説明

インクジェットプリンタへのインク補給方法

【課題】インクが往復動するインク経路に適切にインクを補給する。
【解決手段】インクを吐出する複数のノズルを有し、該ノズルに連通する第1及び第2のインク導入部を有するインクヘッドと、第1及び第2のインク導入部とそれぞれ接続される第1及び第2の貯留部と、第1及び第2の貯留部内を加圧/減圧する加減圧手段と、第1の貯留部のインクを検出する検出手段と、第1の貯留部にインクを補給する補給手段と、を具備し、インクを往復動させて画像を記録するインクジェットプリンタで、加減圧手段の加圧/減圧動作の切り替えタイミングから所定時間経過後に設定されたインク量検出タイミングで第1の貯留部内のインク量を検出して、インク量検出タイミングにおいて検出されたインク量が予め決められた規定量よりも少ないか否かを判定して、検出されたインク量が規定量に対して少なければ第1の貯留部にインクを補給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタのインクヘッドへのインク補給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ノズル面に複数のノズルが形成されたインクヘッドを搭載し、圧電素子又は発熱素子等からなるアクチュエータを駆動させて、これらノズルからインクを吐出する画像形成装置、所謂インクジェットプリンタが知られている。このようなアクチュエータの駆動は、アクチュエータ自体による発熱と、アクチュエータの駆動部(駆動用IC)による発熱との双方を伴っている。これらの発熱は、記録速度の高速化やラインヘッドの採用によるノズル数の増大によって、増加する傾向にある。このような発熱によるプリンタの高熱化を抑制するために、インクヘッド内に比較的温度の低いインクを流し、そのインクを用いてインクヘッドを冷却する技術が知られている。
【0003】
また、インク吐出の頻度が低いノズル部分におけるインクは、揮発によって増粘する。ノズル内のインクが増粘してしまうと、インク吐出の妨げになり、インク吐出量が変化してしまうなどの不具合が発生してしまう。そこで、インクヘッド内にインクを流すことでノズル近傍のインクを攪拌させて、インクの増粘を防止する技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、インクヘッド内にインクを供給する供給経路と、インクヘッドからインクを排出する排出経路とを有し、供給経路の一端側にインクカートリッジを、排出経路の一端側にインクタンクをそれぞれ接続し、インクカートリッジとインクタンクとの間のインク経路でインクを往復動させるインクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタには、インクタンク内のインクの上限を検出するインクフルセンサ及び下限を検出するインクエンプティセンサが配置されており、これらセンサの出力を見ながら、上限から下限までの範囲内でインクを往復動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3419220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなインクジェットプリンタでは、画像記録時にインクヘッドのノズルからインクが吐出されるのに伴い、インク経路内のインクは減少する。安定して連続的に画像を記録するためには、インク経路内に適切なタイミングでインクを補給する必要がある。このため、一般的には、インクタンク内のインク量を検出するセンサを設けて、常にそのセンサからの検出出力をウォッチングし、インクを補給するか否か、及び補給するならばどの程度の量を補給するかを判断し、補給を行うようにしている。
【0007】
しかし、上述の特許文献1に記載のインクジェットプリンタのような、2つのインクタンクを接続しているインク経路内をインクが往復動するタイプの場合、インク経路内のインク量が適切であったとしても、インクタンク内のインク量が増減することになり、インク量の検出が難しい。
【0008】
具体的には、あるタイミングで一方のインクタンク内のインク量を検出したところ、インクは少ししか残っていなかったと仮定する。この場合、通常(前述したような構成)であれば、そのインクタンク内にインクを補給すべき、と判断される。しかし、このインク量を検出した時点では、他方のインクタンクにインクが移動しており、インク経路全体としてのインク量は適量であるにもかかわらず、インクの往復動によってちょうど一方のインクタンク内のインクが少ない状態であっただけかもしれない。このような状態のときにインクを補給すると、インク経路内におけるインク量が適量を超えてしまい、オーバーフローを引き起こしてしまう虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、インクヘッドを介してインクを往復動させるインク経路を有するインクジェットプリンタに適切にインクを補給することが可能なインク補給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、インクを吐出する複数のノズルを有し、該ノズルに連通する第1及び第2のインク導入部を有するインクヘッドと、前記第1のインク導入部とチューブを介して接続される第1のインク貯留部と、前記第2のインク導入部とチューブを介して接続される第2のインク貯留部と、を有するインク貯留手段と、前記第1及び第2のインク貯留部内に空気を供給することで加圧すると共に、前記第1及び第2のインク貯留部内の空気を排出することで減圧する加減圧手段と、前記第1のインク貯留部のインクを検出するインク量検出手段と、前記第1のインク貯留部にインクを補給するインク補給手段と、を具備し、前記第1のインク貯留部内が大気圧以上に加圧されると共に、前記第2のインク貯留部内が大気圧未満に減圧される第1の加減圧モードと、前記第1のインク貯留部内が大気圧未満に減圧されると共に、前記第2のインク貯留部が大気圧以上に加圧される第2の加減圧モードと、を交互に繰り返すように、前記加減圧手段が加圧及び減圧動作することで、前記インクヘッド内のインクを往復動させながら画像記録を記録するインクジェットプリンタのインク補給方法において、前記加減圧手段の加圧動作又は減圧動作への切り替えタイミングから所定時間経過後に設定されたインク量検出タイミングにおいて、前記第1のインク貯留部内のインク量を検出して、前記インク量検出タイミングにおいて検出されたインク量が予め決められた規定量よりも少ないか否かを判定して、検出されたインク量が規定量に対して少ない場合に前記第1のインク貯留部にインクを補給するインク補給方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクヘッドを介してインクを往復動させるインク経路を有するインクジェットプリンタに適切にインクを補給することが可能なインク補給方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、第1の実施形態におけるインクジェットプリンタの構成を示す概略図である。
【図2】図2は、インクジェットプリンタに搭載されたインクヘッドの断面図である。
【図3】図3は、インクジェットプリンタに搭載されたインクヘッドの斜視図である。
【図4】図4は、待機時のインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、インク吐出時(インク補給なし)のインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すタイムチャートである。
