説明

イソプロパノールの製造方法

【課題】断熱型反応器を用い、アセトンと水素とを直接反応させ、イソプロパノールを製造する方法であって、従来の方法と比べて熱回収が可能となる高い反応温度で高選択的にイソプロパノールを製造するための方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のイソプロパノールの製造方法は、断熱型反応器を用い、酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒の存在下、アセトンと水素とを含む原料を反応器へ供給し、反応器出口の温度が140〜160℃となるように反応を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱型反応器を用い、アセトンと水素の反応によりイソプロパノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスを用いた接触還元によりアセトンを水素化してイソプロパノールを製造する方法は古くから知られた方法である(例えば、特許文献1参照)。工業的には断熱型固定床反応器を用い、水素ガス及びアセトンを反応器上部から供給して液ガス共に下降流とし、かつ触媒層をトリクルベッドの状態にして反応を行うことが好ましい(例えば、特許文献2参照)。またアセトンの水添反応は16.7kcal/molの発熱反応であるため、断熱型反応器を用いる場合は通常、反応器から排出される液状の反応混合物の一部を冷却した後、反応器内へ循環し、反応熱の除熱を行う(例えば、特許文献3参照)。この除熱の際に反応熱を熱回収しユーティリティーとして使用できれば、経済的に有利なプロセスとなるが、熱交換器により水蒸気として熱回収する場合、反応液の温度が140℃以上ないと効率よく熱回収が行えない。従来のラネーニッケル(例えば特許文献4)、Ru担持触媒(例えば特許文献5)といった固体触媒では反応温度が低いため、水蒸気による熱回収は不可能であった。140℃以上の反応例として酸化銅−酸化クロム触媒で行った例(特許文献6)があるが、選択性が低く、クロム毒性の問題もあり、工業的ではない。また、高温で熱回収を行うプロセス案については既に提案されているが(特許文献7)、実施例においても、触媒の種類についての記載は無く、高温での選択性の悪化については全く考慮されていない。
【特許文献1】特開昭62−12729号公報
【特許文献2】特開平2−270829号公報
【特許文献3】特開平3−133941号公報
【特許文献4】特開平3−141235号公報
【特許文献5】特開2000−103751号公報
【特許文献6】特開平3−41038号公報
【特許文献7】特開昭62−77338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者等の知見によれば、断熱型反応器を用いたアセトンと水素からのイソプロパノール製造法において、従来の方法では反応器出口の反応液温度が低いため効率良く熱回収できず、また無理に反応温度を上げれば選択性が低下するなど問題があった。
【0004】
本発明は、断熱型反応器を用い、アセトンと水素とを直接反応させ、イソプロパノールを製造する方法であって、従来の方法と比べて熱回収が可能となる高い反応温度で高選択的にイソプロパノールを製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、断熱型反応器に酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒を充填し、アセトンと水素とを含む原料を反応器に供給し、反応器出口の反応液の温度が140〜160℃となるように反応を行うことで熱回収が可能となり、高選択的にイソプロパノールが製造できる方法を見出した。
【0006】
また、前記固体触媒は、第IIB族元素、IIIA族元素およびVIB族元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含むことも好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイソプロパノールの製造方法によれば、断熱型反応器を用い、アセトンと、水素を出発物質(原料)とし、反応器出口の反応液の温度が140〜160℃となるように反応を行うことで、メタン、エタン、プロパン等(水素化分解物)の生成を抑制しつつ、反応熱を効率よく熱回収することが可能となり、工業上、経済的に有利な方法でイソプロパノールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のイソプロパノールの製造方法は、酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒を充填した断熱型反応器を用い、前記断熱型反応器中で、アセトンと水素とを含む原料を反応器に供給し、イソプロパノールを得て、前記断熱型反応器から、気液分離器により水素ガスと反応液を分離する。反応は発熱反応であるため、反応器出口の反応液は反応器入口温度よりも高い温度となる。この反応液を熱交換器に通すことで、反応熱を水蒸気として熱回収できる。また冷却された反応液の一部は、循環液として、反応器入口へと送られ、残りは精製系へ送られる。すなわち、反応液の一部を前記断熱型反応器に循環することにより反応熱の除熱を行う。前記イソプロパノールを得る際の、反応温度は100〜160℃の範囲で実施される。より詳細には、本発明に用いる断熱型反応器の反応器入口付近の温度は100〜155℃の温度を有し、反応器出口付近は140〜160℃の温度を有することが好ましい。本発明において、反応器内は温度勾配を有する。
