説明

インクジェットプリンタ

【課題】1つの照射装置でマット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能であり、インクジェットヘッドおよび照射装置の全体の副走査方向長さを短く抑えることのできるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】ヘッドユニット120は、UV硬化性インクを吐出するインクジェットヘッド10と、紫外線を照射する照射装置20と、鉛直軸26周りに照射装置20を回転させるモータ25とを備える。マット印刷の際には、モータ25を駆動して照射装置20を副走査方向Xと平行に配置し、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12からインクを吐出する。グロス印刷の際には、モータ25を駆動して照射装置20を主走査方向Yと平行に配置し、第1ノズル群13aのノズル12のみからインクを吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の光が照射されると硬化する光硬化性のインクを用いるインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光硬化性のインクとして、例えば紫外線が照射されると硬化するインク、すなわちUV硬化性インクを用いるインクジェットプリンタが知られている。この種のインクジェットプリンタは、UV硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドと、紫外線を照射する照射装置とを備えている。インクジェットヘッドから吐出されたUV硬化性インク(以下、単にインクという)は、記録紙に着弾した後、照射装置によって紫外線が照射される。その結果、インクは硬化する。
【0003】
ところで、記録紙に着弾した直後のインクは粒状であり、それらインクの全体の表面には凹凸が生じているが、その後の時間の経過と共に、インクの表面は滑らかになっていく。インクが記録紙に着弾してから紫外線が照射されるまでの時間が短いと、インクは表面が滑らかになる前に硬化する。その結果、硬化後のインクの表面は光沢のない状態となる。このような印刷、すなわち表面に光沢のない印刷は、マット印刷と呼ばれる。一方、インクが記録紙に着弾してから紫外線が照射されるまでの時間が長いと、インクは表面が滑らかになってから硬化する。その結果、硬化後のインクの表面は、光沢のある状態となる。このような印刷、すなわち表面に光沢のある印刷は、グロス印刷と呼ばれる。
【0004】
照射装置の配置および照射動作を制御することにより、マット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能なインクジェットプリンタが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。図7は、マット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能なインクジェットプリンタの一例を示す概念図である。このインクジェットプリンタは、インクジェットヘッド200と、第1照射装置201と、第2照射装置202とを備えている。インクジェットヘッド200と第1照射装置201と第2照射装置202とはヘッドユニット210を構成しており、一体となって左方Lおよび右方Rに移動する。記録紙は前方Fに送り出される。
【0005】
なお、左方および右方はヘッドユニット210が移動する方向であり、前方および後方は記録紙が移動する方向である。以下では、ヘッドユニット210が移動する方向(すなわち左右方向)を主走査方向といい、記録紙が移動する方向(すなわち前後方向)を副走査方向ということがある。
【0006】
マット印刷の際には、第1照射装置201を点灯させたままヘッドユニット210を左方に移動させ、インクジェットヘッド200からインクを吐出する。インクジェットヘッド200から吐出されたインクは、記録紙に着弾した後、直ちに第1照射装置201によって硬化される。そのため、インクの表面は光沢のない状態となる。
【0007】
グロス印刷の際には、第1照射装置201は消灯させ、第2照射装置202を点灯させたまま、ヘッドユニット210を左方または右方に移動させる。インクジェットヘッド200から吐出されたインクは、記録紙に着弾した後、記録紙が前方に送り出されてから、第2照射装置202によって硬化される。そのため、着弾から硬化までの間にある程度の時間があるため、インクの表面は光沢のある状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4531405号公報
