説明

イリジウム錯体を含有する発光素子

【課題】色純度、外部量子効率、発光効率に優れたイリジウム錯体とそれを用いた有機EL素子を提供する。
【解決手段】一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物薄層を形成した発光素子において、少なくとも一層が、下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体を少なくとも一種含有する層であることを特徴とする発光素子。
【化1】


(式中、R1は置換基を表し、環Aは置換基を有していても良い含窒素複素環を表す。Zは二価基を表し、Lは一価のアニオン性配位子を表す。nは1〜3の整数を表し、nは0〜2の整数を表す。ただし、nとnとの和は3である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイリジウム錯体およびこれを用いた発光素子に関する。詳しくは、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア等に好適に使用可能な、イリジウム錯体を用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、種々の表示素子に関する研究開発が活発であり、中でも有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と略す。)は、低電圧で高輝度の発光を得ることができるため、有望な次世代の表示素子として注目を集めている。有機EL素子は、従来用いられてきた液晶に比べて応答速度が速く、かつ自発光型素子であることから、従来の液晶表示素子のようにバックライトを必要とせず、極めて薄型のフラットパネルディスプレイを形成することが可能である。このような有機EL素子は、電界発光現象(EL)を利用した発光デバイスであり、原理的にはLEDと同じであるが、発光材料として有機化合物を使用している点が特徴である。このような有機化合物を発光材料として用いた有機EL素子の例として、蒸着法による多層薄膜を利用した有機EL素子が報告されている。この発光素子は、トリス(8−ヒドロキシキノリナト−O,N)アルミニウム(Alq3)を電子輸送材料として用い、正孔輸送材料(例えば芳香族アミン化合物など)と積層させることにより、従来の単層型素子に比べ発光特性を大幅に向上させている。
【0003】
ところで、近年、このような有機EL素子を、マルチカラーディスプレイに適用する動きが盛んに検討されているが、高機能なマルチカラーディスプレイを開発するためには、光の三原色である赤色、緑色及び青色のそれぞれ各色の発光素子の特性や発光効率を向上させる必要がある。発光素子特性向上の手段として、有機EL素子の発光層に燐光発光材料を利用することも提案されている。燐光発光は、一重項励起状態から項間交差と呼ばれる無放射遷移によって生じる三重項励起状態からの発光現象であり、一重項励起状態からの発光現象である蛍光発光に比べ高い量子効率を示すことが知られている。このような性質を示す有機化合物を発光材料として用いることで、高い発光効率が達成できるものと期待される。
【0004】
このような燐光発光物質を用いた有機EL素子としては、既にオルソメタル化イリジウム錯体であるトリス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(Ir(ppy))を発光層に用いた素子が報告されている(例えば非特許文献1)。この報告によれば、このイリジウム錯体は色純度が高く、外部量子効率において9%と極めて良好な値を示す緑色燐光発光物質であることが判明している。また、赤色燐光発光物質として、ビス[2−(2’−ベンゾチエニル)ピリジナト−N,C3’]イリジウムアセチルアセトナート(Ir(btp)(acac))を発光層に用いた素子が報告されている(例えば非特許文献2)。このイリジウム錯体は外部量子効率において7%程度と比較的良好な値を示すものの、耐久性においては満足できるものではない。さらに、青色燐光発光物質として、ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウムピコリネート(FIrpic)を発光層に用いた素子が報告されている(例えば非特許文献3)。このイリジウム錯体は外部量子効率において6%程度と比較的良好な値を示すものの、色純度及び耐久性においては満足できるものではない。
【0005】
以上のように、次世代表示素子の実用化に向けて種々の検討が盛んに行われており、その中でも燐光発光材料を用いた有機EL素子は素子の特性向上といった観点から特に脚光を浴びている。しかしながらその研究はまだ端緒に就いたばかりであり、素子の発光特性、発光効率、色純度及び構造の最適化など課題は数多い。さらに、燐光発光するイリジウム錯体において、オルソメタル化する配位子は、ほぼアリール化ピリジン類に限られているのが現状である。これらの課題を解決するために、新規な燐光発光材料の開発、そして更に、その材料の効率的な供給法の開発が望まれている。
【0006】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,75巻,1999年,第4頁−第6頁
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,123巻,2001年,第4304頁−第4312頁
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,79巻,2001年,第2082頁−第2084頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、イリジウム錯体とこれを一種以上含有することを特徴とする各種分野で利用可能な、発光特性及び発光効率が良好な発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するイリジウム錯体とそれを用いた発光素子が、優れた発光特性及び発光効率を有することを見出し、本発明を完成した。
[1] 下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体。
【0009】
【化1】

