説明

イオン性液体を使用するバイオマスからのバイオポリマーの抽出

イオン性液体を使用して、バイオポリマーを含有するバイオマスから、バイオポリマーを抽出及び分離する方法を開示する。バイオポリマーをイオン性液体中に溶解させる方法もまた開示する。バイオポリマーのイオン性液体中での溶解度を低下させるために回収溶媒を使用し、且つバイオポリマーを回収するために従来の分離技術を使用する。本発明が包含するバイオポリマーとしては、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン及びポリヒドロキシアルカノエートが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体を使用して、バイオポリマーを含むバイオマスからバイオポリマーを抽出及び分離する方法に関する。本発明は更に、バイオポリマーをイオン性液体中に溶解させる方法に関する。本発明が包含するバイオポリマーとしては、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン及びポリヒドロキシアルカノエートが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
各種合成ポリマーは典型的に、石油化学供給源から周知の化学プロセスを介して製造される。近年、産業界は、環境適合性のある、再生可能な植物源、動物源及び他の生物からのバイオポリマーに再び注目している。それら自然源からバイオポリマーを抽出又は分離するには、大量の揮発性有機溶媒又は他の望ましくない化学溶剤を使用することが多い。「グリーン(地球に優しい)溶剤」を使用して、バイオポリマーを抽出及び加工することが強く望まれている。
【0003】
近年、環境適合性のある又は「グリーン(地球に優しい)」な従来の有機溶媒の代替物として、イオン性液体が広範囲に評価されてきた。一般的に言えば、イオン性液体とは100℃以下の温度で液体である特定の部類の融解塩を意味する。イオン性液体は、非常に低い蒸気圧を有し、且つ実質上有害蒸気を発生しない。更に、イオン性液体は荷電種から成り、それは様々な用途、例えば抽出、分離、触媒反応にて有用な高極性媒体及び化学合成媒体を提供する。
【0004】
イオン性液体は、セルロース性物質及びデンプンを溶解させ又は処理するために使用されてきた。このような用途は、米国特許第1,943,176号、同第6,824,599号、PCT国際公開特許WO05/29329、同WO05/17001、同WO05/17252、及び同WO05/23873に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他のバイオポリマーが、イオン性液体に溶解され得ることが現在では判明している。他のバイオポリマーが、その天然生物源から、イオン性液体を使用して、抽出又は分離できることも明らかになっている。驚くことに、水又は有機溶媒に対して不溶性の又は非常に限定された溶解度を有するある種のバイオポリマーが、イオン性液体中に溶解し、その生物源からイオン性液体によって抽出され得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、バイオポリマーと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体とを混合して混合物を形成し、該混合物からバイオポリマーを溶解することを含んでなり、前記バイオポリマーが、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン又はポリヒドロキシアルカノエートである、方法に関する。
【0007】
本発明は更に、バイオポリマー及びある種のイオン性液体に不溶性の付加的物質(additional materials)を含むバイオマスからバイオポリマーを分離する方法であって、バイオマスと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体とを混合して混合物を形成し、該混合物から不溶性付加的物質を除去すること、それによりイオン性液体及びバイオポリマーを含む実質的に無水の組成物(即ち、回収可能組成物:recoverable composition)を生成すること、を含んでなり、前記バイオポリマーが、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン又はポリヒドロキシアルカノエートである、方法に関する。
【0008】
