説明

インクジェット用インクおよびインクジェット記録方法

【課題】本発明の目的は、普通紙記録において、色再現性に優れ、ざらつき感が小さく、裏移りの少ない画像が得られるインクジェットインク及びインクジェット記録方法を提供することである。
【解決手段】色材および溶剤を含有するインクジェット用インクであって、該溶剤が有機溶剤および水を含有し、該水と該有機溶剤が、下記条件Aを満たすことを特徴とするインクジェット用インク。
〔条件A:前記水と有機溶剤の各々について、対溶剤比率の値と25℃における蒸気圧の値との積を求め、各々の該積の総和を求めたとき、該総和が700〜1800である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のインクジェット用インク及びそれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式は簡便・安価に画像を作成できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷等、さまざまな印刷分野に応用されてきている。特に、微細なドットを出射、制御するインクジェット記録装置や、色再現域、耐久性、出射適性等を改善したインク及びインクの吸収性、色材の発色性、表面光沢等を飛躍的に向上させた専用紙を用い、銀塩写真に匹敵する画質を得ることも可能となっている。
【0003】
しかし、専用紙を必要とするインクジェット画像記録システムでは用いることのできる記録媒体が制限されること、記録媒体のコストアップ等が問題となる。
【0004】
一方、オフィスにおいては、記録媒体(例えば、普通紙、コート紙、アート紙、普通紙両面印刷等)の制約を受けずに高速でフルカラー印字が行えるシステムのニーズがますます高まりつつある。また刷版を必要としないメリットを活かしいわゆるPOD印刷にも適用されつつある。
【0005】
特に普通紙印刷はコスト的に有利であるが、印刷濃度やにじみ、フェザリング等が問題でありこれを解決するために種々の検討が行われている(例えば特許文献1、2参照)。
【0006】
しかしながら、これらのインクでは、ざらつき感が大きい場合がある、色再現性が充分ではない、という問題があった。
【0007】
また、溶剤が水だけである顔料を含む非水系インクジェットインクが知られているが(特許文献3参照)、画像の表面濃度が低下し、裏面濃度が上がる、所謂裏移りの状態を生ずる場合があるなどの問題があった。
【特許文献1】特開2005−272848号公報
【特許文献2】特開2005−263834号公報
【特許文献3】特開2005−36199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、普通紙記録において、色再現性に優れ、ざらつき感が小さく、裏移りの少ない画像が得られるインクジェットインク及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記達成手段により達成される。
1.色材および溶剤を含有するインクジェット用インクであって、該溶剤が有機溶剤および水を含有し、該水と該有機溶剤が、下記条件Aを満たすことを特徴とするインクジェット用インク。
〔条件A:前記水と有機溶剤の各々について、対溶剤比率の値と25℃における蒸気圧の値との積を求め、各々の該積の総和を求めたとき、該総和が700〜1800である。〕
2.前記総和が700〜1600であることを特徴とする1項に記載のインクジェット用インク。
3.1または2項に記載のインクジェット用インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記構成により、普通紙記録において、色再現性に優れ、ざらつき感が小さく、裏移りの少ない画像が得られるインクジェットインク及びインクジェット記録方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、色材および溶剤を含有するインクジェット用インクであって、該溶剤が有機溶剤および水を含有し、該水と該有機溶剤が、下記条件Aを満たすことを特徴とする。
〔条件A:前記水と有機溶剤の各々について、対溶剤比率の値と25℃における蒸気圧の値との積を求め、各々の該積の総和を求めたとき、該総和が700〜1800である。〕
本発明では、特に水及び有機溶剤を上記特定の条件で含むインクジェット用インクを用いることにより、普通紙記録において、色再現性に優れ、ざらつき感が小さく、裏移りの少ない画像が得られる。
【0012】
《溶剤》
本発明に係る溶剤は、水及び有機溶剤を含み、水と有機溶媒は上記条件Aを満たす必要がある。
【0013】
対溶剤比率の値とは、前記水および有機溶剤の含有量(質量換算で)の合計量を1としたとき、該合計量に対する水および各々の有機溶剤の含有量をいい、25℃における蒸気圧の値とは、25℃における蒸気圧を(Pa)で表したときの値をいう。
【0014】
水の25℃における蒸気圧は、3167Paであるので、水の対溶剤比率は少なくとも0.56以下である必要がある。
【0015】
水の含有比率としては、裏抜け耐性、ざらつき感の面から0.1〜0.5が好ましく、0.2〜0.4が特に好ましい。
【0016】
前記溶剤比率の値と蒸気圧の積の総和は700〜1800であることが必要であるが、ざらつき感、裏抜け耐性の面から特に700〜1600であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る有機溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0018】