【図6】図6は、インク吐出時(インク補給あり)のインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、インク吐出時のインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すフローチャートである。
【図8】図8は、インク補給制御を示すタイムチャートである。
【図9】図9は、第2の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すタイムチャートである。
【図10】図10は、第1及び第2のインクタンク内の圧力の時間変化を示す図である。
【図11】図11は、第1及び第2のインクタンク内の圧力の時間変化を示す図である。
【図12】図12は、複数のインク経路を示す図である。
【図13】図13は、第3の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路を示す図である。
【図14】図14は、第4の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路を示す図である。
【図15】図15は、第4の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路のインク往復動を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、インクジェットプリンタ1の構成を示す概略図である。
インクジェットプリンタ1は、記録媒体2を搬送する搬送部3と、記録媒体2にインクを吐出して画像を記録するインクヘッド100を備えたインク経路4と、インクヘッド100を始めとするインクジェットプリンタ1の各構成部を制御する制御部5と、を有している。なお、図示しないが、インクジェットプリンタ1は、上記構成部に加えて、記録媒体2を供給する供給部、画像記録された記録媒体2を排出する排出部、インクヘッド100のクリーニングを行うクリーニング部など、通常のインクジェットプリンタが備える構成を有している。
【0015】
インクジェットプリンタ1は、例えば、シアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクで記録媒体に画像を記録する。以下の説明及び図面では、代表的な1色のインクに関するインク経路4のみを示すが、インクジェットプリンタ1は、インク色ごとに同様のインク経路を備えている。
【0016】
インク経路4は、インクヘッド100と、インクヘッド100に供給するインクを貯留するインク貯留部としての第1のインクタンク10と、インクヘッド100から排出されるインクを貯留するインク貯留部としての第2のインクタンク20と、を有している。第1のインクタンク10とインクヘッド100とは、後述する加温部30及び冷却部40を介在して第1のインク経路(第1のチューブ)11によって接続されている。また、インクヘッド100と第2のインクタンク20とは、加温部30及び冷却部40を介在して第2のインク経路(第2のチューブ)12によって接続されている。つまり、インク経路4は、第1のインクタンク10からインクヘッド100を通って第2のインクタンク20へと、また、逆に、第2のインクタンク20からインクヘッド100を通って第1のインクタンク10へと、インク往復動可能に接続された経路である。
【0017】
本実施形態では、第1及び第2のインクタンク10、20は、鉛直方向(Z方向)に同じ高さに、並んで配置されている。また、第1のインク経路11及び第2のインク経路12は、併走してインクヘッド100に接続されている。インクヘッド100のノズル面101aから第1及び第2のインクタンク10、20内のインク液面までの高さも、同じ高さH1に設定されている。また、本実施形態では、第1のインク経路11と第2のインク経路12との流路抵抗は等しいとしている。
【0018】
まず、第1及び第2のインクタンク10、20及びその周辺の構成について説明する。
第1のインクタンク10内には、インク液面の上部に空気層があり、この空気層と連通するように、第1のインクタンク10に空気経路13の一端側が接続されている。また、空気経路13の他端側には、加減圧手段としてのポンプ21が設けられている。例えばチューブポンプであるポンプ21は、空気経路13を介して第1のインクタンク10内の空気を吸い出して減圧したり押し込んで加圧したりするように、制御部5によって制御される。空気経路13は、さらに、空気経路15の一端側と連通しており、空気経路15には、空気経路13内の圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサ72が設けられている。また、空気経路15の他端側には、例えば電磁弁からなる弁23が設けられている。本実施形態では、弁23としてノーマルオープンタイプを用いている。
【0019】
第1のインクタンク10の内部には、タンク内のインク液面を検出するように、空気層を有するフロート70が揺動自在に設けられており、このフロート70には、不図示のマグネットが取り付けられている。第1のインクタンク10の外側には、インク量検出手段として、このマグネットの磁力を検出するホール素子からなる液面センサ71が、マグネットと対向して設けられている。液面センサ71は、タンク内のインク液面が上昇してフロート70が浮き上がり所定の高さになったことを検出し、出力レベルがLowからHighに変わるように構成されている。
【0020】
第2のインクタンク20内にも、インク液面の上部に空気層があり、この空気層と連通するように、第2のインクタンク20に空気経路14の一端側が接続されている。また、空気経路14の他端側には、加減圧手段としてのポンプ22が設けられている。例えばチューブポンプであるポンプ22は、空気経路14を介して第2のインクタンク20内の空気を吸い出して減圧したり押し込んで加圧したりするように、制御部5によって制御される。空気経路14は、さらに、空気経路16の一端側と連通しており、空気経路16には、空気経路14内の圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサ73が設けられている。また、空気経路16の他端側には、例えば電磁弁である弁24が設けられている。本実施形態としては、弁24にノーマルオープンタイプを用いている。
【0021】
なお、フロート70及び液面センサ71は、第1のインクタンク10にのみ設けられており、第2のインクタンク20には設けられていない。
【0022】
また、第1のインクタンク10には、例えば電磁弁である開閉可能な弁25が配置された補給経路17を介して、インク補給手段としてのインクカートリッジ60が連結されている。インクカートリッジ60の内部には、可撓性を有する袋状のスパウトパックが設けられており、その中にインクが充填されている。インクカートリッジ60は、第1のインクタンク10よりも鉛直方向上方に配置され、弁25が開くと自重によりインクが第1のインクタンク10へ供給される。本実施形態では、弁25にノーマルクローズタイプを用いている。
【0023】
次に、インク経路4中に設けられた加温部30及び冷却部40について説明する。
加温部30は、第1及び第2のインク経路11、12中の、インクヘッド100の近傍に配置されている。加温部30は、内部に熱伝導性の高い金属のパイプ等による構成されるインク経路を有し、さらに、このインク経路の外側にヒータ31が設けられている。そして、このヒータ31の周囲を断熱部材32が囲んでおり、外気と断熱されている。
【0024】
冷却部40は、第1及び第2のインク経路11、12中の、第1及び第2のインクタンク10、20の近傍に配置されている。冷却部40は、内部に熱伝導性の高い金属部材41で覆われたインク経路を有し、また、外面には、外気との接触面積を増やすための放熱用フィン42が複数設けられている。さらに、これらフィン42に向けて空気を吹き付けるファン43が設けられており、インクから熱を奪うことができるように構成されている。
