イオン交換クロマトグラフィーによる高比重リポ蛋白(HDL)および低比重リポ蛋白(LDL)の亜分画の測定方法
【課題】高価な測定装置が必要なく、簡便で充分にLDL、HDLを複数に分画することが出来る測定方法の提供。
【解決手段】本発明は、LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、ここで溶離液1、2、3の各々の塩濃度は明細書に開示の条件を満たすことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、ここで溶離液1、2、3の各々の塩濃度は明細書に開示の条件を満たすことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
試料中に含まれる高比重リポ蛋白(HDL)、低比重リポ蛋白(LDL)の中の亜分画を分離測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中のリポ蛋白には、大きく分類して、比重の軽い順にカイロマイクロン(CM)、超低比重リポ蛋白(VLDL)、中間型リポ蛋白(IDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)の5種類が知られている。VLDLは肝臓で産生され、血液中で代謝されることによりIDLを経由し、LDLとなる。LDLは抹消組織細胞に脂質を供給する。LDLには比重に異なるものが存在していることが知られており、近年、血液中に比重の高いLDLが多いことは、動脈硬化を進展させる主要なリスクファクターになると考えられている(非引用文献1)。また、高脂血症の患者について、投薬前と投薬後の血清中のLDLを比重、あるいは、粒子径により数種類に分けて、その濃度の変化を評価することで投薬によるリポ蛋白の代謝の改善を詳細に解析することが出来る(非特許文献2、3)。HDLは、小腸からコレステロールを含有しない粒子として産生され、血液中で抹消組織細胞やLDLから余分なコレステロールを取り込み、肝臓に吸収される。このように、HDLは、産生された後にコレステロール含量が多くなることにより、徐々に比重が重くなり、粒子径も大きくなる。HDLも、LDLと同様に、高脂血症の患者の投薬前と投薬後の血清中のHDLを比重、あるいは、粒子径により数種類に分けて、その濃度の変化を評価することで投薬によるリポ蛋白の代謝の改善を詳細に解析することが出来る(非特許文献2、3)。
【0003】
このように、LDL、HDLを更に詳細に分けて、病態やその治療の評価を行うことは重要である。その分析法としては、超遠心分離装置(非特許文献1、2)、NMR分析装置(非特許文献3、4)、ゲルろ過クロマトグラフィー(非特許文献5)、電気泳動(非特許文献6)による方法があるが、超遠心分離装置やNMR分析装置は高価な装置であり、汎用性に乏しい。また、NMR分析装置やゲルろ過カラムや電気泳動による方法は各リポ蛋白の亜分画を分離する能力が充分でないという問題点がある。
【0004】
【非特許文献1】Griffin Bら、Atherosclerosis 106、p241(1994)
【非特許文献2】Guerin Mら、Arteriosclerosis Thrombosis and Vascular Biology 20、p189(2000)
【非特許文献3】Ikewaki Kら、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 11、p278(2004)
【非特許文献4】Otvos J D、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p609(2000)
【非特許文献5】Okazaki Mら、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p647(2000)
【非特許文献6】Hoefner D Mら、Clinical Chemistry 47、p266(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、血液中に含まれるリポ蛋白であるLDL、HDLを更に複数に分画することは重要であるが、高価な装置が必要なく、その分離する能力が充分で簡便な測定方法がこれまでなかった。本発明の目的は、高価な測定装置が必要なく、簡便で充分にLDL、HDLを複数に分画することが出来る測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果として、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、LDLを2つの分画に分離する方法として、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離する方法で、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低い溶離液を用いることにより、使用する陰イオン交換カラムによって試料中に含まれる吸着力が強いLDL画分と吸着力が弱いLDL画分の2つに分離する測定方法を発明した。
【0008】
また、HDLを2つの分画に分離する方法として、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低い溶離液を用いることにより、使用する陰イオン交換カラムによって試料中に含まれる吸着力が強いHDL画分と吸着力が弱いHDL画分の2つに分離する測定方法を発明した。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、血清中に含まれるリポ蛋白であるHDLおよびLDLの亜分画を精度良く分離し測定する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について、詳細に説明する。
上述したように、血清中に含まれる主要なリポ蛋白としては、HDL,LDL、IDL、VLDL、CMの5種類が知られている。また、それぞれのリポ蛋白は、比重、あるいは、粒子径の差により、さらに詳細に分けられることが知られており、特にHDL、LDL、VLDLについては、その各リポ蛋白の亜分画について、多くの研究報告がある。その中で、脂質代謝を理解する上で、また、動脈硬化のリスクファクターの候補として、HDL、LDLの亜分画を評価し、研究を進めることは重要である。
【0011】
HDL、LDLの亜分画の分離測定方法としては、超遠心分離装置を用いた方法が一般に行われており、分離する能力も高いが、手技が難しく、また、超遠心分離装置は高価なため、多くの研究者が実施することは出来ない。NMRやゲルろ過クロマトグラフィーによる測定方法の手技は難しくないが、どちらもHDL、LDLの亜分画を分離する能力は十分とは言えない。電気泳動による測定方法は、手技は難しくないが、分離する能力は十分とは言えないし、一般的に定量性という面で性能の低い測定方法である。
【0012】
陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白の分離は、一般的な液体クロマトグラフィーの装置を用いて実施が可能で、分離した後にコレステロールと反応する市販の酵素液(例えば総コレステロールEテストワコー、和光純薬株式会社製)と混合して反応させ可視光検出器で測定することが出来て、簡便で定量性も良いことが知られている(Hirowatari Yら、Journal of Lipid Research 44、p1404(2003))。我々は、この陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白分析の手法を用いて、HDL、LDLの亜分画を分離することを試みた。まず、リニアグラディエントにより、超遠心分離法で分離し取得したHDL3(比重1.125g/ml以上)、HDL2(比重1.063〜1.125g/ml)、LDL1(比重1.019〜1.035g/ml)、LDL2(比重1.035〜1.045g/ml)、LDL3(比重1.045〜1.063g/ml)を測定した。HDL2はHDL3より遅く溶出し、LDLは、LDL2、1、3の順に溶出することがわかった(図2〜8)。しかしながら、リニアグラディエントでは分離が十分ではなかった。これらの結果を考慮し、HDLについては、HDL3の含まれる量が多い画分とHDL2の含まれる量の多い画分の2つに、LDLについては、LDL2の含まれる量の多い画分(LDLf)とLDL3の含まれる量の多い画分(LDLs)の2つに、各々3つの溶離液を用いたステップ溶出により、十分な分離を実現した(図9、10)。
【0013】
使用出来る陰イオン交換カラムに充填されるゲルとしては、シリカ系やポリマー系のゲルにジエチルアミノエチル(DEAE)基や第4級アミノエチル(QAE)基が結合されたもの、また、そのゲルの表面に1000オングストローム程度の孔があるもの(多孔質)と孔がないもの(非多孔質)があるが、好ましくは、リポ蛋白に対して分離性能の高い非多孔質のタイプ、例えばポリマー系の非多孔質タイプの表面にDEAE基を持つゲルをカラムに充填したTSK−GEL DEAE−NPR(東ソー(株)製)が挙げられる。溶離液は、リポ蛋白の分離能力の高い過塩素酸ナトリウムなどのカオトロピックイオンを含んだ溶離液が望ましい。
【0014】
分離に使用する塩濃度の異なる溶離液1、2、3又は1’、2’、3’は、塩濃度の低い順にカラムに流す。この3種類の溶離液の役割としては、HDL亜画分を分離する場合には、溶離液1’はHDL画分を吸着させ、溶離液2’はHDL3の含まれる量が多い画分(以下、HDL3+)を溶出させ、溶離液3’はHDL2の含まれる量が多い画分(以下、HDL2+)を溶出させることにある。同様に、LDL亜画分を分離する場合には、溶離液1はLDL画分を吸着させるとともにHDL画分を溶出させ、溶離液2はLDL2の含まれる量が多い画分(以下、LDLf)を溶出させ、溶離液3はLDL3の含まれる量が多い画分(以下、LDLs)を溶出させことにある。かつ、溶離液3は、陰イオン交換カラムにおいて、LDLより溶出の遅いIDL、VLDL、CMをLDLsより溶出させない塩濃度とする。同時に溶出すると、LDLsの精度が低下する。IDLは3型高脂血症という遺伝性の病態以外ではその量は少なくLDLsの精度に大きな支障はでないが、VLDLやCMは病状の軽い高脂血症においても、ある程度存在するので、LDLsの測定精度が著しく低下するので問題となる。LDL1は、リニアグラディエントの実験からLDL2とLDL3の間に溶出することが確認されているので、LDLsとLDLfの両方の画分に含まれることになる。また、溶離液1と2又は溶離液1’と2’や溶離液2と3又は溶離液2’と3’の間にHDL亜画分やLDL亜画分の分離を高めるために更に新たな塩濃度の溶離液を加えたり、分離溶出する条件として、段階的に溶離液の塩濃度を高める条件を加えたりしても良い。
【0015】