特に好ましい溶剤はSP値が16.5以上、24.6未満である。16.5以上であれば、水との相溶性が良好となり、水との分離を起こさなくなり、顔料粒子の高い分散安定性を維持することができる。また、SP値が24,6未満であれば、有機溶媒に起因するカールに対する抑制効果を得ることができる。本発明においては、該有機溶媒のSP値の範囲としては、16.5以上、22.5未満であることが更に好ましい。
【0019】
溶媒の溶解度パラメーター(SP値)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、Polymer HandBook(Second Edition)第IV章 Solubility Parameter Valuesに記載があり、その値を用いた。単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。なお、データの記載がないものについては、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147(1967)に記載の方法で計算することができる。以下、SP値が16.5以上24.6未満に該当する水溶性有機溶剤の例をSP値と共に示す。いうまでもなく本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:24.5)
エチレングリコールモノエチルエーテル(23.5)
エチレングリコールモノブチルエーテル(22.1)
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(22.3)
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(23.0)
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(22.4)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(21.5)
ジエチレングリコールジエチルエーテル(16.8)
トリエチレングリコールモノメチルエーテル(22.1)
トリエチレングリコールモノエチルエーテル(21.7)
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(21.1)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(23.0)
プロピレングリコールモノフェニルエーテル(24.2)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(21.3)
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(20.4)
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(21.8)
《色材》
本発明のインクには色材が含有されており、本発明のインクに用いられる色材の色相としては、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ブルー、グリーン、レッドのインクを形成する色材が好ましく用いられ、特に好ましくはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色材である。
【0021】
本発明のインクでは、色材が染料である染料インク、あるいは色材がインクジェットインクを構成する溶媒に不溶で、微細な顔料粒子を含む分散系を形成する顔料インク、あるいは色材が着色した高分子ポリマーの分散体からなる分散インク等の種々のインクジェット用インクに適用できる。
【0022】
本発明で用いることのできる染料としては、アゾ染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料等を挙げることができ、その具体的化合物としては、例えば、特開2002−264490号公報に例示した染料を挙げることができる。
【0023】
また、ポリマー等と共に着色微粒子を形成し着色材となる油溶性染料については、通常カルボン酸やスルホン酸等の水溶性基を有さない有機溶剤に可溶で水に不溶な染料、例えば分散染料等が選ばれる。また、水溶性染料を長鎖の塩基と造塩することにより油溶性を示す染料も含まれ、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料と長鎖アミンとの造塩染料が知られている。
【0024】
しかしながら、本発明のインクにおいては、色材としては顔料を用いることが好ましく、本発明に係る溶媒組成物に溶解度を有しない顔料が、本発明の目的効果をいかんなく発揮させる観点から好ましい。
【0025】
本発明において使用できる顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、水分散性顔料、溶剤分散性顔料等何れも使用可能であり、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、カーボンブラック等の無機顔料を好ましく用いることができる。この顔料は水性インクの中で分散された状態で存在させ、この分散の方式としては、自己分散、活性剤分散、ポリマー分散、マイクロカプセル分散の何れでも良いが、ポリマー分散、マイクロカプセル分散が定着性の点から好ましい。
【0026】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0027】
