イオン性カードラン誘導体および該カードラン誘導体と疎水性高分子から成る複合体
【課題】天然多糖であるカードランの水溶性誘導体。
【解決手段】6位に炭素に選択的にイオン性置換基を導入した下記の化学式1で示される繰り返し単位から成るカードラン誘導体。式中、Rはイオン性置換基。各種の疎水性高分子と混合して、水溶性複合体を形成する。
【解決手段】6位に炭素に選択的にイオン性置換基を導入した下記の化学式1で示される繰り返し単位から成るカードラン誘導体。式中、Rはイオン性置換基。各種の疎水性高分子と混合して、水溶性複合体を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多糖誘導体、およびその多糖誘導体を生体高分子や機能性高分子と複合化することによって得られナノテクノロジー、バイオテクノロジーの分野で有用な新規な水溶性複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多糖に代表される水溶性らせん高分子は、その特異な構造からキラル認識や分離のための材料として注目されている(非特許文献1および2)。また、らせん構造は、タンパク質のヘリックス構造や核酸の二重らせんに代表されるように生体機能を発現・制御する上でも欠かすことのできない重要な構造である。したがって、らせん構造を発現する水溶性高分子の合成は、キラルテクノロジーおよびバイオテクノロジーの技術革新にとって重要な課題である(非特許文献3および4)。
【非特許文献1】Y. Okamotoand E. Yashima, Angew.Chem. Int. Ed., 37, 1020-1043 (1998)
【非特許文献2】E. Yashima, K. Maeda and T. Nishimura, Chem.-Eur. J., 10, 42-51 (2004)
【非特許文献3】T. Nakano andY. Okamoto, Chem. Rev., 101, 4013-4038 (2001)
【非特許文献4】J. J. L. M. Cornelissen, A. E. Rowan, R. J. M. Nolte and N. A. J. M. Sommerdijk, Chem. Rev., 101, 4039-4070 (2001)
【0003】
上記のような水溶性らせん高分子と疎水性高分子との複合体はそれぞれの機能を同時に活用できる材料として注目されている。これまでに、例えば水溶性らせん高分子としてアミロースを用いることで、カーボンナノチューブとの複合体(非特許文献5および6)や高分子との複合体(非特許文献7および8)などが合成されている。代表的な疎水性高分子である共役高分子(非特許文献9)やカーボンナノチューブ(非特許文献10および11)はその電気化学的、光化学的性質から導電材料やセンサーとしての応用が検討されている。このような疎水性高分子を水溶性らせん高分子で水溶化し、複合体として得ることは、生体適合性のあるセンサーの創製やナノレベルにおける成形性の向上などの効果が期待される。また、核酸との複合体はジーンデリバリーなどのバイオテクノロジーへの応用が期待される(非特許文献12)。したがって、水溶性らせん高分子と疎水高分子の複合体は、ナノテクノロジーおよびバイオテクノロジーの分野で有用な材料へと応用可能である。
【非特許文献5】A. Star, D.W. Steuerman, J. R. Heath and J. F. Stoddart, Angew. Chem. Int. Ed., 41,2508-2512 (2002)
【非特許文献6】O.-K. Kim, J.Je, J. W. Baldwin, S. Kooi,P. E. Pehrsson and L. J. Buckley, J. Am. Chem. Soc. 125,4426-4427 (2003)
【非特許文献7】T. Sanji, N. Kato, M. Kato and M. Tanaka, Angew.Chem. Int. Ed., 44, 7301-7304 (2005)
【非特許文献8】Y. Hui and W. Zou, in Frontiers in Supramolecular Organic Chemistry and Photochemistry (Eds.:H.-J. Schneider, H.Duerr), VCH, Weinheim,1991, pp. 203-221.
【非特許文献9】D. T. McQuade, A. E. Pullen and T. M. Swager,Chem. Rev., 100, 2537-2574 (2000)
【非特許文献10】M. M. J. Treacy, T. W. Ebbesen and J. M.Gibson, Nature, 381, 678-680 (1996)
【非特許文献11】S. J. Tans, M.H. Devoret, H. Dai, A. Thess,R. E. Smalley, L. J. Geerlings and C. Dekker, Nature, 386, 474-477 (1997)
【非特許文献12】S. C. D. Smedt, J. Demeester and W. E. Hennink, Pharm. Res., 17, 113-126(2000)
【0004】
本発明者らは、水溶性かつ天然のβ-1,3-グルカンの一種であるシゾフィラン(以下、SPGということがある。図2参照)が核酸や機能性分子と複合体を形成することを明らかにしている。β-1,3-グルカンは、天然に存在する状態では一般に三重のらせん構造を形成しているが、非プロトン性の極性溶媒またはアルカリ水溶液中では一本鎖のランダムコイル状に解離していることが知られている。そして、そのランダムコイル状のβ-1,3-グルカンは、水中で三重のらせん状に巻き戻ること、その際に一本鎖の核酸や疎水性高分子物質が存在すると、それらを巻き込んで超らせん構造を有する複合体を形成することが本発明者らにより発見されている。
【特許文献1】再表2001−034207
【特許文献2】特開2005−104762
【特許文献3】特開2006−131735
【特許文献4】特開2006−160770
【特許文献5】特開2006−205302
【特許文献6】特開2006−241334
【特許文献7】特開2006−248973
【非特許文献13】K. Sakuraiand S. Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 122 (18),4520-4521 (2000)
【非特許文献14】M. Numata, M. Asai, K. Kaneko, A. Bae, T. Hasegawa, K. Sakurai and S. Shinkai,J. Am. Chem. Soc., 127 (16), 5875-5884 (2005)
【非特許文献15】T. Hasegawa,S. Haraguchi, M. Numata, T.Fujisawa, C. Li, K. Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai,Chem. Lett., 34 (1), 40-41 (2005)
【非特許文献16】C. Li, M. Numata, A. Bae, K. Sakurai and S.Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 127 (13), 4548-4549(2005)
【非特許文献17】A. Bae, M. Numata, T. Hasegawa, C.Li, K. Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai, Angew. Chem. Int. Ed., 44 (13), 2030-2033 (2005)
【非特許文献18】K. Sakurai,K. Uezu, M. Numata, T.i Hasegawa, C. Li, K. Kaneko and S. Shinkai;Chem. Commun., 35, 4383-4398 (2005)
【非特許文献19】M. Numata, C. Li, A.-H. Bae, K.Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Commun., 37, 4655-4657 (2005)
【0005】
シゾフィランの如き水溶性β-1,3-グルカンを用いる多糖/高分子複合体の調製においては天然の素材をそのまま使用できるメリットがある反面、DMSOのような極性溶媒やNaOHのような塩基の水溶液に一旦溶解させ、三重鎖のへリックス構造をランダムコイル状に解離させた後に対象高分子と混合し、さらに水を加えて巻き戻し・熟成させる必要があるため、操作が煩雑、かつ極性溶媒の処理を要した。一方、天然素材から安価に得られるβ-1,3-グルカン(図1(A)参照)の一種であるカードランは、水に難溶で、高分子との複合体形成に利用するには不向きであった。
【非特許文献20】I.-Y. Lee,In Biotechnology of Biopolymers-From Synthesis to Patents (Ed.: A. Steinbuechel,Y. Doi), Wiley-VCH, Weinheim, 2005, Chapter 16, pp. 457-480.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価な天然多糖であるカードランの利用価値を高めるために水溶性誘導体に変えること、ならびに得られたカードラン誘導体を各種疎水性高分子と複合体化し、ナノマテリアル創製に活用できる新技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
今回、本発明者は、イオン性置換基をカードランの特定位置に、かつ特定のリンカーを挟んで導入することで、カードランを水溶化し、かつ多様なゲスト分子と水中で混合するだけで容易に複合体を調製することを可能となし本発明を導き出した。
かくして、本発明は、下記の化学式1で示される繰り返し単位から成ることを特徴とするカードラン誘導体を提供するものである。
【0008】
【化1】
【0009】
上記式中、Rはイオン性置換基を表わし、カチオン性置換基またはアニオン性置換基のいずれでもよい。カチオン性置換基の好ましい例としては4級アンモニウム基、例えば、トリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3が挙げられるが、これに限定されるものではない。アニオン性置換基の好ましい例としては硫酸基-SO3-が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0010】
さらに、本発明に従えば、上記のカードラン誘導体と疎水性高分子とから成ることを特徴とする複合体が適用される。カードラン誘導体と複合体を形成するのに好ましい疎水性高分子の例としては、核酸、例えば、Poly(C)やCpGDNAなどが挙げられる。本発明の複合体を形成するのに好ましい疎水性高分子の他の例としては、カーボンナノチューブや導電性高分子(例えば、ポリアニリン、ポリシランなど)が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0011】
上記化学式1で表される繰り返し単位から成るカードラン誘導体と疎水性高分子とから成る本発明の複合体は、当該カードラン誘導体と疎水性高分子とを水中で混合することにより形成させることができ、この複合体の製造法も本発明に包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカードラン誘導体は各種の反応を工夫することにより合成することができる。まず、図4のスキーム(i)および(ii)に従ってアジド化カードラン(CUR-N3)を合成する(非特許文献21)。原料カードランは市販試薬として入手することができる(例えば、和光純薬製)。次いで、アジド化カードランにClick Chemistry の手法(非特許文献22および特許文献8)を適用し、イオン性置換基Rを導入する(非特許文献23および24)。Rがカチオン性のN+(CH3)3およびアニオン性のSO3-の場合の合成条件の詳細は後述の実施例1および実施例3に記述している。その他のイオン性置換基の例を図4下段に示すが、それらの例に限定されるものではない。なお、原料カードランの分子量は特に限定されるものではないが、一般に重量平均分子量として約1,000,000のものを用いる。
【非特許文献21】G. Borjihan, G. Zhong, H. Baigude, H. Nakashima and T. Uryu,Polym. Adv. Technol., 14,326-329 (2003)
【非特許文献22】V. V. Rostovtsev,L. G. Green, V. V. Fokin and K. B. Sharpless, Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2596-2599 (2002)
【特許文献8】WO 03101972
【非特許文献23】T. Hasegawa,M. Umeda, M. Numata, T.Fujisawa, S. Haraguchi, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Lett., 35, 82-83 (2006).
