説明

インクジェットヘッド

【課題】装置の大型化を抑制しつつ、共通インク室内のインクを効率的に加熱可能とすることで吐出の安定性を確保する。
【解決手段】インクジェットヘッド1は、インクを吐出する複数のノズルが設けられたヘッドチップ2と、ヘッドチップ2の厚み方向の一方側に配設されて複数のノズルにインクを供給する共通インク室とを備えている。共通インク室には、ヘッドチップ2と対向するように配置され、当該共通インク室内のインクを加熱するフィルム状のインク用ヒータ87が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置に設けられ、複数の微細なノズルからインクを吐出して記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドが知られている。近年、インクジェット記録装置による高精度・高精細な画像形成を実現するために、インクジェットヘッドにおけるノズルの高密度配置が求められている。
【0003】
インクジェットヘッドには、インクの共通流路がノズル列毎に設けられる他、インクに吐出圧力を付与するための圧力室や、共通流路から各圧力室へインクを供給するための個別流路が、複数のノズルに対して個別に設けられている。そのため、これら共通流路、圧力室及び個別流路をノズルの配列方向(水平方向)に並設してしまうと、複数のノズルを高密度に配置することが困難であった。
【0004】
そこで、ノズルの上方に圧力室を設け、共通流路に代わる共通インク室を圧力室の上方に設けることで、ノズルの高密度配置を可能としたインクジェットヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このようなインクジェットヘッドにおいては、共通インク室内のインクを吐出に適した粘度とするために、インクを加熱するインク用ヒータが設けられている。具体的には共通インク室にヒートシンクを介してセラミックヒータやフィルムヒータ等のインク用ヒータを設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−264322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、共通インク室にヒートシンクを介してインク用ヒータを設置した場合、当該ヒータのために余分なスペースが必要となる。さらには、インク用ヒータと共通インク室内との間には、インクジェットヘッドの壁部やヒートシンク等が介在しているために、共通インク室内のインクを効率的に加熱するには、発熱量の高い大型のインク用ヒータを用いる必要があった。そして、インク用ヒータ自体の大型化や、設置スペースの確保といった観点から装置自体の大型化を招く一因となっていた。
本発明の課題は、装置の大型化を抑制しつつ、共通インク室内のインクを効率的に加熱可能とすることで吐出の安定性を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
インクを吐出する複数のノズルが設けられたヘッドチップと、前記ヘッドチップの厚み方向の一方側に配設されて前記複数のノズルにインクを供給する共通インク室とを備えるインクジェットヘッドにおいて、
前記共通インク室には、前記ヘッドチップと対向するように配置され、当該共通インク室内のインクを加熱するフィルム状のインク用ヒータが設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記インク用ヒータの前記ヘッドチップ側のとは反対側には空間が形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記共通インク室にインクを供給するインク供給口と、
前記共通インク室と連通し、当該共通インク室内と連通する通気口と、
前記インク供給口から流入するインクを濾過するフィルタを備え、
前記フィルタは、前記インク用ヒータの上方に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置の大型化を抑制しつつ、共通インク室内のインクを効率的に加熱可能とすることで吐出の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】図1のインクジェットヘッドに備わるヘッドチップの概略構成を示す部分断面図である。
【図4】図1のインクジェットヘッドに備わるインク用ヒータの概略構成を示す正面図である。
【図5】図4のインク用ヒータの変形例を示す正面図である。
【図6】図1のインクジェットヘッドに備わるフレーム部の概略構成を示す斜視図である。
【図7】本実施形態のインクジェットヘッドを模式的に示した正面図(a)と、従来のインクジェットヘッドを模式的に示した正面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0013】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッド1の斜視図であり、図2はインクジェットヘッド1の断面図である。
これらの図に示すように、インクジェットヘッド1には、ヘッドチップ2と、インク供給部3と、これらヘッドチップ2及びインク供給部3を一体的に保持するフレーム部4とを備えている。
【0014】
ヘッドチップ2は、複数のノズル11を備えた板状の部材であり、フレーム部4の底面に取り付けられている。図3はヘッドチップ2の概略構成を示す部分断面図である。なお、図3は、一個のノズル11に係る構成要素のみを図示しているが、ヘッドチップ2を構成する層部材自体を除く各構成要素は、複数のノズル11に個別に対応して複数設けられている。
図3に示すように、ヘッドチップ2は、ノズルプレート層10、中間プレート層20、ボディプレート層30、第一接着層40、配線層50及び第二接着層60の6つの層部材が、この順で積層されて構成されている。
【0015】
このうち、ノズルプレート層10は、シリコン製の基板であり、ヘッドチップ2の最下層に位置している。このノズルプレート層10には、複数のノズル11が形成されている。
