説明

イネ吸汁性害虫忌避剤、忌避方法、忌避組成物

【課題】
本発明の目的は、イネの生育や収穫に悪影響を与えるウンカやカメムシ等を安全、かつ確実に排除でき、当該ウンカやカメムシ、あるいはそれら害虫によって媒介されるウイルスやプラズマ等が薬剤抵抗性を持つことのない忌避剤、忌避方法、忌避組成物を提供しようとするものである。
【解決手段】
本発明は、カリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とするウンカ類やヨコバイ類の忌避剤および忌避方法ならびに忌避組成物であって、イネ吸汁性害虫に対して高い忌避効果を有し、かつ人体に対する安全性が高いという優れた効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウンカ類やヨコバイ類に代表されるイネ吸汁性害虫の忌避剤および忌避方法ならびに忌避組成物に関し、詳しくはカリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とするウンカ類やヨコバイ類の忌避剤および忌避方法ならびに忌避組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イネに代表されるイネ科植物は、たとえば、イネ、大麦、小麦などの主要な食用穀類として重要なものが多く、とりわけイネの収穫物である米は我が国の自給可能性の高いものとして重要な位置を占めている。
【0003】
一方、稲作においては、現在でも種々の虫害や病気などによる被害が問題となっており、古くから、ウンカ類やヨコバイ類といった吸汁性の農業用害虫は、稲作に多大な被害をもたらしてきた。その被害は特にアジアにおいて深刻であり、セジロウンカに特徴的な産卵痕の形成や、ヒメトビウンカに特徴的な縞葉枯れ病の媒介など、種類によってその被害は異なる。中でもトビイロウンカによる吸汁害は、坪枯れと呼ばれるイネの部分的な枯れの症状を引き起こすことが知られており、わが国においては、ウンカ類は夏場にかけて中国大陸より飛来し、甚大な被害をもたらす。また、一部のウンカ(たとえば、ヒメトビウンカ)は、縞葉枯れ病に感染したイネ株を吸汁して保毒虫となり、越冬後に田植え後の水田に侵入して再感染の原因となるほか、一旦ウイルスを獲得したウンカは卵を介して次世代に伝染するので、ウンカの防除が非常に重要である。
【0004】
しかしながら、これらウンカ類やヨコバイ類の防除方法としては、基本的に農薬や殺虫剤のような薬剤によるものが最も一般的であり、たとえばピラゾール誘導体やイミダゾール誘導体、ニトロメチレン系化合物を用いた防除方法が知られている(特許文献1〜3および7)。しかし薬剤処理による防除では、他の害虫駆除における薬剤処理の問題点と同様に、抵抗性の獲得や、薬剤の散布時期や方法等によって、防除効果が大きく異なることが問題として挙げられるほか、繰り返し使用による土壌汚染などの問題も生じる。
【0005】
また、薬剤に頼らない防除法としては、抵抗性品種の開発やウンカ・ヨコバイ類の捕食性昆虫を利用する方法も提案されているが、現段階ではその効果はあまり期待出来るものではない。さらに、種々の天然精油やカリオフィレンなどの精油成分を用いた忌避方法も知られている(特許文献4〜6および8)が、これらはイネ吸汁性害虫を対象としてものではなく、衛生害虫などを対象とするものであって、本発明の忌避成分であるカリオフィレンおよびその誘導体を吸汁性害虫に使用することは全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−306204号公報
【特許文献2】特開平6−192014号公報
【特許文献3】特開平8−245314号公報
【特許文献4】特開2004−49601号公報
【特許文献5】特開2004−99535号公報
【特許文献6】特開2004−99536号公報
【特許文献7】特開2005−120109号公報
【特許文献8】特開2005−145865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イネの生育や収穫に悪影響を与えるウンカやカメムシ等を効率よく排除でき、当該ウンカやカメムシ、あるいはそれら害虫によって媒介されるウイルスやプラズマ等が薬剤抵抗性を持つことのない忌避剤、忌避方法、忌避組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、カリオフィレンおよびその誘導体が優れたウンカ類やヨコバイ類の忌避効果を有し、これを用いることによって、優れた防除方法となることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
