする、前記装置。
【請求項14】
ビームが通過する組織のエネルギー吸収、およびその結果、ビームが通過する組織に依存するイオンビームの範囲の変化を、モデルから計算することができることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
ビームが通過するべき組織を、患者およびモデルの運動に関する情報から決定することができることを特徴とする、請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
モデルが、身体の運動状態に伴って、健康な組織における電子密度分布の変化(例えば、多次元投影放射線写真により、または時間分解されたCTデータセットから得られる)と相関することを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
深さモジュレータが、浸透の深さを補正するために、イオンの運動エネルギーを補正するための装置を含む、請求項13〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
装置がさらに、患者に対するイオンビームの標定に関する標定情報を得る手段を含み、運動測定および制御手段が、標定情報に基づいて、患者の運動に関するモデルおよび情報の補助と共にラスタースキャン装置を制御し、それによりイオンビームがイオンビームに対して横方向にターゲット容積の運動を追跡することを特徴とする、請求項13〜17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
ラスタースキャン装置(3)が、2つのラスタースキャン磁石(7、8)を含み、これが、イオンビーム(5)を、ラスタースキャン磁石(7、8)中への結合方向に対して直角に、好ましくは互いに対して直角に配置された2つの方向に偏向させ、これが次に、ターゲット容積(1)の領域をスライス状にラスタースキャンするために、互いに垂直に配置されていることを特徴とする、請求項13〜18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
ラスタースキャン磁石(7、8)が、高速反応電源ユニットにより制御されることを特徴とする、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
装置が、ターゲット容積(1)を浸透の深さwに関してずらしてスライス状に照射することができるように、イオンビーム(5)のエネルギーを調整することができるイオン加速要素を含むことを特徴とする、請求項13〜20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
深さモジュレータ(6)が、スキャンしたイオンビーム(5)の照射帯域全体を覆う、くさび形の断面を有する2つのイオン制動プレート(9、10)を含むことを特徴とする、請求項13〜21のいずれかに記載の装置。
【請求項23】
イオン制動プレート(9、10)が、リニアモータ(11、12)上に載置されていることを特徴とする、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
イオン制動プレート(9、10)が、電磁的に動作可能な台車上に配置されていることを特徴とする、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
イオン制動プレート(9、10)が、イオンビーム(5)の領域において重なり合うこれらのくさび形断面により、互いに対して移動可能であることを特徴とする、請求項22〜24のいずれかに記載の装置。
【請求項26】
位置標定および追跡システム(4)が、少なくとも1つの精密なビデオカメラ(13)および/またはX線検出手段および/または超音波検出手段を有し、これらが、運動測定、制御および読出しモジュールSAMB中の画像評価ユニットと作動的に接続していることを特徴とする、請求項13〜25のいずれかに記載の装置。
【請求項27】
マルチワイヤー比例チャンバ(16、17)が、標定感受性検出器として、深さモジュレータ(6)の上流のビーム方向に配置されていることを特徴とする、請求項13〜26のいずれかに記載の装置。
【請求項28】
ビームの上流方向におけるターゲット容積を覆う健康な組織の構造を検出するための装置が、イオンビーム照射の準備段階およびイオンビーム照射の間における、X線および/または超音波検出を含むことを特徴とする、請求項13〜27のいずれかに記載の装置。
【請求項29】
ラスタースキャン磁石(7、8)が、該ラスタースキャン磁石(7、8)のための制御および読出しモジュール(SAMS)による水平および垂直な修正のためのスキャナー磁石電流電源ユニットを含むことを特徴とする、請求項13〜28のいずれかに記載の装置。
【請求項30】
標定測定のために、マルチワイヤー比例チャンバ(16、17)を、標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)により備えており、横方向の補償の目的のために、監視システムの標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)中に記憶された、照射計画の所望の位置に関する情報を、標定感受性検出器からのビーム位置の測定された実際の位置と、リアルタイムで、ターゲット容積(1)の検出された横方向の運動成分を考慮して比較することが可能であることを特徴とする、請求項13〜29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