ノズル11は、略マトリクス状となるようにノズル面12上に配列されている。
【0016】
中間プレート層20は、ガラス製の基板であり、ノズルプレート層10の上面に積層され、接合されている。中間プレート層20には、ノズルプレート層10のノズル11と連通する貫通孔201が形成されている。
【0017】
ボディプレート層30は、圧力室層31と振動板32とから構成されている。
圧力室層31は、シリコン製の基板であり、中間プレート層20の上面に積層され、接合されている。圧力室層31には、ノズル11から吐出されるインクに吐出圧力を付与する圧力室311が、当該圧力室層31を貫通するように形成されている。圧力室311は、貫通孔201及びノズル11の上方に設けられ、これら貫通孔201及びノズル11と連通している。また、圧力室層31には、圧力室311と連通する連通孔312が、当該圧力室層31を貫通しつつ水平方向に延在するように形成されている。
振動板32は、圧力室311の開口を覆うように圧力室層31の上面に積層され、接合されている。すなわち、振動板32は、圧力室311の上壁部を構成している。振動板32の表面には、酸化膜が形成されている。また、振動板32には、連通孔312と連通する貫通孔321が形成されている。
【0018】
第一接着層40は、振動板32の上面に積層されている。この第一接着層40は、振動板32と配線層50とを接着する感光性樹脂層であるとともに、その内部に空間41を形成する隔壁層となっている。空間41は、第一接着層40を貫通するように圧力室311の上方に形成され、内部に圧電素子42を収容している。
圧電素子42は、圧力室311と略同一の平面視形状に形成され、振動板32を挟んで圧力室311と対向する位置に設けられている。この圧電素子42は、振動板32を変形させるためのPZT(lead zirconium titanate)からなるアクチュエータである。また、圧電素子42には、上面及び下面に2つの電極421,422が設けられており、このうち下面側の電極422が振動板32に接続されている。
また、第一接着層40には、振動板32の貫通孔321と連通する貫通孔401が、空間41とは独立して形成されている。
【0019】
配線層50は、シリコン製の基板であるインターポーザ51を備えている。インターポーザ51の下面には、2層の酸化ケイ素の絶縁層52,53が被覆され、上面には、同じく酸化ケイ素の絶縁層54が被覆されている。そして、絶縁層52,53のうち下方に位置する絶縁層53が、第一接着層40の上面に積層され、接合されている。
インターポーザ51には、スルーホール511が形成されており、このスルーホール511には、貫通電極55が挿通されている。貫通電極55の下端には、水平方向に延在するアルミ基板56の一端が接続されており、このアルミ基板56の他端には、圧電素子42上面の電極421に設けられたスタッドバンプ423が、空間41内に露出した半田561を介して接続されている。また、アルミ基板56は、インターポーザ51下面の2層の絶縁層52,53によって挟まれて保護されている。
また、インターポーザ51には、第一接着層40の貫通孔401と連通するインレット512が、当該インターポーザ51を貫通するように形成されている。
【0020】
第二接着層60は、配線層50の上面に配設された銅基板61を覆いつつ、インターポーザ51の絶縁層54の上面に積層され、接合されている。この第二接着層60は、フレーム部4とヘッドチップ2とを接着する感光性樹脂層であるとともに、銅基板61を保護する保護層となっている。銅基板61は、水平方向に延在されて、一端が貫通電極55の上端に接続されるとともに、他端が図示しないフレキシブル基板を介してドライバに接続されている。また、第二接着層60には、インレット512と連通する貫通孔601が形成されている。
【0021】
インク供給部3は、図1及び図2に示すように、耐インク性を持つ樹脂の成形や削りだしにより形成された筐体部80を備えている。この筐体部80の上部からはヘッドチップ2にインクを供給するためのインク供給口81と、フレーム部4内のインクを排出するためのインク排出口82と、フレーム部4内と連通する通気口83とが上方に向かって延出している。インク供給口81と、通気口83とは互いに連通していて、その下方にはインクをフレーム部4に供給するとともに、フレーム部4内のインクから上昇してきた空気を通気口83まで案内する共通流路84が形成されている。そして、インク供給口81及び通気口83と、共通流路84との間には、フィルタ85が流路全体を覆うように水平に配置されている。
インク排出口82は、インク供給口81近傍に設けられていて、インク供給口81及び通気口83とは独立して形成されている。
【0022】
また、筐体部80の底面における共通流路84と通気口83との間の領域には、凹部86が形成されている。この凹部86の下方には、当該凹部86を閉塞するようにフィルム状のインク用ヒータ87が取り付けられている。インク用ヒータ87の線膨張係数は、フレーム部4の線膨張係数以上であることが好ましい。
図4はインク用ヒータ87の概略構成を示す正面図である。図4に示すようにインク用ヒータ87は、通電すると発熱する金属パターン871を、絶縁性材料からなる薄膜材872によって挟んだ構成となっている。金属パターン871はメッキや、スパッタリング、スクリーン印刷等によって形成されている。図4に示すように金属パターン871は、千鳥形状にパターニングされたユニット873が横方向にジグザグに往復するように設けられている。なお、金属パターン871のパターン形状はこれに限定されるものではなく、インク用ヒータ87の全面で極力均一に加熱できるのであれば如何様であってもよい。例えば図5に示す金属パターン871Aのように、千鳥形状にパターニングされたユニット874を、その千鳥方向を縦横に異ならせながら一方向に沿って配列し、それを複数列設け、各列を導通させたパターン形状であってもよい。
【0023】