本発明は、カリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とするイネ吸汁性害虫の忌避剤である。
【0010】
本発明は、イネ吸汁性害虫の生育域にカリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とする忌避剤を施用することを特徴するイネ吸汁性害虫の忌避方法である。
【0011】
本発明は、カリオフィレンおよびその誘導体と製剤助剤を含有してなるイネ吸汁性害虫の忌避組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イネ吸汁性害虫に対して高い忌避効果を有し、その忌避効果が長期間に渡って持続するものであって、かつ人体に対する安全性が高いという優れた効果を有する。しかも、殺虫剤ではないので、イネ吸汁性害虫や当該害虫が保持するウイルスやプラズマなどの微生物が殺虫剤に対して有するような抵抗性を獲得せず、効果が長期間にわたっても低下しない。加えて、繰り返し使用しても土壌汚染や環境破壊の問題を生じることもないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実験例2において使用したロイシンの吸光度測定から作成した検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、忌避成分であるカリオフィレンおよびその誘導体としては、カリオフィレン(4,11,11−トリメチル−8−メチレンビシクロ[7.2.0]ウンデカ−4−エン)のほか、カリオフィレンを化学処理して得られる誘導体あるいはカリオフィレンを含有する植物性精油から分画されるものであってもよい。かかるカリオフィレンもしくはその誘導体としては、たとえばβ―カリオフィレン、イソカリオフィレン、カリオフィレンオキサイド、ジヒドロイソカリオフィレンオキサイドが挙げられる。これらの成分はいずれも既知化合物であり、容易に入手することができる。たとえば、広く植物精油中に存在するβ―カリオフィレンを異性化することによりイソカリオフィレンを得ることができるほか、これを水素化してジヒドロカリオフィレンを得ることができ、更にはβーカリオフィレンを過酸でモノエポキシ化することによってカリオフィレンオキサイドを得ることができる。
【0015】
また、たとえばカリオフィレンオキサイドは、コパイバオイル、グローブ油、ラベンダー油に存在するので、これらから分画、採取することができる。
【0016】
更には、カリオフィレンおよびその誘導体は、単離せずに、比較的高濃度にそれらを含有する天然物のままでも使用することができ、かかる天然物としてはコパイバオイルがあげられる。
【0017】
本発明において、イネ吸汁性害虫としては、イネの維管束を流れる汁を吸うか、または、穂、花、葉やその他の部位における細胞内容物を吸収するなどして、イネの生育に好ましくない影響を与える昆虫その他の虫類を意味するほか、吸汁によって直接イネの生育に好ましくない影響を与えない昆虫その他の虫類であっても、吸汁によってウイルスやプラズマその他の微生物を媒介してイネに好ましくない影響を与える昆虫その他の虫類を意味する。
【0018】
また、イネ吸汁性害虫が吸汁するイネとしては、ジャポニカ(ヤポニカ)種(Oryza
sativa subsp. japonica)であるか、インディカ種(Oryza sativa subsp. indica)であるか、ジャバニカ種(Oryza sativa subsp. javanica)であるかを問わないし、陸稲であると水稲であるとを問わず、また、食用であると醸造用であるとを問わず、更には鑑賞用であるとを問わない。
【0019】
かかる害虫の具体例としては、たとえばウンカ類、ヨコバイ類およびカメムシ類に属する昆虫があげられるが、これらは単なる例示であってこれに限定されない。
【0020】
ウンカ類としては、半翅(はんし)目(Hemiptera)ウンカ科(Delphacidae)、またはウンカ科を含むビワハゴロモ上科(Fulgoroidea)に属する昆虫が挙げられる。
【0021】
より具体的には、たとえばザオウウンカ(Kelisia guttula)、エゾナガウンカ(
Stenocranus matsumurai)、タカサゴナガウンカ(Stenocranus takasagonis)、セスジナガウンカ(Stenocranus hokkaidoensis)、ヤスマツナガウンカ(Preterkelisia
yasumatsui)、テラウチウンカ(Terauchiana singularis)、ホソミドリウンカ(
