説明

イオン吸着材、イオン吸着材の製造方法、吸着システム、及び吸着材の使用方法

【課題】バインダーを用いなくても圧力損失を生じないような適度な粒径を有し、吸着性に優れる新規な親水性繊維を用いた吸着材を提供する。
【解決手段】実施形態のイオン吸着材は、多孔質の合成セルロース基材を含む。また、この合成セルロース基材の表面及び空孔内において、前記合成セルロースに[−CH−CH(OH)−CH−]を介して結合してなるアミンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、イオン吸着材、イオン吸着材の製造方法、吸着システム、及び吸着材の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業、食品工業、医薬工業、肥料工業、下水処理場、し尿処理場等の施設から排出される排水に含まれているリン化合物、例えばリン酸イオンを除去することを目的にした場合、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価金属のイオンを排水中に供給し、これとリン酸イオンとを反応させることによりリン酸イオンを固定化して沈殿、浮上又はろ過等によって除去する、反応凝集法が多く用いられている。
【0003】
多価金属イオンを排水中に供給する方法としては、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム等の水溶液状の凝集剤を注入ポンプにより供給する凝集剤添加法がある(特許文献1参照)。
【0004】
このような薬剤添加による凝集法の他にはイオン交換樹脂、ハイドロタルサイト様粘土鉱物、酸化ジルコニウム等を使用した吸着法等が知られている。特に、親水性繊維を担体とする吸着材は大きな吸着容量を有する上、吸着速度が高いことが知られている(特許文献2、3、4参照)。
【0005】
通常、親水性繊維を用いた吸着材は、圧縮成形しても水に浸漬した際に膨潤するため成形されず、粉体のままカードリッジに詰めて使用されている。また、粉体は粉塵が飛散するなど取り扱いが困難であり、カードリッジに詰めた際にも圧力損失が大きい。また、下水などSS成分を含む廃水処理を行う場合には、目詰まりを生じることが懸念される。
【0006】
したがって、上述のような吸着材を用いる場合、一般にはバインダーを用いた粉体の成型、造粒が行われる。セラミックス粉体の場合にはバインダーを使用しても焼成することによりこれを除去することができる。しかしながら、担体が有機化合物の場合、焼成することができず、バインダーにより吸着部位をつぶしてしまうことが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−237947号
【特許文献2】出願2009−141308号
【特許文献3】特開2009−113034号
【特許文献4】特開2001−123379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バインダーを用いなくても圧力損失を生じないような適度な粒径を有し、吸着性に優れる新規な親水性繊維を用いた吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のイオン吸着材は、多孔質の合成セルロース基材を含む。また、この合成セルロース基材の表面及び空孔内において、前記合成セルロースに[−CH−CH(OH)−CH−]を介して結合してなるアミンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態における吸着システムの概念図である。
【図2】実施例における吸着及び再生のサイクル数とイオン吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(イオン吸着材)
本実施の形態において、イオン吸着材は、多孔質の合成セルロース基材を含む。また、この合成セルロース基材の表面及び空孔内において、前記合成セルロースに[−CH−CH(OH)−CH−]を介して結合してなるアミンを含む。
【0012】
上述のように、合成セルロースは親水性を呈するので、吸着材を排水に接触させ、排水中の物質を吸着材によって吸着し、除去するに際し、吸着材が排水に対して水和性を有し、吸着材と排水との接触面積を増大させ、イオン吸着材による排水中のイオンの吸着量を増大させることができる。
【0013】
