説明

インキレス画像再形成可能な画像形成媒体および方法

【課題】媒体に形成された画像が長期間にわたって安定である一方、望むときに画像を消去することが可能であって、その媒体に再び画像形成することができる画像形成媒体を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の上にコーティングまたはその中に含浸させた画像形成層と、を含み、前記画像形成層が、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質を含む、画像形成媒体。前記フォトクロミック物質が、熱および場合によっては光に応答して、無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、画像再形成可能な用紙の上にインキレス印刷をするための基材、方法、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は充分に確立された市場を有するプロセスであるが、その画像は、基材の上にインキの液滴を像様に噴射することによって形成される。インクジェットプリンタは家庭およびビジネスの場で、そしてインクジェットプリンタが低コストであるために特に家庭で広く使用されている。インクジェットプリンタは一般的に、広い範囲の基材たとえば、標準的な事務用用紙、OHP用紙、写真用紙などの上に白黒のテキスト画像から写真画像にいたるまで、高品質な画像を形成させることができる。
【0003】
しかしながら、プリンタコストが低廉ではあるものの、インクジェットカートリッジの交換のコストが高くつき、場合によってはプリンタそのものよりも高価となることもあり得る。それらのカートリッジは頻繁に交換しなければならず、そのために、インキカートリッジの交換コストが、インクジェット印刷に関しての消費者の大きな不満となっている。したがって、カートリッジ交換コストを低減させることが、インクジェット印刷の使用者にとっては極めて価値の高いこととなるであろう。
【0004】
さらに、紙文書のほとんどのものは、読んだ後に直ぐに用済みとなる。紙は安価なものではあるが、用済みとなる紙文書の量が膨大であるので、それら用済みとなった紙文書の廃棄は、経済面でも環境面でも、大きな問題となっている。したがって、所望の画像を受容するための新規な媒体と、そのような媒体を調製し、使用するための方法を得ることが、依然として望まれている。そのような態様においては、再使用が可能で、コストと環境の問題を低減させることが望ましく、さらに可撓性もある紙状のものであって、末端ユーザーに従来通りに受け入れられ、使用および保存が容易な媒体を得ることが望ましい。
【0005】
一時的に画像を形成および保存するために利用することが可能な技術が存在してはいるが、それらは一般的に、紙の代替物としてのほとんどの用途では、望ましいものには程遠い結果しか与えない。たとえば、代替技術としては、液晶ディスプレイ、電気泳動製版、およびジリコン画像媒体などが挙げられる。しかしながら、それらの代替技術は多くの場合、所望の再画像形成性を与えはするが、従来からの紙の外観および感触を有するような文書を得ることは出来ない。
【0006】
可逆的または不可逆的な光誘導の変色を示すフォトクロミック物質を採用した画像形成技術は公知であって、たとえば、米国特許第3,961,948号には、有機成膜性バインダ中に少なくとも1種のフォトクロミック物質の分散体を含むフォトクロミック画像形成層の中で可視光によって誘導される変化に基づいた画像形成方法が開示されている。
【0007】
これらおよびその他のフォトクロミックな(または画像再形成可能な、もしくは電気的な)紙が望ましいが、その理由は、それらが、複数回にわたって再使用することが可能で、画像や文書を一時的に保存する画像形成媒体を与えることができるからである。たとえば、フォトクロミックをベースとする媒体の用途としては、画像再形成可能な文書たとえば、電子ペーパー文書が挙げられる。画像再形成可能な文書では、使用者が欲する間だけ情報を保存することが可能であって、その後では情報を消去することが可能であるか、あるいは画像形成システムを使用して、別の情報を有する画像再形成可能な文書を再び画像化することができる。
【0008】
上述のアプローチ方法では画像再形成可能な一時的文書を得ることができるが、より長い画像寿命およびより望ましい紙状の外観と感触を与える画像再形成可能な紙が設計されることが望まれる。たとえば、フォトクロミック用紙のための公知のアプローチ方法では一時的な可視画像を与えはするが、その可視画像は、たとえば周囲の室内光、より強烈には太陽光の中に存在するUVやさらには可視光の影響を受けやすい。このUV光および可視光が存在するために、その可視画像がUV光による分解を受けやすく、そのために画像未形成領域を黒ずませ、それによって所望の画像とバックグラウンドまたは画像未形成領域との間のコントラストが低下する。
【0009】
すなわち、一時的な文書に付随する問題点は、フォトクロミック分子が吸収する周囲の紫外−可視(UV−VIS)光(たとえば<420nm)に対する画像未形成領域の感度である。時間が経過すると画像未形成領域が着色されてその文書の視覚的品質が低下するが、その理由は、白色状態と着色状態との間のコントラストが低下するからである。例えば米国特許出願第10/834,529号に記載されているが、一つのアプローチ方法は、物質の中で異性化を起こさせる(すなわち着色を誘導する)ことが可能な、約365nmを中心とする入射光のためのバンドパスウィンドウ(band-pass window)を作らせることによって、420nm未満の波長の光に対して画像を安定化させる方法である。しかしながら、文書の画像未形成領域はそれでも、約365nmを中心とした波長のUV−VIS光の影響を受けやすい。
【0010】
公知の一時的文書に一般的に付随するもう一つの問題は、一般的なフォトクロミック物質たとえば、メロシアニン(スピロピランの着色状態の異性体の形態)が、時間が経過したときに周囲の熱および光に対して顕著に安定という訳ではなく、そのために、熱と可視光との両方によって無色状態へと戻ってしまう傾向があるということである。いくつかのフォトクロミック物質たとえばメロシアニンは、溶液中においては、荷電した分子の分子的アグリゲーションを形成し、それによって、着色イオン性状態の安定化のために長寿命の着色状態となるということが知られている。しかしながら、たとえばポリマーバインダを含む乾燥された層の中のような固相状態においてそのような安定化されたアグリゲートを形成させることははるかに困難であって、そのために、安定で長寿命の着色状態を達成するのは一段と困難である。
