説明

インクジェット可能な銀/塩化銀組成物

本発明は、デジタル印刷の業界において、特に、血糖センサ用に、銀/塩化銀組成物およびインクジェット技術を用いるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェット印刷プロジェクトに用いられるインクジェット可能な銀/塩化銀組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「プリンテッドエレクトロニクス(printed electronics)」を実施するのに好適な組成物が必要とされている。「印刷可能なエレクトロニクス(printable electronics)」は、プラスチックやテキスタイル等の一般的な構造に印刷をする新たな技術についての用語である。
【0003】
「プリンテッドエレクトロニクス」は、標準的な印刷プロセスを用いる、紙、プラスチックおよびテキスタイル等の一般的な基材上へのエレクトロニクスの印刷を定義する比較的新しい技術についての用語である。この印刷では、好ましくは、スクリーン印刷、インクジェット、フレキソグラフィー、グラビアおよびオフセットリソグラフィーといったグラフィックアート業界で一般的なプレス機器を利用する。グラフィックアート基材にグラフィックアートインクで印刷する代わりに、電気機能性エレクトロニックインクの系列を用いて、導体トレース等の能動素子に印刷する。プリンテッドエレクトロニクスは、フレキシブルディスプレイ、スマートラベル、アニメーション入りポスターおよび運動着等の従来の(すなわち、シリコン系の)エレクトロニクスと典型的に関連のない用途に有用な幅広い極めて低コストのエレクトロニクスを促すと期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、デジタル印刷、特に、インクジェット技術を、次世代のグルコースセンサに用いるために利用するという要望に取り組むものである。これを達成するためには、インクジェット可能な銀/塩化銀処方を必要とする。かかるインクの望ましい特性としては、低温硬化(80℃が望ましい)、硬化インクの導電率維持、リールツーリールプロセスに係わる曲げに耐える可撓性が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
開示されているのは、
(a)薄片形状のサブミクロンの塩化銀と、
(b)薄片形状のサブミクロンの銀と、
(c)ポリマーバインダーと、
(d)インクジェットを補助する保湿剤と、
(e)銀/塩化銀を分散し、ポリマーバインダーを溶解することのできる溶剤と
を含むインクジェット可能な組成物である。
【0006】
本明細書に記載されたインクジェット組成物によって、銀/塩化銀インクのデジタル印刷が可能となる。本発明のインクは、80℃以下の低温硬化、硬化インクの導電率維持、リールツーリールプロセスに係わる曲げに耐える可撓性という特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、血糖センサ等の用途、イオン泳動用途およびその他用途のための材料の印刷を可能とするものである。これらの印刷材料は、典型的に、ポリマー厚膜Ag/AgClペーストのスクリーン印刷を用いて作製される。これらの従来の組成物は、かかるペーストに分散した銀/塩化銀の大きな粒子サイズおよびペースト自体の望ましくない高粘度という理由から、インクジェット用途に不適である。
【0008】
印刷は、次の成分、すなわち、薄片形状のサブミクロンの銀/塩化銀を含むインクジェット可能な組成物により達成することができる。「薄片形状」という用語は、走査電子顕微鏡により求めると、主な形状が薄片である銀/塩化銀粒子を意味する。非薄片粒子(例えば、不規則系形状や球状)は、本発明の範囲内となるものではない。本発明による粒子サイズおよび薄片形状を有するサブミクロンの銀/塩化銀は、低温ミリング法により得られる。「サブミクロン」という用語は、1ミクロン未満を意味する。本発明の実施形態において、サブミクロンの銀−塩化銀粒子サイズは、d50=0.6ミクロンである。ポリマーバインダー、好ましくは、低Tgと、ヒドロキシ基等の少なくともある程度の極性基を有するバインダーを用いる。ある具体例としては、フェノキシ樹脂の系列が挙げられる。他の例としては、ポリ(ビニルブチラール−コ−ポリビニルアルコール)等のビニルアルコールを含有するコポリマーが挙げられる。保湿剤を用いて、インクジェットプロセスを補助する。保湿剤の具体例としては、エチレングリコールが挙げられ、Ag−AgClを分散し、ポリマーバインダーを溶解できる溶剤。二塩基酸エステルが好ましい部類の溶剤である。
【0009】
ポリマーバインダーは、全組成物中、約1〜4重量%で存在し、銀/塩化銀は、約15%〜25%の範囲の濃度で存在し、保湿剤は、約0.1%〜1%の範囲で存在する。インク組成物の残りは溶剤である。
【0010】
銀/塩化銀の比は、特定の用途の関数であり、本発明によるインクジェット可能な組成物は、任意に選択された銀/塩化銀比で作製してもよい。特に、68/32重量%の銀/塩化銀は、血糖センサのために指定されることが多く、30/70重量%の銀/塩化銀は、イオン泳動用途のために指定されることが多く、80/20重量%の銀/塩化銀は、他の用途に用いてもよい。本発明の実施形態において、銀/塩化銀の範囲は、90/10重量%の銀/塩化銀〜10/90重量%の銀/塩化銀である。
【実施例】
【0011】
インクジェット可能な銀/塩化銀組成物
【0012】
【表1】

