説明

イオン注入装置

【課題】 イオンの利用効率を低下させること無く、単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方の種類のイオン照射を可能とするイオン注入装置を実現する。
【解決手段】 イオン源として、単原子イオンの生成のみを可能とするイオン源1を用い、第1の質量分析器2と第2の質量分析器5との間にガス供給部11を備える。クラスタ分子イオンを照射する場合には、ガス供給部11に多原子分子ガスを導入し、イオン源1で生成された単原子イオンとガス供給部11に導入された多原子分子ガスとの間での電子交換によってクラスタ分子イオンを発生させ、これを第2の質量分析器5で分離して照射する。単原子イオンビームを照射する場合には、ガス供給部11にガスを導入せずに、イオン源1で生成された単原子イオンを照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に向けて運動エネルギを持ったイオンを照射するイオン注入装置に関するものであり、特に、通常イオン(B,P,As)の照射以外にB1014ガスクラスタ分子イオンのイオン照射をも容易とするイオン注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ等の半導体装置の製造工程においては、該トランジスタのソース−ドレイン領域を形成するために、シリコン等からなる半導体層に不純物をドープすることが行われる。半導体層に不純物をドープするためには、従来から、イオン注入装置が広く使われている。
【0003】
まずは、従来のイオン注入装置における一般的構成を示すものとして、特許文献1に記載のイオン注入装置を図2を参照して以下に説明する。
【0004】
図2に示すイオン注入装置は、イオンビームを生成するイオン源1と、イオンビームを所望の不純物イオンに質量分析する第1の質量分析器2と、イオンビームを加速する加速器3とを有している。
【0005】
加速器3の後段には、フィルターマグネット4を備えた第2の質量分析器5が配設されて、さらに、第2の質量分析器5を通過するイオンビームの直進方向には、モニターファラデー6がこの順に配設されている。
【0006】
上記のフィルターマグネット4を備えた第2の質量分析器5は、第1の質量分析器2と同様に磁場を生成することによりイオンビームを偏向させるようになっており、所望のイオンビームのみが第2の質量分析器5の出口部を通過するように磁場強度が調整されるようになっている。また、モニターファラデー6は、第1の質量分析器2から加速器3を介して入射されたイオンビームのビーム電流を検出することによって、第1の質量分析器2により偏向されたイオンビームが正規の経路上を進行していることを確認させるようになっている。
【0007】
上記の第2の質量分析器5により偏向されたイオンビームの進行方向には、水平スキャナ7が配設されている。これにより、水平スキャナ7を通過するイオンビームは、水平スキャナ7の作用により水平方向に走査されるようになっている。
【0008】
上記の水平スキャナ7を通過するイオンビームの進行方向には、平行化マグネット8が配設されており、平行化マグネット8は、水平スキャナ7により走査されたイオンビームをウエーハ9方向に偏向させるようになっている。
【0009】
上記の平行化マグネット8からのイオンビームが照射されるウエーハ9は、エンドステーション10に設けられており、図示しないクランプ機構により上下動されるようになっている。この上下駆動とイオンビームの水平走査が同時に行われることにより被注入試料への均一なイオン注入が行われるようになっている。
【0010】
上記イオン注入装置の主な使用目的は、上述したように、半導体装置の製造工程において、シリコン等からなる半導体層に向けて不純物を照射し、該半導体層に不純物を注入することにある。このような半導体製造プロセスにおいて不純物注入を行う際の注入イオンは、通常は、B,B++,P,P++,P+++,As,As++等の単原子イオンである。
【0011】
イオンを低エネルギで多量に注入するためには、B1014等のガスを利用したクラスタイオンが有利である。しかしながら、このようなガスは分解しやすく、汚れやすい。
【0012】
特許文献2のイオン源は、図3に示すように、プラズマ発生槽21と電荷交換槽22との2槽構造となっている。プラズマ発生槽21では、磁界中に配置されたフィラメント23から放出される熱電子により、ガス導入管24からプラズマ発生槽2内に導入されるガスをイオン化させる。このようにしてプラズマ発生槽21で生成されるイオンは単原子イオンである。これは、プラズマ発生槽21内部は高温であるため、多原子分子は解離してしまいクラスタ分子イオンを安定して生成することができないためである。尚、上記プラズマ発生槽21の構成は、単原子イオンの照射を可能とする通常のイオン注入装置において、イオン源として一般に用いられている構成である。
