説明

イオン交換体、その製造方法、浄化装置及び浄化方法

【課題】新たな不純物を混入させることなく温度調整することもなく高温の液体を浄化するイオン交換体、その製造方法、及び浄化技術を提供する。
【解決手段】イオン交換体において、H4Nb617・nH2O(n≧0)及びHNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラント、火力発電プラント又はその他一般産業において使用される液体を浄化するイオン交換体、その製造方法及び浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電プラントにおいて、一次冷却水が循環する配管などの部材から溶出した微量の金属イオンが炉心で放射化され、放射性核種を生成することが知られている。このために、イオン交換樹脂を用いて、一次冷却水に溶出した金属イオンを分離回収することが行われている。
【0003】
しかし、イオン交換樹脂は、被処理水が高温になると交換基が外れ、金属イオンの回収性能が大幅に低下する性質を有している。このために、高温条件でイオン交換樹脂の使用が困難であるために、一次冷却水を冷却してから導入する必要がある。さらに、浄化後の一次冷却水を再加熱する必要もあるために、多量のエネルギーが消費される課題がある。このような課題に対し、無機物質であるニオブ酸カリウムをイオン交換体に用いて金属イオンの不純物を一次冷却水から分離回収する浄化技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−98371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ニオブ酸カリウムをイオン交換体に用いる従来技術は、確かに一次冷却水を冷却することなく高温のまま不純物(コバルトイオン)を除去することができる。しかし、イオン交換体中のカリウムが金属イオンとして処理済液に排出され、新たな不純物が混入する課題が生じる。
【0006】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、新たな不純物を混入させることなく温度調整することもなく高温の液体を浄化するイオン交換体、その製造方法、及び浄化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るイオン交換体は、H4Nb617・nH2O(n≧0)及びHNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を含むことを特徴とする。 本発明に係るイオン交換体の製造方法は、K4Nb617・nH2O(n≧0)及びKNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を酸と共に加熱し、カリウムを水素に置換することを特徴とする。
本発明に係る浄化装置は、前記イオン交換体を備えることを特徴とする。
本発明に係る浄化方法は、前記イオン交換体に、350℃以下に設定された液体を通過させ、この液体に含まれる不純物を吸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新たな不純物を混入させることなく温度調整することもなく高温の液体を浄化するイオン交換体、その製造方法、及び浄化技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るイオン交換体を備える浄化装置の第1実施形態を示す模式図。
【図2】本発明に係るイオン交換体を備える浄化装置の第2実施形態を示す模式図。
【図3】実施例としてイオン交換体の効果を確認するための装置の概略図。
【図4】実施例としてイオン交換体の効果を確認した結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1の模式図に示される浄化装置1は、保持容器2にイオン交換体3が充填されている。そして、この浄化装置1の一端(図中左側)には、金属イオンの不純物が混入している被処理液Pをイオン交換体3に供給する供給ライン4が接続されている。また、浄化装置1の他端(図中右側)にはイオン交換体3により金属イオンが除去された処理済液Qを送出する送出ライン5が接続されている。
そして、高温高圧に調整された被処理液Pは、連続的に供給ライン4から保持容器2の内部に導入され、送出ライン5から処理済液Qが連続的に送出されることになる。
【0011】
イオン交換体3は、H4Nb617・nH2O(n≧0)及びHNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を含んでいる。
つまり、保持容器2に充填されるイオン交換体3は、H4Nb617(六ニオブ酸)を他の化合物に任意の比率で混合させたものや、HNbO3(ニオブ酸)を他の化合物に任意の比率で混合させたものや、H4Nb617(六ニオブ酸)及びHNbO3(ニオブ酸)を任意の比率で混合させたものが採用される。
【0012】
4Nb617(六ニオブ酸)の製造方法の実施形態について説明する。
10gの酸化ニオブと1Mの水酸化カリウム水溶液100mlとを混合した後、オートクレーブにて200℃で10時間保持する。その後冷却し、オートクレーブ内のスラリーに含まれる反応生成物をろ過し、110℃の電気炉に入れて乾燥させる。これにより、粉末の六ニオブ酸カリウム(K4Nb617)が得られる。
そして、得られた六ニオブ酸カリウム(K4Nb617)の粉末を1Mの塩酸に混ぜて常温で10時間反応させる。これにより生成した反応物を110℃の電気炉に入れて乾燥することにより粉末の六ニオブ酸(H4Nb617)が得られる。
【0013】
HNbO3(ニオブ酸)の製造方法の実施形態について説明する。
10gのK2NbO3Fと純水100mlとを混合した後、オートクレーブにて350℃で10時間保持する。その後冷却し、オートクレーブ内のスラリーに含まれる反応生成物をろ過し、110℃の電気炉に入れて乾燥すると粉末のニオブ酸カリウム(KNbO3)が得られる。
そして、得られたニオブ酸カリウム(KNbO3)の粉末を1Mの塩酸に混ぜて常温(25℃)で10時間反応させる。これにより生成した反応物を110℃の電気炉に入れて乾燥することにより粉末のニオブ酸(HNbO3)が得られる。
【0014】
なお、六ニオブ酸カリウム(K4Nb617)又はニオブ酸カリウム(KNbO3)のカリウムを水素に置換させて、それぞれ六ニオブ酸(H4Nb617)又はニオブ酸(HNbO3)を生成させる工程は、上述した塩酸以外の他の酸に代替させることも可能である。 さらに、そのような酸を混ぜる際に100℃程度に加熱すると常温で反応させるよりも速く、六ニオブ酸(H4Nb617)又はニオブ酸(HNbO3)を生成させることが可能である。
【0015】
