説明

イミノ糖類の定量方法

【課題】経済的で簡便な方法でありながら精度よくイミノ糖類の検出及び定量を行うことができるイミノ糖類の検出方法を提供する。
【解決手段】イミノ糖類を含有する試料を液体クロマトグラフィーに導入する。液体クロマトグラフィーのカラムから流出した試料を示差屈折率計に導入してイミノ糖類を検出して定量する。安価な示差屈折率計を用いることができる。液体クロマトグラフィーにより試料中の夾雑物を除去することにより、クロマトグラムが複雑にならず容易にイミノ糖類を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物など抽出液や医薬品、健康食品などに含まれているイミノ糖類を精度よく検出するための検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1-deoxynojirimycin(以下「DNJ」と略称)、1-deoxymannojirimycin(以下「DMJ」と略称)及びピロリジン骨格を有する2,5-dideoxy-2,5-imino-D-mannitol(以下「DMDP」と略称)などのイミノ糖類は、α−グルコシダーゼの活性を阻害して血糖上昇を抑える作用があることが知られている(特許文献1参照)。これらのイミノ糖類はアオバナ、桑葉、オオボウシバナ、ツユクサなどの植物に多く含まれており、これらの植物を熱水抽出などに供し、イミノ糖類を含む抽出液を得て利用している。
【0003】
特許文献1において、抽出液中のイミノ糖類の含有量は、高速液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により定量しているが、質量分析計は非常に高価な分析機器であり、大学などの専門機関で使用されているだけで一般的に広く用いられているものではないため、イミノ糖類の検出や定量にコストや時間がかかるという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、DNJを含む試料を液体クロマトグラフィーで分離した後、光散乱検出器でDNJの含有量を測定することが行われている。しかし、光散乱検出器も高価な検出器であって汎用されておらず、また、得られるクロマトグラムも複雑となって、精度よくDNJの定量を行うことが難しいという問題があった。
【特許文献1】特開2002−316935号公報
【特許文献2】特開2004−294384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、経済的で簡便な方法でありながら精度よくイミノ糖類の検出及び定量を行うことができるイミノ糖類の定量方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るイミノ糖類の定量方法は、イミノ糖類を検出して定量する方法であって、イミノ糖類を含有する試料を液体クロマトグラフィーに導入し、液体クロマトグラフィーのカラムから流出した試料を示差屈折率計に導入してイミノ糖類を検出して定量することを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に係るイミノ糖類の定量方法は、請求項1に加えて、イミノ糖類を含有する原料を溶媒に浸漬して抽出液を得た後、この抽出液を陽イオン交換樹脂に通液して陽イオン交換樹脂にイミノ糖類を吸着させ、この後、陽イオン交換樹脂に吸着したイミノ糖類をアンモニア溶液で溶出することによって、イミノ糖類を含有する試料を調製することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、安価な示差屈折率計を用いることにより、経済的で簡便な方法でイミノ糖類の検出及び定量が可能であり、クロマトグラムが複雑にならず容易にイミノ糖類を検出することができ、精度よくイミノ糖類の検出及び定量を行うことができるものである。
【0009】
請求項2の発明では、液体クロマトグラフィーに供する前の試料中から夾雑物を除去することができ、クロマトグラムが複雑にならず、さらに精度よくイミノ糖類の検出及び定量を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0011】
本発明ではアオバナ、桑、オオボウシバナ、ツユクサなどの植物に含まれているイミノ糖類の検出及び定量を行うことができる。イミノ糖類としては、以下の化学式で示すDNJ、DMJ、DMDPを例示することができ、本発明ではDNJ、DMJ、DMDPのうちの少なくとも一つの検出及び定量を行うことができる。本発明において「イミノ糖類」とは、単糖の環内酸素原子をイミノ基で置換した化合物であって、1位の水酸基が水素原子になった化合物や誘導体(5員環になっている化合物も含む)である。
【0012】
【化1】

【0013】
