説明

イオン液体組成物、及びその用途

【課題】 耐磨耗性、耐蒸発性に優れ、さらに安定した流動性を示し、広い温度範囲、使用条件で安定した潤滑性能を有する合成潤滑油、また電解液材料として有用なイオン液体組成物を提供する。
【解決手段】 アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンであるイオン液体(A)を含むイオン液体組成物であって、イオン液体(A)のカチオン部が異なるイオン液体を2種以上含有してなることを特徴とするイオン液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で溶融状態にあるイオン液体組成物に関し、とりわけ潤滑油として有用なイオン液体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置、動力伝達装置、金属加工油などに用いられる潤滑油としては、ポリαオレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、シリコン油などの基油の中から最も目的物性に近い種類の基油を選択し、必要に応じて組合せて、さらに適切な添加剤などを加えて用いられていた。しかし、これらの潤滑油は、高温や真空度が高いといった特殊な環境下において引火または蒸発の危険性があり、より好適な潤滑油が望まれている。
また、装置の高性能化、高効率化に伴い、より優れた耐酸化性、耐蒸発性や、長期間にわたって優れた潤滑性能を有する潤滑油が求められている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、例えば、非特許文献1には、有機カチオンと無機アニオンの組合せからなる化合物(イオン液体、常温溶融塩)が潤滑油として適用できることが報告されており、現在では、イオン液体は、不揮発性、広い温度範囲における安定性および難燃性に優れるだけでなく、粘度指数が高く、潤滑剤に求められる摩擦係数、磨耗痕径についても満足する物性を有するものもあるため、潤滑油の材料として可能性があることが知られている。
しかし、代表的なアニオン種であるヘキサフルオロホスフェートアニオン、テトラフルオロボレートアニオンは、水存在下で分解し、フッ化水素が発生してくることが知られており、安全上、密閉下以外での使用は困難である。
また、特許文献1においては、疎水性のイオン液体として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体を含む制動性潤滑油があげられているが、このアニオンからなるイオン液体は、粘度が低く耐熱性が高いという物性を有している。
【0004】
しかし、潤滑油には、金属加工用潤滑油、内燃機関用潤滑油、グリース等多くの種類があり、各用途ごとに融点や最適粘度範囲などの必要物性も異なるものであるため、イオン液体を潤滑油として用いるためには、用途に応じたイオン液体を選択する必要があった。
例えば、軸受け用潤滑油のひとつを例にあげても、特殊な用途、例えば、動圧軸受け用潤滑油として使用する場合には、粘度は低いものが望ましく、通常30mPa・s以下であるのに対し、一般的にボールベアリングとよばれる転がり軸受け用潤滑油として使用する場合には、粘度が低すぎると回転体から潤滑油が乖離してしまい潤滑の用をなさなくなるために、ある程度高い粘度、通常30〜2000mPa・s程度の粘度が必要である。
【0005】
このように、両用途の最適粘度範囲は異なり、それに伴い最適なイオン液体も異なるものであり、例えば、上記特許文献1で記載されているビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体では、転がり軸受け用潤滑油としては、市販されているカチオン種(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン〜1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン)での粘度範囲が約30〜150mPa・sと限られている点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−89667号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Society of Tribologists and Lubrication Engineers, July 2003,p.16−21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、このような背景下において、広い温度範囲で安定した潤滑性能を示し、一般的な価格の安い潤滑油の代替として用いることが可能なイオン液体組成物を提供することを目的とするものであり、更にはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体では達成されない粘度範囲を持ち、軸受け用潤滑油の中でも転がり軸受け用潤滑油として最適なイオン液体組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者は、上記事情を鑑み鋭意研究を重ねた結果、アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドであり、カチオン部が異なるイオン液体を2種以上含有させたイオン液体組成物が、低温においても溶融状態を保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンであるイオン液体(A)を含むイオン液体組成物であって、イオン液体(A)のカチオン部が異なるイオン液体を2種以上含有してなるイオン液体組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイオン液体組成物は、疎水性であって、かつ低温下でも溶融状態を保ち、更に流動性、耐磨耗性、耐蒸発性に優れた効果を有するものであり、広い温度範囲の使用条件で安定した潤滑性能を有する合成潤滑油として有用である。
【0012】
なお、低温下での溶融状態については、得られるイオン液体組成物が容易に融点測定ができる場合は低融点であることを意味し、融点測定が容易でない場合は一旦イオン液体組成物を結晶化した後、昇温して溶融状態となる温度が低温であることを意味するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
なお、本発明におけるイオン液体とは、100℃において溶融状態にあるイオン性物質のことを示す。
【0014】
本発明のイオン液体組成物は、アニオン部にビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体(A)(以下、単に「イオン液体(A)」と略すことがある)であって、カチオン部が異なるイオン液体(A)を2種以上含有してなるものである。
【0015】
本発明で用いられるイオン液体(A)は、アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンであるものであればよい。
該イオン液体(A)のカチオン部としては、通常のイオン液体に用いられるカチオンを用いることができるが、中でも、窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンおよび第四級ホスホニウムカチオンからなる群より選択される有機カチオンであることが好ましい。特には、融点が低い点で窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオンを用いることが好ましい。
【0016】
窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウム等の5員環化合物のオニウムカチオンや、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウム等の6員環化合物のオニウムカチオンを挙げることができる。これらの中でも、イミダゾリウムカチオンが、融点が低く液状になりやすい点で好ましい。
【0017】
かかるイミダゾリウムカチオンとしては、たとえば、下記一般式(1)の構造を有するものをあげることができる。
【0018】
【化1】

【0019】
(式(1)中、置換基R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜16の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アシル基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基であって、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アシル基の中にN、S、Oより選択されるヘテロ原子を含んでいてもよく、共役または独立した二重結合または三重結合を含んでいてもよい。)
【0020】
上記置換基R1〜R5がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アシル基の場合、炭素数は1〜16であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。これらの置換基は直鎖でも分岐構造を有していてもどちらでもよいが、炭素数が多すぎると、側鎖の分子間相互作用が働くため粘度が増加する傾向がある。
【0021】
上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アシル基は、N、S、およびOより選択されるヘテロ原子を含んでいてもよく、含有するヘテロ原子の数は特に限定されるものではない。また、共役、または独立した二重結合または三重結合を含んでいてもよく、これらの不飽和結合数も特に限定されるものではない。
【0022】
このようなアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等があげられる。また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基等があげられる。さらに、アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基等があげられ、アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基等、アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等、また、アミノ基としては、例えば、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等があげられる。産業上の有用性を考慮すると、酵素による分解を受け易くして生分解性を高めることができる点からアルコキシル基、アシル基、アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基等が好ましい。
【0023】
上記式(1)で示されるイミダゾリウムカチオンとしては、合成の容易さの点から、1,3−二置換イミダゾリウムカチオン、1,2,3−三置換イミダゾリウムカチオンが好ましく用いられる。これらの誘導体における置換基は、同一でも異なっていてもよく、多重結合または分岐があってもよい置換基であることが好ましい。中でも、1,3−二置換イミダゾリウムカチオンの場合は、一方の置換基としてメチル基、またはエチル基を有する1,3−二置換イミダゾリウムカチオンを用いることが好ましい。また、他方の置換基としては、炭素数1〜16のアルキル基であることが好ましく、特に好ましくは炭素数1〜12である。
【0024】
ピリジニウムカチオンとしては、例えば、N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−ブチルピリジニウム、N−プロピルピリジニウムなどの炭素数1〜16のアルキル基により置換されたピリジニウムカチオンなどがあげられる。
【0025】
また、本発明では、上記窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオンの他にも、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオンが用いられる。
【0026】
第四級アンモニウムカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどの炭素数1〜16のアルキル基により置換されたアンモニウムカチオンなどがあげられる。
【0027】
第四級ホスホニウムカチオンとしては、例えば、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウムなどの炭素数1〜16のアルキル基により置換された第四級ホスホニウムカチオンなどがあげられる。
【0028】
本発明のアニオン部にビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体(A)としては、具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−メチル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−メチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−オクチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−プロピル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−デシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−ドデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−オクチル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−オクチル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−ノニルオクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−ドデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド等のジアルキルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドが好ましく用いられ、また3−エチル−1,2−ジメチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3,4−ジメチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−イソプロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド等のトリアルキルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドが好ましく用いられる。
【0029】
これらの中でも、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドが特に好ましく用いられる。
【0030】