本発明は更に、バイオポリマーを含むバイオマスからバイオポリマーを抽出する方法であって、バイオマスと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体とを接触させることを含んでなり、バイオポリマーが、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン又はポリヒドロキシアルカノエートである、方法に関する。
【0009】
本発明は更に、本明細書に開示される任意の方法により得られるバイオポリマー及びイオン性液体を含む組成物を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書で使用する時、「バイオマス」という用語は、天然且つ生物源含有バイオポリマーのことを言い、そこから本発明のイオン性液体プロセスによってバイオポリマーを抽出又は分離することができるものを言う。
【0011】
本明細書で使用する時、「バイオポリマー」という用語は、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ケラチン及びポリヒドロキシアルカノエートを指す。
【0012】
本明細書で使用する時、「実質的に不存在」及び「実質的に無水」という用語は、約5重量%未満の水が存在することを意味する。幾つかの実施形態では、1重量%未満の水が存在する。
【0013】
イオン性液体
本明細書で使用する時、「イオン性液体」という用語は、約100℃以下、あるいは約60℃以下、又は更に代替的には約40℃以下の融解温度を有する塩を意味する。いくつかのイオン性液体は、識別可能な融点(DSC分析に基づく)を示さないが、約100℃以下の温度で「流動可能」であり、他のイオン性液体は約20〜約80℃の温度にて「流動可能」である。本明細書で使用する時、「流動可能」という用語は、イオン性液体が約100℃以下又は約20〜約80℃の温度にて、約10,000mPa・s未満の粘度を示すことを意味する。このため、イオン性液体の「流体状態」とは、溶融状態及び流動可能な状態を含む、これら全ての実施形態を包含することを意味する。
【0014】
用語「イオン性液体」、「イオン性化合物」、及び「IL」は、イオン性液体、イオン性液体合成物、及びイオン性液体の混合物(又は反応混液)を指すことを理解すべきである。前記イオン性液体は、アニオン性IL成分及びカチオン性IL成分を含み得る。イオン性液体がその流体状態にある時、これらの構成成分は互いに自由に会合(即ち、乱雑な状態にある)していてもよい。本明細書で使用する時、用語「イオン性液体の反応混液」とは、2つ又はそれ以上の、好ましくは少なくとも3つの、異なる、且つ帯電したIL成分の混合物を指し、少なくとも一つのIL成分がカチオン性であり、且つ少なくとも一つのIL成分がアニオン性である。このため、これら3つのカチオン性及びアニオン性IL構成成分が反応混液内で対になることで、少なくとも2つの異なるイオン性液体が得られる。イオン性液体の反応混液は、異なるIL成分を有する個別のイオン性液体を混合することによって、又はコンビナトリアル・ケミストリーで調合することによって、調製することが可能である。このような組み合わせ及びそれらの調製は、米国特許第2004/0077519A1号及び米国特許第2004/0097755A1号にて更に詳細に論じられている。本明細書で使用する時、用語「イオン性液体合成物」とは、直前に述べられている参考文献にて記載されているように、塩(室温では固体であることができる)と、プロトンドナーZ(液体又は固体であることができる)との混合物のことを言う。混合時に、これらの構成成分は約100℃以下で溶融又は流動するイオン性液体になり、該混合物はイオン性液体のように機能する。
【0015】
本発明において有用なイオン性液体が、下記化学式を有するカチオン性構成成分を含有する。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

[式中、R〜Rは、C1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシアルキル;C6〜C10アリール又はC8〜C16アルキレンアリール;及びこれらの混合物から成る群から独立して選択されるものである]。
【0016】