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,961,948号明細書
【特許文献2】米国特許第7,205,088号明細書
【特許文献3】米国特許第7,214,456号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0244744号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0222973号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0251988号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0072110号明細書
【特許文献8】米国特許第7,229,740号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
いくつかの用途においては、画像再形成可能な媒体たとえば一時的な文書の上に形成された画像が長期間にわたって安定であって、周囲のUV光に暴露されてもその画像または画像コントラストが劣化しないのが望ましい。しかしながら、望むときに画像を消去することが可能であって、その媒体に再び画像形成することができるのもまた望ましい。その画像形成媒体が従来からの紙に類似している、すなわち従来からの紙の外観と感触を有しているのもまた望ましい。そのためには、一般的には、その画像形成媒体の画像形成組成物が、溶媒ベースのシステムの層ではなく、固体層である必要がある。電子ペーパー文書はさらに、書き込まれた画像を、使用者がそれを見る必要がある間は保持していて、周囲の熱または光によってその画像が劣化されるようなことがあってはならない。次いで、使用者が命令を与えることにより、その画像を消去したり、別な画像に置き換えたりしてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
基材と、前記基材の上にコーティングまたはその中に含浸させた画像形成層と、を含み、前記画像形成層が、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質および、場合によってはさらにポリマーバインダを含み、前記フォトクロミック物質が、熱および場合によっては光に応答して、無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す、画像形成媒体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の開示は、いくつかの実施態様において、熱および光によって画像の形成と消去の両方が可能で、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質と場合によってはさらにポリマーバインダとを含む画像形成組成物を含む組成物を使用した、画像再形成可能な画像形成媒体を提供することによって、それらならびにその他の要望に応えるものである。画像の形成は、画像形成材料にUV光をあてて変色を起こさせることにより実施し、消去は、その画像形成材料に熱および場合によっては光をあてて、その変色を元に戻すことにより実施する。別な実施態様において、本発明の開示では、その画像再形成可能なインキレス印刷基材を使用したインキレス印刷方法およびそのような印刷のための装置およびシステムを提供する。
【0015】
本発明は、さらに詳しくは、いくつかの実施態様において、インキレス画像再形成可能な印刷基材たとえば、熱および光による画像の形成および消去が可能で、たとえばアイオノマー中に分散されたフォトクロミック物質と場合によってはさらにポリマーバインダとを含む組成物を用いたインキレス印刷用紙を目的としているが、ここでそのフォトクロミック物質は、光に応答して無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す。
【0016】
一般的に、各種の例示的な実施態様において、紫外光などの光によって画像形成が可能で、熱および/または光によって消去が可能な、たとえばアイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質と場合によってはさらにポリマーバインダを含む組成物を使用して形成される、インキレス画像再形成可能な紙または画像形成媒体が提供される。その画像形成層をUV光に暴露させることによって、フォトクロミック物質の無色状態から着色状態への転化を容易に起こさせることができる。アイオノマーの持つイオン的な性質が、フォトクロミック物質のイオン的な形態を安定化させるのに役立っていて、そのために、光を取り去ったときにその着色状態が固定される。同様にして、その画像形成層を可視光および/または熱に暴露させて、そのフォトクロミック物質を着色状態から無色状態への逆向きの転化を起こさせる。アイオノマーが、より極性またはイオン性の高い媒体となるので、それがフォトクロミック物質の着色されたイオン状態を安定化させ、周囲環境における熱および光に対して着色状態をより安定化させて、より長期間にわたって可視画像を与えるが、その画像は適切な消去工程を使用すれば命令により消去することができる。そのために、その組成物は、画像形成媒体において、透明状態、特に非イオン性透明状態と、着色状態、特にイオン性着色状態との間での可逆的な転移を示す。「着色状態」という用語は、実施態様においては、たとえば可視光波長の存在を表しており、同様にして「無色状態」という用語は、実施態様においては、たとえば可視光波長が完全または実質的に存在しないことを表している。
【0017】
したがって、本発明の開示は、フォトクロミック物質たとえばスピロピラン/メロシアニン物質が適切な溶媒の中に単に溶解または分散されている溶媒ベースの系とは区別される。たとえば、メロシアニン(スピロピラン/メロシアニン物質系において画像コントラストを創り出す機能を有する異性体)は、周囲条件に対して顕著に安定であるという訳ではなく、熱活性化および可視光活性化のいずれによっても、急速かつ容易に無色状態へ戻る傾向がある。しかしながら、公知のことであるが、たとえば極性溶媒を用いた溶液中および/またはその他分子アグリゲーションの起きやすい条件下では、メロシアニンがアグリゲートして、J形アグリゲートおよびH形アグリゲートとなることが可能である。J形アグリゲートは、はしご状の構造であって、そこではそれぞれのメロシアニン分子が同一の方向に配向されており、複数の分子が、分子の負極と正極が重なり合ったずれ積み重ねを形成している。これに対してH形アグリゲートは、積み重ねがより強いタイプの構造であって、そこでは、メロシアニン分子が交互に逆向きに配向されており、複数の分子がまっすぐな積み重ねを形成していて、全部の分子が重なり合っていて、隣接する分子の負極と正極の両方が重なり合うようになっている。それらの積み重ね構造は、着色イオン状態が安定化されているために、長寿命の着色状態を得ることが可能である。たとえばChemical Reviews、2004,104,5,2751を参照されたい。溶液中のスピロピラン/メロシアニン物質によって形成されるこれらのアグリゲート形態を、図1に模式的に示す。アグリゲーション/安定化は、分子の逆向きに荷電されている部分の間での分子間相互作用の結果である。溶液においては、化学種は充分な易動性を有しているために、結合したり自己集合したりして、アグリゲートとなることができる。しかしながら、フォトクロミック物質がポリマーバインダの中に分散されている、固体状態の物質の中ではこれと同じレベルの易動度は存在しえないので、より安定なアグリゲートがそれほど容易には形成されない。
