説明

イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤およびその製造方法

【課題】 血管への導入が可能なサイズを有しかつ比重が小さい、イットリウム含有放射線治療剤、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の放射線治療剤は、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなるイットリウム含有中空微小球からなる。この放射線治療剤は、イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液を、該有機溶剤と不混和性の極性溶媒中に分散させて、界面にゲル膜を形成させる工程;該ゲル膜を沈殿させて回収する工程;該回収したゲル膜を乾燥させる工程;該乾燥させたゲル膜を焼成して中空微小球を得る工程;該中空微小球に熱中性子線を照射する工程を含む方法によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療などの癌治療に用いられ得るイットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を患部に照射する癌の治療方法は、臓器を切除する外科手術による治療方法と比べて、臓器のより早い機能回復が期待できるという利点を有する。特に、放射性材料からなる微小球をカテーテルにより血管を通して患部に送達して、腫瘍に直接放射線を照射する治療方法は、放射線を体外から照射する治療方法と比較して、体表近くの正常な組織を損傷することなく、十分な量の放射線を患部に照射することができる。しかし、このような放射性微小球は、サイズが大きすぎると患部に到達できず、小さすぎると毛細血管から漏出してしまう。
【0003】
例えば、触媒担体などに利用する目的で、酸化イットリウムの中空微粒子が得られている(特許文献1)。この中空微粒子は、イットリウムの金属塩を溶解させた水溶液に有機溶剤を添加してW/O型エマルションを形成し、このエマルションを噴霧・燃焼させることによって得られる。しかし、この微粒子の平均径は50nm〜5μmであるため、上記のような治療目的で使用するには、小さすぎて不適切である。
【0004】
適切なサイズの放射性微小球として、イットリア−アルミナ−シリカ系のガラスの微小球がある(特許文献2)。イットリウムは、熱中性子照射によってβ線放射体となり、その半減期は約64時間である。ガラス中に含有可能なイットリウムの量は、通常は17質量%、最大でも31.5質量%である。通常は、このイットリウム含有微小球は、放射線施設で中性子を照射した後に病院などに輸送して、治療に用いられている。しかし、ガラス微小球中のイットリウム含量は多くないため、輸送期間中に放射能が著しく減少してしまう。
【0005】
そこで、イットリウムを47質量%以上含有する放射性微小球が開発されている(特許文献3)。この微小球は、イットリウムを含む酸化物粉末などの原料を、熱プラズマ中を通過させて溶融させて得られる。しかし、この微小球は、比重が非常に大きいため、カテーテル内に溜まってしまい、所定量を患部に送達することが困難である。さらに、送達された微小球は、その自重により患者の体内を降下し、患部に留まらない。
【0006】
比重を小さくする目的で、多孔性のイットリウム含有微小球を得る方法が開発されている(特許文献4)。この方法では、イットリウムなどの金属を含む溶液中で有機高分子のゲル粒子を形成し、乾燥し、焼成して、多孔性微小球を得る。この方法で得られる多孔性のイットリウム含有微小球は、上記の溶融により得られる微小球よりも比重は小さいが、微小球の内部全体に多孔質の焼成物が詰まっているため、十分に小さい比重が達成されていない。しかも微小球の直径が約0.5mmと比較的大きく、患部への送達に問題がある。
【0007】
上記特許文献4に記載の方法では、イットリウムを含有する場合は中空微小球を得ることができないが、鉄を含有する場合は中空微小球が得られている。これと同様の方法で、リン酸カルシウムの中空微小球が得られている(特許文献5)。しかし、これらの方法で得られる中空微小球は、直径約1mmであるため、血管内を通すには不向きである。
【0008】
中空微小球を製造する一般的な方法としては、上記の特許文献1の方法以外に、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の水溶液に有機溶剤を添加混合してO/W型エマルションとした後、これを親油性界面活性剤含有有機溶剤中に添加してO/W/O型エマルションを作製し、次いで水溶液中で水不溶性の沈殿を生じさせて、中空無機粒子を得る方法が開示されている(特許文献6)。
【0009】
マイクロカプセルとして使用するための重金属中空微小球としては、金属化合物の水溶液に第1および第2の油を混合してエマルションを形成し、このエマルションから水分、次いで油を除去分解して、セラミック中空球を得る方法が開示されている(特許文献7)。この方法によれば、球径が4〜15μmおよび外壁の厚さが0.2〜2μmの酸化ジルコニウムの中空球が得られている。あるいは、触媒担体などに利用する目的のジルコニアバルーンも開発されている(非特許文献1)。この方法によれば、ホルムアミド中にジルコニアアルコキシドベンゼン溶液の液滴を分散させて焼成することによって、平均直径約10μmのジルコニアバルーンが得られている。
【特許文献1】特開2000−203810号公報
【特許文献2】特公平6−62439号公報
【特許文献3】特開2000−258596号公報
【特許文献4】国際公開第2004/093889号パンフレット
【特許文献5】特開2004−275118号公報
【特許文献6】特開昭63−258642号公報
【特許文献7】特開平3−47528号公報
【非特許文献1】川崎兼司および尾崎義治,Journal of the Ceramic Society of Japan,2003年,111巻,8号,587-593頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