図6は、フレーム部4の概略構成を示す斜視図である。図1、図2及び図6に示すようにフレーム部4の底面には、二つのヘッドチップ2が貼り付けられており、この二つのヘッドチップ2に対向する領域に、開口91,92が形成されている。これらの開口91,92は、フレーム部4の上部に形成された溝93によって連通している。フレーム部4の上部には、開口91,92及び溝93を閉塞するようにインク供給部3が取り付けられている。そして、フレーム部4の上部には、共通流路84に対向する位置と、インク排出口82に対向する位置とに開口91,92に連通する切欠94,95が形成されている。この切欠94,95によってインクの供給、排出や空気の排出がスムーズに行えるようになっている。
そして、フレーム部4におけるヘッドチップ2と、インク供給部3とに囲まれた空間、つまり、開口91,92及び溝93が本発明に係る共通インク室7である。ヘッドチップ2の厚み方向の一方側に配置された共通インク室7は、そこに溜まったインクをヘッドチップ2の貫通孔601に供給する。
【0024】
図3に示すように、ヘッドチップ2の連通孔312、貫通孔321,401,601及びインレット512は、共通インク室7と圧力室311とを連通する流路70を構成しているので、共通インク室7のインクはこの流路70を介してノズル11に供給される。
【0025】
流路70を介して共通インク室7にインクが供給される際には、共通インク室7内の空気が通気口83から排出されながら共通インク室7にインクが充填される。このとき、インクはフィルタ85を通過するため、インクに含まれていた不純物が除去される。充填後においては、通気口83は封止される。
封止後、インクを吐出する前には、インク用ヒータ87が共通インク室7内のインクを加熱し、吐出に適した粘度までインクを低粘化してから、ヘッドチップ2のノズル11からインクを吐出する。このとき、圧電素子42から圧力波が共通インク室7内に伝播することになるが、インク用ヒータ87がダンパとして機能し、当該圧力派は吸収される。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、フィルム状のインク用ヒータ87がヘッドチップ2と対向するように共通インク室7内に配置されているので、インクの加熱効率が同じであれば、従来と比べてもインクジェットヘッド1を小型にすることができる。
例えば図7は本実施形態のインクジェットヘッド1の正面図(a)と、従来のインクジェットヘッド100の正面図(b)である。図7(b)に示すように、従来のインクジェットヘッド100であると、共通インク室内のインクを外側から加熱するためにヒータ101も大きくなり、それに合わせて共通インク室も大きくなってしまう。一方、図7(a)に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド1であれば共通インク室7の内側でインク用ヒータ87がインクを加熱しているので、加熱効率を高めることができ、全体としても小型に形成することができる。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、共通インク室7内のインクを効率的に加熱可能とすることが可能となり、結果として吐出の安定性を確保することができる。
【0027】
また、インク用ヒータ87のヘッドチップ2側のとは反対側には凹部86からなる空間が形成されているので、圧電素子42から発生した圧力波を吸収するダンパとしてインク用ヒータ87を機能させることができる。これにより、ダンパ専用の部材を別に搭載しなくともよいので、装置全体としての小型化をより高めることができる。
そして、フィルタ85は、インク用ヒータ87の上方に配置されているので、平面状のフィルタ85とインク用ヒータ87とを対向して配置することができ、両者の配置スペースを小さくすることができる。したがって、装置全体をより小さくすることが可能となる。
さらに、インク用ヒータ87の線膨張係数が、フレーム部4の線膨張係数以上であると、インクを加熱することによりフレーム部4が熱膨張したとしても、それ以上にインク用ヒータ87が膨張するので、インク用ヒータ87に張力が付与されにくくなり、結果としてダンパとして機能し続けることになる。
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 インクジェットヘッド
2 ヘッドチップ
3 インク供給部
4 フレーム部
7 共通インク室
11 ノズル
12 ノズル面
70 流路
80 筐体部
81 インク供給口
82 インク排出口
83 通気口
84 共通流路
85 フィルタ
86 凹部(空間)
87 インク用ヒータ
91,92 開口
93 溝
94,95 切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルが設けられたヘッドチップと、前記ヘッドチップの厚み方向の一方側に配設されて前記複数のノズルにインクを供給する共通インク室とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記共通インク室には、前記ヘッドチップと対向するように配置され、当該共通インク室内のインクを加熱するフィルム状のインク用ヒータが設けられていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記インク用ヒータの前記ヘッドチップ側のとは反対側には空間が形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記共通インク室にインクを供給するインク供給口と、
前記共通インク室と連通し、当該共通インク室内と連通する通気口と、
前記インク供給口から流入するインクを濾過するフィルタを備え、
前記フィルタは、前記インク用ヒータの上方に配置されていることを特徴とするインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1093(P2013−1093A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137907(P2011−137907)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】