説明

イミド化アクリル樹脂の製造方法

【課題】臭気発生量が少なく、異物の少ないイミド化アクリル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】押出機を用いてイミド化反応を行うイミド化アクリル樹脂の製造方法であって、供給ゾーン、反応ゾーン、脱揮ゾーンを有した押出機を用い、下記の式で定義される混練度Mを1×10≦M≦1×10としてイミド化反応させ、さらに、反応ゾーンにおける反応時間を45sec以上340sec以下とすることを特徴とするイミド化アクリル樹脂の製造方法。M=(π/2)×(L/D)×D×(N/Q):ここで、Lは押出機長(mm)、Dは押出機バレル内径(mm)、Qは吐出量(kg/h)、Nはスクリュー回転数(rpm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド化アクリル樹脂の製造方法に関するものであり、特に臭気の少ないイミド化アクリル樹脂を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂は、その透明性や光学特性から光学レンズ、光拡散板、導光板などの光学用部品や各種保護フィルムや光学フィルムとして利用されている。
【0003】
アクリル樹脂の一つとしてイミド化アクリル樹脂が知られている(特許文献1参照)。イミド化アクリル樹脂は、樹脂中にオリゴマー成分以外にアミン類などの臭気成分が存在している。それにより、加熱成形加工時に揮発分の凝縮物が欠陥となる問題に加えて、作業所全体に臭気が広がるため、臭気を低減する必要がある。
【0004】
臭気成分を除去する方法として、押出機内に不活性ガス又は水蒸気を注入し接触させる方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
別の方法として、イミド化アクリル樹脂の製造時に脱揮を行う手法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/054311号
【特許文献2】特開平9−076324号
【特許文献3】特開2008−273140号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、臭気発生量が少なく、異物の少ないイミド化アクリル樹脂の製造方法を提供することである。
【0008】
特許文献2および3の手法では臭気の除去は不十分であり、脱揮だけでは臭気成分を十分に除去できない。さらに、特許文献2の方法は押出工程が増加し、樹脂に対する熱履歴も増加することで、樹脂の劣化を引き起こす。
【0009】
また、上記イミド化アクリル樹脂を成形加工する際に、脱臭設備を導入して臭気成分を処理する方法も考えられるが、脱臭設備の吸気により生じる気流により、成形加工時における寸法安定性などに影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究の結果、臭気成分は脱揮可能なイミド化剤等の反応物および副生成物以外に副生成物として生成したポリマー主鎖中のアクリルアミドが加熱分解により発生するアミン類が原因であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)押出機を用いてイミド化反応を行うイミド化アクリル樹脂の製造方法であって、供給ゾーン、反応ゾーン、脱揮ゾーンを有した押出機を用い、下記の式で定義される混練度Mを1×10〜1×10としてイミド化反応させ、さらに、反応ゾーンにおける反応時間を45sec以上340sec以下とすることを特徴とするイミド化アクリル樹脂の製造方法。M=(π2/2)×(L/D)×D×(N/Q):ここで、Lは押出機長(mm)、Dは押出機バレル内径(mm)、Qは吐出量(kg/h)、Nはスクリュー回転数(rpm)である(請求項1)、
(2)イミド化アクリル樹脂が、グルタルイミド単位の含有量が2〜80重量%、アクリルアミド単位の含有量が1重量%以下、であること特徴とする(1)に記載のイミド化アクリル樹脂の製造方法(請求項2)、
(3)イミド化アクリル樹脂の臭気指数が25以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のイミド化アクリル樹脂の製造方法(請求項3)、
(4)(1)から(3)のいずれか1項に記載の製造方法で得られたイミド化アクリル樹脂を加熱溶融することにより得られることを特徴とする成形加工品(請求項4)に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイミド化アクリル樹脂の製造方法により、臭気発生量が少なく、異物の少ないイミド化アクリル樹脂が得られる。特に、イミド化アクリル樹脂の成形加工時における臭気発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の押出機の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、臭気を判断する基準として、悪臭防止法で採用されている臭気指数を用いる。臭気指数とは、あらかじめ嗅覚が正常であることの検査に合格した被検者が臭気を感じなくなるまで試料を無臭空気で希釈したときの希釈倍率(臭気濃度)を求め、その常用対数値に10を乗じた数値である。なお、臭気指数の評価方法は、悪臭防止法で採用されている三点比較式臭袋法(悪臭防止法における臭気指数規制方式の公定法)に準じており、本発明におけるサンプル採取方法は後述する。
【0015】
上記測定方法によって算出した臭気指数が40を超える変性アクリル樹脂では、加工時の臭気が作業場所に広がるほど強く感じられるため好ましくない。30以下であれば、取り扱い、成形加工上好ましい。25以下であると、更に好ましい。
【0016】
本発明のイミド化アクリル樹脂とは、アクリル樹脂を変性したイミド基を有する樹脂をさす。たとえば、アクリル樹脂の官能基の一部を、イミド化変性したり、エステル化変性したりする反応があげられる。本発明の製造方法は、少なくとも下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド化アクリル樹脂に適用することができる製造方法である。
