説明

インクジェットプリンタ

【課題】繰出し側および巻取り側の両側にテンション付与機構を配設する場合に、当該テンション付与機構により付与する張力をより一層の広範囲において調整可能なインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るインクジェットプリンタ(P)は、テンションアーム(93、123)をバラストアーム(98、126)と係合させて前記テンション調整機構により張力を調整可能な状態と、切り離して前記テンション調整機構によりトルクを作用させない状態とに切り替え可能な切替機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺シート状の印刷媒体に対して印刷を行うインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺シート状の印刷媒体に対して印刷を行うインクジェットプリンタとして、プリンタ本体の後側に配置された繰出し機構により印刷前の印刷媒体を繰り出し、プリンタ本体においてその印刷媒体に対してインクジェットヘッドを相対移動させながらインクを吐出して印刷を行い、プリンタ本体の前側に配置された巻取り機構により印刷が終了した印刷媒体を巻き取るように構成されたインクジェットプリンタが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このようなインクジェットプリンタにおいては、印刷媒体をシワや弛みなく適切に繰り出すもしくは巻き取るため、印刷媒体に所定の張力(テンション)を付与するテンション付与機構を繰出し機構側もしくは巻取り機構側に備えたものがある(例えば、特許文献2および特許文献3を参照)。
【0003】
図8(a)に、従来のテンション付与機構200の概略構成を示す。テンション付与機構200は、印刷媒体Mの送り方向と直交する回転軸204を中心に上下揺動自在なメディアアーム203と、メディアアーム203の先端部に支持され直交方向に延びるテンションバー201とからなり、メディアアーム203が自重および印刷媒体Mの弛みに応じて下方に揺動してテンションバー201を印刷媒体に当接させて印刷媒体を屈曲させることにより印刷媒体Mに張力を付与するように構成される。また、テンション付与機構200には、回転軸204を中心に上下揺動自在かつ反対側のテンション付与機構の方に延びたバラストアーム301およびバラストアーム301の先端に取り付けられたバラスト部材302から構成されるテンション調整機構300が配設されており、バラスト部材302によりバラストアーム301に作用するトルクを用いてテンション付与機構200により印刷媒体Mに付与する張力を調整可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐302468号公報
【特許文献2】特開2008‐279621号公報
【特許文献3】特開2003‐252501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図8(a)に示すように、上述したテンション付与機構200およびテンション調整機構300を繰出し側および巻取り側の両側に配設する場合、互いのテンション調整機構300が干渉しないように、繰出し側テンション付与機構と巻取り側テンション付与機構とを前後方向に大きく離して(距離Eあけて)配設する必要があり、そのために繰出し側および巻取り側テンション付与機構が前後方向に張り出してインクジェットプリンタが大型化するという問題があった。そこで、図8(b)に示すように、バラストアーム301が斜め上方に延びるようにテンション調整機構300を構成することが考えられたが、この場合には、互いのテンション付与機構300の間の距離を上記場合よりも多少狭めることができる(距離F<距離E)が、テンション付与機構200およびテンション調整機構300の更なる省スペース化(コンパクト化)が望まれる。
【0006】
