説明

イムノグロブリン親和性リガンド

【課題】
本発明は、高いイムノグロブリン結合能と化学的安定性を兼ね備え、かつ安価に製造可能なイムノグロブリンのアフィニティクロマトグラフィー用担体を提供することを課題とする。
【解決手段】
イムノグロブリン結合領域であるヘリックス1およびへリックス2のタンパク質表面に存在するリジン残基数を可能な限り減少させるとともに、へリックス3およびその周辺のタンパク質表面に可能な限りリジン残基数を増加させるアミノ酸置換、および前記リジン残基数を増加させるアミノ酸置換ならびにアスパラギン酸−プロリンの配列を排除するアミノ酸置換を行ったイムノグロブリン結合タンパク質、もしくはその多量体を、アフィニティクロマトグラフィー用担体の親和性リガンドとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノグロブリンに親和性のあるタンパク質に関するものであり、より詳しくは、アフィニティクロマトグラフィ用の親和性リガンドとしての性質が改良されたイムノグロブリン結合タンパク質の改変タンパク質に関する。また、本発明は該改変タンパク質のイムノグロブリン親和性リガンドとしての使用、ならびに、アフィニティ分離マトリックスへの使用に関する。
【0002】
[定義]
本発明において、「タンパク質」とは、ペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、天然型タンパク質の部分的断片や天然型の配列を人為的に改変した変異体を含む。「イムノグロブリン結合ドメイン」とは、単独でイムノグロブリン結合活性を有するポリペプチドの機能単位を指し、「イムノグロブリン結合タンパク質」とは、イムノグロブリンに特異的な親和性を有するタンパク質であって、イムノグロブリンと非共有結合する「イムノグロブリン結合ドメイン」を含んで成るタンパク質をいう。
【0003】
イムノグロブリン結合タンパク質の「等機能変異体(functional variant)」とは、部分的なアミノ酸の付加、削除、置換、アミノ酸残基の化学的修飾等により改変されたイムノグロブリン結合タンパク質であって、改変前のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を保持し、かつイムノグロブリン結合活性を含む機能的特性において、改変前のタンパク質と同等のものとして扱うことができるものを意味する。
【0004】
「親和性リガンド」とは、特異的親和力により特定の分子と結合する性質をもつ分子のことをいい、本発明においては、イムノグロブリンを選択的に結合できるイムノグロブリン結合タンパク質を指す。なお、単に「リガンド」と呼ぶこともある。「アフィニティクロマトグラフィ用担体」とは、不溶性担体に親和性リガンドを固定化させた担体をいう。固定化とは、不溶性担体に親和性リガンドを共有結合させることをいい、これによって不溶性担体が標的分子(イムノグロブリン)の親和性吸着体となる。
またリガンドを不溶性担体に固定化する際の「イムノグロブリンに対する親和性を保持するための配向性が向上する」とは、不溶性担体への固定化反応において、リガンド分子がイムノグロブリンと結合できる方向に固定化される割合が増大することをいい、結果として固定化されたリガンドの単位分子数あたりに結合できるイムノグロブリン量が増加することを指す。
【背景技術】
【0005】
近年バイオ関連分野における研究や製薬産業において、純度の高いタンパク質試薬やタンパク質医薬の需要は高い。高純度のタンパク質の製造方法としては、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ等の様々な原理による精製過程が採用されるが、なかでもアフィニティクロマトグラフィは目的タンパク質と夾雑物を分離しつつ、目的タンパク質を濃縮する効率が極めて高い優れた方法である。アフィニティクロマトグラフィにおいては、目的のタンパク質と特異的な親和性を示す分子をリガンドとして結合させた不溶性担体に目的タンパク質を吸着させることで夾雑物と分離するが、しばしばそのリガンド分子としてタンパク質が用いられる。
【0006】
プロテインAは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のタンパク質であり、Eドメイン、Dドメイン、Aドメイン、BドメインおよびCドメインと呼ばれる相同性を有する5つのイムノグロブリン結合ドメインの繰り返し構造を有する。イムノグロブリン結合ドメインは、1個だけでイムノグロブリンに結合することが知られており(非特許文献1)、天然型のプロテインAとならんで、アミノ酸配列が部分的に改変されたイムノグロブリン結合ドメインのみから成る組換えタンパク質もアフィニティクロマトグラフィ用の親和性リガンドとして広く利用されている。またスタフィロコッカスはプロテインA以外にもイムノグロブリンに結合する性質を持ったタンパク質を発現していることが知られており(特許文献1)、このタンパク質の部分構造にはプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインとアミノ酸配列において45%程度の相同性をもつ領域が含まれている。しかしこのイムノグロブリン結合ドメインについて、酸性およびアルカリ性pH条件における化学的安定性等、親和性リガンドとしての有用性は不明である。
【0007】
プロテインAについては、IgGとの結合の特異性および結合容量、並びに天然プロテインAを基本にした他の吸着剤と少なくとも同程度またはそれ以上の化学的安定性を有する吸着媒体を提供することを目的として、1個のシステイン残基を導入したプロテインA(rProtein A cys)をリガンドとして用い、これをチオエステル結合を介してアフィニティ担体に1点で固定化する技術(特許文献2)が提案されている。また、上記Protein A cysを固定化したアフィニティクロマトグラフィ担体などに代表される抗体精製用アフィニティ担体の問題点である固定化部位の化学的安定性とそれに由来する殺菌・洗浄工程における問題を解決しつつ、より高い抗体分子の吸着量を達成することを目的として、1級アミノ基を有するポリマー化合物を導入した担体にC末端カルボキシル基選択的にアミド結合を介して固定化する技術(特許文献3)が提案されている。