【特許文献2】特開2005−313558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、図7に示すようなインクジェットプリンタでは、2つの照射装置201,202が必要となる。また、インクジェットヘッド200よりも前方に第2照射装置202を配置しなければならないため、ヘッドユニット210の前後方向の長さが長くなってしまう。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、1つの照射装置でマット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能であり、インクジェットヘッドおよび照射装置の全体の副走査方向長さを短く抑えることのできるインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るインクジェットプリンタは、記録媒体に対して第1の方向に相対移動しながら、所定の光が照射されると硬化するインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに対して前記第1の方向と逆方向に配置され、前記記録媒体に対して前記インクジェットヘッドと共に前記第1の方向に相対移動するように構成され、前記光を照射する照射装置と、前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置に対して、前記第1の方向と直交する第2の方向に記録媒体を相対移動させる記録媒体移動装置と、前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御する制御装置と、を備えている。前記インクジェットヘッドは、前記第2の方向に並ぶ複数のノズルからなる第1ノズル群と、前記第2の方向に並ぶ複数のノズルからなり、前記第1ノズル群の前記第2の方向側に位置する第2ノズル群と、を有する。前記制御装置は、少なくとも前記第1ノズル群のノズルからインクを吐出させると共に、少なくとも前記照射装置の前記第1ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御し、あるいは、少なくとも前記第2ノズル群のノズルからインクを吐出させると共に、少なくとも前記照射装置の前記第2ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御する第1の印刷と、前記第1ノズル群のノズルからインクを吐出させ且つ前記第2ノズル群のノズルからインクを吐出させないように前記インクジェットヘッドを制御すると共に、前記照射装置の前記第2ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記照射装置を制御する第2の印刷と、を選択的に実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの照射装置でマット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能であり、インクジェットヘッドおよび照射装置の全体の第2の方向(副走査方向)に関する長さを短く抑えることのできるインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンタの斜視図である。
【図2】インクジェットプリンタの制御系のブロック図である。
【図3】第1実施形態に係るマット印刷時のヘッドユニットの構成図である。
【図4】第1実施形態に係るグロス印刷時のヘッドユニットの構成図である。
【図5】第1実施形態の変形例に係るヘッドユニットの構成図であり、(a)はマット印刷時の状態、(b)はグロス印刷時の状態を表す。
【図6】第2実施形態に係るヘッドユニットの構成図であり、(a)はマット印刷時の状態、(b)はグロス印刷時の状態を表す。
【図7】マット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能なインクジェットプリンタのヘッドユニットの一例を表す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明に係るインクジェットプリンタの実施の形態を説明する。図1に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)100は、記録紙5の表面に印刷を行うものである。記録紙5は本発明に係る記録媒体の一例であるが、本発明に係る記録媒体は記録紙5に限定されない。記録媒体は、他のシート状の記録媒体、例えば、樹脂製のシート等であってもよい。また、記録媒体は、可撓性を有するシート状のものに限らず、ガラス基板等の硬い記録媒体であってもよい。
【0015】
図1等において、符号F、Rr、L、Rは、それぞれ前、後、左、右を表している。後述するヘッドユニット120は左右方向に移動し、記録紙5は前後方向に搬送される。ヘッドユニット120の移動方向は主走査方向であり、記録紙5の搬送方向は副走査方向である。本実施形態では、主走査方向は左右方向に対応し、副走査方向は前後方向に対応する。ただし、主走査方向および副走査方向は特に限定される訳ではなく、プリンタ100の形態等に応じて適宜に設定される。
【0016】
プリンタ100は、記録紙5を支持するプラテン101を備えている。プラテン101は、左右方向に延びている。プラテン101には、円筒状のグリッドローラ102が設けられている。グリッドローラ102は、その上面部を露出させた状態でプラテン101に埋設されている。グリッドローラ102は、フィードモータ103(図2参照)によって駆動される。
【0017】
プラテン101の上方には、ガイドレール104が設けられている。ガイドレール104は、プラテン101と平行に配置され、左右方向に延びている。ガイドレール104の下方には、複数のピンチローラ105が略等間隔に設けられている。ピンチローラ105は、グリッドローラ102に対向している。ピンチローラ105は上下に揺動自在であり、グリッドローラ102との間に記録紙5を挟み込む。グリッドローラ102およびピンチローラ105は、記録紙5を狭持しながら前後方向に搬送可能に構成されている。