【0025】
次に、インク経路2にインクを初期充填する動作について説明する。
まず、弁25を開き、インクカートリッジ60からインクが落下可能とし、さらに、弁23を開いて大気開放する。すると、インクは第1のインクタンク10内に自重で供給される。液面センサ71が第1のインクタンク10内のインク液面を検出して、液面センサ71の出力レベルがHighに変わると、弁25を閉じる。
【0026】
そして、弁23を閉じ、弁24を開き、ポンプ21を駆動させて第1のインクタンク10に空気を送る。これにより、第1のインクタンク10上部の空気層は、正圧になる。第1のインクタンク10内のインクは、第1のインク経路11を通ってインクヘッド100へと持ち上げられる。そして、インクヘッド100を通過した後、第2のインク経路12を通って、第2のインクタンク20へ達する。このタイミングをポンプ21の駆動開始からの時間で制御し、ポンプ21の駆動を停止すると共に、弁23を開くことにより、第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層が両方大気に開放される。
【0027】
インクは、サイフォンの原理により、両インクタンク10、20のインク液面の高さが同じになるまで、第1のインクタンク10から第2のインクタンク20へと移動する。この結果、第1のインクタンク10内のインク液面が低下し、液面センサ71の出力レベルがHighからLowに変わると、弁25を開いてインクカートリッジ60から第1のインクタンク10にインクを補給する。また、第1のインクタンク10のインク液面が第2のインクタンク20内のインク液面よりも高くなると、再び、サイフォンの原理により、両インクタンク10、20のインク液面の高さが同じになるまで、第1のインクタンク10から第2のインクタンク20へと移動する。これを繰り返して、第1及び第2のインクタンク10、20の液面は同じ高さで、かつ液面センサ71の出力レベルがHighとなった状態でインク経路2内にインクが充填される。
【0028】
次に、インクヘッド100の内部構造について、図2並びに図3を参照して説明する。
図2は、インクヘッド100の断面図であり、図3は、インクヘッド100の斜視図である。
【0029】
インクヘッド100には、ベース103の一面側に、周囲を取り囲み中央が空洞部である枠102が接着され、この空洞部にあってベース103の前記一面側に圧電素子104が対をなして接着されている。枠102と圧電素子104とは、前記空洞部を塞ぐようにして、Z軸方向に同じ高さで設けられている。さらに、ノズルプレート101が、枠102と圧電素子104とに対してZ軸方向に積層され、接着されている。
【0030】
圧電素子104には、X軸方向に複数の溝が掘られており、これら溝がチャンネル104aを形成している。これらチャンネル104aは、Y軸方向に平行に掘られている。チャンネル104aは、ピッチ約170μm、幅85μm、深さ300μm程度である。対をなす2つの圧電素子104は、Y軸方向に半ピッチずらして配置されている。
【0031】
また、ノズルプレート101のノズル面101aには、各チャンネル104aの中央部のZ軸方向に、インクを吐出するための複数のノズル(ノズル孔)101bが形成されている。これらノズル孔101bは、Y軸方向に掘られた前記チャンネル104aに対応して、Y軸方向に配列されている。
【0032】
図3に示すように、ベース103には、対をなす圧電素子104の中央部に、Y軸方向に複数の孔103aが配列されている。これら孔103aは、例えば、直径1mm程度で、3mm間隔で配置された貫通孔である。同じく、枠102と圧電素子104とのX軸方向の隙間の位置にも、複数の孔103bが配列されている。
【0033】
ベース103の他面側には、流路部材105、106がZ軸方向に積層され、接着されている。流路部材105には、3本の平行な溝である経路がY軸方向に設けられている。3本の平行な経路のうち、ベース103の複数の孔103aと対向した位置にある1本の経路がインク流路105a、ベース103の複数の孔103bと対向した位置にある2本の経路がインク流路105bである。これらインク流路105a、105bに蓋をするようにして、流路部材105の上に流路部材106が接着されている。
【0034】
流路部材106には、ノズル101bに連通するインク導入部として、2本のパイプ状のインクポート107、108が設けられている。インクポート107の孔は、インク流路105aに、インクポート108の孔は、流路部材106の凸部106aの内部で2本のインク流路105bをつなぐ接続流路106bに、それぞれ接続されている。
【0035】
一端側が第1のインクタンク10に接続されている第1のインク経路11の他端側は、インクポート107に接続されている。また、一端側が第2のインクタンク20に接続されている第2のインク経路12の他端側は、インクポート108に接続されている。
【0036】
続いて、インクヘッド100の内部のインクの流れについて簡単に説明する。
インクポート107から流入したインクは、インク流路105aを通ってインクヘッド100のY軸方向の幅全体に行き渡り、複数の孔103aから1対の圧電素子104の中央部に、インクヘッド100の幅全体に亘って供給される。供給されたインクは、ここで各圧電素子104の方向に分かれ、各チャンネル104a中を通って枠102と圧電素子104との隙間に達する。その後、複数の孔103bから2本のインク流路105bを通り、接続流路106bで合流して、インクポート108からインクヘッド100の外に流出する。
また、上記流れとは逆向きに、インクポート108から流入したインクがインクポート107を通ってインクヘッド100の外に流出するように流れることもできる。
【0037】
インクヘッド100のチャンネル104aの電極配線は、ベース103の電極接続面103cで、ドライブIC110が搭載されたFPC109と接続されており、各チャンネル104aに電圧波形を加えることにより駆動を行う。インクヘッド100のベース103は、圧電素子104と比較して十分に熱伝導率の高い金属でできていることが好ましい。また、ベース103の中央部には、チャンネル104aの温度の代用としてインクの温度を検出するための温度センサ(サーミスタ)114が設けられている。
【0038】
インクポート107、108は、固定部材111に設けられた穴111c、111dを貫通しており、この貫通部分で接着されて固定部材111と一体となっている。また、固定部材111は、ヘッドカバー113とビス止めされて一体となっている。ヘッドカバー112、113は、組み合わせられることでインクポート107、108、ドライブIC110などを覆う箱形状となる。
【0039】
図2に示すように、ドライブIC110は、図示しないばね等の弾性部材でヘッドカバー112、113の内面に押圧されて密着している。密着性を高めるために、熱伝導性の良いグリス等が塗布される。
【0040】
温度センサ114の出力は、ベース103が熱伝導性の高い材質であることから、その裏側にあるチャンネル104a中を流れるインクの温度とほぼ同じ値を示す。インクの温度によってインクの粘性が変化するため、常に同じ体積のインクを吐出するためには、圧電素子104に与える電圧をそのインクの粘度に適した電圧に制御する必要がある。圧電素子104の部分のインク温度を直接検出するのは難しいため、温度センサ114で検出された温度がインク温度であるとする。
【0041】
