説明

インクジェット用洗浄液及び洗浄方法

【課題】複雑な構成からなるノズル詰まり防止機構を設けることなく、金属粒子含有インクジェットインクの連続的、間欠的吐出条件下での吐出安定性を実現することができるインクジェット用洗浄液及びそれを用いる洗浄方法を提供する。
【解決手段】金属粒子を含有するインクジェットインクを吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いるインクジェット用洗浄液であって、該インクジェットインクに含まれる金属粒子を溶解可能な化合物Aを含有することを特徴とするインクジェット用洗浄液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な構成からなるノズル詰まり防止機構を設けることなく、金属粒子含有インクジェットインクの連続的、間欠的吐出条件下での吐出安定性を実現することができるインクジェット用洗浄液及びそれを用いる洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な導電性パターンを有する電子回路等を作製するには、導電層が形成された基材にレジスト層を積層し、所望のパターンを有するフォトマスクを介して光照射し、次いで現像した後、不要なレジスト層を除去するフォトリソグラフによる方法が行われていた。しかしながら、このフォトリソグラフによる方法は、多数の工程が必要であるため煩雑である上、経済的にも問題があり、更には、除去したレジスト層の廃棄は環境に負荷を与えるという問題もあった。
【0003】
このような問題を解決するために、インクジェット装置などの印字装置を用いて、導電性インクを基材面に直接射出して導電性パターンを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法は、導電性インクとして金属コロイドを含有するインクジェットインクを用いて基材面の所定部に導電回路形成用パターンを形成し、加熱乾燥し、溶融させて金属コロイド間の接触を向上させて導電率を向上させてようというものである。インクジェット記録装置には、その構造上、フィルター、カートリッジ内にインク吸収スポンジ、インクジェットヘッド中のマイクロ流路、吐出用の穴などがあり、狭い空間をインクジェットインクが通過する必要がある。
【0004】
一方、金属微粒子インクは、数nm〜サブμm程度の金属微粒子、溶媒を含んでいで、このインクが前記狭い空間を通過した場合、溶媒と微粒子との速度差が生じて金属微粒子が凝集しやすい、金属微粒子は流路等の内壁に吸着しやすい、金属微粒自体が化学的に不安定で、溶解、オストワルト熟成等の粒子状態が変化やすい等から、インクジェットと吐出の安定性に懸念点があり、これは金属微粒子インクをインクジェットに用いた場合の特有の課題である。
【0005】
その他に、金属微粒子のノズル詰まりを改良する技術が開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。しかしながら、いずれも装置機構の改良であり、洗浄液の化学組成に関する具体的な開示例はないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−247667号公報
【特許文献2】特開2005−231283号公報
【特許文献3】特開2006−168249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、複雑な構成からなるノズル詰まり防止機構を設けることなく、金属粒子含有インクジェットインクの連続的、間欠的吐出条件下での吐出安定性を実現することができるインクジェット用洗浄液及びそれを用いる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0008】
1.金属粒子を含有するインクジェットインクを吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いるインクジェット用洗浄液であって、該インクジェットインクに含まれる金属粒子を溶解可能な化合物Aを含有することを特徴とするインクジェット用洗浄液。
【0009】
2.前記化合物Aが、前記金属粒子を構成する金属原子に配位して、洗浄液に該金属粒子を溶解することを特徴とする前記1に記載のインクジェット用洗浄液。
【0010】
3.前記化合物Aが、下記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種から形成されていることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット用洗浄液。
【0011】
一般式(1)
1−SM
〔式中、R1はアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表す。Mは水素原子、金属原子またはアンモニウムを表す。〕
一般式(2)
2−S−R3
〔式中、R2、R3は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。但し、S原子を含む環を形成する場合には、芳香族基をとることはない。〕
4.前記化合物Aが、トリアゾール誘導体であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【0012】
5.前記金属粒子が、銀またはパラジウムを含むことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【0013】
6.前記金属粒子の平均粒子径が、1nm以上、100nm以下であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【0014】
7.前記インクジェットインクが、無電解めっきに用いる触媒核形成用インクであることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【0015】