また、このようなインクジェットプリンタでは種類の異なるさまざまな印刷媒体に印刷を行うため、テンション付与機構200ではその印刷媒体ごとに適した張力を付与することが要求される。そこで、テンション調整機構300が設けられ、バラスト部材302の重量を変更することでテンション付与機構200により印刷媒体に付与する張力を調整可能に構成されているが、種々の印刷媒体に対応するため、より一層の広範囲において張力を調整可能な構成が望まれる。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、繰出し側および巻取り側の両側にテンション付与機構を配設する場合に、当該テンション付与機構により付与する張力をより一層の広範囲において調整可能なインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェットプリンタは、印刷媒体に対して印刷を行うプリンタ本体と、長尺シート状の印刷媒体を前記プリンタ本体に向けて繰り出すメディア繰出し手段と、前記メディア繰出し手段により繰り出されて前記プリンタ本体において印刷された前記印刷媒体を巻き取るメディア巻取り手段と、前記メディア繰出し手段により繰り出されて前記メディア巻取り手段により巻き取られる間の前記印刷媒体に張力を付与するテンション付与手段とを有して構成される。その上で、前記テンション付与手段が、前記印刷媒体の送り方向と直交する回転軸を中心に上下揺動自在なテンションアーム(例えば、実施形態におけるメディアアーム93,123)を有し、自重により下方に揺動する前記テンションアームの先端が前記印刷媒体に当接して前記印刷媒体に張力を付与するテンション付与機構と、前記送り方向と直交する回転軸を中心に上下揺動自在なバラストアームおよび前記バラストアームに取り付けられたバラスト部材を有し、前記バラスト部材により前記バラストアームに作用するトルクを用いて前記テンション付与機構により前記印刷媒体に付与する張力を調整可能なテンション調整機構と、前記テンションアームが所定の揺動角度から一方に揺動するときに前記テンションアームを前記バラストアームと係合させて前記テンション調整機構により前記張力を調整可能な状態と、前記テンションアームが前記所定の揺動角度から他方に揺動するときに前記テンションアームを前記バラストアームから切り離して前記テンション調整機構により前記トルクを作用させない状態とに切り替え可能な切替機構(例えば、実施形態における固定リング97,127およびバラストアーム98,128のアーム側突出部98a,128a)とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るインクジェットプリンタでは、テンション付与手段が、自重により下方に揺動するテンションアームの先端が印刷媒体に当接して印刷媒体に張力を付与するテンション付与機構と、バラスト部材によりバラストアームに作用するトルクを用いてテンション付与機構により印刷媒体に付与する張力を調整可能なテンション調整機構と、テンションアームが所定の揺動角度から一方に揺動するときにテンションアームをバラストアームと係合させてテンション調整機構により張力を調整可能な状態とテンションアームが所定の揺動角度から他方に揺動するときにテンションアームをバラストアームから切り離してテンション調整機構によりトルクを作用させない状態とに切り替え可能な切替機構とを備えて構成される。このような構成によれば、従来のようにバラスト部材によりバラストアームに作用するトルクを用いて張力を調整可能な状態と、テンションアームをバラストアームから切り離してテンションアームの自重により張力を付与する状態とに切り替えることができるため、従来のテンション付与手段と比較してより一層の広範囲において張力の調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンタの側面図である。
【図2】上記インクジェットプリンタを前方から見た斜視図である。
【図3】上記インクジェットプリンタを構成するプリンタ本体の要部構成を示す正面図である。
【図4】繰出し側および巻取り側テンション付与手段の構成を示す平面図である。
【図5】(a),(b)は係合開始角度よりも上方における繰出し側テンション付与手段の作動を示す側面図である。
【図6】(a),(b)は係合開始角度よりも下方における繰出し側テンション付与手段の作動を示す側面図である。
【図7】繰出し側および巻取り側テンション調整機構と係合するメディアアームの揺動範囲を示す模式図である。
【図8】(a),(b)は従来のテンション付与手段の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1および図2に示すように、本発明に係るインクジェットプリンタPは、印刷媒体Mに対して印刷を行うプリンタ本体1と、このプリンタ本体1を作業容易な高さ位置に支持する支持部2と、未印刷状態の印刷媒体Mをプリンタ本体1に繰り出す繰出し装置3と、印刷済みの印刷媒体Mを巻き取る巻取り装置4とから構成される。なお、以下では説明の便宜上、図中に付記する前後、左右および上下の矢印の指す方向を、それぞれ前後方向、左右方向および上下方向と称して説明する。
【0012】
