説明

インクジェットインクおよびインクセット

本発明は、インクジェット印刷用のイエローインク、特に、特定のイエロー着色剤の組み合わせを含むイエローインクに関する。本発明は、さらに、このイエローインクを含むインクセットに関する。インクおよびインクセットは、普通紙への印刷に特に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用のイエローインク、特に、特定のイエロー着色剤の組み合わせを含むイエローインクに関する。本発明は、さらに、このイエローインクを含むインクセットに関する。インクおよびインクセットは、普通紙への印刷に特に有利である。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許法第119条のもと、2005年9月12日出願の米国仮特許出願第60/716,203号明細書に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
インクジェット印刷は、インクの小滴を紙などの基材上に付着させて所望のイメージを形成するノンインパクトプリントプロセスである。小滴は、マイクロプロセッサにより生成される電気的信号に応答してプリントヘッドから吐出される。インクジェットプリンタは低コスト、高品質印刷を提供し、他のタイプのプリンタの一般的な代替となっている。
【0004】
カラー印刷用のインクジェットインクセットは、一般的には、原色と称されるシアン、マゼンタおよびイエロー(CMY)インクを含むであろう。インクセットはまた、普通、ブラックインクを含むであろう(CMYK)。
【0005】
好適なインクは、一般的には、良好なクラスティング耐性、良好な安定性、適切な粘度、適切な表面張力、良好な色対色にじみ軽減性、急速な乾燥時間、消費者の安全性および低裏抜け性を発揮すべきである。
【0006】
さらに、インクセットは、正確な色調および高い彩度などの良好な色特性を有する印刷イメージを提供すべきである。好ましくは、インクセットは、普通紙を含む一連の媒体ならびに、透明フィルムおよびコート紙などの特殊媒体上でこれらの好ましい特性を達成するであろう。また、ハードコピー出力物は適度に耐光性であることが好ましい。
【0007】
これらの条件のいくつかはインクビヒクル設計により満たされ得るが、他の条件は、着色剤の適切な選択および組み合わせにより満たされなければならない。着色剤の選択は、色対色にじみ制御メカニズムなどの他のシステム要求により追加の制限が着色剤の選択にかかるときに特に重要となる。
【0008】
「にじみ」という用語は、インクが印刷媒体上に付着された後の一つの色の他の色への侵入を意味する。これは2つの隣接する色間の不明瞭な境界として見ることが可能である。にじみの発生は、一層明らかであるためにブラックインクとカラーインクとの間で特に問題である。好ましくは、にじみは、色の間の境界線がきれいでおよび鮮鋭であるよう最低限化されるか、排除される。
【0009】
米国特許公報(特許文献1)は、第1のインクがアニオン性であると共に1つまたは複数のカルボキシルおよび/またはカーボキシレート基を含む着色剤を含み、および第2のインクが、2種のインク組成物間のにじみを防止するために、第1のインク中の着色剤とイオン的に架橋して固体沈殿物を形成するよう設計された沈殿剤を含む、2つの異なって着色されたインク組成物間の色にじみを防止する方法を開示する。多価金属塩が、沈殿剤として有用であるとして開示されている。
【0010】
米国特許公報(特許文献2)は、第1のインクおよび第2のインクを用い、その各々が水性キャリア媒体および着色剤を含有し、第1のインク中の着色剤が顔料分散体であると共に、第2のインクが100部の水中に25℃で少なくとも10部の溶解度を有する有機酸または無機酸の塩を含有し、ここで塩は第1および第2のインク間のにじみを軽減させるに有効な量で存在する、多色印刷エレメントにおけるにじみを軽減させるインクセットを開示する。
【0011】
塩が関与するにじみ制御メカニズムを活用するために、好適な性能特性を提供する一方で、これらの塩の存在下での信頼性を維持することが可能であるインクのセットを有することが必要である。米国特許公報(特許文献3)は、例えば、これらの要求に対処する塩親和性を有するインクセットを開示する。この技術の重要な態様は、このインクセットにおけるイエローインク中のイエロー着色剤の選択である。
【0012】
上記に示した公報はすべて、本願明細書における参照によりすべての目的のためにその内容全体を本願明細書に記載したものとして援用される。