【0009】
従来の固体触媒でも130℃以下といった低い温度であれば、高いイソプロパノールの選択性を有する。例えば、特開平3−133941号公報実施例のラネーニッケル触媒の場合、130℃以下の反応温度でイソプロパノールの選択率は99.9%近い。イソプロパノールのような汎用の工業製品の場合、0.1%の原単位の差は経済的に大きい。従って、新しいプロセスにおいても当然99.9%程度のイソプロパノールの高い選択性が要求される。
【0010】
またアセトンの還元によるイソプロパノールの合成反応は平衡反応であり、低温側ではイソプロパノール側に平衡が傾いているが、約100℃を超えるとイソプロパノールからアセトンへの逆反応が起こる。さらに、温度の上昇と共にアセトンの濃度は増大する(Harry J. Kolb, J. Am. Chem. Soc., 67, 1084(1945))。従って、反応温度を100℃以上で行う場合、反応器の出口以降でアセトンを蒸留等で回収する必要がある。本発明のように反応液を循環して除熱を行うプロセスの場合、循環するイソプロパノールのため、反応器出口液中のアセトン濃度は小さく、またアセトンの沸点はイソプロパノールと比較してかなり低いので、容易に分離可能であり、アセトン回収にかかるエネルギーコストは非常に小さいと考えられる。
【0011】
本発明に用いる触媒は、酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒である。
また、該固体触媒は、第IIB族元素、IIIA族元素、およびVIB族元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含んでいてもよい。なお、このような元素としては、具体的にはCd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Cr、Mo、W、が挙げられる。
【0012】
本発明で用いる酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒は、触媒の元素質量%が、銅30〜50%、亜鉛10〜50%、酸素10〜40%、その他1〜10%であり、触媒活性の理由から、銅含有量が多いほうが好ましい。また、該固体触媒に、金属成分として、Alを含有すると、触媒寿命の延長効果の点でも好適である。
【0013】
また本発明に用いる触媒は、PbSO4、FeCl2やSnCl2などの金属塩、KやN
aなどのアルカリ金属やアルカリ金属塩、BaSO4などを添加すると活性や選択性が向
上する場合が有り、必要に応じて添加されていてもよい。
【0014】
固体触媒の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状のいずれでもよく、またその粒子の大きさも、0.01mm〜100mmの範囲のもので反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0015】
水素は、原理的には、アセトンと等モル以上あればよく、分離回収の点からは、好適な範囲は、アセトンに対して、1〜10倍モル、好ましくは、1〜5倍モルである。アセトンの転化率を100%以下に抑えたい場合は、用いる水素の量を1倍モルから低減させることで対応できる、また本発明の反応において供給する水素はアセトンの当量以上の水素は好ましからざる副反応が進行しない限り、本質的には消費されないことになる。
【0016】
反応へ水素ガスを添加する場合には、通常連続的に供給するが、この方法に特に限定されるものではなく、反応開始時に水素ガスを添加した後反応中供給を停止し、ある一定時間後に再度供給する間欠的な供給でもよいし、液相反応の場合溶媒に水素ガスを溶解させて供給してもかまわない。
【0017】
また、リサイクルプロセスでは軽沸留分とともに塔頂から回収される水素ガスを供給しても良い。添加する水素の圧力は、反応器の圧力と同等であることが一般的であるが、水素の供給方法に応じ適宜変更させればよい。
【0018】
本発明において、アセトンと水素ガスとを接触させる際には、気液向流、気液併流どちらでも良く、また液、ガスの方向として、液下降−ガス上昇、液上昇−ガス下降、液ガス上昇、液ガス下降のいずれでも良い。
【0019】
通常好ましい実施圧力範囲は、0.1〜100気圧であり、更に好ましくは0.5〜50気圧である。また本発明を実施するに際し、使用する触媒量は特に限定されないが、例えば、反応を、固定床流通装置を用いて行う場合、原料の時間あたりの供給量(重量)を触媒の重量で割った値、即ちWHSVで示すと、0.1〜200/hの範囲であることが望ましく、より好ましくは0.2〜100/hの範囲が好適である。
【0020】
本発明を実施するに際して、その方法は固体触媒を用いた連続流通式の方法で実施する。
その際、液相、気相、気−液混合相の、いずれの形態においても実施することが可能である。触媒の充填方式としては、固定床、棚段固定床等の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。ある経過時間において触媒活性が低下する場合に、公知の方法で再生を行い触媒の活性を回復することができる。
【0021】
イソプロパノールの生産量を維持するために、反応器を2つまたは3つ並列に並べ、1つの反応器が再生している間に、残った1つまたは2つの反応器で反応を実施するメリーゴーランド方式をとっても構わない。さらに反応器が3つある場合、他の反応器2つを直列につなぎ、生産量の変動を少なくする方法をとっても良い。また流動床流通反応方式や移動床反応方式で実施する場合には、反応器から連続的または断続的に、一部またはすべての触媒を抜き出し、相当する分を補充することにより一定の活性を維持することが可能である。