圧電素子104が駆動されてインクがノズル101bから吐出されると、圧電素子104が発熱する。この発熱の一部は、吐出されるインクと共に外へ放熱される。また、この発熱の一部は、ベース103へ伝熱され、インクヘッド100の外気へ放熱される。残りの発熱の大半は、ベース103や流路部材105、106に蓄熱される。本実施形態では、これによるインクヘッド100の温度上昇を防止するために、インクヘッド100は、インクポート107からインクを流入させてインクポート108から流出させる、あるいは逆にインクポート108からインクを流入させてインクポート107から流出させることにより、吐出されるインク以外のインクが余分な熱を奪って流れるように設計されている。
【0042】
また、圧電素子104を駆動する際には、ドライブIC110が発熱する。この発熱は、ヘッドカバー112、113に伝達されるが、これらヘッドカバー112、113には、外面に複数の放熱突起112a、113aが設けられているため、インクヘッド100を取り巻く空気と接触する表面積が大きくなり、放熱効果が高められる。
【0043】
前述のように、インクをインク経路4内に初期充填する際には、インクがインクヘッド100を通って第1のインクタンク10から第2のインクタンク20へ流れたとき、ノズル孔101bからインクが漏れる可能性がある。しかし、いったんインクがインクヘッド100内に満たされると、ノズル101bには、インクが鉛直方向上方に窪んだメニスカスが形成され、ある程度の正圧、負圧範囲内では、このメニスカスは壊れない。ノズルの流路抵抗が第2のインク経路12よりも大きいので、ノズル101bからインクが垂れることはほとんどなく、インクはノズル101bにメニスカスを形成し、第2のインク経路12に流れ込む。
【0044】
一般的に、インクジェットプリンタでは、インクの吐出に最適なノズル圧があり、その圧力を維持することでインクの吐出量が一定となり、吐出不良が発生する確率が最も低くなる。本実施形態では、−1000±500Paの範囲のノズル圧Phを最適吐出圧力とする。
【0045】
本実施形態では、第1及び第2のインクタンク10、20内の上部の空気層が交互に正圧、負圧となるようにポンプ21、22を制御することで、インク経路4内のインクがインクヘッド100を通過して往復動する。この往復動について、図4乃至図5を参照して説明する。
【0046】
図4は、非画像記録時のインク経路4中のインク往復動に関して、ポンプ21、22、弁23、24の制御と、液面センサ71の出力レベルと、第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2及びインクヘッド100のノズル101bの圧力(ノズル圧)Phと、第1及び第2のインクタンク10、20の液面高さとを示すタイムチャートである。
【0047】
図4に示すように、インクジェットプリンタ1にプリント命令がきていない状態である待機状態では、弁23、24が開放されており、第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2は、大気圧である。本実施形態では、水頭差H1=−104mmにより、ノズル圧Phは−919Paとなっている。第1のインクタンク10内のインク液面は、液面センサ71がちょうどHighを検出した液面高さであり、第2のインクタンク20内のインク液面も同じ高さになっている。この高さを基準液面と称する。待機状態では、インクは往復動していない。
【0048】
まず、弁23、24を閉じる。続いて、ポンプ22で第2のインクタンク20内の空気層を負圧にする。同時に、ポンプ21で第1のインクタンク10内の空気層を正圧にする。第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2は、同期して変化し、それぞれ、+1438Pa、−1438Paに達する。その後、これら圧力を維持するために、ポンプ21、22が間欠的に動作する。
【0049】
両インクタンク10、20内の圧力差が維持されている間は、第1のインクタンク10から第2のインクタンク20に向かってインクが流れる。この結果、両インクタンク10、20の液面は、最初同じ高さ(基準液面)であったものが、第1のインクタンク10内の液面は下がり、第2のインクタンク20内の液面は上昇する。
【0050】
実際には、この液面の変動によって水頭差H1が変化するため、ノズル圧Phは変動する。しかし、仮にH1が1cm変動しても、ノズル圧Phは88Paしか変化しないため、最適なノズル圧範囲である1000±500Paに与える影響はわずかである。従って、ここでは、インク往復動による液面高さ変動によるノズル圧への影響は考慮せずに説明する。
【0051】
インクヘッド100の温度センサ114によりインクの温度が検出され、その温度に基づいて第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2を設定すれば、インク流量が計算されるので、第1のインクタンク10内のインク容量及び初期状態である基準液面高さから、第1のインク経路11内に空気を吸い込まないようにするための時間が計算される。図4に示す周期T1、T2は、空気の吸い込み限界(第1のインクタンク10内のインク液面が低下する下限)に対して余裕を有するようにして設定する。
【0052】
図4に示すように、周期T1は、ポンプ21により第1のインクタンク10内を加圧し、かつ、ポンプ22により第2のインクタンク20内を減圧する時間である。また、周期T2は、ポンプ21により第1のインクタンク10内を加圧して、さらに、ポンプ21により第1のインクタンク10内を減圧する、かつ、ポンプ22により第2のインクタンク20内を減圧して、さらに、ポンプ22により第2のインクタンク20内を加圧する時間であり、T2=2×T1である。これら周期T1、T2でポンプ21、22を用いて正圧と負圧とを交互に作り出すと、第1のインクタンク10の液面は、基準液面から下がった後、上がってまた基準液面に戻り、第2のインクタンク20の液面は、基準液面から上がった後、下がってまた基準液面に戻る、という動きを繰り返す。
【0053】
液面センサ71の出力レベルは、図4に示すように、基準液面高さでちょうどHighになっているので、第1のインクタンク10の液面が低下すれば、すぐにLowに変わる。そして、第1のインクタンク10の液面が基準液面に戻ると、液面センサ71の出力レベルは再びHighとなる。この動作を繰り返す。
【0054】
次に、画像記録時のインク経路4中のインク往復動に関して、図5を参照して説明する。
図5は、画像記録時の第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2及びノズル圧Phと、液面センサ71の出力レベルと、第1及び第2のインクタンク10、20の液面高さとを示すタイムチャートである。
【0055】
ポンプ21、22及び弁23、24の動き及び液面センサ71の出力レベルは、図5中に「インク吐出無し」と示されたところまでは、図4を参照して説明したのと同じである。インクがインク経路4中を往復動しながらインクヘッド100のノズル101bから吐出されたとき、「インク吐出有り」として示された範囲の動作となる。
【0056】
インクジェットプリンタ1に外部機器等からプリント命令がなされると、インクヘッド100を通って流れているインクの一部は、圧電素子104の駆動に伴い、ノズル101bより記録媒体2に吐出される。インクが第1のインクタンク10から第2のインクタンク20へと流れているときであれば、第1のインクタンク10からは所定量インクが流出するが、第2のインクタンク20には吐出されたインクを引いた量だけが流入することになる。インクが流れる向きに関係なく均等に吐出が行われたとすれば、インク経路4内のインクは、図5に「インク吐出有り」として示す範囲で、次第に基準液面よりも低いところで増減を繰り返すこととなる。この結果、第1のインクタンク10の液面が最も上昇した場合においても、液面センサ71の出力レベルがHighにならなくなる。従って、液面センサ71の出力を順次チェックしていれば、インク経路4内のインクが減ってきたことを検出可能である。