さらに、特許文献4では、例えばスタフィロコッカスのプロテインAのBドメインのように、免疫グロブリン分子の相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができるタンパク質から誘導できる免疫グロブリン結合タンパク質であって、1以上のアスパラギン残基がグルタミンまたはアスパラギン酸以外のアミノ酸に変異し、該変異によって約13〜14以下のpH域での化学的安定性が親分子に比べて向上した免疫グロブリン結合タンパク質、該タンパク質をリガンドとして固体担体に結合したアフィニティ分離用マトリックスが提案されており、そこに示されたアルカリ耐性付与に寄与する最良の実施形態は、23位のアスパラギンのスレオニンへの置換および該置換と43位のアスパラギンのグルタミン酸への置換との組み合わせである。
【0008】
【特許文献1】米国特許第US6548639B1
【特許文献2】米国特許第US6399750B1(特表2000−500649参照)
【特許文献3】特開2005−112827
【特許文献4】国際公開第WO03/080655(特表2005−538693参照)
【非特許文献1】ニルソン・ビー(Nilsson B.)他、プロテイン・エンジニアリング(Protein engineering)、1987年、第1巻、2号、107−113頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高流速やゲルの自重に耐え得る硬度といった一般的なクロマトグラフィ用担体に求められる特性に加え、抗体医薬原料としてのイムノグロブリンの製造過程に使用されるアフィニティクロマトグラフィ用担体に求められる望ましい性質として、(a)担体の単位重量もしくは単位体積あたりのイムノグロブリン結合量が多いこと、(b)酸性pH条件でのイムノグロブリンの溶出過程におけるリガンドの漏出が少ないこと、(c)アルカリ性pH条件でのライン洗浄過程におけるイムノグロブリン結合活性の低下が小さいこと、(d)安価に製造できること、が挙げられ、特に(a)の性質はイムノグロブリンの精製コストを軽減するために重要である。これらの課題を解決するためには、適切な不溶性担体の素材やリガンドタンパク質の製造方法を選択することはもちろん重要であるが、それに加えてリガンドとして用いるイムノグロブリン結合タンパク質を改良することが極めて重要である。
【0010】
上記(a)〜(d)の性質を向上させるための様々な検討がなされているが、これまでにリガンドタンパク質そのものの改変によるものの例としては(a)と(c)の改良が挙げられる。(a)の性質に優れた担体を作成する目的で開発されている技術(特許文献2、3)の共通点はリガンドタンパク質のC末端またはその付近1点で担体に固定化する点であり、ともに酸性pH条件におけるイムノグロブリンの溶出過程で切断を受けたリガンドタンパク質またはその断片が漏出しやすいという問題が残されている。また、 (b)の性質に優れた担体を作成するためには、(a)とは逆にリガンドタンパク質を多点で担体に固定する方法が有効であることが知られており、プロテインA分子中に存在する複数の1級アミノ基を介して担体に固定することが一般に行われている。しかし、この方法で固定するとリガンドタンパク質の配向性を制御できず、固定化されたリガンドタンパク質のなかにはイムノグロブリンと結合できない分子も含まれるため、担体の単位重量もしくは単位体積あたりのイムノグロブリン結合量は低下する。すなわち、既存の技術においては、(a)と(b)は互いに相反する因子であり、同時にその両方を解決するための新しい技術開発が望まれている。さらに、(c)の性質に優れた担体を作成するための開示されている技術(特許文献4)において示されているものは、その化学的安定性はなお充分なものではない。また、現在市販されているイムノグロブリンのアフィニティクロマトグラフィ用担体には、主として遺伝子組換え技術により製造されたプロテインAタンパク質が用いられているが、その製造方法についてもなお改善が望まれる。
【0011】
そこで、本発明は、イムノグロブリン結合タンパク質におけるアフィニティクロマトグラフィ用の親和性リガンドとしての性質が改良された、すなわち、互いに相反する(a)と(b)の性質に加え、 (c)の性質にも優れた改変タンパク質を提供することを目的とする。また、本発明は該改変タンパク質のイムノグロブリン親和性リガンドとしての使用、ならびに、アフィニティ分離マトリックスへの使用、すなわち、高いイムノグロブリン結合能と化学的安定性を兼ね備え、かつ安価に製造可能なイムノグロブリンのアフィニティクロマトグラフィ用担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
リガンドタンパク質をアフィニティクロマトグラフィ用担体に固定化する際に、配向性を制御しやすい一点での架橋方法を採用すると、架橋部分やペプチド鎖の切断により、リガンドタンパク質やペプチド断片が漏出し易い。一方、通常利用されるプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインタンパク質をそのままリガンドとして用い、これを多点で担体に固定すると、リガンドタンパク質の漏出は起こりにくくなるが、リガンドの配向性を制御できないため単位担体量あたりのイムノグロブリン結合量が低いものとなる。本発明者らは、多点で担体に固定しても架橋の配向性を制御できる様にリガンドタンパク質を改変することで、上述の相反する要因の両立を図った。
【0013】
スタフィロコッカスに由来するプロテインAタンパク質1分子中には、先述の通りイムノグロブリン結合ドメインが5個存在するが、該イムノグロブリン結合ドメインは、いずれも3個のα−へリックス構造とそれらを互いに連結している2個のループ構造から構成される。イムノグロブリンのFc領域との結合に直接関与すると考えられている10個のアミノ酸はいずれもN末端側から1番目のヘリックス(へリックス1)と2番目のヘリックス(へリックス2)上に存在している(Tashiro M.他 1997年 High-resolution solution NMR structure of the Z domain of staphyrococcal protein A 、Jounal of Molecular Biology 第272巻4号、573−590頁)。さらに該イムノグロブリン結合ドメインは、へリックス3が欠落していてもイムノグロブリンと結合できる(Melissa A.他 1997年、Structural mimicry of a native protein by a minimized binding domain. Proceeding Natural Academy of Sciences USA、第94巻、10080−10085頁)。
【0014】