【0013】
一口の250mlの丸底フラスコは、窒素入口を備えていた。DBE−3およびビスフェノール−A系フェノキシ樹脂をフラスコに添加した。マグネチックスターラーを混合物に添加し、フラスコをホットプレート/マグネチックスターラー上に釣り下げた。混合物を室温で約2時間攪拌させたところ、その間に樹脂が溶剤に溶けた。この後、エチレングリコールを、ポリマー溶液に攪拌しながら添加した。得られた溶液を、適したサイズのプラスチック容器に移した。次に、サブミクロンの銀−塩化銀(d50=0.6ミクロン)を、溶液に攪拌しながら添加した。プラスチック容器を封止し、粗インクをシンキーミキサー中で、約2分間攪拌して、銀−塩化銀を分散した。次に、インクに、超音波処理を、5分間行って、銀−塩化銀微粒子を溶剤媒体中にさらに分散および懸濁させた。この後、インクを10ミクロンの粗いガラスフリット漏斗を通して、真空アシストにより、ろ過した。次に、インクを使い捨てプラスチックシリンジへ移し、ガラスろ過媒体で構成された5ミクロンのディスクフィルタを通してろ過して、最終生成物を得た。インクの粘度を求めたところ、25℃で17cpsであった。
【0014】
インクの制御部分を、アルミナおよびMylar(登録商標)ポリエステルフィルムをはじめとする様々な基材へ鋳造することにより、導体トレースを作製した。Kapton(登録商標)テープをガイドとして用いて、銀/塩化銀インクの薄い導体トレースを形成した。鋳造したものをホットプレート上で40℃で乾燥した。乾燥工程後、Kapton(登録商標)テープを外すと、選択した基材に接合した固化した電気的に絶縁された導体トレースが現れた。次に、トレースを80℃で10分間、100℃で10分間、120℃で10分間乾燥した。アルミナでの各硬化条件でトレースの抵抗を求めたところ、それぞれ、1.3オーム/平方/ミル、1.1オーム/平方/ミルおよび0.79オーム/平方/ミルであった。
【0015】
【表2】

【0016】
一口の250mlの丸底フラスコは、窒素入口を備えていた。DBE−3およびポリ(ビニルブチラール−コ−ビニルアルコール)樹脂をフラスコに添加した。マグネチックスターラーを混合物に添加し、フラスコをホットプレート/マグネチックスターラー上に釣り下げた。混合物を室温で約3時間攪拌させたところ、その間に樹脂が溶剤に溶けた。この後、エチレングリコールを、ポリマー溶液に、攪拌しながら添加した。得られた溶液を、適したサイズのプラスチック容器に移した。次に、サブミクロンの銀−塩化銀(d50=0.6ミクロン)を、溶液に、攪拌しながら添加した。プラスチック容器を封止し、粗インクをシンキーミキサー中で約2分間、攪拌して、銀−塩化銀を分散した。次に、インクに超音波処理を5分間行って、銀−塩化銀微粒子を溶剤媒体中にさらに分散および懸濁させた。この後、インクを10ミクロンの粗いガラスフリット漏斗を通して、真空アシストにより、ろ過した。次に、インクを、使い捨てプラスチックシリンジへ移し、ガラスろ過媒体で構成された5ミクロンのディスクフィルタを通してろ過して、最終生成物を得た。インクの粘度を求めたところ、25℃で17cpsであった。
【0017】
インクの制御部分を、アルミナおよびMylar(登録商標)ポリエステルフィルムをはじめとする様々な基材へ鋳造することにより、導体トレースを作製した。Kapton(登録商標)テープをガイドとして用いて、銀/塩化銀インクの薄い導体トレースを形成した。鋳造したものをホットプレート上で40℃で乾燥した。乾燥工程後、Kapton(登録商標)テープを外すと、選択した基材に接合した固化した電気的に絶縁された導体トレースが現れた。次に、トレースを80℃で10分間、100℃で10分間、120℃で10分間乾燥した。アルミナでの各硬化条件でトレースの抵抗を求めたところ、それぞれ、12.4オーム/平方/ミル、1.3オーム/平方/ミルおよび0.35オーム/平方/ミルであった。
【0018】
【表3】