【0057】
次に、本実施形態において、上述のようにインク吐出により減った分のインクをインク経路4に補給する動作について、図6乃至図8を参照して説明する。
【0058】
図6は、本実施形態における画像記録時の第1及び第2のインクタンク10、20内の圧力P1、P2及びノズル圧Phと、弁25の制御と、液面センサ71の出力レベルと、第1及び第2のインクタンク10、20の液面高さとを示すタイムチャートである。
図7は、本実施形態におけるインク往復動を示すフローチャートである。以下では、図7を参照して、インク経路4中へのインク補給動作について説明する。
【0059】
まず、図4を参照して説明したように、インク経路4中のインク往復動の開始時には、弁23、24を閉じ、ポンプ21を加圧駆動させて第1のインクタンク10内の空気層を正圧にし、ポンプ22を減圧駆動させて第2のインクタンク20内の空気層を負圧にする。そして、タイマカウントtのカウントを開始する(ステップS1)。
【0060】
次に、タイマカウントtがt=T0になったかどうかを判断する(ステップS2)。なっていなければ(NO)、タイマカウントt=T0になるまでステップS2を繰り返す。タイマカウントがt=T0になっていれば(YES)、タイマカウントtをリセットし(ステップS3)、ポンプ21及びポンプ22を逆転駆動させる、すなわち、ポンプ21を減圧駆動させて第1のインクタンク10内の空気層を負圧にし、ポンプ22を加圧駆動させて第2のインクタンク20内の空気層を正圧にする。そして、タイマカウントtのカウントを開始する(ステップS4)。
【0061】
次に、タイマカウントtがt=T1になったかどうかを判断する(ステップS5)。なっていなければ(NO)、タイマカウントt=T1になるまでステップS5を繰り返す。タイマカウントがt=T1になっていれば(YES)、ポンプ21及びポンプ22を逆転駆動させる、すなわち、ポンプ21を加圧駆動させて第1のインクタンク10内の空気層を正圧にし、ポンプ22を減圧駆動させて第2のインクタンク20内の空気層を減圧にする(ステップS6)。
【0062】
続いて、タイマカウントtがt=T3になったかどうかを判断する(ステップS7)。なっていなければ(NO)、タイマカウントt=T3になるまでステップS7を繰り返す。タイマカウントがt=T3になっていれば(YES)、液面センサ71の出力レベルのチェックを開始する(ステップS8)。そして、液面センサ71の出力レベルに応じて、インク補給制御を行う(ステップS9)。
【0063】
これら液面センサ71の出力レベルのチェック及びインク補給制御について、図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態におけるインク補給制御を示すフローチャートである。
【0064】
まず、液面センサ71の出力レベルがHighかどうか検出する(ステップS14)。つまり、所定のインク量検出タイミングにおいて検出された第1のインクタンク10内のインク量が予め決められた規定量よりも少ないか否かを判定する。検出レベルがHighでなければ(No)、ステップS16に進み、弁25を開放して、インクカートリッジ60から補給経路17を経由して第1のインクタンク10にインクを補給する。そして、液面センサ71の出力レベルがHighになるまで、ステップS14を繰り返す。検出結果がはじめからHighであったとき、又はHighになったとき(YES)、弁25を閉塞して(弁25がはじめから閉じている場合はそのまま維持する)(ステップS15)、インク補給制御を終了する。
【0065】
図7に戻り、インク補給制御(ステップS9)の後、タイマカウントがt=T4になったかどうかを判断する(ステップS10)。なっていなければ(NO)、タイマカウントt=T4になるまでステップS10を繰り返す。タイマカウントがt=T4になっていれば(YES)、液面センサ71の出力レベルのチェックを終了する(ステップS11)。
【0066】
さらに、タイマカウントtがt=T2になったかどうかを判断する(ステップS12)。なっていなければ(NO)、タイマカウントt=T2になるまでステップS12を繰り返す。タイマカウントがt=T2になっていれば(YES)、ステップS13に進む。
【0067】
そして、インクジェットプリンタ1の制御部5によりインク往復動の停止命令が出されたかどうかを判断する(ステップS13)。停止命令が出されていなければ(NO)、ステップS3に戻って、ステップS3以降を繰り返す。停止命令が出されていれば(YES)、インク往復動を終了する。
【0068】
上述のように、第1のインクタンク10の液面が最も高くなるタイミングは、ポンプ21、22を制御する周期T2で把握することができる。従って、本実施形態では、図6におけるポンプ21、22の駆動を切り替えるタイミングを起点とした周期T2から、時間遅れT3のタイミングでインクの吐出がない場合には、通常、液面センサ71の出力レベルがHighであるとすると、そのタイミングで毎回液面センサ71をチェックする。そのタイミングで液面センサ71の出力レベルがHighにならなかった場合、弁25を開き、液面センサ71がHighになるまで、インクカートリッジ60から第1のインクタンク10へインクを補給する。補給のタイミングは、時間遅れT3で検出した直後でよい。第1及び第2のインクタンク10、20の空気層は、ほとんど圧力差がなく、大気圧に近い状態である。従って、第1のインクタンク10の内圧に阻害されることなく、インクが自重でインクカートリッジ60から第1のインクタンク10へ補給される。
【0069】
第1及び第2のインクタンク10、20の内圧の差がなくなる瞬間には、インクはほとんど流れないが、そのときに両インクタンク10、20の液面高さに差がある場合は、その高さの差が等しくなる向きへインクが流れる。上述のように、第1のインクタンク10内で液面センサ71の出力レベルがLowのままであることを検出し、Highになるまでインクを補給した場合には、第1のインクタンク10の液面が第2のインクタンク20の液面よりも高くなる。この結果、両インクタンクの液面差により、液面高さが等しくなる向きへ流れる。この結果、第1のインクタンク10に供給されたインクによって、第2のインクタンク20の液面も上昇することになる。
【0070】
以上の説明では、インクヘッド100からのインクの吐出がインクの移動する向きによらず均等であるとしたが、均等でない場合も生じ得る。例えば、第1のインクタンク10から第2のインクタンク20にインクが流れる向きのときのみ、インクヘッド100がインクを吐出する場合がそうである。このような場合には、第1のインクタンク10の液面は基準液面に対して同じ範囲で上下動を繰り返すが、第2のインクタンク20の液面は、インクがインクヘッドから吐出された分が入ってこないので、次第に液面が低下してゆく。従って、そのままでは、液面センサ71の出力レベルは、液面が最も高くなるところでHighとなるので、インクカートリッジ60からインク補給されないことになってしまう。
【0071】
しかし、第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力がほぼ同じ状態の時に、第1のインクタンク10の液面の方が、第2のインクタンク20の液面よりも高い状態になれば、その水頭差によって、次第に第1のインクタンク10のインクが第2のインクタンク20へ移動する。やがて、第1のインクタンク10の液面も低下し、液面が最も高くなるタイミング(すなわち、ポンプ21、22の制御駆動周期から、インクタンク内の空気圧が同じところ)で基準液面を下回り、液面センサ71の出力レベルがHighにならなくなるので、インクカートリッジ60からインクが補給される。
