説明

イソプレノイド化合物を生産するための遺伝的に修飾された宿主細胞および同宿主細胞の使用方法

本発明は、イソプレノイド前駆体またはイソプレノイド化合物を生産する、遺伝的に修飾された真核宿主細胞を提供する。本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、メバロン酸経路の1つまたは複数の酵素の活性レベルの上昇、プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇、およびスクアレンシンターゼの活性レベルの低下を含む。本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞におけるイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体を生産する方法を提供する。本方法は概して、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞を、高レベルのイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産を促進する条件で培養する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、イソプレノイド化合物の生産、および特にイソプレノイド化合物を生産するように遺伝的に修飾された宿主細胞の分野に関する。
【0002】
相互参照
本出願は、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる、2004年7月27日に出願された米国仮特許出願第60/592,009号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
イソプレノイドは、共通の生合成起源、すなわち1つの代謝前駆体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)を有する、極めて多種多様な一群の天然産物を含む。イソプレノイド化合物は、「テルペン」または「テルペノイド」とも呼ばれる。40,000を上回る種類のイソプレノイドの存在が明らかにされている。定義上、イソプレノイドは、いわゆるイソプレン(C5)単位から作られる。イソプレノイド中に存在するC原子の数は、不規則なイソプレノイドおよびポリテルペンが報告されているが、典型的には5で割り切れる数(C5、C10、C15、C20、C25、C30、およびC40)である。イソプレノイドの重要な成員は、カロテノイド、セスキテルペノイド、ジテルペノイド、およびヘミテルペンを含む。カロテノイドは例えば、多くが抗酸化剤として機能するリコピン、β-カロテンなどを含む。セスキテルペノイドは例えば、抗マラリア活性を有する化合物であるアルテミニシンを含む。ジテルペノイドは例えば、癌の化学療法剤であるタキソールを含む。
【0004】
イソプレノイドは、非常に数多くの、かつ構造的に多様なファミリーの天然産物を含む。このファミリーのなかでは、植物および他の天然供給源から単離されるテルペノイドは、市販の香料および芳香剤、ならびに抗マラリア薬および抗癌剤として使用されている。今日、使用されているテルペノイド化合物の大半は、天然産物またはこの誘導体である。これらの天然産物の多くの供給源となる生物(例えば、樹木、海洋無脊椎動物)は、商業的に意味のある量の生産に必要な大規模培養にも、このような化合物の生産または誘導体化を高めるための遺伝的操作にも適していない。したがって、天然産物は類似体から半合成的に、または従来の化学合成法で合成的に製造されなければならない。さらに、多くの天然産物は複雑な構造を有し、結果的に、現時点で経済的ではないか、または合成が不可能である。このような天然産物は、樹木、海綿、サンゴ、および海洋微生物などの、その天然供給源から抽出するか;または、より多量に存在する前駆体から合成的もしくは半合成的に製造するしかない。天然供給源からの天然産物の抽出は、天然供給源の利用可能性によって制限されており;ならびに天然産物の合成もしくは半合成による製造には、低収量および/または高費用という難点がある。こうした製造上の問題、および天然供給源の利用可能性の限界は、このような産物の商業的開発および臨床開発を制限していると言える。
【0005】
改変宿主細胞におけるイソプレノイド天然産物の生合成は、このような天然資源では実現化されない商業的および治療的な可能性を拓き、および、より安価で、かつ、より広く利用可能な精製化学製品および薬物が得られる可能性がある。高レベルのテルペノイド生合成に対する主な問題は、テルペン前駆体の生産である。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)では、メバロン酸経路は、商業的価値のあるイソプレノイドおよびテルペンへの異性体化および重合化が可能なイソペンテニル二リン酸(IPP)の生産を提供する。ファルネシル二リン酸(FPP)およびゲラニルゲラニル二リン酸(GPP)を含む他の有用な前駆体も作られる。しかしながら、反応フラックスの大半は、エルゴステロールの生産につながる、ステロール経路の望ましくない後の段階に向かう。
【0006】
当技術分野では、イソプレノイド化合物、ならびにこの化合物のポリプレニル二リン酸前駆体の高レベルの生産を提供する、イソプレノイドを生産する、またはイソプレノイド前駆体を生産する、改善された宿主細胞が求められている。本発明は、こうしたニーズについて説明し、関連する利点について言及する。
【0007】
文献
米国特許公報第2004/005678号;米国特許公報第2003/0148479号;Martin et al. (2003) Nat. Biotech. 21(7): 796-802;Polakowski et al. (1998) Appl. Microbiol. Biotechnol. 49: 67-71;Wilding et al. (2000) J. Bacteriol 182(15): 4319-27;米国特許公報第2004/0194162号;Donald et al. (1997) Appl. Env. Microbiol. 63: 3341-3344;Jackson et al. (2003) Organ. Lett. 5: 1629-1632;米国特許公報第2004/0072323号;米国特許公報第2004/0029239号;米国特許公報第2004/0110259号;米国特許公報第2004/0063182号;米国特許第5,460,949号;米国特許公報第2004/0077039号;米国特許第6,531,303号;米国特許第6,689,593号;Hamano et al. (2001) Biosci. Biotechnol. Biochem. 65: 1627-1635;T. Kuzuyama (2004) Biosci. Biotechnol. Biochem. 68(4): 931-934;T. Kazuhiko (2004) Biotechnology Letters. 26: 1487-1491;Brock et al. (2004) Eur J. Biochem. 271: 3227-3241;Choi, et al. (1999) Appl Environ. Microbio. 65 4363-4368;Parke et al., (2004) Appl. Environ. Microbio. 70: 2974-2983;Subrahmanyam et al. (1998) J. Bact. 180: 4596-4602;Murli et al. (2003) J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 30: 500-509。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、イソプレノイド前駆体またはイソプレノイド化合物を生産する、遺伝的に修飾された真核宿主細胞を提供する。本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、メバロン酸経路の1つまたは複数の酵素の活性レベルの上昇、プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇、およびスクアレンシンターゼの活性レベルの低下を含む。本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞におけるイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体の生産法を提供する。この方法は一般に、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞を、高レベルのイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産を促進する条件で培養する段階を含む。
【0009】
定義
「イソプレノイド」、「イソプレノイド化合物」、「テルペン」、「テルペン化合物」、「テルペノイド」、および「テルペノイド化合物」という用語は、本明細書で互換的に使用される。イソプレノイド化合物は、さまざまな数の、いわゆるイソプレン(C5)単位から作られる。イソプレノイド中に存在するC原子の数は典型的には、5で割り切れる数(例えば、C5、C10、C15、C20、C25、C30、およびC40)である。不規則なイソプレノイドおよびポリテルペンが報告されており、これらも「イソプレノイド」の定義に含まれる。イソプレノイド化合物は、モノテルペン、セスキテルペン、トリテルペン、ポリテルペン、およびジテルペンを含むがこれらに限定されない。
【0010】
本明細書で用いる「プレニル二リン酸」という用語は、「プレニルピロリン酸」と互換的に使用され、かつ1つのプレニル基を有するモノプレニル二リン酸(例えばIPPおよびDMAPP)、ならびに2つまたはこれ以上のプレニル基を含むポリプレニル二リン酸を含む。モノプレニル二リン酸は、イソペンテニルピロリン酸(IPP)、およびその異性体であるジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)を含む。
【0011】
本明細書で用いる「テルペンシンターゼ」という用語は、テルペノイド化合物が生産されるように、IPP、DMAPP、またはポリプレニルピロリン酸を酵素的に修飾する任意の酵素を意味する。「テルペンシンターゼ」という用語は、プレニル二リン酸のイソプレノイドへの変換を触媒する酵素を含む。
【0012】
「ピロリン酸」という用語は、本明細書で「二リン酸」と互換的に使用される。したがって、例えば「プレニル二リン酸」と「プレニルピロリン酸」という用語は互換的に使用可能であり;「イソペンテニルピロリン酸」と「イソペンテニル二リン酸」という用語は互換的に使用可能であり;「ファルネシル二リン酸」と「ファルネシルピロリン酸」という用語は互換的に使用可能である(他の用語も同様)。
【0013】
「メバロン酸経路」または「MEV経路」という用語は、本明細書で、アセチルCoAをIPPに変換する生合成経路を意味するように使用される。メバロン酸経路は、以下の段階を触媒する酵素を含む:(a)アセチルCoAの2つの分子をアセトアセチルCoAに縮合させる段階;(b)アセトアセチルCoAとアセチルCoAを縮合させてHMG-CoAを生成させる段階;(c)HMG-CoAをメバロン酸に変換する段階;(d)メバロン酸をメバロン酸5-リン酸にリン酸化する段階;(e)メバロン酸5-リン酸をメバロン酸5-ピロリン酸に変換する段階;および(f)メバロン酸5-ピロリン酸をイソペンテニルピロリン酸に変換する段階。メバロン酸経路を図1に図解的に示す。
【0014】
本明細書で用いる「プレニルトランスフェラーゼ」という用語は、「イソプレニル二リン酸シンターゼ」および「ポリプレニルシンターゼ」(例えば「GPPシンターゼ」、「FPPシンターゼ」、「OPPシンターゼ」など)という用語と互換的に使用され、さまざまな鎖長のプレニル二リン酸を生成する、イソペンテニル二リン酸とアリルプライマー基質の連続的な1'-4縮合を触媒する酵素を意味する。
【0015】
本明細書で互換的に使用される「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのいずれかである、任意の長さのポリマー状のヌクレオチドを意味する。したがって、この用語は、1本鎖、2本鎖、もしくは多重鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAのハイブリッド、またはプリン塩基およびピリミジン塩基、または他の天然のヌクレオチド塩基、化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書で用いる「オペロン」および「1転写単位」という用語は、1つもしくは複数の制御エレメント(例えばプロモーター)によって協調的に調節される、2つまたはそれ以上の隣接コード領域(RNAもしくはタンパク質などの遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列)を意味するように互換的に使用される。本明細書で用いる「遺伝子産物」という用語は、DNAにコードされるRNA(もしくはこの逆)、またはRNAもしくはDNAにコードされるタンパク質を意味し、遺伝子は典型的には、タンパク質をコードする1つもしくは複数のヌクレオチド配列を含み、ならびにイントロンおよび他の非コードヌクレオチド配列を含む場合もある。
【0017】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は本明細書で互換的に使用され、ならびにコードアミノ酸および非コードアミノ酸、化学的または生化学的に修飾もしくは誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含む場合のある、任意の長さのポリマー状のアミノ酸を意味する。
【0018】
核酸、細胞、または生物体について本明細書で用いる「天然の」という用語は、天然の状態で存在する核酸、細胞、または生物体を意味する。例えば、天然の供給源から単離可能で、かつ実験室において人間の手によって意図的に修飾されていない生物体(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列は天然の配列である。
【0019】
本明細書で用いる「異種核酸」という用語は、以下の事項の少なくとも1つが真である核酸を意味する:(a)核酸が、任意の宿主微生物もしくは宿主細胞に対して異物である(「外因性(exogeneous)」である)(すなわち天然の状態で見出されない)ということ;(b)核酸が、任意の宿主微生物もしくは宿主細胞中において天然の状態で見出される(例えば「内因的である」)ヌクレオチド配列を含む(例えば核酸が、宿主微生物もしくは宿主細胞に内因的なヌクレオチド配列を含む)こと;しかしながら、異種核酸に関しては、内因的に見出される同じヌクレオチド配列が、細胞内に非天然の量(例えば推定量より多いか、もしくは天然の状態で見出される量より多い量)で生産されるか、または配列が内因性のヌクレオチド配列とは異なるが、内因的に見出されるような(同じか、もしくは実質的に同じアミノ酸配列を有する)同じタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が、細胞内で非天然の量(例えば推定量より多いか、もしくは天然の状態で見出される量より多い量)で生産される量である;(c)核酸が、天然の状態における関係と相互に同じ関係では見出されない2つもしくは2つ以上のヌクレオチド配列を含むこと、例えば核酸が組換え型であること。異種核酸の一例は、内因性(天然)のHMGRのコード配列が通常は操作可能に連結されていない転写制御エレメント(例えばプロモーター)に操作可能に連結されたHMGRをコードするヌクレオチド配列である。異種核酸の別の例は、HMGRをコードするヌクレオチド配列を含む高コピー数のプラスミドである。異種核酸の別の例は、HMGRを通常生産しない宿主細胞がHMGRをコードする核酸で遺伝的に修飾されている、HMGRをコードする核酸である;HMGRをコードする核酸は、天然の状態では宿主細胞中に見出されないので、このような核酸は、遺伝的に修飾された宿主細胞に対して異種である。
【0020】
本明細書で用いる「組換え体」とは、特定の核酸(DNAもしくはRNA)が、天然の系に見出される内因性の核酸とは区別される、構造的なコード配列もしくは非コード配列を有するコンストラクトを生じるクローニング段階、制限酵素による切断段階、および/または連結段階のさまざまな組み合わせの産物であることを意味する。一般に、構造的なコード配列をコードするDNA配列は、細胞に、または無細胞の転写系および翻訳系に含まれる組換え転写単位から発現され得る合成核酸を提供するように、cDNA断片および短いオリゴヌクレオチドリンカーから、または一連の合成オリゴヌクレオチドから集合させることができる。このような配列は、典型的には真核生物の遺伝子中に存在する内部の非翻訳配列すなわちイントロンによって分断されていないオープンリーディングフレームの状態で提供され得る。重要な配列を含むゲノムDNAも、組換え遺伝子または転写単位の生成に使用することができる。翻訳されないDNAの配列は、オープンリーディングフレームの5'側または3'側に存在する場合があり、このような配列は、コード領域の操作または発現に干渉せず、および実際には、さまざまな機構で所望の産物の生産を調節するように作用する場合がある(以下の「DNA調節配列」を参照)。
【0021】
したがって例えば、「組換え体」のポリヌクレオチドまたは核酸という用語は、天然ではないポリヌクレオチドまたは核酸、例えば2つの通常は別個の配列セグメントの、人間の介入による人工的な組み合わせによって作られるポリヌクレオチドまたは核酸を意味する。このような人工的な組み合わせはしばしば、化学合成手段によって、または単離された核酸セグメントの人工的な操作によって、例えば遺伝子工学的手法のいずれかによって達成される。これは通常、コドンを同じアミノ酸か、または保存的なアミノ酸をコードする縮重コドンと、典型的には配列認識部位を導入もしくは除去しながら置換するように実施される。または、所望の機能を有する核酸セグメントをまとめて連結することで、機能の所望の組み合わせを生じさせることが行われる。このような人工的な組み合わせは、しばしば、化学的合成手段、または単離された核酸セグメントの人工的操作、例えば遺伝子工学的手法のいずれかによって達成される。