【0013】
プラズマ発生槽21にて生成された単原子イオンは、開口部25を通って電荷交換槽22へ送られる。電荷交換槽22には、クラスタ分子イオンの元となる多原子分子ガス(例えば、)が、ガス導入管26より導入されている。そして、電荷交換槽22での電荷交換によって上記単原子イオンが中性化し、電荷交換槽22内の多原子分子ガスがイオン化してクラスタ分子イオンとなる。
【0014】
電荷交換槽22で生成されたクラスタ分子イオンは、開口部27の外部に設けられた引出電極(図示せず)の電界によってイオン源の外部に引き出される。そして、特許文献2のイオン源を、例えば、特許文献1のイオン源1として用いれば、クラスタ分子イオンの照射を可能とするイオン注入装置が実現できる。
【0015】
また、特許文献2に記載のイオン源を用いたイオン注入装置では、電荷交換槽22内に多原子分子ガスを導入せず(すなわち、電荷交換を生じさせず)、プラズマ発生槽21にて生成された単原子イオンをそのまま外部に引き出せば、単原子イオンを照射することも可能である。
【特許文献1】特開平7−105901号公報(公開日平成7年4月21日)
【特許文献2】米国特許第6,545,419号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献2に記載のイオン源を用いたイオン注入装置では、単原子イオンの照射を行う場合には、通常のイオン注入装置(すなわち、イオン源が電荷交換槽22を備えず、プラズマ発生槽21のみを備える構成)に比べ、イオン源で生成されるイオンの利用効率が著しく低下するといった問題がある。
【0017】
すなわち、特許文献2に記載のイオン源を用いた構成では、プラズマ発生槽21と開口部27の外部に設けられた引出電極との間に電荷交換槽22が存在する。このため、プラズマ発生槽21で発生した単原子イオンを、引出電極によってイオン源の外部に引き出すにあたって、引出電極による電界がプラズマ発生槽21内の単原子イオンに十分に作用せず(イオンを十分に外部に引き出せず)、イオンの利用効率が低下する。
【0018】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、イオンの利用効率を低下させること無く、単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方の種類のイオン照射を可能とするイオン注入装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るイオン注入装置は、上記課題を解決するために、イオンを生成し、生成されたイオンをイオンビームとして照射するイオン注入装置において、少なくとも、単原子イオンを生成するイオン源と、上記イオン源の下流に設けられる第1の質量分析器と、上記第1の質量分析器の下流に設けられ、その内部にガスを導入可能なガス供給部と、上記ガス供給部の下流に設けられる第2の質量分析器とを備えていることを特徴としている。
【0020】
上記イオン注入装置において、クラスタ分子イオンの照射を行いたい場合には、上記ガス供給部に多原子分子ガスを導入した状態で上記イオン注入装置を動作させる。この場合、上記イオン源によって生成され、上記第1の質量分析器にて他のイオンと分離された単原子イオンは、上記ガス供給部において上記多原子分子と電荷交換され、クラスタ分子イオンを生じる。生じたクラスタ分子イオンは、第2の質量分析器にて他のイオンと分離され、イオンビームとして照射される。
【0021】
一方、上記イオン注入装置において、単原子イオンの照射を行いたい場合には、上記ガス供給部にガスを導入しない状態で上記イオン注入装置を動作させる。この場合、上記イオン源によって生成され、上記第1の質量分析器にて他のイオンと分離された単原子イオンがイオンビームとして照射される。
【0022】
そして、上記の構成によれば、クラスタ分子イオンをイオン源にて生成するのではなく、該イオン源との間に第1の質量分析器を介して離して配置されたガス供給部にて生成される。これにより、単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方の種類のイオン照射を可能とするイオン注入装置において、イオン源にて単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方を生成しようとする従来構成に比べ、イオン源からの単原子イオンの引出効率を低下させない。
【0023】
