説明

インクジェットヘッドのパージ方法

【発明の詳細な説明】
〔概要〕
インク滴を噴出するノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェットプリンタに係わり、特にインクジェットヘッド内に混入した気泡や乾燥して固形化したインクを取り除くインクジェットヘッドのパージ方法に関し、 バルブ解放等によりパージ室を大気圧に戻した時にノズルから空気が混入することがなく、またキャップをノズルから離す際にパージ室内に残ったインクが垂れ落ちることのないインクジェットヘッドのパージ方法を提供することを目的とし、 インク滴を噴出するノズルを有するインクジェットヘッドと、ノズルを覆うと共にノズルとの間にインクが満たされる空間部を備えるキャップと、キャップの空間部を介してインクジェットヘッドからのインクを吸引するための吸引手段と、空間部を大気圧に戻すための手段とを具備し、 インクジェットヘッドのノズルをキャップにより覆われる位置に位置付け、吸引手段により空間部内をインクで満たし、次いで、ノズルが空間部内のインクにより満たされた状態で空間部内を大気圧状態に戻した後に、インクジェットヘッドのノズルを下方に向けた状態で、キャップとノズルとを離間せしめることを特徴とするインクジェットヘッドのパージ方法を提供する。
〔産業上の利用分野〕
本発明はインク滴を噴出するノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェットプリンタに係わり、特にインクジェットヘッド内に混入した気泡や乾燥して固形化したインクを取り除くインクジェットヘッドのパージ方法に関する。
インクジェットプリンタのインクジェットヘッドは、第4図に示す如く、大気圧P1が与えられた状態でインクタンク13に収容されるインクを大気圧P1によりインクフィルタ15を介して共同インク室11に供給し、そのインクを各ピエゾ素子12毎に独立して設けられた圧力室18、及び圧力室18からノズル13に到るインク流路に満たしている。そして、この状態で電気歪振動子であるピエゾ素子12を駆動せしめ圧力室18に急激な圧力変化を発生させることにより、インク滴をノズル13から噴出するように構成されている。しかし圧力室18内に気泡が混入していると、この圧力が気泡に吸収されてしまってインク滴が正常に噴出されず、印字欠落つまりドット抜けを生じさせる。また、ノズル13部分ではインクが乾燥して固形化しやすく、インクの目詰まりが発生しやすい。このような気泡或いは目詰まりの問題に対して、さまざまな対策がとられており、気泡が混入したインクや固形化したインクを取り除くためのパージ機構もその一つである。
〔従来の技術〕
従来、気泡が混入したり目詰まりが生じた時、ポンプにより圧力を加え強制的に気泡を排出したり目詰まりを除去するパージ機構がいろいろ工夫されている。また、気泡の存在をピエゾ素子のインピーダンス変化により検出する方法も知られている。
第5図は従来のパージ機構の説明図である。インクジェットヘッド1は鉛直方向に配列された複数個のノズル13を備え、キャップ2を水平方向に移動してノズル13に装着して、ヘッド1とキャップ2によって気密化されたパージ室20を形成する。吸引ポンプ3はインクを吸引するが、吸引ポンプ3の動作及び停止を繰り返し、吸引ポンプ3が停止した時にバルブ4を開放してパージ室20内の負圧を一気に大気圧に戻すことにより、インク流に振動を与え、内壁面に付着した気泡や曲折部分の気泡を効率よく排出する。このようなパージ機構は、例えば特開昭62-279955号公報に開示されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
前記に説明したパージ機構は、パージ処理が終了した後、バルブを開いてパージ室を大気圧に開放し、パージ室のインクを吸引ポンプにより排出する必要がある。しかし、パージ室のインクを排出する際、パージ室のインク面が低下してノズルに差し掛かると、空気に触れるノズル部分とインクに触れるノズル部分ができる。この時、インクに触れるノズル部分にはインクがノズル外に吸引されようとする圧力が働き、空気に触れるノズル部分には空気が内部に入り込もうとする圧力が働いていて、ノズル内に空気が入り込んでしまう。また、キャップをノズルから離す際、パージ室から完全に排出できないインクが垂れ落ちてしまう。