Saccharosydne procerus)、コブウンカ(Tropidocephala brunneipennis)、セジロウンカ(Sogatella furcifera)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、クロスジオオウンカ(Euides speciosa)、ゴマフウンカ(Cemus nigropunctatus)、タテヤマヨシウンカ(Chloriona tateyamana)、タテゴトウンカFalcotya lyraeformis)、サメシマウンカ(Harmalia sameshimai)、クワヤマウンカ(Kakuna kuwayamae)、ハグロウンカ(
Kakuna pectinata)、ヒメトビウンカ(Laodelphax striatella)、マツヤマチビウンカ(Muirodelphax matsuyamensis)、ナカノウンカ(Mullerianella extrusa)、エゾトビウンカ(Paradelphacodes paludosa)、ハコネホソウンカ(Sogata hakonensis)、シロオビウンカ(Unkanodes albifascius)、サッポロトビウンカ(Unkanodes sapporonus)などが挙げられる。
【0022】
また、ヨコバイ類としては、昆虫綱半翅目同翅亜目ヨコバイ科(Cicadellidae)に属するものが挙げられ、より具体的にはたとえばシダヨコバイ(Japanagallia pteridis)、オヌキシダヨコバイ(Onukigallia onukii)、ヤナギハトムネヨコバイ(Macropsis
prasina)、ハンノヒロズヨコバイ(Oncopsis alni)、オモゴヒロズヨコバイ(Oncopsis omogonis)、クルミヒロズヨコバイ(Pediopsoides juglans)、シロズキンヨコバイ (Populicerus ishiyamae)、ムナグロズキンヨコバイ(Idieocerus nigripectus)、ズキンヨコバイ(Podulmorinus vitticollis)、モンキヒロズヨコバイ('Oncopsis'
mali)などが挙げられる。
【0023】
さらに、ツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)などのヨコバイ亜科 (
Deltocephalinae)に属するヨコバイ、ヨモギシロテンヨコバイ(Mileewa dorsimaculata
)、ツマグロオオヨコバイ(Bothrogonia ferruginea)、オオヨコバイ(Cic adella
viridis)、マエジロオオヨコバイ(Kolla atramentaria)、クロキスジカンムリヨコバイ(Evacanthus fatuus)、キスジカンムリヨコバイ(Evacanthus interruptus)、オヌキヨコバイ(Onukia onukii)、クロツヤオオヨコバイ(Kurotsuyanus sachalinensis)、ヤマトキタヨコバイ(Bathysmatophorus japonicus)、キタヨコバイ(
Bathysmatophorus shabliovskii)などのオオヨコバイ亜科(Cicadellinae)に属するヨコバイ、ヒメアオズキンヨコバイ(Batracomorphus diminutus)、オオアオズキンヨコバイ(Iassus lateralis)、セグロアオズキンヨコバイ(Trocnadella suturalis)などのアオズキンヨコバイ亜科(Iassinae)に属するヨコバイ、クロサジヨコバイ(
Planaphrodes nigricans)、イネヒラタヨコバイ(Stroggylocephalus agrestis)などのヒラタヨコバイ亜科(Aphrodinae)に属するヨコバイ、オオクロヒラタヨコバイ(
Penthimia sincipitalis)などのクロヒラタヨコバイ亜科(Penthimiinae)に属するヨコバイのほかイナズマヨコバイ(Recilla dorsalis)などが挙げられる。
【0024】
さらに、カメムシ類としては、カイネクロカメムシ(クロカメムシ)(Scotinophara
lurida)、ウズラカメムシ(Aelia fieberi)、トゲシラホシカメムシ(Eysarcoris
annamita)、シラホシカメムシ(Eysarcoris ventralis)、ブチヒゲカメムシ(
Dolycoris baccarum)、アオクサカメムシ(Nezara antennata ) 、ミナミアオカメムシ(Nezara viridula)イネカメムシ(Lagynotomus elongates)、オオトゲシラホシカメムシ(Eysarcoris lewisi)、イネクロカメムシ(Scotinophara lurida)などのカメムシ科(Pemtatomidae)に属するカメムシ、ヒメナガカメムシ(Nysius plebeius)、コバネヒョウタンナガカメムシ(Togo hemipterus)などのナガカメムシ科(Lygaiedae)に属するカメムシ、ホソヘリカメムシ(Riptortus ciavatus)、クモヘリカメムシ(Leptocorisa