【0022】
「コンストラクト」とは、特定のヌクレオチド配列(群)を発現させる目的で作製された組換え核酸、一般的には組換えDNAを意味するほか、他の組換えヌクレオチド配列の構築に使用される。
【0023】
本明細書で用いる「外因性核酸」という用語は、天然の任意の細菌、生物体、もしくは細胞には通常または天然の状態では見出されない核酸か、および/または天然の任意の細菌、生物体、もしくは細胞では作られない核酸を意味する。本明細書で用いる「内因性の核酸」という用語は、天然の状態で、天然の任意の細菌、生物体、もしくは細胞に通常見出される核酸か、および/または天然の任意の細菌、生物体、もしくは細胞で作られる核酸を意味する。「内因性の核酸」は、「天然の核酸」、すなわち任意の細菌、生物体、または細胞に対して「天然である」核酸とも呼ばれる。例えば、植物から単離されたmRNAから作製されたcDNAであって、かつテルペンシンターゼをコードするcDNAは、S.セレビシエ(S. cerevisiae)に対して外因性の核酸である。S. cerevisiaeでは、染色体上にHMGS、MK、およびPMKをコードするヌクレオチド配列は、「内因性」の核酸の場合がある。
【0024】
本明細書で互換的に使用される、「DNA調節配列」、「制御エレメント」、および「調節エレメント」という用語は、宿主細胞におけるコード配列の発現、および/またはコードされたポリペプチドの生産を提供するか、および/または調節するプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、タンパク質分解シグナルなどの、転写および翻訳の制御配列を意味する。
【0025】
「形質転換」という用語は、本明細書で「遺伝的修飾」と互換的に使用され、新しい核酸(すなわち細胞に対して外因性のDNA)の導入によって細胞内で誘導される恒久的または一過的な遺伝的変化を意味する。遺伝的変化(「修飾」)は、新しいDNAの宿主細胞のゲノムへの組込み、またはエピソームエレメントとしての新しいDNAの一過的もしくは安定な維持のいずれかによって達成可能である。細胞が真核細胞の場合、恒久的な遺伝的変化は一般に、細胞のゲノムへのDNAの導入によって達成される。原核細胞の場合、恒久的な変化が染色体中に、または組換え宿主細胞内における維持を目的とする1つもしくは複数の選択マーカーを含む場合があるプラスミドおよび発現ベクターなどの染色体外エレメントを介して導入され得る。
【0026】
「操作可能に連結された」という用語は、記載された成分が、意図された様式における機能を可能とする関係性をもって並置されることを意味する。例えばプロモーターは、仮にプロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合に、コード配列に操作可能に連結されている。本明細書で用いる、「異種プロモーター」および「異種制御領域」という用語は、天然の状態で特定の核酸とは通常は結合していないプロモーターおよび他の制御領域を意味する。例えば、「コード領域に対して異種である転写制御領域」は、天然の状態では通常、コード領域と結合していない転写制御領域である。
【0027】
本明細書で用いる「宿主細胞」は、インビボもしくはインビトロにおける真核細胞、または単細胞体として培養された多細胞生物に由来する細胞(例えば細胞系列)を意味し、真核細胞は、核酸(例えば、メバロン酸経路の遺伝子産物などの1つもしくは複数の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクター)のレシピエントとして使用可能であるか、または使用されたことがあり、および核酸によって遺伝的に修飾された当初の細胞の子孫を含む。1つの細胞の子孫は、形態に関して、またはゲノムDNAすなわち総DNA相補物が、天然の変異、偶発的な変異、もしくは過失による変異のために、当初の親と必ずしも完全に同一であるとは限らないと理解される。「組換え宿主細胞」(「遺伝的に修飾された宿主細胞」とも呼ばれる)は、異種核酸、例えば発現ベクターが導入された宿主細胞である。例えば、本発明の真核宿主細胞は、異種核酸、例えば真核宿主細胞に対して異物である外因性核酸、または真核宿主細胞には通常は見出されない組換え核酸の適切な真核宿主細胞への導入によって、遺伝的に修飾された真核宿主細胞である。
【0028】
本明細書で用いる「単離された」という用語は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、または細胞が、天然の状態で存在するポリヌクレオチド、ポリペプチド、または細胞とは異なる環境中に存在することを意味する。単離された遺伝的に修飾された宿主細胞は、遺伝的に修飾された宿主細胞の混合集団中に存在する場合がある。
【0029】
発現カセットは、転写開始領域(群)または転写制御領域(群)(例えばプロモーター)、対象タンパク質のコード領域、および転写終結領域を含むように作製することができる。転写制御領域は、遺伝的に修飾された宿主細胞における対象タンパク質の過剰発現を提供する領域;誘導薬剤が培地に添加された場合に、対象タンパク質のコード領域の転写が誘導されるか、または誘導前の状態より高いレベルに上昇するような、誘導的な発現を提供する領域を含む。
【0030】
核酸は、1本鎖型の核酸が、温度および溶液のイオン強度の適切な条件で他の核酸とアニーリング可能な場合に、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAなどの別の核酸と「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は周知であり、Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (1989)、特に第11章および表11.1;ならびにSambrook, J. and Russell, W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (2001)に例示されている。温度およびイオン強度の条件が、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。ストリンジェンシーの条件は、遠縁の生物に由来する相同配列などの類似性が中程度の断片から、近縁の生物に由来する機能性酵素を重複する遺伝子などの類似性の高い断片のスクリーニングを行うために調整することができる。ハイブリダイゼーションの条件、およびハイブリダイゼーション後の洗浄は、ハイブリダイゼーションについて望ましいと決定されたストリンジェンシー条件を得るために有用である。1組の説明目的のハイブリダイゼーション後の洗浄は、6xSSC (SSCは0.15 M NaClおよび15 mMクエン酸の緩衝液)、0.5% SDSによる室温で15分間の洗浄で開始され、これに続く2xSSC、0.5% SDSによる45℃で30分間の反復と、これに続く0.2xSSC、0.5% SDSによる50℃で30分間の2回の反復を行う一連の洗浄である。他のストリンジェントな条件は、洗浄が上記と、0.2xSSC、0.5% SDSで2回行う最後の30分間の洗浄温度を60℃に上げる以外は同一である。別の一連の、より高いストリンジェントな条件では、0.1xSSC、0.1% SDSによる65℃における2回の最終洗浄を行う。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の例は、50℃またはこれ以上における、0.1xSSC (15 mM塩化ナトリウム/1.5 mMクエン酸ナトリウム)によるハイブリダイゼーションである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の例は、50%ホルムアミド、5xSSC (150 mM NaCl、15 mMクエン酸三ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5xデンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性サケ精子DNAを含む溶液中における42℃での一晩のインキュベーションと、これに続く0.1xSSCによる約65℃におけるフィルターの洗浄である。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件、およびハイブリダイゼーション後の洗浄の条件は、上記の代表的条件と少なくとも同等にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件およびハイブリダイゼーション後の洗浄の条件である。
【0031】
ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含むことを必要とするが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに依存して、塩基間のミスマッチが生じ得る。核酸をハイブリダイズさせる際の適切なストリンジェンシーは、当技術分野で周知の変数である、核酸の長さ、および相補性の程度に依存する。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高くなるほど、このような配列を有する核酸のハイブリッドの溶解温度(Tm)の値は高くなる。核酸のハイブリダイゼーションの相対安定性(より高いTmに対応する)は、RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNAの順に低下する。長さが100ヌクレオチドを上回るハイブリッドに関しては、Tmを計算する方程式が導かれている(前掲のSambrook et al.の9.50〜9.51参照)。より短い核酸、すなわちオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに関しては、ミスマッチの位置が、より重要となり、オリゴヌクレオチドの長さが、その特異性を決定する(前掲のSambrook et al.の11.7〜11.8参照)。典型的には、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは、少なくとも約10ヌクレオチドである。ハイブリダイズ可能な核酸の説明目的の最小の長さは;少なくとも約15ヌクレオチド;少なくとも約20ヌクレオチド;および少なくとも約30ヌクレオチドである。さらに当業者であれば、温度および洗浄溶液の塩濃度が、必要に応じて、プローブ長などの因子に応じて調節可能なことを理解するであろう。
【0032】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、類似の側鎖を有する、タンパク質のアミノ酸残基の可換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を有する一群のアミノ酸はグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンを含み;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有する一群のアミノ酸群はセリンおよびトレオニンを含み;アミド含有側鎖を有する一群のアミノ酸はアスパラギンおよびグルタミンを含み;芳香族側鎖を有する一群のアミノ酸はフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンを含み;塩基性側鎖を有する一群のアミノ酸はリシン、アルギニン、およびヒスチジンを含み;ならびに硫黄含有側鎖を有する一群のアミノ酸はシステインおよびメチオニンを含む。例示的な保存的アミノ酸置換のグループは、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0033】
「合成核酸」は、当業者に既知の手順で化学的に合成されるオリゴヌクレオチドの構成単位から集合させることができる。このような構成要素は、連結され、およびアニーリングされて、遺伝子セグメントを形成し、これが後に、酵素的に集合されて遺伝子全体を構築する。DNAの配列に関して、「化学的に合成された」という用語は、成分ヌクレオチドがインビトロで集合されたことを意味する。マニュアルによるDNAの化学合成は、十分に確立された手順で達成可能なほか、いくつかの市販の装置の1つを使用する自動化学合成を実施できる。核酸のヌクレオチド配列は、宿主細胞のコドンの偏りを反映するように、ヌクレオチド配列を最適化することを元に最適に発現されるように修飾され得る。当業者であれば、仮にコドン使用に、宿主が好むコドンにバイアスがある場合に、良好な発現の可能性が高くなることを理解する。好ましいコドンの決定は、配列情報が利用可能な宿主細胞に由来する遺伝子の調査に基づく場合がある。
【0034】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対して、ある程度のパーセント「配列同一性」を有する。つまり、アライメントさせたときに、2つの配列の比較時に塩基またはアミノ酸のパーセンテージが同じであり、および同じ相対的な位置で同じであることになる。配列の類似性は多種多様な方法で決定できる。配列同一性を決定するためには、配列を、ワールドワイドウェブ(ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)経由で入手可能な方法、およびBLASTを含むコンピュータプログラムでアライメントさせることができる。これについては例えば、Altschul et al. (1990), J. Mol. Biol. 215: 403-10を参照されたい。別のアライメントアルゴリズムに、Oxford Molecular Group, Inc.の完全子会社であるGenetics Computing Group (GCG)(米国ウィスコンシン州マジソン)のパッケージとして入手可能なFASTAがある。アライメントの他の手法は、Methods in Enzymology, vol. 266: Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis (1996)、Doolittle編、Academic Press, Inc., a division of Harcourt Brace & Co., San Diego, California, USAに記載されている。特に関心が寄せられるのは、配列中のギャップを許容するアライメントプログラムである。スミス-ウォーターマン(Smith-Waterman)の方法は、配列アライメント中のギャップを許容するアルゴリズムの1つである。これについては、Meth. Mol. Biol. 70: 173-187 (1997)を参照されたい。ニードルマン(Needleman)およびワンチ(Wunsch)のアライメント法を使用するGAPプログラムも配列のアライメントに利用可能である。これについては、J. Mol. Biol. 48: 443-453 (1970)を参照されたい。
【0035】
本発明を詳述する前に、本発明が、記載された特定の態様に制限されることなく、変化するのは言うまでもないことを理解されたい。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるため、本明細書で使用される用語・用語が、特定の態様を説明することのみを目的としており、制限する意図はないことも理解されたい。
【0036】
数値の範囲が示される場合、文中で特に断らない限り、個々の介在する値は、下限の単位の10分の1まで、対象範囲の上限と下限の間、および任意の他の指定された値または指定された範囲の介在値が本発明に含まれることを理解されたい。このような、より小さな範囲の上限および下限は、より小さい方の範囲に独立に含まれる場合があり、かつ指定された範囲内の任意の特異的に除去される限界に従って本発明にも含まれる。指定された範囲が、限界の一方または両方を含む場合、このような含まれる限界の一方または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0037】
文中で特に断らない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される用語と同じ意味を有する。本明細書に記載された方法および材料と同等または等価である任意の方法および材料を、本発明の実施または検討に使用することもできるが、好ましい方法および材料について以下に述べる。本明細書で言及された全ての出版物は、引用される出版物に関連する方法および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0038】
本明細書で用いられるように、および添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形の「1つの」、および「その」は、文中で明記しない限り、複数の対象を含むことに注意しなければならない。したがって例えば、「1つの遺伝的に修飾された宿主細胞」と記載する場合、複数の対象となる遺伝的に修飾された宿主細胞を含み、ならびに「そのイソプレノイド化合物」と用語する場合、1つもしくは複数のイソプレノイド化合物、および当業者に既知のその等価物などを含む。クレームが任意の要素を除去するように記載される可能性があることにも注意されたい。したがって、この用語は、クレーム項と関連して、「〜だけ」、「〜のみ」などといった排他的な用語の使用、または「負の」制限の使用に関する先行的な基礎であることを意味することが意図される。
【0039】