ラスタースキャン装置(3)が、横方向のXおよびY方向における標定修正のためのスキャナー磁石電源ユニット、および縦方向の深さ修正のためのビーム位置ごとの深さモジュレータ(6)を備えていることを特徴とする、請求項13〜30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
標定感受性検出器の標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)によるリアルタイムでの、および/または深さモジュレータ(6)の運動測定、制御および読出しモジュール(SAMB)によるビームの迅速な停止が、測定値と横方向のビーム位置の、および/または浸透の縦方向の深さwの所望の値との間の差異が、制御および読出しモジュールSAMOおよび/またはSAMBのリアルタイムソフトウエアにおいて設定され得るしきい値を超えた場合に可能であることを特徴とする、請求項13〜31のいずれかに記載の装置。
【請求項33】
患者ベッド(2)上のターゲット容積(1)の三次元運動を、イオンビーム照射中にラスタースキャン装置(3)を用いて補償する方法であって、該方法が:
−ビームの上流方向におけるターゲット容積(1)を覆う健康な組織の構造を検出する工程;
−前記覆っている健康な組織の検出された構造のデジタルモデルを生成する工程;
−運動測定、制御および読出しモジュール(SAMB)のメモリに前記モデルを記憶する工程;
−ターゲット容積(1)を処置室(18)中の患者ベッド(2)上に配置させる工程;
−ターゲット容積(1)の三次元運動をリアルタイムで、位置標定および追跡システム(4)による照射手順の間に検出する工程;
−運動を、縦方向および横方向の成分にベクトル的に分解する工程;
−運動の横方向の成分を、ラスタースキャン装置(3)のラスタースキャン磁石(7、8)の修正制御により補償する工程;
−運動の縦方向の成分を、記憶されたモデルのデータとの比較および深さモジュレータ(6)の設定の比較に基づく補正により補償する工程
を含む、前記方法。
【請求項34】
ビームの上流方向におけるターゲット容積を覆う健康な組織の構造の検出を、イオンビーム照射の準備段階および照射中に、X線および/または超音波検出により行うことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ラスタースキャン磁石(7、8)を、該ラスタースキャン磁石(7、8)のための制御および読出しモジュール(SAMS)による水平および垂直な修正のためのスキャナー磁石電流電源ユニットにより制御することを特徴とする、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
マルチワイヤー比例チャンバ(16、17)を用いて、標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)により、標定測定を登録および評価し、監視システムの標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)中に記憶された、照射計画の所望の位置に関する情報を、横方向の補償の目的のために、標定感受性検出器からのビーム位置の測定された実際の位置と、リアルタイムで、ターゲット容積(1)の検出された横方向の運動成分を考慮して比較することを特徴とする、請求項33〜35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
ラスタースキャン装置(3)のスキャナー磁石電源ユニットによって、横方向のXおよびY方向における標定修正を、また、深さモジュレータ(6)によって、縦方向の深さ修正を、ビーム位置ごとに行うことを特徴とする、請求項33〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
測定値と横方向のビーム位置の、および/または浸透の縦方向の深さwの所望の値との間の差異が、制御および読出しモジュールSAMOおよび/またはSAMBのリアルタイムソフトウエアにおいて設定され得るしきい値を超えた場合に、標定感受性検出器の標定測定、制御および読出しモジュール(SAMO)によりリアルタイムで、および/または深さモジュレータ(6)の運動測定、制御および読出しモジュール(SAMB)によりビームの迅速な停止を開始することを特徴とする、請求項33〜37のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−501457(P2008−501457A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526309(P2007−526309)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006224
【国際公開番号】WO2005/120641
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(504343177)ゲゼルシャフト フュア シュヴェリオーネンフォルシュング ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【氏名又は名称原語表記】Gesellschaft fuer Schwerionenforschung mbH
【住所又は居所原語表記】Planckstr. 1, D−64291 Darmstadt, Germany
【Fターム(参考)】