chinensis)などのホソヘリカメムシ科(Alydidae)に属するカメムシ、ホソハリカメムシ(Cletus punctiger)などのヘリカメムシ科(Coreidae)に属するカメムシ、アカヒメヘリカメムシ(Rhopalus macuratus)などのヒメヘリカメムシ科(Rhopalidae)に属するカメムシ、ブチヒゲヘリカメムシ(Stictopleurus punctatonervosus)などのヒメヘリカメムシ科(Rhopalidae)に属するカメムシ、アカヒゲホソミドリカスミカメ(
Trigonotylus coelestrialium)、アカスジカスミカメ(Stenotus rubrovittatus)などのカスミカメムシ科(Mlridae)などのカメムシが挙げられる。
【0025】
また、本発明は、イネ吸汁性害虫の生育域にカリオフィレンおよびその誘導体(以下、カリオフィレンおよびその誘導体を意味するものとして、単に忌避成分という)を施用することを特徴するイネ吸汁性害虫の忌避方法である。
【0026】
本発明において、忌避成分を施用する生育域とは、イネなどの穂、花、葉、茎など植物そのもののほか、イネ吸汁性害虫の群生地、害虫の通り道、害虫の生息場所ならびに植物が生育する圃場、温室などが挙げられ、それらは開放系であると、密閉系であるとを問わない。
【0027】
また本発明において、忌避成分を施用するとは、対象となる生育域に塗布、噴霧、散布、気化、固定、静置などの手段によって、忌避成分が存在するような条件におくことを意味する。
【0028】
本発明の忌避成分は、イネ吸汁性害虫がその生育に悪影響を及ぼす植物であれば、イネに限らず、忌避効果に基づいて防除できるので、当該害虫が生息するものすべてを対象に施用することができる。
【0029】
イネ、小麦、大麦などの穀物類のほか、たとえば鑑賞用のイネ(奥羽観383号、同378号、西海観246号など)にも施用することができるほか、夜間灯火に飛来するウンカ類などにも施用することができる。
【0030】
また、本発明の忌避成分を植物そのものに施用する場合や、生息場所、通り道、圃場など平面的に施用する場合は、処理面積1平方メートル当たり、通常50〜500mg、より好ましくは200〜500mg、とりわけ好ましくは400〜500mgとなるよう施用すれば、忌避効果を奏することができる。
【0031】
また、温室や室内など空間的に施用する場合には、処理空間1立方メートル当たり、通常25〜500mg、より好ましくは100〜500mg、とりわけ好ましくは200〜500mgとなるよう施用すればよい。
【0032】
更に、本発明は、忌避成分と製剤助剤を含有してなるイネ吸汁性害虫の忌避組成物である。
【0033】
本発明の忌避組成物は、そのままで使用できるほか、適宜選択される製剤助剤とともに溶液、乳液、懸濁液、固形製剤、エアゾール剤、更にはシート状など種々の形態として使用することができる。
【0034】
たとえば、溶液であれば、本発明の忌避成分を、水、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、ケロシン、灯油、燃料油、機械油等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等の室温で液体状の酸アミド類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル等などのニトリル類などから適宜選択された溶媒に適宜溶解して使用することができる。
【0035】
また、たとえば乳剤であれば、本発明の忌避成分、並びに乳化剤および有機溶剤等を均一に混合溶解することにより製造できる。溶液の場合も乳剤の場合も忌避成分が0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、最も好ましくは0.8〜1.5重量%存在するよう配合すればよい。
【0036】
更に、固形製剤であれば、固体担体に含浸または吸着させることによって製造できる。かかる担体としては、たとえば大豆粉、タバコ粉、小麦粉、木粉等の植物性粉末、たとえばカオリン、ベントナイト、セピオライト、酸性白土等のクレー類、たとえば滑石粉、ロウ石粉等のタルク類、たとえば珪藻土、雲母粉等のシリカ類、たとえば炭酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウムなどの無機塩類などが挙げられ、これらは多孔性のものを用いることがより好ましい。
