説明

イネのトランスポゾン遺伝子

【課題】イネの非自立的トランスポゾン遺伝子、自立的トランスポゾン遺伝子及びトランスポゼース遺伝子、並びにトランスポゾン遺伝子を転移させる方法及びこの転移により形質転換した植物の提供。
【解決手段】データベース登録のイネゲノム塩基配列を解析し、一番染色体上に存在する反復配列(LTR)の特定の配列に、トランスポゾンに特徴的な逆向き反復を検出すること。また検出したトランスポゾン遺伝子を含有するプラスミドを使用して、イネの形質転換体を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イネの自立的トランスポゾン遺伝子及びトランスポゼース遺伝子、並びにトランスポゾン遺伝子を転移させる方法及びこの転移により形質転換した植物に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ(Oryza sativa)のゲノムの機能解析の一手段として遺伝子破壊法が用いられている。イネの遺伝子破壊には、アクチベーター因子のトランスポゼース(転移酵素)遺伝子を導入した固体と分離因子を導入した固体とを交配させて、分離因子を活性化させる方法、T−DNAを用いる方法、レトロトランスポゾンによる方法等が知られているが、イネの自然突然変異体を解析しても、活性のあるトランスポゾンの存在は知られていなかった(非特許文献1)。
一方、ゲノムプロジェクトによりイネをはじめとして多くの植物の遺伝子の塩基配列が明らかにされつつあり、それらの結果は逐次データベース化されている。さらに動植物における動く遺伝子としてトランスポゾン遺伝子はある程度特有の塩基配列を有しているため、その情報を基にトランスポゾンの可能性を有する遺伝子の研究がなされているが、未だに十分な解明がなされていない。
なお、イネをγ線照射することにより誘発された突然変異体からトランスポゾンと考えられる配列が見出されている(非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ14「植物のゲノム研究プロトコール」2000年2月(秀潤社)
【非特許文献2】中崎鉄也ら「易変性細粒遺伝子slg座領域におけるトランスポゾン様配列の挿入多型性」、日本育種学会第100回秋季大会、2001年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、イネゲノム塩基配列を調べていたところ、トランスポゾンに特徴的な逆向き反復配列を発見し、トランスポゾンと目される配列に関し幾多の試験を行ったところ、これがトランスポゾン(非自立的トランスポゾン)であることの確証を得た。
更に、本発明者は、この非自立的トランスポゾン遺伝子を基に、自立的トランスポゾン遺伝子を見出し、更に、その遺伝子を転移させるトランスポゼース遺伝子を特定した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、順次データベースに登録されるイネゲノム塩基配列をもとに、1番染色体より、反復配列(LTR)を調べていた。表1に示すアクセッションナンバーAP002843 のクローンにおいて、LTRに注目し、この領域について、詳細に解析していたところ、LTRの直後の144459-144473及び144874-144888の場所に、トランスポゾンに特徴的な逆向き反復配列を発見した(図1、配列番号6)。後述の実施例にて明らかにされるが、この反復配列に挟まれた配列(配列番号1)は、葯培養等の人為的操作により顕著に可動性を示す非自立的トランスポゾンであることがわかった。
【0006】
【表1】

【0007】
次に、この非自立的トランスポゾン(配列番号1)をQuery(ホモロジー探索用DNA)として用いてBLAST法によりホモロジー検索を行った。検索結果の多くは、この非自立的トランスポゾン(配列番号1)そのものであったが、その他にトランスポゾンと期待されるアクセッションナンバーAP004236とAP003968が見出された。これらAP004236とAP003968とを比較したところ、共に第6染色体上のクローンであり、重複した同じ領域の配列であった。
そのため、非自立的トランスポゾン(配列番号1)の1-253とAP004236の89360-89612の間では、相同性は252/253(99%)であり、非自立的トランスポゾン(配列番号1)の254-430とAP004236の94524-94700の間では、相同性は177/177(100%)と保存されていた。
この非自立的トランスポゾン(配列番号1、430bp)とこのトランスポゾン(配列番号2、5341bp)は、共に、15bpの逆向き反復配列を有し、TTA又はTAAを認識して挿入されている。
配列番号2(5341bp)の配列をもとにOpen Reading Frame(ORF)を探したところ、2種類の推測される ORFIとORFII が検索された。
配列番号2で表される塩基配列を有するトランスポゾン遺伝子の構造を図9上に示す。非自立的トランスポゾン(配列番号1、430bp)は、1-253及び5165-5341、ORFIは1526-1914及び1939-2663、ORFIIは3190-4557にそれぞれ位置していた。
更に、配列番号2で表される塩基配列と類似した遺伝子を単離するために配列番号2をQuery(ホモロジー検索用DNA)としてBLAST法によりホモロジー検索をしたところ、配列番号2で表される塩基配列以外にアクセッションナンバーAP004753(第2染色体)とAP003714(第6染色体)が見い出された。この2種類のクローンは同じ配列(配列番号3)であり、異なる染色体に座上していた(数コピー存在)。インディカ型にも存在することから、日本型からインディカ型まで、多くの品種に保持されている遺伝子である。この配列番号3(5166bp)で表される塩基配列は、配列番号2で表される塩基配列と同じように、逆向き反復を有し、TAA(3bp)を認識して挿入されていた。
【0008】
配列番号3の配列をもとにOpen Reading Frame(ORF)を探したところ、ORF IとORF IIが検索され2種類のタンパク質をコードしていると考えられた。
配列番号3で表される塩基配列を有するトランスポゾン遺伝子の構造を図9下に示す。非自立的トランスポゾン(配列番号1、430bp)は、1-170及び5092-5166に位置しているが、非自立的トランスポゾン(配列番号1、430bp)との一致が途中からなくなっている。またORFIは1630-2652、ORFIIは2959-4407にそれぞれ位置していた。
配列番号3で表される塩基配列をジャポニカ(AP004753及びAP003714)とインディカ(Scaffold6962)で比較してみると、図10で示すように、90%以上の相同性が確認された。なお、非自立的トランスポゾン(配列番号1、430bp)のインディカにおける変異頻度を調べてみると、図11で示すように、95%以上の相同性が確認された。
配列番号2及び3のORF Iは、いまのところ機能の類推には至っていない。
次に、ORF IIがトランスポゼース(転移酵素)をコードしているか否かを明らかにするため、ORF IIのアミノ酸配列について、既知のトランスポゼースの保存領域の有無を調べた。配列番号2のORF IIと配列番号3のORF IIのアミノ酸配列を配列番号4と配列番号5に示す。これら2つのORF IIのアミノ酸配列の比較を図12に示すが、それらの間の相同性は75%以上(77%)と非常に高かった。これら2種のアミノ酸配列は、共にDXG/AF/F motifとYREK motifを有するため(Q. H. Le, K. Turcotte and T. Bureau, Genetics 158: 1081-1088 (2001))、IS transposase familyに属すると結論される。
また、配列番号2のORF IIの塩基配列と、配列番号3のORF IIの塩基配列との相同性は75%以上(79.3%)であった。
【0009】
本発明の非自立的トランスポゾンは、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の両端の15bpと同一の両端を有し、かつ配列番号1で表される塩基配列に少なくとも95%相同の塩基配列から成るイネのトランスポゾン遺伝子である。このトランスポゾン遺伝子は、葯培養又は薬剤で処理することにより転移する。また、このトランスポゾン遺伝子は、エンハンサー又はプロモーターがその内部に挿入されてもよい。
本発明は、配列番号2又は配列番号3で表される塩基配列に少なくとも90%相同のDNAから成るイネのトランスポゾン遺伝子である。配列番号2又は配列番号3で表される塩基配列に少なくとも90%相同のDNAは、葯培養又は薬剤で処理することにより転移する自立的トランスポゾンとしての機能を有する遺伝子であると考えられる。
また、本発明は、配列番号2の3190位〜4557位の塩基配列又は配列番号3の2959位〜4407位の塩基配列に少なくとも75%相同のDNAから成るイネのトランスポゼース遺伝子である。これらの塩基配列に少なくとも75%相同のDNAは、上記のトランスポゾン遺伝子を転移させる機能を有する遺伝子であると考えられる。