【非特許文献24】T. Hasegawa,M. Umeda, M. Numata, C. Li,A.-H. Bae, T. Fujisawa, S. Haraguchi,K. Sakurai and S. Shinkai, Carbohydrate Res., 341,35-40 (2006)
【0013】
図3は、カードラン誘導体(CUR-N+)から本発明に従い複合体が形成される様子を、シゾフィラン(SPG)の場合と比較して示す概念図である。既述の化学式1に示されるように主鎖のグルコースの6位の炭素に選択的にイオン性置換基を導入したカードランは、そのイオン性置換基の互いの電荷反発により水溶液中でシゾフィランのように三重らせん構造をとることなく安定な一本鎖状の構造をとると考えられる。したがって、シゾフィランとは異なり水溶液中にて疎水性高分子と接触することにより容易に複合体を形成することが期待される。その際、イオン性置換基が6位に選択的に導入され主鎖に対して外側を向いているため、主鎖の内側でのβ-グルカン特有の疎水領域の形成を妨害しないと考えられる。以上のような性質がイオン性置換基を導入したカードランが疎水性高分子と複合体を形成する上で重要である。イオン性置換基がランダムに導入されるとβ-1,3-グルカン特有の疎水領域の形成が妨げられるため、疎水性高分子との効果的な複合体の形成および水溶化が困難になると考えられる。このように、イオン性置換基を導入したカードランは、水溶液中で混合するのみで、室温下、数時間程度で疎水性高分子と容易に複合体を形成する。その際モノマーユニットの比率は、およそ1:1から2:1(=[イオン性置換基を導入したカードラン]:[疎水性高分子])となる。既述のように、疎水性高分子としては、ポリシランやポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレンのような導電性高分子、カーボンナノチューブ、核酸(各種のRNA、DNA、CpG ODAなど)などが挙げられ、これらと複合化可能である。得られた複合体は、疎水性高分子に特有の吸収スペクトルおよび円二色性スペクトルの変化ならびに顕微鏡観察によって確認できる。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0014】
四級アンモニウム化カードラン(CUR-N+)の合成 50mlのサンプル瓶に、従来法(非特許文献3)により合成した原料のアジド化カードラン187
mg(1.0mM(モノマー単位))を入れ、DMSO10mlに溶解した。これに、蒸留水1.0ml、プロピルアミン1.0ml、CuBr2 11.2mg(5mol%)、アスコルビン酸44mg(25mol%)を加えた後、1-プロピニル-トリメチルアンモニウムクロライド668mg(5mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。その後、この溶液を透析し、得られた水溶液を凍結乾燥したところ、乳白色の固体が得られた。
【実施例2】
【0015】
CUR-N+の同定 生成物の1H-NMR(図5)および13C-NMR(図6)測定、原料と生成物のFTIRスペクトル比較(図7)、および生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC;図8)による平均分子量測定で行った。NMRのケミカルシフト値、IRの吸収波長値、SEC による平均分子量推定値、および合成時の収量を以下に示す。1H-NMR(600MHz, 2.0mg/ml, D2O, 25℃):d=8.45(s, 1H, triazole-H)、4.93(br, 1H,H1)、4.72(br, 2H
(overlapped with water), NCH2)、3.86(br, 2H, H6 and H3)、3.66(br, 2H, H6 and H5)、3.40 (br, 2H, H2
and H4)、3.18(br, 9H, NCH3)。13C-NMR(125MHz,5.0mg/ml,
D2O, 25℃):d=138.06,
128.64, 105.12, 86.09, 75.96, 73.78, 71.23, 62.47, 55.35, 51.78。FTIR(powder, cm-1):3352, 2905, 1587, 1475, 1072, 897, 551。SEC(ShodexOHpak
SB-806M HQ,0.1M NaNO3 aq、40℃、pullulan standards)Mw(MW/Mn) = 3.2x104(1.6)。収量302mg(収率94%)。FTIRスペクトルよりアジド基が完全に消失していることが確認され、定量的な反応の進行が明らかとなった。また、1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルから目的物であることを確認した。
【実施例3】
【0016】
硫酸化カードラン(CUR-SO3-)の合成 実施例1のCUR-N+と同様の手法により合成した。50mlのサンプル瓶に、従来法により合成したアジド化カードラン100mg(0.53mM(モノマー単位))を入れ、DMSO10mlに溶解した。ここに、蒸留水1.0ml、プロピルアミン5.2ml、CuBr210mg(8.4mol%)、アスコルビン酸50mg(54mol%)を加えた後、1-プロピニルスルホン酸ナトリウム800mg(5.3mmol)を加え、室温で60時間撹拌した。その後、この溶液を透析し、得られた水溶液を凍結乾燥したところ、乳白色の固体が得られた。
【実施例4】
【0017】
硫酸化カードラン(CUR-SO3-)の同定 1H-NMR(図9)、13C-NMR(図10)、FTIRスペクトル(図11)、およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC;図12)にて行った。1H-NMR(600 MHz,
2.0mg/ml, D2O, 60℃):d = 9.52(br, 1H, triazole-H)、4.94(br, 1H, H1)、4.70(br, 2H, SCH2)、4.30(br, 1H, H5)、3.91(br, 2H, H6)、3.62(br, 1H, H3)、3.42(br, 1H, H2)、3.25(br, 1H, H4)。13C-NMR(300MHz, 25mg/ml,10mM NaOD/D2O, 25℃):d = 129.74, 104.75, 85.58, 75.98, 72.47,
71.54, 53.58, 50.43。FTIR(powder, cm-1):3400, 3153, 2962, 1635, 1182, 1035。SEC(Shodex OHpakSB-806M HQ、0.1M NaNO3aq、40℃、pullulan standards)Mw(MW/Mn)=5.0x104(1.5)。収量160mg(収率90%)。FTIRスペクトルよりアジド基が完全に消失していることが確認され、定量的な反応の進行が明らかとなった。また、1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルから目的物であることを確認した。
【実施例5】
【0018】
CUR-N+/poly(C)複合体の調製 Poly(C)(アマシャムバイオサイエンス株式会社より入手の合成RNA;図13、配列番号1)水溶液(1.0mg/ml、100μl)を1.0mM Tris緩衝液(pH 8.0)1000μlで希釈し、ここにCUR-N+水溶液(5.0mg/ml、100μl)を加えた。4℃で2日(数時間でも良い)静置することによって複合体水溶液を得た。
【実施例6】
【0019】
CUR-N+/poly(C)複合体の同定 実施例5により得られたCUR-N+/poly(C)複合体溶液のUV-VIS吸収および円二色性(CD)スペクトルを評価した(図14)。吸光スペクトルはそれぞれ単独のスペクトルの足し合わせ(CUR-N+
+ poly(C))とCUR-N+/poly(C)複合体のスペクトルを比較した。それぞれの溶液は、CUR-N+(1.3mM(モノマー単位))、poly(C)(0.24 mM(モノマー単位))、およびCUR-N+/poly(C)複合体(CUR-N+:1.3mM(モノマー単位)、poly(C):0.24mM(モノマー単位))の1.0mM Tris-HCl buffer(pH 8.0)溶液とし、光路長1cmの石英セルを用いて5℃で測定を行った。poly(C)はCUR-N+の存在下において275nmのCD強度が顕著に増大し、吸収スペクトルから吸光度の減少が確認された。このことは、CUR-N+がpoly(C)と超らせん構造の複合体を形成していることを示している(特許文献1、非特許文献13および25)。
【非特許文献25】K. Sakurai,M. Mizu and S. Shinkai, Biomacromolecules, 2, 641-650 (2001)
【実施例7】
【0020】
CUR-N+/poly(C)複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例5により得られたCUR-N+/poly(C)複合体の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例5の生成物溶液を10倍に希釈し、TEMグリッドまたはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM(図15左)およびAFM(図15右)のいずれの像においてもファイバー状の形態が確認された。またAFM(図15下)よりその高さは1.6nmであることから、ナノレベルの複合体が得られていることが明らかとなった。