本明細書に記載された出版物は、説明目的でのみ本出願の出願日に先立って提供される。本発明は、先行発明により、それらの開示を事前の日付にする権利を有することを了承したものとして制限されない。さらに、提供された公開日は、独立した確認の必要のある場合のある実際の公開日とは異なる場合がある。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、イソプレノイド前駆体化合物またはイソプレノイド化合物を生産する、遺伝的に修飾された真核宿主細胞を提供する。本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルの上昇、プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇、およびスクアレンシンターゼの活性レベルの低下を含む。本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞における、イソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体の生産法を提供する。この方法は一般に、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞を、高レベルのイソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物の生産を促進する条件で培養する段階を含む。
【0041】
S.セレビシエのメバロン酸経路およびステロール経路を図1および図2に図解的に示す(図2におけるアモルファジエンシンターゼ(ADS)が、遺伝的に修飾されていないS.セレビシエでは通常は発現されないことに注意されたい)。この経路は、さまざまな真核細胞における典型的な経路である。FPPは、スクアレンシンターゼ(ERG9)によってスクアレンに変換される。スクアレンは、続く段階でエルゴステロールに変換される。非修飾細胞では、代謝フラックスの大半は、FPPをステロール合成に向かわせる。本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞では、代謝フラックスは、イソプレノイド前駆体であるIPPおよびFPPの、より多量の生産へ方向が変えられる。
【0042】
遺伝的に修飾された宿主細胞
本発明は、細胞が、イソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産の昂進を提供する1つもしくは複数の遺伝的修飾を含む、遺伝的に修飾された真核宿主細胞を提供する。本発明に従って遺伝的に修飾されていない対照宿主細胞と比較して、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は以下の特徴を示す:メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルの上昇;プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇;およびスクアレンシンターゼの活性レベルの低下。
【0043】
メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルの上昇、プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇、およびスクアレンシンターゼの活性レベルの低下は、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞によるイソプレノイドまたはイソプレノイド前駆体の生産を高める。したがって、いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、遺伝的に修飾された宿主細胞におけるイソプレノイドもしくはイソプレノイド前駆体の生産が、本明細書に記載されたように遺伝的に修飾されていない対照宿主細胞で生産されるイソプレノイド前駆体化合物もしくはイソプレノイド化合物のレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、もしくは少なくとも約103倍、またはこれ以上高められる、イソプレノイドもしくはイソプレノイド前駆体の生産の昂進を示す。イソプレノイドまたはイソプレノイド前駆体の生産は、周知の方法、例えばガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、イオンクロマトグラフィー質量分析、パルスアンペロメトリー検出、uv-vis分光光度法などで容易に決定される。
【0044】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、細胞1個あたりのイソプレノイドもしくはイソプレノイド前駆体の生産の促進を提供し、例えば、本発明の方法で生産されるイソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物の量は、本発明の方法で遺伝的に修飾されていない宿主細胞によって生産されるイソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物の量より、1個の細胞ベースで、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、または少なくとも約500倍、もしくは103倍、またはこれ以上多い。細胞の量は、乾燥細胞重量を測定することで、または細胞培養物の光学密度を測定することで測定される。
【0045】
他の態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、細胞培養物の単位体積あたりのイソプレノイドもしくはイソプレノイド前駆体の生産の促進を提供し、例えば、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞を用いて生産されるイソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物の量は、本発明の方法で遺伝的に修飾されていない宿主細胞によって生産されるイソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物の量より、細胞培養物の単位体積ベースで、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、または少なくとも約500倍、もしくは103倍、またはこれ以上多い。
【0046】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された真核宿主は、イソプレノイド化合物もしくはイソプレノイド前駆体化合物を、1μgイソプレノイド化合物/ml〜100,000μgイソプレノイド化合物/ml、例えば約1μg/ml〜約10,000μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜5000μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜4500μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜4000μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜3500μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜3000μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜2500μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜2000μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜1500μg/mlイソプレノイド化合物、1μg/ml〜1000μg/mlイソプレノイド化合物、5μg/ml〜5000μg/mlイソプレノイド化合物、10μg/ml〜5000μg/mlイソプレノイド化合物、20μg/ml〜5000μg/mlイソプレノイド化合物、30μg/ml〜1000μg/mlイソプレノイド化合物、40μg/ml〜500μg/mlイソプレノイド化合物、50μg/ml〜300μg/mlイソプレノイド化合物、60μg/ml〜100μg/mlイソプレノイド化合物、70μg/ml〜80μg/mlイソプレノイド化合物、約1μg/ml〜約1,000μg/ml、約1,000μg/ml〜約2,000μg/ml、約2,000μg/ml〜約3,000μg/ml、約3,000μg/ml〜約4,000μg/ml、約4,000μg/ml〜約5,000μg/ml、約5,000μg/ml〜約7,500μg/ml、もしくは約7,500μg/ml〜約10,000μg/ml、または10,000μg/mlを上回るイソプレノイド化合物、例えば約10 mgイソプレノイド化合物/ml〜約20 mgイソプレノイド化合物/ml、約20 mgイソプレノイド化合物/ml〜約50 mgイソプレノイド化合物/ml、約50 mgイソプレノイド化合物/ml〜約100 mgイソプレノイド化合物/ml、またはこれ以上の範囲の量で生産する。
【0047】
本発明の方法は、多種多様な真核宿主細胞を対象に使用できる。宿主細胞は、多くの態様で、単細胞生物であるか、または培養物中で1種類の細胞として成長する。適切な真核宿主細胞は、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞、および藻類細胞を含むがこれらに限定されない。適切な真核宿主細胞は、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)、ピヒア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピヒア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピヒア・コクラマエ(Pichia koclamae)、ピヒア・メンブレナファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピヒア・オプンティアエ(Pichia opuntiae)、ピヒア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピヒア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピヒア・グエルキューム(Pichia guercuum)、ピヒア・ピジペリ(Pichia pijperi)、ピヒア・スティプティス(Pichia stiptis)、ピヒア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピヒア属(Pichia sp.)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス属(Saccharomyces sp.)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クリュイベロマイセス属(Kluyveromyces sp.)、クリュイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノヴェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium graminewn)、フザリウム・ベネナトゥム(Fusarium venenatum)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、クラミドモナス・レインハルトチイ(Chlamydomonas reinhardtii)などを含むがこれらに限定されない。いくつかの態様では、宿主細胞は、植物細胞以外の真核細胞である。いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は酵母細胞である。特定の態様では、酵母細胞はS.セレビシエである。
【0048】
例示的な態様では、S.セレビシエの代謝経路は、ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを生産するように改変される。このような1つのセスキテルペンであるアモルファジエンは、抗マラリア薬アルテミニシンの前駆体である。ファルネシル二リン酸の環状化によって生じるアモルファジエンは、イソプレノイド前駆体のレベルのアッセイ法に使用することができる。
【0049】
例示的な態様では、HMGR、プレニルトランスフェラーゼ、Ecm22p、およびUpc2pの活性レベルは高められ、ならびにスクアレンシンターゼの活性レベルは低められる。3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素(HMGR)、およびプレニルトランスフェラーゼ、例えばファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)は、アモルファジエン合成経路におけるボトルネック反応を触媒する。HMGRおよびプレニルトランスフェラーゼ、例えばFPPSの活性を高めることで、このようなボトルネックは克服される。2種類の転写因子Ecm22pおよびUpc2pは、ステロール合成の調節に重要な役割を果す。これら2種類の因子のそれぞれには、C末端近傍の1つのアミノ酸に、個々の因子の活性を高める変異がある。スクアレンシンターゼは、望ましくないステロール合成経路における、ファルネシル二リン酸からスクアレンへの反応を触媒する。したがって、前駆体プールを最大化し、かつステロールへの不必要なフラックスを妨げるために、ERG9の転写が制限されている。
【0050】
メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルの上昇
メバロン酸経路は、以下の段階を触媒する酵素を含む:(a)典型的にはアセトアセチルCoAチオラーゼの作用による、アセチルCoAの2つの分子をアセトアセチルCoAに縮合させる段階;(b)典型的にはHMGシンターゼ(HMGS)の作用による、アセトアセチルCoAとアセチルCoAを縮合させてHMG-CoAを生成させる段階;(c)典型的にはHMGRの作用による、HMG-CoAをメバロン酸に変換する段階;(d)典型的にはメバロン酸キナーゼ(MK)の作用による、メバロン酸をメバロン酸5-リン酸にリン酸化する段階;(e)典型的にはホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)の作用による、メバロン酸5-リン酸をメバロン酸5-ピロリン酸に変換する段階;および(f)典型的にはメバロン酸ピロリン酸デカルボキシラーゼ(MPD)の作用による、メバロン酸5-ピロリン酸をイソペンテニルピロリン酸に変換する段階。
【0051】
本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞は、以下の1つもしくは複数をもたらす1つもしくは複数の遺伝的修飾を含む:HMGSの活性レベルの上昇;HMGRの活性レベルの上昇;MKの活性レベルの上昇;PMKの活性レベルの上昇;およびMPDの活性レベルの上昇。
【0052】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルが上昇するように遺伝的に修飾される。本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞のメバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルは、以下を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法で高めることができる:1)メバロン酸経路の酵素のコード領域が操作可能に連結されたプロモーターのプロモーター強度を高める方法;2)メバロン酸経路の酵素をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドのコピー数を増やす方法;3)メバロン酸経路の酵素のmRNAの安定性を高める方法(「メバロン酸経路の酵素のmRNA」は、メバロン酸経路の酵素をコードするヌクレオチド配列を含むmRNAである);4)メバロン酸経路の酵素のmRNAの翻訳レベルが上昇するように、メバロン酸経路の酵素のmRNAのリボソーム結合部位の配列を修飾する方法;5)メバロン酸経路の酵素のmRNAの翻訳レベルが上昇するように、メバロン酸経路の酵素のmRNAのリボソーム結合部位と、メバロン酸経路の酵素のコード配列の開始コドン間の配列を修飾する方法;6)メバロン酸経路の酵素のmRNAの翻訳レベルが高められるように、メバロン酸経路の酵素のコード領域の開始コドンの5'側のシストロン間領域全体を修飾する方法;7)メバロン酸経路の酵素のmRNAの翻訳レベルが上昇するように、メバロン酸経路の酵素のコドン使用を修飾する方法;8)メバロン酸経路の酵素のmRNAの翻訳レベルが上昇するように、メバロン酸経路の酵素に使用される、まれなコドンのtRNAを発現させる方法;9)メバロン酸経路の酵素の酵素安定性を高める方法;10)メバロン酸経路の酵素の比活性(単位タンパク質あたりの単位活性)を高める方法;11)メバロン酸経路の修飾型酵素を、宿主細胞で高可溶性を示すように発現させること;または12)メバロン酸経路の修飾型酵素を、調節が生じるドメインを欠くように発現させること。上記の修飾は単独で、または組み合わせて作製することが可能であり;例えば上記の2つもしくは2つ以上の修飾を作製することで、メバロン酸経路の酵素の活性レベルを高めることができる。
【0053】
酵素HMG-CoA還元酵素(HMGR)は、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A (HMG-CoA)をメバロン酸に還元する不可逆的な反応を触媒する。この段階は、ステロール生合成経路における方向づけが成される段階である。したがってHMGRは、天然の状態でメバロン酸経路を利用してイソプレノイドを生産する生物体における主要調節点である。