また、本発明は、配列番号4若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質から成るトランスポゼースである。また、このトランスポゼースは、配列番号4又は配列番号5で表されるアミノ酸配列に少なくとも75%相同のアミノ酸配列を有するイネのトランスポゾン遺伝子であるといえる。
更に、本発明は、このタンパク質をコードするトランスポゼース遺伝子である。
【0010】
本発明は、また、プロモーター及び上記に記載のいずれかのトランスポゼース遺伝子を含有するプラスミドである。ここで用いることのできるプラスミドとして、Tiプラスミド、pBI−121プラスミド等のバイナリーベクターが挙げられる。ここで用いることのできるプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウィルスの 35Sプロモーター・熱ショックプロモーター・化学物質誘導性プロモーター等が挙げられる。またプロモータ及び上記遺伝子の結合方法に特に制限は無く、通常の遺伝子工学的手法に従って適宜行えばよい。
また、本発明は、上記のいずれかのトランスポゾン遺伝子が導入された形質転換体である。この宿主は植物であることが好ましく、宿主としては、イネ、オオムギ、コムギ又はトウモロコシが好ましい。このような植物を形質転換するには、通常の遺伝子工学的手法を用いて、この遺伝子を上記プラスミドに挿入し、この植物を形質転換すればよい。
更に、本発明は、プロモーター及び上記トランスポゼース遺伝子が導入された形質転換体である。これらの他に必要に応じてトランスポゾン遺伝子を導入してもよい。プロモーターとしては上記のものを用いることができる。この宿主は植物であることが好ましく、宿主としては、オオムギ、コムギ又はトウモロコシが好ましい。このような植物を形質転換するには、通常の遺伝子工学的手法を用いて、この遺伝子を上記プラスミドに挿入し、この植物を形質転換すればよい。
本発明はまた、上記のいずれかの形質転換体を葯培養又は薬剤で処理することにより、上記のいずれかのトランスポゾン遺伝子を転移させる方法である。
更に、本発明は、上記のいずれかの方法により、前記トランスポゾン遺伝子が転移して形質転換した植物又はその種である。この植物としてイネ、又はイネの近隣種であるオオムギ、コムギ若しくはトウモロコシが好ましい。
【0011】
また本発明は、上記のいずれかのトランスポゾン遺伝子を転移させる方法により上記のいずれかのトランスポゾン遺伝子を移転させる段階、前段階で得た植物からDNAを抽出する段階、該DNAをトランスポゾン遺伝子内にカッティングサイトのない制限酵素で消化する段階、前段階で得たDNA断片をライゲーションする段階、前段階で得たDNA断片をPCRを行う段階、得られたPCR産物の塩基配列を決定する段階から成る、トランスポゾン遺伝子の挿入領域を特定する方法であって、このPCRを行うために用いるプライマーとして、配列番号1で表される塩基配列の5’末端から少なくとも10塩基、好ましくは10〜20塩基、より好ましくは10〜15塩基のオリゴヌクレオチド及び配列番号1で表される塩基配列の3’末端から少なくとも10塩基、好ましくは10〜20塩基、より好ましくは10〜15塩基のオリゴヌクレオチド又はこれらに相補的なオリゴヌクレオチドを用いる方法である。このプライマーは、このオリゴヌクレオチドの塩基数が15塩基以下の場合には、塩基配列の5’末端から10〜15塩基のオリゴヌクレオチドは、配列番号1で表される塩基配列の3’末端から10〜15塩基を兼ねることができるので、一種類とすることができる。即ち、この場合には、PCRを行うために用いるプライマーとして、配列番号1で表される塩基配列の5’末端から10〜15塩基のオリゴヌクレオチド又はこれに相補的なオリゴヌクレオチドを用いればよい。このようにしてトランスポゾン遺伝子の挿入領域を特定することができれば、トランスポゾン遺伝子の挿入により破壊された遺伝子を知ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来イネにおいて可動性を示すトランスポゾン遺伝子は知られていなかったが、可動性を示すイネのトランスポゾン遺伝子を始めて明らかにした。更に、発明者は、葯培養等の簡単な手段によって、非自立的トランスポゾン遺伝子が転移することを確認した。即ち、人為的に非自立的トランスポゾン遺伝子を転移させる手段を提供することに成功した。
また実施例において、葯培養等の人為的操作により、非自立的トランスポゾン遺伝子が欠失することを明らかにし、更に、非自立的トランスポゾン遺伝子が挿入された遺伝子座を直接確認した。このように人為的に転移させることのできるトランスポゾン遺伝子を見出すことができたため、人為的にトランスポゾンタギング系統をイネで初めて作出することに成功した。
更に、本発明は、イネの自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2及び3)を明らかにし、更に、これらに含まれるトランスポゼース遺伝子を明らかにした。発明者は、このような自立的トランスポゾン遺伝子を導入したイネにおいて、葯培養や薬物投与という簡単な手段によって、このトランスポゾン遺伝子が転移することを確認した。即ち、本発明は、この自立的トランスポゾン遺伝子やトランスポゼース遺伝子を、イネその他の植物に導入して、これら人為的操作を施すことにより、これら植物を容易に人為的に形質転換する手段を提供する。
【0013】
本発明の自立的トランスポゾンの利用法として、これを変異源として利用し、イネやその他の植物において、トランスポゾンタグ系統を作出することができる。
本発明を利用して、ランダムに本トランスポゾンを転移させた系統を数万系統をつくり出すことができる。自然界で生育した植物での転移は非常に稀であるため、植物組織培養により誘導した葯由来カルスや5-アザシチジン処理した種子由来カルスなどにより高頻度に転移を誘発する。イネ以外の植物においても形質転換法により本発明の自立的トランスポゾンを導入すれば、同様に転移を誘発することが可能である。このようにして得た変異体は、遺伝学的解析法や逆遺伝学的解析法により解析することができる。
この遺伝学的解析法とは、変異体の表現型からその原因遺伝子を単離する方法であり、本トランスポゾンと変異体の表現型がリンクしていれば、このタグ(トランスポゾン)を利用して、容易に原因遺伝子の単離を行える。たとえば、塩に強いイネを探したければ、トランスポゾンタグ系統の種子から培養したイネの耐塩性を調べて、所望のイネを選べばよい。
また、逆遺伝学的解析法とは、遺伝子からその遺伝子の機能が失われた変異体を単離する方法である。多数の変異体よりDNAを抽出し、プールを作る。トランスポゾンタグ系統のDNAを購入し、その中から、目的の遺伝子にトランスポゾンが挿入した変異体をPCR法により釣りあげることができる。
さらに、近年のゲノムプロジェクトにより、網羅的な解析として、イネの全遺伝子に対応した、変異体を作出し、トランスポゾンの挿入位置をデーターベース化することもできる。利用者は、目的にあわせてデーターベースを検索してヒットした変異体の種子をオーダーすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
全長430bpのイネの非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)は15bpのターミナルインバーテッドリピートを有し、215bp(CT)より対称構造をしている。
次に、2種類のトランスポゾン遺伝子(配列番号2及び3)は、共にトランスポゼース(配列番号4及び5)をコードしており、自立的トランスポゾンである。
自立的トランスポゾンとは、トランスポゼースをコードしているのが特徴であり、自ら可動でき、非自立的トランスポゾンの転移を誘発するものである。一方、非自立的トランスポゾンとは、このトランスポゼースが欠失したものであり、自ら可動できず、可動には自立的トランスポゾンの助けが必要である。構造上、自立的トランスポゾンと非自立的トランスポゾンを比較すると、欠失した以外の領域では相同性が保存されているのが特徴である。
【0015】
本発明のトランスポゾンを有する植物、本発明のトランスポゾンで形質転換された植物、また本発明のトランスポゼース遺伝子を有する植物、又は本発明のトランスポゼース遺伝子で形質転換された植物は、放射線照射、薬剤による処理、又は葯培養等によって活性化させることにより、本発明のトランスポゾンを移転させることができる。このような手段によってトランスポゾンが顕著に活性化するため、容易に人工的なトランスポゾンの転移が起こる。
【0016】
薬剤による処理は、イネ等の植物の種子、葉、根、茎若しくは腋芽、又はそれに由来のカルスを薬剤で処理して行う。薬剤、例えば、5−アザシチジン又は5−アザデオキシシチジン、による処理を行うためには、これら薬剤を0.01〜5mM、好ましくは0.05〜2mM含んだ固体又は液体培地に、これら植物のカルスを移植して行うのが一般である。このカルスとは、根、葉、茎などの植物器官をオーキシンやサイトカイニンを適当量添加した培地で、組織培養することにより、分化している植物器官より脱分化して形成された細胞塊をいう。この細胞塊は未分化で、分化全能性を持つ。分化全能性とは、芽、根などの新たな器官に再分化する能力であり、例えば、カルスを介することで1枚の葉から、数百のクローン植物体を得ることが可能である。