使用する溶離液1、2、3又は1’、2’、3’の塩濃度は、HDL亜分画を分離する目的には、HDL画分を陰イオン交換カラムに吸着させる溶離液1’については、HDLがリポ蛋白の中でもチャージが低く、また、HDLよりチャージの少なく陰イオン交換カラムにおいてHDLより早く溶出するリポ蛋白はないので、その塩濃度は80mmol/Lと低い溶離液が適切である。溶離液2’は、次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことが、HDL3の含まれる量の多いHDL亜画分を溶出するのに適切であり、溶離液3’の塩濃度は残りのHDL2の含まれる量の多いHDL亜画分を完全に溶出する、そして、次にチャージの高いリポ蛋白であるLDLを溶出させない130mmol/Lから180mmol/Lの濃度が適切である。また、使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、最も好ましい条件は、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1’の塩濃度は68mmol/L以下であり、溶離液2’は次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3’の塩濃度に対して21%から27%溶離液3’より塩濃度が低く、溶離液3’の塩濃度は143mmol/Lから163mmol/Lとする。
【0016】
LDL亜分画を分離する目的には、LDL画分を陰イオン交換カラムに吸着させる溶離液1は、HDL画分を吸着させない、または、溶出するように、その塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lが適切であり、溶離液2は溶離液1と次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことが、LDL2の含まれる量の多いLDL亜画分を溶出するのに適切であり、溶離液3の塩濃度はLDL3含まれる量の多いLDL亜画分を溶出する溶離液1より塩濃度が20mmol/Lから50mmol/L高いことが適切である。また、使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、最も好ましい条件は、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1の塩濃度は143mmol/Lから163mmol/Lであり、溶離液2は溶離液1と次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3の塩濃度の差に対して22%から52%溶離液3より塩濃度が低く、溶離液3の塩濃度は溶離液1より25mmol/Lから35mmol/L低くする。
【0017】
好ましい塩として、上述のとおり過塩素酸ナトリウムが使用されるが、その他、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが上げられる。また、溶離液の塩濃度とは加えた試薬の解離しているイオンの塩濃度であり、過塩素酸ナトリウムの場合には、ほぼ100%が解離しているので、過塩素酸ナトリウムを100mmol/L入れた場合には、その塩濃度は100mmol/Lとなる。緩衝液に依存する塩濃度はその試薬の解離定数から算出するが、実施例で使用した50mmol/Lのトリス緩衝液はpH8のときの解離した分子の濃度(塩濃度)は、トリスのpKa=8.1から算出すると約28mmol/Lとなる。
【0018】
使用する溶離液には、緩衝液を加え、pHを6から9に調製することが好ましい。加える緩衝液の種類としては、例えばTris−HCl、リン酸緩衝系、ホウ酸緩衝液など、当業界において慣用のあらゆるものが使用できる。
【0019】
本発明で得られたHDL2+は超遠心分離法によるHDL2の値と、本発明で得られたHDL3+は超遠心分離法によるHDL3の値と、本発明で得られたLDLfは超遠心分離法によるLDL2の値と、本発明で得られたLDLsは超遠心分離法によるLDL3の値と有為な正の相関を示すことを確認した(図14、18、19、20)。
【0020】
また、HDL3は、血液中で抹消組織細胞やLDLから余分なコレステロールを取り込むことにより、HDL2となり肝臓に吸収される。このことから、HDL3の割合が多いと脂質代謝が良好であると言える。また、LDLに関しては、肝臓で作られたVLDLが血液中でIDLに、続いて、LDL1に、そして、LDL2に酵素的に変換される。最終的に、LDL2は肝臓で吸収される。しかし、LDL2が速やかに肝臓で吸収されないとLDL3(small dense LDL)が産生されると考えられているので、LDL3の割合が多いと脂質代謝が悪いと言える。高脂血症患者において、本測定法を適用して得られた測定値を評価し、HDL(HDL2+とHDL3+の総和)に対するHDL2+、あるいは、HDL3+に対するHDL2+の値に関して、LDL(LDLfとLDLsの総和)に対するLDLs、あるいは、LDLfに対するLDLsを評価すると正の相関することが確認された(図21〜24)。また、HDL(HDL2+とHDL3+の総和)に対するHDL3+の値に関して、LDLに対するLDLfの値を評価すると正の相関となり、LDLfに対するLDLsを評価すると負の相関となることが確認された(図25〜26)。これらのことから、本発明で得られたLDL亜分画あるいはHDL亜画分の2つの測定値の、一方に対する他方の比や、2つの合計した測定値の値に対する1つの比は、脂質代謝の病態を見る1つの指標として用いることが出来る。
【実施例】
【0021】
以下に本発明について、実施例を用いて説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
図1に装置の形態を示す。実施例に用いた装置構成を下記に示す。
溶離液A(1)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na pH7.5、溶離液B(2)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na+500mM 過塩素酸ナトリウム pH7.5である。溶離液AとBを流すポンプ(4)はCCPM2(東ソー(株)製)を用いた。CCPM2は、ポンプヘッドを2つもち、溶離液2液のグラディエントを行えるポンプである。溶離液AとBを混合するミキサー(5)はスタティックミキサーC(東ソー(株)製)を用いた。オートサンプラー(6)はAS−8020(東ソー(株)製)を、カラムオーブン(9)はCO−8021(東ソー(株)製)を用いた。カラム(8)はDEAE−NPRカラムサイズ4.6mmI.D.x35mm(東ソー(株)製)を、フィルター(7)はHLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)を用いた。コレステロール反応液(10)はTCHO−CL(セロテック社製)を、ポンプ直前にエアートラップ(11)を設置した。コレステロール反応液のためのポンプ(12)はDP−8020(東ソー(株)製)を用いた。溶離液AとBおよびコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置した。コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.x2mを2つ直列につないで設置した。反応コイル(14)は、0.25mmI.D.x30mとした。検出器はUV−8020(東ソー(株)製)(15)を用いた。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。
【0023】
溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から21.8分はBの組成を37.0%に固定し、21.8分から22.3分はBの組成を37.0%から100.0%へのリニアグラディエントとし、22.3分から23.8分はBの組成を100.0%に固定し、23.8分から24.3分はBの組成を100.0%から10.0%へのリニアグラディエントとし、24.3分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、HDL亜画分の検討を行った。なお、本分析において、1検体の測定時間は40分とした。なお、本測定機器のこの溶出パターンの時間の設定と実際にカラムに流れる溶離液の組成には、ポンプからカラムまでの配管容量とカラムから溶出してから反応して検出するまでに要する時間により4分のタイムラグが生じる。
【0024】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(比重1.063〜1.125mg/ml)とHDL3(比重1.125mg/ml以上)を測定した。健常人検体では、溶出時間9.27分にHDL3を主体としたピークが、溶出時間12.60分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間16.08分にLDLが、溶出時間19.20分にVLDLが確認された(図2)。HDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間12.29分に確認され、小さなピークが溶出時間17.00分に確認された(図3)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。HDL3試料を分析した際には、溶出時間として11.42分のピークが確認された(図4)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいてHDL3はHDL2より早く溶出する性質を有することがわかった。
【0025】
また、図2の溶出パターンを見ると、HDL3の溶出はグラディエント条件15%ぐらいから始まっている。図3の超遠心で分離したHDL3の試料を測定した結果では、グラディエント条件18%ぐらいから溶出が始まっているが、この差は超遠心で分離したHDL3の試料には血清由来の蛋白が含まれないためだと考えられる。これらの結果からHDL亜分画を測定する場合のHDL全体を吸着させる溶離液(溶離液1’)は確実に吸着が起こる8%以下が好ましい。8%の時の過塩素酸ナトリウム濃度は40mmol/Lであり、50mmol/L トリス緩衝液 pH7.5の塩濃度は40mmol/Lであるので、全体で80mmol/L以下が望ましいと言える。また、HDL2は図3からわかるように、18%の時から溶出が開始され28%には完全に溶出が終了する。このことから、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)は18%の組成の溶離液(塩濃度130mmol/L)を流し長い時間をかけて溶出するか、28%の組成の溶離液(塩濃度180mmol/L)を短時間流せば良い。溶離液3’の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。
【0026】