【0017】
イミド化アクリル樹脂としては、下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド化アクリル樹脂があげられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、R及びRは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜30の芳香環を含む置換基を示す。)好ましいグルタルイミド単位としては、R、Rが水素またはメチル基であり、Rが水素、メチル基、またはシクロヘキシル基である。Rがメチル基であり、Rが水素であり、Rがメチル基である場合が、特に好ましい。
【0020】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0021】
上記イミド化アクリル樹脂を構成する、第二の構成単位としては、下記一般式(2)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位である。
【0022】
【化2】

【0023】
(但し、R及びRは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜30の芳香環を含む置換基を示す。)前記(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物には、特に限定がなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、本発明に使用可能である。これらの中で、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0024】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0025】
さらに、本発明製造方法を適用可能なイミド化アクリル樹脂には、下記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含んでも良い。
【0026】
【化3】

【0027】
(但し、Rは、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0028】
イミド化アクリル樹脂の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、アクリル樹脂の1重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、1重量%から95重量%であり、より好ましくは1.5〜90重量%、さらに好ましくは、2〜80重量%である。グルタルイミド単位がこの範囲より小さい場合、得られるアクリル樹脂の耐熱性が不足し、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性が上がり、成形しにくくなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0029】
本発明のイミド化アクリル樹脂は、グルタルイミド単位の含有量が2〜80重量%、アクリルアミド単位の含有量が1重量%以下、であることが好ましい。
【0030】
イミド化アクリル樹脂は、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位をさらに含有していてもよい。アクリル樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、アクリル樹脂の総繰り返し単位を基準として、80重量%以下が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、1重量%から80重量%であり、より好ましくは1.5〜70重量%、さらに好ましくは、2〜60重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド化アクリル樹脂の耐熱性が不足するとともに、光弾性係数が小さくなることがある。
【0031】
さらに、本発明の製造方法を適用可能なイミド化アクリル樹脂には、必要に応じ、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらはアクリル樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0032】
製造方法を適用可能なメタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、イミド化反応が可能な(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物の単独もしくはこれらの共重合体もしくは(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物、およびスチレン系化合物を必須として含んでいれば、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても問題ない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0033】
また、本発明の製造方法で製造可能なイミド化アクリル樹脂は、特に10,000から200,000の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が上記の値以下の場合には、成形品の機械的強度が不足し、上記の値以上の場合には、溶融時の粘度が高く、成形時の生産性が低下することがある。
【0034】
また、本発明の製造方法で製造可能なイミド樹脂のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。
【0035】