イットリウム含有量が高くかつ比重が小さい中空微小球からなる放射線治療剤は存在しない。そこで本発明は、血管への導入が可能な適切なサイズを有し、イットリウム含有量が高くかつ比重が小さい、イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、イットリウム含有量の高い微小球の比重をさらに小さくする目的で、中空微小球の製造について検討し、上記のジルコニアバルーンの製造方法(非特許文献1)と同様の方法でイットリアバルーンの製造を試みた。しかし、この方法ではイットリアバルーンは製造できなかった。そこで、この方法を独自に種々改変することによって、適切なサイズを有する新規なイットリウム含有中空微小球を確実に製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤を提供し、該中空微小球は、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる。
【0013】
本発明はまた、イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤の製造方法を提供し、この方法は、
イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液を、該有機溶剤と不混和性の極性溶媒中に分散させて、界面にゲル膜を形成させる工程;
該ゲル膜を沈殿させて回収する工程;
該回収したゲル膜を乾燥させる工程;
該乾燥させたゲル膜を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程;
を含み、
ここで、該中空微小球は、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる。
【0014】
本発明はさらに、イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤の別の製造方法を提供し、この方法は、
イットリウム塩水溶液に有機溶剤を分散させて、O/W型エマルションを得る工程;
該O/W型エマルションをさらに該有機溶剤中に滴下して分散させて、O/W/O型エマルションを得る工程;
該O/W/O型エマルションに還元剤を加えてゲル状の沈殿物を得る工程;
該沈殿物を乾燥させる工程;
該乾燥させた沈殿物を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程;
を含み、
ここで、該中空微小球は、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比較的短時間にかつ簡単な方法によって製造されたイットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤が提供される。この放射線治療剤は、血管に導入するために適切なサイズおよび比重を有し、そして熱中性子線の照射によって十分な放射能を保持し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤)
本発明の放射線治療剤は、イットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなるイットリウム含有中空微小球からなる。酸化物がYである場合は、イットリウムの含有率は、78質量%以上になり得る。この中空微小球の直径は、約5μm以上および300μm未満であり、そして平均直径は、約10μm〜200μmである。殻は、酸化物結晶の粒子が密集して配列することによって形成されている。殻は、多孔性であってもよい。殻の厚みは、直径に応じて変化するが、0.3μm以上および20μm未満であり、そして平均の厚みは約0.3μm〜3μmである。
【0017】
上記のような中空微小球に含まれる非放射性のイットリウムは、熱中性子線を照射することによってβ線放射体となる。このような放射化された放射性イットリウムを含有する中空微小球は、半減期約64時間でβ線を放射する。したがって、放射線治療に用いられ得る。
【0018】
(放射線治療剤の製造方法)
上記のイットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤は、どのような方法で製造してもよいが、一般的には、以下に詳述する本発明の2つの方法によって製造され得る。
【0019】
(1)第1の製造方法
第1の放射線治療剤の製造方法では、O/W型エマルションの界面に形成されるゲル膜を利用して、イットリウム含有中空微小球を製造する。
【0020】
具体的には、第1の放射線治療剤の製造方法は、
イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液を、該有機溶剤と不混和性の極性溶媒中に分散させて、界面にゲル膜を形成させる工程;
該ゲル膜を沈殿させて回収する工程;
該回収したゲル膜を乾燥させる工程;
該乾燥させたゲル膜を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程を含む。
【0021】
本発明の第1の方法で使用されるイットリウムアルコキシドとしては、特に限定されず、イットリウムメトキシド、イットリウムエトキシド、イットリウムプロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、イットリウムt−ブトキシドなどが挙げられる。有機溶剤への溶解性が良好である点で、イットリウムn−ブトキシドが好ましい。
【0022】
本発明の第1の方法で使用される「有機溶剤」としては、低沸点かつ揮発性の溶媒が好適に用いられ、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンなどが挙げられる。本発明においては、トルエンが最も好ましく用いられる。
【0023】
本発明の第1の方法で使用される「有機溶剤と不混和性の極性溶媒」は、有機溶剤の種類に応じて異なるが、一般的には、ホルムアミドなどが挙げられる。なお、本発明の第1の方法においては、水は用いられない。本発明においては、ホルムアミドが好ましい。ここで使用されるホルムアミドは、吸湿性であるため潜在的に水が含まれて得るが、無水にする必要はない。しかし、ホルムアミドに故意に水を加えることは好ましくない。
【0024】