次に、pH8.0の溶離液を用いて、溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から22.0分はBの組成を37.0%に固定し、22.0分から26.0分はBの組成を100.0%に固定し、26.0分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、LDL亜画分の検討を行った。なお、1検体の測定時間は40分とした。
【0027】
健常人の血清検体と、高脂血症患者から超遠心分離装置を用いた方法で得られたLDL1(比重1.019〜1.035mg/ml)とLDL2(比重1.035〜1.045mg/ml)とLDL3(比重1.045〜1.063mg/ml)を測定した。健常人検体では、溶出時間12.81分と13.91分に2つに分かれてHDL3を主体としたピークが、溶出時間15.89分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間19.20分にLDLが確認され、LDLと分離したピークとして確認はされていないが22分ぐらいに溶出されている画分はVLDLと推定される(図5)。LDL1試料を分析した際には、溶出時間として19.85分のピークが確認された(図6)。LDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間19.49分に確認され、小さなピークが溶出時間21.70分に確認された(図7)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。LDL3試料を分析した際には、溶出時間として19.92分のピークが確認された(図8)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、LDL亜画分の溶出する順序は、LDL2、LDL1、LDL3となることがわかる。
前述したように、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいとわかった。このことは、HDL画分を吸着、もしくは、溶出させて、なおかつ、LDL画分を吸着させるための溶離液(溶離液1)も同様に130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。実際に図5から8を見ると、LDLの溶出は約30%(塩濃度は、過塩素酸濃度が150mmol/L、50mmol/L トリス緩衝液 pH8.0の塩濃度は28mmol/Lであるので、全体で約180mmol/Lとなる。)から始まっている。また、LDL画分をすべて溶出するための溶離液(溶離液3)は、LDL画分の溶出する溶離液の塩濃度が図6〜8から30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)となり、30%程度の溶離液を長時間流すか、あるいは、34%程度の溶離液を短時間流すかのどちらかを選択する。このことから、溶離液3の濃度は、30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)が好ましい濃度となり、溶離液1との差はおおむね20〜50mmol/Lである。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用い、溶離液のpHは8.0として、検討を行った。
溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を27.8%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を29.5%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を33.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を43.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を63.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。
【0029】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(比重1.063〜1.125mg/ml)、HDL3(比重1.125mg/ml以上)、LDL1(比重1.019〜1.035mg/ml)、LDL2(比重1.035〜1.045mg/ml)、LDL3(比重1.045〜1.063mg/ml)、IDL(比重1.006〜1.019mg/ml)、VLDL(比重0.930〜1.006mg/ml)、CM(比重0.930mg/ml以下)を測定した。
【0030】
HDL3試料については、溶出時間5.9分に主たるピークが見られ、溶出時間8.4分にマイナーなピークが確認され、HDL2試料については、溶出時間8.5分にピークが確認された(図9)。LDL3試料は、溶出時間12.9分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認され、LDL2試料は、溶出時間12.1分に主たるピークが見られ、溶出時間15.0分と18.8分にマイナーなピークが確認され、LDL1試料は、溶出時間12.3分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認された(図9)。IDL試料は、溶出時間18.6分に主たるピークが見られ、溶出時間15.9分にマイナーなピークが確認され、VLDL試料は、溶出時間22.0分に主たるピークが見られ、溶出時間25.2分にマイナーなピークが確認され、CM試料では、ピークは確認されなかった(図9)。これらの結果から、健常人の血清検体において見られる溶出時間6.7分、8.6分、12.1分、15.2分、18.8分、21.9分、25.2分のピークは、それぞれ、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図9)。
【0031】
次に、高脂血症患者検体においても、同様の検討を行った。各画分の分析結果から、高脂血症患者の血清検体において見られる溶出時間6.5分、8.5分、11.8分、15.1分、18.8分、22.0分、25.1分のピークは、それぞれ、健常人血清と同様に、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図10)。
【0032】
このように、溶離液B8%(過塩素酸ナトリウム40mmol/l)において、リポ蛋白画分を吸着させ、溶離液B19%(過塩素酸ナトリウム95mmol/l)において、HDL3を多く含むHDL画分を溶出させ、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL2を多く含むHDL画分を溶出させることが出来る。そして、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL画分がすべて溶出した後に、溶離液B27.8%(過塩素酸ナトリウム139mmol/l)において、LDL2を多く含むLDLf画分を溶出させ、溶離液B29.5%(過塩素酸ナトリウム147.5mmol/l)において、LDL3を多く含むLDLs画分を溶出させることが出来る。その後、溶離液B33.0%(過塩素酸ナトリウム165mmol/l)においてIDL画分を、溶離液B43.0%(過塩素酸ナトリウム215mmol/l)においてVLDL画分を、溶離液B63.0%(過塩素酸ナトリウム315mmol/l)においてCM画分を溶出する。以上のように、ステップ溶出を用いることにより、HDL3+、HDL2+、LDLf、LDLs、IDL、VLDL、CMの7つのリポ蛋白分画を良好に分離し測定することが出来る。
以上の結果から、ステップ溶出によるHDL亜画分の最も好ましい溶出条件は、溶離液1が塩濃度68mmol/L(溶離液B8%)以下であり、溶離液2が溶離液3より塩濃度が22.4%(溶離液3が溶離液B24.5%であり、溶離液2が溶離液B19%である。)低く、溶離液3が143〜163mmmol/L(溶離液B23〜27%)である。また、ステップ溶出によるLDL亜画分の最も好ましい溶出条件は、溶離液1がHDL亜画分の溶離液3と同じく、塩濃度143〜163mmmol/L(溶離液B23〜27%)であり、溶離液2が溶離液1と3の塩濃度の差の34%溶離液3より低く(溶離液3が溶離液B29.5%であり、溶離液2が溶離液B27.8%である。)、溶離液3が178〜188mmmol/L(溶離液B30〜32%)であり、よって、溶離液1より25〜35mmmol/L高い。
【0033】
(実施例3)
実施例2と同じ条件で、LDLfとLDLsの溶出条件を検討することを目的として、LDLfを溶出する溶離液をB25.0〜29.0%(過塩素酸ナトリウム125〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した。高脂血症患者2名の血清試料を用いた。結果を表1と2に示す。また、そのLDLs/LDLfの比率(%)の変動を図11に示した。図11から、溶離液B26.3%(過塩素酸ナトリウム131.5mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。溶離液B26.3%でLDLf画分を溶出する前の溶離液はB24.5%であり、LDLs画分を溶出する溶離液はB29.5%であるので、LDL亜画分を溶出する条件として、2番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として3.2%であり、1番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として5%であるので、その割合(低下率)は64%である。このことから、安定して測定するには、2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率としては少なくとも64%以下である必要がある。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
また、LDL3の含量はLDL全体の5〜30%程度とわかっており、LDLsのLDL3の含量が適当となるLDLs/LDLfの比率(%)は、5.3〜43%となる。このことを考慮すると、LDLfを溶出する塩濃度はB28.7%以下であり、これは、上記のように算出すると2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率16%である。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜60%といえ、さらに安定的に値を得るための好ましい塩濃度はB26.9〜28.4%であるので、低下率としては22〜52%である。
【0037】