(式中、R1は置換基(S)を表し、環Aは置換基(S)を有していても良い含窒素複素環を表す。Zは二価基を表し、Lは一価のアニオン性配位子を表す。nは1〜3の整数を表し、nは0〜2の整数を表す。ただし、nとnとの和は3である。)
[2] Rが置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基であり、Zがエチレン基、トリメチレン基又はテトラメチレン基である[1]に記載のイリジウム錯体。
[3] 下記一般式(2)で表されるイリジウム錯体。
【0010】
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、nは0〜5の整数を表す。Qはアセチルアセトナート、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナート、キノリンカルボキシラート又はピコリナートを表す。)
[4] 一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物薄層を形成した発光素子において、少なくとも一層に[1]〜[3]のいずれかに記載のイリジウム錯体を少なくとも一種含有する層であることを特徴とする発光素子。
[5] 少なくとも一層に含有されるイリジウム錯体が、有機電界発光素子の発光層におけるドーピング材料として作用し得るものである[4]に記載の発光素子。
[6] 前記発光材料を含有する層が、塗布プロセスで成膜されている[4]又は[5]のいずれかに記載の発光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイリジウム錯体を含有する発光素子は、高発光特性、高発光効率、高耐久性を有するEL素子を作成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のイリジウム錯体について説明する。
【0013】
本発明の一般式(1)で表されるイリジウム錯体(1)(以下、イリジウム錯体(1)とすることがある)において、Rで表される置換基(S)としては、炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、シアノ基等が挙げられる。
【0014】
炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−メチルペンタン−3−イル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0015】
アルケニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、具体的にはビニル基、プロペニル基、1−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルキニル基が挙げられ、具体的にはエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
【0016】
アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスレニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0017】
脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0018】
芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式芳香族複素環基、多環式又は縮合環式の芳香族複素環基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0019】
またイリジウム錯体(1)においてRで表される置換基(S)は、置換基(S)上の水素原子がさらに上記で説明された炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、シアノ基等に置換されても良い。さらに後述するヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシルオキシ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ヘテロアリールチオ基、スルフィノ基、スルフィニル基、スルホ基、スルホニル基、アミノ基、置換アミノ基、カルバモイル基、置換カルバモイル基、スルファモイル基、置換スルファモイル基、ウレイド基、置換ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドラジノ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、シリル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子等に置換されても良い。
【0020】
アルコキシ基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0021】
アルキレンジオキシ基としては、例えば炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基が挙げられ、具体的にはメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基等が挙げられる。
【0022】
アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
アラルキルオキシ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、2−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
ヘテロアリールオキシ基としては、例えば異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、炭素数2〜14のヘテロアリールオキシ基が挙げられ、具体的には、2−ピリジルオキシ基、2−ピラジルオキシ基、2−ピリミジルオキシ基、2−キノリルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
アシルオキシ基としては、例えばカルボン酸由来の炭素数2〜18のアシルオキシ基が挙げられ、具体的にはアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
アシル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸由来の炭素数1〜18のアシル基が挙げられ、具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ラウロイル基、ステアロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0027】
アルコキシカルボニル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数2〜19のアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、2−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ラウリルオキシカルボニル基、ステアリルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0028】
アリールオキシカルボニル基としては、例えば炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数8〜15のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0029】
アルキルチオ基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルキルチオ基が挙げられ、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、2−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、2−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。アリールチオ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールチオ基が挙げられ、具体的にはフェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。アラルキルチオ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルチオ基が挙げられ、具体的にはベンジルチオ基、2−フェネチルチオ基等が挙げられる。ヘテロアリールチオ基としては、例えば異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、炭素数2〜14のヘテロアリールチオ基が挙げられ、具体的には、例えば4−ピリジルチオ基、2−ベンズイミダゾリルチオ基、2−ベンズオキサゾリルチオ基、2−ベンズチアゾリルチオ基等が挙げられる。
【0030】
スルフィニル基としては、例えばR−SO−(Rは、上記アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)で表される置換スルフィニル基が挙げられる。スルフィニル基の具体例としては、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基等が挙げられる。スルホニル基としては、例えばR−SO2−(Rは、上記アルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。)で表される置換スルホニル基が挙げられる。スルホニル基の具体例としては、メタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等が挙げられる。