【0018】
いくつかの実施態様においては、この問題を克服するために、画像形成媒体には一般に、適切な基材材料の上にコーティングするかもしくはその中に含浸させるか、または第一および第二の基材材料(すなわち、基材材料とオーバーコート層)の間にサンドイッチまたは積層させた画像形成層が含まれる。その画像形成層には、アイオノマーの中に分散された各種適切なフォトクロミック物質と、場合によってはさらにポリマーバインダとを含んでいることができる。アイオノマーを、画像形成層を形成させるための単一のポリマーバインダとして機能させることも可能であるし、あるいは任意のさらなるポリマーバインダを、たとえば非アイオノマーポリマーバインダとして使用することも可能である。
【0019】
フォトクロミック物質およびアイオノマーは一般的には、それらの物質のイオンの形態を安定化させることが可能な各種の適切な物質である。したがって、フォトクロミック物質およびポリマーを選択して、着色状態においては、フォトクロミック物質とアイオノマーをアグリゲート化させた構造にすることで、形成された画像に所望の安定性を付与することにより、アイオノマーが極性である性質がフォトクロミック物質のイオンの形態を安定化させるのに役立つようにする。さらに、それらの物質を選択して、たとえばUV光で露光させることにより、フォトクロミック物質が第一の透明または無色の状態から第二の着色状態へと容易に切り替わることが可能であり、そしてたとえば可視光のような光および/または熱に暴露させることで、第二の着色状態から第一の透明または無色の状態に容易に戻ることが可能であるようにする。実施態様における色の状態の変化は可逆的であって、そのため、画像を「消去」してその画像形成媒体をブランクの状態に戻すことが可能である。
【0020】
いくつかの実施態様においては、各種適切な組成物を使用して画像形成層を形成させることができる。たとえば、画像形成層には、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質と、場合によってはさらに非イオン性のポリマーバインダが含まれるようにすることができる。活性な画像形成材料を、画像形成層を形成させるために適した各種の媒体、たとえば溶媒、溶液、ポリマーバインダなどの中に分散させたり、マイクロカプセル化される物質の形態で与えたり、封入されたマトリックスの中に組み込んで、画像形成組成物をその場に保持するようにさせたりすることが可能である。しかしながら、いくつかの実施態様においては、活性な画像形成材料を、それらが基材の上で固体状の画像形成層を形成するように備えておく。いくつかの実施態様においては、その画像形成反応が、ほぼ無制限な回数可逆的であるようにすることができるが、その理由は、透明状態と着色状態との間の異性化による変化では、回数を繰り返しても物質を消耗することはないからである。
【0021】
各種適切なフォトクロミック物質を使用することが可能であるが、そのフォトクロミック物質は、光および場合によっては熱に暴露させることによって必要な変色を示す。フォトクロミック物質はフォトクロミズムを示すことができるが、その現象は、電磁線を吸収することによって、異なった吸収スペクトルを有する2つの形態の間で、一方向または双方向に誘導される化学種の可逆性の転位である。第一の形態は、熱力学的に安定であって、光たとえば紫外光を吸収することによって誘導されて第二の形態に転化される。いくつかの実施態様においては第二の形態が安定であって、アイオノマーとの相互作用によってアグリゲートのような構造を形成する。たとえば光たとえば可視光の吸収および/または熱的に、第二の形態から第一の形態への逆反応を起こさせることができる。フォトクロミック物質の各種の例示的な実施態様にはさらに、可逆性の転位が3種以上の形態の間で起きるような場合に、3種またはそれ以上の形態の間における化学種の可逆性の転位もまた含まれ得る。実施態様におけるフォトクロミック物質は、1種、2種、3種、4種、またはそれ以上の各種のタイプのフォトクロミック物質からなっていてよく、それらそれぞれが、可逆的に相互に転化することが可能な形態を有している。本明細書で使用するとき、「フォトクロミック物質」という用語は、フォトクロミック物質の特定の化学種のすべての分子を指していて、それらの一時的な異性体の形態には関係ない。たとえば、そのフォトクロミック物質が、スピロピランおよびメロシアニンとして異性体形態をとることが可能な化学種スピロピランである場合、いかなる瞬間においても、フォトクロミック物質の分子が、完全にスピロピランであっても、完全にメロシアニンであっても、あるいはスピロピランとメロシアニンの混合物であってもよい。各種の例示的な実施態様において、各種のタイプのフォトクロミック物質では、一つの形態が無色または弱く着色されており、他の形態が異なった色となっていてもよい。
【0022】
フォトクロミック物質は、フォトクロミック用紙を与えるのに有用な各種適切なフォトクロミック物質、たとえば、有機フォトクロミック物質であってよい。フォトクロミック物質の例としては、スピロピランおよびその関連化合物たとえばスピロオキサジンおよびチオスピロピラン、ベンゾおよびナフトピラン(クロメン)、スチルベン、アゾベンゼン、ビスイミダゾール、スピロジヒドロインドリジン、キニーネ、ペリミジンスピロシクロヘキサジエノン、ビオロゲン、フルギド、フルギミド、ジアリールエテン、ヒドラジン、アニル、アリールジスルフィド、アリールチオスルホネートなどが挙げられる。アリールジスルフィドおよびアリールチオスルホネートにおける好適なアリール基としては、フェニル、ナフチル、フェナントレン、アントラセン、それらの置換された基などが挙げられる。これらの物質は、たとえばスピロピランおよび関連化合物の場合では、複素環の開裂、たとえばヒドラジンアリールジスルフィド化合物の場合には同素環の開裂、たとえばアゾ化合物、スチルベン化合物などの場合にはシス−トランス異性化、たとえばフォトクロミックキニーネの場合にはプロトンもしくはグループトランスファー光互変異性、たとえばビオロゲンの場合には電子移動によるフォトクロミズムなど、各種の反応を起こさせることができる。それらの物質の具体例を以下に挙げる。