実施例2と同じ条件で、HDL3+とHDL2+の溶出条件を検討することを目的として、高脂血症患者1名の血清試料を用いて、HDL2+を溶出する溶離液をB16.6〜19.9%(過塩素酸ナトリウム83〜99.5mmol/l)に変動させて、測定を実施した。結果を表3に示す。また、そのHDL2/HDL3の比率(%)の変動を図12に示した。図12から、溶離液B17.8%(過塩素酸ナトリウム89mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。また、溶離液をB17.8%以上に高めた場合には緩やかに値が低下することがわかる。HDL2の含有量の多い画分のピークが小さくなると測定再現性が低下するので、HDL2+/HDL3+の比率(%)として30%以上が適切と言える。なお、この高脂血症患者の血清中には、超遠心分離法によりHDL2とHDL3の含量が同程度であることを確認している。これらの結果から、HDL3の含有量の多い画分(HDL3+)を溶出する適切な溶離液はB17.8〜19.3%である。HDL2+を溶出するために用いた溶離液(3番目の溶離液)はB24.5%であるので、2番目に流す溶離液の塩濃度は3番目に流す溶離液の塩濃度より21.2〜27.3%低いことになる。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜30%といえる。
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例4)
実施例2と同じ条件で、高脂血症患者17名の血清試料を測定し、評価した。結果を表4〜表6に示す。なお、表に記載した濃度の単位はすべてmg/dlである。本発明によるLDLfの値と超遠心分離法によるLDL1、LDL2、LDL3の値を比較したところ(図13〜15)、LDL2と特に有為な正の相関を示した(図14)。また、LDLsの値と超遠心分離法によるLDL1、LDL2、LDL3の値を比較したところ(図16〜18)、LDL3と特に有為な正の相関を示した(図18)。本発明によるHDL2、HDL3の値は、それぞれ、超遠心分離法によるHDL2、HDL3の値と有為な正の相関を示した(図19、20)。このように、本発明で分離された、HDL亜画分(HDL2とHDL3)、LDL亜画分(LDLfとLDLs)は、すべて、超遠心分離法で得られた各画分に多く含まれるリポ蛋白画分と有為な正の相関を示すことから、病態の把握や投薬治療の評価に用いることが出来ると言える。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
また、血清中のHDL2の量は脂質代謝の停滞を評価することが出来るが、本発明におけるHDL3+に対するHDL2+の比率(%)(HDL2+/HDL3+)、あるいは、HDL全体の量に対するHDL2+の比率(%)(HDL2+/HDL total)は、脂質代謝が悪いと増加することが知られているLDL3(small dence LDL)と相関のあるLDLsのLDL全体の量に対する比率(%)(LDLs/LDL total)、あるいは、LDL全体に対するLDLsの比率(%)(LDLs/LDLf)と有為な正の相関を示した(図21〜24)。また、本発明におけるHDL全体の量に対するHDL3+の比率(%)(HDL3+/HDL total)は、LDL全体に対するLDLsの比率(%)(LDLs/LDLf)と有為な正の相関を示し、LDL全体に対するLDLfの比率(%)(LDLf/LDLf)と有為な負の相関を示した(図25、26)。
【0044】
これらのこと、本発明で得られたHDL2+、HDL3+、LDLf、LDLsに関して、HDL2+とHDL3+の比率、HDL2+あるいはHDL3+のHDL全体の量に対する比率、LDLsとLDLfの比率、LDLsあるいはLDLfのLDL全体の量に対する比率は、病態の把握や投薬治療の指標として用いることが出来る。
【0045】
(実施例5)
実施例3で記述したLDLsとLDLfの比率、LDLsあるいはLDLfのLDL全体の量に対する比率について、LDL亜分画への溶出条件の影響を確認するために、LDLfを溶出する溶離液をB25.5〜29.0%(過塩素酸ナトリウム127.5〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表7、8)。3つの高脂血症患者の血清試料を用いた。すべての溶出条件において、LDLs/LDLfとLDLs/LDL totalの値はNo.21が一番高く、2番目にNo.18が高く、1番低いのがNo.19となった。LDLs/LDL totalの値はNo.19が一番高く、2番目にNo.18が高く、1番低いのがNo.21となった。このように、溶出条件を変えても、LDLfとLDLsの値が変化することから、LDLfの中のLDL2の含量、LDLsのLDL3の含量に変動はあることが示されているものの、その比率の大小の順に変化はなく、どの条件においてもこれら比率は同様の指標として用いることが出来ると言える。
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
実施例3で記述したHDL2+とHDL3+の比率、HDL2+あるいはHDL3+のHDL全体の量に対する比率について、HDL亜分画への溶出条件の影響を確認するために、HDL3+を溶出する溶離液をB16.9〜19.9%(過塩素酸ナトリウム84.5〜99.5mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表9、10)。2つの高脂血症患者の血清試料を用いた。すべての溶出条件において、HDL2+/HDL3+とHDL2+/HDL totalの値はNo.20に比べNo.21の方が高く、HDL3+/HDL totalの値はNo.20に比べNo.21の方が低かった。このように、溶出条件を変えても、その比率の大小の順に変化はなく、どの条件においてもこれら比率は同様に病態の把握や投薬治療の指標として用いることが出来ると言える。
【0049】
【表9】
【0050】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例に用いた装置
【図2】実施例1の結果(健常人血清)
【図3】実施例1の結果(HDL2試料)
【図4】実施例1の結果(HDL3試料)
【図5】実施例1の結果(健常人血清)
【図6】実施例1の結果(LDL1試料)
【図7】実施例1の結果(LDL2試料)
【図8】実施例1の結果(LDL3試料)
【図9】実施例2の結果(健常人血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)
【図10】実施例2の結果(高脂血症患者血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)
【図11】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたLDLfの溶出条件の検討)
【図12】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたHDL3の溶出条件の検討)
【図13】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL1の比較)
【図14】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL2の比較)
【図15】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL3の比較)
【図16】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL1の比較)
【図17】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL2の比較)
【図18】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL3の比較)
【図19】実施例4の結果(本発明によるHDL2+と超遠心分離法によるHDL2の比較)
【図20】実施例4の結果(本発明によるHDL3+と超遠心分離法によるHDL3の比較)
【図21】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL2+/HDL3+の比較)
【図22】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL2+/HDL3+の比較)
【図23】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL2+/HDL totalの比較)
【図24】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL2+/HDL totalの比較)
【図25】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL3+/HDL totalの比較)
【図26】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL3+/HDL totalの比較)
【符号の説明】
【0052】
1 溶離液A
2 溶離液B
3 脱気装置
4 ポンプ
5 ミキサー
6 オートサンプラー
7 フィルター
8 カラム
9 カラムオーブン
10 コレステロール反応液
11 エアートラップ
12 コレステロール反応液のためのポンプ
13 抵抗管
14 反応コイル
15 検出器
【技術分野】
【0001】
試料中に含まれる高比重リポ蛋白(HDL)、低比重リポ蛋白(LDL)の中の亜分画を分離測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中のリポ蛋白には、大きく分類して、比重の軽い順にカイロマイクロン(CM)、超低比重リポ蛋白(VLDL)、中間型リポ蛋白(IDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)の5種類が知られている。VLDLは肝臓で産生され、血液中で代謝されることによりIDLを経由し、LDLとなる。LDLは抹消組織細胞に脂質を供給する。LDLには比重に異なるものが存在していることが知られており、近年、血液中に比重の高いLDLが多いことは、動脈硬化を進展させる主要なリスクファクターになると考えられている(非引用文献1)。また、高脂血症の患者について、投薬前と投薬後の血清中のLDLを比重、あるいは、粒子径により数種類に分けて、その濃度の変化を評価することで投薬によるリポ蛋白の代謝の改善を詳細に解析することが出来る(非特許文献2、3)。HDLは、小腸からコレステロールを含有しない粒子として産生され、血液中で抹消組織細胞やLDLから余分なコレステロールを取り込み、肝臓に吸収される。このように、HDLは、産生された後にコレステロール含量が多くなることにより、徐々に比重が重くなり、粒子径も大きくなる。HDLも、LDLと同様に、高脂血症の患者の投薬前と投薬後の血清中のHDLを比重、あるいは、粒子径により数種類に分けて、その濃度の変化を評価することで投薬によるリポ蛋白の代謝の改善を詳細に解析することが出来る(非特許文献2、3)。
【0003】