【0031】
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子が上記アルキル基、上記アリール基又はアミノ基の保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。保護基としては、アミノ保護基として用いられるもの(例えば非特許文献4参照)であれば何れも使用可能である。アミノ保護基の具体例としては、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基及びスルホニル基等が挙げられる。
【0032】
【非特許文献4】「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス セカンド エディション(PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS Second Edition)」、ジョン ウイリー アンド サンズ社(JOHN WILEY & SONS,INC.) アルキル基で置換されたアミノ基、即ちアルキル基置換アミノ基の具体例としては、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。アリール基で置換されたアミノ基、即ちアリール基置換アミノ基の具体例としては、N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル基置換アミノ基の具体例としては、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
【0033】
アシル基で置換されたアミノ基、即ちアシルアミノ基の具体例としては、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアルコキシカルボニルアミノ基の具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。アリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアリールオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、アミノ基の1個の水素原子が前記したアリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基が挙げられ、具体的にはフェノキシカルボニルアミノ基、ナフチルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。アラルキルオキシカルボニル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキルオキシカルボニルアミノ基の具体例としては、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。スルホニル基で置換されたアミノ基、即ちスルホニルアミノ基の具体例としては、メタンスルホニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0034】
置換カルバモイル基としては、カルバモイル基中のアミノ基の1個又は2個の水素原子が上記アルキル基、アリール基、アラルキル基等の置換基で置換されたカルバモイル基が挙げられ、具体的にはN−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
【0035】
置換スルファモイル基としては、スルファモイル基中のアミノ基の1個又は2個の水素原子が上記アルキル基、アリール基、アラルキル基等の置換基で置換されたスルファモイル基が挙げられ、具体的にはN−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基等が挙げられる。
【0036】
置換ウレイド基としては、ウレイド基中の窒素原子上の少なくとも一つの水素原子が上記アルキル基、アリール基、アラルキル基等の置換基で置換されたウレイド基が挙げられ、具体的にはN−メチルウレイド基、N−フェニルウレイド基等が挙げられる。
【0037】
リン酸アミド基としては、リン酸アミド基中のリン酸基の少なくとも1個の水素原子が上記アルキル基、アリール基、アラルキル基等の置換基で置換された置換リン酸アミド基が挙げられ、具体的にはジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基等が挙げられる。
【0038】
シリル基としては、例えばケイ素原子上の3個の水素原子が上記アルキル基、アリール基、アラルキル基等の置換基で置換されたトリ置換シリル基が挙げられ、具体的にはトリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0039】
ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基の水素原子が後述するハロゲン原子で置換された基が挙げられ、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基等が挙げられる。
【0040】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0041】
前記した置換基(S)において、好ましいものとしてはアルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アリール基又は置換アミノ基で置換されていてもよいアリール基及び芳香族複素環基が挙げられ、より好ましいものとしてはアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基及び複素環基が挙げられる。これらアルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アリール基、置換アミノ基及び芳香族複素環基の具体例としては前述したようなものが挙げられる。
【0042】
本発明のイリジウム錯体(1)において、置換基(S)を有していてもよい環Aで表される含窒素複素環としては、少なくとも1個の窒素原子を異種原子として有する複素環であり、更に1個〜3個の例えば窒素原子、酸素原子又は硫黄原子からなる異種原子を含有していてもよい5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式、多環式又は縮合環式の複素環が挙げられる。当該含窒素複素環の窒素原子はイリジウム原子に配位することができるものである。
【0043】
好ましい当該含窒素複素環としては、例えば、ピリジン環、ジアジン環、トリアジン環、ピロール環、ジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾピリジン環、ベンゾジアジン環、ベンゾピロール環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、シンノリン環、ピラゾール環、2H−ピロール環などが挙げられる。
【0044】
環Aにおける置換基(S)としては、炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシルオキシ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ヘテロアリールチオ基、スルフィノ基、スルフィニル基、スルホ基、スルホニル基、アミノ基、置換アミノ基、カルバモイル基、置換カルバモイル基、スルファモイル基、置換スルファモイル基、ウレイド基、置換ウレイド基、リン酸アミド基、シリル基、ヒドラジノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、ハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては前述したようなものが挙げられる。
【0045】
本発明のイリジウム錯体(1)におけるZで表される二価基としてはメチレン鎖、シクロアルキレン基及びビニレン基等が挙げられ、具体的にはエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、シクロペンチレン基及びシクロヘキシレン基等が好ましい例として挙げられる。
【0046】
本発明のイリジウム錯体(1)におけるLで表される一価のアニオン性配位子としては、例えば「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」Springer−Verlag社、H.Yersin著 1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」 裳華房社 山本明夫著 1982年発行 等に記載の配位子が挙げられる。前記アニオン性配位子としては、2座配位子が好ましく、ジケトン化合物(例えばアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ジベンゾイルメタンなど)由来の配位子、ピコリン酸又は2−キノリンカルボン酸由来の配位子、テトラピラゾリルボレート等が好ましく、この中でもアセチルアセトン、ヘキサフルオロペンタンジオン、8−キノリンカルボン酸及びピコリン酸由来の配位子がより好ましい。
【0047】
イリジウム錯体(1)の具体例としては、下記に示す(1−1)〜(1−48)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
【化3】