また、葯培養は、半数体育種法の一種であり、イネのおしべの先端にある葯を取り出して、オーキシン等のホルモンを主体とし、コルシチン等の倍数処理剤等を添加した培地で培養する。葯は遺伝子を一組しか有さない半数体であるが、半数体は倍化しやすいため、容易に純系を得ることができる。イネの葯由来カルスは、培養期間が長くなると、自然に倍化し半数体倍化系統になる。このカルスを再分化培養すれば、変異植物体であるホモ型の種子が得られる。この再分化培地としては、サイトカイニン等のホルモンを主体とした培地を用いる。
【0017】
また、トランスポゾンの配列中の適当な2つの配列をプライマーとして用いてPCR法により作製したプローブを用いれば、転移したトランスポゾンが挿入されることにより破壊された遺伝子を特定することができる。このように形質転換されたイネの変異体とその遺伝子との相関を解明することにより、その遺伝子の機能を知ることができる。
トランスポゾンタグ系統より破壊された遺伝子を簡便に同定することは、もっとも重要な課題である。トランスポゾン挿入位置の調べるには、トランスポゾディスプレーなどさまざまな手法があるがそれぞれ煩雑な操作が必要である。そこで本発明者は、inverse PCR法を用いた簡便な方法を確立した。この際、トランスポゾン内に設計したPCRプライマーが成功の鍵を握る。植物体などよりゲノムDNAを抽出後、トランスポゾン内にカッティングサイトのない制限酵素(本実験ではAluIを使用)で消化し、ライゲースで(セルフ)ライゲーションを行う。これをテンプレートとし、配列番号1で表される塩基配列の5’末端から少なくとも10塩基のオリゴヌクレオチド及び配列番号1で表される塩基配列の3’末端から少なくとも10塩基のオリゴヌクレオチド又はこれらに相補的なオリゴヌクレオチド、特にターミナルインバーテットリピート領域(配列番号1で表される塩基配列の5’末端から15塩基、及び3’末端から15塩基の領域)に作成したPCRプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物の塩基配列を決定し、トランスポゾンの挿入位置を知ることができる。
【0018】
非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)の利用法の一つとして、この非自立的トランスポゾン遺伝子の内部にエンハンサー又はプロモーターを挿入し、これらを非自立的トランスポゾンと共に転移させることができる。即ち、エンハンサーやプロモーター等が挿入された遺伝子をイネその他の植物に導入して、葯培養や薬剤処理することにより、この遺伝子の転移を誘発すれば、この遺伝子の転移先の近傍にある別の遺伝子を積極的に発現させることが可能になり、その結果、効率よくgain of function の変異体を作出することができる。このプロモーターとして、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどを用いることができ、またエンハンサーとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター中のエンハンサー領域(-90〜-440)を4つタンデムにつないだものなど、を挙げることができる。エンハンサーの挿入箇所は、配列番号1の遺伝子内のインバーテットリピート領域を除いた場所であれば、特に制限はない。またプロモーターの挿入箇所は、配列番号1の遺伝子内のインバーテットリピート領域を除いた場所でメチオニンが下流になければ、特に制限はない。これらは、共にトランスポゾンの転移に支障がなければ、配列番号1の250bp付近に挿入することが好ましい。エンハンサーやプロモーター等の挿入方法は、配列番号1の塩基配列を二分するような制限酵素サイトもしくは、PCR法を用いてその中にクローニングサイトを作成して、挿入することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
参考例1
イネ品種、日本晴の成葉からDNAを抽出した(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)。トランスポゾンDNAの両端にある逆向き反復配列間の領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号7のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。PCRには、GeneAmp9600システム(ABI社)を使用して行った。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa Ex Taq(TaKaRa社)、10μl 10×Ex Taq バッファー、8μl dNTP Mixture(2.5 mM each)、200pmol プライマーが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、1% SeaKem GTG アガロース(FMC社)で分画した。増幅された約450bpのDNA断片をゲルから回収し、TAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII-TOPOにサブクローニングした。得られたクローンの塩基配列を310DNAシーケンサー(ABI社)を用いて決定した。決定された塩基配列は430bpから成る配列番号1に示すものであった。
【0020】
参考例2
4種のイネ品種(日本晴、コシヒカリ、ひとめぼれ、及びヤマホウシ)の成葉からDNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP002843)をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号8と配列番号9のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units AmpliTaq Gold(ABI社)、10μl GeneAmp 10×PCR バッファー(contains 15 mM MgCl2)、10μl Gene Amp Mixture(2 mM each dNTP)、200pmol プライマーが含まれる。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、2% LO3 アガロース(TaKaRa社)で分画した。図2にこのアガロースゲル電気泳動を示す。日本晴においてのみ、約850bp のバンドが得られた。約850bpのバンドは参考例1で示した配列番号1のトランスポゾン遺伝子(430bp)が挿入されている断片である。一方、コシヒカリ、ひとめぼれ、及びヤマホウシでは、約420bp のバンドが得られ、トランスポゾン遺伝子が挿入されていない断片であった。このような品種間で日本晴にのみ特異的であるということは、この遺伝子がトランスポゾンとしての機能を有する可能性を示唆している。
【0021】
参考比較例1
日本晴の種子を、3%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15〜30分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、9個の種子を20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-ジクロル−フェノキシ酢酸(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g プロリン(WAKO)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。誘導培養10日目に、誘導された種子由来カルスは、20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-ジクロル−フェノキシ酢酸(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g プロリン(WAKO)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目の種子由来カルスよりDNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、参考例2と同様にPCRプライマーとして配列番号8と配列番号9のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units AmpliTaq Gold(ABI社)、10μl GeneAmp 10×PCR バッファー(contains 15 mM MgCl2)、10μl Gene Amp Mixture(2 mM each dNTP)、200pmol プライマーが含まれる。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、2% LO3 アガロース(TaKaRa社)で分画した。図3にこのアガロースゲル電気泳動を示す。約850bpの1本のバンドのみが得られた。約850bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子が挿入されたままのサイズである。期待されたトランスポゾン遺伝子が欠失したバンドのサイズである約420bpのバンドは得られなかった。約420bpのバンドの得られる確率は64カルス中0カルス(0%)であった。これにより、種子(胚盤)由来カルスにおいてトランスポゾン遺伝子は動いていないことが認められた。