【0023】
【化1】

【0024】
これらの構造において、各種のR基(すなわち、R、R、R、R、R)は独立して各種適切な基であってよいが、非限定的に例を挙げれば、水素;アルキル、たとえばメチル、エチル、プロピル、ブチルなどであるが、環状アルキル基、たとえばシクロプロピル、シクロヘキシルなど、および不飽和アルキル基、たとえばビニル基(HC=CH−)、アリル基(HC=CH−CH−)、プロピニル基(HC≡C−CH−)など、を含み、上述のそれぞれにおいて、アルキル基は1〜約50個またはそれ以上の炭素原子、たとえば1〜約30個の炭素原子を有するもの;アリール、たとえばフェニル、ナフチル、フェナントレン、アントラセン、それらの置換された基などで、約6〜約30個の炭素原子、たとえば約6〜約20個の炭素原子を含むもの;アリールアルキル、たとえば約7〜約50個の炭素原子、たとえば約7〜約30個の炭素原子を有するもの;シリル基;ニトロ基;シアノ基;ハライド原子、たとえばフルオリド、クロリド、ブロミド、ヨード、およびアスタチド;1級、2級、および3級アミンを含むアミン基;ヒドロキシ基;アルコキシ基、たとえば1〜約50個の炭素原子、たとえば1〜約30個の炭素原子を有するもの;アリールオキシ基、たとえば約6〜約30個の炭素原子、たとえば約6〜約20個の炭素原子を有するもの;アルキルチオ基、たとえば1〜約50個の炭素原子、たとえば1〜約30個の炭素原子を有するもの;アリールチオ基、たとえば約6〜約30個の炭素原子、たとえば約6〜約20個の炭素原子を有するもの;アルデヒド基;ケトン基;エステル基;アミド基;カルボン酸基;スルホン酸基;など。アルキル、アリール、およびアリールアルキル基はさらに、以下のような基で置換されていてもよく、たとえば、シリル基;ニトロ基;シアノ基;ハライド原子、たとえばフルオリド、クロリド、ブロミド、ヨード、およびアスタチド;1級、2級、および3級アミンを含むアミン基;ヒドロキシ基;アルコキシ基、たとえば1〜約20個の炭素原子、たとえば1〜約10個の炭素原子を有するもの;アリールオキシ基、たとえば約6〜約20個の炭素原子、たとえば約6〜約10個の炭素原子を有するもの;アルキルチオ基、たとえば1〜約20個の炭素原子、たとえば1〜約10個の炭素原子を有するもの;アリールチオ基、たとえば約6〜約20個の炭素原子、たとえば約6〜約10個の炭素原子を有するもの;アルデヒド基;ケトン基;エステル基;アミド基;カルボン酸基;スルホン酸基;など。ArおよびArは独立して、各種適切なアリールまたはアリール含有基たとえば、フェニル、ナフチル、フェナントレン、アントラセンなどならびに、アルキル、アリール、およびアリールアルキル基について上述した各種の置換基を含むそれらの置換された基とすることができるが、これらに限定される訳ではない。スピロピランの式におけるXは、適切なヘテロ原子たとえば、N、O、Sなどである。Yは、−N−または−CH−とすることができる。ビオロゲンの式におけるXは、たとえば、F、Cl、Br、I、BF、PF、B(Cなどとすることができる。アリールチオスルホネートにおけるXは、たとえば、−O−、S、−NH−などとすることができる。
【0025】
いくつかの実施態様においては、フォトクロミック物質を選択して、アイオノマー(またはイオン性ポリマー)の存在下に、光および/または熱の照射を受けたときに、フォトクロミック物質が着色または無色のいずれか一方の形態から他方の形態へと転化されるのに充分な易動度を示すかもしくは得られるようにするのが望ましいが、ここでそれらの形態の一方は、望ましくない転化に対してより安定なアグリゲートの形態である。これらの実施態様においては、それらのアグリゲートは、フォトクロミック物質の複数の分子だけのアグリゲートでなければならないという訳ではなく、フォトクロミック物質の複数の分子のアグリゲートであるか、あるいは、フォトクロミック物質の1個または複数の分子とアイオノマーの1個または複数の分子または鎖とのアグリゲートであるかの、いずれかであってもよい。フォトクロミック物質とアイオノマーとを含むそれらのアグリゲートが生成すると、フォトクロミック物質が着色状態に固定され、無色の形態への望ましくない状態の変化に対して安定化される。フォトクロミック物質とアイオノマーとの間のイオン的な相互作用がこの望ましい画像安定性を与えている。たとえば、図2は、イオン性のフォトクロミック物質と、2種の異なったアイオノマーポリマーとがどのように相互作用をしているかを模式的に示している。
【0026】
イオン性ポリマーまたは高分子電解質とも呼ばれる各種適切なアイオノマーを、フォトクロミック物質と組み合わせて使用してもよい。一般的に、好適なアイオノマーとは、イオン的な特性を示して、それにより、フォトクロミック物質のイオンの形態と相互作用して、安定化された形態を形成するようなものである。たとえば、ポリアニオンたとえば、ポリスチレンナトリウムスルホネート、またはポリカチオンたとえば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、図2に見られるように、フォトクロミック物質たとえばメロシアニン状態を相補的に電荷安定化させることができる。
【0027】
それらのイオン含有ポリマーは、カチオン性の性質を有していて、ハライド(クロリド、ブロミド、ヨーダイドなど)を含む対イオンおよび有機アニオンたとえばトシレートなどを含んでいてもよいし、あるいはアニオン性の性質を有していて、アルカリ、アルカリ土類、遷移金属を含む対イオンまたは有機カチオン(たとえばアンモニウムまたはピリジニウム)を含んでいてもよい。ポリカチオン含有セグメントとポリアニオン含有セグメントの両方を含む高分子両性電解質もまた、実施態様において採用することができる。適切なポリマーとしては、A.アイセンベルグ(A.Eisenberg)およびJ−S.キム(J-S.Kim)、『Introduction to Ionomers』、John Wiley and Sons、1998に記載されているものが挙げられる。たとえば、ペンダントしたイオン性基(pendant ionic groups)を有する適切なポリマー繰り返し単位としては、以下のものが挙げられる。
【0028】
以下の構造のアニオン性基:
【化2】

【0029】
以下の構造のカチオン性基:
【化3】

【0030】