8.前記インクジェットインクを吐出する方法が、圧力印加手段と電界印加手段とを用いたインクジェット記録方法であることを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【0016】
9.前記1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液を用いて、インクジェット記録装置の洗浄を行うことを特徴とするインクジェット記録装置の洗浄方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、複雑な構成からなるノズル詰まり防止機構を設けることなく、金属粒子含有インクジェットインクの連続的、間欠的吐出条件下での吐出安定性を実現することができるインクジェット用洗浄液及びそれを用いる洗浄方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、金属粒子を含有するインクジェットインクを吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いるインクジェット用洗浄液であって、該インクジェットインクに含まれる金属粒子を溶解可能な化合物Aを含有することを特徴とするインクジェット用洗浄液を用いることにより、複雑な構成からなるノズル詰まり防止機構を設けることなく、金属粒子含有インクジェットインクの連続的、間欠的吐出条件下での吐出安定性を実現することができるインクジェット用洗浄液を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0020】
以下、本発明のインクジェット用洗浄液の詳細について説明する。
【0021】
《金属粒子》
本発明のインクジェット用洗浄液(以下、単に洗浄液ともいう)は、金属粒子を含有するインクジェットインクを吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るインクジェットインクが含有する金属粒子とは、粒子中に金属原子を含んだ粒子であればいかなる粒子であっても良い。金属原子種としては、例えば、Au、Pt、Ag、Cu、Ni、Cr、Rh、Pd、Zn、Co、Mo、Ru、W、Os、Ir、Fe、Mn、Ge、Sn、Ga、In等が挙げられ、1粒子中にこれら金属が複数種混在しても良い。また、このような金属粒子は、銀、銀パラジウム、金、銅等の導電性微粒子であってもよい。金属粒子の用途としては、金属粒子を導電性膜の基体に用いてもよいし、無電解めっきの触媒核として用いても良い。
【0023】
本発明においては、金属粒子の平均粒子径が1nm以上、100nm以下の領域において、その効果が発揮されやすい。これは、平均粒子径が小さくなる程、インクジェット記録装置中の狭い空間を通過しやすくなるが、粒子の溶解や凝集のため、逆に吐出安定性は低下する。これに対して、本発明のインクジェット用洗浄液が含有する金属粒子を溶解可能な化合物Aの作用は、金属粒子の粒子径が細かく、表面積が大きい程溶解速度が速く、この作用が勝るものと推定される。
【0024】
本発明に係る金属粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で粒子の投影像を取得し、この1粒子の投影像の円平均相当径を求め、少なくとも100個以上の粒子の円平均相当径の平均値で定義される。
【0025】
《金属粒子を溶解可能な化合物A》
本発明に係る金属粒子を溶解可能な化合物Aとは、上記金属粒子を溶解できる化合物であればいかなる化合物であってもよい。化合物Aの例としては、強酸や強アルカリ等の酸塩基性化合物、三級脂肪酸銀等の金属をカルボン酸塩にしてこの塩を可溶化する溶媒、金属粒子の表面に作用させ、ミセル化して可溶化する界面活性剤、銀に対するチオウレアの様に金属と反応させて可溶性金属を形成しる化合物、金属と可溶性錯体を形成しる配位子化合物等が挙げられる。
【0026】
これら化合物A群の中で、本発明においては、金属と可溶性錯体を形成しうる化合物を好ましく用いることができ、中でも、下記一般式(1)、(2)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【0027】
はじめに、一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0028】
一般式(1):R−SM
式中、Rはアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表す。Mは水素原子、金属原子またはアンモニウムを表す。
【0029】
ここで、アルキル基とは炭素数1〜30の直鎖、分岐もしくは環状のアルキル基を意味する。また、アリール基とはフェニル基やナフチル基のような、単環もしくは縮合環の、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を意味する。また、ヘテロ環基とはヘテロ原子を少なくとも1つ含有する、芳香族もしくは非芳香族の、単環もしくは縮合環の、置換もしくは無置換のヘテロ環基を意味する。
【0030】
ここで置換基とは、例えば、メルカプト基、(アルキル、アリールまたはヘテロ環)チオ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)ジチオ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基またはその塩、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基またはその塩、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)、アルキル基(直鎖、分岐、環状のアルキル基で、ビシクロアルキル基や活性メチン基を含む)、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基(置換する位置は問わない)、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基、