【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

【0051】
【化6】

【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
次に、本発明の発光素子について説明する。本発明の発光素子は、本発明のイリジウム錯体を利用する素子であればシステム、駆動方法、利用形態など特に問わないが、該イリジウム錯体からの発光を利用するもの、または該イリジウム錯体を電荷輸送材料として利用するものが好ましい。代表的な発光素子としては有機EL素子を挙げることができる。
【0057】
本発明の発光素子は、本発明のイリジウム錯体の少なくとも一種を含有していればよく、一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物層を形成した発光素子において、少なくとも一層に該イリジウム錯体の少なくとも一種を含有する。該イリジウム錯体は、少なくとも一種が含有されていればよく、二種以上適宜組み合わせて含有させてもよい。例えば、本発明のイリジウム錯体を、有機EL素子の発光層のドーピング材料として用いる場合、色純度に優れるとともに、従来知られた素子に比べ、外部量子効率、発光効率共に優れた素子を得ることができる。
【0058】
本発明の発光素子における有機層(有機化合物層)の形成方法は、特に限定されないが、通常抵抗加熱蒸着、電子ビーム、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法などの方法が用いられ、特性面、製造面から抵抗加熱蒸着及びコーティング法が好ましい方法である。
【0059】
本発明の発光素子は、陽極、陰極の一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物薄膜を形成した素子であり、発光層の他、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、保護層などを有しても良く、またこれらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであっても良い。これら各層の形成においては、それぞれ従来から知られた種々の材料を用いることが可能である。これらの層について更に具体的に説明する。
【0060】
陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層などに正孔を供給するものであり、陽極形成材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物などが用いられ、仕事関数が4eV以上の材料が好ましい。具体例としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(以下、「ITO」と略称する。)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、およびこれらとITOとの積層物などが挙げられ、好ましくは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性などの点からITOが好ましい。陽極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、さらに好ましくは100nm〜500nmである。
【0061】
陽極は、通常、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、透明樹脂基板などの基板上に層形成される。基板としてガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分であれば特に制限はないが、ガラスを用いる場合には、通常0.2mm以上、好ましくは0.7mm以上のものを用いる。陽極の作製には材料によって種々の方法が採られるが、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル−ゲル法など)、ITO分散物の塗布などの方法により膜形成がなされる。陽極は、洗浄その他の処理により、素子の駆動電圧を下げ、発光効率を高めることも可能である。例えばITOの場合、UV−オゾン処理、プラズマ処理などが効果的である。
【0062】
陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層などに電子を供給するものであり、電子注入層、電子輸送層、発光層などの負極と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。陰極の材料としては、金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられ、具体例としてはリチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属およびその弗化物、マグネシウム、カルシウムといったアルカリ土類金属及びその弗化物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金またはそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属等が挙げられ、仕事関数が4eV以下の材料が好ましく、より好ましい材料は、アルミニウム、リチウム−アルミニウム合金またはそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属等である。
【0063】
陰極は、上記化合物及び混合物を含む積層構造を取ることもできる。陰極の膜厚は材料により適時選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、さらに好ましくは100nm〜1μmである。陰極の作製には電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法等の方法が用いられ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。さらに、複数の金属を同時に蒸着して合金で極を形成することも可能であり、またあらかじめ調整した合金を蒸着させても良い。陰極及び陽極のシート抵抗は低い方が好ましい。
【0064】
発光層の材料は、電界印加時に陽極または正孔注入層、正孔輸送層から電子を注入することができる機能、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層を形成することができるものであれば何れのものでも良い。発光層の中には発光効率の高い蛍光材料及びリン光材料をドープすることができる。例えばベンゾオキサゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾピリジン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族ジメチリディン系化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン誘導体、本発明のイリジウム錯体(1)等が挙げられる。上述した材料の一種または二種以上から成る単層構造であっても良いし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であっても良い。発光層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、さらに好ましくは10nm〜500nmである。発光層の作製方法は、特に限定されるものではないが、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、分子積層法、コーティング法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法、LB(レーザービーム)法等の方法が用いられ、好ましくは抵抗加熱蒸着、コーティング法である。
