説明

イオン固定型第三級ホスフィン

【課題】反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能な第三級ホスフィンを提供する。
【解決手段】下記構造式(1)で表されるイオン固定型第三級ホスフィンとする。


(Rは直鎖アルキル基である。RとRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基、又は、C−C結合を介して結合された炭素数4以上7以下の環である。またRとRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基、分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR〜Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、直鎖アルキレン、分岐アルキレン基又はフェニレンである。なおAにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン固定型第三級ホスフィンに関する。
【背景技術】
【0002】
トリブチルホスフィンやトリフェニルホスフィンに代表される第三級ホスフィンは、光延反応、アルコールのハロゲン化反応、シュタウディンガー反応のような化学量論量反応の反応試薬として汎用されている有機リン化合物である。また、第三級ホスフィンは、森田−ベイリス−ヒルマン反応等の触媒として、更には溝呂木−ヘック反応、鈴木−宮浦クロスカプリング反応、菌頭反応、右田−小杉−スティル反応等の金属触媒の配位子として、ラボスケール合成ばかりでなく、大規模な工業化学や医薬品化学においても広く用いられている極めて有用な化合物である(例えば下記非特許文献1乃至7参照)。
【0003】
ところで近年、イオン液体なる物質について報告がなされてきている。イオン液体とは、イミダゾリウム、ピリジニウム等の陽イオンと、ハロゲン、BF、PF等の陰イオンからなる塩で、融点を有しており、塩でありながら液体状態をとることが可能である。こうしたイオン液体は、蒸気圧がほとんどないため、引火性、可燃性もほとんどなく、蒸気に暴露されることもない。そのため、有機合成における安全な反応溶媒として利用されている。
【0004】
イオン液体を反応溶媒として用いる場合、溶質はイオンのみに溶媒和されているため、水や通常の有機溶媒を用いたときとは全く異なった環境下で反応が進行する。イオン液体は、これまでにフリーデル−クラフト反応、ディールス−アルダー反応、鈴木−宮浦カップリング反応、ウィッティヒ反応、金属錯体触媒を用いた不斉合成反応等に応用され、その有用性が報告されている。また、ある種のイオン液体は水や極性の有機溶媒に溶けにくいという性質を有しており、この性質を利用して反応生成物を有機溶媒で抽出した後、イオン液体を回収、再利用することが例えば下記非特許文献8に報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O.Mitsunobu,M.Yamada,Bull.Chem.Soc.Jpn.,1967,40,2380
【非特許文献2】H.Staudinger,J.Meyer,Helv.Chim.Acta,1919,2,635
【非特許文献3】M.Shi,Y.H.Liu,Org.Biomol.Chem.,2006,4,1468
【非特許文献4】F.Ozawa,A.Kubo,T.Hayashi,Chem.Lett.,1992,2177.
【非特許文献5】N.Miyaura,K.Yamada,A.Suzuki,Tetrahedron Lett.,1979,3437
【非特許文献6】K.Sonogashira,Y.Tohda,N.Hagiwara,Tetrahedron Lett.,1975,50,4467
【非特許文献7】M.Kosugi,K.Sasazawa,Y.Shimizu,T.Migta,Chem.Lett.,1977,301
【非特許文献8】V.L.Boulaire,R.Gree,Chem.Commun.,2000,2195
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、第三級ホスフィンは有用な化合物であるが、酸化されやすく、酸化されるとホスフィンオキシドに変質する。また、光延反応等では反応後にホスフィンオキシドが副生する場合があるが、この場合ホスフィンオキシドと目的化合物の分離が困難である。更に、第三級ホスフィンの多くは安価であるが、反応後ホスフィンオキシドはそのまま廃棄されている。これはグリーンサスティナブルケミストリーの観点から問題である。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能な第三級ホスフィンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第一の観点に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、下記構造式(1)で表される。
【化1】

【0009】
なお、上記(1)式中、Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。RとRはそれぞれ独立に炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキル基、又は、C−C結合を介して結合された炭素数4以上7以下の環である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR〜Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン基又はフェニレンである。なおAにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数である。
【0010】
また、本発明の他の一観点に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、下記構造式(2)で表される。
【化2】

【0011】
なお、上記式(2)中、Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR、R、Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン基、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン基又はフェニレン基である。なお、Aにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数であり、mは1以上4以下の整数である。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係るイオン固定側第三級ホスフィンは、構造式(3)で表される。
【化3】

【0013】
また、本発明の他の一観点に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、下記構造式(4)で表される。
【化4】

【発明の効果】
【0014】
以上、本発明に係る第三級ホスフィンは、反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であって、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係るイオン液体固定型第三級ホスフィンは、下記構造式(1)で示される。
【化6】