タンパク質をアフィニティクロマトグラフィ用担体に固定する際に汎用される反応において、担体との結合反応に利用できるタンパク質側の主な活性基はシステインのチオール基、N末端アミノ酸およびリジンのアミノ基、ならびにC末端アミノ酸およびグルタミン酸、アスパラギン酸のカルボキシル基等である。本発明者らは、配向性を制御しつつ多点で担体に結合させるのに有利なアミノ酸残基としてリジン残基に着目し、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインの三次元構造データに基づいて分子内のリジンの配置を設計した。具体的にはイムノグロブリン結合領域であるヘリックス1およびへリックス2のタンパク質表面に存在するリジン残基数を可能な限り減少させるとともに、へリックス3およびその周辺のタンパク質表面に可能な限りリジン残基数を増加させるアミノ酸置換についての検討を行なった。また本発明者らは、酸性pH条件でのイムノグロブリンの溶出過程におけるリガンドタンパク質の漏出を防ぐ目的で、酸性pH条件での切断を受けやすいと考えられるアスパラギン酸−プロリンの配列を排除する置換についての検討を行なった。
【0015】
本発明者らは、作成した改変タンパク質について、陽イオン交換クロマトグラフィにおける挙動、酸性pH条件における被切断特性、クロマトグラフィ用担体に固定化したときのイムノグロブリン結合活性ならびにアルカリ性pH条件における安定性を評価し、多面的に優れたリガンドタンパク質の探索を重ねた結果、リガンドタンパク質そのものを簡便に精製できるうえに、多点で担体に固定しても高いイムノグロブリン結合活性を示し、酸性pHおよびアルカリ性pH条件において極めて安定なイムノグロブリン結合タンパク質改変体の作成に成功し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の(1)ないし(9)のイムノグロブリン結合タンパク質の等機能変異体における改変タンパク質を要旨とする。
(1)イムノグロブリン分子の相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができるイムノグロブリン結合タンパク質であって、配列番号1で規定されるスタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインAのCドメインの改変体または配列番号2で規定されるZドメインの、(A)1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合が改変前の分子よりも増加していることにより、該タンパク質を自らのアミノ基を介して不溶性担体に固定化する際に、イムノグロブリンに対する親和性を保持するための配向性が改変前の分子に比べて向上している、および/または、(B)アスパラギン酸−プロリンの配列を排除することにより、酸性pH条件における化学的安定性が改変前の分子に比べて向上している、ことを特徴とする改変タンパク質またはその等機能変異体。
上記(1)は、配列番号1または配列番号2で示されるイムノグロブリン結合タンパク質またはその等機能変異体において、(A)1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合が改変前の分子よりも増加していることにより、該タンパク質を自らのアミノ基を介して不溶性担体に固定化する際に、イムノグロブリンに対する親和性を保持するための配向性が改変前の分子に比べて向上していることを特徴とする改変タンパク質の態様、(B)アスパラギン酸−プロリンの配列を排除することにより、酸性pH条件における化学的安定性が改変前の分子に比べて向上していることを特徴とする改変タンパク質の態様、ならびに、(A)1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合が改変前の分子よりも増加していることにより、該タンパク質を自らのアミノ基を介して不溶性担体に固定化する際に、イムノグロブリンに対する親和性を保持するための配向性が改変前の分子に比べて向上している、および、(B)アスパラギン酸−プロリンの配列を排除することにより、酸性pH条件における化学的安定性が改変前の分子に比べて向上していることを特徴とする改変タンパク質の態様を包含する。
【0017】
(2)上記(A)が、39位以降におけるリジンへの置換、および/または、リジンを付加する改変、および/または、4,7,35位に元からあるリジンを他のアミノ酸へ置換する改変による、(1)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
上記(2)は、上記(1)の(A)を包含する態様において、39位以降におけるリジンへの置換、リジンの付加、4,7,35位に元からあるリジンの他のアミノ酸への置換、39位以降におけるリジンへの置換とリジンの付加、39位以降におけるリジンへの置換と4,7,35位に元からあるリジンの他のアミノ酸への置換、39位以降におけるリジンへの置換とリジンの付加と4,7,35位に元からあるリジンを他のアミノ酸へ置換、リジンの付加と4,7,35位に元からあるリジンを他のアミノ酸へ置換の態様を包含する。
【0018】
(3)39位以降におけるリジンへの置換が、40位、43位、46位、53位、54位および56位のアミノ酸のうちの1個ないし6個がリジンに置換されていることである、(2)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
(4)4,7,35位に元からあるリジンを他のアミノ酸へ置換する改変が、4位、7位および35位のアミノ酸がアラニン、グルタミン、アスパラギン、バリン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、チロシン、またはアルギニンに置換されていることである、(2)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
(5)リジンを付加する改変が、C末端に、1個ないし5個のリジンを付加する改変である、(2)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
【0019】
(6)上記(B)が、37位のアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換する改変、または、38位のプロリンをプロリン以外のアミノ酸に置換する改変による(1)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
上記(6)は、上記(1)の(B)を包含する態様において、37位のアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換する改変、38位のプロリンをプロリン以外のアミノ酸に置換する改変、37位のアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換する改変と38位のプロリンをプロリン以外のアミノ酸に置換する改変の態様を包含する。