【0065】
正孔注入層、正孔輸送層の材料は、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば良い。具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン誘導体、イリジウム錯体(1)等が挙げられる。正孔注入層、正孔輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、さらに好ましくは10nm〜500nmである。正孔注入層、正孔輸送層は上述した材料の一種または二種以上から成る単層構造であっても良いし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であっても良い。正孔注入層、正孔輸送層の作製方法は、真空蒸着法やLB法、前記の正孔注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法等の各種方法が用いられる。コーティング法の場合、上記材料を樹脂成分と共に溶剤中に溶解または分散することができる。このとき樹脂成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0066】
電子注入層、電子輸送層の材料は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば良い。陽極から注入された正孔を障壁する機能を有する正孔ブロッキング層のイオン化ポテンシャルは、発光層のイオン化ポテンシャルよりも大きいものが選択される。
【0067】
電子注入層、電子輸送層の材料の具体例としては、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、多環系化合物、バソクプロイン等のヘテロ多環系化合物、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、アントラキノンジメタン誘導体、アントロン誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンテトラカルボン酸又はペリレンテトラカルボン酸等の酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体、本発明のイリジウム錯体(1)等が挙げられる。電子注入層、電子輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、さらに好ましくは10nm〜500nmである。電子注入層、電子輸送層は上述した材料の一種または二種以上から成る単層構造であっても良いし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であっても良い。電子注入層、電子輸送層の形成方法としては、真空蒸着法やLB法、前記の正孔注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法等の方法が用いられる。コーティング法の場合には、材料は樹脂成分と共に溶解または分散される。このとき、樹脂成分として、正孔注入層及び正孔輸送層の場合に例示したものを用いることができる。
【0068】
保護層の材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであれば何れのものでも用いることができる。保護層材料の具体例としては、インジウム、錫、鉛、金、銀、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属、酸化マグネシウム、二酸化珪素、三酸化二アルミニウム、酸化ゲルマニウム、酸化ニッケル、酸化カルシウム、酸化バリウム、三酸化二鉄、三酸化二イッテルビウム、酸化チタンなどの金属酸化物、弗化マグネシウム、弗化リチウム、弗化アルミニウム、弗化カルシウムの金属弗化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも一種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質等が挙げられる。保護層の形成方法についても特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法などが適用できる。
【0069】
本発明の発光素子に用いられる、イリジウム錯体は既知の手段を用いて合成できる。例えば、銀塩及び水の存在下に溶媒量の配位子と塩化イリジウム(III)水和物を高温で反応させる方法(例えば、WO 02/02714号公報参照)が知られている。この方法での目的物の収率は、10%から82%との報告がある。また、理論量の配位子とイリジウム(III)アセチルアセトナートをグリセロール中高温で反応させる方法(例えば、WO 02/15645号公報参照)も知られており、目的物の収率は75%と報告されている。収率は中程度であるが、これら方法は反応条件が厳しい上に、この方法ではイリジウムの配位子は3種が全て同じものしか合成できない。この改良法として、理論量の配位子と塩化イリジウム(III)水和物を原料とし、ノノヤマ(Nonoyama)法(M.Nonoyamaら、「ブルテン・オブ・ザ・ケミカル・ソサエティー・オブ・ジャパン(Bull.Chem.Soc.Jpn.)」、第47巻3号、1974年、第767頁−第768頁参照)と呼ばれる方法を用いて、三価六配位オルソメタル化イリジウム複核錯体を合成し,次いで塩基の存在下にアセチルアセトンを反応させてアセチルアセトナート錯体に誘導し、これをグリセロール中で理論量の配位子と高温で反応させて三価六配位オルソメタル化イリジウム錯体を合成する方法が報告されている(S. Lamanskyら「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)」、123巻、2001年、第4304頁−第4312頁;S. Lamanskyら「インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem.)」、40巻、2001年、第1704頁−第1711頁;特開2002−105055号公報参照)。この方法では、一段階目の収率は75%以上、二段階目の収率は75〜90%、三段階目の収率は85%と報告されている。この方法によれば共通の原料を用いて2種の配位子が異なる錯体と、同じ錯体を作り分けることができる。
【0070】
前記の方法で合成される本発明のイリジウム錯体において特に好ましいものとしては、以下の錯体が挙げられる。
【0071】
【化11】