本発明のイオン液体組成物は、カチオン部が異なるイオン液体(A)を2種以上含有してなるものであるが、好ましくは2種のイオン液体を含有するものであることが、相溶性に優れている点、およびコストを下げることができ経済的に優れている点で好ましい。
【0031】
2種のイオン液体の組み合わせとしては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A1)と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A2)、或いは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A1)と1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A3)であることが、融点を0℃以下とすることができる点で好ましい。
【0032】
上記イオン液体(A1)とイオン液体(A2)の混合比(重量比)については、好まし
くは(A1):(A2)=1:9〜9:1、更に好ましくは(A1):(A2)=2:8〜8:2、特に好ましくは(A1):(A2)=4:6〜6:4、であり、また上記イオン液体(A1)とイオン液体(A3)の混合比(重量比)については、好ましくは(A1):(A3)=9:1〜5:3、更に好ましくは(A1):(A3)=8:2〜6:4である。
上記2種のイオン液体(A)の混合比の範囲外では、融点が十分に低下しない傾向がある。
【0033】
本発明のイオン液体組成物は、カチオン部が異なるイオン液体(A)を2種以上含有してなるものであるが、更には、イオン液体(A)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で任意のイオン液体(B)を配合することも可能である。かかる任意のイオン液体(B)としては、例えば、アニオン部として、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、BF4-、BF325-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(FSO22-、(CN)2-、(CF3SO23-、(C25SO22-、AlCl4-、Al2Cl7-などを含有するイオン液体である。これに対応するカチオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムなどのアルキルイミダゾリウムカチオンが挙げられ、イミダゾリウムカチオン以外では、4級アンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオンなどを含有するイオン液体が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、かかるイオン液体(B)の配合量としては、通常全イオン液体を100重量部とした場合に、0〜20重量部であることが好ましく、更に好ましくは0〜10重量部であることが好ましい。
【0035】
本発明で用いられるイオン液体(A)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、アニオン交換法、酸エステル法、中和法などの公知の方法を適用することができる。例えば、N−アルキルイミダゾールと、アルキルハライドなどのアルキル化剤とを用いてアルキル化した後、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドの金属塩を用いてアニオン交換反応を行う方法を用いて製造することができる。
【0036】
本発明のイオン液体組成物を潤滑油に用いるに当たっては、本発明のイオン液体組成物をそのまま潤滑油としてもよいが、必要に応じて、通常用いられる潤滑油基油を含んでいても良く、また、必要に応じて、防錆剤、流動点降下剤などの添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の使用量は、本発明の効果を妨げない程度であれば特に限定されるものではなく、例えば前記イオン液体組成物100重量部に対して通常0.001〜50重量部である。
【0037】
一般的に合成潤滑油として使用することが可能な粘度範囲としては、使用する用途により最適な範囲が異なるため一概には規定できないが、通常25℃における粘度で2mPa・s〜3000mPa・s程度である。
また、上述のように軸受け用潤滑油として使用するにあたり、動圧軸受け用潤滑油(ハードディスク用潤滑油)として使用する場合は、粘度が低ければ低いほどシャフトと軸受けの摩擦が減少するので、粘度(25℃)としては通常30mPa・s以下であることが要求されるのに対し、ボールベアリングとよばれる転がり軸受け用潤滑油として使用する場合は、粘度が低すぎると回転体から潤滑油が乖離してしまい潤滑の用をなさなくなるために、粘度(25℃)としては通常30〜2000mPa・s、好ましくは50〜1500mPa・s、特に好ましくは100〜1000mPa・sであることが要求される。
【0038】
また、本発明の合成潤滑油の融点としては、通常10℃以下であり、5℃以下、好ましくは0℃以下の低温状態においても流動性を保つものである。
【0039】
潤滑油は用途により絶対粘度の高さが重視される用途や、絶対粘度より金属との接触角など他の物性が重視される用途が考えられる。その際、必要な物性に応じて有機カチオンを窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンおよび第四級ホスホニウムカチオンから選択し、さらに必要なら置換基を変えて物性を調節することができる。
【0040】
かくして得られる本発明のイオン液体組成物は、疎水性であって、低粘度であり、かつ低温においても溶融状態を保ち、不揮発性、不燃性、熱安定性等の諸物性が優れるために、自動車、電気製品等の機械装置、動力伝達装置、精密機械向けの潤滑油、金属加工油や電池、キャパシタ、コンデンサーなどの電解質・電解液材料として幅広く利用可能である。また、有機合成における反応溶媒、抽出溶媒としても利用することが可能である。中でも、特に合成潤滑油や電解液用途、とりわけ合成潤滑油用途、更には転がり軸受け用合成潤滑油用途に非常に有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」「%」となるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
また、粘度、融点については下記方法により求めた。
【0042】
粘度の測定条件は以下の通りである。
<使用機器>:AR−1000型回転レオメーター(TA Instruments社製)
<測定方法>:装置を25℃に設定し、サンプル0.6mlを試料台上に載せ、コーンを設置し、かかるコーンを一定の力(200Pa)で回転させた時の粘度値を読みとった。
【0043】
融点の測定条件は、以下の通りである。
<使用機器>:DSC2920(TA Instruments社製)
<測定方法>:アルミニウムセルにサンプルを10mg秤量しシールして、DSCにサンプルとリファレンスサンプル(アルミニウム空セル)をセットし、窒素を50ml/minでパージしながら、液体窒素を用いて室温から−150℃まで冷却し、同温度で3分保った。その後、昇温速度10℃/minで100℃まで昇温し、昇温のデータを取り込んだチャートより融点を測定した。なお評価基準は以下の通りである。
<評価>
○・・・融点が0℃以下であるもの
△・・・融点が0℃より高く5℃以下のもの
×・・・融点が5℃を越えるもの
【0044】
上記融点測定方法により融点が測定されない場合は、以下の方法により低温下での溶融状態を評価した。