【0013】
適切な色、色安定性および比較的高濃度の無機塩にじみ制御剤を有する環境における信頼性を提供することが可能であるインクセットに対する要求が未だ存在し、これを提供することが本発明の目的である。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5488402号明細書
【特許文献2】米国特許第5518534号明細書
【特許文献3】米国特許第6053969号明細書
【特許文献4】米国特許第6852156号明細書
【特許文献5】米国特許第5085698号明細書
【特許文献6】EP−A−0556649号明細書
【特許文献7】米国特許第5231131号明細書
【非特許文献1】「ザ・カラーインデックス(The Color Index)」、第3版、1971年
【非特許文献2】「カラーテクノロジーの原理(Principles of Color Technology)」、ビルメイヤー(Billmeyer)およびソルツマン(Saltzman)、第3版、ロイバーンズ(Roy Berns)編、ジョンウィリー&サンズ社(John Wiley & Sons,Inc.)(2000年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
一つの態様において、本発明は、水性ビヒクルと、この水性ビヒクルに実質的に可溶であるイエロー染料着色剤とを含むイエローインクジェットインクに関し、ここで、イエロー染料着色剤は、アシッドイエロー17(AY17)と、アシッドオレンジ33(AO33)、リアクティブイエロー181(RY181)およびこれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含む。
【0016】
本発明のコンテクストにおける「実質的に可溶」とは、完全に可溶であることを意味することを意図するが、当業者により容易に理解されるであろうとおり、水性ビヒクルに完全には可溶ではない場合がある極めて微量の成分、不純物等をも含む。換言すると、「実質的に可溶である染料」は、一般的には、本発明のコンテクストにおける使用に好適な純度(100%純度でない場合もあるが)の市販されている形態の染料を含むであろう。
【0017】
他に示されていない限りにおいて、染料は、英国ヨークシャーブラッドフォード(Bradford,Yorkshire,UK)のダイアーズおよびカラリスト学会(Society Dyers and Colourists)により確立され、および(非特許文献1)に発行されているそれらの「C.I.」等級により言及される。
【0018】
他の態様において、本発明は、少なくとも2つの異なって着色されたインクを含むインクジェットインクセットに関し、その少なくとも一つは、上記に規定の、および以下により詳細に記載のイエローインクである。好ましい一実施形態において、インクセットは、少なくとも3つの異なって着色されたインクを含み、その一つがイエローインクであり、その一つがマゼンタインクであり、そのもう一つがシアンインクである。
【0019】
好ましくは、マゼンタインクは、水性ビヒクルと(イエローおよびシアンインク中の水性ビヒクルと同一であっても異なっていてもよい)、この水性ビヒクルに実質的に可溶であるマゼンタ染料着色剤とを含み、ここで、マゼンタ染料着色剤は、アシッドレッド52(AR52)と、アシッドレッド249(AR249)、アシッドレッド289(AR289)、リアクティブレッド180(RR180)、リアクティブレッド23(RR23)、CAS番号182061−89−8およびこれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含み;および好ましくは、シアンインクは、水性ビヒクルと(イエローおよびマゼンタインク中の水性ビヒクルと同一であっても異なっていてもよい)、この水性ビヒクルに実質的に可溶であるシアン染料着色剤とを含み、ここで、シアン染料着色剤は、ダイレクトブルー199(DB199)、アシッドブルー9(AB9)およびこれらの混合物からなる群から選択される染料を含む。
【0020】
他の好ましい実施形態において、インクジェットインクセットは、水性ビヒクル中に分散されたアニオン安定化顔料を含む水性顔料インクを含む。顔料は、アニオン安定化自己分散性顔料であることが可能であるが、好ましくは、アニオン性高分子分散剤(ポリマー−分散)と共に分散された顔料である。好ましくは、顔料インクはブラックであり、および顔料はカーボンブラックであり、より好ましくはポリマー−分散カーボンブラックである。
【0021】