【実施例8】
【0021】
CUR-N+/poly(C)複合体のRNaseに対する加水分解耐性 実施例5により得られた
CUR-N+/poly(C)複合体のRNaseの加水分解に対する耐性を吸光強度の変化から評価した。
図16に示すようにpoly(C)のみでは95%以上が加水分解される条件((poly(C)(0.12
mM(モノマー単位))およびCUR-N+/poly(C)溶液(0.60mM, 0.12mM(それぞれモノ
マー単位))1.0mM Tris-HCl buffer(pH 8.0)中25℃)、RNase A(2.0x10-4gL))で、
CUR-N+/poly(C)複合体は強い耐性を有していることが示された。本発明者らによってシゾフィラン複合体中の核酸が加水分解に対して耐性を示すことが明らかにされている(特許文献1、非特許文献26)。今回は、カチオン性の置換基が存在することで加水分解酵素の複合体への結合が阻害され、加水分解耐性が発現したものと考えられる。
【非特許文献26】M. Mizu, K. Koumoto, T. Kimura, K.Sakurai and S. Shinkai, Biomaterials, 25, 3109-3116 (2004)
【実施例9】
【0022】
CUR-N+/ポリシラン複合体の調製 ポリシラン(図17;非特許文献27および28の方法で合成したもの)0.5mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-N+水溶液(2.6mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた溶液から遠心分離(3000rpm,30分)により不溶物を取り除いた。この操作を2回繰り返し、CUR-N+/ポリシラン複合体溶液を得た。
【非特許文献27】M. Fujiki, J. Am. Chem Soc., 116,6017-6018 (1994)
【非特許文献28】M. Fujiki, J. R. Koe, K. Terao, T. Sato, A. Teramoto andJ. Watanabe, Polym. J., 35, 297-344 (2003)
【実施例10】
【0023】
CUR-N+/ポリシラン複合体の構造に関するUV-VIS、蛍光、円二色性スペクトルによる検討 実施例9により得られたCUR-N+/ポリシラン複合体のUV-VIS吸収、円二色性(CD)、および蛍光スペクトルを評価した(図18)。ポリシランのσ共役に特徴的な吸収帯(287nm)がUV-VIS吸収スペクトルから確認され、それに応じた蛍光(316nm)も観測された。また、ポリシランの吸収帯領域にCD(288nm, 316nm)が確認されたことから、複合体形成およびその複合体においてポリシランがキラルな環境にあることが明らかとなった。
【実施例11】
【0024】
CUR-N+/ポリシラン複合体の形態観察 実施例9によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)により行った。実施例9の生成物溶液をTEMグリッドにキャストし観察用サンプルとした。CUR-N+が存在しない場合には認められないファイバー状の形態が確認された(図19)。以上の結果はCUR-N+が容易にポリシランを水に可溶化し、ファイバー状の形態へ成形できることを示している(非特許文献29および特許文献4)。
【非特許文献29】S. Haraguchi, T. Hasegawa, M. Numata,M. Fujiki, K. Uezu, , K.Sakurai and S. Shinkai,Org. Lett., 7, 5605-5608 (2005)
【実施例12】
【0025】
CUR-N+/カーボンナノチューブ複合体の調製 単層カーボンナノチューブ(SWNTs;Carbon Nanotechnologies Incorporated社のHipcoSWNT)1.12mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-N+水溶液(5mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W,20kHz)照射を行った。得られた黒色の溶液から遠心分離(5000rpm, 30分)により不溶物を取り除いた。この操作を二回繰り返した。得られた溶液に対してさらに遠心分離(15000rpm,60分)を行い、複合体を沈殿物として回収した。過剰のCUR-N+は上澄みとして取り除いた。得られた沈殿物を再度蒸留水に分散させた。この操作を三回繰り返し、CUR-N+/SWNTs複合体溶液を得た。
【実施例13】
【0026】
CUR-N+/SWNTs複合体に関する吸収スペクトル測定 実施例12により得られたCUR-N+/SWNTs複合体の吸収スペクトルを評価した。SWNTsに特徴的な吸収バンドが確認され(図20)、CUR-N+によってSWNTsが水中に可溶化されていることが明らかとなった。
【実施例14】
【0027】
CUR-N+/SWNTs複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例13によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例13によって得られた溶液をTEMグリッドあるいはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM像(図21左)からSWNTsがよく分散していることが分かった。また、AFM像(図21右)から観測された形態の高さは2nmから5nm程度であることから、一本から数本のSWNTsがCUR-N+によって効率的に包接されていることを示している(参考;非特許文献14、30および31、ならびに特許文献2および9)。
【非特許文献30】M. Numata, M. Asai, K. Kaneko, T.Hasegawa, N. Fujita, Y. Kitada, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Lett., 33,232-233 (2004)
【非特許文献31】T. Hasegawa,T. Fujisawa, M. Numata, M. Umeda,T. Matsumoto, T. Kimura, S. Okumura, K. Sakurai and S. Shinkai,Chem. Commun., 2150-2151 (2004)
【特許文献9】PCT/JP2005/8352
【実施例15】
【0028】
CUR-N+/ポリアニリン複合体の調製 ポリアニリン(図22;エメラルジン塩型、MW=20,000)0.5mgを2mlのサンプル瓶に入れ、ここにCUR-N+1.5mg入り水溶液1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた溶液から遠心分離(3000rpm, 30分)により不溶物を除去した。この操作を2回繰返し、CUR-N+/ポリアニリン複合体溶液を得た。
【実施例16】
【0029】
CUR-N+/ポリアニリン複合体に関する吸収スペクトルによる検討 実施例15により得られたCUR-N+/ポリアニリン複合体の吸収スペクトルを評価した。ポリアニリンのπ共役に特徴的な吸収帯(316, 608nm)が吸収スペクトル(図23)から確認された。
【実施例17】
【0030】
CUR-N+/ポリアニリン複合体の形態観察 実施例16によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)により行った。実施例16の精製溶液をTEMグリッドにキャストし観察用サンプルとした。CUR-N+が存在しない場合には認められないファイバー状の形態が確認された(図24)。以上の結果はCUR-N+が容易にポリアニリンを水に可溶化し、ファイバー状の形態へ成形できることを示している(参考;非特許文献32および特許文献3)。
【非特許文献32】M. Numata, T. Hasegawa, T. Fujisawa, K. Sakurai, and S. Shinkai, Org. Lett., 6, 4447-4450 (2004)
【実施例18】
【0031】
CUR-N+/CpG DNA複合体の調製 CpG DNA(北海道システムサイエンス株式会社より入手の合成DNA;配列番号2)水溶液(1.2mg/ml、20μl)をPBS溶液(pH 7.4)1000μlで希釈し、ここにCUR-N+水溶液(5.0mg/ml、8μl)を加えた。4℃で数時間静置することによって複合体水溶液を得た。
【実施例19】
【0032】
CUR-N+/CpG DNA複合体の同定 実施例18により得られたCUR-N+/CpG DNA複合体の円二色性(CD)スペクトルを評価した(図25)。それぞれの溶液は、CpG DNA(60μM (モノマー単位))、CUR-N+/CpG DNA複合体(CUR-N+:120μM(モノマー単位)、CpG DNA:60μM(モノマー単位))のPBS(pH 7.4)溶液とし、光路長1cmの石英セルを用いて5℃で測定を行った。CDスペクトルの変化が見られた。このことは、CUR-N+がCpG DNAと複合体を形成していることを示している。
【実施例20】
【0033】