まず、プリンタ本体1について、プリンタ本体1の要部構成を示す図3を併せて参照して簡単に説明する。プリンタ本体1は、各ユニットの取り付けベースとなるボディ10と、印刷媒体Mを支持するプラテン20と、プラテン20に支持された印刷媒体Mを前後に移動させるメディア移動機構30と、プラテン20の上方に位置して左右に移動自在に支持されたキャリッジ40と、プラテン20に支持された印刷媒体Mに対してキャリッジ40を左右に相対移動させるキャリッジ移動機構50と、キャリッジ40に固定支持された複数のインクジェットヘッド60と、各移動機構30,50の駆動およびインクジェットヘッド60からのインク吐出等を制御する印刷コントローラ70とを主体に構成される。
【0013】
ボディ10は、支持部2を構成する左右の支持脚2aにより支持されプラテン20が設けられる下部フレーム11Lと、キャリッジ40の支持構造が設けられる上部フレーム11Uとからなる本体フレーム11を備え、上部フレーム11Uと下部フレーム11Lとの間に印刷媒体Mが前後に挿通可能な横長窓状のメディア挿通部15が形成される。ボディ10は、本体フレーム11の中央部を覆うフロントカバー13aおよび左右を覆うサイドカバー13b,13bに囲まれて全体として横長矩形の箱状に構成される。
【0014】
プラテン20は、ボディ10の左右中央部に位置してメディア挿通部15の前後にわたって設けられており、インクジェットヘッド60が左右に移動して印刷を行うプリント部(印刷領域)に印刷媒体Mを水平に支持する支持面が形成されたメインプラテン22と、メインプラテン22から後方に延びてボディ10の後面側に設けられたリアプラテン21と、メインプラテン22から前方に延びてボディ10の前面側に設けられたフロントプラテン23とから構成される。リアプラテン21の後端側およびフロントプラテン23の前端側はそれぞれ滑らかな曲線を描いて下方に延び、繰出し装置3から繰り出されてプラテン20に導入された印刷媒体Mが、リアプラテン21、メインプラテン22、フロントプラテン23の順に各上面を滑らかに移動した後、フロントプラテン23から吐出されて巻取り装置4に巻き取られる。
【0015】
メインプラテン22の支持面には、直径数ミリメートル程度の吸着孔が多数開口形成されるとともに、その下側に減圧室25が設けられて負圧に設定可能に構成されており、減圧室25を負圧にすることによりプリント部において印刷媒体Mを吸着保持し、印刷中に印刷媒体Mの位置がずれないようになっている。
【0016】
メディア移動機構30は、左右に延びる回転軸廻りに回転可能に設けられ上部周面がメインプラテン22の支持面に露出して配設された円筒状の送りローラ31、送りローラ31を回転駆動するためのローラ駆動モータ33と、送りローラ31の軸端に結合された従動プーリとローラ駆動モータ33の軸端に結合された駆動プーリとの間に巻き掛けられたタイミングベルト32と、各々前後に回転自在なピンチローラ36を有し送りローラ31の上方に左右所定間隔をおいて配設された複数のローラアッセンブリ35とから構成される。
【0017】
ローラアッセンブリ35は、ピンチローラ36を送りローラ31に弾性的に係合させたクランプ位置と、ピンチローラ36を送りローラ31の上方に離隔させたアンクランプ位置とに変位設定可能に構成され、ローラアッセンブリ35をクランプ位置に設定して印刷媒体Mを上下のローラ36,31間に挟み込んだ状態で送りローラ31を回転させることにより、印刷媒体Mが送りローラ31の回転角度に応じた送り量すなわち印刷コントローラ70からローラ駆動モータ33に出力される駆動制御信号に応じた送り量で前後に搬送される。
【0018】
キャリッジ40は、送りローラ31と平行に左右に延びて上部フレーム11Uに取り付けられたガイドレール45に左右に移動自在に支持される。ガイドレール45は直動軸受の支持レールであり、このガイドレール45に嵌合されたスライドブロックにキャリッジ40が固定されて左右にスライド移動自在に支持され、キャリッジ移動機構50により左右に移動される。
【0019】
キャリッジ移動機構50は、ガイドレール45の左右の側端近傍に設けられた駆動プーリ51および従動プーリ52と、駆動プーリ51を回転駆動するキャリッジ駆動モータ53と、駆動プーリ51と従動プーリ52とに巻き掛けられたタイミングベルト55とからなり、キャリッジ40がタイミングベルト55に連結固定されて構成される。キャリッジ駆動モータ53の回転は印刷コントローラ70により制御され、印刷コントローラ70からキャリッジ駆動モータ53に出力される駆動制御信号に応じた送り量でキャリッジ40を左右にスライド移動(往復移動)させる。
【0020】