【0019】
一口の250mlの丸底フラスコは、窒素入口を備えていた。DBE−3およびフッ素化ポリイミド樹脂をフラスコに添加した。マグネチックスターラーを混合物に添加し、フラスコをホットプレート/マグネチックスターラー上に釣り下げた。混合物を室温で約3時間攪拌させたところ、その間に樹脂が溶剤に溶けた。この後、エチレングリコールを、ポリマー溶液に、攪拌しながら添加した。得られた溶液を、適したサイズのプラスチック容器に移した。次に、サブミクロンの銀−塩化銀(d50=0.6ミクロン)を、溶液に、攪拌しながら添加した。プラスチック容器を封止し、粗インクをシンキーミキサー中で、約2分間、攪拌して、銀−塩化銀を分散した。次に、インクに、超音波処理を、5分間行って、銀−塩化銀微粒子を溶剤媒体中にさらに分散および懸濁させた。この後、インクを10ミクロンの粗いガラスフリット漏斗を通して、真空アシストにより、ろ過した。次に、インクを、使い捨てプラスチックシリンジへ移し、ガラスろ過媒体で構成された5ミクロンのディスクフィルタを通してろ過して、最終生成物を得た。インクの粘度を求めたところ、25℃で20cpsであった。
【0020】
インクの制御部分を、アルミナおよびMylar(登録商標)ポリエステルフィルムをはじめとする様々な基材へ鋳造することにより、導体トレースを作製した。Kapton(登録商標)テープをガイドとして用いて、銀/塩化銀インクの薄い導体トレースを形成した。鋳造したものをホットプレート上で40℃で乾燥した。乾燥工程後、Kapton(登録商標)テープを外すと、選択した基材に接合した固化した電気的に絶縁された導体トレースが現れた。次に、トレースを80℃で10分間、100℃で10分間、120℃で10分間乾燥した。アルミナでの各硬化条件でトレースの抵抗を求めたところ、それぞれ、1.7オーム/平方/ミル、0.83オーム/平方/ミルおよび0.52オーム/平方/ミルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)薄片形状を有するサブミクロンの銀/塩化銀粒子と、
(b)ポリマーバインダーと、
(c)インクジェットを補助する保湿剤と、
(d)塩化銀を分散し、前記ポリマーバインダーを溶解することのできる溶剤と
を含む、インクジェット可能な組成物。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーが、全組成物中、約1〜4重量パーセントで存在する、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項3】
前記銀/塩化銀が合計で、約15%〜25%の範囲の濃度で存在する、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項4】
前記保湿剤が、エチレングリコールである、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項5】
前記保湿剤が、約0.1%〜1%の範囲で存在する、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項6】
前記溶剤が、二塩基酸である、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項7】
前記銀/塩化銀比が、68/32重量%である、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項8】
前記銀/塩化銀比が、80/20重量%である、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項9】
前記銀/塩化銀比が、30/70重量%である、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。
【請求項10】
前記銀/塩化銀比が、90/10重量%銀/塩化銀〜10/90重量%銀/塩化銀である、請求項1に記載のインクジェット可能な組成物。

【公表番号】特表2012−530153(P2012−530153A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515180(P2012−515180)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/038300
【国際公開番号】WO2010/144790
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】