また、本発明の製造方法で製造可能なイミド化アクリル樹脂は、樹脂ペレットを、Tダイを設置した押出機を用いてフィルム化し、そのフィルムの200mm中にある50ミクロン以上の異物の個数が10個以下であることが好ましい。上記の値以上の場合は外観を損なうため、光学フィルムとして不適である。
【0036】
本発明の製造方法で製造可能なイミド化アクリル樹脂には、必要に応じて、他のアクリル樹脂を添加することができる。
【0037】
本発明で使用される変性剤としてのイミド化剤はメタクリル酸メチルをイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミンが好ましい。
【0038】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0039】
また、本発明の製造方法で製造可能なイミド化アクリル樹脂は、イミド化の反応の際に未反応の一級アミンと各種の副生成物からなる不要な揮発成分が生じることがある。ポリメタクリル酸メチル樹脂にモノメチルアミンを処理する際のイミド化反応時の揮発成分はモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類、メタノール、水および樹脂のモノマーやオリゴマーなどが含まれる。その他のアクリル樹脂とその他の一級アミンを使用した場合も、各種アミン、各種アルコール、水、樹脂のモノマーやオリゴマーなどの揮発成分が生じる。これらの揮発成分はイミド化反応後に真空脱揮によって除去される。
【0040】
本発明のアクリル樹脂中にイミド化反応の中間生成物の酸基および酸無水物基が残存すると、溶融加工時に発泡したり、成形品に表面不良が生じたり、他の熱可塑性ポリマーとの相溶性が悪くなる。そのため、必要に応じてエステル化剤と反応させて非酸基および非無水物基へ転化させることが望ましい。
【0041】
本発明に用いる押出機としては、各種が使用できるが、特に混練能力が高い点で二軸押出機を適用するのが好ましく、さらに混練能力や生産性が高いことから同方向噛合型二軸押出機を適用するのが好ましい。また、押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。押出機から揮発分を除去するためのベントは、1箇所以上設置するのが好ましい。また、真空ベントの前段に大気ベントを設置することが望ましい。樹脂中の臭気成分除去時の圧力は、低いほど除去率が高くなるので好ましく、絶対圧10kPa以下が好ましい。
【0042】
押出機のL/Dは反応を行うため、40〜90が好ましく、60〜75が特に好ましい。L/Dが40未満である場合、変性反応が十分に進行できない。また91以上では樹脂の滞留時間が長くなり、熱劣化が進行してしまう。
【0043】
本発明における押出機の一例を図1に示す。押出機中のゾーン構成としては、図1に示すように、上流側から樹脂を供給し溶融させるゾーン(供給ゾーンと称す)、例えばイミド化剤や、エステル化剤等の変性剤と溶融樹脂とを反応させるゾーン(反応ゾーンと称す)と反応により生成された副生成物、未反応物や臭気成分を脱揮により除去するゾーン(脱揮ゾーン)と順に有していることが必要である。脱揮ゾーンはスクリューエレメントがフライトのみで構成されている箇所とし、反応ゾーンはエレメントがニーディング等により樹脂を滞留させる構成の箇所を指す。
【0044】
本発明は、押出機を用いてイミド化反応を行うイミド化アクリル樹脂の製造方法であって、供給ゾーン、反応ゾーン、脱揮ゾーンを有した押出機を用い、下記の式で定義される混練度Mを1×10〜1×10としてイミド化反応させ、さらに、反応ゾーンにおける反応時間を45sec以上340sec以下とすることを特徴とするイミド化アクリル樹脂の製造方法である。
【0045】
M=(π2/2)×(L/D)×D×(N/Q):ここで、Lは押出機長(mm)、Dは押出機バレル内径(mm)、Qは吐出量(kg/h)、Nはスクリュー回転数(rpm)である。
【0046】
反応ゾーンにおける反応時間(滞留時間)は45〜340secの範囲である。45sec以下ではイミド化反応が完結しないため所望のイミド化率とならず、さらには中間生成物量(アミド等)が増加してしまう。また、340sec以上では、イミド化反応は完結するが、熱による樹脂劣化が生じてしまい、異物が発生するなどの問題がある。
【0047】
イミド化アクリル樹脂の変性反応もしくは臭気成分を除去する際の押出温度は200〜350℃の範囲で行うのが好ましい。200〜330℃がより好ましく、250〜310℃がさらに好ましい。200℃以下ではポリマーの溶融粘度が高くなり装置の運転に大きな負荷がかかるとともに臭気成分の揮発が十分に行われず、また350℃以上では樹脂劣化が生じてしまう。
【0048】
変性反応時の押出機内圧は通常、0.1MPa〜30MPaの範囲内が好ましく、0.5MPa〜10MPaの範囲内がさらに好ましい。0.5MPa以下ではイミド化剤やエステル化剤の反応効率が低くなり、反応が進みにくくなる。10MPa以上では樹脂シールのための極端なスクリュー構成が必要であり、樹脂温度が高くなり樹脂の分解、着色を生じてしまう。
【0049】
押出機の回転数は、10rpm〜2000rpmが好ましく、さらには20rpm〜1000rpmがより好ましい。10rpm以下では生産性や脱揮効率が悪くなり、また2000rpm以上では、押出機主モーターの電力量が大きくなり、さらに樹脂の発熱も激しくなって樹脂劣化が生じてしまう。
【0050】
本発明によるイミド化アクリル樹脂は樹脂加工時に発生する臭気が少ないのが特徴である。
【0051】
本発明における混練度は、イミド化アクリル樹脂の製造法において、混練度M=(π2/2)×(L/D)×D×(N/Q)が1×10≦M≦1×10であることが重要である。Mが1×10未満ではイミド化反応が完結しないため所望のイミド化率とならず、さらにはアミドが増加してしまう。一方、Mが1×10を越えると反応は完結するが、過度のせん断力のために樹脂が劣化し、異物が発生しやすくなり好ましくない。即ち、混練度Mが本発明の要件を満足する場合のみ所望の物性を有したイミド化アクリル樹脂が得られることを見出し、完成されたものである。
【0052】