【0072】
このように、本実施形態によれば、往復動によりインク液面が上下に変動する場合であっても、ポンプの駆動切り替え周期を起点とした時間遅れタイミングでインクタンク内の液面センサの出力レベルをチェックすることにより、経路中のインクが消費されたことを確実に検出し、適切なタイミングでインクを補給することができる。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について、図9乃至図11を参照して説明する。本実施形態では、インクジェットプリンタ1の構成は、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0074】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図9のポンプ21、22の駆動切り替えタイミングを起点とした切り替え周期T2に対して時間遅れT3経過したタイミングでは、インクの消費がない場合には液面センサ71の出力レベルがHighとなる。また、インクの消費がある場合には、このタイミングで液面センサ71の出力レベルがLowになっているかどうかを検出して、Lowの場合には、弁25を開き、インクカートリッジ60から第1のインクタンク10にインクを補給する。
【0075】
本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、第1のインクタンク10の液面が最も高くなるタイミングで、強制的に第1及び第2のインクタンク10、20内の上部の空気層を同じ圧力にする制御期間T5を設けた点である。これにより、第1の実施形態と比べて、略同じ圧力である時間を長く維持している。かくして、時間遅れT3のタイミングで液面センサ71がLowであることを検出してインクが補給され、その直後に第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層の圧力が所定時間等しくなる期間T5を設けるように制御する。
【0076】
流路抵抗R1、R2、Rhが大きい場合や、インクの温度が低いことに起因してインクの粘度ηが大きい場合など、インクが経路内を短時間で流れにくい場合には、第1及び第2のインクタンク10、20の液面高さの差があっても、そのわずかな水頭差で瞬時に液面高さが等しくなることは難しい。しかし、第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力を等しくする時間T5を設けた制御を行うことにより、両インクタンク10、20の液面を等しくできる時間を得るという効果がある。
【0077】
図9では、ポンプ21、22の制御で、第1及び第2のインクタンク10、20内の上部の空気層の圧力がほぼ等しくなり、かつ液面差が小さくなるタイミングで、弁23、24を開いている。弁23、24が開放されると、第1及び第2のインクタンク10、20の圧力P1、P2は、大気圧となり全く同じ圧力になる。
【0078】
そして、第1及び第2のインクタンク10、20の液面差が等しくなる所定の時間T5だけをおいて、再び弁23、24を閉じ、ポンプ21、22の駆動制御を開始する。弁23、24を大気開放することにより正確に第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力を同じにすることが可能である。
【0079】
なお、弁23、24を開いて大気に開放する方法以外に、圧力センサ72、73で検出された圧力に従って、ポンプ21、22を制御して同じ圧力を作り出してもよい。また、1回のインク往復動周期で第1及び第2のインクタンク10、20の液面差が解消されることは必ずしも必要なく、複数回のインク往復動周期の中で液面高さの差が解消可能な時間を設ければよい。インク往復動1周期あたりに消費されるインク量で生じる、第1及び第2のインクタンク10、20の液面差、及びインクが第1のインクタンク10に補給されることで生じる液面差が累積せずに解消してゆくだけの時間T5を設ければよい。
【0080】
以上の説明では、第1のインク経路11と第2のインク経路12との流路抵抗が等しいとしたが、例えば、図10に示されるように、流路抵抗が異なる場合にも適用可能である。この場合には、ポンプ21、22の駆動切り替え周期T2を起点とする時間遅れT3のタイミングで、液面センサ71の出力レベルがHighになっているかどうかをチェックして、インク補給の要否を判断する。このタイミングは、第1のインクタンク10と第2のインクタンク20の空気層の圧力が等しい圧力に近づくタイミングであり、また、第1のインクタンク10の液面が最も高くなるタイミングであり、さらに、第1のインクタンク10と第2のインクタンク20の液面差が最小になるタイミングでもある。
【0081】
このような場合には、例えば、図10では、丸で囲んだ領域Cのタイミング近傍で液面センサ71の出力レベルがLowであるかどうかを見て、Lowの場合にはインクを補給すればよい。必ずしも、空気層の圧力が0又は大気圧である必要はなく、第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力がほぼ等しくなるタイミングであればよい。
【0082】
また、第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層の圧力を所定時間同じ圧力に制御する場合、必ずしも完全に圧力を一致させる必要はない。図11に示すように、インクタンクの形状寸法から許容可能な、第1及び第2のインクタンク10、20の液面高さの差で生じる水頭圧(圧力)よりも小さい空気層の圧力差を作り出せばよい。例えば、図11において丸で囲んだ領域A、Bに示すように、第1のインクタンク10内の圧力P1は緩やかな上り勾配、第2のインクタンク20内の圧力P2は緩やかな下り勾配に制御し、その差がわずかである時間を作り出すだけでもよい。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について、図12を参照して説明する。以下では、第1の実施形態と同等の部材には同じ参照符号を付して、その説明は省略する。
【0084】
図12は、図1に示される第1の実施形態のインク経路を有するインクヘッド100を4個並設した構成を示している。これら4個のインクヘッドには色の異なるインク経路が連結されており、例えば、C、K、M、Yの各色のインクが流れる。図12は、図1のインク経路の構成をZ方向から見ており、記録媒体2の搬送方向が矢印で示される。
【0085】
インクヘッド100は、前記矢印の方向に配列されており、記録媒体2が4色のインクヘッド100の下を矢印方向に搬送され、記録媒体2に向けて順次インクヘッド100からインクが吐出されて画像が記録される。
本実施形態において、第1及び第2の実施形態と異なる点は、ポンプ21、22、弁23、24及び圧力センサ72、73が4色のインク経路に対して共通に使用されている点である。
【0086】
4色の第1のインクタンク10には、それぞれ、分岐した空気経路13の枝路が連結されている。また、4色の第2のインクタンク20には、それぞれ、分岐した空気経路14の枝路が連結されている。各色のインクヘッド100に接続された第1及び第2のインク経路11、12は、第1のインクタンク10から各インクヘッド100を経由して第2のインクタンク20に至る間で、共通の加温部30及び冷却部40を通っている。
【0087】