好ましく用いることのできる具体的顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0028】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0029】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0030】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0031】
以上の顔料の他に、レッド、グリーン、ブルー、中間色が必要とされる場合には、以下の顔料を単独あるいは併用して用いることが好ましく、例えば、C.I.Pigment Red;209、224、177、194、C.I.Pigment Orange;43、 C.I.Vat Violet;3、 C.I.Pigment Violet;19、23、37、 C.I.Pigment Green;36、7、 C.I.Pigment Blue;15:6等が用いられる。
【0032】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0033】
本発明のインクに使用する顔料分散体の平均粒子径は、50nm以上、200nm未満であることが好ましい。顔料分散体の平均粒子径が50nm未満あるいは200nm以上では顔料分散体の安定性が悪くなりやすく、インクの保存安定性が劣化しやすくなる。
【0034】
顔料分散体の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることが出来るが、動的光散乱法による測定が簡便でこの粒子径領域の精度が良く多用される。
【0035】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。分散機としては従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が使用できる。中でもサンドミルによる分散が100nm前後の平均粒子径を狙った分散を行った時の粒度分布がシャープであり好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質はビーズ破片やイオン成分のコンタミネーションの点から、ジルコニアまたはジルコンが好ましい。さらに、このビーズ径としては0.1mm以上0.5mmが好ましい。
【0036】
《顔料分散剤》
顔料を分散する高分子分散剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、あるいは、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩を挙げることができる。
【0037】
本発明において、顔料分散剤の添加量としては、顔料に対し10〜100質量%であることが好ましい。
【0038】
《界面活性剤》
顔料の分散において、添加剤として界面活性剤を用いることができる。本発明に用いられる界面活性剤としてはカチオン性、アニオン性、両性、ノニオン性のいずれも用いることができるが、分散安定性の点からノニオン性界面活性剤を使用することが特に好ましい。
【0039】
ノニオン性活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0040】
また、インク吐出後のインク液滴の普通紙中への浸透を加速するために界面活性剤を使用することが好ましく、そのような界面活性剤としては、インクに対して保存安定性等の悪影響を及ぼさないものであれば限られるものではなく、上記の分散時の添加剤として使用する界面活性剤と同様のものが用いることができる。
【0041】
《多価金属イオン》
また、本発明のインク中には、多価金属イオンであるカルシウムイオン、マグネシウムイオン及び鉄イオンの総含有量が、10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5ppm、特に好ましくは0.1〜1ppmである。
【0042】
インクジェットインク中の多価金属イオンの含有量を、上記で規定した量とすることにより、高い分散安定性を有するインクを得ることができる。本発明に係る多価金属イオンは、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、有機アンモニウム塩、EDTA塩等に含有されている。
【0043】
《その他の添加剤》
本発明のインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0044】
また、本発明のインク中の溶存酸素濃度は、25℃で2ppm以下であることが好ましく、この溶存酸素濃度条件とすることにより、気泡の形成を抑制することができ、高速印字においても出射安定性に優れたインクジェット記録方法を実現することができる。インク中に溶存している溶存酸素を測定する方法としては、例えば、溶存酸素測定装置DO−14P(東亜電波(株)製)を用いて測定することができる。
【0045】
本発明で色再現性に優れ、ざらつき感が小さい画像が得られる理由は次のように推定されう。たとえばLyssy法による透湿度をみると、RC光沢紙の100g/m・day以下、キャスト紙の7000〜9000g/m・dayに比べ、普通紙では10000〜14000g/m・dayと高く、それだけ普通紙は溶剤の乾燥しやすい用紙である。発明者が鋭意検討の結果、有機溶剤と水を合わせた全溶剤について、それぞれの蒸気圧(Pa)と全溶剤に対する比率との積の和が700以上1800以下で、普通紙印字において色再現性に優れ、ざらつき感の低い画像が得られることがわかった。