植物に由来するイミノ糖類を含有する試料を調製するにあたっては、次のようにして行う。まず、上記植物の全草(茎、葉、根、花などの各種部位)を乾燥してイミノ糖類を含有する原料を得る。ここで、乾燥条件は室温〜60℃で12〜48時間とすることができる。また、原料は乾燥後に粉砕した粉体(乾燥済み原末)とするのが好ましい。尚、医薬品や健康食品に含まれているイミノ糖類を検出したり定量したりする場合は、上記植物の乾燥粉末物の代わりに医薬品や健康食品を原料として用いることができる。
【0014】
次に、上記の原料を溶媒に浸漬してイミノ糖類の抽出を行う。抽出に用いる溶媒としては、水やアルコールを用いることができ、アルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることができる。また、これらの水や溶媒は単独あるいは任意の比率で混合した混合溶媒を用いることもできる。水とアルコールの混合溶媒を用いる場合は、その混合比率をアルコール濃度で0〜100%にすることができる。また、抽出は超音波抽出法などを用いることができ、原料1gに対して10〜50ミリリットルの割合で溶媒を配合し、これに超音波を付与して行うことができる。また、抽出は溶液温度を室温〜90℃、抽出時間10〜120分間で行うことができる。そして、抽出後の原料を含む溶媒の上澄み液を濾紙で濾過して抽出液を得ることができる。
【0015】
次に、上記の抽出液を減圧濃縮することによって、イミノ糖類を含有する濃縮物を得る。ここで、減圧濃縮の際の圧力は50〜100Pa、温度は室温〜40℃とすることができる。また、濃縮の割合は30〜100%とするのが好ましい。
【0016】
次に、上記濃縮物を所定量の水などの溶媒に溶解した後、この溶液を濾紙で濾過して濾液を得る。
【0017】
次に、この濾液の一定量を正確に量り、これを陽イオン交換樹脂に通液してイミノ糖類を陽イオン交換樹脂に吸着させる。陽イオン交換樹脂としては、弱酸性陽イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂のいずれも用いることができる。弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、オルガノ株式会社製のアンバーライトFPC3500などを用いることができ、強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、オルガノ株式会社製のアンバーライトIR120BHAGなどを用いることができる。また、この濾液を通液するにあたってはカートリッジ式の固相抽出を用いてもよい。尚、濾液を通液する前に、予め、陽イオン交換樹脂を2M水酸化ナトリウム、2M塩酸にてコンディショニングをしておくのが好ましい。また、強酸性陽イオン交換樹脂としては、上記のアンバーライト120BHAG代替品として以下のようなものを使用することができる。
<三菱化学社製>
・ダイヤイオンSKシリーズ(SK1B、SK104、SK110、SK112、SK116)
・ダイヤイオンPKシリーズ(PK208、PK212、PK216、PK220、PK228)
・ダイヤイオンUBKシリーズ(UBK530、UBK550、UBK535、UBK555)
<日本バイオラッド社製>
・AG−50W
・AG−MP50
次に、イミノ糖類を吸着した上記陽イオン交換樹脂を水洗し、次にメタノールなどアルコールで洗浄した後、この陽イオン交換樹脂にアンモニア溶液を通液することによって、陽イオン交換樹脂に吸着したイミノ糖類を溶出させて捕集する。アンモニア溶液としては濃度0.01〜28%のアンモニア水溶液を用いることができる。この濃度以外のアンモニア水溶液を用いると、効率よくイミノ糖類を溶出させることができないことがある。また、濃度0.01〜28%のアンモニア水溶液に有機溶媒を配合してもよい。この場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどの水との相溶性が高い(よく混和する)有機溶媒を用いることができ、濃度0.01〜28%のアンモニア水溶液の全体積に対して100%(等量)以下で配合することが好ましい。そして、アンモニア水溶液に有機溶媒を配合することによって、配合しない場合に比べて、さらに効率よくイミノ糖類を陽イオン交換樹脂から溶出させることができ、精度よくイミノ糖類の検出及び定量を行うことができるものである。
【0018】
次に、イミノ糖類を溶出した上記アンモニア溶液から溶媒を留去して残留物を得る。この溶媒の留去は50〜100Paの減圧下で水浴中で行うことができる。次に、上記の残留物をアセトニトリルと水との混合溶媒に溶解し、必要に応じて、アミノ基を有する固相抽出カートリッジカラム(ウォーターズ株式会社製セップパックNH等)に残留物を溶解した溶液を通液することによって、本発明で用いる試料とすることができる。この場合、アセトニトリルと水の混合比率は容量比でアセトニトリル:水=4:6〜6:4とすることができる。尚、カラムは試料を通液する前に、予め、50%(V/V%)のアセトニトリルと水との混液を通液してコンディショニングしておくのが好ましい。