このように、LDL、HDLを更に詳細に分けて、病態やその治療の評価を行うことは重要である。その分析法としては、超遠心分離装置(非特許文献1、2)、NMR分析装置(非特許文献3、4)、ゲルろ過クロマトグラフィー(非特許文献5)、電気泳動(非特許文献6)による方法があるが、超遠心分離装置やNMR分析装置は高価な装置であり、汎用性に乏しい。また、NMR分析装置やゲルろ過カラムや電気泳動による方法は各リポ蛋白の亜分画を分離する能力が充分でないという問題点がある。
【0004】
【非特許文献1】Griffin Bら、Atherosclerosis 106、p241(1994)
【非特許文献2】Guerin Mら、Arteriosclerosis Thrombosis and Vascular Biology 20、p189(2000)
【非特許文献3】Ikewaki Kら、Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 11、p278(2004)
【非特許文献4】Otvos J D、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p609(2000)
【非特許文献5】Okazaki Mら、Handbook of Lipoprotein Testing 2nd Edition、p647(2000)
【非特許文献6】Hoefner D Mら、Clinical Chemistry 47、p266(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、血液中に含まれるリポ蛋白であるLDL、HDLを更に複数に分画することは重要であるが、高価な装置が必要なく、その分離する能力が充分で簡便な測定方法がこれまでなかった。本発明の目的は、高価な測定装置が必要なく、簡便で充分にLDL、HDLを複数に分画することが出来る測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果として、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、LDLを2つの分画に分離する方法として、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離する方法で、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低い溶離液を用いることにより、使用する陰イオン交換カラムによって試料中に含まれる吸着力が強いLDL画分と吸着力が弱いLDL画分の2つに分離する測定方法を発明した。
【0008】
また、HDLを2つの分画に分離する方法として、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低い溶離液を用いることにより、使用する陰イオン交換カラムによって試料中に含まれる吸着力が強いHDL画分と吸着力が弱いHDL画分の2つに分離する測定方法を発明した。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、血清中に含まれるリポ蛋白であるHDLおよびLDLの亜分画を精度良く分離し測定する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について、詳細に説明する。
上述したように、血清中に含まれる主要なリポ蛋白としては、HDL,LDL、IDL、VLDL、CMの5種類が知られている。また、それぞれのリポ蛋白は、比重、あるいは、粒子径の差により、さらに詳細に分けられることが知られており、特にHDL、LDL、VLDLについては、その各リポ蛋白の亜分画について、多くの研究報告がある。その中で、脂質代謝を理解する上で、また、動脈硬化のリスクファクターの候補として、HDL、LDLの亜分画を評価し、研究を進めることは重要である。
【0011】
HDL、LDLの亜分画の分離測定方法としては、超遠心分離装置を用いた方法が一般に行われており、分離する能力も高いが、手技が難しく、また、超遠心分離装置は高価なため、多くの研究者が実施することは出来ない。NMRやゲルろ過クロマトグラフィーによる測定方法の手技は難しくないが、どちらもHDL、LDLの亜分画を分離する能力は十分とは言えない。電気泳動による測定方法は、手技は難しくないが、分離する能力は十分とは言えないし、一般的に定量性という面で性能の低い測定方法である。
【0012】
陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白の分離は、一般的な液体クロマトグラフィーの装置を用いて実施が可能で、分離した後にコレステロールと反応する市販の酵素液(例えば総コレステロールEテストワコー、和光純薬株式会社製)と混合して反応させ可視光検出器で測定することが出来て、簡便で定量性も良いことが知られている(Hirowatari Yら、Journal of Lipid Research 44、p1404(2003))。我々は、この陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白分析の手法を用いて、HDL、LDLの亜分画を分離することを試みた。まず、リニアグラディエントにより、超遠心分離法で分離し取得したHDL3(比重1.125g/ml以上)、HDL2(比重1.063〜1.125g/ml)、LDL1(比重1.019〜1.035g/ml)、LDL2(比重1.035〜1.045g/ml)、LDL3(比重1.045〜1.063g/ml)を測定した。HDL2はHDL3より遅く溶出し、LDLは、LDL2、1、3の順に溶出することがわかった(図2〜8)。しかしながら、リニアグラディエントでは分離が十分ではなかった。これらの結果を考慮し、HDLについては、HDL3の含まれる量が多い画分とHDL2の含まれる量の多い画分の2つに、LDLについては、LDL2の含まれる量の多い画分(LDLf)とLDL3の含まれる量の多い画分(LDLs)の2つに、各々3つの溶離液を用いたステップ溶出により、十分な分離を実現した(図9、10)。
【0013】
使用出来る陰イオン交換カラムに充填されるゲルとしては、シリカ系やポリマー系のゲルにジエチルアミノエチル(DEAE)基や第4級アミノエチル(QAE)基が結合されたもの、また、そのゲルの表面に1000オングストローム程度の孔があるもの(多孔質)と孔がないもの(非多孔質)があるが、好ましくは、リポ蛋白に対して分離性能の高い非多孔質のタイプ、例えばポリマー系の非多孔質タイプの表面にDEAE基を持つゲルをカラムに充填したTSK−GEL DEAE−NPR(東ソー(株)製)が挙げられる。溶離液は、リポ蛋白の分離能力の高い過塩素酸ナトリウムなどのカオトロピックイオンを含んだ溶離液が望ましい。
【0014】
分離に使用する塩濃度の異なる溶離液1、2、3又は1’、2’、3’は、塩濃度の低い順にカラムに流す。この3種類の溶離液の役割としては、HDL亜画分を分離する場合には、溶離液1’はHDL画分を吸着させ、溶離液2’はHDL3の含まれる量が多い画分(以下、HDL3+)を溶出させ、溶離液3’はHDL2の含まれる量が多い画分(以下、HDL2+)を溶出させることにある。同様に、LDL亜画分を分離する場合には、溶離液1はLDL画分を吸着させるとともにHDL画分を溶出させ、溶離液2はLDL2の含まれる量が多い画分(以下、LDLf)を溶出させ、溶離液3はLDL3の含まれる量が多い画分(以下、LDLs)を溶出させことにある。かつ、溶離液3は、陰イオン交換カラムにおいて、LDLより溶出の遅いIDL、VLDL、CMをLDLsより溶出させない塩濃度とする。同時に溶出すると、LDLsの精度が低下する。IDLは3型高脂血症という遺伝性の病態以外ではその量は少なくLDLsの精度に大きな支障はでないが、VLDLやCMは病状の軽い高脂血症においても、ある程度存在するので、LDLsの測定精度が著しく低下するので問題となる。LDL1は、リニアグラディエントの実験からLDL2とLDL3の間に溶出することが確認されているので、LDLsとLDLfの両方の画分に含まれることになる。また、溶離液1と2又は溶離液1’と2’や溶離液2と3又は溶離液2’と3’の間にHDL亜画分やLDL亜画分の分離を高めるために更に新たな塩濃度の溶離液を加えたり、分離溶出する条件として、段階的に溶離液の塩濃度を高める条件を加えたりしても良い。
【0015】
使用する溶離液1、2、3又は1’、2’、3’の塩濃度は、HDL亜分画を分離する目的には、HDL画分を陰イオン交換カラムに吸着させる溶離液1’については、HDLがリポ蛋白の中でもチャージが低く、また、HDLよりチャージの少なく陰イオン交換カラムにおいてHDLより早く溶出するリポ蛋白はないので、その塩濃度は80mmol/Lと低い溶離液が適切である。溶離液2’は、次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことが、HDL3の含まれる量の多いHDL亜画分を溶出するのに適切であり、溶離液3’の塩濃度は残りのHDL2の含まれる量の多いHDL亜画分を完全に溶出する、そして、次にチャージの高いリポ蛋白であるLDLを溶出させない130mmol/Lから180mmol/Lの濃度が適切である。また、使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、最も好ましい条件は、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1’の塩濃度は68mmol/L以下であり、溶離液2’は次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3’の塩濃度に対して21%から27%溶離液3’より塩濃度が低く、溶離液3’の塩濃度は143mmol/Lから163mmol/Lとする。
【0016】
LDL亜分画を分離する目的には、LDL画分を陰イオン交換カラムに吸着させる溶離液1は、HDL画分を吸着させない、または、溶出するように、その塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lが適切であり、溶離液2は溶離液1と次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことが、LDL2の含まれる量の多いLDL亜画分を溶出するのに適切であり、溶離液3の塩濃度はLDL3含まれる量の多いLDL亜画分を溶出する溶離液1より塩濃度が20mmol/Lから50mmol/L高いことが適切である。また、使用するカラムや溶離液に入れる塩の種類により若干異なるが、最も好ましい条件は、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、そのカラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1の塩濃度は143mmol/Lから163mmol/Lであり、溶離液2は溶離液1と次に陰イオン交換カラムに流す溶離液3の塩濃度の差に対して22%から52%溶離液3より塩濃度が低く、溶離液3の塩濃度は溶離液1より25mmol/Lから35mmol/L低くする。