【0018】
ガイドレール104は、前方に突出した係合部106を有している。ヘッドユニット120のケース121の背面には、ブロック107が固定されている。ブロック107の後側には、前向きに凹んだ凹部が形成されている。この凹部には、ガイドレール104の係合部106が係合している。ブロック107は、ガイドレール104に沿って摺動可能である。ヘッドユニット120は、ガイドレール104によって左右方向に案内される。
【0019】
ケース121の背面上部には、左右方向に延びる駆動ベルト108の一部が固定されている。駆動ベルト108は、スキャンモータ109(図2参照)に接続されている。駆動ベルト108は、スキャンモータ109によって駆動される。ヘッドユニット120は、駆動ベルト108を介してスキャンモータ109によって駆動される。
【0020】
ヘッドユニット120の上方には、上カバー110が設けられている。上カバー110は、プリンタ100の上側の筐体を構成している。プラテン101および上カバー110の両側には、サイドカバー111L,111Rが設けられている。サイドカバー111Rの前面には、操作パネル112が設けられている。操作パネル112には、ボタンやスイッチ等の入力装置が設けられている。
【0021】
図3に示すように、ヘッドユニット120は、紫外線を受けると硬化するインク(UV硬化性インク。以下、単にインクという)を吐出するインクジェットヘッド10と、紫外線を照射する照射装置20とを備えている。インクジェットヘッド10と照射装置20とは、一体となって左右方向に移動するように構成されている。例えば、インクジェットヘッド10と照射装置20とは、直接固定されていてもよく、連結具等を介して間接的に固定されていてもよい。
【0022】
インクジェットヘッド10は、複数の記録ヘッド11a〜11fを有している。ここではインクジェットヘッド10は、イエロー(Y)のインクを吐出する記録ヘッド11aと、マゼンタ(M)のインクを吐出する記録ヘッド11bと、シアン(C)のインクを吐出する記録ヘッド11cと、ブラック(K)のインクを吐出する記録ヘッド11dと、ライトマゼンタ(LM)のインクを吐出する記録ヘッド11eと、ライトシアン(LC)のインクを吐出する記録ヘッド11fとを有している。ただし、インクジェットヘッド10が備える記録ヘッドの個数は6個に限定されない。また、記録ヘッド11a〜11fから吐出されるインクの色は、何ら限定される訳ではない。
【0023】
各記録ヘッド11a〜11fは、副走査方向(言い換えると前後方向)に並ぶ複数のノズル12を有している。なお、図3等では、ノズル12の個数を少なめに図示しているが、実際には、各記録ヘッド11a〜11fは多数のノズル12を有している。また、図3等では、各記録ヘッド11a〜11fのノズル12は1列に並んでいるが、各記録ヘッド11a〜11fのノズル12の列数は1列に限らず、2列以上であってもよい。それらノズル12の配置パターンも何ら限定されず、例えば千鳥状に配置されていてもよい。各ノズル12は、インクを適宜吐出するように構成されている。すなわち、各ノズル12は、他のノズル12から独立して動作可能であり、任意のタイミングでインクを吐出可能である。
【0024】
便宜上、各記録ヘッド11a〜11fのノズル12は、第1ノズル群13aと第2ノズル群13bとに大別することができる。第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bは、いずれも副走査方向に並ぶ複数のノズル12によって構成されている。第2ノズル群13bは、第1ノズル群13aの前方に配置されている。ノズル12は、一定のノズルピッチP毎に配置されている。ノズルピッチとは、隣り合うノズル12の中心同士の距離のことである。第1ノズル群13aのノズルピッチPと第2ノズル群13bのノズルピッチPとは、同一である。また、第1ノズル群13aにおける最も第2ノズル群13b側に位置するノズルと、第2ノズル群13bにおける最も第1ノズル群13a側に位置するノズルとのノズルピッチPも、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズルピッチPと同一である。なお、第1ノズル群13aと第2ノズル群13bとの境目の位置は、特に限定されない。第1ノズル群13aに属するノズル12の個数、および第2ノズル群13bに属するノズル12の個数は、特に限定される訳ではない。
【0025】
照射装置20は、インクジェットヘッド10の左方に配置されている。ただし、照射装置20の位置はインクジェットヘッド10の左方に限定されず、インクジェットヘッド10の右方であってもよい。本実施形態では、ヘッドユニット120は単一の照射装置20を備えており、この照射装置20以外の照射装置は設けられていない。照射装置20の種類は特に限定されず、例えば、紫外線を照射するLED、ランプ、またはそれらの組み合わせ等であってもよい。図示は省略するが、本実施形態では照射装置20は、紫外線を照射する複数のLED素子を備えており、それらLED素子が集まって照射部21を形成している。
【0026】