N−ヒドロキシカルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、チオカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基またはその塩、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル、アリールまたはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、N−ヒドロキシウレイド基、イミド基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、チオセミカルバジド基、ヒドラジノ基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルもしくはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、ヒドロキシアミノ基、ニトロ基、4級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えば、ピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、トリアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0031】
なお、ここで活性メチン基とは、2つの電子求引性基で置換されたメチン基を意味し、ここに電子求引性基とはアシル基、アルコシキカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)を意味する。ここで2つの電子求引性基は互いに結合して環状構造をとっていてもよい。また、塩とはアルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属などの陽イオンや、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどの有機の陽イオンを意味する。
【0032】
これらの置換基は、これらの置換基で更に置換されていてもよい。
【0033】
好ましく用いられるメルカプト化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
上記例示した各化合物の中でも、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から、特に、例示化合物1−109、1−114、1−115が好ましい。
【0040】
次いで、一般式(2)で表される化合物について説明する。
【0041】
一般式(2):R2−S−R3
上記一般式(2)において、R2、R3は各々置換または無置換の炭化水素基を表し、これらには直鎖基または分岐基が含まれる。また、これらの炭化水素基では1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含んでもよい。但し、S原子を含む環を形成する場合には芳香族基をとることはない。また、S原子に隣接するそれぞれの元素は炭素原子であることが好ましい。
【0042】
炭化水素基に置換可能な基としては、例えば、アミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム基、ヒドロキシル基、ハロゲン化合物、カルボン酸基、カルボキシレート基、アミド基、スルフィン酸基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスホン酸基、ホスフェート基、ニトロ基、シアノ基等を挙げることができる。
【0043】
一般に銀の溶解析出を生じさせるためには、電解質中で銀を可溶化することが必要である。例えば、銀と配位結合を生じさたり、銀と弱い共有結合を生じさせるような銀と相互作用を示す化学構造種を含む化合物等と共存させて、銀または銀を含む化合物を可溶化物に変換する手段を用いるのが一般的である。前記化学構造種として、ハロゲン原子、メルカプト基、カルボキシル基、イミノ基等が知られているが、本発明においては、チオエーテル基も銀溶剤として有用に作用し、共存化合物への影響が少なく、溶媒への溶解度が高い特徴がある。
【0044】
以下、本発明に係る一般式(2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0045】
2−1:CH3SCH2CH2OH
2−2:HOCH2CH2SCH2CH2OH
2−3:HOCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OH
2−4:HOCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OH
2−5:HOCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2OH
2−6:HOCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OH
2−7:H3CSCH2CH2COOH
2−8:HOOCCH2SCH2COOH
2−9:HOOCCH2CH2SCH2CH2COOH
2−10:HOOCCH2SCH2CH2SCH2COOH
2−11:HOOCCH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2COOH
2−12:HOOCCH2CH2SCH2CH2SCH2CH(OH)CH2SCH2CH2SCH2CH2COOH
2−13:HOOCCH2CH2SCH2CH2SCH2CH(OH)CH(OH)CH2SCH2CH2SCH2CH2COOH
2−14:H3CSCH2CH2CH2NH2
2−15:H2NCH2CH2SCH2CH2NH2
2−16:H2NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NH2
2−17:H3CSCH2CH2CH(NH2)COOH