【0054】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、HMGRの活性レベルが上昇するように遺伝的に修飾される。遺伝的に修飾された宿主細胞におけるHMGRの活性レベルは、以下を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法で高めることができる:1)HMGRのコード領域が操作可能に連結されたプロモーターのプロモーター強度を高める方法;2)HMGRをコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドのコピー数を増やす方法;3)HMGRのmRNAの安定性を高める方法(「HMGRのmRNA」は、HMGRをコードするヌクレオチド配列を含むmRNAである);4)HMGRのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、HMGRのmRNAのリボソーム結合部位の配列を修飾する方法;5)HMGRのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、HMGRのmRNAのリボソーム結合部位と、HMGRのコード配列の開始コドン間の配列を修飾する方法;6)HMGRのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、HMGRのコード領域の開始コドンの5'側のシストロン間領域全体を修飾する方法;7)HMGRのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、HMGRのコドン使用を修飾する方法;8)HMGRのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、HMGRに使用される、まれなコドンのtRNAを発現させる方法;9)HMGRの酵素安定性を高める方法;10)HMGRの比活性(単位タンパク質あたりの単位活性)を高める方法;または11)負の調節エレメントを除去するようにHMGRを短縮化する方法。上記の修飾は単独で、または組み合わせて作製することが可能であり;例えば上記の2つもしくは2つ以上の修飾を作製することで、HMGRの活性レベルを高めることができる。
【0055】
多くの態様では、HMGRのレベルは、野生型HMGRに対して酵素活性が高められた短縮型HMGR (tHMGR)を生産するように、真核宿主細胞を遺伝的に修飾することで高められる。tHMGRは、膜貫通ドメインを欠くために可溶性であり、かつHMGRのフィードバック阻害を欠く。tHMGRは、その触媒性のC末端領域を保持するので、HMGRの活性を保持する。いくつかの態様では、短縮型HMGRは、図7Aおよび図7Bに記載されたアミノ酸配列(SEQ ID NO: 2)を有する。いくつかの態様では、短縮型HMGRは、図6に記載されたヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 1)を含む核酸にコードされる。
【0056】
いくつかの態様では、HMGS、MK、およびPMKの1つもしくは複数の活性レベルが高められる。S.セレビシエでは、HMGSをコードする遺伝子(ERG13)、MKをコードする遺伝子(ERG12)、およびPMKをコードする遺伝子(ERG8)は、転写因子Ecm22pおよびUpc2pと結合するステロール調節エレメントを含む。Ecm22pおよびUpc2pとの結合によって転写が活性化される。いくつかの態様では、HMGS、MK、およびPMKの1つもしくは複数の活性レベルは、Ecm22pおよびUpc2pの活性上昇によって高められる。Vik et al. (2001) Mol. Cell. Biol. 19: 6395-405。
【0057】
通常、S.セレビシエは好気条件下で環境からステロールを取り込まない。Lewisら((1988) Yeast 4: 93-106)は、好気的にステロールを取り込む酵母変異体upc2-1 (uptake control)を単離した。upc2-1の対立遺伝子は、第IV染色体上のYDR213Wと命名されたオープンリーディングフレームに、グアニンからアデニンへの移行を含む。Crowley et al. (1998) J. Bacteriol. 16: 4177-4183。野生型Upc2の核酸配列は既知であり、GenBankアクセッション番号Z68194から得られる。この野生型対立遺伝子は、S.セレビシエの染色体上の座標889746〜892487に位置する。Lewisらによって過去に明らかにされたように、天然の条件では、ステロールの取り込みのレベルは、同質遺伝子的な野生型より10〜20倍高い。この変異体では、エルゴステロールの生産が昂進した。
【0058】
Upc2p転写因子およびEcm22p転写因子のC末端近傍における1アミノ酸の変化は、それらの活性を高めることがわかっている。多くの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、Upc2pがアミノ酸888位におけるグリシンからアスパラギン酸への置換を含み;およびEcm22pが、アミノ酸790位におけるグリシンからアスパラギン酸への置換を含むように遺伝的に修飾される。
【0059】
プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞は、ゲラニル二リン酸シンターゼ(GPPS)および/またはファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)の活性レベルが高くなるように遺伝的に修飾される。
【0060】
酵素ファルネシル二リン酸シンターゼ(FPPS)は、ゲラニル二リン酸(GPP)をファルネシル二リン酸(FPP)に変換する反応を触媒する。この段階は、メバロン酸経路における律速段階であることもわかっている。したがってFPPSは、天然の状態でイソプレノイド生産にメバロン酸経路を利用する生物体における調節点である。したがって、および詳細な説明を容易にするために、プレニルトランスフェラーゼの活性レベルを調節することについて、FPPSの活性レベルの調節に関して論じる。
【0061】
いくつかの態様では、FPPSの活性レベルが高められる。遺伝的に修飾された宿主細胞におけるFPPSの活性レベルは、以下を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法で高めることができる;1)FPPSのコード領域が操作可能に連結されたプロモーターのプロモーター強度を高める方法;2)FPPSをコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドのコピー数を増やす方法;3)FPPSのmRNAの安定性を高める方法(「FPPSのmRNA」は、FPPSをコードするヌクレオチド配列を含むmRNAである);4)FPPSのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、FPPSのmRNAのリボソーム結合部位の配列を修飾する方法;5)FPPSのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、FPPSのmRNAのリボソーム結合部位と、FPPSのコード配列の開始コドン間の配列を修飾する方法;6)FPPSのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、FPPSのコード領域の開始コドンの5'側のシストロン間領域全体を修飾する方法;7)FPPSのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、FPPSのコドン使用を修飾する方法;8)FPPSのmRNAの翻訳レベルが上昇するように、FPPSに使用される、まれなコドンのtRNAを発現させる方法;9)FPPSの酵素安定性を高める方法;または10)FPPSの比活性(単位タンパク質あたりの単位活性)を高める方法。上記の修飾は単独で、または組み合わせることで作製することが可能であり;例えば上記の2つもしくは2つ以上の修飾を作製することで、FPPSの活性レベルを高めることができる。
【0062】
スクアレンシンターゼの活性レベルの低下
酵素スクアレンシンターゼは、ファルネシル二リン酸をスクアレンに変換する反応を触媒する。この段階は、ファルネシル二リン酸からエルゴステロールに至る経路における最初の段階である。したがって、この酵素の作用を制限することでFPPは、例えばテルペンシンターゼまたはGGPPシンターゼ、および続くテルペンシンターゼを利用することで、テルペノイド生産経路に向かって切り替えられる。
【0063】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、スクアレンシンターゼの活性レベルが低下するように遺伝的に修飾される。遺伝的に修飾された宿主細胞におけるスクアレンシンターゼの活性レベルは、以下を含むがこれらに限定されない、いくつかの方法で低めることができる;1)スクアレンシンターゼのコード領域が操作可能に連結されたプロモーターのプロモーター強度を低める方法;2)スクアレンシンターゼのmRNAの安定性を低下させる方法(「スクアレンシンターゼのmRNA」は、スクアレンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含むmRNAである);3)スクアレンシンターゼのmRNAの翻訳レベルが低下するように、スクアレンシンターゼのmRNAのリボソーム結合部位の配列を修飾する方法;4)スクアレンシンターゼのmRNAの翻訳レベルが低下するように、スクアレンシンターゼのmRNAのリボソーム結合部位と、スクアレンシンターゼのコード配列の開始コドン間の配列を修飾する方法;5)スクアレンシンターゼのmRNAの翻訳レベルが低下するように、スクアレンシンターゼのコード領域の開始コドンの5'側のシストロン間領域全体を修飾する方法;6)スクアレンシンターゼのmRNAの翻訳レベルが低下するように、スクアレンシンターゼのコドン使用を修飾する方法;7)スクアレンシンターゼの酵素安定性を低下させる方法;8)スクアレンシンターゼの比活性(単位タンパク質あたりの単位活性)を低下させる方法;または9)化学的に抑制可能なプロモーターを使用し、かつ化合物を成長培地に添加することで、化学的に抑制可能なプロモーターを抑制する方法。上記の修飾は単独で、または組み合わせて作製することが可能であり;例えば上記の2つもしくは2つ以上の修飾を作製することで、スクアレンシンターゼの活性レベルを低めることができる。
【0064】
例示的な態様では、S.セレビシエにおけるスクアレンシンターゼの活性は、低下されるか、または除去される。メバロン酸をスクアレンに変換できない酵母のERG9変異体が作製されている。これについては例えば、Karst et al. (1977) Molec. Gen. Genet. 154: 269-277;米国特許第5,589,372号;および米国特許公報第2004/0110257号を参照されたい。遺伝的修飾は、スクアレンシンターゼの生産を遮断もしくは低下によってスクアレンシンターゼ活性を低下させること、スクアレンシンターゼの活性を阻害すること、またはスクアレンシンターゼの活性を阻害することを含む。スクアレンシンターゼの生産の遮断または低下は、スクアレンシンターゼの遺伝子を、成長培地中に誘導性化合物の存在を必要とするプロモーターの制御下に配置させる段階を含む場合がある。誘導物質が培地から枯渇するような条件を設定することによって、スクアレンシンターゼの発現をオフにすることができる。数種類のプロモーターが、抑制性化合物の存在によってオフにされる。例えば、酵母のCTR3遺伝子またはCTR1遺伝子に由来するプロモーターを、銅の添加によって抑制することができる。スクアレンシンターゼの活性の遮断または低下は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,743,546号に記載された方法に類似の切り出し法を含む場合がある。このアプローチでは、ERG9遺伝子が、ゲノムからERG9遺伝子の特異的で制御された切り出しを可能とする特定の遺伝子配列間にクローニングされる。切り出しは例えば、米国特許第4,743,546号に記載された手順で培養物の培養温度を変化させることによって、または他のいくつかの物理的シグナルまたは栄養シグナルによって促進可能な場合がある。このような遺伝的修飾は、任意のタイプの修飾を含み、および特に組換え手法によって、ならびに従来の変異誘発法によって作製される修飾を含む。スクアレンシンターゼの阻害剤は既知であり(米国特許第4,871,721号、および米国特許第5,475,029号で引用された参考文献を参照)、細胞培養物に添加することができる。
【0065】
いくつかの態様では、スクアレンシンターゼのコード配列のコドン使用が、ERG9のmRNAの翻訳レベルが低下するように修飾される。コドン使用の修飾によるERG9のmRNAの翻訳レベルの低下は、配列をまれなコドンか、または宿主細胞が一般に使用しないコドンを配列に含むように修飾することで達成される。特定の生物が、あるアミノ酸をコードする際に特定のコドンを使用する回数のパーセンテージを要約した、多くの生物体に関するコドン使用表が利用可能である。あるコドンは、他の「まれな」コドンより頻繁に使用される。配列中における「まれな」コドンの使用は一般に翻訳速度を減速させる。したがって例えば、コード配列は、翻訳速度には影響するが、翻訳される酵素のアミノ酸配列には影響しない1つもしくは複数のまれなコドンを導入することで修飾される。例えば、アルギニンをコードするコドンにはCGT、CGC、CGA、CGG、AGA、およびAGGの6つが存在する。大腸菌では、(個々の大腸菌におけるアルギニンの約40%をコードする)コドンCGTおよびコドンCGCが、(大腸菌におけるアルギニンの約2%をコードする)コドンAGGより高頻度で使用される。遺伝子の配列中のCGTコドンをAGGコドンに修飾しても、酵素の配列を変化させないと考えられるが、遺伝子の翻訳速度を減速させる可能性は高い。
【0066】
遺伝的に修飾された宿主細胞の作製
本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、当業者に周知の標準的な方法で作製される。いくつかの態様では、メバロン酸経路のバリアント酵素をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸、および/またはメバロン酸経路の酵素(群)の転写を制御するバリアント転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を宿主細胞に導入し、および内因性の遺伝子の全体または一部を、例えば相同組換えによって置換する。いくつかの態様では、異種核酸を親宿主細胞に導入し、および異種核酸が、メバロン酸経路の酵素、プレニルトランスフェラーゼ、メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の転写を制御する転写因子、またはスクアレンシンターゼをコードする内因性の核酸と組換えを起こすことで親宿主細胞が遺伝学的に修飾される。いくつかの態様では、異種核酸は、内因性のプレニルトランスフェラーゼの転写を制御する内因性のプロモーターと比較して高いプロモーター強度のプロモーターを含み、および組換え事象は、内因性のプロモーターと異種プロモーターの置換を生じる。他の態様では、異種核酸は、内因性のHMGRと比較して高い酵素活性を示す短縮型HMGRをコードするヌクレオチド配列を含み、および組換え事象は、内因性のHMGRのコード配列と異種HMGRのコード配列の置換を生じる。いくつかの態様では、異種核酸は、操作可能に連結されたスクアレンシンターゼのコード配列の調節型の転写を提供するプロモーターを含み、および組換え事象は、内因性のスクアレンシンターゼのプロモーターと異種プロモーターの置換を生じる。
【0067】
他の遺伝的修飾
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、上記の修飾に加えて1つまたは複数の遺伝的修飾を含む。例えば、いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、プレニルトランスフェラーゼ(例えばFPPおよびGPP以外のプレニルトランスフェラーゼ);テルペンシンターゼなどの1つもしくは複数の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む、1つもしくは複数の核酸によって、さらに遺伝的に修飾される。
【0068】
コドン使用
いくつかの態様では、遺伝子産物(例えばプレニルトランスフェラーゼ、テルペンシンターゼなど)をコードするヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列が、特定の宿主細胞のコドンの好みを反映するように修飾される。例えば、ヌクレオチド配列は、いくつかの態様では、酵母のコドン優先性に合わせて修飾される。これについては例えば、Bennetzen and Hall (1982) J. Biol. Chem. 257(6): 3026-3031を参照されたい。
【0069】
上述したように、いくつかの態様では、スクアレンシンターゼのコード配列のコドン使用が、ERG9のmRNAの翻訳レベルが低下するように修飾される。コドン使用の修飾によるERG9のmRNAの翻訳レベルの低下は、配列をまれなコドンか、または宿主細胞が一般に使用しないコドンを含むように修飾することで達成される。特定の生物が、あるアミノ酸をコードする際に特定のコドンを使用する回数のパーセンテージを要約した、多くの生物体に関するコドン使用表が利用可能である。あるコドンは、他の「まれな」コドンより頻繁に使用される。配列中における「まれな」コドンの使用は一般に翻訳速度を減速させる。したがって例えば、コード配列は、翻訳速度には影響するが、翻訳される酵素のアミノ酸配列には影響しない1つもしくは複数のまれなコドンを導入することで修飾される。例えば、アルギニンをコードするコドンにはCGT、CGC、CGA、CGG、AGA、およびAGGの6つが存在する。大腸菌では、(個々の大腸菌におけるアルギニンの約40%をコードする)コドンCGTおよびコドンCGCが、(大腸菌におけるアルギニンの約2%をコードする)コドンAGGより高頻度で使用される。遺伝子の配列中のCGTコドンをAGGコドンに修飾しても、酵素の配列を変えないと考えられるが、遺伝子の翻訳速度を減速させる可能性は高い。