【0037】
更には、本発明の忌避成分を、合成樹脂、熱可塑性樹脂や生分解性高分子物質中に配合して成型することもできる。熱可塑性樹脂としては、たとえば酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリメタアクリル酸メチル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂など、本発明の忌避成分と反応しないものであれば、どのようなものでも好適に使用できる。また生分解性高分子としては、たとえばポリ乳酸、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステルなどの化学合成によるもののほか、デンプン、キチン、キトサン、ポリアミドなどの性分解性高分子物質を使用することができる。
【0038】
これらの樹脂と本発明の忌避成分を加熱下または可塑剤もしくは溶媒の存在下に混練したのち、所望の形状に成型することができる。
【0039】
この場合には、最終製品中に忌避成分が0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、最も好ましくは0.8〜1.5重量%存在するよう配合すればよい。
【0040】
本発明の忌避成分をエアゾール剤とする場合には、たとえば、本発明の忌避成分、有機溶剤、並びに必要に応じて適宜配合される安定剤等をエアゾール容器に充填し、該容器にエアゾールバルブを装着し、噴射剤を該容器中に充填し、振とうした後、アクチュエーターを装着することにより製造することができる。
【0041】
本発明の害虫防除エアゾール用組成物に含有される有機溶剤としては、たとえば低級アルコール類、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤およびこれらの混合物並びに鎖状飽和炭化水素、飽和炭化水素系溶剤が挙げられ、本発明のエアゾールに含有される噴射剤とは、沸点が−50℃〜0℃の液化ガスがあげられ、たとえば液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、プロパン、n−ブタンおよびイソブタンが挙げられる。
本発明のエアゾール用組成物に含有される有機溶剤の含有量は、忌避成分が0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、最も好ましくは0.8〜1.5重量%存在するよう配合すればよい。
【0042】
更に、本発明の忌避組成物には、乳化剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤または分散剤等として界面活性剤を添加することができ、かかる界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤として、たとえば、石鹸類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル類、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、高級脂肪酸アルカノールアマイド、アルキルマレイン酸共重合物、多価アルコールエステル類など、通常の農薬または忌避剤に使用される界面活性剤が挙げられる。
【0043】
また、陽イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が用いられ、陰イオン系界面活性剤として、たとえば、ナフタレンスルホン酸重縮合物金属塩、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸金属塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホネート硫酸塩等の高分子化合物、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸金属塩、ポリオキシエチレンヒスチジルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム、高級アルコールスルホン酸塩、高級アルコールエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネートまたは高級脂肪酸アルカリ金属塩等が挙げられる。更に、本発明の忌避剤においては、安定化剤、酸化防止剤などを配合することができ、安定化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル〕メタン、DL−トコフェロール、没食子酸プロピル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピル等、ポリリン酸、シクロデキストリン(トヨデリンP)などが挙げられ、酸化防止剤としては、BHT、4,4−チオビス−6−tert−ブチル−3−メチルフェノール、BHA、パラオクチルフェノールなどがあげられる。