【0017】
好ましい塩として、上述のとおり過塩素酸ナトリウムが使用されるが、その他、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが上げられる。また、溶離液の塩濃度とは加えた試薬の解離しているイオンの塩濃度であり、過塩素酸ナトリウムの場合には、ほぼ100%が解離しているので、過塩素酸ナトリウムを100mmol/L入れた場合には、その塩濃度は100mmol/Lとなる。緩衝液に依存する塩濃度はその試薬の解離定数から算出するが、実施例で使用した50mmol/Lのトリス緩衝液はpH8のときの解離した分子の濃度(塩濃度)は、トリスのpKa=8.1から算出すると約28mmol/Lとなる。
【0018】
使用する溶離液には、緩衝液を加え、pHを6から9に調製することが好ましい。加える緩衝液の種類としては、例えばTris−HCl、リン酸緩衝系、ホウ酸緩衝液など、当業界において慣用のあらゆるものが使用できる。
【0019】
本発明で得られたHDL2+は超遠心分離法によるHDL2の値と、本発明で得られたHDL3+は超遠心分離法によるHDL3の値と、本発明で得られたLDLfは超遠心分離法によるLDL2の値と、本発明で得られたLDLsは超遠心分離法によるLDL3の値と有為な正の相関を示すことを確認した(図14、18、19、20)。
【0020】
また、HDL3は、血液中で抹消組織細胞やLDLから余分なコレステロールを取り込むことにより、HDL2となり肝臓に吸収される。このことから、HDL3の割合が多いと脂質代謝が良好であると言える。また、LDLに関しては、肝臓で作られたVLDLが血液中でIDLに、続いて、LDL1に、そして、LDL2に酵素的に変換される。最終的に、LDL2は肝臓で吸収される。しかし、LDL2が速やかに肝臓で吸収されないとLDL3(small dense LDL)が産生されると考えられているので、LDL3の割合が多いと脂質代謝が悪いと言える。高脂血症患者において、本測定法を適用して得られた測定値を評価し、HDL(HDL2+とHDL3+の総和)に対するHDL2+、あるいは、HDL3+に対するHDL2+の値に関して、LDL(LDLfとLDLsの総和)に対するLDLs、あるいは、LDLfに対するLDLsを評価すると正の相関することが確認された(図21〜24)。また、HDL(HDL2+とHDL3+の総和)に対するHDL3+の値に関して、LDLに対するLDLfの値を評価すると正の相関となり、LDLfに対するLDLsを評価すると負の相関となることが確認された(図25〜26)。これらのことから、本発明で得られたLDL亜分画あるいはHDL亜画分の2つの測定値の、一方に対する他方の比や、2つの合計した測定値の値に対する1つの比は、脂質代謝の病態を見る1つの指標として用いることが出来る。
【実施例】
【0021】
以下に本発明について、実施例を用いて説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
図1に装置の形態を示す。実施例に用いた装置構成を下記に示す。
溶離液A(1)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na pH7.5、溶離液B(2)は50mM Tris−HCl+1mM EDTA2Na+500mM 過塩素酸ナトリウム pH7.5である。溶離液AとBを流すポンプ(4)はCCPM2(東ソー(株)製)を用いた。CCPM2は、ポンプヘッドを2つもち、溶離液2液のグラディエントを行えるポンプである。溶離液AとBを混合するミキサー(5)はスタティックミキサーC(東ソー(株)製)を用いた。オートサンプラー(6)はAS−8020(東ソー(株)製)を、カラムオーブン(9)はCO−8021(東ソー(株)製)を用いた。カラム(8)はDEAE−NPRカラムサイズ4.6mmI.D.x35mm(東ソー(株)製)を、フィルター(7)はHLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(東ソー(株)製)を用いた。コレステロール反応液(10)はTCHO−CL(セロテック社製)を、ポンプ直前にエアートラップ(11)を設置した。コレステロール反応液のためのポンプ(12)はDP−8020(東ソー(株)製)を用いた。溶離液AとBおよびコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置した。コレステロール反応液のラインに、抵抗管(13)0.1mmI.D.x2mを2つ直列につないで設置した。反応コイル(14)は、0.25mmI.D.x30mとした。検出器はUV−8020(東ソー(株)製)(15)を用いた。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.25mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。検出器は600nmで検出した。
【0023】
溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から21.8分はBの組成を37.0%に固定し、21.8分から22.3分はBの組成を37.0%から100.0%へのリニアグラディエントとし、22.3分から23.8分はBの組成を100.0%に固定し、23.8分から24.3分はBの組成を100.0%から10.0%へのリニアグラディエントとし、24.3分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、HDL亜画分の検討を行った。なお、本分析において、1検体の測定時間は40分とした。なお、本測定機器のこの溶出パターンの時間の設定と実際にカラムに流れる溶離液の組成には、ポンプからカラムまでの配管容量とカラムから溶出してから反応して検出するまでに要する時間により4分のタイムラグが生じる。
【0024】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(比重1.063〜1.125mg/ml)とHDL3(比重1.125mg/ml以上)を測定した。健常人検体では、溶出時間9.27分にHDL3を主体としたピークが、溶出時間12.60分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間16.08分にLDLが、溶出時間19.20分にVLDLが確認された(図2)。HDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間12.29分に確認され、小さなピークが溶出時間17.00分に確認された(図3)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。HDL3試料を分析した際には、溶出時間として11.42分のピークが確認された(図4)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいてHDL3はHDL2より早く溶出する性質を有することがわかった。
【0025】
また、図2の溶出パターンを見ると、HDL3の溶出はグラディエント条件15%ぐらいから始まっている。図3の超遠心で分離したHDL3の試料を測定した結果では、グラディエント条件18%ぐらいから溶出が始まっているが、この差は超遠心で分離したHDL3の試料には血清由来の蛋白が含まれないためだと考えられる。これらの結果からHDL亜分画を測定する場合のHDL全体を吸着させる溶離液(溶離液1’)は確実に吸着が起こる8%以下が好ましい。8%の時の過塩素酸ナトリウム濃度は40mmol/Lであり、50mmol/L トリス緩衝液 pH7.5の塩濃度は40mmol/Lであるので、全体で80mmol/L以下が望ましいと言える。また、HDL2は図3からわかるように、18%の時から溶出が開始され28%には完全に溶出が終了する。このことから、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)は18%の組成の溶離液(塩濃度130mmol/L)を流し長い時間をかけて溶出するか、28%の組成の溶離液(塩濃度180mmol/L)を短時間流せば良い。溶離液3’の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。
【0026】
次に、pH8.0の溶離液を用いて、溶離液による溶出パターンを、0.0分から20.0分はBの組成を10.0%から37.0%へのリニアグラディエントとし、20.0分から22.0分はBの組成を37.0%に固定し、22.0分から26.0分はBの組成を100.0%に固定し、26.0分から40.0分はBの組成を10.0%に固定し、LDL亜画分の検討を行った。なお、1検体の測定時間は40分とした。
【0027】
健常人の血清検体と、高脂血症患者から超遠心分離装置を用いた方法で得られたLDL1(比重1.019〜1.035mg/ml)とLDL2(比重1.035〜1.045mg/ml)とLDL3(比重1.045〜1.063mg/ml)を測定した。健常人検体では、溶出時間12.81分と13.91分に2つに分かれてHDL3を主体としたピークが、溶出時間15.89分にHDL2を主体としたピークが、溶出時間19.20分にLDLが確認され、LDLと分離したピークとして確認はされていないが22分ぐらいに溶出されている画分はVLDLと推定される(図5)。LDL1試料を分析した際には、溶出時間として19.85分のピークが確認された(図6)。LDL2試料を分析した際には、主要なピークが溶出時間19.49分に確認され、小さなピークが溶出時間21.70分に確認された(図7)。なお、このマイナーピークと主要なピークとの性質の差は現時点では不明である。LDL3試料を分析した際には、溶出時間として19.92分のピークが確認された(図8)。これらの結果から、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、LDL亜画分の溶出する順序は、LDL2、LDL1、LDL3となることがわかる。
前述したように、HDL画分をすべて溶出する溶離液(溶離液3’)の塩濃度は130〜180mmol/Lの範囲が好ましいとわかった。このことは、HDL画分を吸着、もしくは、溶出させて、なおかつ、LDL画分を吸着させるための溶離液(溶離液1)も同様に130〜180mmol/Lの範囲が好ましいと言える。実際に図5から8を見ると、LDLの溶出は約30%(塩濃度は、過塩素酸濃度が150mmol/L、50mmol/L トリス緩衝液 pH8.0の塩濃度は28mmol/Lであるので、全体で約180mmol/Lとなる。)から始まっている。また、LDL画分をすべて溶出するための溶離液(溶離液3)は、LDL画分の溶出する溶離液の塩濃度が図6〜8から30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)となり、30%程度の溶離液を長時間流すか、あるいは、34%程度の溶離液を短時間流すかのどちらかを選択する。このことから、溶離液3の濃度は、30〜34%程度(塩濃度で178〜198mmmol/L)が好ましい濃度となり、溶離液1との差はおおむね20〜50mmol/Lである。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用い、溶離液のpHは8.0として、検討を行った。