インクセットのイエロー、シアンおよび/またはマゼンタインクは、好ましくは、特にインクセットが水性顔料インクを含む場合に、にじみ制御添加剤、最も好ましくは金属塩を含有する。金属塩は、にじみ制御を提供するに十分なレベルで存在することが好ましい。
【0022】
本発明は、
(a)デジタルデータ信号に応答性であるインクジェットプリンタを提供するステップと、
(b)プリンタに、印刷される基材を装填するステップと、
(c)プリンタに、上記に記載のおよび以下にさらに詳細に記載されるインクジェットインクまたはインクジェットインクセットを装填するステップと、
(d)デジタルデータ信号に応答して、インクジェットインクセットを用いて基材上に印刷するステップと
を含む、基材上にインクジェット印刷する方法をさらに含む。
【0023】
好ましい基材は普通紙である。
【0024】
本発明のこれらおよび他の機構および利点は、以下の詳細な説明の記載から当業者によってより容易に理解されるであろう。明確さのために個別の実施形態のコンテクストで上述の、および後述される本発明の一定の特徴は、単一の実施形態における組み合わせでも提供され得ることが認識されるべきである。逆に、簡潔さのために単一の実施形態コンテクストで記載される本発明の種々の特徴はまた、個別に、またはいずれかのサブコンビネーションで提供され得る。さらに、単数形での言及はまた、コンテクストがそうでないと特定的に明記していない限りは、複数をも包含し得る(例えば、「a」および「an」は、1つ、または1つまたは複数を指し得る)。さらに、範囲で明記された値への言及は、その範囲内の各値およびあらゆる値を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(イエローインク)
イエローインクについての、および一般には、本発明のインクセットのインクについての着色剤の選択においては、特にこれらに限定されないが、特に普通紙上での適切な色相角および色性能、良好な色安定性、および比較的高無機塩含有量を有する配合物における親和性(安定性)を含む、数多くの要因を考慮する必要がある。
【0026】
本発明のインクジェットインクセット用の着色剤の選択において特に重要なのは、イエローインクについての適切な着色剤の選択である。
【0027】
イエロー着色剤は、約85〜約100、および好ましくは約88〜約94の色相角を普通紙上で有するイエローインクを提供すべきである。イエローインクは、少なくとも約70(普通紙上で)の彩度を示すことが望ましい。本願明細書中以下の実施例により立証されているとおり、本発明によるイエローインクは、AY17と、AO33およびRY181の1種または複数種の混合物を含み、所望の色相角および彩度を示し、およびにじみ制御に有用な金属塩の典型的なレベルに適合する。個別の染料AY17、AO33およびRY181は、良好な色安定性をさらに示す。
【0028】
所望のイエロー色相を達成するために、AY17:AO33の重量比は、それぞれ、好ましくは約99:1〜約90:10であり、およびAY17:RY181の重量比は、それぞれ、好ましくは約2:1〜約3:1である。
【0029】
色相角は、インクを普通紙上に印刷することによる標準的な分光光度計測によって測定される。特定の異なる普通紙に印刷されたときのインクの色相角はわずかに異なり得、従って、染料の比を、所望の範囲の色調値が達成されるように、ルーチンの最適化により上記の範囲内で調整することが可能である。
【0030】
(ビヒクル)
インクビヒクルは、着色剤についてのキャリア(または媒体)である。「水性ビヒクル」とは、水、または水と少なくとも1種の水溶性有機溶剤(共溶剤)または湿潤剤との混合物を含むビヒクルを指す。好適な混合物の選択は、所望の表面張力および粘度などの特定の用途の要求、選択される着色剤およびインクがその上に印刷されることとなる基材との親和性に依存する。
【0031】
水溶性有機溶剤および湿潤剤の実施例としては、チオジグリコール、スルホラン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびカプロラクタムなどのアルコール、ケトン、ケト−アルコール、エーテル等;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびヘキシレングリコールなどのグリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等などのオキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー;グリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル;ジエチレングリコールジメチルまたはジエチルエーテルなどの多価アルコールの低級ジアルキルエーテル;尿素および置換尿素が挙げられる。