インクジェットヘッド60は、下面にインク滴を吐出する多数のノズルが形成されており、その下面(ノズル面)が印刷媒体Mと所定のギャップ(間隔)を隔てるようにキャリッジ40に固定支持される。インクジェットヘッド60の配置構成には種々の構成形態があり適宜な構成を用いることができるが、本実施形態では、4色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクジェットヘッド60を左右に並べて配置したヘッド構成を例示している。なお、不図示のキャリッジ昇降機構によりキャリッジ40を上下に昇降移動させることが可能であり、これによりインクジェットヘッド60のノズル面と印刷媒体Mとのギャップを印刷媒体Mの表面状態などに応じて調整可能になっている。
【0021】
印刷コントローラ70は、メディア移動機構30におけるローラ駆動モータ33の駆動を制御することにより、プラテン20上に支持された印刷媒体Mを前方に間欠送りして位置決めし、さらにキャリッジ移動機構50におけるキャリッジ駆動モータ53の駆動と各インクジェットヘッド60のノズルからのインク吐出とを同期制御することにより、印刷媒体Mに印刷プログラムに応じた文字や図形等の画像を形成する。このとき、メディア移動機構30によるプラテン20上での印刷媒体Mの送り量に応じて、繰出し装置3により未印刷状態の印刷媒体Mが繰り出されてプラテン20に導入されるとともに、巻取り装置4によりプラテン20から吐出された印刷済みの印刷媒体Mが巻き取られる。
【0022】
次に、繰出し装置3および巻取り装置4について説明する。繰出し装置3は、図1に示すように、支持部2の後側に設けられており、未印刷状態の印刷媒体Mが巻き付けられた筒状の繰出し軸6(図2を参照)を支持するとともに繰出し軸6を回転させて印刷媒体Mを繰り出すメディア繰出し手段80と、メディア繰出し手段80に繰り出されてプラテン20に導入される間の印刷媒体Mに張力を付与する繰出し側テンション付与手段90と、メディア繰出し手段80による印刷媒体Mの繰出し量を制御する繰出しコントローラ100とから構成される。
【0023】
メディア繰出し手段80は、繰出し軸6に挿通されて繰出し軸6と一体に回転可能な棒状の支持シャフト81と、左右の支持脚2aの後側中間部に配設されて支持シャフト81を回転自在かつ着脱可能に支持するシャフト支持部82,82と、左側のシャフト支持部82内に設けられて支持シャフト81を回転駆動するためのシャフト駆動機構85とから構成される。シャフト駆動機構85は、例えば駆動モータやこの駆動モータの出力軸と支持シャフト81の端部に巻き掛けられたタイミングベルト等を有して構成され、繰出しコントローラ100から入力される駆動制御信号に応じて支持シャフト81を回転駆動する。支持シャフト81により左右のシャフト支持部82,82間に支持された未印刷状態の印刷媒体Mは、支持シャフト81の回転量(回転速度)に応じた繰出し量(繰出し速度)でプラテン20(リアプラテン21)に向けて繰り出される。
【0024】
繰出し側テンション付与手段90は、図1および図4に示すように、印刷媒体Mに左右に横断して当接される円柱棒状のテンションバー91、左右の支持脚2aの底部2b上に配設された回転軸支持部92,92、左右の回転軸支持部92,92に架設され回転自在に支持された繰出し側回転軸94、および基端部が繰出し側回転軸94の端部に固定されるとともに先端部にテンションバー91の端部を回転自在に支持する左右一対のメディアアーム93,93から構成される繰出し側テンション付与機構95と、基端部が繰出し側回転軸94に対して回転自在に支持されるとともに先端部に繰出し側バラスト部材99が着脱可能に取り付けられる繰出し側バラストアーム98から構成される繰出し側テンション調整機構96と、繰出し側回転軸94に固定されて繰出し側回転軸94と一体に回転する固定リング97とから構成される。
【0025】
メディアアーム93,93は、上述したように基端部が繰出し側回転軸94の左右端部にそれぞれ固定され、この基端部を中心に繰出し側回転軸94の回転を伴って上下に揺動可能であり、自重により下方に揺動して先端部に支持したテンションバー91を繰出し軸6から繰り出されてプラテン20に到達する間の印刷媒体Mに当接させるように構成されている。なお、メディアアーム93の基端部近傍には、メディアアーム93の揺動角度、すなわちテンションバー91の高さ位置を検出するための揺動角度検出部(図示せず)が配設されており、この揺動角度検出部によって検出された検出信号が繰出しコントローラ100に出力されるようになっている。
【0026】