【0022】
参考例3
日本晴の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から葯を摘出し、50個の葯を3ml液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-ジクロル−フェノキシ酢酸(siguma社)、30g スクロース(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目の葯由来カルスよりDNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、参考例2と同様にPCRプライマーとして配列番号8と配列番号9のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units AmpliTaq Gold(ABI社)、10μl GeneAmp 10×PCR バッファー(contains 15 mM MgCl2)、10μl Gene Amp Mixture(2 mM each dNTP)、200pmol プライマーが含まれる。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、2% LO3 アガロース(TaKaRa社)で分画した。図4にこのアガロースゲル電気泳動を示す。図中、約850bp と約420bp の2本のバンドが得られた。約850bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子が挿入されたままのサイズである。一方、約420bp のバンドは、トランスポゾン遺伝子が欠失したことを示す。約420bpのバンドの得られる確率は、64カルス中、11カルス(17.2%)であった。
なお、本実施例においてトランスポゾン遺伝子が欠失したサイズの約420bp のバンドが得られた葯由来カルスのうち、増幅された約420bpのDNA断片(N=5)をゲルから回収し、TAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII-TOPOにサブクローニングした。得られたクローンついて、塩基配列を310 DNAシーケンサー(ABI社)を用いて決定した。これらの塩基配列を比較したところ、トランスポゾン遺伝子配列は見られなかった(その結果はここには示さない。)。これにより、トランスポゾン遺伝子の欠失が塩基配列からも確認された。
参考比較例1においては、胚盤(種子)由来の培養細胞ではトランスポゾン遺伝子の可動性は認められなかったのに対して、本実施例においては、葯由来の培養細胞においてトランスポゾン遺伝子の極めて高頻度の可動性が認められた。
【0023】
参考例4
日本晴の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から、葯を摘出し、50個の葯を3ml 液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-ジクロル−フェノキシ酢酸(siguma社)、30g スクロース(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目に増殖した葯由来カルスは、20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で再分化培養した。1Lの培地中に、4.3gの MS Basal Salt Mixture(Gibcobrl社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、10ml 6-Benzylamino-purine solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2g casamino acids(DIFCO)、30g solbitol(WAKO)30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む個体培地を使用した。再分化培養3〜4週間目に再生していきた植物体は生育培地に内に移植され、大きくなったところで土に植えかえた。生育培地は、1Lの培地中に、4.3gの MS Basal Salt Mixture(Gibcobrl社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
葯由来カルスから再分化した、9個体の幼苗より、CTAB法によってDNAを抽出した。抽出したDNAを制限酵素HindIIIで消化後、0.8% LO3 アガロース(TaKaRa社)で分画し、アルカリブロッテイング法でナイロンメンブレン(HybondN+)(Amersham社)に転写した。サザンハイブリダイゼーションは、DIG発光検出キット(Roche社)を用いて行った。プローブの作製には、PCR DIGプローブ合成キット(Roche社)を用いた。トランスポゾンDNAの内部領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号10と配列番号11のDNA配列(いずれも配列番号1(トランスポゾン遺伝子)中の配列である。)を有するオリゴヌクレオチドを用いプローブを作製した。図5にこのアガロースゲル電気泳動を示す。図5に示すように、No.2及びNo.6においてコントロールの日本晴品種にはない新たな位置にバンド(矢印)が現れた。このバンドは、トランスポゾン遺伝子が挿入されて破壊された遺伝子座を示している。
本実施例により、新たな遺伝子座へのトランスポゾン遺伝子の挿入が明らかになった。なお、本実施例にて再分化した稲には図6に示すような形質が変異したものが認められ(遺伝子は未確認)、このような形質に関連する遺伝子がこのようなトランスポゾンによって破壊されていることが示唆される。
【0024】
参考例5
日本晴の種子を、3%次亜鉛素酸ナトリウム溶液で15〜30分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、9個の種子を20−30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6)Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine (WAKO)、30g sucrose (WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体倍地を使用した。
数日後、イネの種子内の胚盤組織より、カルスが形成され始め、10日目には、5mm程度のクリーム色のカルスとなった。この5mm程度のクリーム色のカルスを、5−アザシチジン(5-azacytidine、siguma社)を0mM、0.01mM、0.03mM、0.05mM、0.1mM、0.3mMの濃度で含む増殖培地に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6)Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine(WAKO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite(WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目の種子由来カルスより、Dneasy plant mini kit(QIAGEN)によりDNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号12と配列番号13のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。PCR反応液は、HotStarTaq Master Mix kit(QIAGEN)を使用した。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、45サイクル反応させた。反応後、2% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。
0.03mM−0.3mMの5−アザシチジン添加区において、約730bpと約300bpの2本のバンドが得られた(図7)。約730bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子が挿入されたままのサイズである。一方、約300bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子(430bp)が欠失したバンドのサイズであった。
これらのDNA断片をゲルから回収し、TAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII−TOPOにサブクローニングした。得られた4種類のクローンについて、塩基配列を310 DNAシーケンサー(ABI社)を用いて決定した。4種類のクローンの塩基配列を比較した(図8)。その結果、トランスポゾン遺伝子配列は全く見られなかった。