【0032】
水性ビヒクルは、典型的には、約30%〜約95%の水を含有することとなり、残り(すなわち、約70%〜約5%)は水溶性溶剤である。インク組成物は、典型的には、水性ビヒクルの総重量に基づいて約60%〜約95%の水を含有する。
【0033】
(金属塩)
金属塩は、インク配合物中に組み込まれて、にじみの制御を補助することが可能であり、および他の有益性をも提供し得る。このような金属塩の使用は、例えば、既に援用している米国特許公報(特許文献1)および米国特許公報(特許文献2)中に記載されている。塩は、いくつかの技術分野において沈殿剤として称されており、これは、インクセットにおける他のインクの着色剤(染料、または自己安定化顔料などの、または分散顔料に関連する分散剤のアニオン基)に関連するアニオン基(カルボキシルまたはスルホネートなど)と反応して不溶性の錯体を形成するよう作用すると考えられているためである。しかしながら、本発明は、作用の特定の理論のいずれによっても拘束されない。
【0034】
金属塩は、インクビヒクルに実質的に可溶であり、および金属は、一価または多価カチオンであることが可能である。好適な金属カチオンとしては、例えば:
第IA族金属Na+1、Li+1、K+1、Rb+1およびCs+1
第IIA族金属Mg+2、Ca+2、Sr+2およびBa+2
第IIIA族金属Al+3、Ga+3およびIn+3
遷移金属Cr+3、Mn+2、Fe+2、Fe+3、Co+3、Ni+2、Cu+2、Zn+2、Y+3およびCd+2;および
ランタノイド金属La+3、Pr+3、Nd+3、Sm+3、Eu+3、Gd+2、Tb+3、Dy+2、Ho+3、Er+3、Tm+3、Yb+3およびLu+3が挙げられる。
【0035】
好ましい一価金属カチオンとしては、これらに限定されないが、Na+1およびK+1が挙げられ、および好ましい多価金属カチオンとしては、これらに限定されないが、Zn+2、Mg+2、Ca+2、Cu+2、Ni+2およびFe+2が挙げられる。
【0036】
いずれか2つ以上の金属および金属塩の混合物がまた好適である。
【0037】
本発明のコンテクストにおいて、存在する塩の量は、百万分率(ppm)での金属カチオン(M+n)基準、すなわちM+nの重量/インクの百万重量で表記される。存在するM+nの量(総量)は、一般的には、約1000ppm〜約30,000ppmおよび、より典型的には、約2000ppm〜約20,000ppmの範囲である。
【0038】
好適な金属塩は、無機酸または有機酸の塩であることが可能であり、その適切な選択は、慣例の実験をとおして容易になされる。無機酸は、塩酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸であり得る。有機酸は、カルボン酸、特に電子吸引基で置換されたカルボン酸、および有機スルホン酸であり得る。このような酸のいくつかの実施例としては、クロロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、スルファニル酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0039】
(添加剤)
他の成分(添加剤)が、慣例の実験により容易に測定され得る最終インクの安定性および可噴射性にこのような他の成分が干渉しない程度において、インクジェットインクに配合され得る。このような他の成分は、一般的な意味で技術分野において周知である。
【0040】
普通、界面活性剤は、表面張力および湿潤性を調整するためにインクに添加される。好適な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール(例えばエアープロダクツ(Air Products)製のスルフィノールズ(Surfynols)(登録商標)シリーズ)、エトキシル化一級アルコール(例えばトマープロダクツ(Tomah Products)製のトマドール(Tomadol)(登録商標)シリーズ)および二級アルコール(例えばユニオンカーバイド(Union Carbide)製のテルギトール(Tergitol)(登録商標)シリーズ)、スルホコハク酸塩(例えばサイテック(Cytec)製のエアロゾル(Aerosol)(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えばGEシリコンズ(GE Silicons)製のシルウェット(Silwet)(登録商標)シリーズ)およびフルオロ界面活性剤(例えば本特許出願人製のゾニル(Zonyl)(登録商標)シリーズ)が挙げられる。界面活性剤は、典型的には、インクの総重量に基づいて約0.01〜約5%および好ましくは約0.2〜約2%の量で用いられる。