CUR-N+/CpG DNA複合体のAFMによるモルフォロジー観察 実施例18により得られたCUR-N+/CpG DNA複合体の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例18の生成物溶液を10倍に希釈し、TEMグリッドまたはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM(図26左)およびAFM(図26右)のいずれの像においてもファイバー状の形態が確認された。またAFM(図26下)よりその高さは約1.4nmであることから、ナノレベルの複合体が得られていることが明らかとなった。
【実施例21】
【0034】
CUR-SO3-/SWNTs複合体の調製 単層カーボンナノチューブ(SWNTs;Carbon
Nanotechnologies Incorporated社のHipcoSWNT)1.22mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-SO3-水溶液(5mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた黒色の溶液から遠心分離(5000rpm, 30分)により不溶物を取り除いた。この操作を二回繰り返した。得られた溶液に対してさらに遠心分離(15000rpm, 60分)を行い、複合体を沈殿物として回収した。過剰のCUR-SO3-は上澄みとして取り除いた。得られた沈殿物を再度蒸留水に分散させた。この操作を三回繰り返し、CUR-SO3-/SWNTs複合体溶液を得た。
【実施例22】
【0035】
CUR-SO3-/SWNTs複合体に関する吸収スぺクトル測定 実施例21により得られたCUR-SO3-/SWNTs複合体の吸収スぺクトルを評価した。SWNTsに特徴的な吸収バンドが確認され(図27)、CUR-SO3-によってSWNTsが水中に可溶化されていることが明らかとなった。
【実施例23】
【0036】
CUR-SO3-/SWNTs複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例21によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例21の溶液をTEMグリッドあるいはマイカ基板にキャストし、観察用サンプルとした。TEM像(図28左)からSWNTsがよく分散していることが分かった。また、AFM像(図28右)から観測された形態の高さは5nm程度であることから、一本から数本のSWNTsがCUR-SO3-によって効率的に包接されていることを示している(参考文献;非特許文献12−14および特許文献6−7)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、水溶性カードラン誘導体を合成することが可能となる。得られたカードラン誘導体は、水中で核酸などの生体高分子やカーボンナノチューブなどの機能性高分子と複合体を効率的に形成でき、このように複合体化した核酸は酵素による切断から効果的に保護することが可能である。以上の簡便で温和かつクリーンな複合体形成法は、産業上の各種の用途が期待されるナノマテリアルやバイオマテリアルの創製に資する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)カードラン(CUR)、および(B)イオン性置換基導入カードラン誘導体の構造式。
【図2】シゾフィラン(SPG)の化学構造式。
【図3】本発明の複合体製造概念図。
【図4】カードランへのイオン性置換基導入のスキーム。
【図5】CUR-N+の1H-NMRスペクトル(実施例2)。
【図6】CUR-N+の13C-NMRスペクトル(実施例2)。
【図7】(A)CUR-N3および (B)CUR-N+のFTIRスペクトル(実施例2)。
【図8】CUR-N+のサイズ排除クロマトグラフィー(実施例2)。
【図9】CUR-SO3-の1H-NMRスペクトル(実施例4)。
【図10】CUR-SO3-の13C-NMRスペクトル(実施例4)。
【図11】CUR-SO3-のFTIRスペクトル(実施例4)。
【図12】CUR-SO3-のサイズ排除クロマトグラフィー(実施例4)。
【図13】poly(C)の化学構造(実施例5)。
【図14】CUR-N+、poly(C)、およびCUR-N+/poly(C)複合体のUV-VIS吸収スペクトルおよび円二色性スペクトル(実施例6)。
【図15】CUR-N+/poly(C)複合体のTEMおよびAFM像(実施例7)。
【図16】poly(C)およびCUR-N+/poly(C)複合体のRNAase Aによる加水分解に伴う吸光強度変化(実施例8)。
【図17】ポリシランの化学構造(実施例9)。
【図18】CUR-N+/ポリシラン複合体のUV-VIS吸収スペクトル(実施例10)。
【図19】CUR-N+/ポリシラン複合体のTEM像(実施例11)。
【図20】CUR-N+/SWNTs複合体のUV-VIS吸収スペクトル(挿入図は溶液の写真)(実施例13)。
【図21】CUR-N+/SWNTs 複合体のTEM およびAFM像(実施例14)。
【図22】ポリアニリンの化学式(実施例15)。
【図23】CUR-N+/ポリアニリン複合体のUV-VIS吸収スペクトル(挿入図は溶液の写真)(実施例16)。
【図24】CUR-N+/ポリアニリン複合体のTEM像(実施例17)。
【図25】CUR-N+/CpG DNA複合体の円二色スペクトル(実施例19)
【図26】CUR-N+/CpG DNA複合体のTMEおよびAFM像(実施例20)
【図27】CUR-SO3-/SWNTs複合体のUV-VIS吸収スぺクトル(実施例22)。
【図28】CUR-SO3-/SWNTs複合体のTEMおよびAFM像(実施例23)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多糖誘導体、およびその多糖誘導体を生体高分子や機能性高分子と複合化することによって得られナノテクノロジー、バイオテクノロジーの分野で有用な新規な水溶性複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多糖に代表される水溶性らせん高分子は、その特異な構造からキラル認識や分離のための材料として注目されている(非特許文献1および2)。また、らせん構造は、タンパク質のヘリックス構造や核酸の二重らせんに代表されるように生体機能を発現・制御する上でも欠かすことのできない重要な構造である。したがって、らせん構造を発現する水溶性高分子の合成は、キラルテクノロジーおよびバイオテクノロジーの技術革新にとって重要な課題である(非特許文献3および4)。
【非特許文献1】Y. Okamotoand E. Yashima, Angew.Chem. Int. Ed., 37, 1020-1043 (1998)
【非特許文献2】E. Yashima, K. Maeda and T. Nishimura, Chem.-Eur. J., 10, 42-51 (2004)
【非特許文献3】T. Nakano andY. Okamoto, Chem. Rev., 101, 4013-4038 (2001)
【非特許文献4】J. J. L. M. Cornelissen, A. E. Rowan, R. J. M. Nolte and N. A. J. M. Sommerdijk, Chem. Rev., 101, 4039-4070 (2001)
【0003】
上記のような水溶性らせん高分子と疎水性高分子との複合体はそれぞれの機能を同時に活用できる材料として注目されている。これまでに、例えば水溶性らせん高分子としてアミロースを用いることで、カーボンナノチューブとの複合体(非特許文献5および6)や高分子との複合体(非特許文献7および8)などが合成されている。代表的な疎水性高分子である共役高分子(非特許文献9)やカーボンナノチューブ(非特許文献10および11)はその電気化学的、光化学的性質から導電材料やセンサーとしての応用が検討されている。このような疎水性高分子を水溶性らせん高分子で水溶化し、複合体として得ることは、生体適合性のあるセンサーの創製やナノレベルにおける成形性の向上などの効果が期待される。また、核酸との複合体はジーンデリバリーなどのバイオテクノロジーへの応用が期待される(非特許文献12)。したがって、水溶性らせん高分子と疎水高分子の複合体は、ナノテクノロジーおよびバイオテクノロジーの分野で有用な材料へと応用可能である。
【非特許文献5】A. Star, D.W. Steuerman, J. R. Heath and J. F. Stoddart, Angew. Chem. Int. Ed., 41,2508-2512 (2002)
【非特許文献6】O.-K. Kim, J.Je, J. W. Baldwin, S. Kooi,P. E. Pehrsson and L. J. Buckley, J. Am. Chem. Soc. 125,4426-4427 (2003)
【非特許文献7】T. Sanji, N. Kato, M. Kato and M. Tanaka, Angew.Chem. Int. Ed., 44, 7301-7304 (2005)
【非特許文献8】Y. Hui and W. Zou, in Frontiers in Supramolecular Organic Chemistry and Photochemistry (Eds.:H.-J. Schneider, H.Duerr), VCH, Weinheim,1991, pp. 203-221.