固定リング97は、左右に延びる繰出し側回転軸94と一体に、すなわち繰出し側回転軸94に固定されたメディアアーム93の揺動に応じて回転するようになっており、繰出し側回転軸94に直交する方向に突出したリング側突出部97aが形成されている。このリング側突出部97aは、メディアアーム93の下方への揺動に応じて左方側面視において時計回りに回転し、メディアアーム93が所定の揺動角度(以下、係合開始角度と称する)になったときに、後述する繰出し側バラストアーム98のアーム側突出部98aの下面にはじめて当接するようになっている(図5を参照)。このようにリング側突出部97aがアーム側突出部98aに当接している状態を、固定リング97と繰出し側バラストアーム98の係合状態と称して以下に説明する。
【0027】
繰出し側バラストアーム98は、基端部が固定リング97に隣接して繰出し側回転軸94に軸支され、その基端部から前方に後述する巻取り側回転軸124を下方から跨ぐように延びて形成されている。この繰出し側バラストアーム98は、後述する巻取りバラストアーム128に対して、左右方向(印刷媒体Mの送り方向に直交する方向)にずれて設けられ(図4を参照)、側面視において一部が重なって配設されている(図1を参照)。繰出し側バラストアーム98の先端部に取り付けられた繰出し側バラスト部材99は、固定リング97と繰出し側バラストアーム98とが係合状態のときに、側面視においてテンションバー91と繰出し側回転軸94とを結ぶ直線の延長線上に位置するようになっている。繰出し側バラスト部材99は、繰出し側バラストアーム98の先端部にそれぞれ着脱可能な複数の錘部材によって構成され、この錘部材の個数を変えることにより繰出し側バラスト部材99の重量を変更することが可能になっている。
【0028】
繰出し側バラストアーム98の基端部近傍には、固定リング97側に突出したアーム側突出部98aが形成されており、上述したようにメディアアーム93が係合開始角度になったときに、アーム側突出部98aに固定リング97のリング側突出部97aが当接して固定リング97と繰出し側バラストアーム98とが係合状態となる。このように係合状態のとき、すなわちメディアアーム93が係合開始角度よりも下方において揺動するときには、繰出し側バラストアーム98は基端部(繰出し側回転軸94)を中心にメディアアーム93の揺動に応じて(メディアアーム93と連動して)上下に揺動する(図6(a)を参照)。一方、非係合状態のとき、すなわちメディアアーム93が係合開始角度よりも上方において揺動するときには、繰出し側バラストアーム98は支持脚2aの底部2b上に当接して静止状態となる(図5を参照)。
【0029】
なお、メディアアーム93が係合開始角度よりも下方に揺動して所定の揺動角度(以下、下限揺動角度と称する)になったときには、メディアアーム93の先端が底部2bに設けられたストッパー部材2cに当接し、メディアアーム93のそれ以上の下方への揺動が規制される(図6(b)を参照)。このとき、繰出し側バラストアーム98と巻取り側回転軸124とは当接しないようになっている。
【0030】
以上のように構成された繰出し側テンション付与手段90では、テンションバー91および左右のメディアアーム93の自重によりメディアアーム93が繰出し軸6からプラテン20に到達する間の印刷媒体Mの長さ(以下、印刷媒体Mの繰出し側の弛みと称する)に応じて下方に揺動し、テンションバー91を印刷媒体Mの内側に当接させて印刷媒体Mを屈曲させることにより、印刷媒体Mに対して搬送方向と反対の方向にテンションバー91の高さ位置、すなわちメディアアーム93の揺動角度に応じた張力を付与する。
【0031】
このとき、メディアアーム93が係合揺動角度よりも下方(図7に示す揺動範囲B)において揺動する場合には、固定リング97と繰出し側バラストアーム98とが係合して繰出し側バラストアーム98がメディアアーム93と連動し、繰出し側バラスト部材99により繰出し側バラストアーム98に作用するトルクを用いて印刷媒体Mに付与する張力を調整することができる(上述の場合よりも張力が低減される)。このとき、印刷媒体Mの特性(硬さ等)に応じて繰出し側バラスト部材99の重量を変更することにより、印刷対象となる印刷媒体Mに適した張力を付与することができる。また、繰出し側バラスト部材99が繰出し側バラストアーム98を介してテンションバー91および繰出し側回転軸94と側面視において一本の直線上に配置されるため、繰出し側バラスト部材99の重量を印刷媒体Mに付与する張力に効率的に作用させることができる。
【0032】
一方、メディアアーム93が係合開始角度よりも上方(図7に示す揺動範囲A)において揺動する場合には、固定リング97と繰出し側バラストアーム98とが係合しないため、メディアアーム93が繰出し側バラストアーム98から切り離され、印刷媒体Mにはテンションバー91およびメディアアーム93の自重による張力が付与される。