ヘッドユニット120には、照射装置20を鉛直軸26周りに回転させるモータ25が設けられている。鉛直軸26は、照射装置20の前後の中心位置よりも前側に位置している。照射装置20は、鉛直軸26の周りに約90度回転可能である。なお、照射装置20を回転させる駆動装置はモータ25に限らず、他の種類の駆動装置であってもよい。
【0027】
図2に示すように、プリンタ100には、制御装置30が設けられている。制御装置30は、フィードモータ103およびスキャンモータ109の他、インクジェットヘッド10、照射装置20、およびモータ25を制御する。詳しくは、制御装置30は、インクジェットヘッド10の各ノズル12の吐出動作を制御する。前述の通り、各ノズル12は、他のノズル12から独立して吐出動作が可能である。各ノズル12には、例えば圧電素子等からなるアクチュエータが設けられている。制御装置30は、所定のタイミングでインクを吐出するように各ノズル12のアクチュエータを制御する。また、制御装置30は、照射装置20の点灯および消灯を適宜に切り替える。
【0028】
制御装置30の具体的構成は何ら限定されず、例えば、プリンタ100の操作パネル112の裏側に設けられた電子回路によって構成されていてもよく、プリンタ100と有線または無線による通信が可能な外部のコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)等であってもよい。
【0029】
プリンタ100は、表面に光沢のない印刷(マット印刷)と、表面に光沢のある印刷(グロス印刷)とを選択的に実行可能である。次に、プリンタ100が行うマット印刷およびグロス印刷について説明する。
【0030】
始めに、マット印刷について説明する。マット印刷のときには、図3に示すように、制御装置30がモータ25を適宜駆動し、照射装置20は、その長手方向が副走査方向Xと平行になるように設定される。これにより、照射装置20の照射部21は、記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bの左方に配置される。なお、ここでいう「照射部21が第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bの左方に配置される」とは、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12から吐出されたインクが、照射部21から照射した紫外線に照射されるような位置に照射部21が配置されていることを意味する。必ずしも照射部21が第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bの左方に位置している場合に限らず、吐出されたインクが直ちに照射される限り、第1ノズル群13aの一部のノズル12が照射部21よりも後方に位置していてもよく、第2ノズル群13bの一部のノズル12が照射部21よりも前方に位置していてもよい。
【0031】
制御装置30は、記録紙5が順次前方に送り出されるように、フィードモータ103を制御する。また、制御装置30は、ヘッドユニット120が左方および右方(言い換えると、主走査方向Y)に移動するように、スキャンモータ109を制御する。制御装置30は、例えば、記録紙5が1回前方に送り出される毎に、ヘッドユニット120を1回または複数回往復させる。
【0032】
このマット印刷では、ヘッドユニット120が左方に移動するときに、記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12から、インクが適宜吐出される。すなわち、第1ノズル群13aのノズル12および第2ノズル群13bのノズル12の両方が、インクを吐出するノズル12となる。更に言い換えると、記録ヘッド11a〜11fのすべてのノズル12が、インクを吐出するノズル12となる。
【0033】
照射装置20は、ヘッドユニット120が左方に移動するときに点灯される。言い換えると、照射装置20は、記録ヘッド11a〜11fのノズル12からインクが吐出された直後に、紫外線を照射するように制御される。
【0034】
第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12から吐出されたインクは、記録紙5に着弾した後、照射装置20から照射された紫外線を受け、硬化する。記録紙5に着弾したインクに対して、直ちに紫外線が照射されるので、インクは表面が滑らかになる前に硬化する。そのため、光沢のない印刷物が得られる。以上がマット印刷である。
【0035】
次に、グロス印刷について説明する。グロス印刷のときには、図4に示すように、制御装置30がモータ25を適宜駆動し、照射装置20は、その長手方向が主走査方向Yと平行になるように設定される。これにより、照射装置20の照射部21は、記録ヘッド11a〜11fの第2ノズル群13bの左方に配置される。記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aの左方には、照射装置20の照射部21が配置されない状態となる。なお、ここでいう「照射部21が第2ノズル群13bの左方に配置される」とは、第2ノズル群13bのノズル12からインクが吐出された場合に、照射部21がそのインクに紫外線を直ちに照射できるような位置にあることを意味する。また、「第1ノズル群13aの左方に照射部21が配置されない」とは、第1ノズル群13aのノズル12からインクが吐出された場合に、照射部21がそのインクに紫外線を直ちに照射できないような位置にあることを意味する。