イオン交換体3を直径1mm〜5mmの擬球状に成形することについて説明する。
上述した製造方法により得られた六ニオブ酸(H4Nb617)又はニオブ酸(HNbO3)の粉末体を、所定の形状にくりぬいたゴム型に充填し静水圧を加えて所望のサイズの擬球状の圧粉体に成形する。
【0016】
このような圧粉体の成形法を冷間静水圧加圧成形法(CIP)といい、粉末体の充填されたゴム型が全方向から均等に水圧を受けることにより、均質な圧粉体を得ることができる。また成形される擬球状のサイズは、充填する粉末体の量を加減することにより調整する。
なお、粉末体を擬球状に成形する方法としては、上述した冷間静水圧加圧成形法(CIP)以外に、例えばホットプレス法(HP)や熱間静水圧成形法(HIP)を採用することができる。
【0017】
(第2実施形態)
図2の模式図は、第2実施形態の浄化装置1を示している。なお、図2において図1と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、すでにした記載を援用して、詳細な説明を省略する。
【0018】
この浄化装置1は、保持容器2の内側面に一対の電極12a,12b(電界付与手段)を設け、さらにその内側に設けられる隔膜11a,11bで区画される領域13にイオン交換体3を充填して構成される(図面では、六ニオブ酸3aとニオブ酸3bの混合物が例示されている)。これにより、被処理液Pの流動方向とは垂直方向に電界が付与されることになる。さらに、隔膜11aと電極12aに区画される領域14aは、下流側において排出ライン7aに接続し、隔膜11bと電極12bに区画される領域14bは、下流側において排出ライン7bに接続している。
【0019】
ここで、被処理液Pに不純物として含まれる金属イオンは、イオン交換体3に吸着した後に、それぞれの極性に従って電極12a又は電極12bの方向に移動する。そして、不純物の金属イオンは、隔膜11a又は隔膜11bを通過して、領域14a又は領域14bに取り込まれ、排出ライン7a又は排出ライン7bから不純物濃縮液R,Sとして排出されることになる。
これにより、イオン交換体3に吸着した不純物を離脱させてイオン交換体3の性能を再生させることができる。
【実施例】
【0020】
図3は、実施例としてイオン交換体の効果を確認するための装置の概略図を示し、図4はその効果の確認結果を示す表を示している。
この装置は、被処理液P及びイオン交換体3を保持するバッチ容器8と、これらを加熱するヒータ6と、から構成されている。なお、このバッチ容器8は、350℃以上に設定された被処理液Pを液体で保持するのに充分な密閉強度を備えている。
【0021】
(実施例1)
イオン交換体3を0.1gのニオブ酸(HNbO3)として、被処理液Pを0.1M水酸化ナトリウム溶液2.2mlとする。そして、これらを6mlの内容量のバッチ容器8に封入し、ヒータ6を280℃に設定し1時間かけて反応させた。
その結果、図4の上段に示すように、被処理液Pに不純物として含まれるナトリウムのうち74%が除去された。
【0022】
(実施例2)
イオン交換体3を0.1gの六ニオブ酸(H4Nb617)として、被処理液Pを0.1M硫酸コバルト溶液2.2mlとする。そして、これらを6mlの内容量のバッチ容器8に封入し、ヒータ6を280℃に設定し1時間かけて反応させた。
その結果、図4の下段に示すように、被処理液Pに不純物として含まれるコバルトのうち56%が除去された。
【0023】
この実施例における温度設定後の保持時間は、図1又は図2における被処理液Pが供給されてから処理済液Qとして送出されるまでのイオン交換体3における滞留時間に相当する。つまり、図1又は図2の浄化装置1において所望の除去率を達成させるためには、その除去率が得られるバッチ容器8の封入時間に相当する滞留時間となるように、供給する被処理液Pの流速を調整すればよいことになる。
なお、設定温度については、上限が350℃まで、有意な効果が認められた。
【0024】
本発明は上述した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、被処理液は、水溶液に限定されるものではなく、エタノール等の有機溶媒が含まれても良く、有機溶媒自体を対象にしても良い。また、被処理液に含まれる不純物は、Na,Co等の金属イオンを例示したが、その他の元素の金属イオンにも有効であり、また除去対象となる不純物は金属イオンに限定されることもない。
さらに、被処理液の対象として原子力発電プラントで使用される一次冷却水を例示して発明の詳細な説明を行ったが、これに限定されず一般産業において使用される液体を浄化する手段として本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1…浄化装置、2…保持容器、3…イオン交換体、4…供給ライン、5…送出ライン、6…ヒータ、7a,7b…排出ライン、8…バッチ容器、11a,11b…隔膜、12a,12b…電極(電界付与手段)、P…被処理液、Q…処理済液、R…不純物濃縮液、S…不純物濃縮液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4Nb617・nH2O(n≧0)及びHNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を含むことを特徴とするイオン交換体。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン交換体において、
直径1mm〜5mmの擬球状であることを特徴とするイオン交換体。
【請求項3】
4Nb617・nH2O(n≧0)及びKNbO3・mH2O(m≧0)の一般式で表される化合物のうち少なくとも一種を酸と共に加熱し、カリウムを水素に置換することを特徴とするイオン交換体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のイオン交換体を備えることを特徴とする浄化装置。
【請求項5】
請求項4に記載の浄化装置において、
前記イオン交換体に吸着した成分を脱離させる電界付与手段を備えることを特徴とする浄化装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のイオン交換体に、350℃以下に設定された液体を通過させ、この液体に含まれる不純物を吸着させることを特徴とする浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−224430(P2011−224430A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94206(P2010−94206)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】