【0019】
尚、アミノ基を有する固相抽出カートリッジカラムとしては、セップパックNH代替品として以下のようなものを使用することができる。
<ジーエルサイエンス社製>
・ボンドエルートレギュラー[イオン交換]NHアミノプロピル
・ボンドエルートLRCタイプイオン交換相NHアミノプロピル
・メガボンドエルートイオン交換相NHアミノプロピル
・ボンドエルートハイフローレギュラー[イオン交換]NHHFアミノプロピル
・メガボンドエルートハイフローイオン交換相NHアミノプロピル
・ボンドエルートLRCハイフロータイプイオン交換相NHHFアミノプロピル
・ボンドエルートジュニアイオン交換相NHアミノプロピル
・固相抽出用充填剤 ボンデシル イオン交換NHアミノプロピル
・ボンドエルートマトリックス NHアミノプロピル
・バーサプレートTM NH
<phenomenex社製>
・Strata NH
・Strata96ウェルプレート NH
・SEPRATMバルク充填剤イオン交換 NH
<オルテック社製>
・SPE 固相抽出充填剤 順相 アミノプロピルNH
・NH エクストラクトクリーン ウルトラクリーンSPE 固相抽出
・NHロボット用エクストラクトクリーンEV 固相抽出
・NH マキシクリーン SPE 固相抽出カートリッジ
・固相抽出 バルク充填剤 極性吸着剤 NH
<メルク社製>
・リクロルート抽出カラムNH
本発明では、上記のように調製した試料を液体クロマトグラフィーに導入する。液体クロマトグラフィーとしては高速液体クロマトグラフィーを用いることができ、そのカラム(固定相)としては、イミノ糖類の分離性能の観点から、シリカゲルなどの担体にアミド基などの極性基を化学結合させたものが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0020】
液体クロマトグラフィーで用いる移動相としては、イミノ糖類が溶解するような水及び有機溶媒の混合溶液を使用することができる。有機溶媒としては、水と混和できるものであれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等を例示することができる。本発明においては、極性溶媒、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール等を使用するのが好ましく、特に、水とアセトニトリルの混合溶液を使用するのが好ましい。水と有機溶媒の混合比率は1:9〜9:1とすることができ、好ましくは、5:5〜1:9である。また、移動相には塩を用いず、中性付近(pH5〜7)にて分離を行うのが好ましい。これにより、液体クロマトグラフィー内での塩の析出がなく、また、酸性物質を移動相に添加する必要がないので、カラムや液体クロマトグラフィーの機器本体への負担が少なく、使用後のメンテナンスも容易に行うことができる。また、カラム温度は室温〜50℃、流速は0.5〜1.5ミリリットル/分とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明では、上記のように液体クロマトグラフィーに導入した試料をカラムから流出させながら示差屈折率計(RI検出器)に導入する。示差屈折率計としては従来から化学分析に使用されているものを用いることができ、例えば、昭和電工(株)製のshodex RI-101などを用いることができる。そして、示差屈折率計によりクロマトグラムを得て、そのピークの位置(クロマトグラム上の保持時間)により上記各種のイミノ糖類を特定して検出することができる。また、各ピークの面積を算出することにより、試料に含まれている各種のイミノ糖類を定量することができる。この場合、各種のイミノ糖類の既知のクロマトグラムのデータと、試料の測定により得られるクロマトグラムのデータとを対比することによって、試料における各種のイミノ糖類の特定と定量とを行うことができる。つまり、試料とは別に、各種のイミノ糖類の含有量が判明している標準溶液を作製し、これを試料と同様の方法で液体クロマトグラフィーと示差屈折率計で分析してクロマトグラムを得、標準溶液のクロマトグラムと試料のクロマトグラムと比較することによって、試料における各種のイミノ糖類の特定と定量を行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0023】
[試料1の作製]
