説明

イオン性液体

本発明は、イオン性液体および生体触媒作用における溶媒としてその使用に関する。本発明の第1の態様に従うと、酵素触媒反応を行う方法において、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含むイオンを含有するイオン性液体を含む液体反応媒体を提供する工程;液体反応媒体内に酵素および酵素用基質を供する工程;および基質の反応を起こさせる工程を含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体および生体触媒作用における溶媒としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密化学および製薬業界は、所望の製品の合成のために、有機溶媒中の化学変換に依存してきた。酵素は、理想的な触媒となるための数多くの特性を有しているが、工業的な生体触媒作用の使用は、水溶液中で従来の酵素ベースの系が作用するための必要条件によって制限されており、一方精密化学および製薬業界が望む主要な基質および製品の多くは水溶性がきわめて低い。その上、水は、感応性の高い化学種の加水分解を惹起し得る。酵素および酵素補因子は一般に、伝統的に合成に使用されている有機溶媒中で不溶であるかまたはこれらの溶媒により変性されるかであり、これらの溶媒中で不活性である。
【0003】
従って、酵素および補因子の両方がその中で活性でありかつ広範な基質および反応生成物が可溶である溶媒を提供できることが望ましいと思われる。
【0004】
イオン性液体は、完全にイオンで構成されているものの周囲温度よりも低い融点をもつ化合物である。イオン性液体は、20世紀初頭から知られてきた。これらは、イオン性塩を形成するための塩基および/又は酸として比較的大きな分子が使用される場合に形成され得る。大きい塩基または酸を使用することにより、結果として得られた塩の次数を低減させることができ、結果として得られた塩が周囲温度で液体である点まで融点を下げることができる。イオン上の電荷の非局在化も又、結果として得られた塩の融点を決定する上での重要な要因である。
【0005】
酵素触媒反応用溶媒としてのイオン性液体の使用は、酵素が特に頑強な種であるようなケースにおいて報告されてきた。これらのケースの多くにおいて、酵素は同様に、分子有機溶媒内で活性であることが示されてきた。活性のために付加的な水または超臨界二酸化炭素のいずれかを必要とする、J. A. LaszloおよびD. L. Compton「イオン性液体および超臨界二酸化炭素におけるフェニルアラニンエステルのキモトリプシンを触媒とするエステル交換」。Biotechnol. Bioeng., 2001,75,181−186および(b)R. Madeira Lau, S. Van Rantwijk, K. R. SeddonおよびR. A. Sheldon, 「イオン性液体内のリパーゼ触媒反応」、Org. Lett., 2000,2(26),4189−4191を参照のこと。イオン性液体中で活性を有することが示されたこれらの酵素は、補因子に依存しない酵素であった。
【0006】
イオン性液体の存在下での酵素触媒反応も同様に多相溶媒系において成功裡に実証されてきた。例えば、イオン性液体1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェートは、多相バイオプロセシング作業において有機溶媒の代用品として使用されてきた。S. G. Cull, J. D. Holbrey, V. Vargas-Mora, K. R. SeddonおよびG. J. Lye, 「多相バイオプロセス作業における有機溶媒に対する代用品としての室温イオン性液体」、Biotech. Bioeng., 2000,69,227−233を参照のこと。Erbeldinger et alも同様に、「イオン性液体内のZ−アスパルテームの形成の酵素触媒作用」Biotechnol, Prog., 2000,16(6),1129−1131中で、溶媒としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェートの使用を開示しているが、活性のためには水が不可欠であると語っている。
【0007】
補因子依存性酵素系は、酵素と補因子の間で発生する臨界レドックスプロセスが、水素結合の可能な極性のプロトン性環境を必要とすることが多いという事実によって複雑になっている。これは通常水により提供される。工業的には、補因子依存性酵素は、ニコチンアミド補因子といったような補因子のコストがひどく高いことから、何らかの形の補因子再循環システムの助けを借りて初めて経済的に使用することが可能である。これには一般に、第2の酵素の使用が必要となる。
【0008】
補因子依存性酵素は過去においては、(基質を含有する)無極疎水性イオン性液体と(大部分の酵素および補因子を含有しレドックス反応用の溶媒として作用する)水の2相系内部内のイオン性液体中でのみ活性を示してきた。この場合、実際の酵素と触媒とした生体内変換は、相関移動を通して水層内でまたはイオン性液体/水界面において発生する(N, Kraftzik, P, WasserscheidおよびU. Kragl、「N−アセチルラクトースアミンのガラクトシダーゼを触媒とした合成における収量および酵素安定性を増大させるためのイオン性液体の使用」、Org. Proc. Res&Dev.,2002(印刷中))を参照のこと。
【0009】
更なる例としては、EP1205555−Aは、一連の酵素触媒反応のためのイオン性液体を含む反応媒体の使用を開示している。この例中で開示されているイオン性液体は、上述の参照文献内で使用されたタイプの、すなわちアルキル置換基で修飾された窒素含有化合物に基づくカチオンおよびヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、スルフォン酸メタン、ニトレート、ベンゾエート、トリフルオロメタンスルフォネート、およびビス−(トリフルオロメチルスルフォニル)−イミデートといったようなアニオンを含む標準的イオン性液体である。さまざまな酵素を利用した反応が開示されている。一例においては、補因子依存性酵素が、25%〜75%のイオン性液体および75%〜25%の緩衝液を含む溶媒中の反応を行うために使用されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
現在我々は、イオン性液体の成分イオンを修飾することにより、補因子依存性酵素と共に使用するために特に適している、単相生体触媒作用と相容性あるイオン性液体を生成することが可能であるということを発見した。イオン性液体を選択的に修飾することにより、イオン性液体の次数またはイオン重量を大幅に増加させることなく、従って反応が起こるのに必要とされる温度より高く融点を上昇させることなく、これらの溶媒をより生体相容性あるものにすることが可能である。