本実施形態の吸着材は、多孔質の合成セルロースを基材として含むので、その表面及び空孔の内壁は親水性の官能基、例えば水酸基を含む。また、この水酸基には、例えば、メタクリル酸グリシジルとの反応によりグリシジル基がグラフト重合され、このグリシジル基にアミンが結合する。この際、グリシジル基は開環するようになるので、アミンは[−CH−CH(OH)−CH−]を介して合成セルロース基材に結合することになる。したがって、このような吸着剤を排水中に浸漬させた場合において、排水中のイオンがアミンに結合し、さらには水酸基との置換反応等を介して排水中から除去することができるようになる。
【0014】
具体的に、排水中のイオンが陽イオンの場合は、当該陽イオンがアミンに配位結合し、あるいは水酸基の水素と置換反応して、排水中から除去される。一方、排水中のイオンが陰イオンの場合は、アミンが排水中の水素イオンと配位結合してアンモニウムイオンとなった後、このアンモニウムイオンとイオン結合し、あるいは水酸基と置換反応して、排水中から除去される。
【0015】
また、本実施形態では、多孔質の合成セルロースを吸着材の基材として使用しているので、非多孔質繊維を基材として使用した場合と比較して、空孔の内壁面の表面積の割合だけ実効表面積が増大している。この結果、多孔質の合成セルロース基材に結合しているアミン及び水酸基の量は、非多孔質繊維の基材の場合に比較して増大しているので、多孔質繊維を基材とした本実施形態の吸着材は、非多孔質繊維を基材とした吸着材に比較して、排水中のイオンの吸着量が増大する。
【0016】
なお、上述のような多孔質の合成セルロースは、その空孔に起因して内部に空隙を有するため比重が小さく、一般には排水に浮く性質を有している。しかしながら、本実施形態の多孔質合成セルロースは、空孔内部に水酸基等の極性基を有しているため、当該空孔内部に排水が容易に侵入し、排水中に浸漬するようになるので、排水中のイオンを上述した原理に基づいて吸着除去することができる。
【0017】
上記多孔質合成セルロースの平均細孔直径の下限値は1μmから150μmの範囲であることが好ましい。平均細孔直径の下限値が1μmよりも小さいと、排水が多孔質合成セルロースの空孔内に侵入することが困難となり、空孔内に結合したアミン及び水酸基と接触できなくなるので、排水からのイオン吸着量が減少する場合がある。また、150μmよりも大きくなると、多孔質合成セルロースの実効表面積の増大の効果が減少してしまうので、空孔内で結合するアミン及び水酸基の量が減少する。したがって、この場合においても、排水からのイオン吸着量が減少する場合がある。なお、平均細孔直径は、(比表面積(A)と全細孔容積(V)から計算される値である。平均細孔直径D=4V/A)によって定義されるものである。
【0018】
また、上記多孔質合成セルロースの空隙率は、40%から85%であることが好ましい。空隙率が40%未満であると、多孔質合成セルロースの実効表面積の増大の効果が減少してしまうので、空孔内に結合するアミン及び水酸基の量が減少する。したがって、排水からのイオン吸着量が減少する場合がある。また、空隙率が85%を超えると、多孔質合成セルロースの強度が低下して脆くなり、吸着材の耐久性を低下させてしまう場合がある。なお、ここでいう空隙率とはV-V’/V(V:多孔質合成セルロース1個の体積、V’=W/1.62(W:セルロース1個の質量、1.62はセルロースの密度)によって定義されるものである。
【0019】
さらに、上記多孔質合成セルロースは、平均粒径が0.5mmから4.5mmの粒子状に成形されていることが好ましい。粒子状であることにより、以下に説明する吸着材の使用方法において、当該吸着材をカラム中に充填し、当該カラムに排水を通水することによる上述した原理に基づく排水中のイオン吸着及び除去を容易に行うことができる。但し、平均粒径が0.5mmよりも小さくなると、排水を通水する際の圧力損失が大きくなりすぎ、イオンの吸着除去に要する時間が長時間化する一方、平均粒径が4.5mmよりも大きくなると、排水を通水する際の圧力損失が小さくなって、上記多孔質合成セルロース、すなわち吸着材に接触する時間が減少するため、排水中のイオン吸着及び除去を十分に行うことができない場合がある。なお、平均粒径は、多孔質合成セルロース50個の長軸径を画像解析により測定した値の平均値によって定義されるものである。
【0020】
本実施形態のイオン吸着材、すなわち上記多孔質合成セルロースは、排水中で正電荷を持つ陽イオンとなる鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの金属の塩を含むことができる。上記多孔質合成セルロースが上述した金属塩を含むことにより、これら合成セルロースを含む吸着材を排水中に浸漬させた場合において、金属塩は正電荷のイオンとなり、除去すべきイオン、特に陰イオンに対して高い選択性を示すようになる。
