説明

インクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子、インクジェット用インク及びインクジェット用インクの製造方法

【課題】着色材として用いる酸化鉄顔料をインクジェット用のインクに適した粒子サイズに微粒化した場合においてもマゼンタに適した鮮やかな赤色を呈する着色材用酸化鉄微粒子、インクジェット用インク及びインクジェット用インクの製造方法を提供する。
【解決手段】インクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子として、平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下の酸化鉄微粒子を用い、さらに、前記酸化鉄微粒子を溶媒中に分散させた場合の凝集粒子の最大粒径が2μm未満、前記凝集粒子の積算質量百分率が50%となるD50が0.7μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式による印刷や塗装に用いるインクの着色材に好適な酸化鉄微粒子及びこの酸化鉄微粒子を着色材として用いるインクジェット用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンやデジタルカメラのプリンターとして、インクジェット方式のプリンターが多く使われている。これらのインクジェット式プリンターのインクには、着色材として染料や有機顔料が多く使われており、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの各種インクにより印刷や着色が行われている。
【0003】
また、最近では、プリンター以外にも、例えば、特開平7−116597号公報(特許文献1)、特開2002−19025号公報(特許文献2)、特開2004−175056号公報(特許文献3)などの記載にあるような建築用化粧板など建材への着色や模様の印刷、或いは、特開2002−293670号公報(特許文献4)の記載にあるような美術タイルやセラミック材など着色後に焼成を伴うような陶材への着色など、様々な分野でインクジェット方式による印刷や着色を行うことが検討されている。
【0004】
さらに、例えば、特開平9−323434号公報(特許文献5)、特開2002−172765号公報(特許文献6)、特開2004−195762号公報(特許文献7)などには建材の着色に適した印刷装置も提案されている。
【0005】
しかし、これらの建材着色用などの分野では、従来のプリンターの印刷物とは異なり、屋外で長期に渡り使用されるものが多い。
【0006】
一方、従来からインクジェット式プリンターには、着色材として発色性や吐出安定性に優れた染料や有機顔料が多く使われてきたが、これら着色材としての染料や有機顔料は、屋外で使用する場合には、紫外線による退色など、耐光性や耐候性に問題があり、建材の着色や印刷用には適していない。また、焼成を伴うような陶材への着色の場合も、前記染料や有機顔料を用いることはできない。
【0007】
そのため、これらの用途には無機顔料を着色材として用いたインクジェット用のインクが求められるが、従来の無機顔料は粒径が大きく、分散性が悪いため、インクジェット式の記録ヘッドからの吐出安定性が悪いという問題がある。しかし、このような問題はあるものの、屋外での使用を可能とするためには、耐光性や耐候性に優れた無機顔料を着色材として用いたインクジェット用のインクを用いる必要があり、その開発が行われている。このうち、赤系統の色については、酸化鉄顔料(ヘマタイト)をマゼンタインクとして使えないかどうかが検討されている。
【0008】
一般に、顔料用の赤色酸化鉄は、硫酸鉄溶液をアルカリ溶液で中和して空気酸化することでマグネタイトを生成させ、このマグネタイトを熱処理する方法で製造している。これらの赤色酸化鉄の色調の鮮やかさは、酸化鉄中のMn量が影響していることが知られており、鮮やかな赤色を得るため、Mn含有量の少ない原料硫酸鉄溶液を使用したり、マグネタイト中にMnが取り込まれにくい条件で合成するなどの方法が行われている。
【特許文献1】特開平7−116597号公報
【特許文献2】特開2002−19025号公報
【特許文献3】特開2004−175056号公報
【特許文献4】特開2002−293670号公報
【特許文献5】特開平9−323434号公報
【特許文献6】特開2002−172765号公報
【特許文献7】特開2004−195762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記方法により製造された赤色の顔料用酸化鉄を、そのまま微粒化してインクジェットのインク用に適した粒子サイズとするだけではオレンジ色がかった黄色味の強い赤色になってしまい、マゼンタには適さなくなるという問題がある。一般的に、酸化鉄は粒径が小さくなるほど黄色味の強い赤色となるからである。
【0010】
そこで、本発明は、着色材として用いる酸化鉄顔料をインクジェット用のインクに適した粒子サイズに微粒化した場合においてもマゼンタに適した鮮やかな赤色を呈する着色材用酸化鉄微粒子、インクジェット用インク及びインクジェット用インクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下のような特徴を有する。
[1]平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下であるインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子。
[2]平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下であるインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子であって、