よって、本発明はバルブ解放等によりパージ室を大気圧に戻した時にノズルから空気が混入することがなく、またキャップをノズルから離す際にパージ室内に残ったインクが垂れ落ちることのないインクジェットヘッドのパージ方法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するために、第1図に示す如くインク滴を噴出するノズル13を有するインクジェットヘッド1と、ノズル13を覆うと共にノズル13との間にインクを満たす空間部(パージ室)20を備えるキャップ2と、パージ室20を介してインクジェットヘッド1からインクを吸引するための吸引手段例えばポンプ3と、パージ室20を大気圧に戻すための手段例えばバルブ4とを具備する。
そして、インクジェットヘッド1のノズル13をキャップ2により覆われる位置に位置付け、ポンプ3によりパージ室20をインクで満たし、次いで、ノズル13がパージ室20のインクに満たされた状態でパージ室20を大気圧状態に戻した後に、インクジェットヘッド1のノズル13を下方に向けた状態でキャップ2とノズル13とを離間せしめることを特徴とするインクジェットヘッドのパージ方法を提供する。
〔作用〕
従来の手法ではノズルとパージ室とのインクを排出した後にノズルとキャップを離間させる際に空気の混入やインクの垂れ落ちの問題が生じていたが、本発明によれば、ノズルがインクに満たされた状態で大気圧に戻すようにし、インクジェットヘッドのノズルを下方に向けた状態でキャップとノズルを離間せしめるようにするので、ノズルから空気が入り込むことがなく、またキャップの空間部つまりパージ室からインクが洩れることがない。さらにパージ室のインクを排出しなくともキャップとノズルを離間せしめることができるので、インクジェットヘッドが印字動作を開始した後パージ室のインクを排出することができ、パージ処理の時間短縮が可能となる。
〔実施例〕
第2図は本発明の一実施例構成図である。本実施例はカラーインクジェットプリンタであり、記録紙9を水平状方向に搬送するように構成されており、下方にそれぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック用のインク噴射ノズルを備えてなるインクジェットヘッド1が設けられている。インクタンク、インクフィルタ、共同インク室及びノズル等は図示しないが、第4図と同様のものが各色毎に備えられている。
キャップ2は記録紙9の搬送路の外側で、かつ記録ヘッド1の走査可能な範囲に設けられており、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック用のパージ室20Y,20M,21C,20BKを備えている。また、キャップ2は弾性部材で形成され、記録ヘッド1と密着して気密化されたパージ室20を形成すると共に、パージ室20からインクが溢れ落ちないように水平に構成されている。他にベルト52は記録ヘッド1を記録紙9に沿って水平方向に駆動するものであり、ガイド51はインクジェットヘッド1を案内するものである。
図示しない吸引ポンプ及びバルブは第1図と同様に各色毎のパージ室に備えられる。吸引ポンプはインクを吸引するための手段であり、バルブはパージ室20の圧力を大気圧に戻すための手段である。同様にパージ室20のインク排出口や大気圧開放口はパージ室20の上方に備えられ、特に大気圧開放口の位置はキャップをノズルに装着した時のノズル位置より十分上方に位置するものとする。つまり、バルブを開放して大気圧開放口から空気が入り込んだ場合、その空気がノズルに達してノズル内に入り込まないようにする。またはパージ室のインクがノズル内に吸引されるように圧力が働く場合、パージ室のインクがノズル内に吸引されてインク面が低下しても、インク面がノズル以下にならないようにする。
第3図は一実施例の動作フローを示すものである。パージ処理はプリンタ起動時または動作中気泡の存在を検出した時に実施される。
最初にプリンタの起動時について説明する。電源切断時、プリンタはキャップがノズルに装着されたまま停止し、ノズルのインクの固形化を防止する。まず、プリンタの電源が投入されてプリンタが起動される。ステップ■で吸引ポンプが動作開始してパージ室が負圧になると、パージ室がノズルから吸引されたインクで満たされ、その後インクはパージ室の排出口から吸引ポンプ方向に排出される。ステップ■で吸引ポンプを停止する。ステップ■でバルブを開放して、パージ室の負圧を大気圧に戻す。ノズルと大気圧開放口の高低差が小さい場合、バルブを急激に開いた時パージ室に空気が入り込んでノズル内に入り込む恐れがあるので、バルブをゆっくり開いてパージ室内の負圧を徐々に大気圧に戻す必要がある。ステップ■でキャップをノズルから離し、ステップ■でパージ室に残留したインクを吸引ポンプの動作により排出する。そして、ステップ■でヘッドを印字可能位置に移動して、通常の印字処理に移行する。