【0070】
アセチルCoAの供給増加
アセチルCoAは、MEV経路において、アセトアセチルCoAチオラーゼとHMGSの両方に使用される反応物なので、一部の宿主細胞では、アセチルCoAの細胞内プールの拡大は、イソプレノイドおよびイソプレノイド前駆体の増加に至る可能性がある。細胞内のアセチルCoAのレベルを高めると考えられる修飾は、細胞内の乳酸デヒドロゲナーゼの総活性を低下させると考えられる修飾、細胞内の酢酸キナーゼの総活性を低下させると考えられる修飾、細胞内のアルコールデヒドロゲナーゼの総活性を低下させると考えられる修飾、2-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの総活性を低下させると考えられるような、トリカルボン酸サイクルに干渉すると考えられる修飾、もしくは(F1F0)H+-ATPシンターゼの総活性を低下させると考えられるような、酸化的リン酸化を妨げると考えられる修飾、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。
【0071】
プレニルトランスフェラーゼ
プレニルトランスフェラーゼは、さまざまな鎖長のプレニル二リン酸の生成につながる、IPPの連続的な縮合を触媒する広範囲の酵素を含む。適切なプレニルトランスフェラーゼは、IPPとアリルプライマー基質の縮合を触媒して、約5イソプレン単位〜約6000イソプレン単位もしくはこれ以上、例えば約5イソプレン単位〜約10イソプレン単位、約10イソプレン単位〜約15イソプレン単位、約15イソプレン単位〜約20イソプレン単位、約20イソプレン単位〜約25イソプレン単位、約25イソプレン単位〜約30イソプレン単位、約30イソプレン単位〜約40イソプレン単位、約40イソプレン単位〜約50イソプレン単位、約50イソプレン単位〜約100イソプレン単位、約100イソプレン単位〜約250イソプレン単位、約250イソプレン単位〜約500イソプレン単位、約500イソプレン単位〜約1000イソプレン単位、約1000イソプレン単位〜約2000イソプレン単位、約2000イソプレン単位〜約3000イソプレン単位、約3000イソプレン単位〜約4000イソプレン単位、約4000イソプレン単位〜約5000イソプレン単位、または約5000イソプレン単位〜約6000イソプレン単位もしくはこれ以上のイソプレノイド化合物を生成する酵素を含む。
【0072】
適切なプレニルトランスフェラーゼは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)シンターゼ、ヘキサプレニル二リン酸(HexPP)シンターゼ、ヘプタプレニル二リン酸(HepPP)シンターゼ、オクタプレニル(OPP)二リン酸シンターゼ、ソラネシル二リン酸(SPP)シンターゼ、デカプレニル二リン酸(DPP)シンターゼ、チクル(chicle)シンターゼ、およびガッタパーチャ(gutta-percha)シンターゼを含むがこれらに限定されないE-イソプレニル二リン酸シンターゼ;ならびにノナプレニル二リン酸(NPP)シンターゼ、ウンデカプレニル二リン酸(UPP)シンターゼ、デヒドロドリチル(dehydrodolichyl)二リン酸シンターゼ、エイコサプレニル二リン酸シンターゼ、天然ゴムシンターゼ、および他のZ-イソプレニル二リン酸シンターゼを含むがこれらに限定されないZ-イソプレニル二リン酸シンターゼを含むがこれらに限定されない。
【0073】
さまざまな種に由来する、数多くのプレニルトランスフェラーゼのヌクレオチド配列が知られており、本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞の作製に使用可能または修飾可能である。プレニルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は当技術分野で既知である。これについては例えば、ヒトのファルネシルピロリン酸合成酵素のmRNA (GenBankアクセッション番号J05262;ヒト);ファルネシル二リン酸合成酵素(FPP)の遺伝子(GenBankアクセッション番号J05091;サッカロマイセス・セレビシエ);イソペンテニル二リン酸:ジメチルアリル二リン酸イソメラーゼの遺伝子(J05090;サッカロマイセス・セレビシエ);Wang and Ohnuma (2000) Biochim. Biophys. Acta 1529: 33-48;米国特許第6,645,747号;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のファルネシルピロリン酸合成酵素2 (FPS2)/FPP合成酵素2/ファルネシル二リン酸シンターゼ2 (At4gl7190)のmRNA (GenBankアクセッション番号NM_202836);イチョウ(Ginkgo biloba)のゲラニルゲラニル二リン酸シンターゼ(ggpps)のmRNA (GenBankアクセッション番号AY371321);シロイヌナズナのゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ(GGPS1)/GGPP合成酵素/ファルネシルトランストランスフェラーゼ(At4g36810)のmRNA (GenBankアクセッション番号NM_119845);シネチョコッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus)のファルネシルシンターゼ、ゲラニルゲラニルシンターゼ、ゲラニルファルネシルシンターゼ、ヘキサプレニルシンターゼ、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼ(SelF-HepPS)の遺伝子(GenBankアクセッション番号AB016095)などを参照されたい。
【0074】
多くの態様では、真核宿主細胞は、プレニルトランスフェラーゼをコードする核酸で遺伝的に修飾される。例えば、多くの態様では、宿主細胞は、GGPPシンターゼ、GFPPシンターゼ、HexPPシンターゼ、HepPPシンターゼ、OPPシンターゼ、SPPシンターゼ、DPPシンターゼ、NPPシンターゼ、およびUPPシンターゼからなる群より選択されるプレニルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾される。
【0075】
テルペンシンターゼ
テルペンシンターゼは、化学および生物学で既知の、非常に複雑な反応の1つを介してイソプレノイド化合物の生産を触媒する。一般にテルペンシンターゼは、分子量が約40〜100 kDの中程度のサイズの酵素である。テルペンシンターゼは、十分な反応特異性およびキラリティの保存を併せもつ、低速〜中速のターンオーバー速度を有する酵素として分類可能である。ターンオーバーは、酵素と基質の結合、基質のコンフォメーションの確立、基質から生成物への変換、および生成物の放出を含む。反応は、水性溶媒中でインビトロで実施可能であり、典型的にはマグネシウムイオンを補因子として要求し、および疎水性が高いことの多い、結果として得られる生成物は、有機溶媒中に分配することで回収できる。米国特許第6,890,752号。
【0076】
いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、テルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸で、さらに遺伝的に修飾される。いくつかの態様では、宿主細胞を遺伝的に修飾する核酸は、天然のテルペンシンターゼ、または他の親テルペンシンターゼ、例えばバリアントのテルペンシンターゼに由来する1つもしくは複数のアミノ酸について、アミノ酸配列が異なるテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む。「親テルペンシンターゼ」とは、比較の参照点となるテルペンシンターゼのことである。バリアントのテルペンシンターゼは、コンセンサスのテルペンシンターゼ、およびハイブリッドのテルペンシンターゼを含む。いくつかの態様では、合成核酸は、コンセンサスのテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む。他の態様では合成核酸は、ハイブリッドのテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0077】
既知の任意のテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を使用することができる。適切なテルペンシンターゼは、アモルファ-4,11-ジエンシンターゼ(ADS)、ベータ-カリオフィレンシンターゼ、ゲルマクレンAシンターゼ、8-エピセドロールシンターゼ、バレンセンシンターゼ、(+)-デルタ-カジネンシンターゼ、ゲルマクレンCシンターゼ、(E)-ベータ-ファルネセンシンターゼ、カスベン(Casbene)シンターゼ、ベティスピラジエン(vetispiradiene)シンターゼ、5-エピ-アリストロチェンシンターゼ、アリストロチェンシンターゼ、ベータ-カリオフィレン、アルファ-フムレン、(E,E)-アルファ-ファルネセンシンターゼ、(-)-ベータ-ピネンシンターゼ、ガンマ-テルピネンシンターゼ、リモネンシクラーゼ、リナロールシンターゼ、1,8-シネオールシンターゼ、(+)-サビネンシンターゼ、E-アルファ-ビサボレンシンターゼ、(+)-ボルニル二リン酸シンターゼ、レボピマラジエン(levopimaradiene)シンターゼ、アビエタジエン(Abietadiene)シンターゼ、イソピマラジエンシンターゼ、(E)-ガンマ-ビサボレンシンターゼ、タクサジエン(taxadiene)シンターゼ、コパリル(copalyl)ピロリン酸シンターゼ、カウレン(kaurene)シンターゼ、ロンギフォレンシンターゼ、ガンマ-フムレンシンターゼ、デルタ-セリネンシンターゼ、ベータ-フェランドレンシンターゼ、リモネンシンターゼ、ミルセンシンターゼ、テルピノレンシンターゼ、(-)-カンフェンシンターゼ、(+)-3-カレンシンターゼ、syn-コパリル二リン酸シンターゼ、アルファ-テルピネオールシンターゼ、syn-ピマラ-7,15-ジエンシンターゼ、ent-サンダアラコピマラジエン(sandaaracopimaradiene)シンターゼ、ステマー(stemer)-13-エンシンターゼ、E-ベータ-オシメン、S-リナロールシンターゼ、ゲラニオールシンターゼ、ガンマ-テルピネンシンターゼ、リナロールシンターゼ、E-ベータ-オシメンシンターゼ、エピ-セドロールシンターゼ、アルファ-ジンギベレンシンターゼ、ギアジエン(guaiadiene)シンターゼ、カスカリラジエンシンターゼ、シス-ムーロラジエン(muuroladiene)シンターゼ、アフィジコラン(aphidicolan)-16b-olシンターゼ、エリザベスアトリエン(elizabethatriene)シンターゼ、サンダロールシンターゼ、パチョロールシンターゼ、ジンザノール(Zinzanol)シンターゼ、セドロールシンターゼ、スカレオール(scareol)シンターゼ、コパロール(copalol)シンターゼ、マノール(manool)シンターゼなどを含むがこれらに限定されない。
【0078】
テルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列は当技術分野で既知であり、既知の任意のテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を、宿主細胞を遺伝的に修飾するために使用することができる。例えば、以下のテルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号、および各テルペンシンターゼが同定される生物種を併記)が知られており、かつ使用可能である:(-)-ゲルマクレンDシンターゼのmRNA (AY438099;バルサムポプラ(Populus balsamifera)の亜種コットンウッド(trichocarpa)×Populus deltoides);E,E-アルファ-ファルネセンシンターゼのmRNA (AY640154;キュウリ(Cucumis sativus));1,8-シネオールシンターゼのmRNA (AY691947;シロイヌナズナ);テルペンシンターゼ5 (TPS5)のmRNA (AY518314;トウモロコシ(Zea mays));テルペンシンターゼ4 (TPS4)のmRNA (AY518312;トウモロコシ);ミルセン/オシメンシンターゼ(TPS10)(At2g24210)のmRNA (NM_127982;シロイヌナズナ);ゲラニオールシンターゼ(GES)のmRNA (AY362553;バジル(Ocimum basilicum));ピネンシンターゼのmRNA (AY237645;トウヒ(Picea sitchensis));ミルセンシンターゼ1e20のmRNA (AY195609;キンギョソウ(Antirrhinum majus));(E)-β-オシメンシンターゼ(0e23)のmRNA (AY195607;キンギョソウ);E-β-オシメンシンターゼのmRNA (AY151086;キンギョソウ);テルペンシンターゼのmRNA (AF497492;シロイヌナズナ);(-)-カンフェンシンターゼ(AG6.5)のmRNA (U87910;アメリカオオモミ(Abies grandis));(-)-4S-リモネンシンターゼの遺伝子(例えばゲノム配列)(AF326518;アメリカオオモミ);デルタ-セリネンシンターゼの遺伝子(AF326513;アメリカオオモミ);アモルファ-4,11-ジエンシンターゼのmRNA (AJ251751;青蒿(Artemisia annua));E-α-ビサボレンシンターゼのmRNA (AF006195;アメリカオオモミ);ガンマ-フムレンシンターゼのmRNA (U92267;アメリカオオモミ);δ-セリネンシンターゼのmRNA (U92266;アメリカオオモミ);ピネンシンターゼ(AG3.18)のmRNA (U87909;アメリカオオモミ);ミルセンシンターゼ(AG2.2)のmRNA (U87908;アメリカオオモミ);ほかのヌクレオチド。
【0079】
以下のテルペンシンターゼのアミノ酸配列は、括弧内に示すGenBankアクセッション番号で見つかる。また個々のテルペンシンターゼの名称に続いて、各酵素が同定される生物種を示す:(-)-ゲルマクレンDシンターゼ(AAR99061;バルサムポプラ(Populus balsamifera)の亜種コットンウッド(trichocarpa)×Populus deltoides);D-カジネンシンターゼ(P93665;ワタ(Gossypium hirsutum));5-エピ-アリストロチェンシンターゼ(Q40577;タバコ(Nicotiana tabacum));E,E-アルファ-ファルネセンシンターゼ(AAU05951;キュウリ);1,8-シネオールシンターゼ(AAU01970;シロイヌナズナ);(R)-リモネンシンターゼ1(Q8L5K3;レモン(Citrus limon));syn-コパリル二リン酸シンターゼ(AAS98158;イネ(Oryza sativa));タクサジエンシンターゼ(Q9FT37;イチイ(Taxus chinensis);Q93YA3;セイヨウイチイ(Taxus bacca);Q41594;タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia));D-カジネンシンターゼ(Q43714;ワタ(Gossypium arboretum));テルペンシンターゼ5(AAS88575;トウモロコシ);テルペンシンターゼ4 (AAS88573;トウモロコシ);テルペノイドシンターゼ(AAS79352;ブドウ(Vitis vinifera));ゲラニオールシンターゼ(AAR11765;バジル);ミルセンシンターゼ1e20 (AAO41727;キンギョソウ);5-エピ-アリストロチェンシンターゼ37 (AAP05762;タバコ(Nicotiana attenuata));(+)-3-カレンシンターゼ(AAO73863;ドイツトウヒ(Picea abies));(-)-カンフェンシンターゼ(AAB70707;アメリカオオモミ);アビエタジエンシンターゼ(AAK83563;アメリカオオモミ);アモルファ-4,11-ジエンシンターゼ(CAB94691;青蒿);トリコジエン(trichodiene)シンターゼ(AAC49957;クワ暗斑病菌(Myrothecium roridum));ガンマ-フムレンシンターゼ(AAC05728;アメリカオオモミ);δ-セリネンシンターゼ(AAC05727;アメリカオオモミ);ほかの酵素。
【0080】
核酸、ベクター、プロモーター
遺伝的に修飾された宿主細胞を作製するために、1つもしくは複数の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む、1つもしくは複数の核酸を、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、リポソームによるトランスフェクション、酢酸リチウムの存在下における熱ショックなどの手法を含むがこれらに限定されない確立された手法で、宿主細胞に安定に、または一過的に導入する。安定な形質転換に関しては、核酸は一般に、例えばネオマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性、カナマイシン耐性などの周知の複数の選択マーカーのいくつかの選択マーカーをさらに含む。
【0081】
多くの態様では、宿主細胞を遺伝的に修飾する核酸は、例えばメバロン酸経路の酵素、転写因子、プレニルトランスフェラーゼ、テルペンシンターゼなどの遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む発現ベクターである。適切な発現ベクターは、バキュロウイルスベクター、バクテリオファージベクター、プラスミド、ファジミド、コスミド、フォスミド、細菌人工染色体、ウイルスベクター(例えば、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、SV40、単純ヘルペスウイルスほかのウイルスを基礎とするウイルスベクター)、P1を基礎とする人工染色体、酵母プラスミド、酵母人工染色体、および特定の対象宿主(酵母など)に特異的な他の任意のベクターを含むがこれらに限定されない。したがって例えば、遺伝子産物(群)をコードする核酸は、遺伝子産物(群)の発現用のさまざまな発現ベクターの任意の1つに含まれる。このようなベクターは、染色体のDNA配列、非染色体のDNA配列、および合成DNA配列を含む。