本実施例により、種子由来カルスにおいても、脱メチル化剤である5−アザシチジンを使用することで、本トランスポゾンの転移を誘発することが可能であることが分かった。これにより、1粒の種子より、本トランスポゾンが転移した数百のクローン植物体を得ることができると期待される。
【0025】
実施例1
イネ品種、日本晴の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から、葯を摘出し、50個の葯を3ml 液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、30g sucrose(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20〜30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。増殖培養2週間目の葯由来カルスよりDNAを抽出した(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号14(AP004236の88933-88962)と配列番号15(AP004236の95545-95574)のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa LA Taq(TaKaRa社)、10μl 10×LA PCR BufferII、6μl 25 mM MgCl2、8μl dNTP Mixture(2.5mM each dNTP)、100pmol primerが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、68℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、0.8% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。約6.6kbpのバンドは、本発明のトランスポゾン遺伝子(5341 bp)が挿入されたままのサイズである。本発明のトランスポゾン遺伝子は約5.4kbpであるため、このトランスポゾン遺伝子が欠失すると約1.2kbpのバンドが現れるはずである。本実施例では約1.2kbpのバンドが得られた(図13)。これにより、葯由来カルスにおいては動いていることが明らかにされた。約1.2kbのバンドの得られる確率は、64カルス中、3カルス(4.7%)であった。本実施例にて、葯由来カルスにおいて配列番号2で表されるDNA配列から成るイネのMITEが動くことを証明した。
【0026】
比較例1
イネ品種、日本晴の種子を、3%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15〜30分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、9個の種子を20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine(WAKO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。誘導培養10日目に、誘導された種子由来カルスは、20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine(WAKO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。増殖培養2週間目の種子由来カルスよりDNAを抽出した(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号14と配列番号15のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa LA Taq(TaKaRa社)、10μl 10×LA PCR BufferII、6μl 25 mM MgCl2、8μl dNTP Mixture(2.5mM each dNTP)、100pmol primerが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、68℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、0.8% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。その結果、約6.6kbp の1本のバンドのみが得られ、約1.2kbpのバンドは得られなかった(図13)。これにより、種子由来カルスにおいては動いていないことが明らかにされた。約1.2kbのバンドの得られる確率は、64カルス中、0カルス(0%)であった。
【0027】
実施例2
本実施例では、自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を持っていない品種を探し、自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)の有無による非自立的トランスポゾン遺伝子の転移の差異を明らかにするため、自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を持っていない品種の葯由来カルスを誘導し、非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を調べた。
イネ品種、日本晴、コシヒカリ、台中65号、カサラスの4品種を用い、それぞれの品種の葉より、CTAB法によってDNAを抽出した。抽出したDNAを制限酵素HindIIIで消化後、1.0% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画し、アルカリブロッテイング法でナイロンメンブレン(HybondN+)(Amersham社)に転写した。サザンハイブリダイゼーションは、DIG発光検出キット(Roche社)を用いて行った。プローブの作製には、PCR DIGプローブ合成キット(Roche社)を用いた。自立的トランスポゾン遺伝子に特異的な内部領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号16と配列番号17のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いプローブを作製した。サザンハイブリダイゼーションの結果、日本晴とコシヒカリには、それぞれ自立的トランスポゾン遺伝子が1コピーゲノム中に存在するが、台中65号とカサラスには、存在しないことが分かった(図14)。
【0028】
次に、台中65号の葯由来カルスを誘導し、非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)の転移を調べた。
イネ品種、台中65号の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から、葯を摘出し、50個の葯を3ml 液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2、4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、30g sucrose(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。それぞれ増殖培養2週間目の葯由来カルスより、既報(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)に記載の方法に従い、DNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号18と配列番号19(L02)、配列番号20と配列番号21(L06)、配列番号22と配列番号23(L07)のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units AmpliTaq Gold(ABI社)、10μl GeneAmp 10×PCR Buffer(contains 15 mM MgCl2)、10μl Gene Amp Mixture(2 mM each dNTP)、200pmol primerが含まれる。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、2% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。その結果、自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)を持たない台中65号では、L02、L06、L07遺伝子座に存在する非自立的トランスポゾン遺伝子の転移が起こらなかった(表2上)。しかし、下記比較例2に示すように、葯由来カルスにおいて自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を持つ日本晴では、10.9-31.3%と高頻度に非自立的トランスポゾン遺伝子が転移した。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例2