2−18:H2NCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2NH2
2−19:H2NCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2NH2
2−20:H2NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NH2
2−21:HOOC(NH2)CHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2CH(NH2)COOH
2−22:HOOC(NH2)CHCH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH(NH2)COOH
2−23:HOOC(NH2)CHCH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH(NH2)COOH
2−24:H2N(O=)CCH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2C(=O)NH2
2−25:H2N(O=)CCH2SCH2CH2SCH2C(=O)NH2
2−26:H2NHN(O=)CCH2SCH2CH2SCH2C(=O)NHNH2
2−27:H3C(O=)CNHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHC(=O)CH3
2−28:H2NO2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SO2NH2
2−29:NaO3SCH2CH2CH2SCH2CH2SCH2CH2CH2SO3Na
2−30:H3CSO2NHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHO2SCH3
2−31:H2N(NH)CSCH2CH2SC(NH)NH2・2HBr
2−32:H2N(NH)CSCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SC(NH)NH2・2HCl
2−33:H2N(NH)CNHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHC(NH)NH2・2HBr
2−34:〔(CH33NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2N(CH332+・2Cl-
【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
上記例示した各化合物の中でも、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から、特に、例示化合物2−2が好ましい。
【0049】
《インクジェット記録》
本発明のインクジェット用洗浄液は、金属粒子を含有するインクジェットインク(以下、導電性インクともいう)を吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いることを特徴とする。
【0050】
本発明に適用可能なインクジェット記録装置としては、インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドとしては、オンデマンド方式またはコンティニュアス方式の何れであってもよく、また吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などが具体的な吐出方式として挙げることができるが、本発明においては、吐出方式として、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)を用いた記録ヘッド(以下、電気−熱変換型記録ヘッドともいう)を備えたインクジェット記録装置に適用することが好ましい。
【0051】
更には、更には電気回路等に使用される線幅が20μm以下の細線を高精度に形成できる観点から、インクジェット記録装置によるインクの吐出方法が、圧力印加手段と電界印加手段とを用いた方法であることが好ましい。
【0052】
以下、本発明に好ましく適用することができる圧力印加手段と電界印加手段とを用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0053】
一般に、電子回路等で要求されている微細な線幅のパターンを高精細に描画するには、インクジェット記録装置から射出するインク液滴をより微細化する必要がある。
【0054】
しかしながら、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)や電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)のみの出力手段を用いて、極微小インク液滴を吐出した場合、ノズルから吐出したインク液滴に付与される運動エネルギーは、インク液滴の半径の3乗に比例して小さくなるため、微小液滴は空気抵抗に耐えるほどの十分な運動エネルギーを確保できず、空気対流などによる擾乱を受け、正確な着弾が困難となる。
【0055】
更にインク液滴が微細になるほど表面張力の効果が増すために、液滴の蒸気圧が高くなり蒸発量が激しくなる。このため、微細液滴は飛翔中の著しい質量の消失を招き、着弾時に液滴の形態を保つことすら難しいという問題があった。このように着弾位置の高精度化は、インク液滴の微細化と相反する課題であり、これら2つを同時に実現することに対し、障害を抱えていた。
【0056】
本発明においては、上記課題を解決する方法として、圧力印加手段と電界印加手段とを用いた射出方法を適用することが好ましい。
【0057】