【0041】
ポリマーは、耐久性を向上させるためにインクに添加され得る。ポリマーは、ビヒクルに可溶または分散(例えば「エマルジョンポリマー」または「ラテックス」)されることが可能であり、およびイオン性またはノニオン性であることが可能である。ポリマーの有用なクラスとしては、アクリル系、スチレン−アクリル系およびポリウレタンが挙げられる。
【0042】
殺生剤が微生物の増殖を阻害するために用いられ得る。緩衝がpHを維持するために用いられ得る。緩衝としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(「トリズマ(Trizma)」または「トリス(Tris)」)が挙げられる。
【0043】
エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチレングリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”、N”−ペンタ酢酸(DTPA)、およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸(GEDTA)、およびこれらの塩などの金属イオン封鎖(またはキレート化)剤の包含が、例えば、重金属不純物の有害な影響を排除するために有利であり得る。
【0044】
(成分の比率)
上述の成分は、一般的には上述のおよび一般的に当業者により認識されている所望のインク特性を達成するために、種々の比率および組み合わせられてインクを形成することが可能である。特定の最終用途のためにインクを最適化するいくつかの実験が必要であり得るが、このような最適化は、一般的には技術分野における通常の技術である。
【0045】
インクにおけるビヒクルの量は、典型的には、約70%〜約99.8%、および典型的には約80%〜約99%の範囲である。着色剤は、一般的には、約10%以下の量で存在する。割合は、インクの総重量の重量パーセントである。
【0046】
他の成分(添加剤)は、存在する場合、一般的には、インクの総重量に基づいて約15重量%未満で含まれる。界面活性剤は、添加される場合、一般的には、インクの総重量に基づいて約0.2〜約3重量%の範囲である。ポリマーは、必要に応じて添加されることが可能であるが、一般的にはインクの総重量に基づいて約15重量%未満であろう。
【0047】
(インク特性)
液滴速度、小滴の分離長さ、液滴サイズおよび流れ安定性は、インクの表面張力および粘度によって大きく影響される。インクジェットインクは、典型的には、25℃で、約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲で表面張力を有する。粘度は、25℃で30cPもの高さであることが可能であるが、典型的にはいくらか低い。インクは、吐出条件およびプリントヘッド設計に調整される物理特性を有する。インクは、顕著な程度でインクジェット装置中で目詰まりしないよう優れた長期の保管安定性を有するべきである。さらに、インクは、接触する、インクジェット印刷デバイスの部品を腐蝕させるべきではなく、および基本的に無臭および無毒であるべきである。インクについての好ましいpHは、約6.5〜約8の範囲である。
【0048】
(インクジェットインクセット)
本発明によるインクジェットインクセットは、少なくとも2つの異なって着色されたインクを含み、その一つが上記のイエローインクである。好ましくは、インクセットは、少なくとも3つの異なって着色されたインク(CMYなどの)、およびさらにより好ましくは少なくとも4つの異なって着色されたインク(CMYKなどの)を含み、ここで、インクの少なくとも一つが上記のイエローインクである。典型的なCMYKインクに追加して、本発明によるインクセットは、オレンジインク、グリーンインク、レッドインクおよび/またはブルーインク、および濃濃度インクとライトシアンおよびライトマゼンタなどの淡濃度インクとの組み合わせなどの異なって着色されたインクを含む1つまたは複数の「全域に広がる」インクをさらに含み得る。
【0049】
インクセット中の他の染料系インク、特に、シアンおよびマゼンタなどの他のカラーインクは、好ましくは染色質であり、好適には耐光性および無機塩に対して安定である。