本発明において有用なイオン性液体は、アニオン性構成成分を含み、それはカチオン性構成成分と対になった場合に、イオン性液体を形成する。アニオン性構成成分は、ハロゲン化物、C1〜C6カルボキシレート、C1〜C6アルキルサルフェート、モノ−又はジ−・C1〜C10アルキルスルホサクシネート、モノ−又はジ−・C1〜C10エステルスルホサクシネート、並びにこれらの混合物から成る群から選択される。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記イオン性液体は下記化学式を有する。
【化6】

[式中、R〜Rは独立してC1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシアルキル;C6〜C10アリール又はC8〜C16アルキレンアリール;好ましくはC1〜C6アルキル部分又はC1〜C6アルコキシアルキル部分であり;前記アニオン性構成成分Xはハロゲン化物又はC1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、又はハロアルキル部分である]。ある特定の実施形態では、前記イオン性液体は直上述の化学式を有し、式中、RはC1〜C6アルキル部分又はC1〜C6アルコキシアルキル部分であり、Rはメチルであり且つアニオンは塩化物である。
【0018】
他の実施形態では、前記イオン性液体は下記化学式を有する。
【化7】

[式中、R〜Rは独立してC1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシアルキル;C6〜C10アリール又はC8〜C16アルキレンアリールであり、且つ前記アニオン性構成成分Xはハロゲン化物又はC1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、又はハロアルキルである]。更に他の実施形態では、前記イオン性液体は直前に示した様に、ジオクチルスルホサクシネートアニオン及びカチオン性構成成分を有する。
【0019】
バイオポリマー
「キチン」とは、次の一般的構造を有するグルコサミン多糖類である。
【化8】

【0020】
キチンを含有し且つそこからキチンを抽出できる供給源としては、甲殻類の硬い外殻、昆虫類及び他の無脊椎動物が挙げられるが、これらに限定されない。一般的な例としては、カニ、ロブスター、甲虫が挙げられる。好適なバイオマス供給源はまた、菌類、藻類及び酵母菌から入手可能である。
【0021】
「キトサン」は、キチンの脱アシル化誘導体である。キトサンを含有し且つそこからキトサンを抽出できる供給源としては、菌類の細胞壁が挙げられるが、これらに限定されるものではない。キトサンはまた、例えば米国特許第2004/0215005A1号に記載された方法に準じてキチンから製造することができる。
【0022】
「コラーゲン」は、多細胞動物内で最も豊富なタンパク質である。それは、プロリン及びヒドロキシプロリン内に豊富に含まれる。分子は、三つ撚りロープに似た構造を有し、各ストランドはポリペプチド鎖である。コラーゲン分子は、集まって緩やかなネットワーク、又は束若しくはシートに配設した厚い小線維を形成する。コラーゲンが老化すると、より架橋が進み、且つ吸湿性が失われる。「エラスチン」は、硬タンパク質である。エラスチン分子は、集まって非水溶性の繊維性マスを形成する。これらのタンパク質は、典型的にヒト及び動物の結合組織内に見出される。コラーゲン又はエラスチンを含有する供給源としては、皮膚、筋肉、腱、軟骨、血管、骨、歯が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0023】
「ケラチン」は、天然繊維性タンパク質のある部類を包含し、典型的に高含量にていくつかのアミノ酸、例えばシステイン、アルギニン及びセリンを含む。システイン単位はジスルフィド結合を介して架橋を形成してよい。架橋の程度に応じて、ケラチンはソフトタイプ例えば皮膚の外層から、ハードタイプ例えば爪まで変化する。
【0024】
ケラチンを含有し且つそこからケラチンを抽出できる供給源としては、皮膚、羊毛、毛髪及び羽毛の、外層並びに爪、鉤つめ、蹄が挙げられるがこれらに限定されない。これらの原料物質は、脊椎動物及びヒトにより生成される。
【0025】
「ポリヒドロキシアルカノエート」及び「PHA」は、次の繰り返し単位を含むポリマーである。
【化9】

[式中、Rは好ましくはH、アルキル又はアルケニルであり、mは約1〜約4である]。ポリヒドロキシアルカノエート及びPHAの用語には、一つ以上の異なる繰返し単位を含有するコポリマーが含まれる。例えば、PHAコポリマーは、少なくとも二つのランダムに繰り返すモノマー単位を含んでよく、前記の第1のランダムに繰り返すモノマー単位は次の構造を有する。