アオバナ原生薬(滋賀県草津市で栽培したアオバナの全草(茎、葉、根、花))を60℃24時間の条件で乾燥し、これを粉砕してアオバナ乾燥済み原料として得た。次に、この原料を17g精秤した後、300ミリリットルの水に浸漬し、室温で超音波抽出10分間行った。この液を濾紙で濾過して抽出液を得た。次に、濾過した残渣を200ミリリットルの水に浸漬し、上記と同様の超音波抽出を行い、この液を濾紙で濾過して抽出液を得た。次に、濾過した残渣を300ミリリットルの水に浸漬し、上記と同様の超音波抽出を行い、この液を濾紙で濾過して抽出液を得た。尚、上記の抽出では水100%を用いたが、その代わりに濃度50%メタノールを用いることもできる。
【0024】
上記の3回の抽出で得られた全抽出液を合わせた後、抽出液を圧力50〜100Pa、室温〜40℃、濃縮割合80〜100%の条件で減圧濃縮することによって濃縮物を得た。次に、上記濃縮物を水で50ミリリットルに定容し、この溶液を濾紙で濾過して濾液を得た。次に、この濾液10ミリリットルを正確に量り、これを50ccの強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製のアンバーライトIR120BHAG)に通液した。尚、濾液を通液する前に、予め、強酸性陽イオン交換樹脂を2M水酸化ナトリウム、2M塩酸にてコンディショニングをした。
【0025】
上記強酸性陽イオン交換樹脂を150ミリリットルの水で水洗した後、30ミリリットルのメタノールで洗浄し、さらに100ミリリットルの水で水洗した。この強酸性陽イオン交換樹脂に濃度2%のアンモニア水溶液を80ミリリットル通液し、イミノ糖類を捕集した。次に、上記の通液後のアンモニア水溶液からアンモニア水を留去して1ミリリットルの残留物を得た。アンモニア水の留去は50〜100Paの減圧下で水浴中で行った。次に、上記の残留物をアセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率が容量比でアセトニトリル:水=5:5)に溶解し、アミノ基を有する固相抽出カートリッジカラム(ウォーターズ株式会社製セップパックNH等)に、残留物を溶解した溶液を通液し、通過液を捕集し減圧下水浴上で溶媒を留去した。残留物にアセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率は容量比でアセトニトリル:水=4:6)を加えて試料1を得た。
【0026】
[試料2の作製]
アオバナの代わりに、桑葉(徳島県池田市で栽培した桑の葉)を用いた以外は試料1と同様にして試料2を得た。
【0027】
[試料3の作製]
アオバナの代わりに、ツユクサ(徳島県池田市で栽培したツユクサの全草)を用いた以外は試料1と同様にして試料3を得た。
【0028】
(実施例1)
高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製のLC10AD)と示差屈折率計(昭和電工(株)製のshodex RI-101)を用いて試料1〜3のクロマトグラムを得た。図1(a)は試料1の、図1(b)は試料2の、図1(c)は試料3のクロマトグラムをそれぞれ示す。尚、このクロマトグラムの縦軸は信号強度である。
【0029】
実施例で用いた高速液体クロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
カラム:アミノプロピルシリル化シリカゲル(Cosmosil Packed ColumnSUGAR-D(4.6×250mm)、同ガードカラム)
移動相:アセトニトリル:水=75:25(w/w%)の混合溶媒をメンブランフィルター(耐水性用、0.45μm)で濾過した後、脱気したもの
カラム温度:35℃
流速:0.8ミリリットル/分(DNJの保持時間が約19分になるように調整する)
(比較例1)
示差屈折率計の代わりに、紫外可視分光光度計(UV、VIS検出器)(島津製作所製のSPD20A)を用いた以外は、上記と同様にして試料1〜3のクロマトグラムを得た。図2(a)は試料1の、図2(b)は試料2の、図2(c)は試料3のクロマトグラムをそれぞれ示す。尚、このクロマトグラムの縦軸は信号強度である。
【0030】
(比較例2)
示差屈折率計の代わりに、質量分析計(日立製作所製のM8000型LC/3DQMS)を用いた以外は、上記と同様にして試料1のクロマトグラムとマススペクトルを得た。図3(a)は分子量(m/z)50〜200についてのクロマトグラムであり、図3(b)は分子量(m/z)164におけるクロマトグラムである。図4(a)はDNJを同定するためのマススペクトル、図4(b)はDMDPを同定するためのマススペクトルである。
【0031】