【0033】
繰出しコントローラ100は、図1および図4に示すように、左側の回転軸支持部92内に配置されており、メディア繰出し手段80のシャフト駆動機構85の駆動を制御することにより、支持シャフト81に支持された印刷媒体Mを、メディア移動機構30(図3を参照)によるプラテン20上での印刷媒体Mの送り量に基づく所定の繰出し量で繰り出す。また、繰出しコントローラ100は、メディアアーム93の揺動角度が所定の揺動範囲に保たれるように繰出し量を制御する。なお、この所定の揺動範囲は任意に設定可能であり、例えば、上述の揺動範囲B内に設定すると、繰出し側テンション調整機構96により印刷媒体Mに付与する張力を常に調整可能な状態となる。
【0034】
巻取り装置4は、図1に示すように、支持部2の前側に設けられており、印刷済みの印刷媒体Mを巻き取るための筒状の巻取り軸8(図2を参照)を支持するとともに巻取り軸8を回転させて印刷媒体Mを巻き取るメディア巻取り手段110と、プラテン20から吐出されてメディア巻取り手段110に巻き取られる間の印刷媒体Mに張力を付与する巻取り側テンション付与手段120と、メディア巻取り手段110による印刷媒体Mの巻取り量を制御する巻取りコントローラ130とから構成される。なお、巻取り装置4は、基本的に上述の繰出し装置3と同様に構成されている。
【0035】
メディア巻取り手段110は、巻取り軸8に挿通されて巻取り軸8と一体に回転可能な棒状の支持シャフト111と、左右の支持脚2aの前側中間部に配設されて支持シャフト111を回転自在かつ着脱可能に支持するシャフト支持部112,112と、左側のシャフト支持部112内に設けられて支持シャフト111を回転駆動するためのシャフト駆動機構115とから構成される。シャフト駆動機構115は、例えば駆動モータやこの駆動モータの出力軸と支持シャフト111の端部に巻き掛けられたタイミングベルト等を有して構成され、巻取りコントローラ130から入力される駆動制御信号に応じて支持シャフト111を回転駆動する。プラテン20(フロントプラテン23)から吐出される印刷済みの印刷媒体Mは、支持シャフト111により左右のシャフト支持部112,112間に支持された巻取り軸8の周囲に、支持シャフト111の回転量(回転速度)に応じた巻取り量(巻取り速度)で巻き取られる。
【0036】
巻取り側テンション付与手段120は、図1および図4に示すように、印刷媒体Mに左右に横断して当接される円柱棒状のテンションバー121、左右の支持脚2aの底部2b上に配設された回転軸支持部122,122、左右の回転軸支持部122,122に架設され回転自在に支持された巻取り側回転軸124、および基端部が巻取り側回転軸124の端部に固定されるとともに先端部にテンションバー121の端部を回転自在に支持する左右一対のメディアアーム123,123から構成される巻取り側テンション付与機構125と、基端部が巻取り側回転軸124に対して回転自在に支持されるとともに先端部に巻取り側バラスト部材129が着脱可能に取り付けられる巻取り側バラストアーム128から構成される巻取り側テンション調整機構126と、巻取り側回転軸124に固定されて巻取り側回転軸124と一体に回転する固定リング127とから構成される。
【0037】
メディアアーム123,123は、上述したように基端部が巻取り側回転軸124の左右端部にそれぞれ固定され、この基端部を中心に巻取り側回転軸124の回転を伴って上下に揺動可能であり、自重により下方に揺動して先端部に支持したテンションバー121をプラテン20から吐出されて巻取り軸8に巻き取られる間の印刷媒体Mに当接させるように構成されている。なお、メディアアーム123の基端部近傍には、メディアアーム123の揺動角度、すなわちテンションバー121の高さ位置を検出するための揺動角度検出部(図示せず)が配設されており、この揺動角度検出部によって検出された検出信号が巻取りコントローラ130に出力されるようになっている。
【0038】
固定リング127は、左右に延びる巻取り側回転軸124と一体に、すなわち巻取り側回転軸124に固定されたメディアアーム123の揺動に応じて回転するようになっており、巻取り側回転軸124に直交する方向に突出したリング側突出部(図示せず)が形成されている。このリング側突出部は、メディアアーム123の下方への揺動に応じて左方側面視において反時計回りに回転し、メディアアーム123が所定の揺動角度(以下、係合開始角度と称する)になったときに、後述する巻取り側バラストアーム128のアーム側突出部128aの下面にはじめて当接するようになっている。このようにリング側突出部がアーム側突出部128aに当接している状態を、固定リング127と巻取り側バラストアーム128の係合状態と称して以下に説明する。