【0020】
(7)37位のアスパラギン酸をアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換する改変が、37位のアミノ酸がアラニン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、ロイシン、またはイソロイシンに置換されていることである、(6)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
(8)38位のプロリンをプロリン以外のアミノ酸に置換する改変が、38位のアミノ酸がアラニン、セリン、またはスレオニンに置換されていることである、(6)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
【0021】
(9)配列番号3で規定されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする(1)に記載の改変タンパク質またはその等機能変異体。
【0022】
また、本発明は、以下の(10)の多量体を要旨とする。
(10)イムノグロブリン結合タンパク質の単位が2個ないし5個連結されており、その中に(1)ないし(9)のいずれかに記載の改変タンパク質またはその等機能変異体を含むことを特徴とする多量体。
【0023】
また、本発明は、以下の(11)の核酸を要旨とする。
(11)(1)ないし(10)いずれかに記載の改変タンパク質またはその等機能変異体、またはそれらを含む多量体をコードする核酸。
なお、「それらを含む多量体」とは「改変タンパク質またはその等機能変異体を含む多量体」を意味する。
【0024】
また、本発明は、以下の(12)の遺伝子発現系を要旨とする。
(12)(11)に記載の核酸を含む遺伝子発現系。
【0025】
また、本発明は、以下の(13)のアフィニティクロマトグラフィ用担体を要旨とする。
(13)親和性リガンドとして(1)ないし(10)いずれかに記載の改変タンパク質またはその等機能変異体、またはそれらを含む多量体を含んで成るアフィニティクロマトグラフィ用担体。
【0026】
また、本発明は、以下の(14)のアフィニティカラムを要旨とする。
(14)(13)に記載のアフィニティクロマトグラフィ用担体を含んで成るアフィニティカラム。
【0027】
また、本発明は、以下の(15)のアフィニティ分離方法を要旨とする。
(15)(14)に記載のアフィニティカラムを用いることを特徴とするIgG、IgAおよび/またはIgMのアフィニティ分離方法。
【0028】
さらにまた、本発明は、以下の(16)のプロテインチップを要旨とする。
(16)(1)ないし(10)いずれかに記載の改変タンパク質またはその等機能変異体、またはそれらを含む多量体を含んで成るプロテインチップ。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、イムノグロブリン結合能が高く、化学的に安定でリガンドタンパク質の漏出が少ないアフィニティクロマトグラフィ用担体を安価に提供できる。より詳細には、プロテインAのCドメインの改変体または配列番号2で規定されるZドメインにおいて、1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合が改変前の分子よりも増加する改変を加えることで、該タンパク質を39位以降のアミノ基を選択的に介して不溶性担体に固定化することができるため、イムノグロブリンに対する親和性リガンドとしての配向性が改変前の分子に比べて向上することによって、(a)担体の単位重量もしくは単位体積あたりのイムノグロブリン結合量が多いアフィニティ担体を提供できる(実施例7に記載)。またこの様な改変により該タンパク質を複数のアミノ基を介して不溶性担体に固定化でき、加えてアスパラギン酸−プロリンの配列を排除することで、(b)酸性pH条件における化学的安定性(実施例3に記載)、(c)アルカリ性pH条件における化学的安定性(実施例8に記載)を兼ね備えたアフィニティ担体を得ることができる。また本発明の改変に伴いタンパク質表面の陽電荷が増加することで、陽イオン交換クロマトグラフィーによる該タンパク質の精製が容易になり、(d)安価に製造可能なリガンドタンパク質を提供できる(実施例2に記載)。
さらに、該改変タンパク質をイムノグロブリンの親和性リガンドとして使用することで、高いイムノグロブリン結合能と化学的安定性を兼ね備え、かつ安価なイムノグロブリンのアフィニティ精製が可能となり、本発明によりイムノグロブリンを含む製品を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のイムノグロブリン結合タンパク質を製造するための標準技術としては、例えばFrederick M. AusbelらによるCurrent Protocols In Molecular Biologyなどに記載されている公知の遺伝子組換え技術を利用できる。すなわち、目的の改変タンパク質をコードする核酸配列を含有させた発現ベクターを大腸菌などの宿主に形質転換し、該細胞を適切な液体培地で培養することにより、培養後の細胞より大量かつ経済的に取得することができる。具体的には、プロテインAの1個のイムノグロブリン結合ドメインは約60個のアミノ酸からなる小さなタンパク質であるので、例えば所望のアミノ酸配列をコードするDNAを数十塩基からなる合成オリゴヌクレオチドに分割して合成し、それらをDNAリガーゼによるライゲーション反応によって繋げてプラスミドベクターに挿入することで、目的の発現ベクターを取得することができる。その際に、該タンパク質を大腸菌で効率よく発現させる目的で、大腸菌の至適コドンを用いた核酸配列を採用することは、当業者によって一般的に行われている。また改変前のイムノグロブリン結合ドメインのアミノ酸配列としては、プロテインAのいずれのドメインのものを採用しても良いが、5つのドメインのうち39位以降にリジン残基が多いCドメインを用いるのが好ましく、イムノグロブリンに対する親和性リガンドとしての使用実績の多いZドメインの配列を用いてもよいが、化学的安定性が増すことが既に知られている29位のグリシンのアラニンへの置換(非特許文献1参照)を施したCドメインの配列(配列表の配列番号1に表示)を採用するのが最も好ましい。目的のアミノ酸置換を実現するためのDNA配列の変異は、改変前のクローンDNAを鋳型として、ミスマッチ塩基対を組み込む合成オリゴDNAをポリメラーゼチェインリアクションのプライマーとして利用するオーバーラップ伸長法や、カセット変異法等を用いて意図した部位に容易に導入することができる。