【0011】
本発明の第1の態様に従うと、酵素触媒反応を行う方法であって、
− アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含むイオンを含有するイオン性液体を含む液体反応媒体を提供する工程;
【0012】
− 液体反応媒体内に酵素および酵素用基質を供する工程;
− および基質の反応を起こさせる工程、
を含む方法が提供されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
これらの官能基を含むべくイオンを調整することにより、イオン性液体反応媒体の中で、非水性環境内でこれまで実施され得なかった酵素触媒反応を行うことが可能である。
【0014】
定義したイオン性液体の酵素触媒反応のための使用は、従来の有機溶媒、2相系および水溶液に比べていくつかの利点を有している。イオン性液体は、広範囲の無機、有機、重合体および生体材料を、往々にして非常に高い濃度で溶解させる能力を有する。これらのイオン性液体は、広い液体範囲を有し、同じ溶媒内で高温および低温の両方のプロセスを可能にする。これらは加溶媒分解現象を惹起せず、短命の反応性中間体を何よりも安定化させる。溶媒内でのpH効果は全く無く、多くの液体範囲全体にわたり、事実上蒸気圧はゼロである。イオン性液体は同様に、不燃性で循環可能であり一般に毒性が低い一方で、優れた電気および熱伝導率をも示している。
【0015】
定義づけしたイオン性液体の使用は、事実上無水の環境内で補因子依存性酵素触媒反応を行うことが可能であることが初めて発見されたということを意味している。
【0016】
かくして、本発明の第2の態様に従うと、補因子依存性酵素触媒反応を行う方法であって、
【0017】
− イオン性液体および5%未満の水を含む液体反応媒体を提供する工程;
− 補因子依存性酵素および補因子を液体反応媒体中に提供する工程;
− 液体反応媒体内に酵素用基質を供する工程;
− 基質の反応を起こさせる工程、
を含む方法が提供されている。
好ましくは、水レベルは非常に低く、例えば0.1%未満である。これらの補因子依存性酵素触媒反応のための溶媒としてイオン溶液を使用することは、酵素、補因子および基質を溶媒化することができ、かつ酵素の活性を維持することもできる単一の溶媒の選択に付随する問題を克服する。
【0018】
本発明の第3の態様に従うと、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された1つの官能基を含むイオンを含有するイオン性液体、および酵素を含む組成物が提供されている。
【0019】
かかる組成物は、酵素および基質の両方共がその中で可溶であり、該酵素が活性である単相系の中で酵素触媒反応を実施できるようにする。
【0020】
「アルケニル」というのは、あらゆるアルケニル基、好ましくは炭素原子2〜20個の間の炭素鎖長をもつアルケニル基を意味している。アルケニル基は、直鎖、有枝または環式基であり得る。
【0021】
「イオン性液体」というのは、本明細書では、全体がイオンから成り、適切な反応が起こる温度で液体である化合物を意味し、好ましくは、イオン性液体は、30℃未満、より好ましくは25℃未満、最も好ましくは20℃未満の融点を有する。これらは、15℃未満または10℃未満の融点を有することさえできる。使用されている酵素が例えば30℃を上回る比較的高い温度で活性であり得る場合には、イオン性液体は単に反応温度で液体であることだけが必要とされるが、それは好ましくは25℃以下で液体である。好ましくは、イオン性液体の融点は反応温度よりも少なくとも10℃低い。
【0022】
イオン性液体の沸点は好ましくは少なくとも200℃である。それは500℃さらには1000℃を上回っていてもよい。
【0023】
イオン性液体は、官能基がアルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択されているイオンを含有する。好ましくは、官能基は、ヒドロキシル、カルボニルおよびカルボキシルからなる群から選択される。最も好ましいのは、ヒドロキシル基である官能基である。
【0024】
イオン性液体は、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された2つ以上の官能基を含み得る。多数の官能基が使用される場合、それらは同じであっても異なるものであってもよい。一部のケースでは、こうして液体反応媒体内でより大きい反応性を提供できるということがわかる。
【0025】
官能基のタイプおよび基の数の選択は、考慮対象の特定の反応により左右される。本発明の第1の態様の方法を使用すると、特定の反応にイオン性液体を合わせて作りかくして反応条件を最適化することが可能である。イオン性液体は、酵素および基質が両方共液体反応媒体内で可溶であるような形で選択される。それは又、例えば、キラリティ、プロトン性、水素結合、ルイス酸性度および塩基性度、親水性度、粘度、気体可溶化エンタルピーなどといった問題の反応に適した特性が最適化されるような形で選択することもできる。
【0026】
水の単数または複数の特性を模倣するためにイオン性液体を調整することが特に有用であり得る。例えば、反応活性プロトンを有するが、水素結合能力を有するかまたは極性を有するようにイオン性液体を調整することができる。
【0027】
ヒドロキシル、アミノおよびカルボキシル基といったような水素結合部分は、液体反応媒体内への補因子の可溶化を補助することができるため、補因子を必要とする反応において特に有用であり得る。
【0028】
例えばカルボニルといったような極性分子も同様に、反応成分の溶解に役立つことができる。
【0029】
ヒドロキシル、アミノ、チオおよびカルボキシル基といったような反応活性プロトンを伴う部分が特に有用であり得る。例えば、プロトンの移動が必要とされる反応においては、反応活性プロトン部分が、それ自体反応のためのプロトンを提供できる。
【0030】
「反応活性プロトン」というのは、ここでは、イオン性液体、基質、酵素および存在する場合には補因子の間のプロトンの移動を可能にすることにより、プロトンが液体反応媒体内で解離し酵素触媒反応に参加できるようにするのに充分なほど低い液体反応媒体中のpKaをもつプロトンを意味する。好ましくは、反応活性プロトンは、25未満、より好ましくは10〜20の間のpKaを有する。最も好ましくは、pKaは約15である。
【0031】
本発明の第1の態様の方法は、酵素が活性のための補因子を必要とする反応に特に適している。補因子依存性酵素は、これまで、極性、プロトン性環境のための必要条件のため、水性溶媒中で活性であることだけが示されてきた。このような環境は、これらの酵素を触媒とするレドックスプロセスが起こりうるようにするために必要である。
