説明

イグニッションコイルの取付装置

【課題】内燃機関の電子配電式点火システムにおいて、複数のイグニッションコイルをシリンダヘッドの近傍に効率よく集中的に配置可能であって、荷重を支持する剛性や電気絶縁性を十分に確保され、かつ、配線の脱着も効率よく簡単に行えるようにする。
【解決手段】複数のイグニッションコイル20を1つのモジュールにアッシィ化する樹脂製ブラケットと、樹脂ブラケットの取付面を形成する鋼板製ブラケット26と、を備える。樹脂製ブラケットは、棚状部25aと鋼板製ブラケットが形成する取付面に締結される基板部25bとから成形される。各イグニッションコイル20は、棚状部25aの下面を取付面として、2次側の高電圧端子が棚状部25aの上方へ向けて露出し、かつ、棚状部25aの下方で1次側のコネクタ23がその差し込口を外側へ向けて突出するようにそれぞれ組み付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の電子配電式点火システムにおいて、複数のイグニッションコイルをシリンダヘッドに効率よく集中的に配置しえるイグニッションコイルの取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の電子配電式点火システムにおいては、各気筒毎に1個ずつ対応するイグニッションコイルとして、点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路をハウジングに内蔵するものが用いられる。
【0003】
各イグニッションコイルは、2次側の高電圧端子がハイテンションコードを介して対応する気筒の点火プラグに接続され、1次側のコネクタにハーネスを介して点火信号および電源が入力される。各イグニッションコイルにおいて、イグナイタは、点火信号に基づいてパワートランジスタのON-OFFを制御する。パワートランジスタがONすると、点火コイルの1次側巻線に電流(電源)が導通され、パワートランジスタがOFFすると、点火コイルの2次側巻線に高電圧が発生し、点火プラグを点火(火花放電)させるのである。
【0004】
なお、特許文献1においては、イグニッションコイルと別途にCDI(Capacitive Discharge Ignition)ユニットを備える点火システムに関するものであるが、イグニッションコイルの支持装置として、CDIユニットなどの電装品を収納する電装ボックスをエンジンに取り付け、イグニッションコイルをゴム製部品内に収容すると共に電装ボックスで支持するものが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−158546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路をハウジングに内蔵するイグニッションコイルについては、1個あたりの重量が大きく、それが気筒数分集まると、重量が大きく嵩み、これらを1つのモジュールにアッシィ化するとなると、これらの荷重を支持するのに相当の剛性が要求される。また、このようなイグニッションコイルは、ハイテンションコードの短縮化を図る上からも、シリンダヘッド近傍に設置することが望まれるが、シリンダヘッドの回りは、吸排気マニホールドや動弁機構などのフロントカバーや各種の配管類があり、設置スペースを確保するのが難しい。
【0007】
このため、これらイグニッションコイルは、1つのモジュールにアッシィ化するのでなく、ダイレクトイグニッションのように、各気筒の点火プラグに1個ずつ直付けすることが考えられる。しかし、そうするとなると、点火プラグに直付けされるイグニッションコイルを組み付けるのにシリンダヘッドの変更(作り直し)が必要となってしまう。また、点検や修理時などにおいて、点火プラグに1個ずつ直付けされるイグニッションコイルに対し、シリンダヘッドの周辺部品との関係からも、配線の脱着が効率よく簡単に行かなくなる可能性も考えられる。
【0008】
この発明は、このような課題を想定しつつ、電気絶縁性や剛性を十分に確保され、かつ、配線の脱着も効率よく簡単に行える、イグニッションコイルの取付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路をハウジングに内蔵する複数のイグニッションコイルを備える内燃機関の電子配電式点火システムにおいて、複数のイグニッションコイルを1つのモジュールにアッシィ化する樹脂製ブラケットと、シリンダヘッドの外壁に前記樹脂ブラケットの取付面を形成する鋼板製ブラケットと、を備え、前記樹脂製ブラケットは、棚状部と前記鋼板製ブラケットが形成する取付面に締結される基板部とから成形され、各イグニッションコイルは、棚状部の下面を取付面として、2次側の高電圧端子が棚状部の上方へ向けて露出し、かつ、棚状部の下方に位置する1次側のコネクタがその差し込口を棚状部の外側へ向けて突出するように組み付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明においては、樹脂製ブラケットにより、電気絶縁性が確保される。