【0039】
巻取り側バラストアーム128は、基端部が固定リング127に隣接して巻取り側回転軸124に軸支され、その基端部から後方に繰出し側回転軸94を下方から跨ぐように延びて形成されている。この巻取り側バラストアーム128は、繰出し側バラストアーム98に対して、左右方向(印刷媒体Mの送り方向に直交する方向)にずれて設けられ(図4を参照)、側面視において一部が重なって配設されている(図1を参照)。巻取り側バラストアーム128の先端部に取り付けられた巻取り側バラスト部材129は、固定リング127と巻取り側バラストアーム128とが係合状態のときに、側面視においてテンションバー121と巻取り側回転軸124とを結ぶ直線の延長線上に位置するようになっている。巻取り側バラスト部材129は、上述の繰出し側バラスト部材99と同様に、巻取り側バラストアーム128の先端部にそれぞれ着脱可能な複数の錘部材によって構成され、この錘部材の個数を変えることにより巻取り側バラスト部材129の重量を変更することが可能になっている。
【0040】
巻取り側バラストアーム128の基端部近傍には、固定リング127側に突出したアーム側突出部128aが形成されており、上述したようにメディアアーム123が係合開始角度になったときに、アーム側突出部128aに固定リング127のリング側突出部が当接して固定リング127と巻取り側バラストアーム128とが係合状態となる。このように係合状態のとき、すなわちメディアアーム123が係合開始角度よりも下方において揺動するときには、巻取り側バラストアーム128は基端部(巻取り側回転軸124)を中心にメディアアーム123の揺動に応じて(メディアアーム123と連動して)上下に揺動する。一方、非係合状態のとき、すなわちメディアアーム123が係合開始角度よりも上方において揺動するときには、巻取り側バラストアーム128は支持脚2aの底部2b上に当接して静止状態となる。
【0041】
なお、メディアアーム123が係合開始角度よりも下方に揺動して所定の揺動角度(以下、下限揺動角度と称する)になったときには、メディアアーム123の先端部が底部2bに設けられたストッパー部材2cに当接し、メディアアーム123のそれ以上の下方への揺動が規制される。このとき、巻取り側バラストアーム128と繰出し側回転軸94とは当接しないようになっている。
【0042】
以上のように構成された巻取り側テンション付与手段120では、テンションバー121および左右のメディアアーム123の自重によりメディアアーム123がプラテン20から巻取り軸8に巻き取られるまでの印刷媒体Mの長さ(以下、印刷媒体Mの巻取り側の弛みと称する)に応じて下方に揺動し、テンションバー121を印刷媒体Mの内側に当接させて印刷媒体Mを屈曲させることにより、印刷媒体Mに対して搬送方向にテンションバー121の高さ位置、すなわちメディアアーム123の揺動角度に応じた張力を付与する。
【0043】
このとき、メディアアーム123が係合揺動角度よりも下方(図7に示す揺動範囲D)において揺動する場合には、固定リング127と巻取り側バラストアーム128とが係合して巻取り側バラストアーム128がメディアアーム123と連動し、巻取り側バラスト部材129により巻取り側バラストアーム128に作用するトルクを用いて印刷媒体Mに付与する張力を調整することができる(上述の場合よりも張力が低減される)。このとき、印刷媒体Mの種類に応じて巻取り側バラスト部材129の重量を変更することにより、印刷対象となる印刷媒体Mに適した張力を付与することができる。また、巻取り側バラスト部材129が巻取り側バラストアーム128を介してテンションバー121および巻取り側回転軸124と側面視において一本の直線上に配置されるため、巻取り側バラスト部材129の重量を印刷媒体Mに付与する張力に効率的に作用させることができる。
【0044】
一方、メディアアーム123が係合開始角度よりも上方(図7に示す揺動範囲C)において揺動する場合には、固定リング127と巻取り側バラストアーム128とが係合しないため、メディアアーム123が巻取り側バラストアーム128から切り離され、印刷媒体Mにはテンションバー121およびメディアアーム123の自重による張力が付与される。
【0045】
巻取りコントローラ130は、図1および図4に示すように、左側の回転軸支持部122内に配置されており、メディア巻取り手段110のシャフト駆動機構115の駆動を制御することにより、支持シャフト111に支持された巻取り軸8に印刷済みの印刷媒体Mを、メディア移動機構30(図3を参照)によるプラテン20上での印刷媒体Mの送り量に基づく所定の巻取り量で巻き取る。また、巻取りコントローラ130は、メディアアーム123の揺動角度が所定の揺動範囲に保たれるように巻取り量を制御する。なお、この所定の揺動範囲は任意に設定可能であり、例えば、上述の揺動範囲D内に設定すると、巻取り側テンション調整機構126により印刷媒体Mに付与する張力を常に調整可能な状態となる。