【0044】
(実験例1)
トビイロウンカに対する忌避活性評価試験方法
【0045】
(試験方法)
栽培したイネ幼苗に、アセトンを溶媒として1%に希釈した検体溶液3mlを噴霧し、正方形にカットしたアクリルプレートを上から被せた。イネ幼苗を中心にしてアクリルプレート上に円形の濾紙を敷き、1.5Lサイズペットボトルの下部を切り抜いたものを上から被せ、トビイロウンカ成虫20匹をその容器中に放出後、脱脂綿で上部を塞いだ。その後、24時間後、48時間後の落下数(死亡数)を測定し、忌避効果を評価した。
【0046】
(実験材料)
1、イネ
昆虫忌避試験に用いるイネ幼苗として水稲種子(品種:日本晴)を用いた。円形のプラスチックカップ(直径6cm×高さ6cm)に、一般園芸店より購入した園芸用の土を篩いにかけたものを30g程度入れた。鎮圧後、水を適量入れ、水稲種子を10粒播種し、乾燥を防ぎながら1週間程度、25℃、明条件下で栽培した。生長が良好なものを選び、1カップ当たり5本の幼苗を中央に植え直し、アクリルプレート(縦7cm×横7cm)の中心を直径1.5cm程度切り抜いたものを被せ、インキュベーター内で25℃、明条件下で2週間程度栽培した。
【0047】
2、トビイロウンカ
住化テクノサービス(株)保有のコロニーより分離されたものを用いた。生物制御化学研究室昆虫飼育室にて室温27℃、湿度25%で、育成キット(三紳工業株式会社 ツマグロヨコバイ類大量飼育箱)を用い、明条件下で累与飼育を行った。イネ幼苗は、アクリル製の飼料皿に土を鎮圧して1cmほど入れ、潅水後イネの種もみを均一に播種した。覆土せずステンレス枠の両側を少し押し広げステンレス枠の弾力で皿の両側面に押し付けるようにしてステンレス枠を皿中の土の上面位まで押し込んだ。アクリル製の共蓋を被せ、幼苗を乾燥および寄生昆虫から保護し、インキュベーター内で25℃の明条件下で栽培した。幼苗は播種後2週間程度生長したものを1週間ごとに交換し使用した。また成虫期間後期においては、産卵されたイネ幼苗を捨てないよう、交換時期を調節した。
【0048】
3、忌避成分
コパイバオイル、カリオフィレン、カリオフィレンオキサイド、マジョラムオイル、
ティーツリーオイルをそれぞれ検体として使用した。
【0049】
(実験結果)
実験結果は、下記表1に示すとおりである。この結果から明らかなようにカリオフィレンオキサイドは、アセトンのみを塗布した場合に比べて、およそ6倍〜4倍、コパイバオイルはおよそ3倍〜4倍、β―カリオフィレンは1.7倍〜1.4倍のウンカの死亡数が観察された。この結果は、イネのみを食草とするウンカが、β―カリオフィレンまたはカリオフィレンオキサイドあるいはコパイバオイルの忌避効果によって、イネの吸汁ができず、死亡したことを示すものである。
【0050】
【表1】

【0051】
(実験例2)
実験例1で使用した濾紙にはトビイロウンカの排泄物である甘露が付着しており、吸汁量によって甘露量は増減するので、該濾紙中の甘露中に最も多く含まれるロイシンを指標として忌避効果を評価した。
【0052】
(実験方法)
実験例1の実験後の濾紙を2mm×2mm程度の大きさに細片し、10mlのエタノールを用いて抽出した後、溶液を10mlに希釈し、溶液2mlに対し1%ニンヒドリン・エタノール溶液を0.5ml加え、吸光度測定を実施した。
【0053】
ロイシン量は、ロイシン濃度を種々変えた溶液を段階希釈した溶液2mlに対してニンヒドリン溶液0.5mlを滴下し、上記と同様に加熱発色し、吸光度を測定した。得られた吸光度を元に検量線を作成した。排泄された甘露量は以下の式で算出した。
排泄されたロイシン(mg/l)=吸光度(Abs)/0.0147
上記をxとすると、抽出溶液10ml中にはx/100(mg)のロイシンが含まれていることになる。また、排泄された甘露中にロイシンは0.096%含まれていることが報告されており(寒川一成ら、「トビイロウンカの吸汁習性に関する研究」、日本応用動物昆虫学会誌 第14巻、134−139頁(1970年))、よって甘露量をz(mg)とすると、
x/100(mg):z(mg)=0.096(%):100(%)⇔z
=x/0.096(mg)⇔≒x/0.096(μl)
【0054】
よって、排泄された甘露量はAbs/0.0147÷0.096≒Abs/0.00141(μl)で算出した。
【0055】