本実施形態では、4色の第1のインクタンク10内の上部の空気層は、弁23の開閉で同時に大気開放及び密閉される。また、4色の第2のインクタンク20内の上部の空気層は、弁24の開閉で同時に大気開放及び密閉される。待機時は、弁23、24がノーマルオープンあるので、第1及び第2のインクタンク10、20の上部の空気層は、全て大気開放されている。この状態で、第1及び第2のインクタンク10、20の液面は、サイフォンの原理によって同じ高さになっている。液面センサ71の出力レベルがLowを示している色では、Highになるまで弁25が開いてインクカートリッジ60からインク補給され、4色のインク液面はほぼ全てが同じ液面高さになっている。
【0088】
インク往復動時において、弁23が閉じられ、ポンプ21によって空気経路13内の空気が正圧に加圧されると、4色の第1のインクタンク10内の空気層は、全て同時に同じ圧力に加圧される。同時に、弁24が閉じられ、ポンプ22によって空気経路14内の空気が負圧に減圧されると、4色の第1のインクタンク10内の空気層は、全て同時に同じ圧力に減圧される。
【0089】
このようにして、ポンプ21、22によって空気圧が交互に正圧、負圧に制御されることで、全色一斉に、第1のインクタンク10と第2のインクタンク20との間でインクが往復動する。4色のインクは、往復動しながら、温度が低い場合には加温部30で熱を加えられ、温度が高い場合には、冷却部40に放熱して冷却される。加温部30及び冷却部40は、それぞれ4色にまたがって共通に設けられているので、色間で熱交換され、どれか1色だけ温度が高かったり低かったりということなく、ほぼ同じ温度になる。この結果、どの色インクの粘度も同じになり、インクの流量も色によらず同じにすることができる。
【0090】
インクヘッド100からのインクの吐出がない状態では、全色のインクタンク10、20内のインクが、ほぼ同じ液面高さで上下する。また、インクヘッド100からのインクの吐出があった場合には、その色のインク経路内のインクが減り、液面高さが下がる。一般的には、インクを吐出する色としない色とでインク消費量にばらつきが生じる。このような場合には、本実施形態においても、第1の実施形態で説明したように、ポンプ21、22の周期T2に同期して、第1のインクタンク10の液面が基準液面に近づくタイミングで液面センサ71の出力レベルがHighになるかどうかを判断して、ならない場合には、弁25を開いて、インクカートリッジ60からインクを補給する。第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層の圧力は同期して変動しており、両インクタンク10、20の液面に高低差が生じていた場合には、サイフォンの原理によって液面が一致する方向にインクが流れ、液面高さの差が解消される。
【0091】
さらに、本実施形態においても、第2の実施形態に示すように、インク補給するタイミングで第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力を同じにする時間を適宜設ける制御を行うことで、全ての色の液面高さの差が解消しやすくなり、基準液面高さに戻すことができる。
【0092】
このように、インクの色の種類が増えたとしても、第1及び第2のインクタンク10、20の空気層を制御する共通の駆動源を用いることにより、新たな駆動源を設けることなく、全色のインクを、インクヘッド100を通してインク経路中を往復動させることが可能となる。
【0093】
しかも、色による消費のばらつきがあった場合でも、全ての液面が常に所定高さに維持されるため、インク経路中に気泡が混入することなく、ノズルの圧力Phも一定に保たれ、冷却に必要なインク往復動流量を維持することが可能となる。
【0094】
さらには、複数色のインク経路が共通の加温部や冷却部を通過していることによって、どの色のインクも同じ温度に制御され、粘度も統一されることによって、安定したインク往復動を実現することができる。
【0095】
(第4並びに第5の実施形態)
第4並びに第5の実施形態について、図13乃至図15を参照して説明する。以下では、第1の実施形態と同等の部材には同じ参照符号を付して、その説明は省略する。
図13は、第4の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路を示す図であり、図14は、第5の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路を示す図である。
【0096】
図13並びに図14に示されるインク経路では、インクカートリッジ60から第1のインクタンク10へのみならず、第2のインクタンク20にもインクを補給することを可能にするために、インク補給経路17から分岐したインク補給経路18が、例えば電磁弁からなる弁26を経由して第2のインクタンク20に連結されている。
【0097】
また、図14に示される第5の実施形態のインク経路では、図13に示される第5の実施形態のインク経路の構成に加えて、第1のインクタンク10に、基準液面よりも下方にさらなる液面センサ74を設けている。この液面センサ74は、第1のインクタンク10内からインクヘッド100につながる第1のインク経路11に空気が混入することを防止するために、第1のインクタンク10内部の最低限の液面高さを検出するために配置されている。
【0098】
このような構成により、上述の第1乃至第3の実施形態では、インクカートリッジ60から第1のインクタンク10にのみインク補給を行っていたが、第4並びに第5の実施形態では、第1及び第2のインクタンク10、20にそれぞれ独立してインク補給を行うことが可能である。
【0099】
次に、第5の実施形態におけるインク補給時のインク液面の高さについて、図15を参照して説明する。
インクヘッド100からインク吐出が始まると、第1及び第2のインクタンク10、20の液面は徐々に下がっていく。第1のインクタンク10の液面は、初期に基準液面にあったものがインク往復動で液面が低下し、再び上昇してきても基準液面に達しなくなる。この結果、液面センサ71の出力レベルとしてLowが検出されるようになる。第2のインクタンク20の液面は、初期に基準液面にあったものが一旦上昇し、次に低下した際に、基準液面より低くなって、やはり液面センサ71の出力レベルとしてLowが検出されるようになる。これは、第1のインクタンク10の液面が最も高くなったタイミングであり、第2のインクタンク20の液面が最も低くなったタイミングとなる。
【0100】
このタイミングでインクカートリッジ60からそれぞれのインクタンク10、20へ、弁25、26それぞれ独立に制御して開くことで、インクを補給する。どちらも、液面センサ71の出力レベルがHighになるまで補給してやればよい。この場合、どちらも同時に液面が上昇し、ほぼ基準液面に等しくなる。弁25、26の時間遅れがあるため、若干基準液面より液面が高くなってしまう場合があるが、わずかな差であれば問題ない。
【0101】
第5の実施形態のようにさらなる液面センサ74を設けた場合、図15に示すように、液面センサ74の出力レベルがLowとなるまでインク補給を行わず、Lowを検出した場合にのみインク補給を行う。第1のインクタンク10の液面は、インクの往復動作で上下動している状態であり、液面センサ74の出力レベルがひとたびLowとなった場合には、第1のインクタンク10の液面が基準液面に最も近くなるタイミングで、液面センサ71の出力レベルがHighになるまで弁25を開放して、インクカートリッジ60から第1のインクタンク10へインク補給を行う。
【0102】
本実施形態では、第1のインクタンク10の液面が下がり過ぎないように、インク移動量をインクの温度から計算し、インク往復動の周期T2を設定しているが、このように液面センサ74を設けて制御することで、液面が下がり過ぎることも防止可能となる。
【0103】
液面センサ74は、液面の下限センサなので、常時Lowにならないかを検出していればよいが、液面の上下がポンプ21、22の駆動切り替えタイミングに同期して周期T2で上下動することから、第1のインクタンク10内の液面が最も下がるタイミングは予め予想される。