上記各イオン性基において、nは、繰り返し単位の数、たとえば0から約20まで、または約30まで、または約50まで、たとえば1から約15まで、または約20までを表し、R、R’およびR”は、適切な非置換もしくは置換の、直鎖状もしくは分岐状の、アルキル基たとえば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチルなど、もしくは環状アルキル基たとえば、シクロプロピル、シクロヘキシルなどで、1〜約20、たとえば1〜約15、1〜約10、または1から約6までもしくは約8までの炭素原子を有しており、その置換基としては、シリル基、ニトロ基、シアノ基、ハライド原子、アミン基、ヒドロキシ基、たとえば1〜約20個の炭素原子を有するアルコキシ基、たとえば約6〜約20個の炭素原子を有するアリールオキシ基などが挙げられる。その他の好適な基としては、たとえば次式の基などを含むアイオネンおよび芳香族アイオネンポリマーが挙げられる:
【0031】
【化4】

【0032】
ここで、xおよびyは、繰り返し単位の数を表していて、たとえば0から約20まで、もしくは約30まで、もしくは約50まで、たとえば1から約15まで、もしくは約20までであり、nは、ポリマー鎖における繰り返し単位の数を表していて、約10から約100まで、約1,000まで、約10,000までまたはそれ以上の範囲をとることが可能であり、そしてRは先に定義されたものである。
【0033】
具体的なアニオン含有ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートおよびポリアクリレートをベースとするものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。具体的なカチオン含有ポリマーとしては、ポリピリジニウムおよびポリスチレンの四級アンモニウム塩をベースとしたものであって、ペンダントしたイオン性基としてもしくはポリマー骨格の中に直接存在させたイオン性官能基を有するものなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。たとえば、対カチオンのNa、K、Ca2+などを有するポリスチレンスルホネートを使用することができる。その他好適な対カチオンは、一般構造式NR(式中、R〜R基は、たとえば1〜約20個以上の炭素原子のアルキル鎖であってよい)のアンモニウム基である。他のタイプの好適な例は、Na、K、Ca2+などのような対カチオンを有するポリアクリル酸塩である。
【0034】
イオン官能性は、各種異なったポリマー構造において生じさせることができ、そのような構造としてはたとえば、ポリマー鎖、ブロックコポリマー、統計的コポリマー(statistical copolymer)、ランダムコポリマー、櫛形ポリマー、グラフトポリマー、などの一つまたは両方の(テレケリック(telechelic))末端に位置する単一イオンが関わるものが挙げられる。いくつかの実施態様においては、フォトクロミック物質をアイオノマーから分離することもできるし、それに対して別な実施態様においては、フォトクロミック物質をアイオノマーに、たとえば共有結合によって結合させることもできる。それらの実施態様においては、フォトクロミック物質を、ポリマー鎖の末端で、ポリマー鎖への側基として、あるいは直接ポリマー鎖そのものの中に、アイオノマーに結合させることができる。そのようにして組み込んだ場合、フォトクロミック物質−アイオノマー反応生成物は、各種適切なポリマー構造をとることが可能であって、そのような構造としてはたとえば、ポリマー鎖、ブロックコポリマー、統計的コポリマー、ランダムコポリマー、櫛形ポリマー、グラフトポリマー、などの一つまたは両方の(テレケリク)末端での組入れに関わるものが挙げられる。
【0035】
その画像形成物質(フォトクロミック物質およびアイオノマー)は、場合によっては、各種適切なキャリヤー、たとえば溶媒、さらなるポリマーバインダなどの中に分散させてもよい。いくつかの実施態様においては、アイオノマーがバインダ物質として機能することが可能なポリマーそのものであるので、さらなるバインダまたはキャリヤーを必要とせず、アイオノマーを、成膜性バインダを与える機能にも役立たせることができる。他の実施態様においては、アイオノマーに加えて、別の成膜性ポリマーバインダを備えておくこともできる。
【0036】
好適なポリマーバインダの例としては、ポリアルキルアクリレートたとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ(スチレン)−コ−(エチレン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリビニル誘導体、セルロース誘導体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。たとえばポリスチレン−アクリロニトリル、ポリエチレン−アクリレート、塩化ビニリデン−塩化ビニル、酢酸ビニル−塩化ビニリデン、スチレン−アルキド樹脂などのコポリマー物質もまた、好適なバインダ物質の例である。それらのコポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、交互コポリマーなどであってよい。いくつかの実施態様においては、ポリメチルメタクリレートまたはポリスチレンを、それらのコストおよび入手容易性の面から、ポリマーバインダとする。したがって、それらの任意成分のポリマーバインダ物質は、アイオノマーを形成させるのに使用されるベースポリマーと同じもの(たとえば、スルホン化金属イオンポリエステルアイオノマーと共に使用されるさらなるポリエステルポリマーバインダ)であってもよいが、ただし、そのさらなるポリマーバインダが非イオン性ポリマーである場合は除く。さらなるポリマーバインダを使用する場合には、それは、コーティングまたは成膜性組成物を与える役目を有している。
【0037】
ポリマーバインダとして相変化物質を使用することもまた可能である。相変化物質は当業者には公知であって、たとえば以下のようなものが挙げられる:結晶性ポリエチレン、たとえばべーカー・ペトロライト・インコーポレーテッド(Baker Petrolite Inc.)製の、ポリワックス(Polywax(登録商標))2000、ポリワックス(Polywax(登録商標))1000、ポリワックス(Polywax(登録商標))500;酸化ワックス、たとえばベーカー−ヒューズ・インコーポレーテッド(Baker-Hughers Inc.)製のX−2073およびメコン(Mekon)ワックス;結晶性ポリエチレンコポリマーたとえば、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、エチレン/ビニルアルコールコポリマー、エチレン/アクリル酸コポリマー、エチレン/メタクリル酸コポリマー、エチレン/一酸化炭素コポリマー、ポリエチレン−b−ポリアルキレングリコール(ここで、そのアルキレン部分は、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレンなどであってよく、ポリエチレン−b−(ポリエチレングリコール)も含む)など;結晶性ポリアミド;ポリエステルアミド;ポリビニルブチラール;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;加水分解ポリビニルアルコール;ポリアセタール;結晶性ポリ(エチレングリコール);ポリエチレンオキシド;ポリエチレンテレフタレート;ポリ(エチレンスクシネート);結晶性セルロースポリマー;脂肪族アルコール;エトキシル化脂肪族アルコール;など、およびそれらの混合物。