さらに、プロテインA由来のイムノグロブリン結合タンパク質をイムノグロブリンのアフィニティクロマトグラフィ用のリガンドとして利用する際には、従来より2個以上、望ましくは4個程度のイムノグロブリン結合ドメインを連結した多量体タンパク質が製造され、使用されている。本発明により得られるイムノグロブリン結合タンパク質についても、イムノグロブリン結合ドメインを2個以上、望ましくは4個程度を連結した多量体タンパク質として製造され、利用されることが好ましい。この様な多量体タンパク質をコードするcDNAは、一個のイムノグロブリン結合ドメインをコードするcDNAを意図する数だけ直列に連結することにより、容易に作成することができる。こうして作成したcDNAを適切な発現プラスミド上に挿入して利用することで、イムノグロブリン結合ドメインの単位が2個またはそれ以上連結された多量体タンパク質を容易に製造することが可能である。
【0031】
本発明の改変タンパク質をコードする核酸配列が挿入される発現ベクターとしては、宿主細胞において複製可能であるプラスミド、ファージ、ウイルス等いかなるベクターをも用いることができる。例えば、商業的に入手可能な発現ベクターとしては、pQE系ベクター(株式会社キアゲン)、pDR540、pRIT2T(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社)、pET系ベクター(メルク株式会社)等が挙げられる。発現ベクターは宿主細胞との適切な組み合わせを選んで使用するのがよい。例えば大腸菌を宿主細胞とする場合には、pET系ベクターとBL21(DE3)大腸菌株の組み合わせまたはpDR540ベクターとJM109大腸菌株の組み合わせ等が好ましく挙げられる。
【0032】
本発明の改変タンパク質は、培養された細胞を遠心分離等により集め、これを超音波やフレンチプレスなどを用いた処理にて破砕することで、可溶性画分中に回収することができる。該改変タンパク質の精製は、公知の分離、精製技術を適切に組み合わせて行なうことができる。具体的には、塩析法、透析法、限外濾過法等の分離技術に加え、疎水クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ等の精製方法が挙げられる。本発明の改変タンパク質は、表面の負電荷を減少させ正電荷を増加させる改変が施されており、大腸菌等の宿主細胞由来の多くの夾雑タンパク質に比べて等電点が高いという特徴を有するので、精製過程においてイオン交換クロマトグラフィの採用が特に望ましい。
【0033】
本発明の改変タンパク質をイムノグロブリンの親和性リガンドとして結合させる不溶性担体としては、例えば、キトサン、デキストランなどの天然の高分子材料、ビニルポリマー、高度架橋アガロース、ポリイミドなどの合成ポリマー類などが挙げられる。また別の形態ではシリカなどの無機担体でもよい。通常、リガンドタンパク質は、シアノゲンブロミド、エピクロロヒドリン、N−ヒドロキシスクシンイミド、トシル/トレシルクロリド、カルボジイミド、グルタールアルデヒド、ヒドラジンのようなカップリング剤やカルボキシルまたはチオール活性化担体等によって、担体上に固定される。このようなカップリング反応は、当該技術分野において周知であり、文献に広く記載されている(例えば、Jansson, J.C.およびRyden, L.,「Protein purification」、第2版、375−442頁、ISBN 0−471−18626−0)。本発明のリガンドタンパク質は、空間的にリガンドの配向性を制御できるように配置された複数のアミノ基を介して担体に結合させることを特徴とするものであり、該タンパク質の固定化にはトレシル基、エポキシ基、カルボキシル基、ホルミル基など、タンパク質のアミノ基と反応して共有結合を形成できる活性基を有する担体を用いることができる。市販の担体としては、トヨパールAF−トレシル−650、トヨパールAF−エポキシ−650、トヨパールAF−カルボキシ−650、トヨパールAF−ホルミル−650(以上、東ソー株式会社)、NHS活性化セファロース、臭化シアン活性化セファロース、エポキシ活性化セファロース(以上、GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社)などが挙げられる。
【0034】
このようにして作成された本発明のアフィニティ担体は適切なカラムにつめてIgA、IgG、IgMなどイムノグロブリンを単離、精製する過程におけるアフィニティクロマトグラフィに利用できる。
【0035】
また別の実施形態においては、本発明のイムノグロブリン結合タンパク質はキャピラリー、チップあるいはフィルター等の基材に固定化された形でイムノグロブリンを結合させる目的にも用いることができる。この際の基材への固定化反応についてはアフィニティクロマトグラフィ用担体への固定化と同様にタンパク質のアミノ基と反応して共有結合を形成できる活性基との反応を採用することが望ましい。
【0036】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まずHis−tag付加タンパク質として発現された改変タンパク質について、陽イオン交換クロマトグラフィにおける挙動から精製操作の簡便性を評価するとともに、精製された改変タンパク質を用いて酸性pH条件での安定性を評価した。次にHis−tagを付加しない改変タンパク質を作成し精製してクロマトグラフィ用担体に固定化し、得られたアフィニティクロマトグラフィ用ゲルを用いてイムノグロブリンの結合活性ならびにアルカリ性pH条件における安定性を評価した。
【実施例1】
【0037】
[His−tag付加イムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドの構築]
まず、4本の合成オリゴヌクレオチドから得た2対の2本鎖DNA断片をつなぎ合わせ、EcoRIおよびHindIIIを用いて図1に示す配列(配列表の配列番号4)のDNA断片をpUC19プラスミド(株式会社ニッポンジーン)上にクローン化し、pUC/ASR1を得た。
次にこのプラスミド上のEcoRI−AflIIの制限酵素切断部位間に6本の合成オリゴヌクレオチドから得た3対の2本鎖DNA断片を、AflII−NheIの制限酵素切断部位間に4本の合成オリゴヌクレオチドから得た2対の2本鎖DNA断片を順に繋ぎ合わせてクローン化し、図2に示すイムノグロブリン結合タンパク質(Cドメインの29位のグリシンがアラニンに置換されたタンパク質(配列表の配列番号1に相当;以後SPAC’という)のDNA配列(配列表の配列番号5および6)を含んだプラスミド、pUC/SPAC’を得た。