日本晴の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から葯を摘出し、50個の葯を3ml液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-ジクロル−フェノキシ酢酸(siguma社)、30g スクロース(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20〜30ml培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g スクロース(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目の葯由来カルスよりDNAを抽出した。トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、実施例2と同様にPCRプライマーとして配列番号5と配列番号1のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units AmpliTaq Gold(ABI社)、10μl GeneAmp 10×PCR バッファー(contains 15 mM MgCl2)、10μl Gene Amp Mixture(2 mM each dNTP)、200pmol プライマーが含まれる。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、2% LO3 アガロース(TaKaRa社)で分画した。その結果、約850bp と約420bpの2本のバンドが得られた。約850bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子が挿入されたままのサイズである。一方、約420bpのバンドは、トランスポゾン遺伝子が欠失したことを示す。約420bpのバンドの得られる確率は、64カルス中、11カルス(17.2%)であった。
【0031】
実施例3
本実施例では、自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を含むゲノム領域を単離し、これを自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を持っていない品種(台中65号)に導入し、非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)の転移を調べた。
イネ品種、日本晴より自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を含むゲノム領域を単離するため、配列番号2で表される塩基配列をはさむように配列番号24と配列番号25のDNA配列を有するオリゴヌクレオチド設計し、PCRのプライマーに用いた。日本晴の葉より、CTAB法によって抽出したDNAを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa LA Taq(TaKaRa社)、10μl 10×LA PCR BufferII、6μl 25 mM MgCl2、8μl dNTP Mixture(2.5mM each dNTP)、100pmol primerが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、68℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、0.8% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。自立的トランスポゾン遺伝子が挿入されている約6.6kbpのバンドが得られた。
このDNA断片(約6.6kbp)をゲルから回収し、TAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII-TOPOにサブクローニングした。次に、pCRII-TOPOに存在するマルチクローングサイト(ApaIとKpnI)を利用し、選抜マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子をもつ植物感染用のバイナリーベクターにサブクローニングし、エレクトロポレーション法により、アグロバクテリアEHA101に導入した。感染に用いる3日前にカナマイシン(Wako)とハイグロマイシン(Wako)を含むAB培地にストリークし、葯由来カルスへの感染に用いた。
次に、アグロバクテリアを介し、イネ品種、台中65号の葯由来カルスに、上記で得た自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を含むゲノム領域(約6.6kbp)を導入した。
【0032】
イネ品種、台中65号の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から、葯を摘出し、50個の葯を3ml 液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、30g sucrose(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
増殖培養2週間目の台中65号の葯由来カルスにアグロバクテリアを感染させた。AB培地に塗布後3日のアグロバクテリアをさじでかき取り、10mg/lのアセトシリンゴンを添加したAAM 培地(25ml)に入れよく振りまぜ、混ぜた感染用の液をシャーレ(IWAKI)にいれた。増殖培養2週間目の葯由来カルスを金網に入れ、2分間感染用の液に浸した。金網を滅菌したキムタオルの上に置き、余分な水分を除去後、ピンセットでろ紙を敷いた共存培地にカルスをのせ、サージカルテープでシールして28℃暗黒下で3日間培養した。共存培地は、1Lの培地中に4gのCHU(N6)Basal Salt Mixture (Siguma社)、1ml MS Vitamin Solution (Siguma 社)、30g Sucrose (WAKO)、10g Glucose (WAKO)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid (Siguma社)、2g Gelrite (WAKO)、10mg acetosyringoneを含む固体培地を使用した。共存培養3日のカルスを100ml滅菌水の入った三角フラスコに入れよく振り混ぜた後、水のみ捨てる。滅菌水での洗浄を数回くり返したのち、500mg/mlのカルベニシリンを入れた洗浄液で洗った後、選抜培地にカルスを1シャーレに9個置床、サージカルテープでシールし25℃明所で1ヶ月培養した。選抜培地は、1Lの培地に、4gのCHU(N6)Basal Salt Mixture (Siguma社)、1ml MS Vitamin Solution (Siguma 社)、 30g Sucrose (WAKO)、 0.3g Casamino Acids (DIFCO)、 2.878g Prorin (ICN)、 0.1g Mio-inositol (Siguma社)、 2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid (Siguma社)、500mg Hygromycin (Wako)、 50mg Carbenisillin (Wako)、 2g Gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。
【0033】
次に、選抜培地置床3-4週間後、増殖してきたハイグロマイシン耐性カルスについて、日本晴の自立的トランスポゾン遺伝子の導入と非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)の転移を調べた。
耐性カルスより、既報(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)に記載の方法に従い、DNAを抽出した。配列番号2で表される塩基配列をはさむように設計した配列番号24と配列番号25のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRのプライマーに用いてPCR反応を行った。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa LA Taq(TaKaRa社)、10μl 10×LA PCR BufferII、6μl 25 mM MgCl2、8μl dNTP Mixture(2.5mM each dNTP)、100pmol primerが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、68℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、0.8% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。結果、耐性カルスにおいて、日本晴の自立的トランスポゾン遺伝子の導入を確認することができた(図15)。