【非特許文献9】D. T. McQuade, A. E. Pullen and T. M. Swager,Chem. Rev., 100, 2537-2574 (2000)
【非特許文献10】M. M. J. Treacy, T. W. Ebbesen and J. M.Gibson, Nature, 381, 678-680 (1996)
【非特許文献11】S. J. Tans, M.H. Devoret, H. Dai, A. Thess,R. E. Smalley, L. J. Geerlings and C. Dekker, Nature, 386, 474-477 (1997)
【非特許文献12】S. C. D. Smedt, J. Demeester and W. E. Hennink, Pharm. Res., 17, 113-126(2000)
【0004】
本発明者らは、水溶性かつ天然のβ-1,3-グルカンの一種であるシゾフィラン(以下、SPGということがある。図2参照)が核酸や機能性分子と複合体を形成することを明らかにしている。β-1,3-グルカンは、天然に存在する状態では一般に三重のらせん構造を形成しているが、非プロトン性の極性溶媒またはアルカリ水溶液中では一本鎖のランダムコイル状に解離していることが知られている。そして、そのランダムコイル状のβ-1,3-グルカンは、水中で三重のらせん状に巻き戻ること、その際に一本鎖の核酸や疎水性高分子物質が存在すると、それらを巻き込んで超らせん構造を有する複合体を形成することが本発明者らにより発見されている。
【特許文献1】再表2001−034207
【特許文献2】特開2005−104762
【特許文献3】特開2006−131735
【特許文献4】特開2006−160770
【特許文献5】特開2006−205302
【特許文献6】特開2006−241334
【特許文献7】特開2006−248973
【非特許文献13】K. Sakuraiand S. Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 122 (18),4520-4521 (2000)
【非特許文献14】M. Numata, M. Asai, K. Kaneko, A. Bae, T. Hasegawa, K. Sakurai and S. Shinkai,J. Am. Chem. Soc., 127 (16), 5875-5884 (2005)
【非特許文献15】T. Hasegawa,S. Haraguchi, M. Numata, T.Fujisawa, C. Li, K. Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai,Chem. Lett., 34 (1), 40-41 (2005)
【非特許文献16】C. Li, M. Numata, A. Bae, K. Sakurai and S.Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 127 (13), 4548-4549(2005)
【非特許文献17】A. Bae, M. Numata, T. Hasegawa, C.Li, K. Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai, Angew. Chem. Int. Ed., 44 (13), 2030-2033 (2005)
【非特許文献18】K. Sakurai,K. Uezu, M. Numata, T.i Hasegawa, C. Li, K. Kaneko and S. Shinkai;Chem. Commun., 35, 4383-4398 (2005)
【非特許文献19】M. Numata, C. Li, A.-H. Bae, K.Kaneko, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Commun., 37, 4655-4657 (2005)
【0005】
シゾフィランの如き水溶性β-1,3-グルカンを用いる多糖/高分子複合体の調製においては天然の素材をそのまま使用できるメリットがある反面、DMSOのような極性溶媒やNaOHのような塩基の水溶液に一旦溶解させ、三重鎖のへリックス構造をランダムコイル状に解離させた後に対象高分子と混合し、さらに水を加えて巻き戻し・熟成させる必要があるため、操作が煩雑、かつ極性溶媒の処理を要した。一方、天然素材から安価に得られるβ-1,3-グルカン(図1(A)参照)の一種であるカードランは、水に難溶で、高分子との複合体形成に利用するには不向きであった。
【非特許文献20】I.-Y. Lee,In Biotechnology of Biopolymers-From Synthesis to Patents (Ed.: A. Steinbuechel,Y. Doi), Wiley-VCH, Weinheim, 2005, Chapter 16, pp. 457-480.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価な天然多糖であるカードランの利用価値を高めるために水溶性誘導体に変えること、ならびに得られたカードラン誘導体を各種疎水性高分子と複合体化し、ナノマテリアル創製に活用できる新技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
今回、本発明者は、イオン性置換基をカードランの特定位置に、かつ特定のリンカーを挟んで導入することで、カードランを水溶化し、かつ多様なゲスト分子と水中で混合するだけで容易に複合体を調製することを可能となし本発明を導き出した。
かくして、本発明は、下記の化学式1で示される繰り返し単位から成ることを特徴とするカードラン誘導体を提供するものである。
【0008】
【化1】
【0009】
上記式中、Rはイオン性置換基を表わし、カチオン性置換基またはアニオン性置換基のいずれでもよい。カチオン性置換基の好ましい例としては4級アンモニウム基、例えば、トリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3が挙げられるが、これに限定されるものではない。アニオン性置換基の好ましい例としては硫酸基-SO3-が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0010】
さらに、本発明に従えば、上記のカードラン誘導体と疎水性高分子とから成ることを特徴とする複合体が適用される。カードラン誘導体と複合体を形成するのに好ましい疎水性高分子の例としては、核酸、例えば、Poly(C)やCpGDNAなどが挙げられる。本発明の複合体を形成するのに好ましい疎水性高分子の他の例としては、カーボンナノチューブや導電性高分子(例えば、ポリアニリン、ポリシランなど)が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0011】
上記化学式1で表される繰り返し単位から成るカードラン誘導体と疎水性高分子とから成る本発明の複合体は、当該カードラン誘導体と疎水性高分子とを水中で混合することにより形成させることができ、この複合体の製造法も本発明に包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカードラン誘導体は各種の反応を工夫することにより合成することができる。まず、図4のスキーム(i)および(ii)に従ってアジド化カードラン(CUR-N3)を合成する(非特許文献21)。原料カードランは市販試薬として入手することができる(例えば、和光純薬製)。次いで、アジド化カードランにClick Chemistry の手法(非特許文献22および特許文献8)を適用し、イオン性置換基Rを導入する(非特許文献23および24)。Rがカチオン性のN+(CH3)3およびアニオン性のSO3-の場合の合成条件の詳細は後述の実施例1および実施例3に記述している。その他のイオン性置換基の例を図4下段に示すが、それらの例に限定されるものではない。なお、原料カードランの分子量は特に限定されるものではないが、一般に重量平均分子量として約1,000,000のものを用いる。
【非特許文献21】G. Borjihan, G. Zhong, H. Baigude, H. Nakashima and T. Uryu,Polym. Adv. Technol., 14,326-329 (2003)
【非特許文献22】V. V. Rostovtsev,L. G. Green, V. V. Fokin and K. B. Sharpless, Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2596-2599 (2002)
【特許文献8】WO 03101972
【非特許文献23】T. Hasegawa,M. Umeda, M. Numata, T.Fujisawa, S. Haraguchi, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Lett., 35, 82-83 (2006).