【0036】
マット印刷と同様、制御装置30は、記録紙5が順次前方に送り出されるようにフィードモータ103を制御し、ヘッドユニット120が左方および右方に移動するようにスキャンモータ109を制御する。制御装置30は、例えば、記録紙5が1回前方に送り出される毎に、ヘッドユニット120を1回または複数回往復させる。
【0037】
このグロス印刷では、ヘッドユニット120が左方または右方に移動するときに、記録ヘッド11a〜11fの第2ノズル群13bのノズル12からはインクが吐出されず、第1ノズル群13aのノズル12からインクが適宜吐出される。すなわち、第1ノズル群13aのノズル12は、インクを吐出するノズル12となるが、第2ノズル群13bのノズル12は、インクを吐出しないノズル12となる。言い換えると、照射装置20の照射部21よりも後方に位置するノズル12は、インクを吐出するノズル12となり、照射装置20の照射部21の右方に位置するノズル12は、インクを吐出しないノズルとなる。
【0038】
照射装置20は、ヘッドユニット120が左方または右方に移動するときに点灯される。
【0039】
記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aのノズル12から吐出されたインクには、記録紙5が前方に送り出され、照射装置20が上方を通過するまでは、紫外線が照射されない。上記インクは、記録紙5が前方に送り出された後に、照射装置20によって照射されることになる。そのため、記録紙5に着弾したインクは、表面が滑らかになった後に硬化する。したがって、光沢のある印刷物が得られる。以上がグロス印刷である。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、マット印刷のときには、照射装置20を第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bの側方に位置付け、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12から吐出されたインクを照射装置20によって直ちに硬化させることとした。また、グロス印刷のときには、照射装置20を第2ノズル群13bの側方に位置付け、第1ノズル群13aのノズル12からはインクを吐出する一方、第2ノズル群13bのノズル12からはインクを吐出させないようにした。そのため、単一の照射装置20により、マット印刷およびグロス印刷を選択的に実行可能となる。また、照射装置20をインクジェットヘッド10よりも前方に配置する必要がないので、ヘッドユニット120の前後方向(副走査方向)の長さを短く抑えることが可能となる。
【0041】
なお、本実施形態では、マット印刷時には、記録ヘッド11a〜11fの全ノズル12からインクを適宜吐出することとした。しかし、記録ヘッド11a〜11fの一部のノズル12を用いてマット印刷を行うことも可能である。例えば、第1ノズル群13aのノズル12からインクを適宜吐出し、第2ノズル群13bのノズル12からはインクを吐出しないようにしてもよい。この場合、照射装置20の第1ノズル群13aの側方に位置する部分のみを点灯させ、他の部分を消灯させるようにしてもよい。また、第1ノズル群13aのノズル12からはインクを吐出せず、第2ノズル群13bのノズル12からインクを適宜吐出するようにしてもよい。この場合、照射装置20の第2ノズル群13bの側方に位置する部分のみを点灯させ、他の部分は消灯させるようにしてもよい。
【0042】
ただし、本実施形態のように、マット印刷時に記録ヘッド11a〜11fの全ノズル12を用いることとすれば、ヘッドユニット120を一回走査する際に、より多くの領域にインクを吐出することができる。そのため、マット印刷の印刷速度を向上させることができる。
【0043】
本実施形態によれば、照射装置20は、少なくとも一部が第1ノズル群13aの側方の位置(図3参照)と、第2ノズル群13bの側方の位置(図4参照)とに位置変更可能なように、インクジェットヘッド10に対して移動可能に構成されている。本実施形態によれば、照射装置20を大型化しなくても、マット印刷およびグロス印刷の両方を選択的に実行することができる。
【0044】
図5(a)および(b)に示すように、照射装置20を前後にスライド可能に構成してもよい。例えば、図5(a)に示すように、照射装置20を第1ノズル群13aの側方に位置付け、第1ノズル群13aのノズル12からインクを吐出する一方、第2ノズル群13bのノズル12からインクを吐出させないようにすることにより、マット印刷を行うことができる。また、例えば、図5(b)に示すように、照射装置20を第2ノズル群13bの側方に位置付け、第1ノズル群13aのノズル12からインクを吐出する一方、第2ノズル群13bのノズル12からインクを吐出させないようにすることにより、グロス印刷を行うことができる。
【0045】
ただし、回転式の照射装置20を備えた本実施形態によれば、マット印刷時に、記録ヘッド11a〜11fの全ノズル12を使用することが可能となる。また、照射装置20の長手方向の長さがインクジェットヘッド10の前後方向の長さと略等しい場合であっても、マット印刷およびグロス印刷の両方において、照射装置20がインクジェットヘッド10よりも前方または後方に突出することを避けることができる。また、本実施形態によれば、照射装置20の照射量を多く確保することができる。