【化10】

[式中、RはH、又はC〜Cアルキルであり、nは1又は2であり、前記第2のランダムに繰り返すモノマー単位は次の構造を有する]。
【化11】

[式中、RはC〜C19アルキル又はC〜C19アルケニルであり、且つこの際、ランダムに繰り返すモノマー単位の少なくとも50%が第1のランダムに繰り返すモノマー単位の構造を有する]。
【0026】
PHAコポリマーの他の実施形態は、ヒドロキシ酪酸塩単位、ヒドロキシヘキサン酸塩単位、又はこれらの混合物を含有してもよい。PHAコポリマーの更に他の実施形態は、3−ヒドロキシプロピオン酸塩、3−ヒドロキシ酪酸塩、3−ヒドロキシ吉草酸塩、3−ヒドロキシヘキサン酸塩、3−ヒドロキシヘプタン酸塩、3−ヒドロキシオクタン酸塩、及びこれらの混合物を含有してもよい。
【0027】
PHAを含有し且つそこからPHAを抽出できる供給源としては、単細胞生物例えばバクテリア又は菌類、及び高等生物例えば植物が挙げられる。好適な供給源は、野生のもの、農作によるもの、培養されたもの、又は発酵させたものであってよい。
【0028】
本発明において有用な植物類は、PHAを産生するように設計された、任意の遺伝子操作された植物を包含する。好ましい植物類としては、農作物、例えば、穀物グレイン類、脂肪種子及び塊茎植物類;より好ましくは、アボカド、大麦、ビート、ソラマメ、そば粉、ニンジン、ココヤシの実、コプラ、トウモロコシ(トウモロコシの実)、綿実、ウリ、ヒラマメ、ライマメ、雑穀、緑豆、オート麦、アブラヤシ、エンドウ、落花生、ジャガイモ、かぼちゃ、菜種(例えば、キャノーラ)、米、サトウモロコシ、大豆、テンサイ、サトウキビ、ヒマワリ、サツマイモ、タバコ、小麦及び山芋が挙げられる。本発明のプロセスにおいて有用な、このような遺伝子変調された実の成る植物としては、リンゴ、アプリコット、バナナ、カンタロープ、サクランボ、ブドウ、キンカン、レモン、ライム、オレンジ、パパイヤ、モモ、西洋ナシ、パイナップル、タンジェリン、トマト、及びスイカが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、前記植物類は、ポワリエ Y.(Poirier, Y.)、D.E.デニス(D. E. Dennis)、K.クロンパレンズ(K. Klomparens)及びC.サマービル(C. Somerville)、「トランスジェニック植物類中で産生される、生分解性の熱可塑性プラスチックである、ポリヒドロキシブチレート(Polyhydroxybutyrate, a biodegradable thermoplastic, produced in transgenic plants)」サイエンス(SCIENCE)、第256巻、520〜523頁(1992年);米国特許第5,610,041号及び同第5,650,555号(両方ともに、サマービル(Somerville)らに)に開示されている方法に従って、PHAを産生するように遺伝子操作され得る。次の植物:大豆、ジャガイモ、トウモロコシ、及びココヤシは、農業的に大量に生成することができるために、遺伝子手術してPHAを生成するのに特に望ましい。
【0029】
好適な供給源はまた、PHAを天然で産出するバクテリア並びに遺伝子操作された種、特に、栽培者が興味のある特定のPHAを産生するように設計されたものから入手可能である。このような遺伝子操作された生物は、一つ以上のタイプのPHAを作り出すために必要な遺伝子情報を生物内に組み込むことによって作り出される。典型的には、このような遺伝子情報は自然の状態でPHAを作り出すバクテリアから得られる。このような細菌の例としては、新規な生物分解性微生物ポリマー(NOVEL BIODEGRADABLE MICROBIAL POLYMERS)、E.A.ドーズ(E.A. Dawes)編(ed.)、NATO ASIシリーズ、シリーズE;応用科学(Applied Sciences)−第186巻、クラウワー・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)(1990年);米国特許第5,292,860号(塩谷及び小林、1994年3月8日発行);米国特許第5,250,430号(ピープルズ(Peoples)及びシンスキー(Sinskey)、1993年10月5日発行);米国特許第5,245,023号(ピープルズ(Peoples)及びシンスキー(Sinskey)、1993年9月14日発行);及び/又は米国特許第5,229,279号(ピープルズ(Peoples)及びシンスキー(Sinskey)、1993年7月20日発行)に開示されているものが挙げられる。