鋼板製ブラケットにより、取付剛性が補強される。鋼板製ブラケットは、アース体となるが、樹脂製ブラケットの基板部がインシュレータとして働くため、コイルの高電圧部位のアース体に対する電気絶縁性が十分に確保され、コロナ放電に因るコイルの劣化および耐電圧の低下を防止することができる。また、各イグニッションコイルは、棚状部の下面を取付面として組み付けられ、2次側の高電圧端子が棚状部の上方へ向けて露出し、かつ、棚状部の下方に位置する1次側のコネクタがその差し込口を棚状部の外側へ向けて突出するので、2次側の高電圧端子へのハイテンションコードの接続(差し込み)および1次側のコネクタへのハーネスの接続(差し込み)が効率よく簡単に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施形態に係るエンジン本体を側方から斜めに見下ろす説明図である。
【図2】同じくエンジン本体を後方から斜めに見下ろす説明図である
【図3】同じく取付装置をエンジン本体の側方から斜めに見下ろす説明図である。
【図4】同じく樹脂製ブラケットの正面図である。
【図5】同じく樹脂製ブラケットの側面図である。
【図6】同じく樹脂製ブラケットの平面図である。
【図7】別の実施形態に係る取付装置の斜視図である。
【図8】同じく取付装置の正面図である。
【図9】同じく取付装置をコネクタの差込方向から見る説明図である。
【図10】同じく取付装置の底面図である。
【図11】同じく取付装置をエンジン本体の側方から斜めに見下ろす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図6に基づいて、この発明の実施形態に係る内燃機関の電子配電式点火システムへの適用例を説明する。
【0013】
図1,図2において、10はイグニッションコイルの取付装置であり、シリンダヘッド11の後端に配管12を跨ぐ複数の脚状部材13を介して取り付けられる。14はエンジンルームと車室との間を画成する隔壁であり、取付装置10は、エンジンブロックと隔壁との間(衝撃吸収ゾーン)に配置され、衝突エネルギの吸収部材として機能する。
【0014】
各イグニッションコイル20は、点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路をハウジングに内蔵するもの(コイルユニット)であり、2次側の高電圧端子がハイテンションコード30を介して対応する気筒の点火プラグに接続され、1次側のコネクタにハーネスを介してバッテリからの電源およびECU(電子制御ユニット)からの点火信号が入力される。
【0015】
各イグニッションコイル20において、イグナイタは、点火信号に基づいてパワートランジスタのON-OFFを制御する。パワートランジスタがONすると、点火コイルの1次側巻線に電流(電源)が導通され、パワートランジスタがOFFすると、点火コイルの2次側巻線に高電圧が発生し、点火プラグを点火(火花放電)させるようになっている。
【0016】
図3〜図6に示すように、各イグニッションコイル20は、点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路を収容する主要部21と、その上方へ突出する筒状部22と、主要部21の下方に延設される1次側のコネクタ23と、からなり、筒状部22の先端部に2次側の出力端子が上方へ露出するように配設される。24はイグニッションコイル20を取り付けるためのフランジであり、ハウジングから突出する端部に締結用のネジ止め孔が形成される。
【0017】
取付装置20は、複数のイグニッションコイル10を1つのモジュールにアッシィ化する樹脂製ブラケット25と、シリンダヘッド11の外壁に樹脂ブラケット25の取付面を形成する鋼板製ブラケット23と、を備える(図3、参照)。
【0018】
樹脂製ブラケット25は、棚状部25aと、鋼板製ブラケット26が形成する取付面に締結される基板部25bと、から略T字形断面に成形される。棚状部25aの下面が各イグニッションコイル20の取付面となり、棚状部25aの上面に複数のボス部27が平面上の縦横に配設され、各ボス部27に筒状部22を支持する貫通孔が形成される。
【0019】
各イグニッションコイル20は、2次側の高電圧端子を備える筒状部22が棚状部25aの上方へに向けて突出し、かつ、棚状部25bの下方に位置する1次側のコネクタ23がその差込口を基板部25bと略平行に棚状部25aの外側へ向けて突出するように組み付けられ、それぞれフランジ24の端部を介して棚状部25aの下面に締結される。
【0020】