次に、非自立的トランスポゾン遺伝子を含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号18と配列番号19(L02)、配列番号20と配列番号21(L06)、配列番号22と配列番号23(L07)のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。PCR反応液は、HotStarTaq Master Mix kit(QIAGEN)を使用した。PCRの条件は、96℃で30秒間のディネーチャー、55℃で1分間のアニール、72℃で2分間の伸長反応を1サイクルとし、45サイクル反応させた。反応後、2% LO3 agarose(TaKaRa)で分画した。その結果、38個の自立的トランスポゾン遺伝子が導入されたカルスについて非自立的トランスポゾン遺伝子の欠失を調べたところ、L06遺伝子座において欠失したと思われるサイズのバンドが得られた(図16)。L02、L06、L07遺伝子座に存在する非自立的トランスポゾン遺伝子の欠失頻度は、0〜5.3%程度であった(表2下)。
L02とL06遺伝子座に存在する非自立的トランスポゾン遺伝子が欠失したと思われるサイズのバンドのDNA断片をゲルから回収し、TAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII-TOPOにサブクローニングした。得られたクローンついて、塩基配列を310 DNAシーケンサー(ABI社)を用いて決定した。非自立的トランスポゾン遺伝子配列は見られなかった(図17、図18)。
この結果は、日本晴の自立的トランスポゾン遺伝子を導入することで台中65号の葯由来カルスにおいて非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を誘発したことを示している。これにより、配列番号2で表される塩基配列から成るトランスポゾンは、葯由来カルスにおいて自立的に転移するとともに、非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を制御すると結論できる。
【0034】
実施例4
本実施例では、配列番号3で表される塩基配列の転移活性を、葯由来カルスと5−アザシチジン処理した胚盤由来カルスについて調べた。
イネ品種、日本晴の出穂前の穂を採取し、10℃の温度で、10日間の低温処理を行った後、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で1分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、頴花から、葯を摘出し、50個の葯を3ml 液体培地の入った35×10mmのシャーレ(CORNING社)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma社)、30g sucrose(WAKO)を含む液体培地を使用した。誘導培養3〜4週間目に、誘導された葯由来カルスは、20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki社)内に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma社)、1ml MS vitamin solution(siguma社)、2ml a-Naphthalene Acetic Acid solution(siguma社)、2ml kinetin solution(siguma社)、3g casamino acids(DIFCO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。それぞれ増殖培養2週間目の葯由来カルスより、既報(Kikuchi et al. (1998) Plant Biotechnology 15: 45-48)に記載の方法に従い、DNAを抽出した。
イネ品種、日本晴の種子を、3%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15〜30分間の殺菌、滅菌水で洗浄し、9個の種子を20-30ml 培地の入った90×20mmのシャーレ(iwaki)内に置床し、30℃の温度、24時間明所で誘導培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma)、1ml MS vitamin solution(siguma)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine(WAKO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。誘導培養10日目に、誘導された種子由来カルスは、5−アザシチジン(siguma)を0mM、0.1mM 0.5mMの濃度で含む増殖培地に移植し、30℃の温度、24時間明所で増殖培養した。1Lの培地中に、4gのCHU(N6) Basal Salt Mixture(siguma)、1ml MS vitamin solution(siguma)、2mg/l 2,4-Dichloro-phenoxyacetic acid(siguma)、0.3g casamino acids(DIFCO)、0.1g myo-inositol(siguma)、2.878g prorine(WAKO)、30g sucrose(WAKO)、2g gelrite (WAKO)を含む固体培地を使用した。増殖培養2週間目の種子由来カルスより、Dneasy plant mini kit(QIAGEN)によりDNAを抽出した。
トランスポゾンDNAを含む領域をPCR法によって増幅するため、PCRプライマーとして配列番号26と配列番号27のDNA配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。反応液100μl中には、200ng DNA、2.5 units TaKaRa LA Taq(TaKaRa社)、10μl 10×LA PCR BufferII、6μl 25 mM MgCl2、8μl dNTP Mixture(2.5mM each dNTP)、100pmol primerが含まれる。PCRの条件は、94℃で30秒間のディネーチャー、68℃で12分間の伸長反応を1サイクルとし、35サイクル反応させた。反応後、0.8% LO3 agarose(TaKaRa社)で分画した。
その結果、葯由来カルス及び胚盤由来カルスにおいては、配列番号3で表される塩基配列を有するトランスポゾンは転移しないが、5−アザシチジンで処理をした胚盤由来カルスにおいて高頻度に転移が起こった(表3)。
【0035】
【表3】

【0036】
配列番号3で表される塩基配列を有するトランスポゾンは、構造上、トランスポゼースをコードする自立的トランスポゾン遺伝子であり、5−アザシチジンの処理により活性化し、非自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号1)の転移を制御していると考えられる。
【0037】
参考例6
イネ品種、カサラスの成葉から、Dneasy plant mini kit(QIAGEN)によりDNAを抽出した。挿入しているトランスポゾンDNAの隣接領域をPCRによって増幅するためinversePCR法を用いた。Inverse用のPCRプライマーとして配列番号1の5’末端から15塩基の塩基配列のオリゴヌクレオチド(5'-CCATTGTGACTGGCC-3')を用いた。PCRには、GeneAmp9600システム(ABI社)を使用して行った。PCR反応液は,HotStarTaq Master Mix kit(QIAGEN)を使用した.PCRの条件は,96℃で30秒間のディネーチャー,44〜58℃で1分間のアニール,72℃で1分間の伸長反応を1サイクルとし,45サイクル反応させた.反応後,2% LO3 agarose(TaKaRa)で分画した.増幅されたDNA断片をTAクローニングキット(In Vitrogen)を用いたプラスミドpCRII-TOPOにサブクローニングした.得られたクローンの塩基配列を310 DNAシーケンサー(ABI社)を用いて決定した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】アクセッションナンバーAP002843の遺伝子配列の一部(配列番号6)を示す図である。トランスポゾンに特徴的な逆向き反復配列がLTRの直後の144459-144473及び144874-144888の場所に存在している。
【図2】4種のイネ品種の成葉のトランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP002843)のアガロースゲル電気泳動を示す(参考例2)図である。日本晴において約850bp のバンドが得られ、トランスポゾン遺伝子(430bp)が挿入されていることを示す。一方、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヤマホウシでは約420bpのバンドが得られ、トランスポゾン遺伝子が挿入されていないことを示す。
【図3】日本晴の種子由来カルスのトランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP002843)のアガロースゲル電気泳動を示す(参考比較例1)図である。