【0046】
普通紙印字において、上記本発明の構成の範囲外のインクでは、顔料のセルロース繊維上への凝集が速く、凝集が粗大となるために発色性が悪くなり、画像の色再現性が低下し、また粗大な凝集が平面方向の分布で不均一に存在するためざらつき感が大きくなると推測される。さらに、インクの溶剤の蒸気圧と全溶剤に対する比率との積の和が700未満になると、顔料の凝集が遅くなりすぎるので、顔料が紙内部に入ってしまい画像の表面濃度が低下し、裏面濃度が上がる、いわゆる裏移りの状態になると推定される。
【0047】
《記録方法》
本発明の画像記録方法においては、例えば、インクジェットインクを装填したプリンタ等により、デジタル信号に基づきインクジェットヘッドよりインクを液滴として吐出させ普通紙に付着させることでインクジェットプリントが得られる。
【0048】
本発明のインクを吐出して画像形成を行う際に、使用するインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
【0049】
その中でも、本発明の記録方法においては、本発明のインクを30μm以下のノズル径を有するピエゾ型インクジェット記録ヘッドから吐出させて、普通紙に記録を行うこと、更に、30μm以下のノズル径を有するラインヘッド方式のピエゾ型インクジェット記録ヘッドから吐出させて、普通紙に記録を行うことが好ましい。
【0050】
インクジェットプリンターの印字方式として、シャトルヘッド方式の記録ヘッドに対し、ラインヘッド方式の記録ヘッドを用いて印字することにより、本発明のインクの印字特性を十分に引き出すことができ、その結果、インク液滴の普通紙への着弾時の極めて良好なドット形状(真円性)や印字精度を達成することができる。
【0051】
特に、本発明のインクを、普通紙の両面に画像印字を行うインクジェット記録方式に適用することが、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から好ましい。
【0052】
両面印字は、片面に印字した後に普通紙を裏返し、印字面を下にして搬送することが多いが、本発明のインクは前記特性を有しているため、両面に印字しても裏抜けや文字の滲みがないため、いずれの面でも高濃度で文字品質に優れ、また、搬送不良が生じたり搬送ベルトがインクで汚染されることがない。
【0053】
《記録媒体》
本発明のインクジェット記録方法で用いる普通紙としては、特に制限はないが、非塗工紙、特殊印刷用紙、及び情報用紙の一部に属する80〜200μmの非コート紙が望ましい。普通紙の構成は、LBKP及びNBKPに代表される化学パルプ、サイズ剤及び填料を主体とし、その他の抄紙助剤を必要に応じて用い、常法により抄紙される。普通紙に使用されるパルプ材としては、機械パルプや古紙再生パルプを併用してもよいし、又、これらを主材としても何ら問題はない。
【0054】
普通紙に内添されるサイズ剤としては、例えば、ロジンサイズ、AKD、アルニケル無水コハク酸、石油樹脂系サイズ、エピクロルヒドリン、カチオン澱粉及びアクリルアミド等が挙げられる。
【0055】
また、普通紙に内添される填料としては、例えば微粉珪酸、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、カオリン、カオリナイト、ハロイサイト、ナクライト、ディッカイト、パイロフィライト、セリサイト、二酸化チタン、ベントナイト等が挙げられる。
【0056】
また、本発明に係る普通紙には、本発明のインクの裏抜けや顔料の定着性を高める観点から、水溶性多価金属塩を含有していてもよい。水溶性多価金属塩としては、特に制限はないが、例えば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、銅、スカンジウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛などの金属塩、硫酸塩、硝酸塩、ギ酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、クロロ酢酸塩、p−トルエンスルホン酸塩といった塩として添加される。また、水溶性の多価金属イオンの塩として、ポリ塩化アルミニウムのような水溶性無機ポリマーを使用してもよい。水溶性は少なくとも0.1質量%を示すものが好ましく、より好ましくは1質量%を示すものである。中でも、アルミニウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛からなる水溶性塩はその金属イオンが無色なため好ましい。特に好ましいのは、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛である。また、本発明においては、普通紙の他、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、光沢紙、インクジェット専用紙等が広く用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0058】
《インクの調製》
〔顔料分散液の調製〕
(イエロー顔料分散液の調製)
以下の各添加剤を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にポリプロピレン製のポリ瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーを用いて5時間分散し、マゼンタ顔料の含有量が15%のマゼンダ顔料分散液を調製した。
【0059】