また、上記イオン注入装置は、上記ガス供給部と上記第2の質量分析器との間に、加減速器が設けられている構成とすることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、ガス供給部で発生したクラスタ分子イオンを、ガス供給部から引き出すために、上記加減速器の発生させる加速電界を利用することができる。これにより、上記イオン注入装置では、ガス供給部からクラスタ分子イオンを引き出すための引出電極を省略できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るイオン注入装置は、以上のように、少なくとも、単原子イオンを生成するイオン源と、上記イオン源の下流に設けられる第1の質量分析器と、上記第1の質量分析器の下流に設けられ、その内部にガスを導入可能なガス供給部と、上記ガス供給部の下流に設けられる第2の質量分析器とを備えている構成である。
【0026】
それゆえ、イオン源にて単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方を生成しようとする従来構成に比べ、イオン源からの単原子イオンの引出効率を低下させることなく、単原子イオンとクラスタ分子イオンとの両方の種類のイオン照射を可能とするといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の一実施形態について図1に基づいて説明すると以下の通りである。先ずは、本実施の形態に係るイオン注入装置の構成を図1に示す。
【0028】
図1に示すイオン注入装置は、図2に示したイオン注入装置と類似した構成としているため、同一の構成および機能を有する部分については同じ番号を付し、詳細な説明は省略する。
【0029】
本実施の形態に係る上記イオン注入装置において従来構成と異なる点は、第1の質量分析器2と加速器3との間にガス供給部11が設けられている点にある。このガス供給部11には、図示しないガス導入管よりガスの導入が可能となっている。
【0030】
上記イオン注入装置において、単原子イオンの照射を行う場合には、上記ガス導入室にガスを導入することなく該イオン注入装置を動作させる。イオン源1は、プラズマ発生槽のみからなる通常のイオン源(単原子イオンの生成のみを可能とするイオン源)であるため、イオン源1から生成された単原子イオンを効率よく引き出せる。つまり、上記イオン注入装置では、単原子イオンの照射を行う場合には、従来のイオン注入装置と同様の作用によってイオン照射が行われる。
【0031】
一方、上記イオン注入装置において、クラスタ分子イオンの照射を行う場合には、上記ガス導入室に多原子分子ガスを導入した状態で該イオン注入装置を動作させる。この場合は、イオン源1によって生成された単原子イオン(例えば、Ar)が、第1の質量分析器2を通過してガス供給部11に到達した時点で該ガス供給部11内での電荷交換が行われ、クラスタ分子イオンが発生する。
【0032】
ガス供給部11で発生したクラスタ分子イオンは、発生した時点で運動エネルギを有していないので、これをイオン照射側に引き出す必要がある。図1に示すイオン注入装置では、加速器3がガス供給部11で発生したクラスタ分子イオンを引き出す作用を有する。すなわち、加速器3は、導電体と絶縁体との多段構造になっており、該加速器3内の発生させられる加速電界によって内部を通過するイオンに所定の運動エネルギを与えるものであるが、この加速電界をガス供給部11からクラスタ分子イオンを引き出すためにも利用する。この構成により、上記イオン注入装置では、ガス供給部11からクラスタ分子イオンを引き出すための引出電極を省略できる。また、加速器3は、減速器として作用させることもできる。
【0033】
ガス供給部11から引き出されたクラスタ分子イオンは、単原子イオンを照射する場合と同様の作用によって照射される。
【0034】
以上のように、本実施の形態に係るイオン注入装置は、クラスタ分子イオンの照射を行うにあたってイオン源1においてクラスタ分子イオンを生成するのではなく、イオン源1の後段において、電子交換によってクラスタ分子イオンを生成するためのガス供給部11を設けている点に特徴を有する。
【0035】
上記ガス供給部11は、図1の構成では第1の質量分析器2と加速器3との間に配置されているが、本発明のイオン注入装置においてガス供給部11の配置位置はこれに限定されない。
【0036】
本発明のイオン注入装置において、ガス供給部は、イオン源で発生されるイオン(通常、イオン源では所望のイオン以外の不要なイオンも発生する)から所望のイオンを分離するための第1の質量分析器よりも後段に配置される。すなわち、図1の構成に当てはめれば、ガス供給部11は第1の質量分析器2の後段に配置される。
【0037】
このように、ガス供給部11は、第1の質量分析器2の後段に配置することで、イオン源1との間に第1の質量分析器2を介在させて設けられることになる。このため、イオン源1で発生する熱はガス供給部11に伝わりにくく、ガス供給部11に導入される多原子分子ガスが熱によって解離することを防止でき、クラスタ分子イオンをより安定して生成することができる。
【0038】