【非特許文献24】T. Hasegawa,M. Umeda, M. Numata, C. Li,A.-H. Bae, T. Fujisawa, S. Haraguchi,K. Sakurai and S. Shinkai, Carbohydrate Res., 341,35-40 (2006)
【0013】
図3は、カードラン誘導体(CUR-N+)から本発明に従い複合体が形成される様子を、シゾフィラン(SPG)の場合と比較して示す概念図である。既述の化学式1に示されるように主鎖のグルコースの6位の炭素に選択的にイオン性置換基を導入したカードランは、そのイオン性置換基の互いの電荷反発により水溶液中でシゾフィランのように三重らせん構造をとることなく安定な一本鎖状の構造をとると考えられる。したがって、シゾフィランとは異なり水溶液中にて疎水性高分子と接触することにより容易に複合体を形成することが期待される。その際、イオン性置換基が6位に選択的に導入され主鎖に対して外側を向いているため、主鎖の内側でのβ-グルカン特有の疎水領域の形成を妨害しないと考えられる。以上のような性質がイオン性置換基を導入したカードランが疎水性高分子と複合体を形成する上で重要である。イオン性置換基がランダムに導入されるとβ-1,3-グルカン特有の疎水領域の形成が妨げられるため、疎水性高分子との効果的な複合体の形成および水溶化が困難になると考えられる。このように、イオン性置換基を導入したカードランは、水溶液中で混合するのみで、室温下、数時間程度で疎水性高分子と容易に複合体を形成する。その際モノマーユニットの比率は、およそ1:1から2:1(=[イオン性置換基を導入したカードラン]:[疎水性高分子])となる。既述のように、疎水性高分子としては、ポリシランやポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレンのような導電性高分子、カーボンナノチューブ、核酸(各種のRNA、DNA、CpG ODAなど)などが挙げられ、これらと複合化可能である。得られた複合体は、疎水性高分子に特有の吸収スペクトルおよび円二色性スペクトルの変化ならびに顕微鏡観察によって確認できる。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0014】
四級アンモニウム化カードラン(CUR-N+)の合成 50mlのサンプル瓶に、従来法(非特許文献3)により合成した原料のアジド化カードラン187
mg(1.0mM(モノマー単位))を入れ、DMSO10mlに溶解した。これに、蒸留水1.0ml、プロピルアミン1.0ml、CuBr2 11.2mg(5mol%)、アスコルビン酸44mg(25mol%)を加えた後、1-プロピニル-トリメチルアンモニウムクロライド668mg(5mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。その後、この溶液を透析し、得られた水溶液を凍結乾燥したところ、乳白色の固体が得られた。
【実施例2】
【0015】
CUR-N+の同定 生成物の1H-NMR(図5)および13C-NMR(図6)測定、原料と生成物のFTIRスペクトル比較(図7)、および生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC;図8)による平均分子量測定で行った。NMRのケミカルシフト値、IRの吸収波長値、SEC による平均分子量推定値、および合成時の収量を以下に示す。1H-NMR(600MHz, 2.0mg/ml, D2O, 25℃):d=8.45(s, 1H, triazole-H)、4.93(br, 1H,H1)、4.72(br, 2H
(overlapped with water), NCH2)、3.86(br, 2H, H6 and H3)、3.66(br, 2H, H6 and H5)、3.40 (br, 2H, H2
and H4)、3.18(br, 9H, NCH3)。13C-NMR(125MHz,5.0mg/ml,
D2O, 25℃):d=138.06,
128.64, 105.12, 86.09, 75.96, 73.78, 71.23, 62.47, 55.35, 51.78。FTIR(powder, cm-1):3352, 2905, 1587, 1475, 1072, 897, 551。SEC(ShodexOHpak
SB-806M HQ,0.1M NaNO3 aq、40℃、pullulan standards)Mw(MW/Mn) = 3.2x104(1.6)。収量302mg(収率94%)。FTIRスペクトルよりアジド基が完全に消失していることが確認され、定量的な反応の進行が明らかとなった。また、1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルから目的物であることを確認した。
【実施例3】
【0016】
硫酸化カードラン(CUR-SO3-)の合成 実施例1のCUR-N+と同様の手法により合成した。50mlのサンプル瓶に、従来法により合成したアジド化カードラン100mg(0.53mM(モノマー単位))を入れ、DMSO10mlに溶解した。ここに、蒸留水1.0ml、プロピルアミン5.2ml、CuBr210mg(8.4mol%)、アスコルビン酸50mg(54mol%)を加えた後、1-プロピニルスルホン酸ナトリウム800mg(5.3mmol)を加え、室温で60時間撹拌した。その後、この溶液を透析し、得られた水溶液を凍結乾燥したところ、乳白色の固体が得られた。
【実施例4】
【0017】
硫酸化カードラン(CUR-SO3-)の同定 1H-NMR(図9)、13C-NMR(図10)、FTIRスペクトル(図11)、およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC;図12)にて行った。1H-NMR(600 MHz,
2.0mg/ml, D2O, 60℃):d = 9.52(br, 1H, triazole-H)、4.94(br, 1H, H1)、4.70(br, 2H, SCH2)、4.30(br, 1H, H5)、3.91(br, 2H, H6)、3.62(br, 1H, H3)、3.42(br, 1H, H2)、3.25(br, 1H, H4)。13C-NMR(300MHz, 25mg/ml,10mM NaOD/D2O, 25℃):d = 129.74, 104.75, 85.58, 75.98, 72.47,
71.54, 53.58, 50.43。FTIR(powder, cm-1):3400, 3153, 2962, 1635, 1182, 1035。SEC(Shodex OHpakSB-806M HQ、0.1M NaNO3aq、40℃、pullulan standards)Mw(MW/Mn)=5.0x104(1.5)。収量160mg(収率90%)。FTIRスペクトルよりアジド基が完全に消失していることが確認され、定量的な反応の進行が明らかとなった。また、1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルから目的物であることを確認した。
【実施例5】
【0018】
CUR-N+/poly(C)複合体の調製 Poly(C)(アマシャムバイオサイエンス株式会社より入手の合成RNA;図13、配列番号1)水溶液(1.0mg/ml、100μl)を1.0mM Tris緩衝液(pH 8.0)1000μlで希釈し、ここにCUR-N+水溶液(5.0mg/ml、100μl)を加えた。4℃で2日(数時間でも良い)静置することによって複合体水溶液を得た。
【実施例6】
【0019】
CUR-N+/poly(C)複合体の同定 実施例5により得られたCUR-N+/poly(C)複合体溶液のUV-VIS吸収および円二色性(CD)スペクトルを評価した(図14)。吸光スペクトルはそれぞれ単独のスペクトルの足し合わせ(CUR-N+
+ poly(C))とCUR-N+/poly(C)複合体のスペクトルを比較した。それぞれの溶液は、CUR-N+(1.3mM(モノマー単位))、poly(C)(0.24 mM(モノマー単位))、およびCUR-N+/poly(C)複合体(CUR-N+:1.3mM(モノマー単位)、poly(C):0.24mM(モノマー単位))の1.0mM Tris-HCl buffer(pH 8.0)溶液とし、光路長1cmの石英セルを用いて5℃で測定を行った。poly(C)はCUR-N+の存在下において275nmのCD強度が顕著に増大し、吸収スペクトルから吸光度の減少が確認された。このことは、CUR-N+がpoly(C)と超らせん構造の複合体を形成していることを示している(特許文献1、非特許文献13および25)。
【非特許文献25】K. Sakurai,M. Mizu and S. Shinkai, Biomacromolecules, 2, 641-650 (2001)
【実施例7】
【0020】
CUR-N+/poly(C)複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例5により得られたCUR-N+/poly(C)複合体の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例5の生成物溶液を10倍に希釈し、TEMグリッドまたはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM(図15左)およびAFM(図15右)のいずれの像においてもファイバー状の形態が確認された。またAFM(図15下)よりその高さは1.6nmであることから、ナノレベルの複合体が得られていることが明らかとなった。
【実施例8】
【0021】
CUR-N+/poly(C)複合体のRNaseに対する加水分解耐性 実施例5により得られた
CUR-N+/poly(C)複合体のRNaseの加水分解に対する耐性を吸光強度の変化から評価した。