C.I.ピグメントイエロー150 15部
ジョンクリル501(ジョンソンポリマー社製)(固形分30%水溶液) 20部
水 75部
(マゼンタ顔料分散液、シアン顔料分散液、ブラック顔料分散液の調製)
上記イエロー顔料分散液の調製において、顔料としてC.I.ピグメントイエロー150に代えて、C.I.ピグメントレッド122(マゼンタ顔料分散液)、C.I.ピグメントブルー15:3(シアン顔料分散液)、C.I.ピグメントブラック7(ブラック顔料分散液)にそれぞれ変更した以外は同様にして、イエロー顔料分散液、シアン顔料分散液、ブラック顔料分散液を調製した。
【0060】
〔インクセット1の調製〕
上記調製したイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック顔料分散液にトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと水を、インク中の顔料濃度が4%、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル/水=7/3になるように加えて十分に攪拌を行った。次いで、この混合液を#3500メッシュの金属フィルターで濾過し、中空糸膜による脱気を行い、インクを調製した。
【0061】
〔インクセット2〜9の調製〕
インクセット1のインク中の有機溶剤種、溶剤比率を変化させて作製したインクを表1に示した。
【0062】
〔インクセット10〕
顔料をC.I.ピグメントイエロー150に代えて、C.I.ピグメントレッド122(マゼンタ顔料分散液)、C.I.ピグメントブルー15:3(シアン顔料分散液)、C.I.ピグメントブラック7(ブラック顔料分散液)にそれぞれ変更し、インク中の顔料濃度を4%にした以外は特開2005−36199の実施例1と同様にしてインクを調整した。
【0063】
《画像評価》
ノズル口径25μm、駆動周波数12kHz、ノズル数128、ノズル密度180dpi(以下、dpiは2.54cmあたりのドット数を表す)であるピエゾ型ヘッドを用い、最大記録密度720×720dpiのオンデマンド型のインクジェットプリンタ(コニカミノルタ製)を使用し画像を作成した。
【0064】
〔色再現性〕
普通紙(コニカミノルタコピーペーパーNR−A100)に色域確認用チャートを印画し、色相測定を行い評価した。
A:色域は十分に広い
B:色域はやや狭いが許容される品質である
C:色域は狭く許容できない品質である
D:色域はさらに狭い
〔ざらつき感〕
普通紙(コニカミノルタコピーペーパーNR−A100)にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックインクのベタ印字を行い、目視でさらつき感を評価した。
A:ざらつき感は全く感じられない
B:ざらつき感はややあるが許容される品質である
C:ざらつき感は大きく許容できない品質である
〔裏抜け耐性の評価〕
普通紙(コニカミノルタコピーペーパーNR−A100)に印字した試料の裏面を目視観察し、下記の基準に従って裏抜け耐性の評価を行った。
A:裏面にインクの裏抜けが全く認められない
B:裏面にインクの裏抜けが僅かに認められる程度であり許容される品質である
C:裏面にインクの裏抜けがかなり認められ、裏面印刷に際し許容されない品質である
D:裏面のインクの裏抜けがさらに狭い
評価結果を表1に示した。表1から本発明のインクジェット用インクは、普通紙記録において、色再現性に優れ、ざらつき感が小さく、裏移りの少ない画像が得られることが分かる。
【0065】
【表1】

【0066】
水:蒸気圧3167Pa
TPGME(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル):蒸気圧3.99Pa
DPGME(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル):蒸気圧53.3Pa
GLY(グリセリン):蒸気圧26.7Pa
*:(a)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(500Pa)
(b)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(33.3Pa)
(c)ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(6.67Pa)
(a)/(b)/(c)=11.4/77.1/11.4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材および溶剤を含有するインクジェット用インクであって、該溶剤が有機溶剤および水を含有し、該水と該有機溶剤が、下記条件Aを満たすことを特徴とするインクジェット用インク。
〔条件A:前記水と有機溶剤の各々について、対溶剤比率の値と25℃における蒸気圧の値との積を求め、各々の該積の総和を求めたとき、該総和が700〜1800である。〕
【請求項2】
前記総和が700〜1600であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット用インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2007−146072(P2007−146072A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345474(P2005−345474)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】