この射出方法は、0.1〜100μmの内径の吐出口を有するノズルを用い、導電性インクに任意波形の電圧を印加して、この導電性インクを帯電させることにより、そのインク液滴を吐出口から、樹脂層を有する基材に吐出する方法である。即ち、この射出方法はノズルの吐出口の内径が0.1〜100μmであり、電界強度分布が狭くなっているため、ノズル内に供給された導電性インクに任意波形の電圧を印加することにより電界を集中させることができる。
【0058】
その結果、形成されるインク液滴を微小で、且つ形状の安定化したものとすることができる。従って、従来よりも微細な、例えば、1pl(ピコリットル)未満の複数のインク液滴からなるインク液滴パターンを樹脂層表面に形成することができる。また、電界強度分布が狭くなっているため、ノズル内の導電性インクに印加する総印加電圧を低減することができる。また、インク液滴はノズルから吐出された直後、電界と電荷の間に働く静電力により加速されるが、ノズルから離れると電界は急激に低下するので、その後は空気抵抗により減速する。しかしながら、微小液滴で且つ電界が集中したインク液滴は、樹脂層に近づくにつれ鏡像力により加速される。この空気抵抗による減速と鏡像力による加速とのバランスをとることにより、微小液滴を安定に飛翔させ、着弾精度を向上させることが可能となる。
【0059】
図1は、本発明に好ましく適用できる圧力印加手段と電界印加手段とを用い導電性インク吐出装置の一例を示した概略断面図である。
【0060】
図1において、導電性インク吐出装置20は、帯電可能な導電性インクの液滴を先端部から樹脂層を有する基材Kに向かって吐出する超微細径のノズル21と、ノズル21の先端部に対向する面側に配置され、その対向面で基材Kを支持する対向電極23と、ノズル21内の流路22に導電性インクを供給する導電性インク供給手段と、ノズル21内の導電性インクに任意波形の吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段(電圧印加手段)25とを備えている。なお、上記ノズル21と導電性インク供給手段の一部の構成と吐出電圧印加手段25の一部の構成とは、ノズルプレート26と一体的に形成されている。
【0061】
ノズル21はノズルプレート26の下面層26cから垂設され、この下面層26cと一体的に形成されている。ノズル21の先端部は対向電極23に指向している。ノズル21の内部には、その先端部からその中心線に沿って貫通するノズル内流路22が形成されている。
【0062】
ノズル21は、例えば、ガラスなどの電気絶縁体により、超微細径で形成されている。ノズル21の各部の寸法の具体例を挙げると、ノズル内流路22の内部直径は1μm、ノズル21の先端部における外部直径は2μm、ノズル21の根元、即ち、上端部の直径は5μm、ノズル21の高さは100μmに設定されている。また、ノズル21の形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。このようなノズル21は、その全体がノズルプレート26の下面層26cと共に絶縁性の樹脂材により形成されている。
【0063】
なお、ノズル21の各寸法は上記一例に限定されるものではない。特に吐出口の内径については、電界集中の効果により液滴の吐出を可能とする吐出電圧が1000V未満を実現する範囲であって、例えば、100μm以下であり、より望ましくは20μm以下であって、現行のノズル形成技術により溶液を通す貫通穴を形成することが実現可能な範囲である内径、例えば0.1μmをその下限値とする。
【0064】
導電性インク供給手段は、ノズルプレート26の内部であってノズル21の根元となる位置に設けられると共にノズル内流路22に連通する溶液室24と、図示しない外部の導電性インクタンクからインク室24に導電性インクを導く供給路27と、インク室24への溶液の供給圧力を付与する図示しない供給ポンプとを備えている。
【0065】
上記供給ポンプはノズル21の先端部まで導電性インクを供給し、当該先端部からこぼれ出さない範囲の供給圧力を維持して導電性インクの供給を行う。
【0066】
吐出電圧印加手段25は、ノズル21内の導電性インクに吐出電圧を印加してこの導電性インクを帯電させることにより、この導電性インクの液滴をノズル21の吐出口から基材Kに向かって吐出させるものである。この吐出電圧印加手段25は、ノズルプレート26の内部であってインク室24とノズル内流路22との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極28と、この吐出電極28に常時、直流のバイアス電圧を印加するバイアス電源30と、吐出電極28にバイアス電圧に重畳して吐出に要する電位とするパルス電圧を印加する吐出電圧電源29とを備えている。
【0067】
吐出電極28は、インク室24内部において導電性インクに直接接触し、導電性インクを帯電させると共に吐出電圧を印加する。
【0068】
バイアス電源30によるバイアス電圧は、導電性インクの吐出が行われない範囲で常時電圧印加を行うことにより、吐出時に印加すべき電圧の幅を予め低減し、これによる吐出時の反応性の向上を図っている。一例を挙げると、バイアス電圧はDC300Vで印加され、パルス電圧は100Vで印される。従って、吐出の際の重畳電圧は400Vとなる。
【0069】
ノズルプレート26は、最も上層に位置する上面層26aと、その下に位置する導電性インクの供給路を形成する流路層26bと、この流路層26bの更に下に形成される下面層26cとを備え、流路層26bと下面層26cとの間には、吐出電極28が介挿されている。
【0070】
対向電極23はノズル21に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル21の先端部から対向電極23の対向面までの距離は、例えば、100μm等一定に保持されている。
【0071】
また、対向電極23は接地されているため、常時、接地電位を維持している。従って、パルス電圧の印加時にはノズル21の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
【0072】