鋼板製ブラケット26は、樹脂製ブラケット25の取付面を構成する鋼板部36a(図3、参照)と、これをシリンダヘッド11の後端に支持する脚状部材13と、を備える。鋼板部26aは、複数の折曲部29により、凹面と凸面とが一方向へ交互に連続する断面形状に形成される。脚状部材13は、シリンダヘッド11の後端に近くの配管12(図示の場合、EGR通路を形成するパイプ)を跨ぐように突設され、その先端が鋼板部26aの凹面(シリンダヘッド11側に対しては、凸面となる)に連結される。鋼板部26aは、EGRパイプに因る加熱からイグニッションコイルを保護するため、遮熱板に構成すると良い。
【0021】
このような取付装置10により、複数のイグニッションコイル20は、1つのモジュールにアッシィ化され、シリンダヘッド11の近傍に効率よく集中的に配置される。各イグニッションコイル20は、樹脂製ブラケット25により、電気絶縁性が確保される。また、鋼板製ブラケット26により、樹脂製ブラケット25の取付剛性が補強される。
【0022】
鋼板製ブラケット26は、アース体となるが、樹脂製ブラケット25の基板部25bが各イグニッションコイル20の高電圧部とアース体との間に介在するため、イグニッションコイル20の高電圧部のアース体に対する電気絶縁性も十分に確保され、コロナ放電に因るコイルの劣化および耐電圧の低下を防止することができる。
【0023】
各イグニッションコイル20は、棚状部25aの下方を設置空間として組み付けられ、棚状部25aの上方へ突出する筒状部22の先端部から2次側の高電圧端子が上方へ露出し、かつ、棚状部25aの下方に位置する1次側のコネクタ23がその差込口を基板部25bと略平行に棚状部25aの外側へ向けて突出するので、2次側の高電圧端子へのハイテンションコード30の接続(上方からの差し込み)および1次側のコネクタ23へのハーネスの接続(側方からの差し込み)が効率よく簡単に行えるようになる。
【0024】
鋼板製ブラケット26は、配管12を跨ぐ複数の脚部部材13を与えることにより、シリンダヘッド11の後端に支障なく取り付けることが可能となる。鋼板製ブラケット26は、鋼板部26aが複数の折曲部29を持つ断面形状のため、剛性の向上が得られるばかりでなく、衝突エネルギの吸収性も高められる。また、鋼板部26aの凸面に樹脂製ブラケット25の基板部25bが締結され、鋼板部26aの凹面により、基板部25bとの接触面積が小さくなるため、電気絶縁性の向上も図れるのである。
【0025】
図4〜図6において、35は樹脂製ブラケット25の補強リブであり、略T字形断面の角部において、基板と棚状部との間を連結する略三角形状に形成される。これにより、エンジン振動に対し、樹脂製ブラケット25の剛性(上下方向の振動剛性)を高めることができる。図2において、30aはハイテンションコード30の接続端子を被覆する絶縁キャップであり、これを筒状部22の先端部に嵌め込むと、絶縁キャップ30aの内側で接続端子が2次側の高電圧端子に接続される。図4において、36は基板部締結用のネジ止め孔であり、図6において、37はイグニッションコイル締結用のネジである。
【0026】
これらの結果、複数のイグニッションコイル20は、シリンダヘッド11の近傍に効率よく集中的に配置され、荷重を支持する剛性や電気絶縁性を十分に確保され、かつ、配線の脱着も効率よく簡単に行えるようになる。また、複数のイグニションコイル20を1つのモジュールにアッシィ化する取付装置については、車両の衝撃吸収ゾーンに配置され、衝突エネルギの吸収性を向上させることができる。
【0027】
図7〜図11は、別の実施形態を説明するものであり、取付装置10は、シリンダヘッド11の後端に配管12を跨ぐ複数の脚状部材13を介して取り付けられる。
【0028】
取付装置10は、複数のイグニッションコイル20(コイルユニット)を1つのモジュールにアッシィ化する樹脂製ブラケット25と、シリンダヘッド11の外壁に樹脂ブラケット25の取付面を形成する鋼板製ブラケット26と、を備える。
【0029】
樹脂製ブラケット25は、棚状部25aと、鋼板製ブラケット26が形成する取付面に締結される基板部26bと、から略T字形断面に成形される。棚状部25aの下面が各イグニッションコイル20の取付面となり、棚状部25aの上面に複数のボス部27が平面上の縦横に配設され、各ボス部27に筒状部22を支持する貫通孔が形成される。
【0030】
各イグニッションコイル20は、2次側の高電圧端子を備える筒状部22が棚状部25aの上方へに向けて突出し、かつ、棚状部25aの下方に位置する1次側のコネクタ23がその差込口を後述の如く棚状部25aの外側へ向けて突出するように組み付けられ、それぞれフランジ24の端部を介して棚状部25aの下面に締結される。
【0031】