【0082】
数多くの適切な発現ベクターが当業者に既知であり、その多くが市販されている。以下のベクターを例として提供する;真核宿主細胞用に:pXT1、pSG5 (Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLSV40 (Pharmacia)。しかしながら、宿主細胞と適合性がある限りにおいて、他の任意のプラスミドまたは他のベクターを使用することができる。
【0083】
発現ベクター中のヌクレオチド配列は、コードされる遺伝子産物の合成を誘導するために、適切な発現制御配列(群)(プロモーター)に操作可能に連結される。利用される宿主/ベクター系に依存して、構成的および誘導型のプロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含む、任意のいくつかの適切な転写および翻訳の制御エレメントを発現ベクターに使用することができる(例えばBitter et al. (1987) Methods in Enzymology, 153: 516-544を参照)。
【0084】
適切な真核プロモーター(真核細胞で機能するプロモーター)の非制限的な例は、CMV最初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、SV40の初期および後期のプロモーター、レトロウイルス由来のLTRプロモーター、およびマウスのメタロチオネイン-Iプロモーターを含む。適切なベクターおよびプロモーターの選択は、当業者のレベルの範囲内にある。発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、および転写ターミネーターを含む場合もある。発現ベクターは、発現を増幅するための適切な配列を含む場合もある。
【0085】
加えて、発現ベクターは多くの態様で、形質転換された宿主細胞を選択するための、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸還元酵素またはネオマイシン耐性などの用語型形質を提供するために、1つもしくは複数の選択マーカーの遺伝子を含む。
【0086】
組換え発現ベクターは一般に、複製起点および宿主細胞の形質転換を可能とする選択マーカー、例えばS.セレビシエのTRP1遺伝子など;ならびに遺伝子産物をコードする配列の転写を誘導するための高発現遺伝子に由来するプロモーターを含む。このようなプロモーターは、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)などの解糖系酵素、α-因子、酸ホスファターゼ、または熱ショックタンパク質をコードするオペロンに誘導する場合がある。
【0087】
多くの態様では、遺伝的に修飾された宿主細胞は、誘導型プロモーターに操作可能に連結された、遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾される。誘導型プロモーターは当技術分野で周知である。適切な誘導型プロモーターは、バクテリオファージλのpL;Plac;Ptrp;Ptac (Ptrp-lacハイブリッドプロモーター);イソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)-誘導型プロモーター、例えばlacZプロモーター;テトラサイクリン誘導型プロモーター;アラビノース誘導型プロモーター、例えばPBAD (例えばGuzman et al. (1995) J. Bacteriol. 177: 4121-4130を参照);キシロース誘導型プロモーター、例えばPxyl (例えばKim et al. (1996) Gene 181: 71-76を参照);GAL1プロモーター;トリプトファンプロモーター;lacプロモーター;アルコール誘導型プロモーター、例えばメタノール誘導型プロモーター、エタノール誘導型プロモーター;ラフィノース誘導型プロモーター;熱誘導型プロモーター、例えば熱誘導型のラムダPLプロモーター、熱感受性リプレッサーの制御を受けるプロモーター(例えばCI857-抑制型のラムダベースの発現ベクター;例えばHoffmann et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 177(2): 327-34を参照);ならびに他のプロモーターを含むがこれらに限定されない。
【0088】
多くの態様では、遺伝的に修飾された宿主細胞は、構成的プロモーターに操作可能に連結された、遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾される。酵母では、構成的または誘導型のプロモーターを含むいくつかのベクターを使用することができる。総説として、Current Protocol in Molecular Biology、第2巻、1988, Ausubel, et al.編、Greene Publish. Assoc. & Wiley Interscience、第13章;Grant, et al., 1987, Expression and Secretion Vector for Yeast, in Methods in Enzymology、Wu & Grossman編、31987, Acad. Press, N.Y.、第153巻、pp.516-544;Glover, 1986, DNA Cloning、第II巻、IRL Press, Wash., D.C.、第3章;Bitter, 1987, Heterologous Gene Expression in Yaset, Methods in Enzymology、Berger & Kimmel編、Acad. Press, N.Y.、第152巻、pp.673-684;およびThe Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces, 1982, Strathern et al.編、Cold Spring Harbor Press、第I巻および第II巻を参照されたい。ADHもしくはLEU2などの構成的な酵母プロモーター、またはGALなどの誘導型プロモーターを使用することができる(Cloning in Yeast、第3章、R. Rothstein in: DNA Cloning, vol. 11, A Practical Approach、DM Glover編、1986, IRL Press, Wash., D.C.)。または、外来DNA配列の酵母染色体への組込みを促すベクターを使用することができる。
【0089】
本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞を含む組成物
本発明はさらに、本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、本発明の遺伝的に修飾された真核宿主細胞を含み、およびいくつかの態様では、部分的には、遺伝的に修飾された真核宿主細胞の意図された用途を元に選択される1つまたは複数の別の成分を含む場合がある。適切な成分は、塩類;緩衝剤;安定剤;プロテアーゼ阻害剤;細胞膜および/または細胞壁を保存するような化合物、例えばグリセロール、ジメチルスルフォキシドなど;細胞に適した栄養培地;ほかの成分を含むがこれらに限定されない。
【0090】
イソプレノイド化合物の生産法
本発明は、イソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産法を提供する。この方法は一般に、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞を適切な培地で培養する段階を含む。
【0091】
本発明の方法で生産可能なイソプレノイド前駆体化合物は、任意のイソプレニル二リン酸化合物を含む。本発明の方法で生産可能なイソプレノイド化合物は、リモネン、シトラネロール、ゲラニオール、メントール、ペリリルアルコール、リナロール、ツジョンを含むがこれらに限定されないモノテルペン;ペリプラノンB、ギンコライド(gingkolide)B、アモルファジエン、アルテミニシン、アルテミシニック酸、バレンセン、ヌートカトン、エピ-セドロール(epi-cedrol)、エピ-アリストロチェン、ファルネソール、ゴッシポール、サノニン(sanonin)、ペリプラノン、およびフォルスコリンを含むがこれらに限定されないセスキテルペン;カスベン、エレウセルビン(eleutherobin)、パクリタキセル、プロストラチン、およびシュードプテロシン(pseudopterosin)を含むがこれらに限定されないジテルペン;ならびにアルブルシド(arbruside)E、ブルセアンチン(bruceantin)、テストステロン、プロゲステロン、コルチゾン、ジギトキシンを含むがこれらに限定されないトリテルペンを含むがこれらに限定されない。イソプレノイドは、リコピン、α-およびβ-カロテン、α-およびβ-クリプトキサンチン、ビキシン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、ならびにルテインなどのカロテノイドも含むがこれらに限定されない。イソプレノイドは、トリテルペン、ステロイド化合物、および混合型のテルペン-アルカロイドなどの他の官能基によって修飾されたイソプレノイド、ならびに補酵素Q-10を含む化合物も含むがこれらに限定されない。
【0092】
いくつかの態様では、本発明の方法はさらに、細胞から、および/または培地からイソプレノイド化合物を単離する段階を含む。
【0093】
一般に、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、適切な培地(例えば任意で、誘導物質などの1種類もしくは複数の添加剤を添加したルリア-ベルトーニブロス(例えば、遺伝子産物をコードする1種類もしくは複数のヌクレオチド配列は誘導型プロモーターの制御下にある)など)で培養される。いくつかの態様では、本発明の遺伝的に修飾された宿主細胞は、適切な培地で培養され;および培地には、有機溶媒、例えばドデカンで覆って有機層を形成させる。遺伝的に修飾された宿主細胞が生産するイソプレノイド化合物は有機層中に分配され、この有機層から精製可能である。1つもしくは複数の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列が誘導型プロモーターに操作可能に連結されている、いくつかの態様では、誘導物質を培地に添加し;ならびに適切な時間が経過した後に、培地を覆う有機層からイソプレノイド化合物を単離する。
【0094】
いくつかの態様では、イソプレノイド化合物は、有機層中に存在する可能性のある他の生成物と分離される。有機層中に存在する可能性のある他の生成物とイソプレノイド化合物の分離は、例えば標準的なクロマトグラフィーによる手法で容易に達成される。
【0095】
いくつかの態様では、イソプレノイド化合物は純粋であり、例えば純度が少なくとも約40%であり、純度が少なくとも約50%であり、純度が少なくとも約60%であり、純度が少なくとも約70%であり、純度が少なくとも約80%であり、純度が少なくとも約90%であり、純度が少なくとも約95%であり、純度が少なくとも約98%であるか、または純度が98%を上回る。イソプレノイド化合物に関して使う「純粋」という用語は、他のイソプレノイド化合物や混入物などを含まないイソプレノイド化合物を意味する。
【0096】
実施例
以下の実施例は、本発明の製造法および使用法の完全な開示および記述を当業者に提供するために示すものであり、本発明者らが、本発明者らの発明とみなす範囲を制限することを意図したものではなく、以下に示す実験が、実施された全てまたは唯一の実験であることを示すことを意図したものでもない。使用された数値(例えば、量、温度など)に関しては正確を期すように努力したが、ある程度の実験誤差および偏差は考慮されなければならない。特に示された部分を除き、割合(part)は重量の割合、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、および圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。標準的な省略形を使用することができる。例えば、bp、塩基対(複数を含む);kb、キロ塩基対(複数を含む);pl、ピコリットル(複数を含む);sもしくはsec、秒(複数を含む);min、分(複数を含む);hもしくはhr、時間(複数を含む);aa、アミノ酸(複数を含む);kb、キロ塩基対(複数を含む);bp、塩基対(複数を含む);nt、ヌクレオチド(複数を含む);i.m.、筋肉内(に);Lp.、腹腔内(に);s.c、皮下(に);など。
【0097】
実施例1:遺伝的に修飾された酵母細胞における高レベルのイソプレノイド化合物の生産
材料および方法
試薬
ドデカンおよびカリオフィレンはSigma-Aldrich (St. Louis, MO)から購入した。5-フルオロオロト酸酸(5-FOA)はZymo Research (Orange, CA)から購入した。Synthetic Defined培地調製用のComplete Supplement Mixture (CSM)はQbiogene (Irvine, CA)から購入した。他の全ての培地成分はSigma-AldrichまたはBecton, Dickinson (Franklin Lakes, NJ)から購入した。
【0098】
株および培地
本研究で使用する発現プラスミドの構築時の細菌の形質転換および、プラスミドの増幅には、大腸菌株DH10BおよびDH5αを使用した。これらの株は、100 mg/Lのアンピシリンを添加したルリア-ベルターニ培地で37℃で培養した。ただしpδ-UBベースのプラスミドの増幅時には、株を50 mg/Lのアンピシリン存在下で培養した。
【0099】
S288C株に由来するS.セレビシエ株BY4742 (Baker Brachmann et al. (1998) Yeast 14(2): 115-132)を、全ての酵母株の親株として使用した。この株をリッチYPD培地で成長させた。Burke et al. Methods in Yeast genetics: a Cold Spring Harbor Laboratory course manual. 2000, Plainview, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press。改変酵母株は、適切であればロイシン、ウラシル、ヒスチジン、および/またはメチオニンを添加したSD培地(Burke et al. (2000)、前掲)で成長させた。GAL1プロモーターから発現される遺伝子の誘導時には、S.セレビシエ株を、炭素源を2%ガラクトースのみとして成長させた。
【0100】
プラスミド構築
GAL1プロモーターによるADS発現用にプラスミドpRS425ADSを作製するために、ADSをpADS (Martin et al. (2003) Nat. Biotechnol. 21(7): p.796-802)からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で、プライマー対ADS-SpeI-F/ADS-HindIII-Rを使用して増幅した(表1)。これらのプライマーを使用して、ヌクレオチド配列5'-AAAACA-3'をADSの開始コドンのすぐ上流にクローニングした。このコンセンサス配列は、ADSおよび本研究で使用される他のガラクトース誘導型遺伝子の効率的な翻訳のために使用した(Looman et al. (1993) Nucleic Acids Research. 21(18): 4268-71;Yun et al. (1996) Molecular Microbiol. 19(6): 1225-39)。増幅産物をSpeIおよびHindIII切断し、SpeIおよびHindIIIで切断したpRS425GAL1 (Mumberg et al. (1995) Gene 156(1): 119-122)にクローニングした。
【0101】
【表1】

制限酵素切断部位に下線を付し、開始コドンまたは停止コドンを太字で示す。
【0102】
tHMGRを発現させるためにプラスミドpRS-HMGRを構築した。第1のSacII制限酵素切断部位をpRS426GAL1 (Mumberg et al. (1995) Gene 156(1): 119-122)中に、GAL1プロモーターの5'端かつCYC1ターミネーターの3'端に来るように導入した。pRS426GAL1のプロモーター-マルチクローニングサイト-ターミネーターのカセットをPCRで、プライマー対pRS42X-PvuIISacII-F/pRS42X-PvuIISacII-Rを使用して増幅した(表1)。増幅産物を、PvuIIで切断したpRS426GAL1に直接クローニングしてベクターpRS426-SacIIを構築した。HMG1の触媒ドメインをプラスミドpRH127-3 (Donald et al. (1997) Appl. Environ. Microbiol. 63(9): 3341-44)からPCRで、プライマー対HMGR-BamHI-F/HMGR-SalI-Rを使用して増幅した。増幅産物をBamHIおよびSalIで切断し、BamHIおよびXhoIで切断したpRS426-SacIIにクローニングした。
【0103】