【0021】
また、これらの金属イオン(金属塩)は多孔質合成セルロース、例えば、多孔質合成セルロースに結合したアミンの水素と置換して当該アミン、すなわちアミノ基に強固に結合したり、アミンと配位結合して錯体を構成したりするようになるので、吸着材を排水中に浸漬させた場合においても、上記金属イオンが離脱したり溶出したりすることがない。
【0022】
上記金属イオンの中でも特に鉄イオン(鉄塩)及び銅イオン(銅塩)は排水中のリン酸イオンに対して高い選択性を有するので、排水中からリン酸イオンを吸着して除去するような場合は、上記多孔質合成セルロースに鉄イオンが含まれていることが好ましい。なお、リン酸イオンは、排水中で、HPO、HPO2−、PO3−等の形態をとる。
【0023】
なお、本実施形態において、吸着すべきイオンとは、上述のようなリン酸イオンのみならず、無機及び/又は有機の形態であって、正または負の電荷を帯びた化合物もしくは元素を意味する。また、重金属など元素単独で電荷を持つものや、そのオキソアニオンも含む。
【0024】
(イオン吸着材の製造方法)
次に、本実施形態の吸着材の製造方法について説明する。最初に、好ましくは上述した要件を満足する多孔質合成セルロースを準備する。このような多孔質合成セルロースは市販されているので、市販された多孔質合成セルロースの中から所望する特性を有するようなものを適宜選択して使用する。
【0025】
次いで、上記合成セルロースに対して、GMA乳化重合やハロゲン化アリルの導入及び二重結合の酸化による処理を行うことにより、グリシジル基を導入する。
【0026】
GMA乳化重合による多孔質合成セルロースへのグリシジル基の導入は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0027】
多孔質合成セルロースに対し、硫酸アンモニウム鉄を0.001から0.05質量%加え、上記の合成セルロースの表面に鉄を吸着させる。この後、メタクリル酸グリシジルを上記合成セルロースに対して0.2から2質量%、界面活性剤を0.003から0.15質量%、過酸化水素水を0.006から0.5質量%、二酸化チオ尿素を0.003から0.15質量%加える。次いで、得られた混合物を50℃から100℃で2時間撹拌した後、ろ過、純水またはエタノール洗浄を行う。これによって、上記多孔質合成セルロースに対してグリシジル基を導入することができる。
【0028】
ハロゲン化アリルの導入及び二重結合の酸化による多孔質合成セルロースへのグリシジル基の導入は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0029】
多孔質合成セルロースをハロゲン化アリルと水酸化ナトリウム水溶液中で混合し、得られた組成物をMCPBAや過酸化水素等の酸化剤で酸化することにより、多孔質合成セルロースに対してグリシジル基を付与することができる。
【0030】
なお、上述したいずれの方法においても、グリシジル基は多孔質合成セルロースの表面のみでなく、その空孔の内壁面にも導入されることになる。
【0031】
次いで、グリシジル基が付加された多孔質合成セルロースとアミンとを例えば40℃から150℃で加熱することによって、アミンが、多孔質合成セルロースに導入されたグリシジル基と反応して結合するようになる。
【0032】
この際、多孔質合成セルロースのグリシジル基は、アミンと反応する際に開環し、[−CH−CH(OH)−CH−]となる。この基中の水酸基はグリシジル基がアミンと反応しエポキシ環が開環して形成されたものであり、多孔質合成セルロースに結合した水酸基を構成する。すなわち、本実施形態におけるイオン吸着材の多孔質合成セルロースにおける水酸基は、イオン吸着材を製造する際のグリシジル基の残基に相当するものである。
【0033】
上記アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、アンモニウム塩、さらに環状のアミンとしてピリジン、ピラジン、ピリジニウム、ピラジニウム、ピペラジン、ピペラジニウム、ピペリジン、ピペリジニウム、ピロール、ピロリジニウムなどを挙げることができる。
【0034】
また、イオン吸着材に対して金属塩を含有させる場合は、金属塩を適切な溶媒に溶解させ、これをイオン吸着材に接触させることにより固定することができる。なお、溶媒は蒸留水やイオン交換水を用いることができるが、エタノール等のアルコール溶媒やその混合溶媒を使用することもできる。溶媒量はイオン吸着材に対して100から1500質量%を用いるのがよい。