<測定方法>:サンプルを2g入れた5mlのガラス性サンプル瓶を−80℃のフリーザーに入れ、2日以上放置した後、目視で結晶化を確認した。その後、結晶化したサンプルを(1)0℃、(2)5℃のバスに入れ、サンプルの温度がそれぞれの温度になるまで待ち、各温度での溶融状態を目視で確認した。なお評価基準は以下の通りである。
<評価>
○・・・0℃において溶融状態であるもの
△・・・0において結晶化状態であるが、5℃において溶融状態であるもの
×・・・5℃においても結晶化状態であるもの
【0045】
<合成例1>
還流管を付けたフラスコに1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド21.9g(0.1mol)と水250ml、を加えた後、さらにビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドのカリウム塩61.9g(0.1mol)を加え60℃で5時間攪拌した。反応終了後、、水層を分液し、イオン液体層をさらに水125mlで5回水洗後、イオン液体層を減圧下濃縮し、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A1)69.3g(収率96.4%)を得た。
【0046】
<合成例2>
上記合成法1の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド21.9gを1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド19.1g(0.1mol)に変更し同様の操作を実施したところ、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A2)65.7g(収率95%)を得た。
【0047】
<合成例3>
上記合成法1の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド21.9gを1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド24.7g(0.1mol)に変更し同様の操作を実施したところ、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A3)71.3g(収率95.5%)を得た。
【0048】
実施例1〜6、比較例1,2
合成例1で製造したイオン液体(A1)と、合成例2で製造したイオン液体(A2)を使用し、表1に示す如き組成にて、イオン液体組成物を製造した。その物性を測定した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

BMINfN:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド
EMINfN:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド
(※1)融点測定ができなかったので、溶融状態の目視評価を行った。
(※2)融点測定ができたため、溶融状態の目視評価までは行わなかった。
【0050】
実施例5〜6、比較例3
合成例1で製造したイオン液体(A1)と、合成例3で製造したイオン液体(A3)を使用し、表2に示す如き組成にて、イオン液体組成物を製造した。その物性を測定した結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

BMINfN:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド
HMINfN:1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド
(※1)融点測定ができなかったので、溶融状態の目視評価を行った。
(※2)融点測定ができたため、溶融状態の目視評価までは行わなかった。
【0052】
表1の結果よりイオン液体(A1)と(A2)を用いたイオン液体組成物は、それぞれを単独で用いた場合と比較して、低い融点を示すことがわかり、表2の結果よりイオン液体(A1)と(A3)を用いたイオン液体組成物は、それぞれを単独で用いた場合と比較し、低い融点を示すことがわかる。
従って、本願発明におけるイオン液体組成物は、低温においても溶融状態を保つことができるため潤滑油用途に有用に用いることができ、更にはその粘度領域から、転がり軸受け用潤滑油としての特性に非常に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のイオン液体組成物は、疎水性であって、かつ低温下でも溶融状態を保ち、更に流動性、耐磨耗性、耐蒸発性に優れた効果を有しており、自動車、電気製品等の機械装置、動力伝達装置、精密機械向けの潤滑油、金属加工油や電池、キャパシタ、コンデンサーなどの電解質・電解液材料、合成反応の反応溶媒、抽出溶媒としても使用可能であり、特には潤滑油の中でも軸受け用潤滑油、中でも転がり軸受け用潤滑油として有用に用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンであるイオン液体(A)を含むイオン液体組成物であって、イオン液体(A)のカチオン部が異なるイオン液体を2種以上含有してなることを特徴とするイオン液体組成物。
【請求項2】
イオン液体(A)のカチオン部が、イミダゾリウムカチオンであることを特徴とする請求項1記載のイオン液体組成物。
【請求項3】
イオン液体(A)として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−メチル−1−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドから選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1または2記載のイオン液体組成物。
【請求項4】
イオン液体(A)が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A1)と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A2)であることを特徴とする請求項1または2いずれか記載のイオン液体組成物。
【請求項5】
イオン液体(A1)とイオン液体(A2)の混合比(重量比)が、(A1):(A2)=2:8〜8:2であることを特徴する請求項4記載のイオン液体組成物。
【請求項6】
イオン液体(A)が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A1)と1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(A3)であることを特徴とする請求項1または2いずれか記載のイオン液体組成物。
【請求項7】
イオン液体(A1)とイオン液体(A3)の混合比(重量比)が、(A1):(A3)=8:2〜6:4であることを特徴する請求項6記載のイオン液体組成物。
【請求項8】
融点が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載のイオン液体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか記載のイオン液体組成物を含有してなることを特徴とする合成潤滑油。
【請求項10】
請求項9記載の合成潤滑油を用いた転がり軸受け用合成潤滑油。

【公開番号】特開2011−16791(P2011−16791A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128708(P2010−128708)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】