【0038】
いくつかの実施態様においては、その画像形成組成物を一方の形で適用し、乾燥させて使用のための他方の形にすることもできる。したがって、たとえば、フォトクロミック物質、アイオノマー、および任意成分のバインダポリマーを含む画像形成組成物を、基材に塗布したりまたは基材の中に含浸させたりするために、溶媒の中に溶解または分散させ、次いでその溶媒を蒸発させて乾燥層を形成させてもよい。
【0039】
一般的には、その画像形成組成物には、画像形成材料およびキャリヤー(アイオノマーおよび任意成分のポリマーバインダ)を、各種適切な量、たとえば約0.01または約5から約99質量パーセントのキャリヤー、たとえば約30〜約70質量パーセントのキャリヤー、および約0.01または約0.05から約50質量パーセントまでのフォトクロミック物質、たとえば約0.1〜約5質量パーセントのフォトクロミック物質で含むようにすることができる。非限定的ではあるが、具体的な実施態様においては、フォトクロミック物質を、画像形成層の全乾燥質量の約0.01%〜約20質量%の量で存在させ、そしてアイオノマーを、画像形成層の全乾燥質量の約0.01%〜約99質量%の量で存在させる。
【0040】
画像形成層を画像形成媒体基材に適用する場合には、画像形成層組成物を各種適切な方法により適用することができる。たとえば、画像形成層組成物を混合し、各種適切な溶媒またはポリマーバインダと共に適用し、次いで硬化または乾燥させて所望の層を形成させることができる。さらに、画像形成層組成物を、支持基材に対して独立した層として適用してもよいし、あるいは支持基材の中に含浸されるように適用してもよい。
【0041】
画像形成媒体には、その少なくとも片面の上に画像形成層をコーティングまたは含浸させた支持基材が含まれていてよい。所望により、その基材の片面だけ、またはその両面に画像形成層を用いたコーティングまたは含浸をさせることができる。
【0042】
各種適切な支持基材を使用してよい。たとえば、好適な支持基材の例としては、ガラス、セラミックス、木材、プラスチック、紙、布、織物製品、ポリマーフィルム、無機基材たとえば金属などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。基材は単一層であっても、多層であってもよいが、多層の場合には、それぞれの層が同じ材料であっても、異なった材料であってもよい。いくつかの実施態様においては、基材がたとえば約0.3mm〜約5mmの範囲の厚みを有するが、所望により、より薄いかまたはより厚い厚みを使用することも可能である。
【0043】
画像形成媒体に不透明な層を使用する場合には、各種適切な物質を使用してもよい。たとえば、白い紙様の外観が望ましい場合には、二酸化チタンもしくはその他の適切な物質たとえば酸化亜鉛、無機炭酸塩などの薄いコーティングを用いて、不透明層を形成させてもよい。その不透明層は、たとえば約0.01mm〜約10mm、たとえば約0.1mm〜約5mmの厚みとすることができるが、その他の厚みであってもよい。
【0044】
所望により、適用された画像形成層の上にさらに、さらなるオーバーコーティング層を適用してもよい。そのさらなるオーバーコーティング層は、たとえば、その基材の上に位置する下側層にさらに接着するように適用して、耐摩耗性を与えたり、外観や感触を改良したりしてもよい。オーバーコーティング層は、基材物質と同一であっても異なっていてもよいが、いくつかの実施態様においては、オーバーコーティング層と基材層の内の少なくとも一方が明澄透明であって、形成された画像が見られるようになっている。そのオーバーコーティング層は、たとえば約0.01mm〜約10mm、たとえば約0.1mm〜約5mmの厚みとすることができるが、その他の厚みであってもよい。しかしながら、いくつかの実施態様においては、オーバーコーティング層を使用せず、それによって、画像形成工程の間に発生した水分が画像形成後の加熱工程において容易に蒸発できるようにしている。たとえば、所望または必要に応じて、そのコーティングされた基材を、支持シートたとえばプラスチックシートの間に積層させることもできる。
【0045】
画像形成材料を基材の上にコーティングしたり基材の中に含浸させたりする実施態様においては、そのコーティングを当業者が用いる各種適切な方法によって実施することが可能であって、そのコーティング方法に関しては特に制限はない。
【0046】
その方法の態様において、本発明の開示には、基材ならびにアイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質、場合によってはさらにポリマーバインダを含む画像形成層からなる画像形成媒体を提供することが含まれるが、その組成物は、基材の上または中へのドライコーティングとして与えることができる。書き込みプロセスと消去プロセスを別途に与えるために、画像形成は、第一の刺激、たとえばUV光照射を画像形成材料に適用して変色を起こさせることによって実施し、消去は、第二の別な刺激、たとえばUVまたは可視光照射および場合によっては熱を画像形成材料に適用して、その変色を戻すことによって実施する。したがって、たとえばその画像形成層は、全体として、フォトクロミック物質の透明状態から着色状態への転化を起こさせる第一の(たとえばUV)波長での感度が高く、それに対して、その画像形成層は、フォトクロミック物質の着色状態から透明状態へ戻る転化を起こさせる第二の、別な(たとえば可視光)波長での感度が高い。
【0047】