【0035】
金属塩を含む溶液の濃度調整方法としては、イオン吸着材100質量部に対して10〜150質量部の金属塩を添加すればよい。
【0036】
なお、ここで「固定する」とは上記多孔質合成セルロースに金属塩を担持することをいう。この場合、担持された金属塩の一部または全部が、例えば多孔質合成セルロースのアミンと結合し錯体を形成してもよい。
【0037】
(吸着システム及びイオン吸着材の使用方法)
次に、上述したイオン吸着材を用いた吸着システム及びイオン吸着材の使用方法について説明する。ここでは、一例として排水中のリン化合物(リン酸イオン)を吸着する場合について説明する。
【0038】
図1は2系統の吸着手段を備えたリン化合物吸着システムの概念図である。
T1、T2はリン化合物吸着材を充填したリン化合物吸着手段である。図1に図示した状態はT1で吸着、T2で脱着をそれぞれ行っている状態を示している。
【0039】
W1はリン化合物を含む排水が貯留されているタンクである。排水は供給手段(例えばポンプP1)により供給ラインL1、L2を通じて吸着手段T1に供給される。排水中のリン化合物は吸着手段T1の内部に具備されているリン化合物吸着材で吸着される。吸着された後の排水は排出ラインL6を通じて系外に排出される。
【0040】
なお、図1には図示していないが、排水が相当量のサスペンデッド・ソリッド成分(SS成分)を含んでいる場合にはこれらを予め除去するために除去手段を吸着手段T1の上流側に設けてもよい。
【0041】
排水は吸着手段T1の供給側及び/又は排出側において、測定手段(M2、M3)により排水中のリン化合物含有量が測定される。具体的には濃度計、流量計、電気伝導度計、pH計などの物理的または化学的な測定手段を単独あるいは併用して用いることができる。もちろん、リン化合物含有量が測定可能であればこれらの手段に限定されるものではない。以下、本実施の形態の説明においては測定手段に濃度計を採用したものとして説明する。この測定手段からの情報に基づき、供給手段P1から吸着手段T1への供給量を制御手段C1により調整する。
【0042】
具体的にリン化合物吸着システムの操作は以下のように行われる。
まず、吸着手段T1が初期状態(あるいは飽和まで吸着する余裕がある状態)にある場合、排水をタンクW1から供給手段P1により供給ラインL1、L2を通じて吸着手段T1に供給する。リン化合物はT1に吸着され、吸着後の排水は排出ラインL3、L6を通じて外部に排出される。
【0043】
ここで、供給側に設置された測定手段M2と排出側に設置された測定手段M3によりT1の吸着状態を観測する。吸着が順調に行われている場合、M3により測定されるリン化合物の濃度はM2よりも低い値を示す。しかし、吸着が次第に進行するにつれ、吸着後の排水の含有量が次第に増加する様子がM3により測定される。M3が予め設定した所定の値に達した時、測定手段M2、M3からの情報に基づき、制御手段C1が供給手段P1を一旦停止し、バルブV2、V3を閉め、吸着手段T1を排水の供給状態から隔離する(この状態Aとする)。
【0044】
なお、図1には図示していないが、排水のpHが変動する場合、あるいはpHが強酸性あるいは強塩基性であって本発明に係る吸着材に適したpH領域を外れている場合には、測定手段M1及び/又はM2により排水のpHを測定し、制御手段C1を通じて排水のpHを調整してもよい。例えば、本発明に係る実施の形態の一例としてpHが4乃至9の範囲で良好に吸着するリン化合物吸着材を用いた場合に、排水のpHがこの範囲を逸脱していれば、pH調整手段としてpH調整媒体を、例えばタンクW1に添加して排水と混合することにより、排水のpHを4乃至9の範囲に調整することにより、適切にリン化合物を適切に吸着させることができる。
【0045】
次にリン化合物の回収操作について、吸着手段T2を用いて説明する。
D1は吸着したリン化合物を脱着するための脱着媒体を貯留するタンクである。脱着媒体はタンクD1から供給手段P2により供給ラインL11、L12を通じて吸着手段T2に供給される。吸着手段T2に吸着されているリン化合物は、脱着媒体により媒体中に溶出(脱着)し、排出ラインL14、L16を通じて吸着手段T2の外部に排出される。このとき、例えば、回収タンクR1に回収してもよいし、条件によっては析出したリン化合物を濾別して回収してもよい。
【0046】