臭気指数の測定方法は下記のとおりである。アクリル樹脂を20g量りとり、100cmの密閉容器に入れ、270度に加温して30分保持した後、注射器で空間部分のガスを採取し、試料採取バッグに注入後、活性炭を通して無臭化処理した空気で所定の濃度に希釈して三点比較式臭袋法により測定する。三点比較式臭袋法とは、試料空気を無臭空気により一定の倍率となるように希釈して袋に詰めたもの1個と、同じ形状の袋に無臭空気を詰めたもの2個の計3個を一組にしたものを作成し、これをパネル(嗅覚を用いて臭気の有無を判定する人)に渡し、その袋の中から試料空気の入ったものを選び出す操作を繰り返し、無臭と判断された時の希釈倍数の常用対数値に10を乗じて臭気指数を算出する手法である。
【0053】
本イミド化アクリル樹脂中には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0054】
本発明によるイミド化アクリル樹脂は、高い引張強度および曲げ強度、耐溶剤性、熱安定性、良好な光学特性、耐候性などの特性を有している。
【0055】
本発明で得られるイミド化アクリル樹脂はそれ自体で用いてもよく、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしても構わない。アクリル樹脂単独、または他の熱可塑性樹脂とのブレンドは、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。また、塩化メチレンなどの本発明で得られるアクリル樹脂を溶解する溶剤に溶解させ、得られるポリマー溶液を用いる流延法によっても成形可能である。
【0056】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0057】
本発明のイミド化アクリル樹脂を加熱溶融することにより得られる成形加工品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。また、上記成形品は必ずしも加熱溶融して成形する必要は無く、溶媒に溶解して成形することも可能である。
【実施例】
【0058】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法はつぎのとおりである。
【0059】
(1)アクリルアミド量の測定
樹脂を15mg量りとり、1gの重クロロホルムに溶解した後、NMR測定を行った。得られたスペクトルからアクリルアミドの定量を行った。
【0060】
(2)メチルアミン量の測定
樹脂を100mg量りとり、2gの塩化メチレンに溶解した後、GC分析によりモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンの定量を行った。
【0061】
(3)臭気指数の測定
樹脂を20g量りとり、100cmの密閉容器に入れ、270度に加温して30分保持した後、注射器で注射器で空間部分のガスを採取し、試料採取バッグに注入後、活性炭を通して無臭化処理した空気で所定の濃度に希釈して三点比較式臭袋法により測定した。
【0062】
(4)異物観察
得られた樹脂ペレットを、Tダイを設置した押出機を用いてフィルム化した。そのフィルムの200mm中にある50ミクロン以上の異物の個数を数えた。
【0063】
(実施例1)
ポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw=105,000)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド化アクリル樹脂を製造した。使用した押出機は口径40mm、L/D=60の噛合い型同方向回転式二軸押出機であり、反応ゾーンはスクリューのエレメント構成を任意の構成とし、反応時間が50secになるように設計した。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230〜250℃、スクリュー回転数は20rpmとした。ホッパーから樹脂を35kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルを用いて樹脂に対して1.8重量部のモノメチルアミンを注入した。その後、反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を絶対圧10kPa以下に減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は1.0重量%であった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は25であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、スクリュー回転数を180回転にした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は樹脂中に存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は18であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、反応ゾーンの反応時間を300secにした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は0.6重量%であった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は20であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0066】
(実施例4)
実施例2において、反応ゾーンの反応時間を300secにした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は樹脂中に含まれていなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は12であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、スクリュー回転数を100回転、反応時間を60secにした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は樹脂中に存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は15であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0068】