【0017】
なお上記構造式中、Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。RとRはそれぞれ独立に炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキル基、又は、C−C結合を介して結合された環である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR〜Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン又はフェニレンである。なおAにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数である。
【0018】
なお、上記構造式において、RとRがC−C結合を介して結合された環である場合は、下記構造式(2)で示される。
【化7】

【0019】
なお、上記式(2)中、Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR〜Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン基、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン基又はフェニレン基である。なお、Aにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数であり、mは1以上4以下の整数である。
【0020】
本実施形態に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、上記構造式(1)及び(2)から明らかなように、イオンに固定されており、この部位が水や極性を有する有機溶媒に難溶性を示す。したがって水や極性を有する有機溶媒によって洗浄等することで反応系から簡単に分離が可能となる。また本実施形態に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、後述の化学量論反応に用いられた場合、反応後ホスフィンオキシドとなるため、分離後に還元剤を作用させることによって容易に元のイオン固定型第三級ホスフィンに再生可能である。なお、この場合における還元剤としては、限定されるわけではないが、例えば(CHO)SOとLiAlHとの組み合わせ、CHIとLiAlHの組み合わせ、及び、Ce(NH(NOとNaBHの組み合わせの少なくともいずれかを好適に用いることができる。
【0021】
また本実施形態に係るイオン固定型第三級ホスフィンは、上記効果を有する限りにおいて限定されず様々な反応に用いることができ、例えば光延反応、アルコールのハロゲン化反応、シュタウディンガー反応のような化学量論量反応の反応試薬として、また森田−ベイリス−ヒルマン反応等の触媒として、更には溝呂木−ヘック反応、鈴木−宮浦クロスカプリング反応、菌頭反応、右田−小杉−スティル反応等における触媒として用いることができる。なお、本イオン固定型第三級ホスフィンは、触媒として用いる場合、金属に配位させることで触媒として用いることができる。
【0022】
(製造方法)
ここで、上記の構造式(1)の製造方法について説明する。もちろん、ここでの説明は製造のための一方法を示すに過ぎず、この記載例に限定されるわけではない。
【0023】
まず、下記構造式(A)で示されるジハロゲン化合物と、下記構造式(B)で示されるクロロホスフィンを、溶媒中でMgと反応させた後、さらに過酸化水素水と反応させ、下記構造式(C)で示されるホスフィン化合物を得る(この反応については、例えば下記反応式(I)を参照。)。
【化8】

【0024】
なお、上記反応における溶媒は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンを例示することができるが、特に限定されるわけではないがテトラヒドロフランであることは安価で環境負荷が少ない観点から好ましい。
【0025】
また上記反応における反応温度は、反応を進行させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば30℃以上100℃以下の範囲で加熱することは反応を促進させる上で好ましい。また反応時間も適宜選択可能であるが、30分以上120分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0026】
次に、上記構造式(C)の化合物と下記構造式(D)で示されるアミンを、溶媒の存在下で反応させ、下記構造式(E)のイオン固定型ホスフィンオキシド化合物を得る(この反応については、例えば下記反応式(II)を参照)。
【化9】

【0027】
なお、上記反応における溶媒は、反応を行なうことができる限りにおいて限定されるわけではないが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンを例示することができ、テトラヒドロフランであることは安価で環境負荷が少ない観点から好ましい。
【0028】
またこの場合、反応温度は反応を進行させることができる範囲で限定されるわけではなく、例えば30℃以上100℃以下の範囲で加熱することは反応を促進させる上で好ましい。また反応時間も適宜選択可能であるが、30分以上120分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0029】
そして、この得られた上記構造式(E)に対し、還元剤を作用させ、下記構造式(1)で示すイオン固定型第三級ホスフィンを得ることができる(この反応については、例えば下記反応式(III)を参照)。
【化10】

