説明

イソシアヌレート化合物

【課題】エポキシ樹脂の硬化剤の他、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂の原料としての新規なイソシアヌレート化合物の提供。
【解決手段】窒素雰囲気下で、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリド(50mmol)に、アセトン(脱水)を加えて均一溶液にした後、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート(16.6mmol)を添加した後、ピリジン(51mmol)を滴下し反応させた、新規なイソシアヌレート化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソシアヌレート化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明に類似する物質として、例えば特許文献1には、化学式(II)で示されるイソシアヌレート化合物が開示され、エポキシ樹脂の硬化剤としての利用等が提案されている。
【0003】
【化1】

(但し、Rはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基の如きC2nの分子式で表される少なくとも1つの炭素原子を有する低級アルキレン基を示し、Rは、アルキル基またはアリール基を示す。)
【0004】
このイソシアヌレート化合物は、トリスヒドロキシアルキルイソシアヌレートアルコナートまたは同ベンゾエートと無水トリメリト酸を、化学量論的に反応させることにより合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3293248号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂の硬化剤や合成樹脂の原料としての利用が期待される、新規なイソシアヌレート化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物を合成し得ることを認め、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明のイソシアヌレート化合物は、その化学構造から明らかなとおり、いわゆる酸無水物に分類される物質であり、エポキシ樹脂の硬化剤の他、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂の原料としての利用が期待される。
そして、本発明のイソシアヌレート化合物を使用して硬化させるエポキシ樹脂や、同イソシアヌレート化合物を原料に使用して製造されるポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂は、土木建築用の塗料やFRP、そして、プリント配線板・半導体分野等における塗料、レジストインキ、接着剤、シール剤、封止剤などの電気電子材料、更には高い透明性が要求されるLED封止剤や光導波路などの材料への利用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のイソシアヌレート化合物は、適量の溶媒中で、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリドと、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートとを、略化学量論的に反応させることにより合成することができる。
【0012】
この場合の反応温度は、副生物の生成を抑える為に、反応の序盤〜中盤においては室温以下に設定することが好ましく、終盤の養生時には40℃程度に加温することが好ましい。
【0013】
反応溶媒に使用する溶剤には特に制限はないが、反応生成物である本発明のイソシアヌレート化合物を溶解するアセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類や酢酸エチル等が好ましく、低沸点であって反応溶媒の留去が効率良く行えるアセトンがより好ましい。
【0014】
この反応においては、原料が無水物/酸クロリドであり、生成物も無水物であり、何れの物質も加水分解され易いので、反応系内を窒素置換した不活性ガス雰囲気下で反応を実施することが好ましく、併せて脱水処理した反応溶媒を使用することが好ましい。
【0015】
また、この反応においては、エステル化を促進させる為に、ピリジンやトリエチルアミンなどの有機塩基や苛性ソーダなどの無機塩基を、反応液に添加することができる。これら塩基類の使用量は、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリドに対して、1.0〜1.1倍当量とすればよい。
【0016】
反応終了後の反応液から生成物のイソシアヌレート化合物を取り出す方法としては、例えば、該化合物を溶解しないトルエンやヘキサンなどの炭化水素系の溶剤を反応液に添加して、該化合物を析出させる方法が挙げられる。
【0017】
本発明のイソシアヌレート化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤としての利用が期待され、従来知られたエポキシ樹脂の硬化に広く適用可能である。
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、
ビスフェノールF型エポキシ樹脂、
フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、
脂環式エポキシ樹脂、
トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントイン型エポキシ樹脂等の含窒素環エポキシ樹脂、
水添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、
脂肪族系エポキシ樹脂、
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、
ビスフェノールS型エポキシ樹脂、
ビフェニル型エポキシ樹脂、
ジシクロ環型エポキシ樹脂や
ナフタレン型エポキシ樹脂などの他、
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合およびグリシジル基を有する有機化合物と、SiH基を有するケイ素化合物とのヒドロシリル化による付加反応物であるエポキシ変性オルガノポリシロキサン化合物(例えば、特開2004−99751号公報や特開2006−282988号公報に開示されたエポキシ変性オルガノポリシロキサン化合物)が挙げられる。
【0018】
また、エポキシ樹脂を硬化させる際には、必要に応じて、本発明のイソシアヌレート化合物と共に、従来知られた硬化剤や硬化促進剤を併用することができる。
【0019】
前記の硬化剤としては、例えば、
ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ダイマー酸変性エチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェノールエーテル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等のアミン系硬化剤、
メチルテトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ナジック酸無水物、ハイミック酸無水物、メチルナジック酸無水物、メチルジシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸等の酸無水物系硬化剤、
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA,テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジヒドロキシナフタレン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック等フェノール樹脂系硬化剤、
メルカプトプロピオン酸エステル、エポキシ樹脂末端メルカプト化合物等のメルカプタン系硬化剤、
2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤、
トリフェニルホスフィン、ジフェニルナフチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン等の有機ホスフィン系硬化剤、
芳香族ホスホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族セレニウム塩等のカチオン系硬化剤などを挙げることができる。
【0020】
また、前記の硬化促進剤としては、例えば、
1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレントリアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン系硬化促進剤、
2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等イミダゾール系硬化促進剤、
トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン系硬化促進剤、
テトラブチルホスフォニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムジエチルホスフォロジチオレート等のホスホニウム系硬化促進剤、
テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−メチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩系硬化促進剤、
酢酸鉛、オクチル酸錫、ヘキサン酸コバルト等の脂肪族酸金属塩などが挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に示した合成試験によって具体的に説明する。なお、合成試験に使用した主原料は、以下のとおりである。
【0022】
[主原料]
・シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物(商品名「H−TMAn−S」、三菱瓦斯化学社製)
・シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリド(参考例1の方法により合成した)
・トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート(商品名「セイク」、四国化成工業社製)
【0023】
〔参考例1〕
<シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリドの合成>
シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物10g(50mmol)と塩化チオニル50g(420mmol)を混合し、撹拌を行いながら70℃にて反応を2時間継続した。この間、反応液はスラリー状から黄色透明の均一溶液に変化した。
次いで、反応液を室温まで冷却し、トルエン50gを加えた後、ロータリーエバポレーターを用いて塩化チオニルとトルエンを共沸留去した。塩化チオニルを完全に取り除く為にこの操作を4回繰り返し、目的物のシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリドを10.9g(50mmol、収率100%)得た。
【0024】
〔実施例1〕
<本発明のイソシアヌレート化合物の合成>
窒素雰囲気下で、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物クロリド10.9g(50mmol)に、アセトン(脱水)を50g加えて均一溶液にした後、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート4.35g(16.6mmol)を添加し、スラリー液(反応液)を調製した。
この反応液を攪拌しながら5℃まで冷却後、ピリジン(脱水)4.0g(51mmol)を、反応液の液温を10℃以下に保ちながら徐々に滴下した。滴下終了後、10℃以下で15分間攪拌し、次いで40℃まで昇温し、反応を2時間継続した。
続いて、反応液を20℃まで冷却し、不溶解分であるピリジン塩酸塩をろ去した後、10℃に冷却したトルエン500mlに徐々に滴下し、析出した白色結晶をろ別単離した(収量:8.8g、収率:66%)。
【0025】
得られた結晶の融点およびH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・融点:109.5-115.2℃
1H-NMR (アセトンd6) δ:1.4-1.6(m,1H),
2.2(m,2H), 2.3(m,3H), 2.8(m,1H), 3.3(s,1H), 3.6(s,1H), 4.2(s,2H), 4.3(s,2H).
また、この結晶のIRスペクトルデータは、図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた結晶は、化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物であるものと同定した。
【0026】
【化3】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた白色結晶のIRスペクトルチャートである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、エポキシ樹脂の硬化剤の他、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂の原料としての利用が期待される新規なイソシアヌレート化合物を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物。
【化1】


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−25670(P2012−25670A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162875(P2010−162875)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】