本発明の第1の方法において、有機溶剤溶液中のイットリウムアルコキシドの濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜3.0M、好ましくは0.4〜1.6Mであり得る。また、イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液に対して、通常10〜100倍容量、好ましくは20〜50倍容量の上記極性溶媒が用いられる。
【0025】
イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液を、ノズルやオリフィスなどを用いて、例えば、攪拌下で極性溶媒中に滴下し、分散させて、それによってO/W型エマルションが得られる。滴下は、通常約1〜10mL/秒の速度にて約5〜60秒間かけて行われる。この操作で用いられる手段としては、当業者が通常用いる滴下・攪拌手段が選択される。例えば、スポイト、インクジェットデバイス、マイクロチャネル乳化装置、ホモジナイザーなどが挙げられる。こうして得られたO/W型エマルションの界面には、ゲル膜が形成されている。
【0026】
O/W型エマルション中のゲル膜は、通常、放置することによって沈殿する。次いで、例えば、デカンテーションによって上清の溶液を捨て、あるいは濾過することによって、沈殿したゲル膜を回収する。必要に応じて、水、アセトンなどで洗浄してもよい。回収したゲル膜は、通常は約10〜50℃で、簡便には室温にて乾燥させる。乾燥の際に、ゲル膜形成に用いた溶媒は、ほぼすべてが揮発または蒸発して、ゲル膜中に残存しない。
【0027】
次いで、乾燥させたゲル膜を焼成する。焼成は、通常約5〜100℃/分の速度で昇温して、1000〜1300℃にて約1〜5時間行われる。焼成後、通常、焼成物を室温まで放冷する。このようにして、上記のようなイットリウム含有中空微小球が得られる。
【0028】
治療などに使用する場合は、このイットリウム含有中空微小球に、熱中性子線を照射する。熱中性子線は、原子炉などの放射線施設内で照射される。イットリウムの半減期は短いので、熱中性子線の照射後、イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤は、直ちに適切な遮蔽容器に入れられて治療施設などに輸送される。
【0029】
(2)第2の製造方法
本発明の放射線治療剤の第2の製造方法では、O/W/O型エマルションの界面に形成されるゲル膜を利用して、イットリウム含有中空微小球を製造する。
【0030】
具体的には、第2のイットリウム含有中空微小球の製造方法は、
イットリウム塩水溶液に有機溶剤を分散させて、O/W型エマルションを得る工程;
該O/W型エマルションをさらに該有機溶剤中に滴下して分散させて、O/W/O型エマルションを得る工程;
該O/W/O型エマルションに還元剤を加えてゲル状の沈殿物を得る工程;
該沈殿物を乾燥させる工程;
該乾燥させた沈殿物を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程を含む。
【0031】
本発明の第2の方法で使用されるイットリウム塩としては、水溶性のイットリウム塩が好ましく、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、臭化イットリウム、硫酸イットリウムなどが挙げられる。水への溶解性が良好である点で、硝酸イットリウムおよび塩化イットリウムが好ましい。
【0032】
本発明の第2の方法で使用される「有機溶剤」としては、上記第1の方法と同様に、低沸点かつ揮発性の溶媒が好適に用いられ、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、プロピルエーテル、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用される。本発明においては、トルエンが最も好ましく用いられる。
【0033】
O/W型エマルションを確実に形成させるために、上記有機溶剤は、界面活性剤を含むことが好ましい。使用する界面活性剤の種類は特に限定されず、当業者が通常用いる界面活性剤が使用される。界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレートなど)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなど)、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなど)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類(ポリオキシエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなど)、グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリドなど)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類(例えば、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットなど)が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用される。使用する界面活性剤の量は特に限定されないが、有機溶剤の10質量%以下、より好ましくは0.01〜3質量%である。
【0034】
本発明の第2の方法において、イットリウム塩水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜3.0Mであり得る。また、イットリウム塩水溶液に対して、通常1/10〜1/1000倍容量、好ましくは1/50〜1/200倍容量の上記有機溶剤を、ノズルやオリフィスなどを用いて滴下し、分散させて、それによってO/W型エマルションが得られる。滴下は、通常約0.1〜10mL/秒の速度にて約5〜60秒間かけて行われる。この操作で用いられる手段としては、当業者が通常用いる手段、例えば、インクジェットデバイス、マイクロチャネル乳化装置、ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0035】