樹脂製ブラケット25は、棚状部25aが段差40を持つ形状に設定される。この場合、段差部(段差40の生じる部位)は、2箇所に設定され、棚状部25aの基板部26bと平行な方向の中央部が溝型に形成される。2箇所の段差40により、イグニッションコイル20の取付面が3つに区分され、中央部の溝型の底部が低位の取付面となり、溝型の中央部を挟む両側部が高位の取付面に設定される。
【0032】
各イグニッションコイル20の配置については、棚状部25aにおいて、低位の取付面に2個のイグニッションコイル20a,20bが基板部26bから離れる先端寄りにそれぞれフランジ24の端部を介して締結され、高位の取付面に1個ずつイグニッションコイル20c,20dが基板部寄りにそれぞれフランジ24の端部を介して締結される。
【0033】
各イグニッションコイル20において、低位のコネクタ23a同士および高位のコネクタ23b同士は、差込口が互いに反対側へ向けられ、低位のコネクタ23aと高位のコネクタ23bとの関係については、差込口が互いに同一方向へ向けられる(図9,図10、参照)。
【0034】
このような取付装置10により、前記の実施形態(図1〜図6、参照)と同様の効果が得られるほか、棚状部25aの中央部先端寄りのイグニッションコイル20a,20bと、棚状部25aの両側部基板寄りのイグニッションコイル20b,20cと、の間において、2次側の高電圧端子の高さ位置および1次側のコネクタ23の高さ位置に差が生じるため、2次側の高電圧端子へのハイテンションコード30の接続(上方からの差し込み)および1次側のコネクタ23へのハーネスの接続(側方からの差し込み)が簡単かつ容易に行えるようになる。また、溝型断面の中央部により、棚状部25aの剛性(上下方向の振動剛性)を高めることができる。
【0035】
図7〜図11において、26は鋼板製ブラケットであり、35は樹脂製ブラケット25の補強リブである。なお、図1〜図6と同一の部品は、同一の符号を付ける。
【0036】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において、種々の変形や変更が可能である。たとえば、樹脂製ブラケット25により、1つのモジュールにアッシィ化されるイグニッションコイル20の個数は、4個に限定されない。従って、棚状部25aの段差部(段差40の設定部位)の数も限定されない。また、CDIユニットを備える内燃機関の点火システム(特許文献1、参照)へ本発明に係る取付装置を適用することも考えられる。
【符号の説明】
【0037】
10 取付装置
11 シリンダヘッド
12 配管(EGRパイプ)
13 脚状部材
20 イグニッションコイル(コイルユニット)
21 主要部
22 筒状部
23 1次側のコネクタ
24 フランジ
25 樹脂製ブラケット
25a 棚状部
25b 基板部
26 鋼板製ブラケット
26a 鋼板部
29 折曲部
30 ハイテンションコード
30a 絶縁キャップ
40 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火コイルと共にイグナイタおよびパワートランジスタを含む点火制御回路をハウジングに内蔵する複数のイグニッションコイルを備える内燃機関の電子配電式点火システムにおいて、複数のインジェクションコイルを1つのモジュールにアッシィ化する樹脂製ブラケットと、シリンダヘッドの外壁に前記樹脂ブラケットの取付面を形成する鋼板製ブラケットと、を備え、前記樹脂製ブラケットは、棚状部と前記鋼板製ブラケットが形成する取付面に締結される基板部とから成形され、各イグニッションコイルは、棚状部の下面を取付面として、2次側の高電圧端子が棚状部の上方へ向けて露出し、かつ、棚状部の下方に位置する1次側のコネクタがその差し込口を棚状部の外側へ向けて突出するように組み付けられることを特徴とするイグニッションコイルの取付装置。
【請求項2】
前記棚状部は、インジェクションコイルの取付面を複数に区分する段差を備えることを特徴とする請求項1に記載のイグニッションコイルの取付装置。
【請求項3】
前記鋼板製ブラケットは、配管を跨ぐ複数の脚状部材を介してシリンダヘッド後端の外壁面に取り付けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイグニッションコイルの取付装置。
【請求項4】
前記鋼板製ブラケットは、前記樹脂製ブラケットの取付面を構成する鋼板部に凹面と凸面とが一方向へ連続する断面形状を与える折曲部を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のイグニッションコイルの取付装置。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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