次に、このプラスミドよりNdeIおよびBamHIを用いてタンパク質をコードしているcDNA断片を切り出し、pET−9aプラスミド(メルク株式会社)上に組み込んで、SPAC’の発現プラスミド、pET/SPAC’を得た(図3)。
次に1ヶ所のアミノ酸が置換された変異体をコードするプラスミドを構築するために、表1に示す合成オリゴヌクレオチドのペアをプライマーとして、pUC/SPAC’プラスミドを鋳型としたPCRを行い、それぞれ目的の変異を含んだcDNAフラグメントを調製した。PCRの酵素はPrimeSTAR HS DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用い、装置はPCR Thermal Cycler SP(タカラバイオ株式会社)を用いた。
次いでこれらのフラグメントをそれぞれ表1に示した制限酵素を利用して、pUC/SPAC’プラスミド上に組替え、V40K、E43K、A46K、D53K、A54K、A56KおよびC末端にリジンが3個挿入された59−61K変異体のプラスミドを作成した。
こうして得た1ヶ所のアミノ酸置換の変異体プラスミドを鋳型としたPCRによって、複数の部位にアミノ酸置換を含む変異体のcDNAフラグメントを調製し、これらフラグメントをそれぞれ表1に示した制限酵素を利用して、別の部位に変異を有するプラスミド上に組換え、2ヶ所以上のアミノ酸が置換されたプラスミドを構築した。
アミノ酸置換変位体プラスミド構築に利用したPCRプライマーの組み合わせ、鋳型およびサブクローニングベクターとして用いたプラスミド、ならびにDNAフラグメントの組換えに利用した制限酵素を表1に示す。各プライマーの配列番号は配列表の配列番号を表す。
各発現プラスミドにおける組み換えタンパク質をコードする部分の核酸配列はCEQ8000型DNAシーケンサー(ベックマンコールター株式会社)を用いて確認した。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
[His−tag付加イムノグロブリン結合タンパク質の発現および精製過程の検討]
構築した各発現プラスミドにて、BL21(DE3)コンピーテントセル(メルク株式会社)を形質転換し、それぞれ改変タンパク質を発現する菌株を得た。
各々の大腸菌株を25mg/Lのカナマイシンを含む2×TY培地に接種し、37℃にて16時間培養して目的とするタンパク質を発現させた後、遠心分離によって大腸菌を集めた。
次に集めた大腸菌を50mM MES緩衝液(pH 6.0)に懸濁し、超音波処理して大腸菌を破砕し、さらに遠心分離によって目的のタンパク質を上清に回収した。
この試料溶液をULTRAFREE MC 0.45μm Filter Unit(日本ミリポア株式会社)を用いて濾過した後、SP−5PWカラム(7.5×75mm;東ソー株式会社)にアプライし、50mM MES緩衝液(pH 6.0)を移動相として1mL/分の流速で、塩化ナトリウムの直線的濃度勾配にて目的タンパク質を溶出させた。
図4に、イムノグロブリン結合タンパク質のリジンを3個ないし5個増加させた改変タンパク質の陽イオン交換クロマトグラフィにおける挙動を示した。リジン残基が増加し陽電荷が増加することで、イムノグロブリン結合タンパク質の陽イオン交換カラムへの結合力が増大し、より高い塩濃度で溶出することが確認され、その結果、リジンの導入改変体が、大腸菌由来の夾雑タンパク質と容易に分離できることがわかった。
尚、本検討に用いたイムノグロブリン結合タンパク質にはC末端にHis−tagが付加されているが、His−tagを持たないSPAC’は、His−tagが付加されているタンパク質よりもpKaが1程度低いことから、イムノグロブリン親和性リガンドとして使用されるHis−tagを持たない改変タンパク質を精製する際には、本発明の改変による陽電荷が増加する効果は、より大きくなる。すなわち、図4は本発明のイムノグロブリン親和性リガンドが、従来品に比べてその製造工程を飛躍的に簡素化、低コスト化できるものであることを示している。
【実施例3】
【0040】
[アスパラギン酸−プロリンの配列を排除した改変イムノグロブリン結合タンパク質の酸性pH条件での安定性の検討]
実施例2に従って精製したSPAC’および37位のアスパラギン酸を他のアミノ酸に置換した改変イムノグロブリン結合タンパク質を、0.5mg/mLのタンパク質濃度で水または50%ぎ酸中、37℃にて24時間保温した。
処理後の溶液を0.1%トリフルオロ酢酸を含む50%アセトニトリルで50倍希釈し、NP20チップに希釈液1μLをスポットし、SELDI−TOF MS(バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社)にて解析した。
図5に示す様に、酸性pH条件において処理したSPAC’の試料では、37−38位のアスパラギン酸−プロリン間での切断によって生じるペプチド断片が質量分析で検出されたが、37位改変体を処理した改変体の試料からは切断された断片は全く検出されなかった。すなわち、改変前のイムノグロブリン結合タンパク質は酸性pH条件において37−38位のアスパラギン酸−プロリン間での切断を受けやすく、この欠点は本発明の37位のアミノ酸置換により解消されることが示された。
【実施例4】
【0041】
[His−tagを付加しないイムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドの構築]
最初に作成したHis−tag付加改変イムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドを鋳型とし、C末端部分にHis−tagをコードする配列を持たないプライマーを設計し、これを使用したPCRによってHis−tagをコードする配列を持たない目的のDNA断片を得た。
このDNA断片をNdeIおよびBamHIを用いて切断した後、pET−9aプラスミドに組み込んでHis−tagの無い改変イムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドを作成した。
次にHis−tagをコードする配列を持たない改変体発現プラスミドを鋳型とし、表2に示すプライマーを用いてオーバーラップ伸張法(二段階PCR法)にて4位、7位および35位のアミノ酸置換をもたらす変異を導入し、同様にpET−9aプラスミドに組み込んで目的の発現プラスミドを作成した。さらに得られた変異体プラスミドを鋳型とし、別の位置に変異をもたらすプライマーを用いたPCRによって、複数の部位にアミノ酸置換を含む変異体のcDNAフラグメントを調製した。また35位以前の部分と以降の部分に変異を導入したcDNA断片を組み合わせたオーバーラップ伸張法にて、2ヶ所ないし10ヶ所のアミノ酸が置換された改変体発現プラスミドを構築した。