また、ステップ■でキャップをノズルから離した後、直ちにヘッドを印字可能位置に移動して印字処理を開始し、印字処理と並列してパージ室のインク排出を行ってもよい。
続いて、印字処理中に気泡の存在が検出された場合について説明する。ステップ■で印字処理を中断し、ステップ■でキャップの対向位置に移動する。ステップ■でキャップをノズルに装着する。ステップ■〜■は前述した処理と同じものであり、ステップ■でヘッドを印字可能位置に移動し、中断されていた印字処理を再開する。
本実施例では負圧のパージ室を大気圧に戻すためにバルブを用いているが、バルブを用いなくともインクタンクに大気圧が作用していると、パージ室内の負圧によりインク室内のインクがパージ室方向に吸引されて、パージ室の負圧が徐々に大気圧に戻る。また、ピエゾ素子を駆動してノズルからインクを連続的に排出すると、より高速にパージ室の負圧を大気圧に戻すことができる。さらにパージ処理終了後にノズル面に付着したインクをブレードやスポンジ等で除去することが一層好ましい。
第6図は別の実施例を示す図である。前記実施例は下方にノズルを有するインクジェットヘッドの場合であるが、本実施例は従来どおり水平方向にインクを噴射する記録ヘッドを回動自在に構成する。パージ処理を行う時、インクジェットヘッド1を回転してノズル13を下方に向け、キャップ2をノズル13に装着し、前記実施例と同様の手順でパージ処理を行う。さらに別の実施例として、水平方向を向いたノズルにキャップを装着した後にキャップと共にインクジェットヘッドを回転し、ノズルを下方に向けた状態でパージ処理を行う構成でもよい。
〔発明の効果〕
本発明によれば、パージ処理時にパージ室からノズルに空気が入り込まず、気泡排出性に優れたパージ機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の原理説明図、
第2図は本発明の一実施例構成図、
第3図は一実施例の動作説明フロー
第4図は記録ヘッドの構成図、
第5図は従来のパージ機構図、
第6図は本発明の別の実施例を示す図である。
図中、1……記録ヘッド
2……キャップ
3……吸引ポンプ
4……バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】インク滴を噴出するノズル(13)を有するインクジェットヘッド(1)と、前記ノズル(13)を覆うと共に、当該ノズル(13)との間にインクが満たされる空間部(20)を備えるキャップ(2)と、前記キャップ(2)の空間部(20)を介して前記インクジェットヘッド(1)からのインクを吸引するための吸引手段(3)と、前記空間部(20)を大気圧に戻すための手段(4)と、を具備し、前記インクジェットヘッド(1)のノズル(13)を、キャップ(2)により覆われる位置に位置付け、前記吸引手段(3)により前記空間部(20)内をインクで満たし、次いで、前記空間部(20)内を、前記ノズル(13)が当該空間部(20)内のインクにより満たされた状態で大気圧状態に戻した後に、前記インクジェットヘッド(1)のノズル(13)を下方に向けた状態で、前記キャップ(2)とノズル(13)とを離間せしめること、を特徴とするインクジェットヘッドのパージ方法。

【第1図】
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【第2図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【第3図】
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【特許番号】第2751374号
【登録日】平成10年(1998)2月27日
【発行日】平成10年(1998)5月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−105071
【出願日】平成1年(1989)4月25日
【公開番号】特開平2−283455
【公開日】平成2年(1990)11月20日
【審査請求日】平成8年(1996)4月19日
【出願人】(999999999)富士通株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭62−273855(JP,A)
【文献】特開 平2−155654(JP,A)
【文献】特開 平2−52750(JP,A)