ここで、タンクD1に設置された測定手段M11と排出側に設置された測定手段M12によりT2の脱着状態を測定する。脱着が順調に行われている場合、M12により測定されるリン化合物の濃度はM11よりも高い値を示す。しかし、リン化合物の脱着が進むと、脱着後の脱着液の濃度が次第に低減する様子がM12により示される。M12が予め設定した所定の値に達した時、M11、M12からの情報に基づき、制御手段C1がP2を一旦停止し、バルブV13、V14を閉め、T2を脱着媒体の供給ラインから隔離する(状態Bとする)。
【0047】
脱着は、例えば塩化ナトリウム水溶液などの塩や塩酸水溶液などのpH調整剤を含む溶液を用いることができる。この場合、液体状態でリン化合物(リン酸イオン)を回収することができる。脱着時に必要となる脱着媒体の量はイオン吸着材を充填した吸着手段T2の充填層の容積に対して2倍以上10倍以下必要であるが、イオン吸着材が当該水溶液と効率よく接触できる量であればよい。2倍以下だと接触しない吸着材表面がある可能性があり、10倍以上だと薬剤コストが高くなり、タンクの大型化が予測され、非効率的である。
【0048】
また、水酸化ナトリウム水溶液などのpH調整剤を含む塩基性水溶液にリン化合物吸着材を接触させてリン化合物を脱着させる方法がある。この場合、水酸化ナトリウム水溶液は0.05mol/L以上1.5mol/L以下が好ましく、0.1mol/L以上1.0mol/L以下がさらに好ましい。0.05mol/Lより小さいとリン化合物の脱着効率が悪く、1.5mol/Lより大きいと強塩基性の影響によりリン化合物吸着材の劣化を早める。
【0049】
リン化合物(リン酸イオン)を脱離した水溶液に、例えば水酸化カルシウム等を添加して中和させることにより、脱離したリン化合物をリン酸カルシウムとして回収することができる。
【0050】
状態Aと状態Bとが双方揃ったら、双方のラインを切り替える。すなわち、吸着手段T1はバルブV11、V12を開き、脱着を開始する。また、吸着手段T2はバルブV4、V5を開いて吸着を開始する。
【0051】
なお、吸着手段T1、T2の吸着、脱着において、イオン吸着材と排水あるいは脱着媒体との接触効率を上げるため、接触効率促進手段X1、X2を併用してもよい。具体的には、攪拌装置による機械的攪拌、磁気による非接触攪拌などが例示される。特に窒素含有化合物担持担体がフェライト等の磁性体である場合には、攪拌装置を用いることなく、イオン吸着材そのものを攪拌子として用いることができるため、装置小型化、接触効率向上に有効である。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
セルロース多孔質担体としてビスコパールA(レンゴー製、平均粒径2mm)50g、純水750ml、メタクリル酸グリシジル100g、非イオン性界面活性剤(日本油脂製OT−221)0.3g、二酸化チオ尿素1.25g、及び過酸化水素水3.5mlを加え、60℃で2時間攪拌し、ろ過、洗浄後、50℃で乾燥させた。
【0053】
次いで、得られたセルロース多孔質の基材75g、ジエチレントリアミン50g及びジメチルホルムアミド750mlを80℃で6時間攪拌し、ろ過、洗浄後、80℃で乾燥させた。その後、塩化鉄を100g含む水溶液1000mlに、得られた化合物を加え、1時間攪拌させた後、ろ過、洗浄し、80℃で乾燥させ、目的とするイオン吸着材を得た。
【0054】
なお、元素分析によって、上記イオン吸着材の構造を調べた結果、窒素が検出された結果、セルロース多孔質の基材に対して、[−CH−CH(OH)−CH−]を介してアミンが結合されていると考えることができる。
【0055】
次いで、上記イオン吸着材の吸着性能評価を行った。具体的にはNaHPOの形態でリン元素を含む水溶液を被吸着媒体として準備し、攪拌機(NISSIN製、ROTARY MIXER)で攪拌し、リン化合物(リン酸イオン)をイオン吸着材0.1gと接触させた。8時間攪拌後、ろ過を行い、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)でリン化合物残留濃度の測定を行ないリン化合物の吸着量を求めた。この作業を任意のリン濃度で行い、吸着等温線を求めた。平衡濃度100mg―P/Lのときのリン吸着量を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
セルロース多孔質担体としてビスコパール(レンゴー製、平均粒径4mm)50gを使用した以外は実施例1と同様に吸着材を得た。得られた吸着材の吸着等温線を図1に示した。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