【0030】
植物油からのAlcaligenes eutrophus及びその組み換え株による、発酵プロセスを介してのPHAの効率的生産については、米国特許第6,225,438号に開示されている。短鎖〜中鎖の3−ヒドロキシアシルモノマー及びC6,C7及び/又はC83−ヒドロキシアシルモノマーを有するバイオマス含有PHAコポリマーは、この発酵プロセスによって生成することができる。
【0031】
プロセス
本発明は、その流体状態であり且つ実質的な水の不存在下のイオン性液体にて、バイオポリマーに溶解させる方法を包含する。イオン性液体の強力な溶媒和力により、有機溶媒又は水に不溶性又は限定された溶解度を有するバイオポリマーを、かなり穏やかな条件下にて溶解させることができる。溶解過程は、ほぼ室温(20℃)〜約100℃の温度にて、大気圧下で行うことができる。幾つかの実施形態では、前記溶解過程は約40〜約90℃の温度にて実施される。所望により、溶解速度を上げるため、つまり、処理時間を短くするために、高温(例えば、約130℃以下)を使用してもよい。
【0032】
前記溶解工程は、温度に応じて約1分〜約5時間かかることを含んでなる。溶解工程では、イオン性液体及びバイオポリマーを含む、澄んだ、透明の又は半透明の溶液が生じる。典型的実施形態では、溶液の約1重量%〜約50重量%がバイオポリマーである。他の実施形態では、前記溶液は溶液の約5重量%〜約45重量%、又は約10重量%〜約40重量%のバイオポリマーを含む。
【0033】
バイオポリマーの溶解を促進し、それによって処理時間を短くするために、穏やかな加熱、攪拌、音波処理、圧力、放射エネルギー(例えば、マイクロウェーブ、赤外線)を適用してよい。典型的には、溶解を促進するために、酸又は塩基添加物を使用する必要はない。しかし、酸及び塩基を所望により添加できる。
【0034】
前記方法は、有効量の回収溶媒(recovery solvent)を添加することによりバイオポリマーを溶液から回収することを含んでなる。イオン性液体の溶媒和力を変化させ若しくは弱めるために、又はバイオポリマーのイオン性液体中での溶解度を減少させるために、溶解度バイオポリマー/IL混合物へ回収溶媒が添加される。次に前記バイオポリマーは既知の分離方法例えば、沈殿、結晶化、遠心分離、デカンテーション、濾過、及びこれらの組み合わせによって回収される。
【0035】
一実施形態では、有効量の回収溶媒をバイオポリマー/IL混合物に添加し、バイオポリマーが混合物から沈殿するようにする。回収溶媒対イオン性液体の重量比は、約100:1〜約1:2、好ましくは約20:1〜約1:1、より好ましくは約10:1〜約2:1である。所望により、バイオポリマーの沈殿及び回収を促進するために、酸又は塩基を前記混合物に添加することができる。
【0036】
代表的な回収溶媒としては、水、C1〜C6アルコール、C2〜C6エーテル及びアセトンが挙げられる。回収溶媒として水を使用することは、揮発性有機溶媒に関わらず、且つ全体のプロセスが環境適合性の物質と共に実施されるために、特に有利である。
【0037】
バイオポリマー分離後、回収溶媒をイオン性液体から蒸留又は吸収剤による乾燥によって分離することができる。水が回収溶媒の場合、後者は極めて有用である。好適な吸収剤又は吸収剤物質は、イオン性液体を取り込むことなく、選択的に水を取り込む(吸収又は吸着を介して)が可能な物質である。好適な吸収剤としては、ヒドロゲル形成吸収性ポリマー、吸収性ゲル化物質(AGM)、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な吸収剤物質は、米国特許第4,076,663号、同第4,734,478号、同第4,555,344号、同第4,828,710号、同第5,601,542号、同第6,121,509号、PCT国際公開特許WO99/34841、及び欧州特許第648,521 A2号に開示されている。
【0038】
本発明はまた、バイオポリマーを含有するバイオマスからバイオポリマーを分離するためのプロセスを包含する。前記プロセスは、前記バイオマスと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体とを混合して、バイオポリマーをバイオマスから溶解又は抽出すること、バイオマスの不溶性物質を除去し、それによってイオン性液体及びバイオポリマーを含む実質的に無水の組成物を作り出すことを含んでなる。前記混合工程におけるイオン性液体対バイオマスの重量比は、約20:1〜1:200、好ましくは約10:1〜約1:10、より好ましくは約5:1〜約1:5である。