UPC2のupc2-1対立遺伝子をプラスミドpBD33から、プライマー対UPC2-BamHI-F/UPC2-SalI-Rを使用したPCRで増幅した。増幅産物をBamHIおよびSalIで切断し、BamHIおよびXhoIで切断したpRS426-SacIIにクローニングしてプラスミドpRS-UPC2を得た。同様に、upc2-1様変異(残基790位におけるグリシンからアスパラギン酸への変異)を含むECM22遺伝子をプラスミドpBD36からPCRで、プライマー対ECM22-BamHI-F/UPC2-SalI-Rを使用して増幅した。増幅産物をBamHIおよびSalIで切断し、BamHIおよびXhoIで切断したpRS426-SacIIにクローニングしてプラスミドpRS-ECM22を得た。
【0104】
プラスミドpδ-UB (Lee et al. (1997) Biotechnol Prog. 13(4): 368-373)を使用して、pRS-HMGRのtHMGR発現カセットを酵母ゲノム中に組込むためのプラスミドを構築した。pRS-HMGRをSacIIで切断し、発現カセット断片をゲルから抽出し、SacIIで切断したpδ-UBにクローニングした。upc2-1の組込みに関しては、pRS-UPC2をSacIIで切断して適切な断片をpδ-UBに移すことで、pδ-UPC2を同一の手順で作製した。
【0105】
ERG9プロモーターとMET3プロモーターと置換するためにプラスミドpRS-ERG9を作製した。プラスミドpRH973 (Gardner et al. (1999) J. Biol. Chem. 274 (44): 31671-31678)は、MET3プロモーターの下流に配置されたERG9の短縮型の5'セグメントを含む。pRH973をApaIおよびClaIで切断し、ApaIおよびClaIで切断したpRS403 (Sikorski et al. (1989) Genetics, 122(1): 19-27)にクローニングした。
【0106】
ERG20の発現用に、プラスミドpRS-ERG20を構築した。プラスミドpRS-SacIIを最初にSalIおよびXhoIで切断し、適合性のある付着末端を生じさせた。次に同プラスミドを自己連結させてSalI切断部位およびXhoI切断部位を除去してプラスミドpRS-SacII-DXを得た。ERG20をBY4742のゲノムDNAからPCRで、プライマー対ERG20-SpeI-F/ERG20-SmaI-Rを使用して増幅した。増幅産物をSpeIおよびSmaIで切断し、SpeIおよびSmaIで切断したpRS-SacII-DXにクローニングした。ERG20発現カセットの組込みに関しては、pRS-ERG20をSacIで切断し、発現カセット断片をゲルから抽出し、SacIIで切断したpδ-UBにクローニングした。
【0107】
本研究に使用したプラスミドを表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
本研究に使用した酵母株のリスト、および株に関連する遺伝子型を表3に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
酵母の形質転換および株の構築
S288Cに由来する、S.セレビシエ株BY4742 (Carrie Baker Brachmann et al. (1998) Yeast 14(2): 115-132)を全てのS.セレビシエ株の親株として使用した。全てのS.セレビシエ株の形質転換は、標準的な酢酸リチウム法で実施した(Gietz et al. (2002) Guide to Yeast Genetics and Molecular and Cell Biology, Pt B., Academic Press Inc: San Diego. 87-96)。最高のアモルファジエン生産形質転換体を選択するために、各形質転換に由来する3〜10個のコロニーをスクリーニングした。株BY4742のプラスミドpRS425ADSによる形質転換およびSD-LEUプレート上における選択によって、株EPY201を構築した。株EPY203、EPY204、EPY205、およびEPY206を、株EPY201をそれぞれプラスミドpRS-HMGR、pRS-UPC2、pRS-ECM22、およびpRS-ERG20で形質転換して構築した。形質転換体をSD-LEU-URAプレート上で選択した。プラスミドpδ-HMGRをXhoIで切断後に、同DNAで株EPY201を形質転換してEPY207を構築した。URA3マーカー欠損体を選択するために、株EPY207を培養し、1 g/Lの5-FOAを含むSD-LEUプレートにプレーティングした。結果として得られたウラシル栄養要求性変異株を次に、XhoIで切断したpδ-UPC2プラスミドDNAで形質転換し、SD-LEU-URAプレート上で選択することでEPY209を構築した。プラスミドpRS-ERG9をHindIIIで切断し、EPY209のERG9座位におけるPMET3-ERG9融合体の組込みに使用し、EPY212を構築した。この株はSD-LEU-URA-HIS-METプレートで選択した。URA3マーカーの欠失体を選択するために、EPY212を培養し、5-FOAを含むSD-LEU-HIS-METプレートにプレーティングした。結果として得られたウラシル栄養要求体を次に、XhoIで切断したpδ-ERG20プラスミドDNAで形質転換し、SD-LEU-URA-HIS-METプレート上で選択することでEPY214を構築した。
【0112】
酵母の培養
アモルファジエン生産の測定の時間経過実験では、5 mLのSD (2%ガラクトース)培地(上記の適切なアミノ酸を欠く)を含む培養用チューブに対象株を播種した。これらの播種物(innocula)を、600 nmにおける光学密度(OD600)が約1となるまで30℃で成長させた。50 mLのSD培地を含む250 mL容量のバッフル付フラスコに、OD600が0.05の種培養物を播種した。図4は、メチオニンを記載のレベルで含むSD-URA-LEU-HIS中で成長させた株を示す。図5に示した株用の培地は、メチオニンを最終濃度が1 mMとなるように添加したSD-URAを含む。他の全ての生産実験では、適切であればSD-URAまたはSD-URA-LEUを使用した。
【0113】
全てのフラスコは5 mLのドデカンも含むようにした。このドデカン層をサンプリングしてエチル酢酸で希釈し、GC-MSによるアモルファジエン生産の決定に使用した。
【0114】
アモルファジエンのGC-MS解析
さまざまな株によるアモルファジエン生産を、文献(Martin et al. (2001) Biotechnology and Bioengineering, 75(5): 497-503)に記載された手順によるGC-MSで、分子イオン(204 m/z)および189 m/zイオンの2種類のイオンのみをスキャンして測定した。カリオフィレン標準曲線、および総イオン量に対するイオン189 m/zおよび204 m/zの相対量を用いて、アモルファジエン濃度をカリオフィレン同等物に変換した。
【0115】
結果
アモルファジエンの生産を最大化するために、S.セレビシエゲノムへのコンストラクトの連続的な組込みを利用する段階的なアプローチを採用した。
【0116】
アモルファジエンの生産 プラットフォームとなる宿主細胞であるS.セレビシエを、イソプレノイドを高レベルで生産するように改変した。S.セレビシエは、そのイソプレノイド生産の全てをイソペンテニル二リン酸(IPP)を介して、およびその大半を続いて、ファルネシル二リン酸(FPP)を介して誘導する。IPPおよびFPPのレベルは宿主株で増加した。IPPおよびFPPは、さまざまな天然産物に代謝される。FPPレベルを測定する代りに、成長過程で代謝も分解もされないFPPの直接の産物の1つであるアモルファジエンのレベルを測定した。FPPを酵素の作用で環状化させてセスキテルペンアモルファジエンを得るために、アモルファジエンシンターゼ(ADS)をS.セレビシエで発現させた。アモルファジエンはGCMSでも容易に定量される。
【0117】
ADSを2-ミクロンプラスミドpRS425ADS上で、GAL1プロモーターの誘導による制御下で発現させた。ADSを発現させるために、S.セレビシエの培養物をガラクトース上で6日間、成長させ、アモルファジエンレベルを24時間毎に測定した。pRS425ADSの導入だけで修飾されたS.セレビシエが4日後に4.6μgアモルファジエン/mLの最大のアモルファジエン生産に達した(図3A)。
【0118】
アモルファジエンの純品を添加した培地を含む過去の対照実験では、液相からセスキテルペンが速やかに失われることがわかっていた。培地容量の10%に相当するドデカン層を、アモルファジエンを培養物から隔離するために各振盪フラスコに添加した。この有機層を添加することで空気中への消失を防ぐことで、生産されるアモルファジエンの総量の正確な測定が確実なものとなる。アモルファジエンが揮発することは、本研究で使用されるような数日間という長期間では特に問題となる。
【0119】
HMG-CoA還元酵素の過剰発現
コレステロールの生合成の医学的重要性、およびS.セレビシエの解析の実験的容易さから、S.セレビシエは過去数十年間、メバロン酸経路の調節の研究のための理想的な生物となっている(Szkopinska et al. (2000) Biochemical and Biophysical Research Communications, 267(1): 473-477;Dimster-Denk et al. (1999) J. Lipids Res., 40(5): 850-860)。
【0120】
これらの研究では、同経路の主要調節制御点として3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A還元酵素(HMGR)による複雑な調節系が詳細に調べられた。酵母にはHMGRの2種類のアイソザイムHmg1pおよびHmg2pが存在し、Hmg1pの方が安定である(Hampton et al. (1996) Trends in Biochemical Sciences, 21(4): 140-145)。Hmg1pは、タンパク質のER膜への係留に関与するN末端領域を含む膜結合型タンパク質である(Liscum et al. (1985) J. Biol. Chem. 260(1): 522-530)。可溶型酵素の発現(Donald et al. (1997) Appl. Environ. Microbiol. 63(9): 3341-44)に関しては、Hmg1pの膜結合型のN末端を除去して、触媒ドメインのみを発現させた。発明者らの研究では、2-ミクロンプラスミド上のこの短縮型HMGR (tHMGR)をGAL1プロモーターの制御下で発現させた。ADSとともに発現時には、S.セレビシエは4日後に11.2μgアモルファジエン/mLの最大生産に達した(図3A)。
【0121】
ステロール関連転写因子の過剰発現
アモルファジエンを増やす別のアプローチでは、ステロール生合成の調節に重要な役割を果すことが確認済みのS.セレビシエの2種類の転写因子を使用した。S.セレビシエ変異体upc2-1は当初、有酸素条件でステロールを取り込むという独特な能力によって同定された(Lewis et al. (1988) Yeast, 4(2): 93-106)。後の解析の結果、このような変異体では、ステロール合成能力が昂進していることが判明した(Lewis et al. (1988) Yeast, 4(2): 93-106)。こうした特徴に関与する変異は、UPC2遺伝子中の1残基のグアニン→アデニン移行であり;この点変異は、カルボキシ末端近傍のアミノ酸888位におけるグリシンからアスパラギン酸への残基変化を生じる(Crowley et al. (1998) J. Bacteriol., 180(16): 4177-83)。同遺伝子のホモログであるECM22は後に、アミノ酸配列の同一性が45%であることがわかった(Shianna et al. (2001) J. Bacteriol., 183(3): 830-834)。UPC2とECM22間では、upc2-1の点変異の座位において36残基のアミノ酸が完全に保存されている(Shianna et al. (2001) J. Bacteriol., 183(3): 830-834)。upc2-1点変異が野生型のECM22対立遺伝子に導入されて、upc2-1変異体に類似の用語型を有する株が得られている(Shianna et al. (2001) J. Bacteriol., 183(3): 830-834)。
【0122】
VikおよびRineは、ERG2およびERG3が、Ecm22pおよびUpc2pによる遺伝子調節の標的であることを明らかにした。7塩基対のステロール調節エレメントが、これらの転写因子群に必要な結合位置であると同定された。この7塩基対の配列エレメントは、ERG8、ERG12、およびERG13を含む、他の多くのステロール経路遺伝子のプロモーター中に見出されている(Vik et al. (2001) Mol. Cell. Biol., 21(19): 6395-6405)。以上の3つの遺伝子のそれぞれに対応する酵素産物は、FPPの上流におけるイソプレノイド合成に関与する(図1参照)。
【0123】
UPC2およびECM22の変異対立遺伝子とADSの同時発現は、メバロン酸経路の代謝フラックスを高めることでアモルファジエン生産を高めると仮定されていた。UPC2およびECM22のupc2-1変異対立遺伝子をそれぞれ、pRS425ADSを既に有する株で、2-ミクロンプラスミド上のGAL1プロモーターの制御下で発現させた。培養物中における絶対的なアモルファジエン生産は、UPC2およびECM22の発現の増加を、部分的には細胞密度の低下によって、ほんのわずかだけ高めた。しかしながら、細胞密度に対して標準化された生産は、UPC2およびECM22の発現はそれぞれ76%および53%上昇した(図3B)。
【0124】
tHMGRの過剰発現と比較して、アモルファジエン生産のこの比較的小さな増加は、HMGR活性がメバロン酸経路の主要な制限的ボトルネックであるという事実を支持する。ERG8、ERG12、およびERG13の高レベル発現でも、仮にHMGRが基礎発現レベルで留まる場合に、同経路のフラックスを大きく促進する可能性は低い。UPC2およびECM22の過剰発現時に観察された細胞密度の低下は、FPPに至るメバロン酸経路のフラックス増加に起因する可能性は低い。これはむしろ、UPC2およびECM22の制御を受ける1つまたは複数の他の遺伝子の転写調節の望ましくない変化に起因する可能性が高い。
【0125】
tHMGRとupc2-1の同時発現
tHMGRおよびupc2-1の過剰発現はそれぞれ、細胞培養物中におけるアモルファジエンの最終収率を高めた。これらの遺伝子がともに存在するときの過剰発現に由来する相乗効果の可能性を検討するために、発現カセットを、S.セレビシエゲノム中に段階的に組込んだ。組込み型プラスミドの構築にはプラスミドpδ-UB (Lee et al. (1997) Biotechnol Prog., 13(4): 368-373)を使用した。このプラスミドは、URA3マーカーのリサイクルを可能とする再利用可能なURA3 Blasterカセットを含む。加えて、同プラスミドは、約425個がゲノム全体に分散する、(Ty-トランスポゾン部位の長い末端反復配列(LTR)中に存在する)δ-配列に組込まれる(Dujon (1996) Trends in Genetics, 12(7): 263-270)。
【0126】
tHMGRを、pRS425ADSを有する株の染色体に、pδ-HMGRを使用して組込んだ。この株における13.8μgアモルファジエン/mlのアモルファジエン生産レベルは、高コピープラスミド上にtHMGRを含む株EP203と同等であった(図5)。5-FOAを含む培地へのプレーティングによるURA3マーカーのリサイクル後に、プラスミドpδ-UPC2を使用して染色体にupc2-1を組込ませた。tHMGRおよびupc2-1の過剰発現の作用が組み合わされることで、アモルファジエンの生産が16.2μgアモルファジエン/mLに高まった(図5)。tHMGRを併用時のupc2-1の発現は、絶対的なアモルファジエン生産を17%高めたが、この上昇は、upc2-1をADSのみとともに発現させる場合に見られる値と同程度に過ぎない。本発明者らは、HMGRのボトルネックを除くことで、upc2-1の発現による影響が、より大きくなると予想した。アモルファジエン生産の昂進は、FPPを他の代謝産物へと変えることで防ぐことができると考えられた。
【0127】
スクアレンシンターゼの発現抑制
アモルファジエン生産に見られる上昇は、FPPの前駆体プールの拡大を示唆していた。FPPは、ステロール、ドリコール、およびポリプレノール、ならびにプレニル化タンパク質を含むいくつかのS.セレビシエ化合物の合成の中心的存在である。メバロン酸経路のフラックスの昂進は、より高いアモルファジエン生産をもたらすが、他の数種類の酵素も、FPPのプールの拡大をめぐって、最も重要なのはERG9にコードされたスクアレンシンターゼと競合していた。スクアレン合成は、FPPからエルゴステロールに至る過程の分岐点である。HMGRの触媒ドメインを発現し、かつERG9欠失を含む株ではFPPが蓄積することが認められている(Song (2003) Analytical Biochemistry, 317(2): 180-185)。FPPを、ステロール生産から引き離して、アモルファジエンの生産に向かわせるためには、スクアレンシンターゼ活性の低下が有用であると考えられる。しかしながら、ERG9の欠失は、ステロールの外因的供給が無い場合には致死的に作用する。
【0128】
別の戦略では、ERG9の転写が、その天然のプロモーターをメチオニン抑制型プロモーターPMET3と置換することで抑制されている(Cherest et al. (1985) Gene, 34(2-3): 269-281)。Gardnerらは過去に、このようなPMET3-ERG9融合コンストラクトをHMGRの分解シグナルの研究に利用した(Gardner et al. (1999) J. Biol. Chem. 274(44): 31671-31678;Gardner et al. (2001) J. Biol. Chem., 276(12): 8681-8694)。ERG9の天然のプロモーターとMET3プロモーターの置換にGardnerと同じ戦略を利用するために、プラスミドpRS-ERG9を構築した。PMET3-ERG9融合体の有用性は、0〜100μMの細胞外メチオニン濃度の緊密な調節的制御によって強調される(Mao et al. (2002) Current Microbiology, 45(1): 37-40)。高細胞外濃度のメチオニンの存在下では、MET3プロモーターからの発現は極めて低い。本発明者らは、pRS-ERG9をERG9座位に組込むことで、培地へのメチオニン添加を元にスクアレンシンターゼの発現を調節することができた。