【0046】
<第2実施形態>
第1実施形態に係るインクジェットプリンタ100は、照射装置20が移動可能に構成され、照射装置20の位置を変更することによって、マット印刷とグロス印刷とを選択的に実行するものであった。第2実施形態に係るインクジェットプリンタ100は、部分的に点灯および消灯が可能なように照射装置20を構成し、照射装置20の照射部分を適宜切り替えることによって、マット印刷とグロス印刷とを選択的に実行するものである。
【0047】
図6(a)および(b)に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100は、第1実施形態と同様、複数のLED素子からなる照射部21を有する照射装置20を備えている。照射部21は、部分的に点灯および消灯が可能である。ここでは、記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aの左方に位置する部分を第1照射部21aとし、第2ノズル群13bの左方に位置する部分を第2照射部21bとする。
【0048】
第1実施形態と同様、マット印刷の際には、制御装置30は、記録紙5が順次前方に送り出されるようにフィードモータ103を制御し、ヘッドユニット120が左方および右方に移動するようにスキャンモータ109を制御する。
【0049】
制御装置30は、ヘッドユニット120が左方に移動するときに、記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12からインクを適宜吐出させ、照射装置20の第1照射部21aおよび第2照射部21bを点灯させる。
【0050】
これにより、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12から吐出されたインクは、記録紙5に着弾した後、照射装置20の第1照射部21aおよび第2照射部21bによって、直ちに紫外線が照射される。その結果、上記インクは表面が滑らかになる前に硬化し、光沢のない印刷物が得られる。
【0051】
グロス印刷の際にも、制御装置30は、記録紙5が順次前方に送り出されるようにフィードモータ103を制御し、ヘッドユニット120が左方および右方に移動するようにスキャンモータ109を制御する。
【0052】
制御装置30は、ヘッドユニット120が左方または右方に移動するときに、記録ヘッド11a〜11fの第1ノズル群13aのノズル12からインクを適宜吐出させる一方、第2ノズル群13bのノズル12からはインクを吐出させない。また、制御装置30は、照射装置20の第1照射部21aを消灯させる一方、第2照射部21bを点灯させる。なお、図6(b)のハッチングは、第1照射部21aが消灯している状態を表している。
【0053】
これにより、第1ノズル群13aのノズル12から吐出されたインクは、記録紙5に着弾した後、記録紙5が前方に送り出され、照射装置20の第2照射部21bが上方を通過するまで、紫外線を照射されない。そのため、記録紙5に着弾したインクは、表面が滑らかになった後に硬化することになる。その結果、光沢のある印刷物が得られる。
【0054】
したがって、本実施形態においても、単一の照射装置20により、マット印刷およびグロス印刷を選択的に実行することができる。また、照射装置20をインクジェットヘッド10よりも前方に配置する必要がないので、ヘッドユニット120の前後方向の長さを短く抑えることが可能となる。また、本実施形態によれば、照射装置20を移動させる機構は不要である。
【0055】
なお、本実施形態では、マット印刷の際に、第1ノズル群13aおよび第2ノズル群13bのノズル12からインクを吐出し、照射装置20の第1照射部21aおよび第2照射部21bを点灯させることとした。しかし、第1ノズル群13aのノズル12のみからインクを吐出し、照射装置20の第1照射部21aのみを点灯させてもよい。あるいは、第2ノズル群13bのノズル12のみからインクを吐出し、照射装置20の第2照射部21bのみを点灯させてもよい。このような場合であっても、マット印刷が可能となる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態をいくつか説明したが、上述の実施の形態は例示に過ぎず、本発明は他に種々の形態で実施することが可能である。
【0057】
本発明に係るインクジェットプリンタは、独立したプリンタとして単独で用いられるものに限らず、他の装置と組み合わせられたものであってもよい。本発明に係るインクジェットプリンタは、他の装置に内蔵された記録装置であってもよい。
【0058】
前記実施形態では、ヘッドユニット120のみが主走査方向に移動し、記録紙5のみが副走査方向に移動するように構成されていたが、ヘッドユニット120と記録紙5との移動は相対的なものであり、そのどちらが主走査方向または副走査方向に移動してもよい。例えば、記録紙5は移動不能に配置され、ヘッドユニット120が主走査方向および副走査方向の両方向に移動可能であってもよい。ヘッドユニット120および記録紙5の両方が移動可能であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
5 記録紙(記録媒体)
10 インクジェットヘッド
12 ノズル
13a 第1ノズル群
13b 第2ノズル群
20 照射装置
21 照射部
21a 第1照射部