次いで、得られたO/W型エマルションを、さらに最初に滴下したと同じ有機溶剤中に滴下して分散させて、O/W/O型エマルションを得る。この工程においても、有機溶剤中に界面活性剤を含むことが好ましい。O/W型エマルションは、通常10〜1000倍容量、好ましくは20〜200倍容量の有機溶剤中に、上記と同様に滴下される。
【0036】
次いで、得られたO/W/O型エマルションに、還元剤を加える。ここで用いられる還元剤としては、アミン類(例えば、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン)などが挙げられる。還元剤は徐々に加えられ、その添加量は適宜決定され、通常はゲル状の沈殿が生じる程度である。
【0037】
生成したゲル状の沈殿物を、上記の第1の方法と同様に回収し、次いで焼成することによって、イットリウム含有中空微小球が得られる。この微小球は、上記の第1の方法と同様に、さらに熱中性子線が照射されて、放射線治療剤となる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
0.5Mイットリウムn−ブトキシドのトルエン溶液(シグマ・アルドリッチ社製)を調製した。ホルムアミド75mLをビーカーに入れ、回転速度を8,000rpmに設定したホモジナイザーで攪拌した。このホルムアミドに、イットリウムn−ブトキシドのトルエン溶液を0.3mL/秒の速度で10秒かけてスポイトを用いて滴下した。さらに1分間攪拌した後、12時間放置し、デカンテーションによって上清のホルムアミドを除去し、回収した沈殿物を200mLの水で2回、次いで100mLのアセトンで2回洗浄した。得られた沈殿物を室温で乾燥させ、さらに5℃/分の速度で昇温して1000℃にて焼成した後、室温まで放冷した。
【0039】
得られた焼成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。写真からわかるように、直径10μmから20μm程度、および殻の厚さが0.5μm程度の中空の微小球が形成されていることが観察された。この微小球について、粉末X線回折分析(XRD)を行ったところ、立方晶酸化イットリウムのピークのみが認められた。この微小球中のイットリウム含量は78質量%であった。
【0040】
(比較例1)
非特許文献1に記載のジルコニアバルーンの製法に準じて、イットリウムバルーンの製造を試みた。0.5Mイットリウムn−ブトキシドのトルエン溶液(シグマ・アルドリッチ社製)を調製した。ホルムアミド75mLをビーカーに入れ、回転速度を8,000rpmに設定したホモジナイザーで攪拌した。このホルムアミドに、イットリウムn−ブトキシドのトルエン溶液を0.3mL/秒の速度で10秒かけてスポイトを用いて滴下した。さらに1分間攪拌した後、水10mLを加えて、さらに1分間攪拌した。12時間放置し、デカンテーションによって上清のホルムアミドを除去し、回収した沈殿物を200mLの水で2回、次いで100mLのアセトンで2回洗浄した。得られた沈殿物を室温で乾燥させ、さらに5℃/分の速度で昇温して1000℃にて焼成した後、室温まで放冷した。
【0041】
得られた焼成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。写真からわかるように、球状粒子はほとんど得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により提供される放射線治療剤は、血管への導入に適切なサイズおよび比重を有する。また、この放射線治療剤は、熱中性子線の照射によって、十分な量の放射能を有するため、例えば、カテーテルにより血管を通して患部に送達して、腫瘍に直接放射線を照射することによる、癌の治療方法に適切に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の方法によって得られた焼成物(イットリウム含有微小球)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】ジルコニアバルーンの製造方法に準じて得られた焼成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム含有中空微小球からなる放射線治療剤であって、該中空微小球が、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる、放射線治療剤。
【請求項2】
放射線治療剤の製造方法であって、
イットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液を、該有機溶剤と不混和性の極性溶媒中に分散させて、界面にゲル膜を形成させる工程;
該ゲル膜を沈殿させて回収する工程;
該回収したゲル膜を乾燥させる工程;
該乾燥させたゲル膜を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程;
を含み、
該中空微小球が、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる、
方法。
【請求項3】
放射線治療剤の製造方法であって、
イットリウム塩水溶液に有機溶剤を分散させて、O/W型エマルションを得る工程;
該O/W型エマルションをさらに該有機溶剤中に滴下して分散させて、O/W/O型エマルションを得る工程;
該O/W/O型エマルションに還元剤を加えてゲル状の沈殿物を得る工程;
該沈殿物を乾燥させる工程;
該乾燥させた沈殿物を焼成して中空微小球を得る工程;および
該中空微小球に熱中性子線を照射する工程;
を含み、
該中空微小球が、直径5μm以上および300μm未満であり、殻の厚みが0.3μm以上および20μm未満であり、そしてイットリウムを47質量%以上含有する酸化物結晶でなる、
方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−199603(P2006−199603A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11059(P2005−11059)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(597067404)クラスターテクノロジー株式会社 (17)
【出願人】(591227516)
【Fターム(参考)】