【0032】
本発明は、補因子依存性酵素触媒反応において必要とされる補因子がニコチンアミドヌクレオチド、フラビンヌクレオチドおよびキノン補因子の中から選択されているような反応に特に適している。特に好ましいのは、ニコチンアミド補因子NAD+およびNADF+およびその還元された対応物NADHおよびNADHPHである。
【0033】
かくして、本発明は、商業的に価値ある補因子依存性酵素触媒反応のための液体反応媒体を提供するために使用できるばかりでなく、補因子の再循環を可能にしなかったもう1つの反応媒体中で実施された補因子依存性反応内で使い果たされた補因子を再循環させるための媒体を提供するためにも使用することができる。
【0034】
本発明の方法は、非常に少量の水しか含まない液体反応媒体中で酵素触媒反応を実施できるようにする。該液体反応媒体は好ましくは、10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは2%未満、さらに一層好ましくは1%未満の水を含む。該液体反応媒体が0.50%未満、好ましくは0.25%未満そして最も好ましくは0.10%未満の水を含むことが特に好まれる。実際には、本発明は、液体反応媒体が実質的に無水であり、例えば1000ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは10ppm未満の含水量を有するときに有効である。非常に低レベルの含水量は、NMRおよびカール・フィッシャー滴定によって測定可能である。水は、感応性ある化学種の加水分解を惹起することができ、従って必要とあらば高レベルの水を含む溶媒を回避できることが望ましい。
【0035】
実際、一部のケースでは、0.1%より高い水レベルよりも0.1%未満の水レベルで酵素活性がさらに大きいものであることがわかっている。我々はこの事実を観察した。我々は例えば、デヒドロゲナーゼ反応といったような水性媒体中で有効であることが知られている酵素反応のための1−(3−ヒドロキシ−n−プロピル)−3−メチル・ヘキサフルオロホスフェート反応媒体といったようなヒドロキシ置換イオン性液体について、このことを観察した。
【0036】
本発明の方法において使用されている液体反応媒体は、非常に高レベルのイオン性液体を含むことができる。液体反応媒体は、その他の成分を含むことができるが、好ましくは、90%を上回る、より好ましくは95%さらに一層好ましくは98%を上回るイオン性液体を含む。液体反応媒体が99.50%を上回る、より好ましくは99.75%、さらに一層好ましくは99.90%を上回るイオン性液体を含むことが特に好ましい。最も好ましくは、液体反応媒体は、実質的に100%のイオン性液体からなる。
【0037】
かくして、本発明においては、液体反応媒体は一般に単相反応媒体である。
液体反応媒体は、反応試薬のための溶媒である。液体反応媒体は、非常に低レベルの水を含むことができるが、これによって、本発明の方法に従って実施される反応における試薬としての水の使用が排除されるわけではない。
【0038】
本発明の全ての態様において使用されるイオン性液体は、アニオンおよびカチオンで構成されていてもよいし、又同じ分子上に正および負の両方の電荷を担持する両性イオンから成っていてもよい。最も一般的には、イオン性液体はアニオンおよびカチオンを含むことになる。アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含むイオンは、アニオン、カチオンまたは両性イオンであり得る。好ましくは、それはカチオンである。アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された2つ以上の官能基が存在する場合には、2つ以上の基が単一のイオン例えばカチオン上に存在し得るが、代替的には、1つのイオン上に単数または複数の官能基をそして異なるイオン上に単数または複数の官能基を含有することが可能である。
【0039】
本発明のイオン性液体内で利用されるカチオンは、標準的には、好ましくは第4級アンモニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオンおよびトリアジニウムカチオンの中から選択された核に基づく、第4級窒素ベースイオンからなる。複素環式核は、任意の炭素または窒素原子において、その全ての塩、エーテル、エステル、五価の窒素またはリン誘導体または立体異性体を含めた、任意のアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケンジオキシ、アリル、アリール、アリールアルキル、アリールオキシ、アミノ、アミノアルキル、チオ、チオアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、オキソアルキル、カルボキシル、カルボキシアルキル、ハロアルキルまたはハロゲン化物官能基によって置換され得る。必要とされる場合または可能な場合、これらの官能基のいずれかは、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含有し得る。
【0040】
好ましいカチオンは、イミダゾリウム複素環式核に基づいたものである。特に好ましいのは、1,3−二置換イミダゾリウムである。
【0041】
本発明のイオン性液体内で利用されるアニオンは、任意のタイプのものであってよい。アニオンの選択に対する唯一の理論的制約条件は、イオン性液体の融点を望ましい温度より低く保つためのそのイオン重量である。
【0042】
好ましくは、アニオンは、ハロゲン化された無機アニオン、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、スルホン酸塩およびカルボン酸塩の中から選択される。スルホン酸塩およびカルボン酸塩のアルキル基は、C1−C20アルキル基から選択され得、任意の位置で、その全ての塩、エーテル、エステル、五価の窒素またはリン誘導体または立体異性体を含めた、任意のアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケンオキシ、アリール、アリールアルキル、アリールオキシ、アミノ、アミノアルキル、チオ、チオアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、カルボニル、オキソアルキル、カルボキシル、カルボキシアルキルまたはハロゲン化物官能基で置換され得る。例えば、アニオンは、塩化物、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、グリコール酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、(±)−乳酸塩、(+)−乳酸塩、(−)−乳酸塩、(+)−パントテン酸塩、(±)−酒石酸塩、(+)−酒石酸塩、(−)−酒石酸塩、(±)−酒石酸水素塩、(+)−酒石酸水素塩、(−)酒石酸水素塩、(±)−酒石酸カリウム、(+)−酒石酸カリウム、(−)−酒石酸カリウム、メソ−酒石酸塩、メソ−1−酒石酸水素塩、メソ−2−酒石酸水素塩、メソ−1−酒石酸カリウム、メソ−2−酒石酸カリウムの中から選択され得る。塩化物およびその他のハロゲン化物アニオンは、特に1−(3−ヒドロキシ−n−プロピル)−3−メチルイミダゾリウム中のように、カチオン上の官能基がヒドロキシルである場合には、さほど好ましくない。特に好ましいアニオンは、有機カルボン酸塩である。アニオンが反応活性プロトンを含有することが必要とされる場合には、酒石酸塩および乳酸塩が好ましい。酒石酸塩、グリコール酸塩および乳酸塩は酸性およびヒドロキシル官能基を取込んでいる。アニオンが、定義した官能基のうちの1つを含有している必要がない場合、ヘキサフルオロリン酸塩が好まれる。