【0022】
本発明のイソプロパノールの製造方法は、前記断熱型反応器内で、アセトンと水素とを含む原料を反応させてイソプロパノールを得るが、該得られたイソプロパノールを含む反
応液を気液分離器により分離ガス、分離液を得た後に、前記分離ガス、分離液の一部を熱交換器により除熱し、循環ガス、循環液として、前記断熱型反応器に循環することにより反応熱の除熱を行う。本発明のイソプロパノールの製造方法は、前記循環液を140〜160℃の温度とすることで、熱交換器で除熱する際にエネルギーとして有効な水蒸気として熱回収することを特徴とする。本発明において、イソプロパノールを含む反応液を取り出して、ガスと液に分離する際には、通常気液分離器により行われる。気液分離器は、特に限定は無く、例えば縦型ドラム等が挙げられる。
【0023】
なお、本発明においては、熱交換器を行い、反応液を冷却する。熱交換に用いる熱交換器に関しても特に限定は無く、熱交換可能であればどのようなタイプでも使用できる。例えばスパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、二重管式熱交換器、多管円筒式熱交換器、多重円管式熱交換器、渦巻管式熱交換器、渦巻板式熱交換器、タンクコイル式熱交換器、タンクジャケット式熱交換器、直接接触液液式熱交換器等が用いられる。
【0024】
本反応は発熱反応であり、発生した熱を有効に利用することは省エネルギーの観点からも経済的にも有効である。反応熱の回収は反応ガス、反応液を通常熱交換器に通すことによりスチームとして回収する。
【0025】
また、本発明のクメンの製造方法において、分離液の一部を循環液として、前記断熱型反応器に循環するが、分離液100重量%あたり、通常は5〜95重量%、好ましくは30〜90重量%を循環液として、断熱型反応器に循環する。
【0026】
本発明の製造方法において、断熱型反応器に循環されない分離液は、通常精製され、イソプロパノールが得られる。精製は、蒸留等の公知の方法により行われる。断熱型反応器に循環されない分離液の精製が蒸留によって行われる場合には、例えば図1に示す概略図のように、蒸留塔を用いて精製することができる。この場合には、第一の蒸留塔において、アセトンが除去され、精製されたイソプロパノールを得ることができる。
【実施例】
【0027】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0028】
[実施例1および2、比較例1]
高圧用フィードポンプ、高圧用水素マスフロー、電気炉、触媒充填部分を有する反応器、背圧弁を設置した固定床反応装置を用い、ダウンフローによる加圧液相流通反応を行った。
【0029】
原料のアセトンは試薬(和光純薬工業製、試薬特級品)、また反応はワンパスの反応で行うため、反応液循環を想定して加えるイソプロパノールは試薬(和光純薬工業製、試薬特級品)を用いた。具体的には、内径1cmのSUS316製反応器に酸化銅−酸化亜鉛触媒(SudChemie社製、製品名ShiftMax210、元素質量%Cu:32〜35%、Zn:35〜40%、Al:6〜7%)粉末(250〜500μmへ分級したもの)を1.00g充填した。水素で3MPaまで加圧した後、反応器入口側より10ml/分の水素気流下、200℃で3時間還元処理を行った。放冷後、水素フィード量を7.5ml/分(水素/アセトンモル比=2)に変更し、イソプロパノール/アセトン(8.7/1モル)を5.7g/hでフィードした。電気炉による外部過熱であるため、触媒層の温度分布の無い等温反応における、各反応温度(実施例1:140℃、実施例2:160℃、比較例1:180℃)での結果を表1に示した。酸化銅―酸化亜鉛触媒の場合、反応温度(=反応器出口温度)140〜160℃の範囲でも99.9%以上の高いイソプロパノール選択性を示した。
【0030】
【表1】

[比較例2〜4]
触媒をラネーニッケル(日揮化学製、N154)に変えた以外は上記実施例と同じ条件で反応を行った。各反応温度(=反応器出口温度、比較例2:140℃、比較例3:160℃、比較例4:180℃)での反応結果を表2に示した。ラネーニッケル触媒では副生物が多く生成することがわかった。
【0031】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、アセトンおよび水素からイソプロパノールを製造する反応プロセスの例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱型反応器を用い、酸化銅−酸化亜鉛を含む固体触媒の存在下、アセトンと水素とを含む原料を反応器へ供給し、反応器出口の温度が140〜160℃となるように反応を行うことを特徴とするイソプロパノールの製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒が、第IIB族元素、IIIA族元素およびVIB族元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のイソプロパノールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77055(P2010−77055A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245881(P2008−245881)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】