【0030】
なお、この反応において、還元剤は、種々のものを使用することができるが、例えば、(CHO)SOとCHIの組み合わせ、(CHO)SOとLiAlHの組み合わせ、及び、Ce(NH(NOとNaBHの組み合わせの少なくともいずれかを好適に用いることができる。
【0031】
また、この反応における溶媒は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンを例示することができ、テトラヒドロフランであることが安価で環境負荷が少ない観点から好ましい。
【0032】
またこの場合、反応温度は反応を進行させることができる範囲で限定されるわけではなく、例えば30℃以上100℃以下の範囲で加熱することは反応を促進させる上で好ましい。また反応時間も適宜選択可能であるが、30分以上120分以下の範囲で行うことが好ましい。
【0033】
以上の工程によって、本実施形態に係るイオン固定型第三級ホスフィンを製造することができる。なお、ここで示す工程の順番や用いる反応は目的とするするイオン固定型第三級ホスフィンの構造によって自在に変更が可能であることはいうまでもない。例えば、上記の記載ではジハロゲン化合物とクロロホスフィンを反応させた後、アミンと反応させてイオン固定型ホスフィンオキシド化合物を得ているが、ジハロゲン化合物とアミンとを反応させた後、クロロホスフィンを反応させてイオン固定型ホスフィンオキシドを得るようにしても良い。更には、モノハロゲン化合物とクロロホスフィンを反応させた後、この反応で得られた化合物に対し改めてハロゲン化を行い、更にアミンを反応させてイオン固定型ホスフィンオキシド化合物を得るようにしても良い。(コメント:記載をご確認下さい)
【0034】
以上、本実施形態におけるイオン液体固定型第三級ホスフィンは、反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能なものとなる。
【実施例】
【0035】
ここで、上記実施形態に係るイオン液体固定型第三級ホスフィンの効果について、具体的な化合物を作製し、その効果を確認した。以下説明する。ただし、以下に示す実施例はあくまで例示であって、下記の実施例の記載にのみ限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、下記構造式(3)で示す1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドを作製した。
【化11】

【0037】
(製造)
まず、N−メチルピロリジン2.7g(31.5mmol)と(4−ブロモメチルフェニル)ジフェニルホスフィンオキシド11.1g(30mmol)をテトラヒドロフラン(以下「THF」という。)に溶解し、70℃で12時間攪拌した。なおこの後吸引ろ過し、1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスホリル)ベンジル]ピロリジニウムブロミド11.2g(収率82%)を得た。
【0038】
次に、上記得た1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスホリル)ベンジル]ピロリジニウムブロミド1.4g(3mmol)にジメチルエーテル6ml、ジメチル硫酸0.4g(3.3mmol)を加え、攪拌した。なおこの後0℃で氷を加え、更に1NのHBr水溶液10mlを加え、ジエチルエーテルで2回洗浄した。そして水層を塩化メチレンで5回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮することにより、上記構造式(3)で示す1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドを得た。この一連の反応式を下記反応式示しておく。
【化11】

【0039】
なお、1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドの物性値は以下のとおりであった。
【0040】
融点:207〜9℃
H NMR(400MHz,CDCl):δ=2.22(m,2H),2.35(m,2H)3.21(s,3H),3.68(m,2H),4.03(m,2H),5.08(s,2H),7.26−7.40(m,12H),7.62(d,J=2.8Hz,2H)
IR(nujol):1433,742,696cm−1
E.A.Calcd for C2427BrNP・1/2HO:C,64.15;H,6.28;N,3.12 Found:C,64.09;H,6.11;N,2.96
【0041】
次に、この1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドを、アルコールの臭素化反応に用い、効果を確認した。
【0042】
アルコールの臭素化反応は、3−フェニルプロパノールと、四臭素化炭素をTHF中で加えて行い、この結果3−フェニルプロピルブロミドを収率95%で得た。なおこの場合における反応式を下記に示しておく。
【化12】

【0043】
そしてこの臭素化反応後、目的物をエーテルで抽出する際、反応副生成物である1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスホリル)ベンジル]ピロリジニウムブロミドが析出するため、ろ過により簡単に分離することができた。そして、分離した1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスホリル)ベンジル]ピロリジニウムブロミドに対し、(CHO)SOとLiAlHを作用させて還元し、再度1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドとした。なお、再度この1−メチル−1−[4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミドを上記と同じ臭素化反応に用いたところ、再び高収率(93%)で目的物を得ることができ、更に、同様な反応を繰り返したところ87%と高収率で目的物を得ることができた。
【0044】
この結果、反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能なイオン液体固定型第三級ホスフィンとなっていることを確認した。
【0045】
(実施例2)
本実施例では、下記構造式(4)で示す4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドを作製し、その評価を行った。
【化12】

【0046】
(製造)
ジメチルアミン22.5g(500mmol)と、KCO6.9g(50mmol)を加えたTHF(60ml)中に、4−ブロモベンジルブロミド12.5g(50mmol)をTHF(60ml)中に溶かしたものを滴下した。滴下した後、THF(30ml)で滴下ロートを洗浄し、60℃で24時間攪拌した。その後、CHClと水で分液し(×5)、抽出した有機相をNaSOで乾燥させた後、濃縮乾固した。なお得られた生成物に対し蒸留による精製を行い、10.6g(収率90%)を得た。なおこの場合における反応式を下記に示しておく。
【化13】