【0043】
本発明において使用される酵素は、任意のタイプの酵素であり得る。例えば、これをオキシドレダクターゼ、ヒドロラーゼ、デヒドロゲナーゼおよびリアーゼの中から選択することが可能である。本発明の第1の態様は、酵素が従来のタイプのイオン性液体すなわちアルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含まないイオン性液体中で基本的に不活性である反応に特に適している。第2の態様においては、酵素は補因子依存性である。
【0044】
本発明の方法は、反応物質、酵素そして使用されている場合には触媒に適したあらゆる条件下で実施される。例えば、温度は約10℃〜約40℃であり得るが、好ましくは、約15℃〜約25℃である。一般に、これらの方法は、大気圧および周囲温度で実施される。
【0045】
本発明のイオン性液体は、Koel(M, Koel「ジアルキルイミダゾリウムカチオンをベースとするイオン性液体の物理および化学的特性」、Proc, Estonian Akad. Sci. Chem., 2000,49(3),145〜155参照)およびFuller(J. Fuller, R. T. Carlin, H. C. de LongおよびD.Haworth, 「1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート:室温融解塩のモデル」、J. Chem. Soc., Them. Comm., 1994,299−300参照)の一般的方法から適合させた方法を用いて合成可能である。金属炭酸塩は、対応する金属塩を生成するべく所望のアニオンの酸前駆物質と反応させられ、この金属塩は、前述のハロゲン化物が水溶液中に添加されるのに対して、次に水中に溶解または懸濁させられる。数時間の攪拌後、金属ハロゲン化物(不溶である場合)はろ過により除去され、イオン性液体は(必要とあらば可溶性金属ハロゲン化物を除去するべく溶媒抽出によって)精製され、1H−NMRおよびUV−VIS/FT−IR分光光度法による分析に先立ち乾燥される。
【0046】
イオン性液体は同様に、まず最初に、誘導体化された塩化物(またはその他のハロゲン化物)の塩を生成するべく選択された複素環式アミンと共に適切なクロロ−アルコール(またはその他の適切なハロ・アルコール)を還流させることによっても合成され得る。これを次に、水中に溶解させてから、酸化銀(I)(または不活性ハロゲン化物を導くその他の金属酸化物)を添加し、不溶性塩を除去して水酸化物を得ることができる。次に、選択されたアンモニア塩を、適切な酸との反応によって生成することが可能である。
【0047】
イオン性液体を合成する方法は、「新しい室温イオン性液体の調製と特徴づけ」、Luis C. Branco et al., Chem. Eur. J., 2002,8,3671−3677および「両性イオンタイプの融解塩およびその重合体におけるイオン伝導」、Yoshizawa et al., J. Master. Chem., 2001,11,1057−1062の中でも開示されており、その他の適当な方法を使用することもできる。
【0048】
ここで、本発明について、以下の実施例を参照しつつ説明する。なお実施例中、BMIm+は1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、HOPMIm+は1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウム、そしてDHOPMIm+は1−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムである。
【実施例】
【0049】
実施例1:パン酵母由来のNAD+−依存性アルコールデヒドロゲナーゼ
NAD+からNADHまでの同時還元を伴う、ADH1によるメタノールからホルムアルデヒドへの酸化について検討した。ADH1(2mg)、NAD+(50mg)およびメタノール(100μL)を10mL体積の以下の溶媒中で溶解させた:
【0050】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
水性pH7リン酸水素ニカリウム緩衝液
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で50μLの試料を採取した。50μLのクロモトロープ酸試薬を添加し、1mLの体積まで希釈し、紫外/可視分光光度計上でホルムアルデヒド−クロモトロープ酸アダクツの吸光度を監視することによって、試料を検定した。
【0051】
結果
結果は、水性標準との関係における産生されたホルムアルデヒドの量という形で、示されている。0は、活性無しを表わし、(−)はより少ない量、(±)はおおよそ等しい結果を表わし、(+)は増大した量を表わしている。
【0052】
【表1】

【0053】
コントロール中には、恐らくはカラー分析(color assay)の硫酸成分によるメタノールからホルムアルデヒドへの緩慢な酸化に起因して、微量のホルムアルデヒドが検出された。ただし、いずれの場合でも、このアプローチによって、実験的反応試料中にホルムアルデヒドのレベルが検出されることはなかった。
【0054】
実施例2:Thermoanaerobium brockii 由来のNADP+依存性アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)
【0055】
補因子としてNADP+を利用する第2のアルコールデヒドロゲナーゼを検討した。ADH(2mg)、NADP+(250mg)および2−プロパノール(100μL)を10mL体積の以下の溶媒中に溶解させた:
【0056】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、2、4、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。2−プロパノールおよびアセトン中のメチル基プロトンの特徴的な1H−NMRシフトの相対強度を比較することによって、標本を分析した。溶液相FT−IR分光光度法により基質と生成物の赤外線吸収強度を測定することによって、イオン性液体実験の場合において結果を確認した。
【0057】
結果
結果は、残留する2−プロパノールの量との関係における生成されたアセトンの量の形で示されている。0は、アセトンが全く検出されなかったことを表わし、(−)は2−プロパノールよりも少量のアセトンを表わし、(±)はアセトンと2−プロパノールのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、2−プロパノールよりも多量のアセトンを表わす。
【0058】
【表2】

【0059】
コントロール中には、いずれの場合でもアセトンは全く検出されなかた。
逆反応(アセトン対2−プロパノールの還元)も同様に調査した。ADH2(2mg)、NADPH(4ナトリウム塩、300mg)およびアセトン(20μL)を10mL体積の以下の溶媒中で溶解させた。
【0060】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、2、4、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。試料を上述の技術により処理した。
【0061】
結果
結果は、残留するアセトンの量との関係における生成された2−プロパノールの量の形で示されている。0は、2−プロパノールが全く検出されなかったことを表わし、(−)はアセトンよりも少量の2−プロパノールを表わし、(±)は2−プロパノールとアセトンのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、基質よりも多量の生成物を表わす。
【0062】
【表3】

【0063】
コントロール中には、いずれの場合でも2−プロパノールは全く検出されなかた。
【0064】
実施例3:Pseudomonas putidaM10由来のNADP+依存性モルヒネデヒドロゲナーゼ(MDH)
【0065】
プロトン性溶液中、コデイノンは、その異性体ネオピノンとの動的平衡状態で存在する;従って、2つの化合物が合わせて考慮される。
【0066】
結果−コデインの酸化
MDH(2mg)、NADP+(50mg)およびコデイン(遊離塩基、20mg)を10mL体積の以下の溶媒中に溶解させた。
【0067】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
水性pH7リン酸水素二カリウム緩衝液
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデインの量との関係における生成されたコデイン/ネオピノンの量の形で示されている。0は、コデイン/ネオピノンが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデインよりも少量のコデイン/ネオピノンを表わし、(±)はコデイン/ネオピノンおよびコデインのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、コデインよりも多量のコデイン/ネオピノンを表わす。
【0068】
【表4】

【0069】
コントロール中には、いずれの場合でもコデイン/ネオピノンは全く検出されなかた。
結果−コデイノンの還元
MDH(2mg)、NADPH(4ナトリウム塩、55mg)およびコデイノン(遊離塩基、20mg)を10mL体積の以下の溶媒の中で溶解させた。
【0070】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
水性pH7リン酸水素二カリウム緩衝液
共同子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデイン/ネオピノンの量との関係における生成されたコデインの量の形で示されている。0は、コデインが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデイン/ネオピノンよりも少量のコデインを表わし、(±)はコデインおよびコデイン/ネオピノンのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、コデイン/ネオピノンよりも多量のコデインを表わす。
【0071】
【表5】

【0072】
コントロール中には、コデイン/ネオピノンの幾分かの自然発生的還元が観察された。しかしつつ、これは、いずれの場合であれ、実験的反応試料において達成されるものに匹敵する程度のものではなかった。コデイノンとネオピノンの間の異性化は、乾燥BMIm+PF6-では観察されなかったが、その他の全ての試料において見られ、水性系において最も顕著であった。コデノインの自然発生的崩壊は、その後の試料中で1つの要因となったが、イオン性液体により妨害されるように思われた。
【0073】
乾燥BMIm+PF6-中のコデイノンの自然発生的崩壊は、24時間後でも無視できるものであった。
【0074】
実施例4:MDHおよびADH2を用いたNADP+の再循環
結果−コデインの酸化
第1のケースでは、NADP+からNADPHへの還元を伴うMDHによるコデインからコデイノンへの酸化を、NADP+を再循環させる目的でアセトンから2−プロパノールへのADH2を媒介とした還元と対にした。MDH(2mg)、ADH2(2mg)、NADP+(25mg)、コデイン(遊離塩基、440mg)およびアセトン(500μL)を、10mLの以下の溶媒中に溶解させた。
【0075】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
水性pH7リン酸水素二カリウム緩衝液
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデインの量との関係における生成されたコデインの量の形で示されている。0は、コデイン/ネオピノンが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデインよりもコデイン/ネオピノンよりも少量のコデインを表わし、(±)はコデイン/ネオピノンおよびコデインのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、コデインよりも多量のコデイン/ネオピノンを表わす。
【0076】
【表6】

【0077】