【0039】
前記混合工程では、バイオポリマーをイオン性液体中に溶解させるために、約10分〜約24時間、好ましくは約30分〜約10時間、より好ましくは約1時間〜約5時間かかることがある。
【0040】
バイオポリマーの溶解を促進し、処理時間を短くするために、穏やかな加熱及び/又は攪拌を適用してよい。典型的な処理温度は、ほぼ室温(20℃)〜約130℃である。幾つかの実施形態では、バイオポリマーを溶解させるために約40℃〜約100℃の処理温度が使用される。他の実施形態では、バイオポリマーを溶解させるために約60℃〜約95℃の処理温度が使用される。バイオマスに本発明の方法を施すに先だって、バイオマスの粒径を小さくする(例えば、ミリング、微粉化、破砕によって)ことも処理時間を短くする。圧力、攪拌、音波処理及び放射エネルギー(例えば、マイクロウェーブ、赤外線)もまた処理時間を短くするために適用される。
【0041】
前記プロセスは、有効量の非溶媒を実質的に無水の組成物に添加して、バイオポリマーのイオン性液体中の溶解度を低下させ、組成物を回収可能組成物に変化させることを更に含んでなる。回収可能組成物中の回収溶媒と、イオン性液体との重量比は、約100:1〜約1:2、好ましくは約20:1〜約1:1、より好ましくは約10:1〜約2:1である。所望により、バイオポリマーの回収を促進するために、酸及び塩基を添加することができる。前記バイオポリマーは既知の分離方法例えば、遠心分離、沈殿、結晶化、デカンテーション、濾過、及びこれらの組み合わせによって回収可能組成物から容易に回収することができる。
【0042】
このプロセスによって回収されるバイオポリマーの量は、バイオマスの約0.1重量%〜約50重量%、好ましくは約1重量%〜約25重量%、より好ましくは約3重量%〜約10重量%である。
【0043】
本発明は更に、バイオポリマーを含有するバイオマスからバイオポリマーを抽出するためのプロセスを包含する。前記プロセスは、前記バイオマスと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体と接触させることを含んでなる。前記抽出は、バッチ抽出法又は貫流ストリップ法で行うことができる。前記プロセスにて使用されるイオン性液体の総量と、バイオマスとの重量比は、約20:1〜1:200、好ましくは約10:1〜約1:10、より好ましくは約5:1〜約1:5である。バイオポリマーは、イオン性液体から回収溶媒を使用し、続いて前述のとおり従来の分離方法を使用することによって、回収することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1):ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)溶解
0.12グラムのPHA(約6モル%のヘキサン酸塩を含有するポリ(ヒドロキシ酪酸塩/ヒドロキシヘキサン酸塩)コポリマー)を、室温で液体であるテラセイル(Terrasail)(登録商標)(サケム社(Sachem, Inc.)より入手可能)2gを含むガラス瓶に添加する。バイアル瓶の温度は、115℃にて3分間保たれる。バイアル瓶は、溶解を促進するために攪拌する。粘稠な、視覚的に透明なポリヒドロキシアルカノエート溶液をイオン性液体中に得る。
【0045】
(実施例2):ケラチン溶解及び回収
ケラチン(0.48g)を、室温で液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(BASF社より入手可能)3gを含有するガラス瓶に添加する。バイアル瓶の温度は、油浴中で95℃にて10分間保たれる。バイアル瓶は、溶解を促進するために攪拌する。粘稠な、視覚的に透明なケラチン溶液をイオン性液体中に得る。ケラチン−イオン性液体溶液を150mLの水に注ぎ込む。次に前記混合物のpHを1N HClを使用してpH4.5に調整する。ケラチンが前記混合物から沈殿し、濁った溶液を得る。結果として得られる溶液を濾過し、沈殿したケラチンを回収する。
【0046】
(実施例3):バイオマスからのPHA抽出