また、ガス供給部11に導入される多原子分子ガスに、他のガスとの反応性の強いガスを用いた場合に生じる不具合を防止できる。これを具体的に説明すると以下の通りである。
【0039】
クラスタ分子イオンを生成する場合に使用が考えられる多原子分子ガスとしては、B1014(デカボラン)が挙げられる。一方、半導体プロセスにおいて一般に用いられる単原子イオンとの一つとしてBが挙げられる。このBを発生させるためにイオン源1にて用いられるガスは、通常はBFである。
【0040】
ここで、図3の構成のイオン源を用いて、B1014を用いてクラスタ分子イオン(B1014)を生成する運転を行い、その後、BFを用いてBを生成する運転を行う場合を考える。この場合、Bを生成する時点では、電荷交換槽22のB1014は排気されているが、イオン源の構成としてB1014を完全に排気することは難しく、幾分かのB1014が残留ガスとして生じている。また、Bを生成するためにプラズマ発生槽21に導入されるBFについても、このBFが電荷交換槽22に進入することを防止することは不可能である。このため、図3の構成のイオン源では、その内部でB1014とBFとが反応しフッ酸が生じる。フッ酸は腐食性の強い酸であり、イオン源の寿命に多大な悪影響を及ぼす。
【0041】
これに対し、本実施の形態に係るイオン注入装置では、B1014を用いてクラスタ分子イオン(B1014)を生成する運転と、BFを用いてBを生成する運転とを連続して行ったとしても、B1014が導入されるガス供給部11と、BFが導入されるイオン源1とは、間に第1の質量分析器2を介在させて離れて配置されているため、これらのガスが交じり合って反応することは殆ど無く、上記不具合を回避できる。
【0042】
また、本発明のイオン注入装置において、ガス供給部は、第2の質量分析器よりも前段に配置される。すなわち、図1の構成に当てはめれば、ガス供給部11は第2の質量分析器5の後段に配置される。これは、以下の理由による。
【0043】
すなわち、ガス供給部11は、第1の質量分析器2を通過してきた単原子イオンを該ガス供給部11内の多原子分子に衝突させ、電荷交換を生じさせてクラスタ分子イオンを発生させるが、ここで発生するイオンは所望のクラスタ分子イオンのみではない。このため、上記イオン注入装置では、ガス供給部11の後段に第2の質量分析器5を配置することで、所望のクラスタ分子イオンのみを分離するようになっている。
【0044】
また、ガス供給部11と加速器3との配置関係については、図1に示すように、加速器3の前段にガス供給部11を配置することが好適である。すなわち、上述したように、加速器3の前段にガス供給部11を配置することで、ガス供給部11からのクラスタ分子イオンの引き出しに、加速器3の加速電界を用いることができ、イオン注入装置の構成が簡素化できると共に、照射されるクラスタ分子イオンの運動エネルギを加速器3によって精度良く制御できる。
【0045】
但し、本発明はこれに限定されるものではなく、加速器3の後段にガス供給部11を配置しても良い。この場合は、ガス供給部11からクラスタ分子イオンを引き出すための引出電極が必要とされる。また、この場合、照射されるクラスタ分子イオンの運動エネルギは、上記引出電極における引出電界によっても制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、イオン注入装置の要部構成を示す図である。
【図2】従来のイオン注入装置の要部構成を示す図である。
【図3】クラスタ分子イオンの生成を可能とする、従来のイオン源を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 イオン源
2 第1の質量分析器
3 加速器(加減速管)
5 第2の質量分析器
11 ガス供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを生成し、生成されたイオンをイオンビームとして照射するイオン注入装置において、
少なくとも、
単原子イオンを生成するイオン源と、
上記イオン源の下流に設けられる第1の質量分析器と、
上記第1の質量分析器の下流に設けられ、その内部にガスを導入可能なガス供給部と、
上記ガス供給部の下流に設けられる第2の質量分析器とを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
上記ガス供給部と上記第2の質量分析器との間に、加減速管が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−32229(P2006−32229A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212161(P2004−212161)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】