コントロール中には、いずれの場合でもコデイン/ネオピノンは全く検出されなかった。(コデイン/ネオピノンに有利な形でのMDH媒介反応の平衡を強制するため)反応混合物中に大量の余剰のアセトンが取り込まれていることからみて、生成された2−プロパノールの量を定量する試みは全くなされなかった。(乾燥BMIm+PF6-を除く)全ての反応混合物におけるコデイン/ネオピノンの出現には、イオン性液体中で高い濃度のコデイン/ネオピノンと共にみられるオレンジ色の着色の同時出現が随伴していた。最後の試料を採取した後、室温に長時間放置した時点で、コデイン/ネオピノンは残留する3−HOBMIm+PF6-反応溶液から沈殿し始めた。
【0078】
結果−コデイノンの還元
MDH(2mg)、ADH2(2mg)、NADPH(4ナトリウム塩、30mg)、コデイノン(遊離塩基、425mg)および2−プロパノール(500μL)を10mL体積の以下の溶媒の中で溶解させた。
【0079】
BMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
BMIm+PF6-(約0.5%v/vのH2Oを含有)
3−HOPMIm+PF6-1H−NMRにより無水)
水性pH7リン酸水素二カリウム緩衝液
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデイン/ネオピノンの量との関係における生成されたコデインの量の形で示されている。0は、コデインが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデイン/ネオピノンよりも少量のコデインを表わし、(±)はコデインおよびコデイン/ネオピノンのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、コデイン/ネオピノンよりも多量のコデインを表わす。
【0080】
【表7】

【0081】
コントロール中には、コデイン/ネオピノンの幾分かの自然発生的還元が観察された。しかしつつ、これは、いずれの場合であれ、実験的反応試料において達成されるものに匹敵する程度のものではなかった。コデイノンとネオピノンの間の異性化は、ここでも乾燥BMIm+PF6-では観察されなかったが、その他の全ての試料において見られ、水性系において最も顕著であった。コデノインの自然発生的崩壊は、ここでもその後の試料中で1つの要因となったが、イオン性液体により妨害されるように思われた。
【0082】
乾燥BMIm+PF6-中のコデイノンの自然発生的崩壊は、24時間後でも無視できるものであった。
【0083】
上述の実験の全てにおいては、直接比較することを目的として、イオン溶液および水溶液の両方において、等濃度の基質を使用した。しかしつつ、イオン性液体が以上で使用されたもの(および水中で達成可能なもの)をはるかに超える濃度まで有機基質の溶解を容易にすること、そしてその結果、イオン性液体中で生物触媒作用を用いることによって理論的に達成し得る速度および生産高が現在水中で達成可能なものよりもはるかに高いものであること、を指摘しておくべきである。
【0084】
これらの例中で用いられるイオン性液体材料の合成は、以下の例7で概略的に示されている方法に従って実施可能である。
【0085】
実施例5:Pseudomonas putida M10(MDH)からのNADP+依存性モルヒネデヒドロゲナーゼ(MDH)
【0086】
結果−コデインの酸化
MDH(2mg)、NADP+(50mg)およびコデイン(遊離塩基、20mg)を、1H−NMRおよびカール・フィッシャー滴定の両方により無水であったラセミ型1−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスフェート((±)−DHOPMImPF6)中に溶解させた。同一の反応をpH7のリン酸緩衝液中で樹立させた。
【0087】
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデインの量との関係における生成されたコデイン/ネオピノンの量の形で示されている。0は、コデイン/ネオピノンが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデインよりも少量のコデイン/ネオピノンを表わし、(±)はコデイン/ネオピノンおよびコデインのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、基質よりも多量の生成物を表わす。
【0088】
【表8】

【0089】
コントロール中には、いずれの場合でもコデイン/ネオピノンは全く検出されなかた。
結果−コデイノンの還元
NADPH依存性系への適用可能性を確保するために逆方向での酵素の活性を調査した。MDH(2mg)、NADPH(4ナトリウム塩、55mg)およびコデイノン(遊離塩基、20mg)を10mL体積の上述の溶媒の中で溶解させた。
【0090】
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデイン/ネオピノンの量との関係における生成されたコデインの量の形で示されている。0は、コデインが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデイン/ネオピノンよりも少量のコデインを表わし、(±)はコデインおよびコデイン/ネオピノンのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、基質よりも多量の生成物を表わす。
【0091】
【表9】

【0092】
コントロール中には、コデイン/ネオピノンの幾分かの自然発生的還元が観察された。これは、いずれの場合であれ、実験的反応試料において達成されるものに匹敵するものではなかった。コデイノンとネオピノンの間の異性化は、全ての試料において見られた。コデノインの自然発生的崩壊は、比較可能なHOPMIm反応においてよりもDHOPMImにおいてさらに大きいものであったが、水中に比べるとはるかに小さいものであった。
【0093】
実施例6:MDHおよびADHを用いたNADP+の再循環
結果−コデインの酸化
NADP+からNADPHへの還元を伴うMDHによるコデインからコデイノンへの酸化を、NADP+を再循環させる目的でアセトンから2−プロパノールへのADH2を媒介とした還元と対にした。MDH(2mg)、ADH2(2mg)、NADP+(25mg)、コデイン(遊離塩基、440mg)およびアセトン(500μL)を、10mLの上述の溶媒中に溶解させた。
【0094】
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデインの量との関係における生成されたコデイン/ネオピノン量の形で示されている。0は、コデイン/ネオピノンが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデインよりも少量のコデイン/ネオピノンを表わし、(±)はコデイン/ネオピノンおよびコデインのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、基質よりも多量の生成物を表わす。