【図4】日本晴の葯由来カルスのトランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP002843)のアガロースゲル電気泳動を示す(参考例3)図である。420bp のバンドはトランスポゾン遺伝子が欠失していることを示す。
【図5】日本晴の葯由来カルスのアガロースゲル電気泳動を示す(参考例4)図である。No.1は日本晴(コントロール)、No.2〜10は葯由来カルスからの再分化植物体を示す。トランスポゾンDNA中の配列から成るプローブを用いた。No.2とNo.6に、コントロールの日本晴品種にはない新たな位置にバンド(矢印)が確認できる。
【図6】参考例4にて再分化した稲のなかに、形質が変異したものがあることを示す写真である。この稲は葉が縮れて短い。
【図7】日本晴の種子由来カルスのトランスポゾンDNAを含む領域のアガロースゲル電気泳動を示す(参考例5)図である。上段の数字は5−アザシチジンの濃度を示す。300bpのバンドはトランスポゾン遺伝子(430bp)が欠失していることを示す。
【図8】トランスポゾン遺伝子(430bp)が欠失している4種のクローンの塩基配列を示す図である。
【図9】配列番号2及び3で表される塩基配列を有するトランスポゾン遺伝子の構造を示す図である。
【図10】ジャポニカ(AP004753及びAP003714)とインディカ(Scaffold6962)における配列番号3で表される塩基配列の相同性を示す図である。
【図11】インディカにおけるトランスポゾン(配列番号1、430bp)の変異頻度を示す図である。
【図12】配列番号2のORF IIと配列番号3のORF IIのアミノ酸配列の比較を示す図である。これらの相同性は75%以上(77.8%)であり(図中、相同箇所を*印で示す。)、共にDXG/AF/F motifとYREK motifを有する。上段は配列番号4のアミノ酸配列(配列番号2のORFIIに相当する。)、下段は配列番号5のアミノ酸配列(配列番号3のORFIIに相当する。)を示す。
【図13】日本晴の葯由来カルスのトランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP004236)のアガロースゲル電気泳動を示す(実施例1)図である。1.2Kbのバンドはトランスポゾン遺伝子が欠失していることを示す。図13右は、日本晴の種子由来カルスのトランスポゾンDNAを含む領域(アクセッションナンバーAP004236)のアガロースゲル電気泳動を示す(比較例1)。
【図14】各品種における自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2、図の上に示す。)の有無を示す電気泳動図である(実施例2)。日本晴(1)とコシヒカリ(2)には自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を示すバンド(矢印)が見られるが、台中65号(3)とカサラス(4)にはこのバンドが見られない。
【図15】日本晴の自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を導入した台中65号の葯由来カルスの電気泳動図である(実施例3)。台中65号には見られなかった自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を示すバンド(矢印)が自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を導入した台中65号の葯由来カルス(No.3-6)に確認される。
【図16】日本晴の自立的トランスポゾン遺伝子(配列番号2)を導入した台中65号の葯由来カルスの非自立的トランスポゾン遺伝子を含む領域の電気泳動図である(実施例3)。L06遺伝子座において非自立的トランスポゾン遺伝子が欠失したと思われるサイズのバンドが観察された(矢印)。
【図17】L02遺伝子座に存在する非自立的トランスポゾン遺伝子が欠失したと思われるサイズのバンドのDNA断片の塩基配列を示す図である。非自立的トランスポゾン遺伝子配列(配列番号1)が欠失している。
【図18】L06遺伝子座に存在する非自立的トランスポゾン遺伝子が欠失したと思われるサイズのバンドのDNA断片の塩基配列を示す図である。非自立的トランスポゾン遺伝子配列(配列番号1)が欠失している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列又はこのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、DXG/AF/F motifとYREK motifを有し、かつ配列番号1で表される非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を制御する活性を持つタンパク質をコードするトランスポゼース遺伝子。
【請求項2】
配列番号2で表される塩基配列に少なくとも90%相同のDNAから成るイネのトランスポゾン遺伝子であって、分割されていてもよい非自立的トランスポゾン遺伝子及びトランスポゼース遺伝子を有し、
該非自立的トランスポゾン遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の両端の15bpと同一の両端を有し、かつ配列番号1で表される塩基配列に少なくとも95%相同の塩基配列から成り、
該トランスポゼース遺伝子は、配列番号4で表されるアミノ酸配列又はこのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、DXG/AF/F motifとYREK motifを有し、かつ配列番号1で表される非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を制御する活性を持つタンパク質をコードするトランスポゼース遺伝子であるイネのトランスポゾン遺伝子。
【請求項3】
前記非自立的トランスポゾン遺伝子が、配列番号2の1位〜253位及び5165位〜5341位の塩基配列の代わりに挿入され、前記トランスポゼース遺伝子が、配列番号2の3190位〜4557位の塩基配列の代わりに挿入された請求項2に記載のネのトランスポゾン遺伝子。
【請求項4】
配列番号3で表される塩基配列に少なくとも90%相同のDNAから成るイネのトランスポゾン遺伝子であって、分割されていてもよい非自立的トランスポゾン遺伝子及びトランスポゼース遺伝子を有し、
該非自立的トランスポゾン遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の両端の15bpと同一の両端を有し、かつ配列番号1で表される塩基配列に少なくとも95%相同の塩基配列から成り、
該トランスポゼース遺伝子は、配列番号5で表されるアミノ酸配列又はこのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、DXG/AF/F motifとYREK motifを有し、かつ配列番号1で表される非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を制御する活性を持つタンパク質をコードするトランスポゼース遺伝子であるイネのトランスポゾン遺伝子。
【請求項5】
前記非自立的トランスポゾン遺伝子が、配列番号3の1位〜170位及び5092位〜5166位の塩基配列の代わりに挿入され、前記トランスポゼース遺伝子が、配列番号3の2959位〜4407位の塩基配列の代わりに挿入された請求項4に記載のネのトランスポゾン遺伝子。
【請求項6】
請求項1に記載のトランスポゼース遺伝子又は請求項2〜5のいずれか一項に記載のトランスポゾン遺伝子を含有するプラスミド。
【請求項7】
請求項1に記載のトランスポゼース遺伝子又は請求項2〜5のいずれか一項に記載のトランスポゾン遺伝子が導入された形質転換体。
【請求項8】
宿主がイネである請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
配列番号4若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列又はこのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、DXG/AF/F motifとYREK motifを有し、かつ配列番号1で表される非自立的トランスポゾン遺伝子の転移を制御する活性を持つタンパク質から成るトランスポゼース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−50000(P2007−50000A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266688(P2006−266688)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【分割の表示】特願2003−542610(P2003−542610)の分割
【原出願日】平成14年11月6日(2002.11.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】