【実施例】
【0072】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1) 例示化合物(1−1)の合成
【0074】
【化12】

【0075】
アルゴン雰囲気下の反応容器に三塩化イリジウム(III)水和物(300mg、0.95mmol)、(E)−8−ベンジリデン−5,6,7,8−テトラヒドロキノリン(526mg、2.38mmol)、2−エトキシエタノール(9ml)と脱イオン水 (3ml)の混合溶媒を入れ、120℃で24時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷やし、エタノールとヘキサンを加えて結晶を析出させた。その結晶をろ過することで赤色固体のビス[(E)−8−ベンジリデン−5,6,7,8−テトラヒドロキノリナト]イリジウム(III)クロライド ダイマー(A)(477mg)が収率75%で得られた。
続いてアルゴン雰囲気下の反応容器にダイマー(A)(100mg、0.075mmol)、アセチルアセトン(22mg、0.22mmol)、炭酸ナトリウム(55mg、0.52mmol)及び溶媒2−エトキシエタノール(3ml)を入れ120℃で12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、残渣にジクロロメタンと水を加え三回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒留去後、カラムクロマトグラフィー(アルミナ;クロロホルム)により精製し、赤色の固体(1−1)(87mg)を収率79%で得た。
H NMR(200MHz、CDCl):δ 7.64(dd,J=1.2,5.8Hz,2H),6.95−6.80(m,12H),6.46(dd,J=6.0,7.4Hz,2H),5.15(s,1H),2.63−2.41(m,8H),1.84(s,6H),1.72−1.52(m,4H)
【0076】
(実施例2) 例示化合物(1−2)の合成
【0077】
【化13】

【0078】
アルゴン雰囲気下の反応容器に三塩化イリジウム(III)水和物(100mg、0.32mmol)、(E)−8−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジリデン)−5,6,7,8−テトラヒドロキノリン(296mg、0.95mmol)、2−エトキシエタノール(3ml)と脱イオン水(1ml)の混合溶媒を入れ、実施例1と同様に反応、後処理を行うことによって赤色固体のビス[(E)−8−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジリデン)−5,6,7,8−テトラヒドロキノリナト]イリジウム(III)クロライド ダイマー(B)(216mg)が収率67%で得られた。
続いてアルゴン雰囲気下の反応容器にダイマー(B)(100mg、0.059mmol)、アセチルアセトン(18mg、0.18mmol)、炭酸ナトリウム (43mg、0.41mmol)及び溶媒2−エトキシエタノール(3ml)を入れ、実施例1と同様に反応、後処理を行うことによって赤色の固体(1−2)(81mg)を収率76%で得た。
H NMR(200MHz、CDCl):δ 7.69(brd,J=5.6Hz,2H),7.18(brd,J=7.4Hz,2H),6.70(dd,J=5.8,7.4Hz,2H),5.17(s,1H),2.75−2.67(m,4H),2.45−2.38(m,4H),1.84(s,6H),1.78−1.58(m,4H)
【0079】
(実施例3)
ガラス基板(g)上に、陽極(f)、正孔輸送層(e)、ホスト材料とドープ材料からなる発光層(d)、正孔ブロック層(c)、電子輸送層(b)及び陰極(a)を、ガラス基板(g)側から順に形成することにより、図1に示す層構成を有する有機EL素子を作製した。この有機EL素子は、陽極(f)と陰極(a)に、それぞれリード線が接続されて陽極(f)と陰極(a)との間に電圧を印加できるようになっている。各層の具体的材料、製法等を以下簡単に説明する。
【0080】
まず、陽極(f)はITO膜からなり、ガラス基板(g)に被着されている。正孔輸送層(e)は、下記式で示される化合物(α−NPD)を用い、真空蒸着法にて陽極(f)上に40nmの厚さで形成した。
【0081】
【化14】