なお、導電性インク吐出装置20は、ノズル21の超微細化による当該ノズル21の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル21と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。この場合、ノズル21から吐出され空気抵抗により減速する液滴を、鏡像力により加速することができる。従って、これら空気抵抗による減速と鏡像力による加速とのバランスをとることにより、微小液滴を安定に飛翔させ、着弾精度を向上させることができる。またなお、帯電した液滴の電荷を、対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0073】
以上のような導電性インク吐出装置20は、図示しない駆動機構により、基材Kの搬送方向に対して直交する方向に走査自在とされた走査型の導電性インク吐出装置としてもよい。この場合において、導電性インク吐出装置20に複数のノズル21を配列するようにしてもよい。また、導電性インク吐出装置20は、基材Kの搬送方向に対して直交する方向に多数のノズル21を配列してなるライン型の導電性インク吐出装置としてもよい。
【0074】
《無電解めっき》
本発明に係る金属粒子を含むインクジェットインクは、基材上に付与してた金属核を形成した後、めっき処理を施して金属皮膜を形成して、導電性パターンを形成する。
【0075】
導電性パターンの形成に用いるめっき方法としては、従来公知のめっき法を適用できるが、その中でも、低抵抗の導電性パターンを煩雑な工程なしに簡便、低コストでめっき処理することができる観点から、無電解めっき法を適用することが好ましい。
【0076】
無電解めっき法によるめっき処理は、上述の方法に従ってめっき触媒として作用する金属微粒子を含有する導電性パターンにめっき剤を接触させる方法である。これにより、めっき触媒である金属微粒子とめっき剤とが接触し、導電性パターン部に無電解めっきが施されて、より優れた導電性を得ることができる。
【0077】
本発明に係るめっき処理で使用できるめっき剤としては、例えば、めっき材料として析出させる金属イオンが均一溶解された溶液が用いられ、金属塩とともに還元剤が含有される。ここで、通常は溶液が用いられるが、無電解めっきを生じさせるものであればこれに限らず、ガス状や粉体のめっき剤を適用することも可能である。
【0078】
具体的に、この金属塩としては、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Feから選択される少なくとも1種の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などが適用可能である。また、還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン塩、ボロハライド塩、次亜リン酸塩、次亜硫酸塩、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸塩などが適用可能である。なお、これらの還元剤に含有されるボロン、燐、窒素などの元素が析出する電極に含有されていても構わない。あるいは、これらの金属塩の混合物を用いて合金が形成されていても構わない。
【0079】
めっき剤は上記金属塩と還元剤とが混合されたものを適用するようにしてもよいし、あるいは金属塩と還元剤とを別個に適用するようにしてもよい。ここで、導電性パターンをより鮮明に形成するためには、金属塩と還元剤とが混合されたものを適用することが好ましい。また、金属塩と還元剤とを別個に適用する場合には、導電性パターン部にまず金属塩を配した後、還元剤を配することでより安定した電極パターンを形成することができる。
【0080】
めっき剤には、必要があればpH調整のための緩衝剤、界面活性剤などの添加物を含有させることができる。また、溶液に用いる溶媒としては、水以外にアルコール、ケトン、エステルなどの有機溶剤を添加するようにしても構わない。
【0081】
めっき剤の組成は、析出させる金属の金属塩、還元剤、及び必要に応じて添加物、有機溶媒を添加した組成で構成されるが、析出速度に応じて濃度や組成を調整することができる。また、めっき剤の温度を調節して析出速度を調整することもできる。この温度調整の方法としては、めっき剤の温度を調整する方法、また、例えば、めっき剤中に浸漬する場合、浸漬前に基材を加熱、冷却して温度調節する方法などが挙げられる。更にめっき剤に浸漬する時間で析出する金属薄膜の膜厚を調整することもできる。
【0082】
《インクジェットインクのその他の構成》
本発明に係るインクにおいては、水溶性有機溶媒を用いることができる。本発明で用いることのできる水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0083】
本発明に係るインクには、その他には、吐出安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル類、ポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの共重合体、尿素樹脂、またはメラミン樹脂等の有機ラテックス、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号の各公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号の各公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号の各公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤等を挙げることができる。
【0084】
本発明に係るインクの調製については、特に制限はないが、各種添加剤を含むインクの調製を行う場合、調製過程での凝集、沈降が生じないようにインクを調製することが好ましい。必要に応じて、添加物の添加順序、添加速度を調節する等の調合方法を取ることができる。
【0085】