いくつかの実施態様においては、書き込みおよび/または消去プロセスのいずれの場合でも、光照射の前または光照射と同時に画像形成層に対して熱を加えることも可能である。しかしながら、いくつかの実施態様においては、UV光照射のような刺激で無色状態から着色状態への変色を起こさせるには充分であるために、書き込みプロセスにおいては加熱を必要としないが、それに対して消去プロセスにおいては、着色状態から無色状態への変色速度を上げることを目的として物質の易動度の上昇に役立たせるよう、加熱するのが望ましい。熱を使用した場合、その熱が画像形成組成物、特にフォトクロミック物質の温度を上昇させて、画像形成組成物の易動度を上げ、それによって、一つの色の状態から他の状態への、より容易でより迅速な転化が可能となる。加熱が画像形成組成物を照射の際に望ましい温度にまで上げるのならば、熱は照射の前または照射と同時に加えることができる。各種適切な加熱温度を使用することが可能であるが、それらは、たとえば具体的に使用される画像形成組成物に依存するであろう。たとえば、加熱を実施して、アイオノマーおよび/またはさらなるポリマーバインダをそのガラス転移温度もしくは融点またはその近傍、たとえばそのガラス転移温度または融点の約5℃以内、約10℃以内、または約20℃以内にまで上げることができるが、ここで上述の加熱温度は、そのガラス転移温度または融点の下であっても、上であってもよい。
【0048】
異なった刺激、たとえば異なった光照射波長を適切に選択して、書き込み操作と消去操作を区別させることも可能である。たとえば、一つの実施態様においては、フォトクロミック物質を選択して、透明状態から着色状態への異性化を起こさせるためのUV光に対する感度を高くするが、その一方で着色状態から透明状態への異性化を起こさせるための可視光に対する感度を高くする。また別な実施態様においては、その書き込み用の波長と消去用の波長を、少なくとも約10nm、たとえば少なくとも約20nm、少なくとも約30nm、少なくとも約40nm、少なくとも約50nm、または少なくとも約100nm離しておく。したがって、たとえば書き込み用波長が約360nmの波長であるとすると、消去用の波長は、約400nmより長い、たとえば約500nmより長い波長とするのが望ましい。言うまでもないことであるが、増感波長の相対的な分離は、たとえばその露光装置の比較的狭い波長に依存する可能性がある。
【0049】
書き込みプロセスにおいては、その画像形成媒体を、適切な活性化波長を有する画像形成用光線、たとえばUV光源たとえば発光ダイオード(LED)に、像様に露光させる。その画像形成用光線が、フォトクロミック物質に充分なエネルギーを与えることにより、そのフォトクロミック物質に透明状態から着色状態への転化(たとえば異性体)を起こさせて、その画像形成位置に着色画像を作り出し、そのフォトクロミック物質をアイオノマーと相互作用させてその画像を安定化させる。その画像形成媒体の特定の位置に照射するエネルギーの量は、その位置に生成される色の強度または色合いに影響する可能性がある。したがって、たとえばその位置に与えるエネルギー量が少ないと、発生する着色フォトクロミック単位の量が少なくなるので、強度のより低い画像を形成させることができるし、それに対して、その位置に与えるエネルギー量が多いと、発生する着色フォトクロミック単位の量が多くなるので、強度のより高い画像を形成させることができる。フォトクロミック物質、アイオノマー、任意成分のポリマーバインダ、および照射条件を適切に選択すると、画像形成媒体の特定の位置に照射されるエネルギーの量を変化させることによって、グレースケール画像を形成させることが可能であるし、他の適切なフォトクロミック物質を選択すれば、フルカラー画像を形成させることも可能である。
【0050】
書き込みプロセスによって画像が一旦生成してしまえば、フォトクロミック物質とアイオノマーとの間でアグリゲートが生成するために、その画像が安定化される。すなわち、形成されたグリゲートの易動度が低く、高い安定性を示すので、それによって、着色状態を凍結(frozen)または固定(locked in)することが可能となるが、それは、特別な第二の刺激無しでは、容易に消去することが不可能である。そのようにして、その画像形成基材は長寿命の画像ライフを示す画像再形成可能な基材を与えるが、その画像は所望により消去し、次の画像形成サイクルで再使用することが可能である。
【0051】
消去プロセスにおいては、書き込みプロセスを実質的に繰り返すが、ただし異なった刺激、たとえば異なった波長の照射光たとえば可視光を使用するか、あるいはそのフォトクロミック物質を、たとえばキャリヤー物質のガラス転移温度、溶融温度、または沸騰温度またはその近くの温度にまで加熱して、さらなる易動度を与え、アグリゲートの崩壊または分裂を助ける。消去プロセスが、フォトクロミック単位の着色状態から透明状態への転化たとえば異性化を起こさせて、予め形成されていた画像を、その画像形成位置で消去する。消去手順は、所望により、像様に実施することもできるし、あるいは全体として画像形成層全部に実施することもできる。
【0052】
一時的画像を形成させたり一時的画像を消去させたりするのに使用されるそれぞれの画像形成用光線は、各種適切な所定の波長範囲、たとえば単一波長または波長帯を有していてよい。各種の例示的実施態様において、画像形成用光線は、紫外(UV)光および可視光であるが、それらはそれぞれ、単一波長または狭い波長帯を有している。たとえば、UV光は、約200nm〜約475nmのUV光の波長範囲、たとえば約365nmでの単一波長、または約360nm〜約420nmの波長帯から選択することができる。画像を形成させるため、さらには画像を消去させるためには、その画像形成媒体を、画像形成光または消去光それぞれに、約10ミリ秒〜約5分、特に約30ミリ秒〜約1分の範囲の時間、露光させるのがよい。画像形成用および消去用の光線の強度範囲は、約0.1mW/cm〜約100mW/cm、特に約0.5mW/cm〜約10mW/cmとすることができる。
【0053】
各種の例示的な実施態様においては、予め定められた画像に対応する画像形成用光線は、たとえばコンピュータまたは発光ダイオード(LED)アレイにより発生させることができ、その画像は、媒体を、所望の時間そのLEDスクリーンの上または近傍に置くことにより画像形成媒体の上に形成される。また別な例示的実施態様においては、UVラスター・アウトプット・スキャナー(Raster Output Scanner)(ROS)を使用して、UV光を像様パターンで発生させてもよい。この実施態様は特に、たとえば、それ以外は通常の様式であるが、コンピュータ駆動により印刷画像を発生させることが可能なプリンタデバイスに応用することができる。すなわち、そのプリンタは一般的に通常のインクジェットプリンタに相当しているが、ただし、像様にインキの液滴を噴射するインクジェットプリントヘッドを、画像形成媒体を像様に露光する適切なUV光プリントヘッドによって置き換えることが可能なものである。この実施態様においては、UV光源を使用して書き込みを行うので、もはやインキカートリッジを交換する必要ない。使用することが可能なその他の適切な画像形成方法としては、マスクを通してUV光を画像形成媒体の上に照射する方法、たとえばライトペンを使用して像様に画像形成媒体の上にピンポイントでUV光源を照射する方法などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0054】