【0082】
一方、ホスト材料とドープしたリン光発光材料を含む発光層(d)は、下記式で示される化合物(CBP)と実施例1で得られたイリジウム錯体(1−1)の両者を用い、同時に真空蒸着(ドープ6重量%)を行い、正孔輸送層(e)上に35nmの厚さとして形成した。
【0083】
【化15】

【0084】
さらに、正孔ブロッキング層(c)は、下記式で示される化合物(BCP)を用い、真空蒸着法にて発光層(d)上に10nmの厚さで形成した。
【0085】
【化16】

【0086】
電子輸送層(b)は下記式で示される化合物(Alq3)を用い、真空蒸着法にて正孔ブロッキング層(c)上に35nmの厚さで形成した。
【0087】
【化17】

【0088】
陰極(a)は、電子輸送層(b)側から順に、LiFを0.5nmの厚さで真空蒸着した後、Alをさらに100nmの厚さで真空蒸着した積層体により構成した。
【0089】
得られた有機EL素子の陽極(ITO)(f)側にプラス、陰極(a)側にマイナスの電圧を印加したところ、低い電圧から安定な発光が確認された。素子の外部量子効率は、輝度100cd/mにおいて3.8%と高効率であった。さらに、発光層(d)に用いた化合物(1−1)に起因する赤色発光が得られた。
(実施例4)
実施例3と同様の素子構造を有し、発光層(d)に含まれるドーパントして実施例2合成で得られたイリジウム錯体(1−2)を用いる以外は上記実施例と同様に素子を作製した。得られた有機EL素子の陽極(ITO)(f)側にプラス、陰極(a)側にマイナスの電圧を印加したところ、低い電圧から安定な発光が確認された。素子の外部量子効率は、輝度100cd/mにおいて2.1%と高効率であった。さらに、発光層(d)に用いた化合物(1−2)に起因する赤橙色発光が得られた。
【0090】
以下の表に実施例3及び実施例4で作成した素子評価の結果をまとめて示す。


【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のイリジウム錯体を用いた有機EL素子の層構成を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0092】
(a)陰極
(b)電子輸送層
(c)正孔ブロック層
(d)発光層
(e)正孔輸送層
(f)陽極
(g)ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体。
【化1】

(式中、R1は置換基(S)を表し、環Aは置換基(S)を有していても良い含窒素複素環を表す。Zは二価基を表し、Lは一価のアニオン性配位子を表す。nは1〜3の整数を表し、nは0〜2の整数を表す。ただし、nとnとの和は3である。)
【請求項2】
が置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基であり、Zがエチレン基、トリメチレン基又はテトラメチレン基である請求項1に記載のイリジウム錯体。
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるイリジウム錯体。
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、nは0〜5の整数を表す。Qはアセチルアセトナート、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナート、キノリンカルボキシラート又はピコリナートを表す。)
【請求項4】
一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物薄層を形成した発光素子において、少なくとも一層に請求項1〜請求項3のいずれかに記載のイリジウム錯体を少なくとも一種含有する層であることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
少なくとも一層に含有されるイリジウム錯体が、有機電界発光素子の発光層におけるドーピング材料として作用し得るものである請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記発光材料を含有する層が、塗布プロセスで成膜されている請求項4又は請求項5のいずれかに記載の発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89398(P2006−89398A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274966(P2004−274966)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】