また、忌避率はコントロールにおける排泄量の定量値の平均値を元に、式(A−B/A×100)より算出した。ここで、Aはコントロールにおけるロイシン測定値を表し、Bは忌避成分処理におけるロイシン定量値を表す。
【0056】
結果は下記表2に示すとおりであり、コパイバオイル、カリオフィレンオキサイドが高い忌避率を示していることが明らかである。また、コパイバオイル、カリオフィレンオキサイドの忌避率は、実験例1における死亡固体数と対応しており、吸汁できないことが死亡原因であること、すなわち忌避による死亡であることが明らかである。
【0057】
【表2】

【0058】
(実験例3)
ヒメトビウンカ、セジロウンカ、ツマグロヨコバイ、イネミズゾウムシ、クモヘリカメムシ、ホソハリカメムシおよびトゲシラホシカメムシを用いて、本発明の忌避剤が種々の吸汁性害虫に有効であることを確認した。
【0059】
(実験方法)
セジロウンカ、ヒメトビウンカおよびツマグロヨコバイについては、実験例1と同様にして実験を実施した。
【0060】
イネミズゾウムシおよびクモヘリカメムシなどのカメムシについては、イネ幼苗の葉を用いた選択的リーフディスクバイオアッセイ法を行った。
【0061】
ガラス室で栽培したイネ幼苗の葉の表面の付着物をアセトンで湿らせたキムワイプで拭き取った後、5mm×5mmの正方形型に切り抜き、リーフディスクを調整した。直径10cmのガラスシャーレに水で湿らせた濾紙を敷き、処理区、無処理区のリーフディスクを、9枚を1組として各2組、配置した。処理区には本発明の忌避成分を適量のアセトンに溶解した溶液を、マイクロシリンジを用いて100μg/ディスクおよび50μg/ディスクとなるようリーフディスクに均一に塗布し、無処理区には処理区と同量のアセトンを塗布後、十分に風乾した。リーフディスク葉を配置後、あらかじめ絶食させておいた各害虫を10匹放ち、蓋をして自由に摂食させ、27℃の暗条件下で24時間放置した。
【0062】
その後、害虫を取り出し、食害されたリーフディスクを台紙に貼り付け、白黒コピーを行い、スキャナーの誤読変換を防ぐために修正処理を行った。これをコンピュータ処理のためにスキャナーでデジタルデータに変換し、画像解析ソフト(サイオンイメージ Scion Image)を用いてピクセル単位で数値化し、ディスクの食害面積の比較処理を行った。各台紙には標準面積を算出するために無傷のリーフディスクを貼付し、同一条件下で比較し、処理区、無処理区それぞれの食害率を算出することで忌避活性を評価した。
(実験結果)
【0063】
【表3】

【0064】
(実施例1)
純度100%のカリオフィレンオキサイドを、濃度が1%となるようエチルアルコールに溶解し、多孔性ケイ酸カルシウムの粒体(商品名:フローライト、株式会社トクヤマ製)に、25℃〜40℃で3時間含浸させ、カリフィレンオキサイドを忌避成分とするイネ吸汁性害虫の忌避組成物を製造した。
【0065】
ついで、得られたカリフィレンオキサイド含有忌避組成物を、ポリエステル製の不織布を三方製袋した袋に入れ、イネの固定用の忌避組成物を得た。
【0066】
(実施例2)
純度100%のカリオフィレンオキサイドを、濃度1%となるようエチルアルコールと精製水(2:1)の混液に溶解し、噴射剤として液化石油ガスとともに充填してエアゾール剤を得た。
【0067】
(実施例3)
エチルアルコールと精製水(3:1)の混液を用いる以外は、実施例2と同様にしてエアゾール剤を得た。
【0068】
(実施例4)
純度100%のカリオフィレンオキサイドを、カオリンとともに混合し、製粒して固形製剤として、加温しつつEVA(酢酸ビニル共重合体)樹脂に含有量が3%となるよう添加して混練する。得られた混練物を冷却してプレート状に成型して温室用の忌避用プレートを製造した。
【0069】
(実施例5)
カオリンに代えて、ゼオライトを用いる以外は実施例4と同様にして、忌避用プレートを製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とするイネ吸汁性害虫の忌避剤。
【請求項2】
イネ吸汁性害虫の生育域にカリオフィレンおよびその誘導体を有効成分とする忌避剤を施用することを特徴とするイネ吸汁性害虫の忌避方法。
【請求項3】
カリオフィレンおよびその誘導体と製剤助剤を含有してなるイネ吸汁性害虫の忌避組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−180163(P2010−180163A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25400(P2009−25400)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(591206142)京都リフレ新薬株式会社 (18)
【Fターム(参考)】