【0050】
インクセット中の他の染料系インクは、上記の水性ビヒクルと、その水性ビヒクルに実質的に可溶である所望の色の染料着色剤とを含む。任意選択の他の成分およびインク特性は、上記のイエローインクのものと類似の性質のものである。
【0051】
マゼンタインクは、好ましくは、AR52と、AR249、AR289、RR180、RR23、CAS番号182061−89−8およびこれらの混合物からなる群から選択される第2のマゼンタ染料との混合物を含む。第2のマゼンタ染料として最も好ましいのは、AR249およびCAS番号182061−89−8である。
【0052】
CAS番号182061−89−8は、イルフォードイメージンググループ(Ilford Imaging Group)から市販されている(イルフォード(Ilford)M377)。CAS番号182061−89−8の構造は、既に援用している米国特許公報(特許文献3)におけるマゼンタ配合物IIにみることが可能である。
【0053】
所望のマゼンタ色調を達成するために要求されるAR52対第2のマゼンタ染料の重量比は、第2の染料がAR249またはCAS番号182061−89−8の一方であるとき、それぞれ、一般的には約1:3〜約1:8である。
【0054】
シアンインクは、好ましくは、DB199、AB9およびこれらの混合物からなる群から選択されるシアン染料を含む。
【0055】
本発明のイエローインク、および本発明のインクセットの染料系インクの各々は、インクの総重量に基づいて、典型的には、約0.1重量%〜約8重量%および、より典型的には、約0.5重量%〜約6重量%の染料含有量を有する。所与のインクにおける「染料含有量」は、単一の染料種または2種以上の染料種の組み合わせであろうとそのインクに存在する染料の総量を指す。
【0056】
染料は、通常は、アルカリ金属(Na、K、またはLi)または第4級アンモニウム塩などのそれらの塩形態である。最も一般的に市販されている塩形態はナトリウムである。他の塩形態を、周知の技術を利用して形成することが可能である。
【0057】
インクセットは、顔料化インク、より好ましくはアニオン安定化顔料分散体ベースの顔料化インクをさらに含み得る。顔料着色剤は、一般的には、染料系カラーインク中の金属塩と接触すると「クラッシュ」するよう設計されることとなり、これにより、有色領域へのにじみに耐える。
【0058】
水性アニオン性顔料インクは、水性ビヒクル、その中に安定に分散される不溶性着色剤(顔料)および、場合により、上記のものなどの周知のタイプの他の成分(添加剤)を含む。顔料は、いずれかの好適な顔料であることが可能であるが、本発明によるインクセット中に用いられる場合、一般的にはブラック顔料、好ましくはカーボンブラックであろう。
【0059】
顔料は、伝統的に、高分子分散剤などの分散剤または界面活性剤によりビヒクル中の分散体に安定化される。より最近においては、しかしながら、いわゆる「自己分散可能な」または「自己分散性」顔料(本願明細書中以下、「SDP」)が開発されてきている。名前が示唆するとおり、SDPは、水、または水性ビヒクル中に、分散剤無しで分散性である。それ故、顔料は、伝統的な方法での分散剤での処理による、または表面処理および分散剤のいくつかの組み合わせによる、自己分散性とする表面処理により分散体に安定化され得る(例えば、その開示は本願明細書における参照によりすべての目的のためにその内容全体を本願明細書に記載したものとして援用される、米国特許公報(特許文献4)を参照のこと)。
【0060】
好ましくは、分散剤が用いられる場合、分散剤は、ランダムまたは構造化高分子分散剤である。好ましいランダムポリマーとしては、アクリルポリマーおよびスチレン−アクリルポリマーが挙げられる。最も好ましいのは、AB、BABおよびABCブロックコポリマー、分岐ポリマーおよびグラフトポリマーを含む構造化分散剤である。いくつかの有用な構造化ポリマーが、米国特許公報(特許文献5)、(特許文献6)および米国特許公報(特許文献7)(それらの開示は、本願明細書における参照によりすべての目的のためにその内容全体を本願明細書に記載したものとして援用される)に開示されている。
【0061】
分散剤または顔料に適用される表面処理は、アニオン性表面電荷を形成する(「アニオン性顔料分散体」)。好ましくは、その表面電荷は、主にイオン性カルボン酸(カーボキシレート)基により付与される。
【0062】