【0047】
次に、Mg1.4g(40mmol)を減圧下で加熱し25分乾燥させた後、Ar置換中で4−ブロモベンジルジメチルアミン6.0g(30mmol)とTHF(70ml)を加え、室温で1時間攪拌して反応させた。そして反応後、0℃下でClPPh(30mmol)とTHF(30ml)を加え、室温に戻し2時間攪拌して反応させた。反応後、氷でグリニャールをクエンチし、CHClで洗浄しながら自然ろ過した。これによって得られたろ液に0℃下でH2.0g(60mmol)を加え、室温に戻して1時間攪拌して反応させた。反応後、CHClを水で分液し(×5)、抽出した有機相にNaSOを加えて乾燥した後ろ過した。得られたろ液を濃縮乾固することで、4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルジメチルアミンオキシド9.6g(収率95%)を得た。
【化14】

【0048】
次に、4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルヂメチルアミンオキシド20.1g(60mmol)を加えたDME(200ml)中にMeSO(120mmol)を0℃下で加え、室温に戻してから50℃まで加温し1時間攪拌して反応させた。反応後、LiAlH(180mmol)を0℃下で反応液に少しずつ加え、室温に戻して2時間攪拌して反応させた。反応終了後0℃下で氷を加え、未反応のLiAlHをクエンチし、更に1NのHBr.Aq.(約400ml)を加えて1時間ほど攪拌した。なおこのとき、反応液はph2位を示すようHBr.Aq.の量で調節した。そしてエーテルと水で分液し(×2)して反応液を洗浄し、抽出した水相を更にCHClで抽出した(×5)。抽出された有機相にNaSOを加えて乾燥させろ過し、ろ液を濃縮乾固させることで目的の4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド19.6g(収率79%)を得ることができた。なおこの一連の反応式を下記に示しておく。
【化15】

【0049】
なお、4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドの物性値は以下のとおりであった。
【0050】
融点:169〜170℃
H NMR(CDCl,TMS):δ=3.39(9H,s),5.02(2H,S),7.27−7.30(2H,m),7.37−7.40(12H,m)
13C NMR(CDCl,TMS):δ=52.78(3f),68.51(s),127.48(q),128.71(2t)128.77(2t),129.23(2t),132.98(2t),133.80(2t),133.88(2t),133.95(2t),134.03(2t),135.90(q)
31P NMR(CDCl,HPO):δ=−4.98
E.A.:Calcd for C22H25BrNP・1/2CH3OH C,62.80%;H,6.32%;N,3.25% Found:C,6.77%;H,6.09%;N,3.16%
【0051】
次に、この4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドを、アルコールの臭素化反応に用い、効果を確認した。
【0052】
アルコールの臭素化反応は、3−フェニルプロパノール0.27g(2mmol)と、四臭素化炭素を(6ml)中に加えて行い、この結果3−フェニルプロピルブロミド0.38g(収率95%)を得た。
【0053】
そして反応後、目的物をエーテルで抽出する際、反応副生成物である4−(ジメチルホスフィノ)ベンジルジメチルアミンオキシドが析出したため、ろ過により簡単に分離することができた。なお分離した4−(ジメチルホスフィノ)ベンジルジメチルアミンオキシドは、(CHO)SOとLiAlHを還元剤として作用させ、再度4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドとした。なお、再度この4−(ジフェニルホスフィノ)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミドを上記と同じ臭素化反応に用いたところ、上記同様高収率(88%)で目的物を得ることができ、更に同様の反応においても76%と高収率で目的物を得ることができた。
【0054】
この結果、反応系から簡単に分離可能であって、かつ再生可能なイオン液体固定型第三級ホスフィンとなっていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るイオン液体固定型第三級ホスフィンは例えば光延反応等の化学量論量反応の反応試薬、及び、金属触媒の配位子として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるイオン固定型第三級ホスフィン。
【化1】

(Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。RとRはそれぞれ独立に炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキル基、又は、C−C結合を介して結合された炭素数4以上7以下の環である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR〜Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン基又はフェニレンである。なおAにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数である。)
【請求項2】
下記構造式(2)で表されるイオン固定型第三級ホスフィン。
【化2】

(Rは炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基である。またRとRはそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の数の直鎖アルキル基、炭素数1以上8以下の分岐アルキル基又はフェニル基のいずれかである。またR、R、Rにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。Aは、炭素数が1以上8以下の数の直鎖アルキレン基、炭素数が1以上8以下の数の分岐アルキレン基又はフェニレン基である。なお、Aにおける水素原子は他の原子に置換されていても良いし、置換基によって置換されていても良い。またXはハロゲン、BF、PF、(CFSON、又は4−CHSOである。またnは1以上4以下の整数であり、mは1以上4以下の整数である。)
【請求項3】
下記構造式(3)で表されるイオン固定型第三級ホスフィン。
【化3】

【請求項4】
下記構造式(4)で表されるイオン固定型第三級ホスフィン。
【化4】


【公開番号】特開2010−265256(P2010−265256A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11476(P2010−11476)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(591105993)東京化成工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】