【0046】
以上のように構成される繰出し側テンション付与手段90と巻取り側テンション付与手段120では、繰出し側テンション調整機構96(繰出し側バラストアーム98)および巻取り側テンション調整機構126(巻取り側バラストアーム128)が、印刷媒体Mの送り方向に直交する方向(左右方向)にずれて設けられ、側面視において一部が重なって配設されているため、図8に示す従来の繰出し側および巻取り側テンション付与手段と比較して、繰出し側テンション付与手段90および巻取り側テンション付与手段120を大幅に省スペース化(コンパクト化)することができる。
【0047】
また、メディアアーム93,123の揺動角度に応じて、メディアアーム93,123がバラストアーム98,128から切り離されて印刷媒体Mにはテンションバー91,121およびメディアアーム93,123の自重による張力が付与される状態と、バラストアーム98,128がメディアアーム93,123と連動してバラスト部材99,129によりバラストアーム98,128に作用するトルクを用いて印刷媒体Mに付与する張力を調整可能な状態とに切り替えることができるため、従来のテンション付与手段と比較してより一層の広範囲において張力の調整が可能となる。
【符号の説明】
【0048】
M 印刷媒体
1 プリンタ本体
2 支持部(支持体)
3 メディア繰出し装置
4 メディア巻取り装置
80 メディア繰出し手段
90 繰出し側テンション付与手段
92,122 回転軸支持部(支持体)
93,123 メディアアーム(テンションアーム)
95 繰出し側テンション付与機構
96 繰出し側テンション調整機構
97,127 固定リング(切替機構)
98 繰出し側バラストアーム
98a,128a アーム側突出部(切替機構)
99 繰出し側バラスト部材
110 メディア巻取り手段
120 巻取り側テンション付与手段
125 巻取り側テンション付与機構
126 巻取り側テンション調整機構
128 巻取り側バラストアーム
129 巻取り側バラスト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体に対して印刷を行うプリンタ本体と、長尺シート状の印刷媒体を前記プリンタ本体に向けて繰り出すメディア繰出し手段と、前記メディア繰出し手段により繰り出されて前記プリンタ本体において印刷された前記印刷媒体を巻き取るメディア巻取り手段と、前記メディア繰出し手段により繰り出されて前記メディア巻取り手段により巻き取られる間の前記印刷媒体に張力を付与するテンション付与手段とを有して構成されるインクジェットプリンタにおいて、
前記テンション付与手段が、
前記印刷媒体の送り方向と直交する回転軸を中心に上下揺動自在なテンションアームを有し、自重により下方に揺動する前記テンションアームの先端が前記印刷媒体に当接して前記印刷媒体に張力を付与するテンション付与機構と、
前記送り方向と直交する回転軸を中心に上下揺動自在なバラストアームおよび前記バラストアームに取り付けられたバラスト部材を有し、前記バラスト部材により前記バラストアームに作用するトルクを用いて前記テンション付与機構により前記印刷媒体に付与する張力を調整可能なテンション調整機構と、
前記テンションアームが所定の揺動角度から一方に揺動するときに前記テンションアームを前記バラストアームと係合させて前記テンション調整機構により前記張力を調整可能な状態と、前記テンションアームが前記所定の揺動角度から他方に揺動するときに前記テンションアームを前記バラストアームから切り離して前記テンション調整機構により前記トルクを作用させない状態とに切り替え可能な切替機構とを備えて構成されることを特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−78953(P2013−78953A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−280573(P2012−280573)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2010−548341(P2010−548341)の分割
【原出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】