ジエチレントリアミン50gのかわりに2−ピコリルアミン50gを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
ジエチレントリアミン50gのかわりに2、2’−ジピコリルアミン50gを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例5)
ジエチレントリアミン50gのかわりにジエタノールアミンを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例6)
ジエチレントリアミン50gのかわりにN−(2−アミノエチル)ピペラジンを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例7)
ジエチレントリアミン50gのかわりにエチレンジアミンを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例8)
セルロース多孔質担体としてビスコパールA(レンゴー製、平均粒径2mm)50g、純水750ml、メタクリル酸グリシジル100g、非イオン性界面活性剤(日本油脂製OT−221)0.3g、二酸化チオ尿素1.25g、及び過酸化水素水3.5mlを加え、60℃で2時間攪拌し、ろ過、洗浄後、50℃で乾燥させた。
【0063】
次いで、得られたセルロース多孔質の基材75g、ジエチレントリアミン50g及びジメチルホルムアミド750mlを80℃で6時間攪拌し、ろ過、洗浄後、80℃で乾燥させた。その後、0.1N−HCl水溶液に浸漬して中和した後、ろ過し、乾燥させた。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例9)
塩化鉄100gのかわりに塩化銅100gを用いた以外は実施例1と同様の方法でリン吸着材を得た。イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例10)
実施例1で得られた吸着材を100mg−P/Lの被処理水50mlに0.1g投入し、吸着試験を行った後、0.001N−HCl、1N−NaClに調整した水溶液50mlで脱離して再生し、さらに吸着試験を行った。この操作を繰り返すことにより吸着材の耐久性をみた結果、10サイクル後に吸着量の低下はみられなかった(図2)。
【0066】
(実施例11及び比較例1)
約37μmのセルロース繊維50gを使用して実施例1と同様に吸着材を製造した。得られた吸着材2gを半径0.75cmのカラムに詰めた(比較例1)。また、実施例1で得られた吸着材2gも同様にカラムに詰めた(実施例11)。ここに純水20mlをポンプなしで自然に通水し、時間を測定した結果、セルロース繊維で30分かかったのに対し、実施例1の吸着材では1分であった。
【0067】
(比較例2)
比較例1で得た吸着材に対し、実施例1と同様の操作で吸着性能評価を行った。結果を表1に示す。リン化合物の吸着量は実施例等と同じであることが判明した。但し、上述のように通水に長時間を要するため、リン化合物の吸着に際しても長時間を要することが分かる。
【0068】
(比較例3)
セルロース多孔質担体としてビスコパールA(レンゴー製、平均粒径2mm)50g、純水750ml、メタクリル酸グリシジル100g、非イオン性界面活性剤(日本油脂製OT−221)0.3g、二酸化チオ尿素1.25g、及び過酸化水素水3.5mlを加え、60℃で2時間攪拌し、ろ過、洗浄後、50℃で乾燥させた。次いで、得られたセルロース多孔質の基材を吸着材として使用し、実施例1と同様の操作で吸着性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4)
セルロース多孔質担体としてビスコパールA(レンゴー製、平均粒径2mm)50g、純水750ml、非イオン性界面活性剤(日本油脂製OT−221)0.3g、二酸化チオ尿素1.25g、及び過酸化水素水3.5mlを加え、60℃で2時間攪拌し、ろ過、洗浄後、50℃で乾燥させた。
【0070】
次いで、得られたセルロース多孔質の基材75g、ジエチレントリアミン50g及びジメチルホルムアミド750mlを80℃で6時間攪拌し、ろ過、洗浄後、80℃で乾燥させた。その後、塩化鉄を100g含む水溶液1000mlに、得られた化合物を加え、1時間攪拌させた後、ろ過、洗浄し、80℃で乾燥させ、目的とするイオン吸着材を得た。
【0071】