21b 第2照射部
30 制御装置
100 インクジェットプリンタ
103 フィードモータ(記録媒体移動装置)
X 副走査方向(第2の方向)
Y 主走査方向(第1の方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対して第1の方向に相対移動しながら、所定の光が照射されると硬化するインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに対して前記第1の方向と逆方向に配置され、前記記録媒体に対して前記インクジェットヘッドと共に前記第1の方向に相対移動するように構成され、前記光を照射する照射装置と、
前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置に対して、前記第1の方向と直交する第2の方向に記録媒体を相対移動させる記録媒体移動装置と、
前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御する制御装置と、を備え、
前記インクジェットヘッドは、前記第2の方向に並ぶ複数のノズルからなる第1ノズル群と、前記第2の方向に並ぶ複数のノズルからなり、前記第1ノズル群の前記第2の方向側に位置する第2ノズル群と、を有し、
前記制御装置は、
少なくとも前記第1ノズル群のノズルからインクを吐出させると共に、少なくとも前記照射装置の前記第1ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御し、あるいは、少なくとも前記第2ノズル群のノズルからインクを吐出させると共に、少なくとも前記照射装置の前記第2ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記インクジェットヘッドおよび前記照射装置を制御する第1の印刷と、
前記第1ノズル群のノズルからインクを吐出させ且つ前記第2ノズル群のノズルからインクを吐出させないように前記インクジェットヘッドを制御すると共に、前記照射装置の前記第2ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記照射装置を制御する第2の印刷と、を選択的に実行するように構成されている、インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1の印刷の際には、前記第1ノズル群および前記第2ノズル群のノズルからインクを吐出させるように前記インクジェットヘッドを制御すると共に、前記照射装置の前記第1ノズル群の側方に位置する部分および前記第2ノズル群の側方に位置する部分を点灯させるように前記照射装置を制御する、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記照射装置は、前記照射装置の少なくとも一部が前記第1ノズル群の側方の位置と前記第2ノズル群の側方の位置とに位置変更が可能なように、前記インクジェットヘッドに対して移動可能に構成されている、請求項1または2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記照射装置は、その長手方向が第2の方向と平行になる状態と、その長手方向が第1の方向と平行になる状態とに変更可能なように、回転可能に構成されている、請求項1〜3のいずれか一つに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記照射装置は、前記第1ノズル群および前記第2ノズル群の側方に位置する状態と、前記第2ノズル群の側方に位置する状態とに変更可能なように、回転可能に構成されている、請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記照射装置は、前記第1ノズル群の側方に位置する第1照射部と、前記第2ノズル群の側方に位置する第2照射部とを有し、
前記第1照射部と前記第2照射部とは、互いに独立して点灯および消灯が自在に構成されている、請求項1または2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記第1ノズル群および前記第2ノズル群は、複数の色のインクごとに設けられ、
前記複数の第1ノズル群および前記第2ノズル群は、第1の方向に沿って配置されている、請求項1〜6のいずれか一つに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記第1ノズル群のノズルピッチと第2ノズル群のノズルピッチとは同一であり、
前記第1ノズル群のノズルのうち最も前記第2ノズル群側のノズルと、前記第2ノズル群のノズルのうち最も前記第1ノズル群側のノズルとの間のノズルピッチは、前記第1ノズル群および前記第2ノズル群のノズルピッチと同一である、請求項1〜7のいずれか一つに記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−59868(P2013−59868A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198072(P2011−198072)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000116057)ローランドディー.ジー.株式会社 (163)
【Fターム(参考)】