図1と図2とを対比すると、図1ではノイズのピークが少なく、DNJ、DMJ、DMDPのピークが明確で容易に判別できるのに対して、図2ではノイズのピークが多くて、DNJ、DMJ、DMDPのピークが不明確で判別しにくい。これは、植物から得られた試料中に紫外光及び可視光領域で吸収する有機物が多く含まれているため、比較例1では実施例に比べて複雑なクロマトグラムになると考えられる。尚、紫外可視分光光度計では、目的とする化合物がUV領域に吸収を持つ化合物でないと検出できない。イミノ糖類はUV領域に吸収を持たないため、FMOC(9-フルオレニルクロロフォルメート)などを用いてUV領域に吸収を持つ化合物に誘導体化することにより検出可能であるが、試料調製に時間がかかり、操作も煩雑になる上、クロマトグラムも複雑になる場合が多く、このような場合には定量性に欠けることが多い。また、低波長側でのイミノ糖類の分析に際しては、他の化合物とピークが重なり定量できないことが多い。
【0032】
また、図3ではノイズのピークが少なく、DNJ、DMJ、DMDPのピークが判別でき、特に、図3(b)ではDNJ、DMJ、DMDPのピークが明確で容易に判別できる。しかし、質量分析計は高価であり、汎用されていない。また、夾雑物質の存在下での分析と純度の高い標準品とを分析する場合は、イオン化条件が異なる場合もあり、分析に熟練を要する。また、多検体の連続分析が困難である。
【0033】
尚、図5に特許文献2の図1を示す。これは、光散乱検出器を用いたクロマトグラムであるが、ノイズのピークが多くて、DNJ、DMJ、DMDPのピークが不明確で判別しにくい。また、光散乱検出器は示差屈折率計に比べて高価であり、汎用もされていない。
【0034】
[アオバナ原生薬中のDNJの定量用の試料溶液の作製]
上記試料1と同様にして試料溶液を作製した。すなわち、乾燥したアオバナ原生薬を粉砕後、それを17g正確に量り約90℃以上の熱水300ミリリットルで120分間抽出し濾紙で濾過した。この濾液に対して減圧下、水浴中で溶媒を留去した後、水で50ミリリットルに定容する。この液10ミリリットルを正確に量り、これを強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製のアンバーライトIR120BHAG)に通液後水洗し、メタノール洗浄し、次に2%アンモニア水溶液でイミノ糖類の画分を捕集した。
【0035】
次に、イミノ糖類の画分を捕集した液を減圧下水浴上で溶媒を留去し、この後、アセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率は容量比で5:5)に溶解し、予めコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ株式会社製セップパックNH等)に通液し通過液を捕集する。次に、この液を減圧下水浴上で溶媒を留去した後、アセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率は容量比で4:6)1ミリリットルを正確に加えて試料溶液とした。尚、試料溶液は同様の操作を行って5種類(原生薬試料1〜5)作製した。
【0036】
[アオバナエキス末中のDNJの定量用の試料溶液の作製]
アオバナエキス末2.5gを正確に量り、水を加えてよく混和させながら正確に50ミリリットルとする。この液を濾紙濾過した後、10ミリリットルを正確に量り、これを強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製のアンバーライトIR120BHAG)に通液後水洗し、メタノール洗浄し、次に2%アンモニア水溶液でイミノ糖類の画分を捕集した。
【0037】
次に、イミノ糖類の画分を捕集した液に対して減圧下水浴上で溶媒を留去し、この後、アセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率は容量比で5:5)に溶解し、予めコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ株式会社製セップパックNH等)に通液し通過液を捕集する。次に、この液を減圧下水浴上で溶媒を留去した後、アセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率は容量比で4:6)1ミリリットルを正確に加えて試料溶液とした。
【0038】
尚、試料溶液は同様の操作を行って3種類(エキス末試料1〜3)作製した。
【0039】
[DNJの定量用の標準溶液の作製]
DNJ標準品(和光純薬工業製の1−デオキシノジリマイシン)5ミリグラムを秤量し、これにアセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率が容積比で4:6)を正確に10ミリリットル加えて標準溶液とした。
【0040】
(実施例2)
アオバナ原生薬から得られた試料溶液と標準溶液とを20マイクロリットル量り、上記の実施例1と同様にして液体クロマトグラフィーと示差屈折率計を用いて試料溶液と標準溶液のクロマトグラムを得て、この標準溶液のクロマトグラム中のDNJのピーク面積に対する試料溶液のクロマトグラム中のDNJのピーク面積を求めて、アオバナ原生薬中のDNJの含有率を測定した。この測定にあたっては、以下の式(1)(2)を用いた。