各プライマーの配列番号は配列表の配列番号を表す。
【0042】
【表2】

【実施例5】
【0043】
[His−tagを付加しないイムノグロブリン結合タンパク質の発現および精製]
構築したHis−tagを付加しないイムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドの核酸配列が目的通りであることを確認した後、各プラスミドにてBL21(DE3)コンピーテントセル(メルク株式会社)を形質転換し、His−tag付加イムノグロブリン結合タンパク質を発現させたときと同様の培養を行って目的のタンパク質を発現した大腸菌を得た。
得られた大腸菌を20mM リン酸緩衝液(pH 6.0)に懸濁し、超音波処理して大腸菌を破砕した後、遠心分離によって目的のタンパク質を上清に回収した。
この試料溶液に0.2M 酢酸を添加して溶液のpHを改変タンパク質の理論的等電点よりも0.6程度低く調整した後、再度遠心分離を行って目的のタンパク質を上清に回収し、この溶液をULTRAFREE MC 0.45μm Filter Unit(日本ミリポア株式会社)を用いて濾過した後、トヨパールゲルSP−550C充填カラム(5mL;東ソー株式会社)にアプライし、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)または50mM MES緩衝液(pH 6.0)を移動相として、塩化ナトリウムの直線的濃度勾配にて目的タンパク質を溶出させて精製した。
精製タンパク質の純度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって確認し、タンパク質濃度はBCA Protein Assay(ピアスバイオテクノロジー株式会社)を用いて決定した。
本操作により、いずれの改変イムノグロブリン結合タンパク質も培養液1lあたり約200mgの精製品を得ることができた。
【実施例6】
【0044】
[His−tagを付加しない改変イムノグロブリン結合タンパク質のクロマトグラフィ用担体への固定化]
精製された本発明のイムノグロブリン親和性リガンド溶液をSephadex G−25 ゲル(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を用いてゲル濾過することで、緩衝液をリガンド固定化反応に用いる緩衝液(0.5M NaCl含有0.2M 炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH 8.3))に置換した。
リガンド固定化反応は、洗浄後のNHS活性化Sepharose4−FFゲル(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に対して、2mg/mLの濃度に調整したリガンド溶液をゲルと等容量加え、25℃にて4時間振とうして行った。
固定化反応終了後、反応液の上清を回収し、これをTSKゲルSuperSWカラム(4.6×300mm;東ソー株式会社)にアプライし、0.5M NaCl含有50mM リン酸緩衝液(pH 7.0)を移動相としたゲル濾過クロマトグラフィにおいて280nmの吸光度にて未反応のリガンドタンパク質を検出して未反応のリガンド量を測定し、ゲルに固定化されたリガンド量を決定した。
その結果、本発明のイムノグロブリン親和性リガンド全てについて、本条件下で固定化反応に使用した量の99%以上がゲルに固定化されたことを確認することができた。
リガンド固定化反応後のゲルは、0.5M NaCl含有0.5M エタノールアミン溶液(pH 8.3)中で25℃にて1時間振とうすることで、未反応のNHS活性化基をブロッキングし、次いで0.5M NaCl含有0.1M 酢酸ナトリウム溶液(pH 4.0)と0.5M NaCl含有0.5M エタノールアミン溶液(pH 8.3)とで交互に3回洗浄し、最後にリン酸緩衝生理食塩水(以後PBSという)にて3回洗浄した後にイムノグロブリン結合量の測定に使用した。
【実施例7】
【0045】
[改変イムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとしたアフィニティゲルのイムノグロブリン結合量の測定]
リガンドを固定化したゲルに対し、等容量の40mg/mLヒトイムノグロブリン(シグマ社)のPBS溶液を加え、25℃にて1時間振とうしてイムノグロブリンをゲルに吸着させた。次にゲルをPBSにて3回洗浄した後、0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH 2.8)中で25℃にて10分間振とうしてイムノグロブリンをゲルから溶出させた。
溶出液に1/20容量の1M Tris溶液を加えて中和した後、280nmの吸光度を測定し、13.8(1g−1cm−1)の比吸光係数をもとにアフィニティゲルに吸着したイムノグロブリン量を求めた。
ゲル1mlあたりのイムノグロブリン吸着量(mg)を固定化されたリガンド量(mg)で除した値(IgG/リガンド比)を指標として、本発明によるイムノグロブリン結合タンパク質を親和性リガンドとして用いたときのイムノグロブリン結合活性を評価した結果を図6に示した。
イムノグロブリン結合活性において現時点で本発明の最良の実施形態は、スタフィロコッカスプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインの4位、7位および35位のリジンをリジン以外のアミノ酸に置換し、さらにヘリックス3のタンパク質表面である40位、43位、46位、53位および56位のアミノ酸のうち3個ないし5個をリジンに置換する改変、およびこれに加えてC末端部にリジンを3個付加する改変を施した改変タンパク質であり、これらの改変体を親和性リガンドとして用いたアフィニティゲルは、改変前のSPAC’ドメインを用いたものに比べて最大3.5倍のイムノグロブリン結合活性を示した。