(実施例6)
実施例1において、スクリュー回転数を100回転、反応時間を240secにした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は樹脂中に存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は20であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0069】
(比較例1)
実施例1において、反応ゾーンの反応時間を40sec、スクリュー回転数を80回転にした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は2.2重量%含まれていた。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は36であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0070】
(比較例2)
実施例1において、反応ゾーンの反応時間を350sec、スクリュー回転数を80回転にした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は樹脂中に存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は14であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0071】
(比較例3)
実施例1において、スクリュー回転数を17回転にした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位を3.0重量%存在していた。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は14であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0072】
(比較例4)
実施例1において、スクリュー回転数を200回転にした以外は全て実施例1と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は19であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0073】
(比較例5)
実施例3において、スクリュー回転数を17回転にした以外は全て実施例3と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は31であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0074】
(比較例6)
実施例3において、スクリュー回転数を200回転にした以外は全て実施例3と同様にしてイミド化アクリル樹脂を得た。得られたイミド化アクリル樹脂中のアクリルアミド含有量をNMRにより定量分析を行った。その結果、アクリルアミド単位は存在していなかった。また、GC分析によりメチルアミン量を定量したところ、いずれのアミンも検出されなかった。さらに、臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、得られたイミド化アクリル樹脂の臭気指数は11であった。また、異物数を測定した結果は表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
(異物数の結果)
反応ゾーンの反応時間が350secの条件、混練度Mが1×10以上は臭気に問題は無いが、異物数が大幅に増大するため、好ましくない。
【符号の説明】
【0077】
1 溶融ゾーン
2 反応ゾーン
3 脱揮ゾーン
4 ダイス
5 真空ベント
6 フィーダー
7 ホッパー
8 変性剤タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機を用いてイミド化反応を行うイミド化アクリル樹脂の製造方法であって、供給ゾーン、反応ゾーン、脱揮ゾーンを有した押出機を用い、下記の式で定義される混練度Mを1×10≦M≦1×10としてイミド化反応させ、さらに、反応ゾーンにおける反応時間を45sec以上340sec以下とすることを特徴とするイミド化アクリル樹脂の製造方法。M=(π2/2)×(L/D)×D×(N/Q):ここで、Lは押出機長(mm)、Dは押出機バレル内径(mm)、Qは吐出量(kg/h)、Nはスクリュー回転数(rpm)である。
【請求項2】
イミド化アクリル樹脂が、グルタルイミド単位の含有量が2〜80重量%、アクリルアミド単位の含有量が1重量%以下、であること特徴とする請求項1に記載のイミド化アクリル樹脂の製造方法。
【請求項3】
イミド化アクリル樹脂の臭気指数が25以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のイミド化アクリル樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法で得られたイミド化アクリル樹脂を加熱溶融することにより得られることを特徴とする成形加工品。


【図1】
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【公開番号】特開2012−153743(P2012−153743A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11223(P2011−11223)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】