溶離液の溶出パターンは、0.0分から0.01分はBの組成を8.0%に固定、0.01分から3.0分はBの組成を19.0%に固定、3.0分から6.0分はBの組成を24.5%に固定、6.0分から9.5分はBの組成を27.8%に固定、9.5分から13.0分はBの組成を29.5%に固定、13.0分から16.5分はBの組成を33.0%に固定、16.5分から20.0分はBの組成を43.0%に固定、20.0分から25.0分はBの組成を63.0%に固定、25.0分から35.0分はBの組成を8.0%に固定した。なお、1検体の測定時間は35分とした。
【0029】
健常人の血清検体と、健常人から超遠心分離装置を用いた方法で得られたHDL2(比重1.063〜1.125mg/ml)、HDL3(比重1.125mg/ml以上)、LDL1(比重1.019〜1.035mg/ml)、LDL2(比重1.035〜1.045mg/ml)、LDL3(比重1.045〜1.063mg/ml)、IDL(比重1.006〜1.019mg/ml)、VLDL(比重0.930〜1.006mg/ml)、CM(比重0.930mg/ml以下)を測定した。
【0030】
HDL3試料については、溶出時間5.9分に主たるピークが見られ、溶出時間8.4分にマイナーなピークが確認され、HDL2試料については、溶出時間8.5分にピークが確認された(図9)。LDL3試料は、溶出時間12.9分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認され、LDL2試料は、溶出時間12.1分に主たるピークが見られ、溶出時間15.0分と18.8分にマイナーなピークが確認され、LDL1試料は、溶出時間12.3分に主たるピークが見られ、溶出時間15.1分にマイナーなピークが確認された(図9)。IDL試料は、溶出時間18.6分に主たるピークが見られ、溶出時間15.9分にマイナーなピークが確認され、VLDL試料は、溶出時間22.0分に主たるピークが見られ、溶出時間25.2分にマイナーなピークが確認され、CM試料では、ピークは確認されなかった(図9)。これらの結果から、健常人の血清検体において見られる溶出時間6.7分、8.6分、12.1分、15.2分、18.8分、21.9分、25.2分のピークは、それぞれ、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図9)。
【0031】
次に、高脂血症患者検体においても、同様の検討を行った。各画分の分析結果から、高脂血症患者の血清検体において見られる溶出時間6.5分、8.5分、11.8分、15.1分、18.8分、22.0分、25.1分のピークは、それぞれ、健常人血清と同様に、HDL3が主要な成分であるHDL3+、HDL2が主要な成分であるHDL2+、LDL1とLDL2が主要な成分であるLDLf、LDLfに比べLDL3の含量が多いLDLs、IDL、VLDL、CMのピークであると言える(図10)。
【0032】
このように、溶離液B8%(過塩素酸ナトリウム40mmol/l)において、リポ蛋白画分を吸着させ、溶離液B19%(過塩素酸ナトリウム95mmol/l)において、HDL3を多く含むHDL画分を溶出させ、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL2を多く含むHDL画分を溶出させることが出来る。そして、溶離液B24.5%(過塩素酸ナトリウム122.5mmol/l)において、HDL画分がすべて溶出した後に、溶離液B27.8%(過塩素酸ナトリウム139mmol/l)において、LDL2を多く含むLDLf画分を溶出させ、溶離液B29.5%(過塩素酸ナトリウム147.5mmol/l)において、LDL3を多く含むLDLs画分を溶出させることが出来る。その後、溶離液B33.0%(過塩素酸ナトリウム165mmol/l)においてIDL画分を、溶離液B43.0%(過塩素酸ナトリウム215mmol/l)においてVLDL画分を、溶離液B63.0%(過塩素酸ナトリウム315mmol/l)においてCM画分を溶出する。以上のように、ステップ溶出を用いることにより、HDL3+、HDL2+、LDLf、LDLs、IDL、VLDL、CMの7つのリポ蛋白分画を良好に分離し測定することが出来る。
以上の結果から、ステップ溶出によるHDL亜画分の最も好ましい溶出条件は、溶離液1が塩濃度68mmol/L(溶離液B8%)以下であり、溶離液2が溶離液3より塩濃度が22.4%(溶離液3が溶離液B24.5%であり、溶離液2が溶離液B19%である。)低く、溶離液3が143〜163mmmol/L(溶離液B23〜27%)である。また、ステップ溶出によるLDL亜画分の最も好ましい溶出条件は、溶離液1がHDL亜画分の溶離液3と同じく、塩濃度143〜163mmmol/L(溶離液B23〜27%)であり、溶離液2が溶離液1と3の塩濃度の差の34%溶離液3より低く(溶離液3が溶離液B29.5%であり、溶離液2が溶離液B27.8%である。)、溶離液3が178〜188mmmol/L(溶離液B30〜32%)であり、よって、溶離液1より25〜35mmmol/L高い。
【0033】
(実施例3)
実施例2と同じ条件で、LDLfとLDLsの溶出条件を検討することを目的として、LDLfを溶出する溶離液をB25.0〜29.0%(過塩素酸ナトリウム125〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した。高脂血症患者2名の血清試料を用いた。結果を表1と2に示す。また、そのLDLs/LDLfの比率(%)の変動を図11に示した。図11から、溶離液B26.3%(過塩素酸ナトリウム131.5mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。溶離液B26.3%でLDLf画分を溶出する前の溶離液はB24.5%であり、LDLs画分を溶出する溶離液はB29.5%であるので、LDL亜画分を溶出する条件として、2番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として3.2%であり、1番目に流す溶離液と3番目に流す溶離液の塩濃度の差はB%として5%であるので、その割合(低下率)は64%である。このことから、安定して測定するには、2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率としては少なくとも64%以下である必要がある。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
また、LDL3の含量はLDL全体の5〜30%程度とわかっており、LDLsのLDL3の含量が適当となるLDLs/LDLfの比率(%)は、5.3〜43%となる。このことを考慮すると、LDLfを溶出する塩濃度はB28.7%以下であり、これは、上記のように算出すると2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率16%である。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜60%といえ、さらに安定的に値を得るための好ましい塩濃度はB26.9〜28.4%であるので、低下率としては22〜52%である。
【0037】
実施例2と同じ条件で、HDL3+とHDL2+の溶出条件を検討することを目的として、高脂血症患者1名の血清試料を用いて、HDL2+を溶出する溶離液をB16.6〜19.9%(過塩素酸ナトリウム83〜99.5mmol/l)に変動させて、測定を実施した。結果を表3に示す。また、そのHDL2/HDL3の比率(%)の変動を図12に示した。図12から、溶離液B17.8%(過塩素酸ナトリウム89mmol/l)以下になると急激に高くなることがわかる。また、溶離液をB17.8%以上に高めた場合には緩やかに値が低下することがわかる。HDL2の含有量の多い画分のピークが小さくなると測定再現性が低下するので、HDL2+/HDL3+の比率(%)として30%以上が適切と言える。なお、この高脂血症患者の血清中には、超遠心分離法によりHDL2とHDL3の含量が同程度であることを確認している。これらの結果から、HDL3の含有量の多い画分(HDL3+)を溶出する適切な溶離液はB17.8〜19.3%である。HDL2+を溶出するために用いた溶離液(3番目の溶離液)はB24.5%であるので、2番目に流す溶離液の塩濃度は3番目に流す溶離液の塩濃度より21.2〜27.3%低いことになる。これらのことから、適切な2番目に流す溶離液の塩濃度の低下率は概ね20〜30%といえる。
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例4)
実施例2と同じ条件で、高脂血症患者17名の血清試料を測定し、評価した。結果を表4〜表6に示す。なお、表に記載した濃度の単位はすべてmg/dlである。本発明によるLDLfの値と超遠心分離法によるLDL1、LDL2、LDL3の値を比較したところ(図13〜15)、LDL2と特に有為な正の相関を示した(図14)。また、LDLsの値と超遠心分離法によるLDL1、LDL2、LDL3の値を比較したところ(図16〜18)、LDL3と特に有為な正の相関を示した(図18)。本発明によるHDL2、HDL3の値は、それぞれ、超遠心分離法によるHDL2、HDL3の値と有為な正の相関を示した(図19、20)。このように、本発明で分離された、HDL亜画分(HDL2とHDL3)、LDL亜画分(LDLfとLDLs)は、すべて、超遠心分離法で得られた各画分に多く含まれるリポ蛋白画分と有為な正の相関を示すことから、病態の把握や投薬治療の評価に用いることが出来ると言える。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
また、血清中のHDL2の量は脂質代謝の停滞を評価することが出来るが、本発明におけるHDL3+に対するHDL2+の比率(%)(HDL2+/HDL3+)、あるいは、HDL全体の量に対するHDL2+の比率(%)(HDL2+/HDL total)は、脂質代謝が悪いと増加することが知られているLDL3(small dence LDL)と相関のあるLDLsのLDL全体の量に対する比率(%)(LDLs/LDL total)、あるいは、LDL全体に対するLDLsの比率(%)(LDLs/LDLf)と有為な正の相関を示した(図21〜24)。また、本発明におけるHDL全体の量に対するHDL3+の比率(%)(HDL3+/HDL total)は、LDL全体に対するLDLsの比率(%)(LDLs/LDLf)と有為な正の相関を示し、LDL全体に対するLDLfの比率(%)(LDLf/LDLf)と有為な負の相関を示した(図25、26)。
【0044】