【0095】
【表10】

【0096】
コントロール中には、いずれの場合でもコデイン/ネオピノンは全く検出されなかった。(コデイン/ネオピノンに有利な形でのMDH媒介反応の平衡を強制するため)反応混合物中に大量の余剰のアセトンが取り込まれていることからみて、生成された2−プロパノールの量を定量する試みは全くなされなかった。反応混合物におけるコデイン/ネオピノンの出現には、イオン性液体中で高い濃度のコデイン/ネオピノンと共にみられるオレンジ色の着色の同時出現が随伴していた。
【0097】
結果−コデイノンの還元
MDH(2mg)、ADH2(2mg)、NADPH(4ナトリウム塩、30mg)、コデイノン(遊離塩基、425mg)および2−プロパノール(500μL)を10mL体積の上述の溶媒の中で溶解させた。
【0098】
補因子または酵素のいずれかが削除されたコントロールを各溶媒において作成した。アルゴン雰囲気下で24時間25℃で反応容器を攪拌した。0、1、2、4、8、12および24時間の時点で1mLの試料を採取した。0.5mLのCDCl3での抽出および1H−NMR分光法による分析によって試料を検定し、その後、真空中で溶媒を除去し、FT−IR分光光度法(KBrディスク方法)により固体残渣を分析した。結果は、残留するコデイン/ネオピノンの量との関係における生成されたコデインの量の形で示されている。0は、コデインが全く検出されなかったことを表わし、(−)はコデイン/ネオピノンよりも少量のコデインを表わし、(±)はコデインおよびコデイン/ネオピノンのほぼ等しい濃度を表わし、(+)は、基質よりも多量の生成物を表わす。
【0099】
【表11】

【0100】
コントロール中には、コデイン/ネオピノンの幾分かの自然発生的還元が観察された。これは、実験的反応試料において達成されるものに匹敵するものではなかった。コデイノンとネオピノンの間の異性化は、全ての試料において見られた。コデイノンの自然発生的崩壊は、匹敵するHOPMIm反応においてよりもDHOPMImにおいて大きいが、水中の場合よりもはるかに小さいものであった。上述の実験の全てにおいては、直接比較することを目的として、イオン溶液および水溶液の両方において、等濃度の基質を使用した。HOPMImなどについて上述した濃度増強戦略は、ここでも再び応用可能である。
【0101】
イオン性液体内への第2の反応活性プロトン基の取込みは、HOPMImとの関係における酵素活性の改善を結果としてもたらす。しかしつつ、HOPMImとDHOPMImの間で見られる酵素活性の差異は、HOPMImとBMImの間のものよりもはるかに小さいものである。
【0102】
付加的な注記− 上述の生体内変換を(反応活性酸性プロトンを全く伴わないBMImの形でキャッピングされた無水2−メチル中で試みた場合、バックグラウンドレベルより上では全く変換は見られなかった。
【0103】
実施例7: 1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(3−HOPMIm PF6)の合成
【0104】
(a)1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムクロリドの調製
磁気攪拌器および還流冷却器の備わった丸底フラスコ内で36時間、3−クロロ−1−プロパノール(Lancaster;0.26モル、24,58g)および1−メチルイミダゾール(Lan caster, 1当量、21.35g)を還流させた。結果として得られた粘性黄色液体を室温まで冷却し、乾燥エーテルで3回洗浄した。洗液を廃棄し、生成物を50℃まで8時間真空内で加熱して残留溶媒を除去した。回収した材料は粘性薄黄色の液体で、25℃での密度は1.12g・cm-3、収量は41.9g=91%であった。
【0105】
NMR(1H、400MHz、D2O)1.99(q、2H、β−CH2)、3.54(t、2H、α−CH2)、4.02(s、3H、N−CH3)、4.65(t、2H、γ−CH2)、7.90(d、1H、H−4)、8.10(d、1H、H−5)、9.55(s、1H、H−2)
【0106】
(b)1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムヒドロオキシドの調製
【0107】
1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムクロリドを、2.20M(93mL中の36.69g)という最終濃度まで水中で溶解させた。固体状態で酸化銀(I)(Aldrich、0.5当量、24.1g)を添加し、反応を24時間室温で暗所にて攪拌した。この期間の終了時点で、不溶性銀塩をろ過によって除去し、5時間真空中で50℃まで加熱することにより、きわめて塩基性の水溶液を濃縮した。結果として得た粘着性材料は、きわめて吸湿性が高く、次の工程で直ちにこれを使用した。
【0108】
(c)1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートの調製
【0109】
プラスチックのビーカー内で50mLの水中に1−(3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド(上記由来、30.2g)を溶解させた。混合物がもはや塩基性でなくなるまで攪拌しつつ、滴下漏斗を介して滴下によりヘキサフルオロリン酸(Aldrich,60重量%溶液49mL)を添加した。反応の持続時間中およびその後1時間、氷中で反応容器を冷却した。その後薄黄色の溶液を12時間、室温で攪拌させた。この期間の終了時点で、生成物溶液を8時間50℃で真空内で乾燥させた。粗製生成物を乾燥アセトニトリル中で溶解させ、活性炭で処理して有色不純物を除去した。その後、塩化物を除去するため、溶離剤として乾燥アセトニトリルを用いて塩基性アルミナカラム上で生成物をクロマトグラフィに付した。生成物を乾燥させるため、真空内で50℃にて溶媒を除去し、結果として得た無色の液体を液体窒素内で凍結させ、高い真空下に置き、漸進的に室温まで温めた。この後、それを80℃まで加熱し、48時間この温度で高い真空下で放置した。生成物は無色の液体で、収量は39.4g(68%)であった。
【0110】
NMR:(1H、400MHz、d6−DMSO、D2O 振とう)1.92(q、2H、β−CH2)、3.40(t、2H、α−CH2)、3.83(s、3H、N−CH3)、4.21(t、2H、γ−CH2)、7.65(d、1H、H−4)、7.72(d、1H、H−5)、9.13(s、1H、H−2)
【0111】
FT−IR:主要吸光度(Nujol mull)3382、1576、1167、871、2963、2892、2094、1634、742、624 cm-1