イオン吸着材の吸着性能評価については実施例1と同様の操作で行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、本実施例で得たイオン吸着材はいずれも高いリン吸着量を示すことが分かる。但し、実施例1〜7に係る塩化鉄を含むイオン吸着材は、塩化鉄を含まない実施例8,9に係るイオン吸着材に比してリン吸着量が高くなっており、鉄イオンを含むことによってリン酸イオンに対する選択的吸着性を示すことが分かる。
【0074】
また、実施例10及び図2から明らかなように、本実施例で得たイオン吸着材は、10サイクルの吸着及び再生を経た後も、破損等することなく高い吸着特性を示すことが分かる。すなわち、高い耐久性を有することが分かる。
【0075】
さらに、実施例11及び比較例1から明らかなように、実施例11では通水によるイオン吸着材との接触時間は1分であり、通水による圧力損失が比較的少なく、比較的短時間でイオンの吸着を効率よく行うことができることが分かる。一方、比較例1では、通水によるイオン吸着材との接触時間は30分であり、通水による圧力損失が比較的大きく、イオンの吸着に対する効率が低いことが分かる。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
T1、T2 吸着手段
P1、P2 供給手段(ポンプ)
M1、M2、M3、M11、M12、M13 測定手段
C1 制御手段
D1 脱着媒体供給タンク
R1 脱着媒体回収タンク
W1 排水貯留タンク
L1、L2、L4 排水供給ライン
L3、L5、L6 排水排出ライン
L11、L12、L14 脱着媒体供給ライン
L13、L15、L16 脱着媒体排出ライン
V1、V2、V3、V4、V5、V11、V12、V13、V14、V15 バルブ
X1、X2 接触効率促進手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質合成セルロース基材に、[−CH−CH(OH)−CH−]を介してアミンが結合されてなることを特徴とする、イオン吸着材。
【請求項2】
前記多孔質合成セルロース基材は金属塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載のイオン吸着材。
【請求項3】
前記金属塩が鉄塩又は銅塩であることを特徴とする、請求項2に記載のイオン吸着材。
【請求項4】
多孔質合成セルロース基材にグリシジル基を導入する工程と、
前記グリシジル基とアミンを反応させる工程と、
を具えることを特徴とする、イオン吸着材の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質合成セルロース基材に金属塩を導入する工程を具えることを特徴とする、請求項4に記載のイオン吸着材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一に記載のイオン吸着材を含む吸着手段と、
前記吸着手段へ排水を供給する供給手段と、
前記吸着手段から排水を排出する排出手段と、
前記吸着手段の供給側または排出側の少なくとも一方に設けられた前記排水中のイオンの含有量を測定するための測定手段と、
前記測定手段の測定結果に基づいて求められる値が予め設定した値に達した時に、前記供給手段から前記吸着手段への前記排水の供給量を減じるための制御手段と、
を具えることを特徴とする、吸着システム。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一に記載のイオン吸着材に対して排水を接触させ、前記排水中のイオンを前記イオン吸着材に対して吸着させるステップと、
前記イオン吸着材に対して前記排水を接触させる前又は後において、前記排水中のイオンの含有量を測定するためのステップと、
前記イオン含有量の測定結果に基づいて求められる値が予め設定した値に達した時に、前記イオン吸着材に接触させる前記排水の供給量を減じるステップと、
を具えることを特徴とする、イオン吸着材の使用方法。
【請求項8】
前記吸着材に前記イオンを吸着させた後において、前記吸着材にpH調整剤又は塩を接触させることにより、吸着した前記イオンを脱着させ、前記吸着材を再生するステップを具えることを特徴とする、請求項7に記載のイオン吸着材の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−103207(P2013−103207A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250574(P2011−250574)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】