前記酸化鉄微粒子を溶媒中に分散させた場合の凝集粒子の最大粒径が2μm以下、前記凝集粒子の積算体積百分率が50%となるD50が0.7μm以下であることを特徴とするインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子。
[3]上記[1]または[2]に記載の酸化鉄微粒子を着色材として用いるインクジェット用インク。
[4]平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下である酸化鉄微粒子を、溶媒中に分散させ、前記酸化鉄の凝集粒子の最大粒径を2μm以下、前記凝集粒子の積算体積百分率が50%となるD50を0.7μm以下とするインクジェット用インクの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着色材として用いる酸化鉄顔料をインクジェット用のインクに適した粒子サイズに微粒化した場合においてもマゼンタに適した鮮やかな赤色を呈する着色材用酸化鉄微粒子、インクジェット用インク及びインクジェット用インクの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0014】
本発明のインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子は、平均粒径が200nm以下である。平均粒径が200nmよりも大きくなると、インクジェットの記録ヘッドからのインクの安定吐出性が悪くなり、色調も黒ずんだ色となりマゼンタに適さない色となるからである。前記平均粒径は、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは100nm以下が色調的には望ましい。
【0015】
平均粒径の下限は20nm以上であることが好ましい。20nm未満では、黄色味が強くなり、また、均一分散も困難となるからである。
【0016】
ここで、前記平均粒径は、透過電子顕微鏡写真を用いて、100個以上の粒子について粒径を測定し、平均した値を用いることが好ましい。なお、酸化鉄微粒子の粒子形状が不定形や針状の場合は、比表面積を測定し、その比表面積値から粒子が球形だと仮定して求めた粒径をその粒子の粒径として用いてもよい。ただし、粒子表面に多数の凹凸があるような場合は、透過電子顕微鏡写真を用いて粒径を測定することが必要である。
【0017】
本発明にかかる酸化鉄微粒子中にはMnが含まれていることが大きな特徴である。酸化鉄を微粒子化していくと、黄色味が強くなる傾向があるが、Mnがあることにより、黄色味が強くなるのを防ぐことが可能となる。ここで、本発明にかかる酸化鉄微粒子中のMn含有量は、0.05mass%以上3mass%以下である。Mn含有量が0.05mass%未満では黄色味が強くなるのを抑制することができず、3mass%を超えると黒ずんだ色となるので好ましくない。なお、前記酸化鉄微粒子中のMn含有量は、好ましくは0.05mass%以上1mass%以下、より好ましくは0.05mass%以上0.7mass%以下、さらに好ましくは0.05mass%以上0.5mass%以下、一層好ましくは0.05mass%以上0.3mass%以下である。
【0018】
本発明にかかる酸化鉄微粒子は、例えば、噴霧焙焼法、湿式法、水熱法など一般に知られている酸化鉄の製法で得ることができる。なお、直接ヘマタイトを作る方法以外に、マグネタイトやゲータイトなど他の形態の鉄酸化物を熱処理することによりヘマタイトにしたものを用いても構わない。
【0019】
前記製法により得られた酸化鉄は、粉砕することでその粒径(酸化鉄微粒子)や粒度分布(凝集粒子のD50)の調整が行われる。前記粉砕方法としては、例えば、微粉砕が可能な、ジェットミルや振動ミルなどの乾式粉砕機などを用いる方法により実現することができる。また、ビーズミルなどの湿式粉砕機などを用いても実現することができる。
【0020】
前記方法による粉砕後は、必要に応じて、分級を行い、大きな粒子を除去することにより、酸化鉄の平均粒径を200nm以下とすることができる。前記分級を行うための分級機としては、例えば、一般に知られている気流式分級機などを用いることができる。
【0021】
また、本発明にかかる酸化鉄微粒子の粒子形状は、球形や立方体形状などの粒状であることが好ましい。溶媒中での分散性がより向上し、また、マゼンタにより適した鮮やかな赤色を呈するようになるからである。
【0022】
また、前記酸化鉄微粒子を、水または有機溶剤からなる溶媒中に分散させた場合の凝集粒子の最大粒径が2μm以下であることが必要である。2μmを超えるとインクジェットの記録ヘッドからのインクの安定吐出性が悪くなり、色調も黒ずんだ凝集粒子を含むようになり、マゼンタに適さない色となる。前記凝集粒子の最大粒径は、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下が望ましい。
【0023】
さらに、前記凝集粒子の積算の体積百分率が50%となるD50が0.7μm以下であることが必要である。前記D50が0.7μmを超えると色調も黒ずんだ色となりマゼンタに適さない色となるからである。好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下が望ましい。
【0024】
ここで、前記酸化鉄微粒子を、水または有機溶剤からなる溶媒中に分散させる方法としては、例えば、超音波ホモジナイザー、超音波洗浄機等の装置を用いることにより行うことができる。
【0025】
前記超音波ホモジナイザーや超音波洗浄機を用いる場合は、水または有機溶剤からなる溶媒中に前記酸化鉄微粒子を混入し、超音波をかけ続けても凝集粒子の最大粒径やD50が変化しなくなる状態まで充分に分散させることが望ましい。なお、水または有機溶剤からなる溶媒には、分散剤が含まれていても構わない。