本発明に係るインクの粘度は特に制限はないが、25℃における粘度が2mPa・s以上、10mPa・s以下であることが好ましい。また、本発明に係るインクジェットインクの粘度は、シェアレート依存性がない方が好ましい。
【0086】
また、本発明に係るインクにおいては、表面張力が40mN/m以下であることが好ましく、より好ましくは25〜35mN/mである。本発明で言うインクの表面張力(mN/m)は、25℃で測定した表面張力で値であり、その測定法は一般的な界面化学、コロイド化学の参考書等において述べられているが、例えば、新実験化学講座第18巻(界面とコロイド)、日本化学会編、丸善株式会社発行:P.68〜117を参照することができる。
【0087】
本発明に係るインクにおいては、インク保存安定性の観点から、電気伝導度が1mS/m以上、500mS/m以下であることが好ましく、より好ましくは1mS/m以上、200mS/m以下であり、更に好ましくは10mS/m以上、100mS/m以下である。また、本発明に係るインクの調製においては、イオン濃度を適宜調整することが好ましい。
【0088】
《洗浄方法》
本発明のインクジェット用洗浄液を用いたインクジェット記録装置の洗浄方法としては、その使用形態により、種々の方法を取ることができる。例えば、1)インクジェット記録装置のインクカートリッジに本発明のインクジェット用洗浄液を充填し、インクジェットインクと同様にして、インクジェット記録装置内部に本発明のインクジェット用洗浄液を導入、吐出して洗浄を行う方法、2)記録ヘッドの洗浄流路を設けて、記録ヘッドに本発明のインクジェット用洗浄液を接触させることにより洗浄する方法、3)インクジェット記録装置を構成する記録ヘッド、供給路、貯蔵タンク等を、本発明のインクジェット用洗浄液に浸漬して洗浄する方法、4)本発明のインクジェット用洗浄液を多孔質体に含示浸させて、この多孔質体で被洗浄物を機械的にワイプする方法等が挙げられる。
【0089】
上記各洗浄方法の中で、1)に記載の方法に従って洗浄を行う場合には、切り替え時間短縮化の観点から、インクジェット用洗浄液の主溶媒とインクジェットインクの主溶媒との極性が近い程よく、さらに同一溶媒であることが好ましい。洗浄のタイミングは、シリアルヘッド方式の記録ヘッドの場合は、記録面両端のダミー打ち部で洗浄を行っても良く、またヘッドの停止に併せて洗浄を行っても良い。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0091】
《インクの調製》
〔インク1の調製〕
平均粒子径が200nmの銀微粒子を5質量%、平均粒子径が190nmのパラジウム微粒子を15質量%、プロピレングリコールモノメチルアセテートを20質量%、水を60質量%混合させて、インク1を調製した。
【0092】
《試料の作製》
〔試料1の作製〕
表面に12W・min/m2のコロナ放電処理を2秒間施した市販のガラス−エポキシ基板上に、図1に記載の圧力印加手段と電圧印加手段とを備えたインクジェット記録装置の圧力印加手段のみを用いて、インク1を射出して、幅1mm×長さ10cmのインクパターンを形成し、このパターン形成を24時間連続して繰り返した。
【0093】
〔試料2の作製〕
上記試料1の作製において、24時間の連続射出中に30分に1回の割合で、下記洗浄インク1によるダミー打ちを行った以外は同様にして、試料2を作製した。
【0094】
(洗浄液1の調製)
チオウレア5質量%、プロピレングリコールモノメチルアセテート20質量%、水75質量%を混合させて、洗浄液1を調製した。
【0095】
〔試料3の作製〕
上記試料2の作製おいて、洗浄液1中のチオウレアを同質量の1モル/Lの硝酸に変更した以外は同様にして、試料3を作製した。
【0096】
〔試料4の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の1モル/Lの硝酸に変更し、更にインク1中の銀粒子及びパラジウム粒子を、同質量(20質量%)の平均粒子径が170nmの銅粒子に変更した以外は同様にして、試料4を作製した。
【0097】
〔試料5の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアと水を、同質量のプロピレングリコールモノブチルエーテルに変更し、更にインク1中の銀粒子及びパラジウム粒子を、同質量(20質量%)の平均粒子径が170nmのネオデカン酸銀粒子に変更した以外は同様にして、試料5を作製した。
【0098】
〔試料6の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の2,2′−ビピリジル−4,4′−ジカルボン酸アンモニウムに変更した以外は同様にして、試料6を作製した。
【0099】
〔試料7の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量のグリシンのアンモニウム塩に変更した以外は同様にして、試料7を作製した。
【0100】
〔試料8の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の例示化合物(1−51)に変更した以外は同様にして、試料8を作製した。
【0101】
〔試料9の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の例示化合物(1−95)に変更した以外は同様にして、試料9を作製した。
【0102】
〔試料10の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の例示化合物(2−2)に変更した以外は同様にして、試料10を作製した。
【0103】
〔試料11の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量の例示化合物(2−3)に変更した以外は同様にして、試料11を作製した。
【0104】
〔試料12の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量のグリシンの例示化合物(1−109)に変更した以外は同様にして、試料12を作製した。