各種の例示的実施態様において、画像形成基材を再使用する目的で画像を消去するためには、その基材を適切な画像用光線に露光させて、その画像を消去させることができる。そのような消去は、各種適切な方法、たとえば、基材全体を消去光に一度に露光させる方法、たとえば基材をスキャンさせることにより基材全体を連続的に消去光に露光させる方法などで実施することができる。他の実施態様においては、たとえばライトペンなどを使用して、基材の上の特定のポイントで消去を実施することも可能である。
【0055】
各種の例示的な実施態様において、観察者に画像が見えるようにするためのカラーコントラストは、たとえば2種、3種またはそれ以上の異なった色の間のコントラストであってよい。「カラー(color)」という用語には、いくつかの側面たとえば色相、明度、および彩度などが含まれ、ここで、二つのカラーが少なくとも一つの側面で異なっていれば、一つのカラーを他のカラーから区別することができる。たとえば、2つのカラーが同じ色相と彩度とを有しているが、明度に違いがある場合には、異なったカラーとみなしうる。各種適切なカラー、たとえば、レッド、ホワイト、ブラック、グレー、イエロー、シアン、マゼンタ、ブルー、およびパープルを使用して、カラーコントラストを作ることができるが、ただし、使用者の裸眼に画像が見えるようにしなければならない。しかしながら、望まれる最大限のカラーコントラストという点では、望ましいカラーコントラストは、明るいもしくはホワイトの、たとえばグレー、ダークグレーのバックグラウンドの上のダークグレーもしくはブラックの画像、または、ホワイトのバックグラウンドの上のブラックの画像、またはライトグレーのバックグラウンドの上のグレー、ダークグレー、もしくはブラックの画像などである。
【0056】
各種の例示的な実施態様において、カラーコントラストが変化、たとえば可視時間の間において低下するが、「カラーコントラスト」という用語には、可視時間の間にカラーコントラストが変化するか、一定であるかには関係なく、使用者に認識しうる画像を与えるに充分なカラーコントラストの各種レベルが包含される。
【実施例1】
【0057】
[実施例1]
メロシアニン(イオン形、30質量部)、200質量部のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)のメタノール(2000体積部)溶液を、画像形成組成物として調製する。その溶液をゼロックス(Xerox)4024用紙の上にコーティングし、乾燥させて、均質に着色した用紙シートを得る。その用紙シートを、80℃を超える温度で均質に加熱することによってコンディショニングして、実質的に無色とする。
【0058】
所望の領域にUV光(365nm)を露光させることによって、その用紙に書き込む。そうして印刷した用紙は、周囲の室内光条件に保存した場合、1日よりも長い期間読み取ることができる。比較のために、上述のようにして調製するがアイオノマーが無い画像形成組成物は、周囲の室内光条件に保存した場合、約20時間で退色する。
【0059】
[実施例2]
20質量部の1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ−(2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール(フォトクロミック物質)および200質量部のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)を含む2000体積部のメタノール/THF溶液を、画像形成組成物として調製する。その溶液をゼロックス(Xerox)4024用紙の上にコーティングし、乾燥させて、透明状態の文書を得る。その文書の所望の領域に、380nmの波長のUV光源(LED)を10秒間露光させて書き込みを行う。そうして印刷した用紙は、周囲の室内光条件に保存した場合、1日よりも長い期間読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】溶液中におけるフォトクロミック物質分子の相互作用を模式的に示した図である。
【図2】固体状態におけるフォトクロミック物質とアイオノマーとの相互作用を模式的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上にコーティングまたはその中に含浸させた画像形成層と、
を含み、
前記画像形成層が、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質および、場合によってはさらにポリマーバインダを含み、
前記フォトクロミック物質が、熱および場合によっては光に応答して、無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す、画像形成媒体。
【請求項2】
画像形成層組成物を基材に適用する工程を含む、画像形成媒体を製造する方法であって、
前記画像形成層組成物が、アイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質、場合によってはさらにポリマーバインダを含み、
前記フォトクロミック物質が、熱および場合によっては光に応答して、無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す、方法。
【請求項3】
画像を形成させるための方法であって、
画像形成媒体を準備する工程であって、該画像形成媒体が、基材と、前記基材の上にコーティングまたはその中に含浸させた画像形成層と、を含む、工程と、
前記画像形成媒体を第一の波長のUV照射に像様に露光させて、可視画像を形成させる工程と、
を含み、
前記画像形成層がアイオノマーの中に分散されたフォトクロミック物質、場合によってはさらにポリマーバインダを含み、
前記フォトクロミック物質が、熱および場合によっては光に応答して、無色状態と着色状態との間で可逆的な転移を示す、方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−310323(P2008−310323A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153944(P2008−153944)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】