60gのバイオマス(遺伝子操作された生物試料を使用して発酵プロセスを介して調製された。PHA、6モル%の3−ヒドロキシヘキサン酸塩の繰り返し単位を有するポリ(3−ヒドロキシ酪酸塩−コ−3−ヒドロキシヘキサン酸塩)を含有する。)を、600mLの1−ブチル−メチルイミダゾリウムアセテート(BASF社から入手可能)を充填した密閉容器内に入れ、85℃にて3時間攪拌する。次に、抽出されたPHAを含有する混合物を、不溶性物質(即ち、非PHA細胞物質)から、ワイヤー−メッシュ・フィルターを使用して流出させる。
【0047】
「発明を実施するための最良の形態」で引用した全ての文献は、関連部分において本明細書に参考として組み込まれるが、いずれの文献の引用も、それが本発明に関して先行技術であることを容認するものとして解釈すべきではない。この文書における用語のいずれかの意味又は定義が、参考として組み込まれる文献における用語のいずれかの意味又は定義と対立する範囲内においては、本文書におけるその用語に与えられた意味又は定義を適用するものとする。
【0048】
本発明の特定の実施形態が例示され、記載されてきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には明白であろう。従って、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変更及び修正を、添付の特許請求の範囲で扱うものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマー及び付加的物質を含むバイオマスからバイオポリマーを分離する方法であって、
バイオマスと、流体状態であり且つ実質的に水の不存在下のイオン性液体とを混合して混合物を形成し、
該混合物から付加的物質を除去すること
を含んでなり、
前記バイオポリマーが、キチン、キトサン、エラスチン、コラーゲン、ポリヒドロキシアルカノエート又はケラチンである、方法。
【請求項2】
前記イオン性液体が、下式を有するカチオン性構成成分を含有する、請求項1に記載の方法:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

[式中、R〜Rは、C1〜C6アルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシアルキル;C6〜C10アリール又はC8〜C16アルキレンアリール;及びこれらの混合物から成る群から独立して選択されるものである]。
【請求項3】
前記イオン性液体が、ハロゲン化物、C1〜C6カルボキシレート、C1〜C6アルキルサルフェート、モノ−又はジ−・C1〜C10アルキルスルホサクシネート、モノ−又はジ−・C1〜C10エステルスルホサクシネート、及びこれらの混合物から成る群から選択されるアニオン性構成成分を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記混合物からバイオポリマーを除去するに先だって、回収溶媒を前記混合物に添加することを更に含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記回収溶媒が、水、C1〜C6アルコール、C2〜C6エーテル、アセトン、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
回収溶媒と、イオン性液体との重量比が、100:1〜1:2である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
回収可能組成物からバイオポリマーを分離することを更に含む、請求項4,5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記分離工程が、遠心分離、沈殿、結晶化、デカンテーション、濾過、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に従って生成された、回収可能組成物。

【公表番号】特表2008−535483(P2008−535483A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501084(P2008−501084)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/015152
【国際公開番号】WO2006/116126
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(590005058)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (2,280)
【Fターム(参考)】