【0112】
塩化物含有量はAgNO3により検出できなかった。カール・フィッシャー滴定による含水量は10ppm未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、酵素触媒反応を行う方法:
− アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された官能基を含むイオンを含有するイオン性液体を含む、液体反応媒体を供する(providing)する工程;
−該液体反応媒体内に、酵素および酵素用基質を供する工程;および
−基質の反応を起こさせる工程。
【請求項2】
官能基が、ヒドロキシル、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
官能基がヒドロキシル基である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
官能基が反応活性(labile)プロトンを有する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
反応活性プロトンが25未満のpKa、好ましくは10〜20の間のpKaを有する請求項5に記載の方法。
【請求項6】
イオン性液体が、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された2つ以上の官能基を含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
イオン性液体が、アニオンおよびカチオンまたは両性イオンのいずれかを含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
官能基を含むイオンがカチオンである請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
酵素が補因子(cofactor)を必要とし、前記補因子が液体反応媒体中に提供される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
液体反応媒体が1.00%未満の水、好ましくは0.25%未満、最も好ましくは0.10%未満の水を含む請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
液体反応媒体は、少なくとも99.00%、好ましくは少なくとも99.75%そして最も好ましくは少なくとも99.90%のイオン性液体を含む請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
補因子依存性酵素触媒反応を行う方法であって、
− イオン性液体および5%未満の水を含む液体反応媒体を提供する工程;
− 補因子依存性酵素および補因子を液体反応媒体中に提供する工程;
− 液体反応媒体内に酵素用基質を供する工程;
− 基質の反応を起こさせる工程、
を含む方法。
【請求項13】
イオン性液体が、アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された1つの官能基を含むイオンを含有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
官能基がヒドロキシル基である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
イオン性液体が、反応活性プロトンを有する官能基を含むイオンを含有する請求項12に記載の方法。
【請求項16】
反応活性プロトンが25未満のpKa、好ましくは10〜20の間のpKaを有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
イオン性液体がアルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された2つ以上の官能基を含む請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
液体反応媒体が1.00%未満、好ましくは0.25%未満そして最も好ましくは0.10%未満の水を含む請求項12〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
液体反応媒体が少なくとも99.00%、好ましくは少なくとも99.75%そして最も好ましくは少なくとも99.90%のイオン性液体を含む請求項12〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
− アルケニル、ヒドロキシル、アミノ、チオ、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択された1つの官能基を含むイオンを含有するイオン性液体、および
− 酵素、
を含む組成物。
【請求項21】
官能基が、ヒドロキシル、カルボニルおよびカルボキシル基からなる群から選択されている請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
官能基が、ヒドロキシル基である請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
官能基が反応活性プロトンを有する請求項20〜22に記載の組成物。
【請求項24】
反応活性プロトンが25未満のpKa、好ましくは10〜20の間のpKaを有する請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
さらに酵素用基質を含む請求項20〜25のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
酵素が補因子を必要とし、組成物が前記補因子を含む請求項20〜26のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
酵素触媒反応を行うための請求項20〜26のいずれかに記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2006−514832(P2006−514832A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500173(P2006−500173)
【出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000014
【国際公開番号】WO2004/063383
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(500514856)ケンブリッジ ユニバーシティ テクニカル サービシズ リミティド (3)
【Fターム(参考)】