【0129】
pRS-ERG9を株EPY209に組込み、アモルファジエンの生産を、0〜1 mMのメチオニンを含む培地を用いて測定した。播種から64時間と87時間の時点を図4に示す。データは、ERG9のわずかな発現(メチオニン濃度は0.5 mMを上回る)が、アモルファジエンの生産を最大化することを示唆している。S.セレビシエ培養物の細胞密度が高まり、および培地中の栄養物質が代謝されるので、メチオニン濃度は低下する可能性が高く、0.1 mMのメチオニンを培地中に添加した培養物では、アモルファジエンの収量が低い理由を説明する。長期間における高細胞外濃度を確実なものとするために、続く実験には1 mMのメチオニン濃度を選択した。
【0130】
tHMGRとupc2-1の組込型コピー、ならびにERG9のメチオニン抑制可能型対立遺伝子を含む株EPY212を成長させ、アモルファジエンの生産を6日間にわたって測定した(図5)。スクアレン中へのFPPの組み入れを制限することは、アモルファジエン生産に大きな影響があり、野生型ERG9対立遺伝子を含む株EPY209を上回る、4倍の61μgのアモルファジエン/mLに濃度が高まった。エルゴステロール生産能力は限定的であったものの、EPY212は最終ODがEPY209の場合に対して約75%に成長した。
【0131】
FPPシンターゼの過剰発現
ERG20にコードされるFPPシンターゼ(FPPS)を、セスキテルペン収量がさらに高まることを期待して、過剰発現の次の標的とした。FPPS活性の6倍の増加は、それぞれドリコールおよびエルゴステロールの80%および32%の増加と相関していた(Szkopinska et al. (2000) Biochemical and Biophysical Research Communications, 267(1): 473-477)。HMGRおよびupc2-1を過剰発現させる研究と同様に、最初にERG20を高コピー数プラスミド上のGAL1プロモーターの下流にクローニングしてpRS-ERG20を得た。このプラスミド上におけるpRS425ADSとERG20の同時発現は実際に、アモルファジエンの絶対的な生産性を60%低下させた。FPPS活性の増加が、エルゴステロールなどの他のFPP由来の生成物の量のみを高めることはあり得る。別の可能性は、FPPSの過剰発現が、HMGR分解の主要シグナルであるFPPの細胞内濃度を高めたということである(Gardner et al. (1999) J. Biol. Chem. 274(44): 31671-31678)。脱調節型の還元酵素の過剰発現なしには、FPP濃度の上昇は、メバロン酸経路のフラックスを制限し、かつアモルファジエン生産を低下させるように作用すると考えられる。
【0132】
次にpδ-ERG20を、発明者らの有する最高のアモルファジエン生産株にERG20を組込んで発現させるために構築した。URA3マーカーをリサイクルし、pδ-ERG20を染色体に組込んで株EPY212を得た。FPPSを過剰発現する同株はさらに、アモルファジエンの生産を73μgアモルファジエン/mL (図5)に高めた。本発明者らは当初、ERG20をADSとともに過剰発現する株EPY206で、アモルファジエン生産の60%の低下を認めた。しかしながらtHMGRおよびupc2-1を、調節型スクアレンシンターゼとともに発現する新たな株では、アモルファジエンの生産はERG20の過剰発現によって20%上昇した。
【0133】
それぞれERG20を発現する株EPY206および株EPY212では細胞密度の低下が認められた。細胞の成長の低下は、ERG20pに直接起因する毒性によって説明できるかもしれない。または作用は、FPPシンターゼを介するフラックスの修飾に起因する経路中間体の蓄積または枯渇によって生じる可能性がある。
【0134】
本発明を、本発明の特定の態様を参照して説明したが、当業者であれば、本発明の真の意図および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を加えることが可能であること、および同等物で置き換えることが可能なことを理解すべきである。加えて、本発明の目的、意図、および範囲に対して、特定の状況、材料、組成物、工程、工程段階もしくは複数の過程に適合させるために多くの変更が可能である。このようなあらゆる変更は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のメバロン酸経路の略図である。経路中の中間体の構造、およびさまざまな酵素をコードする遺伝子の名称を示す。
【図2】アモルファジエンシンターゼ(ADS)を発現する生物体における、ステロール生合成経路の一部の略図である。中間体の構造、および経路中のさまざまな酵素をコードする遺伝子の名称を示す。
【図3】アモルファジエンシンターゼ(ADS)(黒菱形);ADSおよび短縮型3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素(tHMGR)(黒丸);ADSおよびupc2-1(黒四角);ならびにADSおよびecm22-1(黒三角)を発現する、培養開始後96時間までのS.セレビシエによるアモルファジエンの生産を示す。データは、総生産を示し(3A)、および細胞密度に関して標準化したものを示す(3B)。データは、平均±標準偏差(n=3)で示す。
【図4】0、0.1、0.3、0.5、および1 mMのメチオニン濃度で成長させたS.セレビシエ株EPY212における、培養開始から64時間後および87時間後におけるアモルファジエンの生産を示す。データは、2つの試料の平均を示す。
【図5】さまざまなS.セレビシエ株による、培養開始後144時間までのアモルファジエンの生産を示す。データは、平均±標準偏差(n=3)で示す。
【図6】短縮型HMGRをコードするヌクレオチド配列を示す。
【図7】短縮型HMGRのアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を提供する遺伝的修飾を含む、メバロン酸経路を介してイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物を生産する、遺伝的に修飾された真核宿主細胞であって、遺伝的修飾が、遺伝的修飾を含まない対照細胞におけるイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物のレベルより少なくとも約50%高いレベルでイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産を提供する、遺伝的に修飾された真核宿主細胞:
a)メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の活性レベルの上昇、
b)プレニルトランスフェラーゼの活性レベルの上昇、および
c)スクアレンシンターゼの活性レベルの低下。
【請求項2】
プレニルトランスフェラーゼがファルネシルピロリン酸シンターゼである、請求項1記載の遺伝的に修飾された真核宿主細胞。
【請求項3】
プレニルトランスフェラーゼがゲラニルピロリン酸シンターゼである、請求項1記載の遺伝的に修飾された真核宿主細胞。
【請求項4】
プレニルトランスフェラーゼがゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼである、請求項1記載の遺伝的に修飾された真核宿主細胞。
【請求項5】
遺伝的に修飾された真核宿主細胞が酵母細胞である、請求項1記載の遺伝的に修飾された真核宿主細胞。
【請求項6】
遺伝的に修飾された真核宿主細胞がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項5記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項7】
短縮型のヒドロキシメチルグルタリル補酵素A還元酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾されている、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項8】
野生型Ecm22pと比較して上昇した転写活性化活性を有し、メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の転写レベルが高められるバリアントEcm22p転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾されている、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項9】
ヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aシンターゼ、メバロン酸キナーゼ、およびホスホメバロン酸キナーゼの転写レベルが高められる、請求項8記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項10】
野生型Upc2pと比較して上昇した転写活性化活性を有し、メバロン酸経路の1つもしくは複数の酵素の転写レベルが高められるバリアントUpc2p転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的に修飾されている、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項11】
ヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aシンターゼ、メバロン酸キナーゼ、およびホスホメバロン酸キナーゼの転写レベルが高められる、請求項10記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項12】
異種プロモーターを含む核酸で遺伝的に修飾されており、プロモーターが、ファルネシルピロリン酸シンターゼをコードする内因性のヌクレオチド配列に操作可能に連結された内因性のプロモーターと置換されており、異種プロモーターが、対照宿主細胞と比較してファルネシルピロリン酸シンターゼのレベルの上昇を提供する、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項13】
異種プロモーターがGAL1プロモーターである、請求項12記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項14】
異種プロモーターを含む核酸で遺伝的に修飾されており、プロモーターが、ゲラニルピロリン酸シンターゼをコードする内因性のヌクレオチド配列に操作可能に連結された内因性のプロモーターと置換されており、異種プロモーターが、対照宿主細胞と比較してゲラニルピロリン酸シンターゼのレベルの上昇を提供する、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項15】
異種プロモーターがGAL1プロモーターである、請求項14記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項16】
異種プロモーターを含む核酸で遺伝的に修飾されており、プロモーターが、ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼをコードする内因性のヌクレオチド配列に操作可能に連結された内因性のプロモーターと置換されており、異種プロモーターが、対照宿主細胞と比較してゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼのレベルの上昇を提供する、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項17】
異種プロモーターがGAL1プロモーターである、請求項16記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項18】
異種プロモーターを含む核酸で遺伝的に修飾されており、異種プロモーターが、スクアレンシンターゼをコードする内因性のヌクレオチド配列に操作可能に連結された内因性のプロモーターと置換されており、異種プロモーターが、対照宿主細胞と比較してスクアレンシンターゼのレベルの低下を提供する、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項19】
テルペンシンターゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸でさらに遺伝的に修飾されている、請求項1記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項20】
テルペンシンターゼが、アモルファ-4,11-ジエンシンターゼ(ADS)、ベータ-カリオフィレンシンターゼ、ゲルマクレンAシンターゼ、8-エピセドロールシンターゼ、バレンセンシンターゼ、(+)-デルタ-カジネンシンターゼ、ゲルマクレンCシンターゼ、(E)-ベータ-ファルネセンシンターゼ、カスベン(Casbene)シンターゼ、ベティスピラジエン(vetispiradiene)シンターゼ、5-エピ-アリストロチェンシンターゼ、アリストロチェンシンターゼ、ベータ-カリオフィレン、アルファ-フムレン、(E,E)-アルファ-ファルネセンシンターゼ、(-)-ベータ-ピネンシンターゼ、ガンマ-テルピネンシンターゼ、リモネンシクラーゼ、リナロールシンターゼ、1,8-シネオールシンターゼ、(+)-サビネンシンターゼ、E-アルファ-ビサボレンシンターゼ、(+)-ボルニル二リン酸シンターゼ、レボピマラジエン(levopimaradiene)シンターゼ、アビエタジエン(Abietadiene)シンターゼ、イソピマラジエンシンターゼ、(E)-ガンマ-ビサボレンシンターゼ、タクサジエン(taxadiene)シンターゼ、コパリル(copalyl)ピロリン酸シンターゼ、カウレン(kaurene)シンターゼ、ロンギフォレンシンターゼ、ガンマ-フムレンシンターゼ、デルタ-セリネンシンターゼ、ベータ-フェランドレンシンターゼ、リモネンシンターゼ、ミルセンシンターゼ、テルピノレンシンターゼ、(-)-カンフェンシンターゼ、(+)-3-カレンシンターゼ、syn-コパリル二リン酸シンターゼ、アルファ-テルピネオールシンターゼ、syn-ピマラ-7,15-ジエンシンターゼ、ent-サンダアラコピマラジエン(sandaaracopimaradiene)シンターゼ、ステマー(stemer)-13-エンシンターゼ、E-ベータ-オシメン、S-リナロールシンターゼ、ゲラニオールシンターゼ、ガンマ-テルピネンシンターゼ、リナロールシンターゼ、E-ベータ-オシメンシンターゼ、エピ-セドロールシンターゼ、アルファ-ジンギベレンシンターゼ、ギアジエン(guaiadiene)シンターゼ、カスカリラジエンシンターゼ、シス-ムーロラジエン(muuroladiene)シンターゼ、アフィジコラン(aphidicolan)-16b-オールシンターゼ、エリザベスアトリエン(elizabethatriene)シンターゼ、サンダロールシンターゼ、パチョロールシンターゼ、ジンザノール(Zinzanol)シンターゼ、セドロールシンターゼ、スカレオール(scareol)シンターゼ、コパロール(copalol)シンターゼ、およびマノール(manool)シンターゼから選択される、請求項19記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項21】
テルペンシンターゼがアモルファ-4,11-ジエンシンターゼである、請求項19記載の遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項22】
以下の段階を含む、宿主細胞のメバロン酸経路を介してイソプレノイド前駆体またはイソプレノイドの生産を増強する方法:請求項1記載の遺伝的に修飾された真核宿主細胞を適切な培地で、およびイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物が、遺伝的修飾を含まない対照細胞におけるイソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物のレベルより少なくとも約50%高いレベルで生産される、イソプレノイド化合物またはイソプレノイド前駆体化合物の生産を増強する条件下で培養する段階。
【請求項23】
条件が、誘導型プロモーターを活性化する誘導薬剤の培地への含有を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
イソプレノイド化合物がモノテルペンである、請求項22記載の方法。
【請求項25】
イソプレノイドがポリテルペンである、請求項22記載の方法。
【請求項26】
イソプレノイドがジテルペンである、請求項22記載の方法。
【請求項27】
イソプレノイドがトリテルペンである、請求項22記載の方法。
【請求項28】
イソプレノイドがカロテノイドである、請求項22記載の方法。
【請求項29】
イソプレノイドがセスキテルペンである、請求項22記載の方法。
【請求項30】
セスキテルペンがアモルファジエンである、請求項29記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2008−507974(P2008−507974A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523676(P2007−523676)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/026190
【国際公開番号】WO2006/014837
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】