DNJの検出量(mg)=DNJ標準品の使用量×(試料溶液のクロマトグラムのDNJ のピーク面積)/(標準溶液のクロマトグラムのDNJのピーク面積)…(1)
DNJの含有率(%)=DNJの検出量/アオバナ原生薬の使用量×100…(2)
(実施例3)
アオバナエキス末から得られた試料溶液を用いた以外は、実施例2と同様にしてアオバナエキス末中のDNJの含有率を測定した。尚、上記式(1)(2)中の「アオバナ原生薬」は「アオバナエキス末」と読み替えて使用した。
【0041】
(比較例3)
比較例2と同様にして液体クロマトグラフィーと質量分析計を用いて、アオバナ原生薬から得られた試料溶液と標準溶液のクロマトグラムを得た以外は、実施例2と同様にしてアオバナ原生薬中のDNJの含有率を測定した。
【0042】
(比較例4)
アオバナエキス末から得られた試料溶液を用いた以外は、比較例3と同様にしてアオバナエキス末中のDNJの含有率を測定した。
【0043】
実施例2、3及び比較例3、4の結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、示差屈折率計を用いた実施例2、3によるDNJの含有率の定量値と、質量分析計を用いた比較例3、4によるDNJの含有率の定量値とは、ほぼ同等の結果を示す。従って、本発明は、現在最も正確に定量できる質量分析計を用いた場合と同等の性能を有するものである。尚、本発明の定量値(n=3)のバラツキはCV=2〜3%であり、良好である。
【0046】
[検量線作成用の試料溶液の作製]
1−デオキシノジリマイシン(和光純薬工業製)10ミリグラムを正確に量り、アセトニトリルと水との混合溶媒(配合比率が容積比で4:6)で10ミリリットルに定容する。この液を上記溶媒で適宜希釈し、この後、実施例1と同様の液体クロマトグラフィーと示差屈折率計を用いてクロマトグラムを得て、このクロマトグラムからDNJのピーク面積を求め、横軸に濃度、縦軸にピーク面積値をプロットし、回帰分析を行って検量線を得た。この結果を図6に示す。この検量線は回帰式<y=679815x−16109>、相関係数<r=0.9992>となり、良好な直線が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明で得られるクロマトグラムを示し、(a)は試料1、(b)は試料2、(c)は試料3のクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図2】紫外可視分光光度計を用いた場合のクロマトグラムを示し、(a)は試料1、(b)は試料2、(c)は試料3のクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図3】質量分析計を用いた場合のクロマトグラムを示し、(a)は試料1の分子量(m/z)50〜200についてクロマトグラム、(b)は試料1の分子量(m/z)164についてクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図4】(a)(b)は試料1についての質量分析計を用いた場合のマススペクトルを示す。
【図5】光散乱検出器を用いた場合のクロマトグラムを示す。
【図6】本発明で得られるDNJの検量線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミノ糖類を検出して定量する方法であって、イミノ糖類を含有する試料を液体クロマトグラフィーに導入し、液体クロマトグラフィーのカラムから流出した試料を示差屈折率計に導入してイミノ糖類を検出して定量することを特徴とするイミノ糖類の定量方法。
【請求項2】
イミノ糖類を含有する原料を溶媒に浸漬して抽出液を得た後、この抽出液を陽イオン交換樹脂に通液して陽イオン交換樹脂にイミノ糖類を吸着させ、この後、陽イオン交換樹脂に吸着したイミノ糖類をアンモニア溶液で溶出することによって、イミノ糖類を含有する試料を調製することを特徴とする請求項1に記載のイミノ糖類の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−151662(P2008−151662A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340388(P2006−340388)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000132323)株式会社スピルリナ研究所 (6)
【出願人】(397014558)株式会社ヤマダ薬研 (4)
【出願人】(504127706)太邦株式会社 (2)