有用な顔料粒径は、典型的には、約0.005ミクロン〜約15ミクロンの範囲である。好ましくは、顔料粒径は、約0.005〜約5ミクロン、より好ましくは約0.005〜約1ミクロン、および最も好ましくは約0.005〜約0.3ミクロンの範囲であるべきである。
【0063】
(印刷方法)
本発明のインクおよびインクセットは、いずれかの好適なインクジェットプリンタで印刷されることが可能である。基材は、いずれかの好適な基材であることが可能であるが、本発明は、紙、およびとりわけ、「普通」紙への印刷に特に有用である。普通紙は、一般的には、「インクジェット」紙より安価であり、および典型的には、にじみ制御にじみなどの印刷特性を高めるいずれかの特別な添加剤を欠いている。しかしながら、普通紙カテゴリー中においてもにじみに関する性能に差異がある。性能添加剤の有益性は、最もにじむ傾向にある紙について最も明らかとなる。本発明は、選択される紙に依存することなく、良好な品質の印刷を実現させる。普通入手可能である普通紙の実施例は、ゼロックス(Xerox)4024(ゼロックス社(Xerox Corporation))およびハンマーミルコピープラス(Hammermill Copy Plus)(インターナショナルペーパー(International Paper))である。
【実施例】
【0064】
示した成分を一緒に混合し、得られた溶液をろ過することによりインクを調製した。他に明記されていない限りにおいて、水は脱イオン化した。用いた染料は「インクジェットグレード」であり、これらは比較的純粋であり、異質の塩を含まないことを意味する。染料により導入された塩の量は最低限であり、および最終インクにおける塩レベルは、主に、意図的に添加したいずれかの塩に由来する。商業的な実施においては、しかしながら、染料中に普通に見出される異質の塩を除去する必要性はなくてもよく、全塩含有量の一部であることが可能である。
【0065】
(実施例1(比較例))
本発明との比較のために、既に援用している米国特許公報(特許文献3)における表IIIを参照する。この表は、インクジェットの使用について普通言及される種々の染料着色剤に伴う問題を例示する。例えば、DY132は、好ましい色相角、彩度および色安定性を有するが、沈殿剤(無機塩)と非適合性である。DY86は、好ましい、彩度および色安定性を有するが、色相角が所望より小さくおよび沈殿剤と非親和性である。AY23は、好ましい色相角、彩度および沈殿剤との親和性を有するが、色安定性に劣る。AY17は、好ましい彩度、色安定性および沈殿剤との親和性を有するが、色相角が所望より大きい。配合物Iのイエロー染料は、好ましい彩度、色安定性および沈殿剤との親和性を有するが、色相角が所望より小さい。しかしながら、AY17および配合物Iのイエロー染料(既述の米国特許公報(特許文献3)の重要な特徴)と組み合わせたイエローインクは、すべての目標特質、すなわち、90〜95の色相角、少なくとも70の普通紙彩度、良好な色安定性および無機塩との親和性を達成する。
【0066】
(実施例2)
インク2a(比較例)を、AY17およびイルフォード(Ilford)Y104(イルフォードイメージンググループ(Ilford Imaging Group))の着色剤組み合わせと共に配合した。イルフォード(Ilford)Y104(CAS番号187674−70−0)は、既に援用している米国特許公報(特許文献3)における「イエロー配合物I」に対応する。インク2b(本発明)を、AY17(4.2重量%)およびAO33(0.22重量%)の組み合わせと共に配合した。インク2c(本発明)を、AY17(3.0重量%)およびRY181(1.2重量%)の組み合わせと共に配合した。括弧内に記載の各染料の量は、インクの総重量に基づく、染料の重量パーセントである。
【0067】
インクを、ゼロックス(Xerox)4024普通紙上に、「通常」モードで操作したヒューレットパッカードフォトスマート(Hewlett Packard Photosmart)7760インクジェットプリンタで最高濃度で印刷した。色計測を、市販されている分光光度計(この場合、グレタグ−マクベス(Gretag−MacBeth)製のスペクトロアイ(Spectroeye))で行った。色調(hab)および彩度(C*ab)値が、機器から直接的に読み取られるが、これらは、以下の式による項、CIELAB色空間L*、a*およびb*に基づいている:hab=tan-1(b*/a*)(ここで、角度は、適切な象限およびC*ab=(a*2+b*21/2について調整される)。計測および定義は技術分野において周知であり、例えばASTM基準E308および(非特許文献2)を参照のこと。
【0068】
【表1】

【0069】