【0026】
ここで、粒度分布の測定には、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いることができる。
【0027】
さらに、本発明はインクジェット方式の印刷や塗装に用いるインクに、本発明にかかる酸化鉄微粒子を着色材として用いることを特徴としている。本発明にかかる酸化鉄微粒子を着色材として用いることにより、マゼンタに適した色調のインクを得ることができる。なお、前記インクには、本発明にかかる酸化鉄微粒子以外には、一般的に知られている組成物を含有させることができる。その製法としては、一般的に用いられているビーズミルなどを用いることができる。また、前記インクの製法も、前記酸化鉄微粒子を溶媒中に分散させた場合の凝集粒子の最大粒径が2μm以下であり、さらに、D50を0.7μm以下とできる方法であれば上記の方法に限られるものではない。
【実施例1】
【0028】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(実施例1〜8、比較例1〜2)
塩化第一鉄溶液を噴霧焙焼法により処理することにより作製した、平均粒径250nm、Mnを0.23mass%含有する酸化鉄を原料とし、この酸化鉄をビーズミルにより粉砕し、乾燥させることによりインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子を作製した。ビーズミルで粉砕する際に、粉砕時間を変えて粒径、粒度分布の異なる酸化鉄微粒子を作成し、その色調を調べた。
【0029】
以下に示す表1に前記各酸化鉄微粒子の透過電子顕微鏡により、粒子100個以上について粒径を測定して求めた平均粒径、水に加えて超音波ホモジナイザーで、分散させた溶液をマイクロトラック粒度分布測定装置で測定したD50、2μmを超える凝集粒子の体積比率、マゼンタインクの色との色調の比較を行った結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
本発明にかかる実施例1〜8の酸化鉄微粒子は目標の色調に近い色調が得られたが、比較例1〜2の酸化鉄微粒子では目標とは外れた色調となった。また、前記実施例1〜8の酸化鉄微粒子を用いて作製したインクは良好な色調であった。
(実施例9〜19、比較例3〜4)
水にFeCl・4HO試薬を溶解した塩化第一鉄溶液に塩化マンガンを添加し、それを水酸化ナトリウム溶液で中和し、温度85℃、pH10で空気酸化を行い、マグネタイト粒子を作製した。このマグネタイト粒子を600℃で3時間熱処理してMn量の異なるヘマタイトを作製した。このヘマタイトを湿式ボールミルで粉砕し、乾燥させることによりインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子を作製した。
(実施例20)
塩化マンガンを含む塩化第一鉄溶液を炭酸ナトリウムで中和し、Fe濃度0.4mol/lの水酸化鉄溶液とし、30℃、pH12.5で空気酸化を行い、ゲータイト粒子を得た。このゲータイトを300℃で2時間熱処理し、ビーズミルで粉砕を行い酸化鉄微粒子を作製した。
(実施例21)
中和後のFe濃度0.1mol/lにした以外は、実施例20と同様な方法で作製した。
【0032】
以下に示す表2及び表3に、前記実施例9〜21、比較例3〜4について、表1の場合と同様に測定した平均粒径、D50、 2μmを超える凝集粒子の体積比率、マゼンタインクの色との色調の比較を行った結果を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
本発明にかかる実施例9〜19の酸化鉄微粒子は目標の色調に近い色調が得られるが、比較例3〜4の酸化鉄微粒子では目標とは外れた色調となった。実施例20の酸化鉄微粒子は針状形状を示し、実施例9〜19に比べ色調が劣っていた。また実施例21の酸化鉄微粒子は黄色味が強く、実施例9〜19に比べ色調が劣っていた。
実施例9〜19の酸化鉄微粒子を用いて作製したインクは良好な色調であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下であるインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子。
【請求項2】
平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下であるインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子であって、
前記酸化鉄微粒子を溶媒中に分散させた場合の凝集粒子の最大粒径が2μm以下、前記凝集粒子の積算体積百分率が50%となるD50が0.7μm以下であることを特徴とするインクジェット用インクの着色材用酸化鉄微粒子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の酸化鉄微粒子を着色材として用いるインクジェット用インク。
【請求項4】
平均粒径が200nm以下、Mn含有量が0.05mass%以上3mass%以下である酸化鉄微粒子を、溶媒中に分散させ、前記酸化鉄の凝集粒子の最大粒径を2μm以下、前記凝集粒子の積算体積百分率が50%となるD50を0.7μm以下とするインクジェット用インクの製造方法。

【公開番号】特開2006−124547(P2006−124547A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315774(P2004−315774)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】