【0105】
〔試料13の作製〕
上記試料2の作製において、洗浄液1中のチオウレアを同質量のグリシンの例示化合物(1−115)に変更した以外は同様にして、試料13を作製した。
【0106】
〔試料14の作製〕
上記試料12の作製において、インク1中の銀粒子及びパラジウム粒子を、同質量(20質量%)の平均粒子径が70nmの銀粒子に変更した以外は同様にして、試料14を作製した。
【0107】
〔試料15の作製〕
上記試料12の作製において、インク1中の銀粒子及びパラジウム粒子を、同質量(20質量%)の平均粒子径が10nmの銀粒子に変更した以外は同様にして、試料15を作製した。
【0108】
〔試料16の作製〕
上記試料15の作製において、インクジェット記録装置の射出方式を圧力印加手段と電界印加手段を両方用いたインクジェット射出方式に変更したを行った以外は同様にして、試料16を作製した。
【0109】
〔試料17の作製〕
上記作製した試料16を、下記組成の無電解銀めっき液1を用いて無電解めっき処理を施した以外は同様にして、試料17を作製した。
【0110】
(無電解銀めっき液1の調製)
p−トルエンスルホン酸銀を1.00g、リン酸カリウムを15.0g、ホウ酸カリウムを5.0g、ヒダントインを10.0g、トリエタノールアミンを0.05モル、ポリエチレングリコールを100ppm、それぞれ水に加えて全量を1Lとして、無電解銀めっき液1を調製した。
【0111】
〔試料18の作製〕
上記作製した試料16を、下記組成の無電解銅めっき液1を用いて無電解めっき処理を施した以外は同様にして、試料18を作製した。
【0112】
(無電解銅めっき液1)
硫酸銅を0.04モル、ホルムアルデヒド(37質量%)を0.08モル、水酸化ナトリウムを0.10モル、トリエタノールアミンを0.05モル、ポリエチレングリコールを100ppm、それぞれに水に加えて全量を1Lとして、無電解銅めっき液1を調製した。
【0113】
《試料の評価》
〔かすれ部の面積比率の測定〕
上記各試料の作製において、幅1mm×長さ10cmのインクパターンの1回目の射出により形成したパターン面積をS1とし、24時間連続射出後のインクパターンでインクが抜けている部分の面積をS2とし、(S2/S1×100)をかすれ部の面積比(%)として求め、これを射出安定性の評価値とした。この値が小さい程、安定性に優れていることを示している。
【0114】
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
表1に記載の結果より明らかな様に、本発明のインクジェット用洗浄液を用いて、インクパターンを形成した試料は、比較例に対し、射出安定性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明に好ましく適用できる圧力印加手段と電界印加手段とを用い導電性インク吐出装置の一例を示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0118】
20 導電性インク吐出装置
21 ノズル
22 ノズル内流路
23 対向電極
24 インク室
25 吐出電圧印加手段
26 ノズルプレート
27 供給路
28 吐出電極
30 バイアス電源
K 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子を含有するインクジェットインクを吐出するインクジェット記録装置の洗浄に用いるインクジェット用洗浄液であって、該インクジェットインクに含まれる金属粒子を溶解可能な化合物Aを含有することを特徴とするインクジェット用洗浄液。
【請求項2】
前記化合物Aが、前記金属粒子を構成する金属原子に配位して、洗浄液に該金属粒子を溶解することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項3】
前記化合物Aが、下記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用洗浄液。
一般式(1)
1−SM
〔式中、R1はアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表す。Mは水素原子、金属原子またはアンモニウムを表す。〕
一般式(2)
2−S−R3
〔式中、R2、R3は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。但し、S原子を含む環を形成する場合には、芳香族基をとることはない。〕
【請求項4】
前記化合物Aが、トリアゾール誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項5】
前記金属粒子が、銀またはパラジウムを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項6】
前記金属粒子の平均粒子径が、1nm以上、100nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項7】
前記インクジェットインクが、無電解めっきに用いる触媒核形成用インクであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項8】
前記インクジェットインクを吐出する方法が、圧力印加手段と電界印加手段とを用いたインクジェット記録方法であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用洗浄液を用いて、インクジェット記録装置の洗浄を行うことを特徴とするインクジェット記録装置の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102475(P2009−102475A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273489(P2007−273489)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】