これらのこと、本発明で得られたHDL2+、HDL3+、LDLf、LDLsに関して、HDL2+とHDL3+の比率、HDL2+あるいはHDL3+のHDL全体の量に対する比率、LDLsとLDLfの比率、LDLsあるいはLDLfのLDL全体の量に対する比率は、病態の把握や投薬治療の指標として用いることが出来る。
【0045】
(実施例5)
実施例3で記述したLDLsとLDLfの比率、LDLsあるいはLDLfのLDL全体の量に対する比率について、LDL亜分画への溶出条件の影響を確認するために、LDLfを溶出する溶離液をB25.5〜29.0%(過塩素酸ナトリウム127.5〜145mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表7、8)。3つの高脂血症患者の血清試料を用いた。すべての溶出条件において、LDLs/LDLfとLDLs/LDL totalの値はNo.21が一番高く、2番目にNo.18が高く、1番低いのがNo.19となった。LDLs/LDL totalの値はNo.19が一番高く、2番目にNo.18が高く、1番低いのがNo.21となった。このように、溶出条件を変えても、LDLfとLDLsの値が変化することから、LDLfの中のLDL2の含量、LDLsのLDL3の含量に変動はあることが示されているものの、その比率の大小の順に変化はなく、どの条件においてもこれら比率は同様の指標として用いることが出来ると言える。
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
実施例3で記述したHDL2+とHDL3+の比率、HDL2+あるいはHDL3+のHDL全体の量に対する比率について、HDL亜分画への溶出条件の影響を確認するために、HDL3+を溶出する溶離液をB16.9〜19.9%(過塩素酸ナトリウム84.5〜99.5mmol/l)に変動させて、測定を実施した(表9、10)。2つの高脂血症患者の血清試料を用いた。すべての溶出条件において、HDL2+/HDL3+とHDL2+/HDL totalの値はNo.20に比べNo.21の方が高く、HDL3+/HDL totalの値はNo.20に比べNo.21の方が低かった。このように、溶出条件を変えても、その比率の大小の順に変化はなく、どの条件においてもこれら比率は同様に病態の把握や投薬治療の指標として用いることが出来ると言える。
【0049】
【表9】
【0050】
【表10】
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例に用いた装置
【図2】実施例1の結果(健常人血清)
【図3】実施例1の結果(HDL2試料)
【図4】実施例1の結果(HDL3試料)
【図5】実施例1の結果(健常人血清)
【図6】実施例1の結果(LDL1試料)
【図7】実施例1の結果(LDL2試料)
【図8】実施例1の結果(LDL3試料)
【図9】実施例2の結果(健常人血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)
【図10】実施例2の結果(高脂血症患者血清と超遠心分離法によるリポ蛋白試料)
【図11】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたLDLfの溶出条件の検討)
【図12】実施例3の結果(高脂血症患者検体を用いたHDL3の溶出条件の検討)
【図13】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL1の比較)
【図14】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL2の比較)
【図15】実施例4の結果(本発明によるLDLfと超遠心分離法によるLDL3の比較)
【図16】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL1の比較)
【図17】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL2の比較)
【図18】実施例4の結果(本発明によるLDLsと超遠心分離法によるLDL3の比較)
【図19】実施例4の結果(本発明によるHDL2+と超遠心分離法によるHDL2の比較)
【図20】実施例4の結果(本発明によるHDL3+と超遠心分離法によるHDL3の比較)
【図21】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL2+/HDL3+の比較)
【図22】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL2+/HDL3+の比較)
【図23】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL2+/HDL totalの比較)
【図24】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL2+/HDL totalの比較)
【図25】実施例4の結果(LDLs/LDLfとHDL3+/HDL totalの比較)
【図26】実施例4の結果(LDLs/LDL totalとHDL3+/HDL totalの比較)
【符号の説明】
【0052】
1 溶離液A
2 溶離液B
3 脱気装置
4 ポンプ
5 ミキサー
6 オートサンプラー
7 フィルター
8 カラム
9 カラムオーブン
10 コレステロール反応液
11 エアートラップ
12 コレステロール反応液のためのポンプ
13 抵抗管
14 反応コイル
15 検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法。
【請求項2】
LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法により、当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つのLDL画分の定量値を得、一方の値に対する他方の値の比を、あるいは、これら2つの値を合計したLDL画分の値に対する一方のLDL画分の比を、脂質代謝の病態を見る指標として用いる方法。
【請求項3】
HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでHDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことを特徴とする、HDL亜分画の測定方法。
【請求項4】
HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでHDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことを特徴とする、HDL亜分画の測定方法により、当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つのHDL画分の定量値を得、一方の値に対する他方の値の比を、あるいは、これら2つの値を合計したHDL画分の値に対する一方のHDL画分の比を、脂質代謝の病態を見る指標として用いる方法。
【請求項1】
LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法。
【請求項2】
LDL(低比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1)、LDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2)、LDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことによりLDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでLDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1は塩濃度が130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度は溶離液1の塩濃度より20mmol/Lから50mmol/L高く、溶離液2は溶離液1と溶離液3の塩濃度の差に対して20%から60%溶離液3より塩濃度が低いことを特徴とする、LDL亜分画の測定方法により、当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つのLDL画分の定量値を得、一方の値に対する他方の値の比を、あるいは、これら2つの値を合計したLDL画分の値に対する一方のLDL画分の比を、脂質代謝の病態を見る指標として用いる方法。
【請求項3】
HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでHDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことを特徴とする、HDL亜分画の測定方法。
【請求項4】
HDL(高比重リポ蛋白)を吸着させるための溶離液(溶離液1’)、HDL亜画分のうち、結合力の弱い画分を溶出させるための溶離液(溶離液2’)、HDL亜画分のうち、結合力が強い画分を溶出させるための溶離液(溶離液3’)の塩濃度の異なる溶離液を溶離液1’、2’、3’の順に陰イオン交換カラムに流すことによりHDLを当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つに分離することでHDL亜分画を測定する方法であって、溶離液1’は塩濃度が80mmol/L以下であり、溶離液3’の塩濃度は130mmol/Lから180mmol/Lであり、溶離液2’は溶離液3’の塩濃度に対して20%から30%溶離液3’より塩濃度が低いことを特徴とする、HDL亜分画の測定方法により、当該陰イオン交換カラムに対し吸着力の弱い分画と強い分画の2つのHDL画分の定量値を得、一方の値に対する他方の値の比を、あるいは、これら2つの値を合計したHDL画分の値に対する一方のHDL画分の比を、脂質代謝の病態を見る指標として用いる方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図18】
【図19】
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【図21】
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【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2008−58266(P2008−58266A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238815(P2006−238815)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
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