本発明に包含されるアミノ酸配列の改変のうち、35位のリジンをリジン以外のアミノ酸に置換する改変は、得られたタンパク質を親和性リガンドとして固定化したゲルへのイムノグロブリン吸着量を増加させる効果が極めて高く、なかでもアルギニンまたはグルタミンへの置換が最も効果的であった。この結果は、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインが35位の近辺でゲルに固定化されると、その分子はイムノグロブリンを結合する活性が著しく低下することを示している。なお、スタフィロコッカス由来の別のたんぱく質であってプロテインAとは異なるイムノグロブリン結合タンパク質(特許文献1に記載)には、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインとアミノ酸配列において45%程度の相同性をもつ領域が含まれており、この配列の35位に相当する位置にはアルギニンが存在している。しかしながら、この類似ドメインにおけるイムノグロブリン結合領域と推測される1−38位には、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインとは全く異なる3カ所、特に32位にもリジンが存在することに加え、39位以降に存在するリジンの数がプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインに比べて少く、1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合がプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインのそれよりもさらに低いため、リジン残基を介して担体に固定化する場合に良好な配向性を保持することは極めて困難であることが容易に推察される。すなわち、本発明の改変タンパク質が特許文献1に記載のタンパク質に比べて、イムノグロブリンに対する親和性リガンドとして著しく有用な構造的および機能的特徴を有していることは明らかである。
【実施例8】
【0046】
[改変イムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとしたアフィニティゲルのアルカリ性pH条件での安定性の検討]
改変イムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとしたアフィニティゲルを0.1N NaOH溶液中で25℃にて一定時間保温し、PBSで3回洗浄後、実施例7の方法に従いイムノグロブリン結合量を測定した。
アルカリ性pH条件で処理した後のイムノグロブリン結合量を各処理時間ごとに測定し、アルカリ性pH条件で処理する前のイムノグロブリン結合量を100%としたときの残存率を図7に示した。
この結果は、スタフィロコッカスプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインにおいて、へリックス3のタンパク質表面におけるリジン残基を増加させた本発明のイムノグロブリン親和性リガンドはアフィニティゲルに固定化された形で、アルカリ性pH条件下での処理に対して改変前のリガンドより安定であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によるイムノグロブリン結合タンパク質を用いたアフィニティクロマトグラフィ用担体は、安価で、イムノグロブリンを結合する能力が高く、リガンドタンパク質の漏出が少ない。すなわち、本発明は、安価で高品質なイムノグロブリンの製造過程、診断に使用される抗体固定化チップやマイクロプレートならびに安全性の高いイムノグロブリン除去用血液浄化システム等の構築に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】pUCASR1プラスミドの構築に用いた合成オリゴヌクレオチドの核酸配列を示す図面である。
【図2】pUC/SPAC’プラスミド上に構築されたイムノグロブリン結合タンパク質をコードする核酸およびアミノ酸配列を示す図面である。
【図3】イムノグロブリン結合タンパク質の発現プラスミドを構築する手順を表した図面である。
【図4】イムノグロブリン結合タンパク質改変体の陽イオン交換クロマトグラフィにおける挙動を示した図面である。
【図5】イムノグロブリン結合タンパク質を酸性pH条件で処理したときの被切断特性を比較した図面である。
【図6】クロマトグラフィ用担体に親和性リガンドとして固定化したときのイムノグロブリン結合タンパク質のIgG結合能を比較した図面である。
【図7】イムノグロブリン結合タンパク質をリガンドとしたアフィニティゲルをアルカリ性pH条件で処理したときの残存活性を比較した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親和性リガンドとしての、イムノグロブリン分子の相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができるイムノグロブリン結合タンパク質であって、配列番号1で規定されるスタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインAのCドメインの改変体または配列番号2で規定されるZドメインの、(A)1−38位のリジン数に対する39位以降のリジン数の割合が改変前の分子よりも増加していることにより、該タンパク質を自らのアミノ基を介して不溶性担体に固定化する際に、イムノグロブリンに対する親和性を保持するための配向性が改変前の分子に比べて向上している、または、前記(A)および(B)アスパラギン酸−プロリンの配列を排除することにより、酸性pH条件における化学的安定性が改変前の分子に比べて向上している、ことを特徴とする改変タンパク質またはそれらを含む多量体の固定化物。
【請求項2】
上記(A)が、39位以降におけるリジンへの置換、および/または、リジンを付加する改変、および/または、4,7,35位に元からあるリジンを他のアミノ酸へ置換する改変による、請求項1に記載の固定化物。
【請求項3】
アフィニティクロマトグラフィ用担体である請求項1または2記載の固定化物。
【請求項4】
プロテインチップである請求項1または2記載の固定化物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−214350(P2008−214350A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75647(P2008−75647)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【分割の表示】特願2007−40772(P2007−40772)の分割
【原出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(306005952)プロテノバ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】