インク2bおよび2cに用いた本発明の着色剤の組み合わせは、インク2aに代表される、比較のために用いた従来技術の着色剤の組み合わせに類似する、好ましい色相角および彩度を有すると見られる。
【0070】
また、本発明のインク着色剤は塩と適合性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクルと、前記水性ビヒクルに実質的に可溶であるイエロー染料着色剤とを含むイエローインクジェットインクであって、前記イエロー染料着色剤が、アシッドイエロー17と、アシッドオレンジ33、リアクティブイエロー181およびこれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含むことを特徴とするイエローインクジェットインク。
【請求項2】
前記染料着色剤が、アシッドイエロー17およびアシッドオレンジ33を含むことを特徴とする、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
アシッドイエロー17対アシッドオレンジの重量比が約99:1〜約90:10であることを特徴とする、請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記染料着色剤が、アシッドイエロー17およびリアクティブイエロー181を含むことを特徴とする、請求項1に記載のインク。
【請求項5】
アシッドイエロー17対リアクティブイエロー181の重量比が約1:2〜約1:3であることを特徴とする、請求項4に記載のインク。
【請求項6】
金属塩をさらに含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
約85〜約100の色相角を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
約88〜約94の色相角を有することを特徴とする、請求項7に記載のインク。
【請求項9】
少なくとも2つの異なって着色されたインクを含み、前記インクの1つが請求項1から8のいずれか一項に記載のイエローインクであることを特徴とするインクジェットインクセット。
【請求項10】
前記イエローインクと、マゼンタインクと、シアンインクとを含み、
前記マゼンタインクが、水性ビヒクルと、前記水性ビヒクルに実質的に可溶であるマゼンタ染料着色剤とを含み、前記マゼンタ染料着色剤が、アシッドレッド52と、AR249、AR289、RR180、RR23、CAS番号182061−89−8およびこれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含み、および
前記シアンインクが、水性ビヒクルと、前記水性ビヒクルに実質的に可溶であるシアン染料着色剤とを含み、前記シアン染料着色剤が、ダイレクトブルー199、アシッドブルー9およびこれらの混合物からなる群から選択される染料を含むことを特徴とする、請求項9に記載のインクジェットインクセット。
【請求項11】
前記マゼンタ染料着色剤インクが、アシッドレッド52と、AR249、CAS番号182061−89−8およびこれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含むことを特徴とする、請求項10に記載のインクジェットインクセット。
【請求項12】
(a)デジタルデータ信号に応答性であるインクジェットプリンタを提供するステップと、
(b)前記プリンタに、印刷される基材を装填するステップと、
(c)前記プリンタに、請求項1から11のいずれか一項またはそのすべてに記載のインクジェットインクまたはインクジェットインクセットを装填するステップと、
(d)前記デジタルデータ信号に応答して、前記インクジェットインクインクジェットインクセットを用いて前記基材上に印刷するステップと
を含むことを特徴とする基材にインクジェット印刷する方法。
【請求項13】
前記基材が普通紙であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2009−507991(P2009−507991A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531236(P2008−531236)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/035412
【国際公開番号】WO2007/033131
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】