【0104】
そこで、図15に示すように、周期T2から計算される遅れ時間T3のタイミングで液面センサ74をチェックし、Lowになっていた場合にインク補給するようにしてもよい。インク補給のタイミングは、前述のように、第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層の圧力が圧力センサ72、73で検出されて、最も一致するタイミングであってもよいし、第1のインクタンク10と第2のインクタンク20との液面が最も近づくタイミングであってもよい。もしくは、ポンプ21、22の切り替え制御周期T2から計算されるT4時間遅れたタイミングであってもよい。
【0105】
また、図示しないが、第2のインクタンク20にも液面センサを設けて、第2のインクタンク内のインク量を第1のインクタンク10とは別に制御できるようにしてもよい。このようにすることで、異なるインクタンク10、20の液面を瞬時に元の基準液面に合せることができる。
【0106】
本実施形態では、液面センサ71の出力レベルの判断基準が基準液面にあり、また、遅れ時間T3をポンプ21、22の駆動切り替えタイミングから計算されるタイミングとしている。また、第1の実施形態では、遅れ時間T3は、第1及び第2のインクタンク10、20内の空気層の圧力が等しくなるタイミングから少し前にずらしたタイミングとして説明した。しかし、T3はこれに限定されるものではなく、第1及び第2のインクタンク10、20の空気層が等しくなるタイミングと一致させることも可能である。インク消費なくインクを往復動させたときに、液面センサ71の出力レベルが確実にHighを検出するタイミングであればよい。
【0107】
本実施形態では、圧力センサ72、73で第1及び第2のインクタンク10、20の空気層の圧力をチェックしながら、ポンプ21、22を制御する例を説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、インクタンク内の圧力変動と対応するポンプの駆動とが得られれば、ポンプの駆動周期やその周期タイミングからの時間遅れを用いて制御することが可能である。
【0108】
以上説明したように、本発明の各実施形態は、以下の効果を有する。
(ア) 往復動によりインクタンク内のインク液面が変動する場合であっても、ポンプの駆動切り替え周期を起点とした時間遅れタイミングの周期でセンサ出力を検出することによって、経路のインク量が減ったことを確実に検出し、適切にインク補給することで、インク経路中のインク量を常に所定の量に保つことができる。
(イ) インク経路中の往路と復路とに液面高さが生じた場合でも、いずれか一方のインクタンクにインクを補給することで、両インクタンク内のインク量を適切に補正することができる。
(ウ) インクタンク内の圧力が略等しい時間を設けることにより、確実に両タンクの液面高さを合わせることができる。さらに、両インクタンクの圧力を大気開放することで、正確に両インクタンク内の圧力を等しくすることができ、この結果、両インクタンク内の液面を正確に一致させることができる。
(エ) 複数色のサブタンクで、色毎に吐出量が異なる場合であってもほぼ均一な液面に保つことが可能である。正圧ポンプと負圧ポンプとを複数色に共通して使用することができ、安価で簡単な構成で複数のヘッドを同時に冷却することができる。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内でさまざまな改良及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…インクジェットプリンタ、2…記録媒体、3…搬送部、4…インク経路、5…制御部、10…第1のインクタンク、11…第1のインク経路、12…第2のインク経路、13〜16…空気経路、17…補給経路、20…第2のインクタンク、21、22…ポンプ、23〜25…弁、30…加温部、40…冷却部、60…インクカートリッジ、70…フロート、71…液面センサ、72、73…圧力センサ、100…インクヘッド、101…ノズルプレート、101a…ノズル面、101b…ノズル、102…枠、103…ベース、104…圧電素子、104a…チャンネル、105、106…流路部材、105a、105b…インク流路、106a…凸部、106b…接続流路、107、108…インクポート、109…FPC、110…ドライブIC、111…固定部材、111c、111d…穴、112、113…ヘッドカバー、112a、112b…放熱突起、114…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルを有し、該ノズルに連通する第1及び第2のインク導入部を有するインクヘッドと、
前記第1のインク導入部とチューブを介して接続される第1のインク貯留部と、前記第2のインク導入部とチューブを介して接続される第2のインク貯留部と、を有するインク貯留手段と、
前記第1及び第2のインク貯留部内に空気を供給することで加圧すると共に、前記第1及び第2のインク貯留部内の空気を排出することで減圧する加減圧手段と、
前記第1のインク貯留部のインクを検出するインク量検出手段と、
前記第1のインク貯留部にインクを補給するインク補給手段と、
を具備し、
前記第1のインク貯留部内が大気圧以上に加圧されると共に、前記第2のインク貯留部内が大気圧未満に減圧される第1の加減圧モードと、前記第1のインク貯留部内が大気圧未満に減圧されると共に、前記第2のインク貯留部が大気圧以上に加圧される第2の加減圧モードと、を交互に繰り返すように、前記加減圧手段が加圧及び減圧動作することで、前記インクヘッド内のインクを往復動させながら画像を記録するインクジェットプリンタのインク補給方法において、
前記加減圧手段の加圧動作又は減圧動作への切り替えタイミングから所定時間経過後に設定されたインク量検出タイミングにおいて、前記第1のインク貯留部内のインク量を検出して、
前記インク量検出タイミングにおいて検出されたインク量が予め決められた規定量よりも少ないか否かを判定して、
検出されたインク量が規定量に対して少ない場合に前記第1のインク貯留部にインクを補給することを特徴とするインクジェットプリンタのインク補給方法。
【請求項2】
前記インク量検出タイミングは、第1の加減圧モード又は第2の加減圧モードに切り替えられるタイミングであることを特徴とする請求項1記載のインク補給方法。
【請求項3】
さらに、前記第1及び第2のインク貯留部内の圧力を検出する圧力検出手段を有し、
前記インク量検出タイミングは、前記第1及び第2のインク貯留部内の圧力が同じになるタイミングであることを特徴とする請求項2記載のインク補給方法。
【請求項4】
前記インク量検出部は、第1のインク貯留部のインク量を検出すると共に、
前記インク補給手段は、第2のインク貯留部に対してもインクを補給するように構成され、
前記インク検出タイミングにて、インク量検出部は第1のインク貯留部のインク量を検出して、
前記インク量検出タイミングにおいて検出されたインク量が、予め決められた規定量よりも少ないか否かを判定して、
インク量が規定量よりも少ないと判定された第1及び第2のインク貯留部に対してインクを補給することを特徴とする請求項1記載のインク補給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−152939(P2012−152939A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11872(P2011−11872)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】