図16に示すようにpoly(C)のみでは95%以上が加水分解される条件((poly(C)(0.12
mM(モノマー単位))およびCUR-N+/poly(C)溶液(0.60mM, 0.12mM(それぞれモノ
マー単位))1.0mM Tris-HCl buffer(pH 8.0)中25℃)、RNase A(2.0x10-4gL))で、
CUR-N+/poly(C)複合体は強い耐性を有していることが示された。本発明者らによってシゾフィラン複合体中の核酸が加水分解に対して耐性を示すことが明らかにされている(特許文献1、非特許文献26)。今回は、カチオン性の置換基が存在することで加水分解酵素の複合体への結合が阻害され、加水分解耐性が発現したものと考えられる。
【非特許文献26】M. Mizu, K. Koumoto, T. Kimura, K.Sakurai and S. Shinkai, Biomaterials, 25, 3109-3116 (2004)
【実施例9】
【0022】
CUR-N+/ポリシラン複合体の調製 ポリシラン(図17;非特許文献27および28の方法で合成したもの)0.5mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-N+水溶液(2.6mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた溶液から遠心分離(3000rpm,30分)により不溶物を取り除いた。この操作を2回繰り返し、CUR-N+/ポリシラン複合体溶液を得た。
【非特許文献27】M. Fujiki, J. Am. Chem Soc., 116,6017-6018 (1994)
【非特許文献28】M. Fujiki, J. R. Koe, K. Terao, T. Sato, A. Teramoto andJ. Watanabe, Polym. J., 35, 297-344 (2003)
【実施例10】
【0023】
CUR-N+/ポリシラン複合体の構造に関するUV-VIS、蛍光、円二色性スペクトルによる検討 実施例9により得られたCUR-N+/ポリシラン複合体のUV-VIS吸収、円二色性(CD)、および蛍光スペクトルを評価した(図18)。ポリシランのσ共役に特徴的な吸収帯(287nm)がUV-VIS吸収スペクトルから確認され、それに応じた蛍光(316nm)も観測された。また、ポリシランの吸収帯領域にCD(288nm, 316nm)が確認されたことから、複合体形成およびその複合体においてポリシランがキラルな環境にあることが明らかとなった。
【実施例11】
【0024】
CUR-N+/ポリシラン複合体の形態観察 実施例9によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)により行った。実施例9の生成物溶液をTEMグリッドにキャストし観察用サンプルとした。CUR-N+が存在しない場合には認められないファイバー状の形態が確認された(図19)。以上の結果はCUR-N+が容易にポリシランを水に可溶化し、ファイバー状の形態へ成形できることを示している(非特許文献29および特許文献4)。
【非特許文献29】S. Haraguchi, T. Hasegawa, M. Numata,M. Fujiki, K. Uezu, , K.Sakurai and S. Shinkai,Org. Lett., 7, 5605-5608 (2005)
【実施例12】
【0025】
CUR-N+/カーボンナノチューブ複合体の調製 単層カーボンナノチューブ(SWNTs;Carbon Nanotechnologies Incorporated社のHipcoSWNT)1.12mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-N+水溶液(5mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W,20kHz)照射を行った。得られた黒色の溶液から遠心分離(5000rpm, 30分)により不溶物を取り除いた。この操作を二回繰り返した。得られた溶液に対してさらに遠心分離(15000rpm,60分)を行い、複合体を沈殿物として回収した。過剰のCUR-N+は上澄みとして取り除いた。得られた沈殿物を再度蒸留水に分散させた。この操作を三回繰り返し、CUR-N+/SWNTs複合体溶液を得た。
【実施例13】
【0026】
CUR-N+/SWNTs複合体に関する吸収スペクトル測定 実施例12により得られたCUR-N+/SWNTs複合体の吸収スペクトルを評価した。SWNTsに特徴的な吸収バンドが確認され(図20)、CUR-N+によってSWNTsが水中に可溶化されていることが明らかとなった。
【実施例14】
【0027】
CUR-N+/SWNTs複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例13によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例13によって得られた溶液をTEMグリッドあるいはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM像(図21左)からSWNTsがよく分散していることが分かった。また、AFM像(図21右)から観測された形態の高さは2nmから5nm程度であることから、一本から数本のSWNTsがCUR-N+によって効率的に包接されていることを示している(参考;非特許文献14、30および31、ならびに特許文献2および9)。
【非特許文献30】M. Numata, M. Asai, K. Kaneko, T.Hasegawa, N. Fujita, Y. Kitada, K. Sakurai and S. Shinkai, Chem. Lett., 33,232-233 (2004)
【非特許文献31】T. Hasegawa,T. Fujisawa, M. Numata, M. Umeda,T. Matsumoto, T. Kimura, S. Okumura, K. Sakurai and S. Shinkai,Chem. Commun., 2150-2151 (2004)
【特許文献9】PCT/JP2005/8352
【実施例15】
【0028】
CUR-N+/ポリアニリン複合体の調製 ポリアニリン(図22;エメラルジン塩型、MW=20,000)0.5mgを2mlのサンプル瓶に入れ、ここにCUR-N+1.5mg入り水溶液1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた溶液から遠心分離(3000rpm, 30分)により不溶物を除去した。この操作を2回繰返し、CUR-N+/ポリアニリン複合体溶液を得た。
【実施例16】
【0029】
CUR-N+/ポリアニリン複合体に関する吸収スペクトルによる検討 実施例15により得られたCUR-N+/ポリアニリン複合体の吸収スペクトルを評価した。ポリアニリンのπ共役に特徴的な吸収帯(316, 608nm)が吸収スペクトル(図23)から確認された。
【実施例17】
【0030】
CUR-N+/ポリアニリン複合体の形態観察 実施例16によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)により行った。実施例16の精製溶液をTEMグリッドにキャストし観察用サンプルとした。CUR-N+が存在しない場合には認められないファイバー状の形態が確認された(図24)。以上の結果はCUR-N+が容易にポリアニリンを水に可溶化し、ファイバー状の形態へ成形できることを示している(参考;非特許文献32および特許文献3)。
【非特許文献32】M. Numata, T. Hasegawa, T. Fujisawa, K. Sakurai, and S. Shinkai, Org. Lett., 6, 4447-4450 (2004)
【実施例18】
【0031】
CUR-N+/CpG DNA複合体の調製 CpG DNA(北海道システムサイエンス株式会社より入手の合成DNA;配列番号2)水溶液(1.2mg/ml、20μl)をPBS溶液(pH 7.4)1000μlで希釈し、ここにCUR-N+水溶液(5.0mg/ml、8μl)を加えた。4℃で数時間静置することによって複合体水溶液を得た。
【実施例19】
【0032】
CUR-N+/CpG DNA複合体の同定 実施例18により得られたCUR-N+/CpG DNA複合体の円二色性(CD)スペクトルを評価した(図25)。それぞれの溶液は、CpG DNA(60μM (モノマー単位))、CUR-N+/CpG DNA複合体(CUR-N+:120μM(モノマー単位)、CpG DNA:60μM(モノマー単位))のPBS(pH 7.4)溶液とし、光路長1cmの石英セルを用いて5℃で測定を行った。CDスペクトルの変化が見られた。このことは、CUR-N+がCpG DNAと複合体を形成していることを示している。
【実施例20】
【0033】
CUR-N+/CpG DNA複合体のAFMによるモルフォロジー観察 実施例18により得られたCUR-N+/CpG DNA複合体の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例18の生成物溶液を10倍に希釈し、TEMグリッドまたはマイカ基板にキャストし観察用サンプルとした。TEM(図26左)およびAFM(図26右)のいずれの像においてもファイバー状の形態が確認された。またAFM(図26下)よりその高さは約1.4nmであることから、ナノレベルの複合体が得られていることが明らかとなった。
【実施例21】
【0034】
CUR-SO3-/SWNTs複合体の調製 単層カーボンナノチューブ(SWNTs;Carbon
Nanotechnologies Incorporated社のHipcoSWNT)1.22mgを2mlのサンプル瓶に入れ、これにCUR-SO3-水溶液(5mg/ml)1mlを加えた。この溶液に50分間超音波(50W, 20kHz)照射を行った。得られた黒色の溶液から遠心分離(5000rpm, 30分)により不溶物を取り除いた。この操作を二回繰り返した。得られた溶液に対してさらに遠心分離(15000rpm, 60分)を行い、複合体を沈殿物として回収した。過剰のCUR-SO3-は上澄みとして取り除いた。得られた沈殿物を再度蒸留水に分散させた。この操作を三回繰り返し、CUR-SO3-/SWNTs複合体溶液を得た。
【実施例22】
【0035】
CUR-SO3-/SWNTs複合体に関する吸収スぺクトル測定 実施例21により得られたCUR-SO3-/SWNTs複合体の吸収スぺクトルを評価した。SWNTsに特徴的な吸収バンドが確認され(図27)、CUR-SO3-によってSWNTsが水中に可溶化されていることが明らかとなった。
【実施例23】
【0036】
CUR-SO3-/SWNTs複合体のTEMおよびAFMによるモルフォロジー観察 実施例21によって得られた溶液の形態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)により行った。実施例21の溶液をTEMグリッドあるいはマイカ基板にキャストし、観察用サンプルとした。TEM像(図28左)からSWNTsがよく分散していることが分かった。また、AFM像(図28右)から観測された形態の高さは5nm程度であることから、一本から数本のSWNTsがCUR-SO3-によって効率的に包接されていることを示している(参考文献;非特許文献12−14および特許文献6−7)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、水溶性カードラン誘導体を合成することが可能となる。得られたカードラン誘導体は、水中で核酸などの生体高分子やカーボンナノチューブなどの機能性高分子と複合体を効率的に形成でき、このように複合体化した核酸は酵素による切断から効果的に保護することが可能である。以上の簡便で温和かつクリーンな複合体形成法は、産業上の各種の用途が期待されるナノマテリアルやバイオマテリアルの創製に資する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)カードラン(CUR)、および(B)イオン性置換基導入カードラン誘導体の構造式。
【図2】シゾフィラン(SPG)の化学構造式。
【図3】本発明の複合体製造概念図。
【図4】カードランへのイオン性置換基導入のスキーム。
【図5】CUR-N+の1H-NMRスペクトル(実施例2)。
【図6】CUR-N+の13C-NMRスペクトル(実施例2)。
【図7】(A)CUR-N3および (B)CUR-N+のFTIRスペクトル(実施例2)。
【図8】CUR-N+のサイズ排除クロマトグラフィー(実施例2)。
【図9】CUR-SO3-の1H-NMRスペクトル(実施例4)。
【図10】CUR-SO3-の13C-NMRスペクトル(実施例4)。
【図11】CUR-SO3-のFTIRスペクトル(実施例4)。
【図12】CUR-SO3-のサイズ排除クロマトグラフィー(実施例4)。
【図13】poly(C)の化学構造(実施例5)。
【図14】CUR-N+、poly(C)、およびCUR-N+/poly(C)複合体のUV-VIS吸収スペクトルおよび円二色性スペクトル(実施例6)。
【図15】CUR-N+/poly(C)複合体のTEMおよびAFM像(実施例7)。
【図16】poly(C)およびCUR-N+/poly(C)複合体のRNAase Aによる加水分解に伴う吸光強度変化(実施例8)。
【図17】ポリシランの化学構造(実施例9)。
【図18】CUR-N+/ポリシラン複合体のUV-VIS吸収スペクトル(実施例10)。
【図19】CUR-N+/ポリシラン複合体のTEM像(実施例11)。
【図20】CUR-N+/SWNTs複合体のUV-VIS吸収スペクトル(挿入図は溶液の写真)(実施例13)。
【図21】CUR-N+/SWNTs 複合体のTEM およびAFM像(実施例14)。
【図22】ポリアニリンの化学式(実施例15)。
【図23】CUR-N+/ポリアニリン複合体のUV-VIS吸収スペクトル(挿入図は溶液の写真)(実施例16)。
【図24】CUR-N+/ポリアニリン複合体のTEM像(実施例17)。
【図25】CUR-N+/CpG DNA複合体の円二色スペクトル(実施例19)
【図26】CUR-N+/CpG DNA複合体のTMEおよびAFM像(実施例20)
【図27】CUR-SO3-/SWNTs複合体のUV-VIS吸収スぺクトル(実施例22)。
【図28】CUR-SO3-/SWNTs複合体のTEMおよびAFM像(実施例23)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1(式中、Rはイオン性置換基を表わす)で示される繰り返し単位から成ることを特徴とするカードラン誘導体。
【化1】
【請求項2】
Rで表されるイオン性置換基がカチオン性置換基であることを特徴とする請求項1のカードラン誘導体。
【請求項3】
カチオン性置換基が4級アンモニウム基であることを特徴とする請求項2のカードラン誘導体。
【請求項4】
4級アンモニウム基がトリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3であることを特徴とする請求項3のカードラン誘導体。
【請求項5】
Rで表されるイオン性置換基がアニオン性置換基であることを特徴とする請求項1のカードラン誘導体。
【請求項6】
アニオン性置換基が硫酸基-SO3-であることを特徴とする請求項5のカードラン誘導体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかのカードラン誘導体と疎水性高分子とから成ることを特徴とする複合体。
【請求項8】
疎水性高分子として核酸を用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項9】
核酸としてPoly(C)を用いることを特徴とする請求項8の複合体。
【請求項10】
核酸としてCpG DNAを用いることを特徴とする請求項8の複合体。
【請求項11】
疎水性高分子としてカーボンナノチューブを用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項12】
疎水性高分子として導電性高分子を用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項13】
導電性高分子としてポリアニリンを用いることを特徴とする請求項12の複合体。
【請求項14】
疎水性高分子としてポリシランを用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項15】
カードラン誘導体と疎水性高分子とを水中で混合することにより形成させることを特徴とする請求項7の複合体の製造法。
【請求項1】
下記の化学式1(式中、Rはイオン性置換基を表わす)で示される繰り返し単位から成ることを特徴とするカードラン誘導体。
【化1】
【請求項2】
Rで表されるイオン性置換基がカチオン性置換基であることを特徴とする請求項1のカードラン誘導体。
【請求項3】
カチオン性置換基が4級アンモニウム基であることを特徴とする請求項2のカードラン誘導体。
【請求項4】
4級アンモニウム基がトリメチルアンモニウム基-N+(CH3)3であることを特徴とする請求項3のカードラン誘導体。
【請求項5】
Rで表されるイオン性置換基がアニオン性置換基であることを特徴とする請求項1のカードラン誘導体。
【請求項6】
アニオン性置換基が硫酸基-SO3-であることを特徴とする請求項5のカードラン誘導体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかのカードラン誘導体と疎水性高分子とから成ることを特徴とする複合体。
【請求項8】
疎水性高分子として核酸を用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項9】
核酸としてPoly(C)を用いることを特徴とする請求項8の複合体。
【請求項10】
核酸としてCpG DNAを用いることを特徴とする請求項8の複合体。
【請求項11】
疎水性高分子としてカーボンナノチューブを用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項12】
疎水性高分子として導電性高分子を用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項13】
導電性高分子としてポリアニリンを用いることを特徴とする請求項12の複合体。
【請求項14】
疎水性高分子としてポリシランを用いることを特徴とする請求項7の複合体。
【請求項15】
カードラン誘導体と疎水性高分子とを水中で混合することにより形成させることを特徴とする請求項7の複合体の製造法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図22】
【図25】
【図27】
【図3】
【図15】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図28】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図22】
【図25】
【図27】
【図3】
【図15】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図28】
【公開番号】特開2008−208294(P2008−208294A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48690(P2007−48690)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]